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食品照射研究開発中間報告


昭和48年7月

食品照射研究運営会議食品照射研究開発中間報告について

 食品照射研究運営会議は今後の研究開発を効果的に推進するため、これまでの研究開発の評価を行ない、その結果を食品照射研究開発中間報告として、とりまとめ、昭和48年7月3日原子力委員会に報告した。

  Ⅰ. まえがき
 わが国の食品照射研究開発は、昭和42年9月原子力委員会によって原子力特定総合研究に指定され、同時に定められた昭和42年度から昭和49年度にわたる食品照射研究開発基本計画に基づいて本格的な研究開発が始められ、以来関係各方面の多大な努力によって多くの成果が得られている。

 とくに馬鈴薯に関する研究は所期の成果を達成し、昭和47年8月厚生省より馬鈴薯の照射が法的に認められ、本年中にも、市場に出荷される予定である。

 また他の品目についても鋭意研究が推進されており、今後大いなる成果が期待されるところである。

 一方本年度は食品照射研究開発基本計画の7年目にあたり、いよいよ研究開発も重要度を増してきているが、この時点においてこれまでの研究成果の評価を行なうことは今後の研究を効果的に推進するために極めて意義のあることと考え、本運営会議は現在までに実施された研究開発状況をとりまとめたのでここに報告する。

  Ⅱ.食品照射研究開発基本計画策定の経緯と同基本計画の概要

 食品照射に関する研究は、わが国においても原子力研究開発が開始された当初より、大学、国公立試験研究機関等で基礎的研究が行なわれていたが、昭和40年11月18日、原子力委員会は、「国民所得の向上にともない、わが国においても食生活は漸次改善されつつあるが、これに応ずる食品の供給体制の不備が指摘されている。

 なかんずく食品の輸送や貯蔵中の腐敗、虫害、発芽等による損失を防止して流通の安定化をはかることが強く望まれている。

 その対策の一つとしてすでに欧米諸国において実用化されつつある食品の放射線照射による保存性の向上をはかることが必要であり、わが国においても、食品照射に関する研究は、大学、国公立試験研究機関、民間等各分野において行なわれているが、これらは必ずしも計画的に行なわれているとは云い難い。

したがって、このような現状に対処するため、食品の放射線照射に関する研究上の問題点である食品としての適性、照射技術、経済性等について総合的立場から研究体制を整備し、計画的に研究の促進をはかる必要がある。

 このため原子力委員会に食品照射専門部会を設置して食品照射に関する研究推進の大綱を定めるよう早急にその検討を行なう。」

 として学識経験者からなる食品照射専門部会を設置した。

 同専門部会は諮問事項として食品照射研究の推進方策について研究推進上の問題点および研究推進の具体策を約1年半にわたって審議し、その審議結果を昭和42年7月に原子力委員会に答申した。

 原子力委員会は、昭和42年9月、同報告書の趣旨を尊重し、「食品照射の研究開発は、食品の損失防止、流通の安定化等国民の食生活の合理化に寄与するところが大きく、かつ、広範囲な分野の研究を結集する必要があるので、食品照射専門部会の報告を尊重しつつ、関係各機関の協力のもとに原子力特定総合研究として計画的に推進するものとする。」

 として食品照射研究開発基本計画を策定し、強力に食品照射研究開発を推進することとした。

 この食品照射研究開発基本計画は食品照射の実用化の見通しを得ることを目標とし、国民の食生活の改善に著しく寄与し得る食品を対象として、食品としての適性および照射効果等を確認することにより、適正な照射線量を把握するとともに経済的な照射技術を確立することを意図としている。

 昭和42年9月に定めた本基本計画は馬鈴薯、玉ねぎ、米の3品目を対象としたものであるが、昭和43年6月に食品照射運営会議から提出された食品照射対象品目の選定および共同利用施設の設置に関する報告を基として、昭和43年7月、原子力委員会は、小麦、ウインナーソーセージ、水産ねり製品、みかんの4品目の追加指定および共同利用施設の設置の具体的内容を明らかにし、同基本計画に追加した。

 本基本計画の概要は次のとおりである。

  1 研究開発の内容

(1)発芽防止を目的とする馬鈴薯、玉ねぎについては、昭和42年度から3年計画として、また、殺虫および殺菌を目的とする米、小麦については昭和42年度、昭和44年度からそれぞれ5年計画として、また、殺菌を目的とするウインナーソーセージ、水産ねり製品、みかんについては、昭和48年度、昭和44年度、昭和45年度からそれぞれ5年計画として毒性試験、栄養成分の変化に関する研究、衛生化学的研究等食品としての健全性に関する研究を行ない、かつ、照射効果の研究を行なうものとする。

