前頁 |目次 |次頁
放射線審議会の動き(夜光時計に関する放射線
障害防止の技術的基準について(答申)


 第24回放射線審議会総会(47.9.19)において、受理された通商産業大臣よりの諮問案件である「夜光時計に関する放射線障害防止の技術的基準について」については、昭和48年5月11日付で、下記のとおり答申がなされた。
48政審議第21号
昭和48年5月11日
通商産業大臣 中曾根康弘殿
放射線審議会会長 御園生圭輔

夜光時計に関する放射線障害防止の技術的基準について(答申)
 昭和44年6月12日付44・40-974をもって本審議会に諮問のあった標記の件については、5回にわたり アイソトープ部会において慎重に審議を重ねてきたが、下記のとおり結論を得たのでこの旨答申する。
〔審議結果〕

1. 夜光携帯時計および夜光置掛時計の工業標準の制定について


(1)「発光塗料」を用いた夜光時計に関する工業標準を制定することは、発光塗料に含まれる放射性物質の種類および数量を限定し、発光塗料・時計のケーシングの品質等について放射線安全性に重点をおき、規格を定めることが主な目的であると解されるので、放射線障害防止の観点から望ましいものと考える。

(2)「発光塗料」を用いた夜光時計に関する工業標準を制定するにあたっては、単に時計として使用状態での放射線安全性を保証するだけでなく、流通過程における安全性も考慮すべきである。

 また夜光時計に放射性物質が用いられていることを消費者その他の関係者に十分周知させ、夜光時計について慎重なる取扱いがなされることを図ることが放射線障害防止の観点から必要であると考える。

(3)一般国民の受ける放射線の線量をできるだけ少なくするという見地からは、工業標準を制定することが夜光時計の使用を不必要に増大することとならないよう配慮すべきであると考える。

2. 放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律施行令第1条第4号による科学技術庁長官の指定について

 諮問の工業標準(案)による夜光時計を消費者個人が使用する状態においては、放射線被ばくは容認できる程度に少ないと考えられるが、夜光時計の流通過程の一部において相当な被ばくの可能性が推定され、これを放置することは放射線障害防止の観点から適当でないと考えられる。

  したがって、同法施行令第1条第4号の自発光性の塗料とするために夜光時計を指定鉱工業品とすることは適当でない。

〔審議の概要〕

1. 本審議会は、夜光携帯時計および夜光置掛時計の 工業標準の制定に係る放射線障害防止の技術的基準に関し、主に次の4点について調査・審議を行なった。

(1)放射性同位元素を含む「発光塗料」を用いた夜光時計に関する工業標準を制定することは、放射線障害防止の観点から適切であるかどうかについて検討した。

(2)諮問のあった工業標準(案)の放射線障害防止の技術的基準に関する事項が、放射線障害防止の観点から適切であるかどうかについて検討した。

(3)諮問のあった工業標準(案)により制定された工業標準(日本工業規格)に該当する夜光時計が工業標準化法第19条第1項に規定する「日本工業規格に該当するものであることを示す特別の表示を附された鉱工業品」(いわゆるJISマーク製品)である夜光時計として流通した場合のことも検討した。

 すなわち、この工業標準(案)の夜光時計が通常の使用状態とともに、事故、災害等の異常環境においても安全が確保できるかどうかについて検討し、製造から販売使用、廃棄にいたるまでの過程における放線線障害防止の問題について検討を加えた。

(4)諮問のあった工業標準(案)による工業標準が制定された場合に、JISマーク製品の夜光時計に用いられる自発光性の塗料が放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律施行令(以下「政令」という。)第1条第4号に規定する自発光性の塗料に該当するものであるかに関して検討した。

 これは諮問についての趣旨説明等により、同工業標準の制定の主な目的は、政令第1条第4号の規定に基づき、上記の自発光性の塗料が放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(以上「防止法」という。)の適用から除外されることにあると解され、審議の必要があったためである。

 なお、上記の(2)および(3)については、とくに綿密に検討するためアイソトープ部会に起草委員会を設けた。起草委員会は、2回にわたり、会合を開き、資料を収集し、調査を行なった。

