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四国電力株式会社伊方発電所の原子炉の設置に係る安全性について


昭和47年11月17日
原子炉安全専門審査会
原子力委員会
委員長  中曾根康弘  殿
                                    原子炉安全専門審査会
                                             会 長  内 田 秀 雄

四国電力株式会社伊方発電所の原子炉の設置に係る安全性について

 当審査会は、昭和47年5月11日付け47原委第172号(昭和47年11月15日付け47原委第475号をもって一部訂正)をもって審査の結果を求められた標記の件について、結論を得たので報告します。


Ⅰ 審査結果

 四国電力株式会社伊方発電所の原子炉の設置(低濃縮ウラン、軽水減速、軽水冷却、加圧水型原子炉1基を設置)に関し、同社が提出した「伊方発電所原子炉設置許可申請書」(昭和47年5月8日付け申請、昭和47年11月14日付一部訂正)に基づいて審査した結果、本原子炉施設の設置に係る安全性は十分確保し得るものと認める。


Ⅱ 審査方針

 当審査会は、次のような考え方および方針のもとに審査をすすめた。

1 審査に当っては、平常時は勿論、地震、機器の故障その他の異常時においても、一般公衆および従業員に対して放射線障害を与えず、かつ、万が一の事故を想定した場合にも一般公衆の安全が確保されるべきであることを基本方針とした。

2 審査を行なうに際しては、原子力委員会がこれによるべきであると指示した「原子炉立地審査指針」および「安全設計審査指針」への適合性を検討した。また、平常時の許容被ばく線量および放射性物質の放出管理については、「原子炉の設置、運転等に関する規則等の規定に基づき、許容被曝線量等を定める件」(昭和35年科学技術庁告示第21号)に適合することのほか、国際放射線防護委員会の勧告に基づき実用可能な限り放射性物質の放出を低くすることを目標とすべきであることを方針とした。

3 審査を行なうに際しては、四国電力株式会社伊方発電所原子炉設置許可申請書および添付書類等に基づき、当該原子炉施設の設置許可段階における基本的計画が安全上から妥当であるかどうかを検討した。今後の詳細設計、施工、検査および運転の段階においてもこの基本的計画は堅持されるべきものである。


Ⅲ 審査内容

1 立地条件

 本原子炉施設の設置に関する立地条件については、敷地の気象、地盤、水理、地震および敷地周辺の社会環境について検討した結果、敷地は次のとおりであり、また「原子炉立地審査指針」にも適合しているので、本原子炉の設置場所として支障ないものと認められる。

1.1 敷地および周辺環境

(1)原子炉を設置する敷地は愛媛県西宇和郡伊方町九町越にあり、瀬戸内法の伊予灘に面しているが、瀬戸内海国立公園には含まれていない。
 敷地は佐田岬半島の基部付近の北測海岸に位置しており、構内用地は平地部がほとんどない急峻な山地を切取り、また海面埋立等により整地することとしている。
 敷地面積は約75万m2であり、そのうち構内用地は海面埋立地約9万m2を含め約16万m2で、残りはほとんど山林である。
 本原子炉設置予定地点は、北緯33度29分18秒、東経132度18分40秒に位置し、炉心から敷地境界までの最短距離は約700mである。
 また、敷地の南側の境界付近には町道があり、原子炉から町道までの最短距離は約520mである。

(2)敷地周辺の人口は、原子炉から半径1.4km以内には人家はなく、半径3km以内で約3,650人、5km以内で約8,000人である。
 敷地付近のややまとまった集落としては南方約2km以内に奥(人口約280人)、向(人口約390人)、畑(人口約360人)、久保(人口約270人)、西(人口約260人)、須賀(人口約370人)の6部落がある。
 また、周辺の比較的大きな都市としては、八幡浜市(人口約46,900人)、大洲市(人口約37,300人)、宇和島市(人口約64,300人)があるが、もっとも近い八幡浜市でも約12km離れている。

(3)敷地付近の公共施設としては、1.9kmの地点に児童数230人を収容する九町小学校および90人を収容する九町保育所がある。原子炉を中心とする半径5km以内には、教育施設として小学校6、中学校2、保育所5、医療施設として病院3、診療所2、歯科医院1がある。