(2)この研究と並行して包装材、線源工学、微生物殺菌等の研究を行なうものとする。

  2 研究開発の体制
(1)食品照射研究運営会議の設置
 この研究開発を円滑に実施するため、原子力局に各実施機関の関係者、学識経験者および関係行政機関の職員からなる食品照射研究運営会議を設けることとする。

(2)共同利用施設の設置
 食品照射研究開発を推進するに際しては、大量試料の均一、かつ、経済的照射方法を確立するために必要な設備を備えた専用の照射施設が必要であるので昭和45年度より稼動することを目途に関係機関の共同利用施設として設置することとする。

 共同利用施設は日本原子力研究所高崎研究所に食品照射試験場として設置し、20万キュリーのコバルト60を線源とするガンマ線照射施設、0.4~1Mev、1mA電子線加速器を線源とする電子線照射施設および研究室を備え、大量試料の照射試験およびこれに必要な照射方法を把握するための中間規模試験ならびに低温高線量照射のごとく関係機関の既有施設では実施できない照射試験を行ないうる施設とする。

(3)国際協力
 NEAの食品照射研究計画については、研究者の派遣、情報交換等を行ない、その成果の活用を図るものとする。

(4)研究開発の分担
 研究開発の関係各機関の分担は、原則として次のとおりとする。
(イ)農林省所属研究機関は主として照射効果を把握するための予備的研究および貯蔵試験を行なう。

(ロ)厚生省所属研究機関は主として毒性試験、栄養成分の変化に関する研究および衛生化学的研究を行なう。

(ハ)通商産業省所属研究機関は主として包装材の研究を行なう。

(ニ)日本原子力研究所高崎研究所は主として照射技術の開発を行なう。

(ホ)理化学研究所は主として微生物殺菌に関する研究を行なう。

(ヘ)大学および公立研究機関には主として基礎的な研究を期待する。

   3 所要経費

 研究開発は、昭和49年度完了を目途に行なうとともに、所要経費は共同利用施設の設置に関する経費を除き、約7億円とする。

  Ⅲ 研究開発の遂行状況と成果

 食品照射研究開発は原子力特定総合研究として食品照射研究開発基本計画に基づき、昭和42年度から積極的、計画的に総合的な研究開発を推進してきた、研究開発の遂行状況と成果については以下に示すとおりである。

  1 馬鈴薯

 放射線照射による席鈴薯の発芽防止に関する研究については、非照射席鈴薯は休眠期(※1)をすぎると直ちに発芽を開始するが、休眠中の鳥鈴薯に7キロラドから15キロラドのコバルト60のガンマ線を照射することによって、その味、香りなどの食品としての嗜好性及び健全性を損うことなく、室温中で収穫後8ケ月間にわたり発芽防止しうることが確認された。

 すなわち、照射馬鈴薯には誘導放射能が認められないこと、照射馬鈴薯と非照射馬鈴薯とを比較するとその味、香り、栄養成分の差異はほとんど認められないこと、衛生化学的に問題視すべきものがないこと、サル、マウス、ラットを用いた短期毒性、慢性毒性、次世代試験により照射馬鈴薯の安全性について問題視すべき点がないことなどが明らかとなった。

 また照射技術についても、均一で効率的な大量照射技術について検討を進め、実用化への有効なデータを得ることができた。

 以上の研究結果から食品照射研究運営会議は、昭和46年6月30日、「放射線照射による馬鈴薯の発芽防止 に関する研究成果報告書」を作成して原子力委員会に報告した。

 厚生省においては照射食品の法的規制の方法について種々の検討を行なった。

 昭和47年2月28日、厚生大臣は食品衛生調査会に対して照射馬鈴薯を食用に供することの可否および食品衛生上の問題について同調査会の意見を求める旨の諮問を行なった。

 同調査会は照射食品特別部会を設けて審議を行ない、昭和47年8月14日、食品衛生調査委員長から「実用線量で照射を行なった馬鈴薯は食品衛生上安全である」旨答申した。

 この答申の趣旨に基づき、昭和47年8月30日に馬鈴薯の照射が認められ、必要な政省令の改正が行なわれた。

 これによりわが国においてはじめて照射食品の実用化への道をひらいた。

    2 玉ねぎ

 放射線照射による王ねぎの発芽防止に関する研究は安全性試験の一部を残し、所期の成果を達成している。
             
 非照射玉ねぎは休眠期(※2)をすぎると直ちに発芽を開始するが休眠期の玉ねぎを収獲後2週間の風乾処理を行なったのち、3キロラドから15キロラドのコバルト60のガンマ線を処理することによって、その味、香りなどの食品としての嗜好性および健全性を損うことなく、室温中で収穫後8ケ月間の貯蔵が可能であることが確認された。