 その報告に基づいて同部会は、諮問案件を審議した。

 また、アイソトープ部会の中間報告に基づき、昭和48年3月8日開催の第26回放射線審議会総会においても検討を加え、昭和47年12月13日開催の第25回放射線審議会総会および昭和48年4月16日開催のアイソトープ部会の決議により、前記のとおりの審議結果となった。

2. 本書議会の審議結果にいたるまで次のような事項が多数の意見であった。

A.夜光携帯時計および夜光置掛時計の工業標準の制定について

(1)自発光性の塗料を用いた夜光時計に関する工業標準を制定して、自発光性の塗料に含まれる放射性同位元素の種類および数量等を規制し、放射線安全性に重点をおいて規格を定めることは、放射線障害防止の観点から望ましいことである。

(2)夜光時計に用いられている自発光性の塗料には、放射性物質が含まれていることを、消費者その他の関係者に周知させるべきである。

(3)自発光性の塗料を用いた夜光時計の製造、販売、使用を不必要に奨励することにならないよう留意すべきである。

B.政令第1条第4号による科学技術庁長官の指定について

(1)夜光時計を使用する消費者個人の放射線被ばくについては容認できる程度に少ないと思われる。

(2)夜光時計の流通過程の一部とくに時計修理従事者の段階において相当の被ばくをもたらす可能性があると推定される。

(3)夜光時計を使用する消費者個人の放射線安全性のみならずその流通過程のすべてにわたる関係者の被ばくに関して安全であるように配慮すべきであると考える。

(4)諮問のあった工業標準(案)により制定された工業標準(日本工業規格)に該当する夜光時計が、いわゆる「防止法適用除外のJISマーク製品」として流通した場合には、消費者個人の放射線被ばくが容認できる程度に少ないとしても、流通過程のすべてにわたる安全性が確保されているとは考えられない。

(5)諮問のあった工業標準(案)による夜光時計に用いられる「発光塗料」を、政令第1条第4号に基づき、科学技術庁長官の指定する鉱工業品に用いられている自発光性の塗料とすることは適当でない。

3. 本章議会における審議の過程においてこの工業標準(案)の内容の次の諸点について意見が述べられた。

(1)放射性物質の種類、数量、状態に関する規格の当否について
  1 異種RIの混用の当否
  2 検査法の当否
  3 Raを指定核種とすることの当否
  4 自発光性塗料中のRIの純度の規定

(2)時計の密封性に関する規格について
  1置掛時計の規格
  2 ケーシングの規定
  3 トリチウムの漏えい防止

(3)規格の保持について
  1 検査法の当否
  2 トリチウムの漏えい防止
  3 塗料の接着性、固着性について

(4)取扱い、管理の安全性について
  1 夜光時計にRI使用の旨を表示する方法
  2 包装、表示、注意書等の方法(JISの範囲での)
  3 子供用時計の製造、使用の当否
  4 夜光時計の奨励防止方法の検討

(5)そ の 他
  電気式置掛時計にRIを使用することの当否

 附 録
アイソトープ部会の委員および専門委員
委 員
(部会長)
 伊沢 正突 放射線医学総合研究所化学研究部
 川越 邦雄 ※1 建設省建築研究所
 斎藤 信房 東京大学理学部
 佐伯 誠道 放射線医学総合研究所臨海実験場
 浜田 達二 理化学研究所
 浜田 政彦 国立がんセンター診療部放射線科
 宮水 一郎 日本原子力研究所東海研究所
 吉沢 康雄 東京大学医学部
 小泉 安則 ※2 建設省建築研究所

※1 建設省退職のため、昭和47年12月16日付けで委員を解任された。
※2 昭和48年2月14日付で選任された。
 
専門委員
 板倉 哲郎   日本原子力発電株式会社
 梅垣洋一郎   放射線医学総合研究所臨床研究部
 浦久保五郎   国立衛生試験所放射線化学部
 笠井 薄    日本原子力研究所東海研究所保健物理安全管理部
 白山 和久   建築研究所第2研究部
 田野 暗文   日本原子力研究所ラジオアイソトープ研修所
 守屋 忠雄   消防庁消防研究所第1研究部
 山高 章夫   厚生省医務局総務課

前頁 |目次 |次頁