 すなわち、照射玉ねぎには誘導放射能が認められないこと、照射玉ねぎと非照射玉ねぎとの間には栄養成分の差異もほとんど認められないこと、衛生化学的に問題視すべきものがないこと、マウス、ラットを用いた慢性毒性試験により30キロラドまでの線量では照射玉ねぎの健全性について問題視すべき点がないことなどの研究成果が得られた。

 なお、現在次世代試験を実施中であるが昭和48年中には終了する予定である。

   3 米

 放射線照射による米の殺虫に関する研究について現在までに得られた成果は以下のとおりである。

 わが国の代表的な貯穀害虫であるコクゾウ、ココクゾウの成虫および各発育段階における放射線抵抗性を調べると成虫が最も強く照射後3週間以内のLD99(99%致死線量)は約8キロラドであった。
 またすべて発育段階から次世代の発生を阻害するための不妊化線量は10キロラドである。

 一方、種々の国内産米の品質におよぼす各種線量における放射線の影響を調べた結果、30キロラド以下の線量における照射米と非照射米との間には官能検査に有意差が認められなかった。

 さらには照射米と非照射米との間には栄養成分の変化について有意差が認められないことが明らかとなった。

 またラットを用いた慢性毒性試験は終了し、現在病理組織学的検査を実施中である。

 なお、今後はサルによる短期毒性試験およびマウスによる次世代試験を予定している。

 また実用化に際しての照射方法としてはサイロ型照射装置による方法が有望とみなされているので本裁置の開発試験を行ない予想通りのデータを得ることができた。

 このデータに基づき、現在実用規模米麦装置の設計を検討中である。

  4 小麦

 放射線照射による小麦の殺虫に関する研究については、小麦に寄生する貯穀青虫は米と同様にコクゾウ、ココクゾウであり、これらの害虫を対象として実験を行なった結果、不妊化線量は10キロラドで十分であることが明らかにされた。

 また種々の国外、国内産小麦の品質におよぼす放射線の影響を調べた結果、50キロラド以下の線量における照射小麦と非照射小麦との間には官能検査を含めた製パン適性試験において有意差が認められなかった。

 現在栄養成分の変化に関する研究、衛生化学的研究、ラットによる慢性毒性試験を実施中である。

 なお、今後はマウスによる次世代試験を予定している。

   5 ウインナーソーセージ

 放射線照射によるウインナーソーセージの表面殺菌に関する研究はネト(細菌の集落)の発生防止による貯蔵期間の延長を目的とし、保存料および殺菌料を使用しない羊腸詰めウインナーソーセージを対象として実施した。

 その結果、ウインナーソーセージに存在する細菌数は照射の線量が増大するにしたがい対数的に滅少した。

 またウインナーソーセージを10℃以下で貯蔵した場合のネトの発生時期は非照射ウインナーソーセージと比較すると100キロラド照射ウインナーソーセージでは照射後5日間、300キロラドでは7日間、500キロラドでは9日間延長された。

 したがって官能検査の結果を勘案してもウインナーソーセージのネト発生を1週間抑制するのに必要な線量は300キロラドから400キロラドであることがほぼ明らかとなった。

 またウインナーソーセージを実験動物に与える場合の形態および添加量を試食試験により検討した結果、凍結乾燥したウインナーソーセージを飼料中に5%以下の比率で添加するのが適切であることが明らかにされた。

 なお、今後は栄養成分の変化に関する研究、ラットによる慢性毒性試験を予定している。

※休眠期1:馬鈴薯の休眠期は北海道(男爵等)で約100日、九州産(島原)で約50日である。
※休眠期2:玉ねぎの休眠期は北海道産(札幌黄)で約30日、本州産(泉州黄)で約60日である。

   6 水産ねり製品

 放射線照射による水産ねり製品の殺菌に関する研究は殺菌による貯蔵期間の延長を目的とし、保存料および殺菌料を用いない板かまぼこを対象として実施しているが現在までに得られた成果は次のとおりである。

 種々の線量で照射したかまぼこの香りや食味などの官能検査の結果、実用上の許可限度の線量は300キロラド程度であることが明らかとなった。

 この300キロラド照射によるかまぼには品質的に改善され弾性、色調に関して好ましい照射の効果が認められた。

 照射かまぼこの微生物の消長と保存性について300キロラド照射後における低温または室温貯蔵中の微生物を検討の結果、照射による殺菌の効果が認められ、これにより貯蔵期間が延長された。

 特に照射後10~12℃で貯蔵した場合に顕著で非照射かまぼこの2倍に相当する3週間の貯蔵にたえることが認められた。

 なお、今後は栄養成分の変化に関する研究,ラットによる慢性毒性試験を行なう予定である。

    7 みかん

 放射線照射による照射みかんの表面殺菌に関する研究においては最も生産量の多い温州みかんを対象としており、現在までのところ次のようなことが明らかにされた。

 みかんの腐敗のほとんどは表面に附着した緑カビ、青カビによってひきおこされるが、これらの菌を殺滅して保存性を向上させるためには150キロラドから200キロラドの線量が必要である。

 しかしながら日本の温州みかんは放射線感受性が高く、透過性の強いガンマ線処理では50キロラド以上の照射で照射臭が発生するためガンマ線による殺菌では実用性がないことが判明した。

 そこで透過性の弱い電子線を用いて照射の結果、200キロラドで香り,食味に影響を与えることなく殺菌効果があることが認められた。

また照射によって果皮の褐変を生ずる場合があるが照射時期、貯蔵温湿度等のコントロールによる防止法を検討中である。

 なお、今後は栄養成分の変化に関する研究、毒性試験等を行なう予定である。
また均一照射技術の方法や電子線のエネルギーによる照射効果についての研究も予定している。

 以上述べたごとく、馬鈴薯の実用化という成果を挙げたほか、他の6品目についても研究が進展して着実に研究実績を挙げているが、これら品目にかかる研究開発は基本計画に定められたスケジュールより遅れている。

 この理由としては、第一に研究遂行中に当初考えられた以上に種々の問題に遭遇し、その解明に時間を要したことである。

 すなわち、これらの主なものを列挙すると、玉ねぎにおける照射時期、各品目についての毒性試験のための添加量、ウインナーソーセージの照射臭、みかんの褐変等の諸問題があげられる。

 例えば玉ねぎの照射時期の問題に関しては玉ねぎは約3ケ月の休眠期があり、この休眠期間中に高線量照射すれば発芽抑制効果があるというのが通説であった。

 しかしながら、第1回目の試験では非照射玉ねぎと比較すると照射玉ねぎの方がかえって発芽率が高くなるという結果が得られた。

 このような現象は過去に報告された文献がなかったために、あらためて、品種、収獲から照射処理までの期間、貯蔵温度等が発芽率におよぼす照射の影響について基礎的研究を行なったために照射効果の把握に関する研究に予想以上の研究期間をついやしたのである。

 なおこの基礎的研究により休眠期間は品種によって異なり、北海道産の札幌黄で約1ケ月、本州産の泉州黄で約2ケ月であることが判明し、また休眠期間というのは外観の発芽から決めるのではなく、内芽の伸長度で決めるのが適切であることがわかった。

 つまり札幌黄の場合、内芽の伸長が約2cm以内ならば3キロラド以上での発芽は防止できるが、3cm以上になると照射によって逆に発芽促進効果がみられるということが明らかにされた。

 また各品目についての毒性試験に際して実験動物に投与する飼料の添加量に関しては、試験研究開始の時点で、わが国において食品の安全性に関する試験が行なわれた実績がなく、諸外国からの情報にたよらざるを得なかった。

 これらの情報によれば玉ねぎを例にとると乾燥玉ねぎ25%添加飼料によって毒性試験がほとんど問題なく実施されるものと予測されたので試験研究期間を約3年間と予定した。

 しかしながら2年間の慢性毒性試験の過程で添加量が適切でないことが明らかとなり、このため、あらたに適正な添加量を設定するための試験を実施し、さらにこの結果に基づいて再度慢性毒性試験および次世代試験を実施することになったのである。

 なおこの試験の結果適正な添加量は2%であることが判明した。

 以上の例のごとく研究着手時には参考とすべきデータが不足していたため予見し得なかったこともあるが今後の研究計画を策定する上において十分参考とすることが肝要であろう。

 第二に研究施設の整備が当初計画通り行なわれなかったため研究が予定通り実施できなかった。

 すなわち共同利用施設(ガンマ線照射棟、電子線加速器等)については当初の計画では昭和45年度より稼動することを予定していたが、ガンマ線照射棟は昭和48年に完成の予定であり、また電子線加速器の建設はいまだ着手されていない状態である。

 このため一般の照射施設を借用する等便宜的措置を講ぜざるを得なかったので、各研究機関で必要とする照射試料を円滑に供給出来なかった事、また実用化のための最も重要な均一、大量照射技術等の研究開発についても円滑に推進出来なかった。

 また毒性試験に関しては現状では実験動物施設が2品目の試験能力のため、これらの品目の試験の遅れが他品目の試験計画に影響を与える結果となったものである。

   Ⅳ 今後の研究開発

 諸外国より遅れて着手したわが国の食品照射研究開発は前章に述べたごとく馬鈴薯の実用化をはじめとして数々の研究実績を挙げ、現在ではこの方面における先進諸外国と肩をならべるに至っており、いまや世界における指導的役割をはたす段階にまで達している。

 このことは基礎的研究から実用化にいたる研究を一元的に調整した研究計画を策定し、これを原子力特定総合研究として各関係機関の密接なる協調のもとに研究を積極的に推進してきた結果である。

 さらには研究施設の不備、研究人員の不足等にもかかわらず各研究機関の多大な努力の結果であるといって過言ではない。

 しかしながら、馬鈴薯は実用化されたが、なお玉ねぎ、米、小安、ウインナーソーセージ、水産ねり製品およびみかんの基本計画に定められた6品目についての研究開発が残されている。

 これら6品目については前章で述べたとおりの理由により基本計画に定められたスケジュールより遅れを示している。

 基本計画における研究開発は昭和49年度完了を目途としているが、現在の研究遂行状況を勘案すると、これら6品目全部が完了する時期は昭和52年度と推定される。

 これらの品目はその生産量、需要量の面で、現在のわが国の代表的な食品の一つであり、したがって、これらの品目について食品照射が実用化された暁には、国民的経済の立場から極めて大きな効果が得られるものと判断される。

 すなわち、玉ねぎの発芽防止、米、小麦に寄生する害虫の死滅等これら品目の損失防止、ウインナーソーセージ、水産ねり製品、みかんの保存期間の延長等による流通の安定化が図られ、特にウインナーソーセージ、水産ねり製品に関しては現在使用されている食品添加物の代替となり、公衆衛生上の見地からも著しい効果が期待できるものである。

 一方海外においては、アメリカ、ソ連、西ドイツ、オランダ、デンマーク、インドをはじめ開発途上国を含めた世界各国でさかんに研究開発が進められ、すでに馬鈴薯、玉ねぎ、小麦、肉製品、果実等が許可されており、さらに各国の事情に応じた研究開発が進められている。

 OECDにおいても食品照射の重要性にかんがみ国際的共同研究として動物実験を中心とした国際食品照射計画を策定し、現在、馬鈴薯、小麦の健全性試験を実施し、さらに米、魚などについても検討を進めている。

 またFAO、WHOでも食品照射研究に関してIAEAと協力体制をとり、各国に共通する研究上、実用上の問題点等について、例えば、食糧事情問題からの開発途上国への食品照射研究開発の普及や国際的交流の面から法的規制のための安全基準の設定、勧告などを行なっている。

 このような状況をみるとき今後これら諸外国と活発なる研究協力が予想されるところである。

 以上のようにわが国における期待される効果および諸外国における諸事情をあわせて勘案する時、食品照射の早期実用化を日ざして、なお、一層研究開発を推進する必要があるものと判断する。

 このような観点から食品照射研究開発基本計画を当面昭和52年度まで延長し、引続き原子力特定総合研究として推進する必要があるものと考える。

 また本研究開発を効率的に推進するためには共同利用施設を積極的に整備し、活用を図ることが必要である。

 なお、原子力委員会原子力開発利用長期計画(昭和47年6月改定)においてはベーコン生鮮魚類の2品目を研究対象に追加することを考慮すると述べているが、対象品目を追加選定するにあたっては、生産ならびに消費量が大きく、照射による損失防止を図ることによって著しい経済的効果が得られることとその成果について技術的に十分見通しのあることを適格条件として選定する必要がある。

 同計画に述べられているベーコン、生鮮魚類の2品目については照射による効果は期待されるが、経済的効果や明確な技術的見通しを得るまでには至っていないので当面は基礎的研究を行なうこととするのが妥当であると考える。
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