(4)敷地周辺の主要農産物は、みかん、夏みかんである。
 この他養豚が小規模に行なわれており、また漁業については、佐田岬半島の伊予灘に面する海域において、たこ、めばる、あじ等の魚類、さざえ、あわび等の貝類、わかめ、ひじき等の海草類の漁獲がある。

(5)敷地の近くを通る鉄道は、国鉄予讃本線(高松~松山~宇和島)があるが、敷地からの最短距離は約12kmである。
 また道路は、南方1.5kmに国道197号線、東方2.1kmに県道137号線がある。
 敷地最寄の港湾としては、西方約7kmに水深約15mの三机港がある。
 なお、敷地周辺には飛行場はない。

1.2 地 盤

 敷地は、地質分類上西南日本外帯三波川変成岩帯に属し、原子炉基盤を構成する岩石は緑色片岩である。
 緑色片岩の走向傾斜は、ほぼN50°w/15°sで比較的一様である。原子炉格納施設などの主要構造物の基盤については、ボーリングおよび試掘抗調査等を行なった結果、岩盤コアーの圧縮強度は11,000~19,000t/m2(乾燥状態)であり、また現地基盤の弾性波速度は、縦波で約5.6km/秒横波で約2.6km/秒と大きく、基盤は一様で堅硬な状態にある。
 この基盤は、載荷試験によると1,400t/m2以上の支持力を有しており、原子炉施設の基盤への常時の荷重が約60t/m2であるのに対し、十分な地耐力を有している。
 また、原子炉施設の基礎として問題となるような規模の断層および破砕帯はない。なお、敷地は地形および地質構造上地すべり、山津波の発生するおそれはない。

1.3 地 震

 過去約1,200年の記録によると、伊方地点周辺に影響をおよぼす地震として、豊後水道および伊予灘を震源とするタイプ-Aの地震と日向灘沖および安芸灘を震源とするタイプ-Bの地震に大別される。
 このうち、日向灘沖の地震活動性は比較的益んであるがタイプ-Aの地震の地域および安芸灘地域の地震活動性はやや不活発である。A、B2つのタイプの地震による敷地周辺での建物被害の記録はほとんどない。
 敷地の地質は堅硬な岩盤であり、地震動に対し安定な地盤であるので、地震力が原子炉施設に与える影響は極めて小さいものと推定される。

1.4 気 象

 敷地周辺の風については、一年間の観測結果によれば、北寄りの風が卓越しているが、その風速は大半が5m/秒以上である。
 静穏状態(風速0.5m/秒未満)の年間出現頻度は、
 標高125mで約4%である。また風速3m/秒未満の低風速状態の年間出現頻度は、標高125mで約22%であり、その同一方向継続時間は4時間以内である。
 大気安定度については、安定状態(英国気象局方式によるE、F、G型)の出現頻度が約6%、中立状態(英国気象局方式によるC、D型)の出現頻度が約81%である。
 標高70m以上における逆転層出現頻度は約3%である。
 敷地周辺の気象極値は松山地方気象台伊方観測所等の記録によれば、日降水量最大296mm、最大瞬間風速67.1m/秒、最低気温-5.4℃である。
 また敷地周辺では台風、集中豪雨による顕著な被害は生じていない。

1.5 海 象

 敷地前面の水域は伊予灘に属し、隣接する周防灘を含めると、北、北東および西方向はいずれも40~50km、西北西方向は約100kmまで広がっており,瀬戸内海で最も広い開放水域である。
 敷地前面海域の潮位は、長浜港における記録によれば、東京湾中等潮位に比較して最高潮位は約+2.88m、最低潮位は約-2.12mであり、平常時における干満の差は約2.5mである。
 また、敷地では、過去において津波等の高潮の被害を受けた例はない。
 敷地前面の潮流は、佐田岬半島に並行であり、満潮時の最大流速は、大潮時において約70cm/秒、小潮時において約50cm/秒である。
 敷地前面の海水温度を測定した結果では、取水口付近の水深約12mにおける夏季最高水温は、約24.8℃で、冬季最低水温は約10.0℃、年平均水温は約16.4℃となっている。

1.6 水 利

 本発電所で使用する淡水は平均1,000m3/日(最大1,500m3/日)であり、敷地の東南東約9kmの保内町喜木川および宮内川流域の地下水を深井戸により取水する。同流域の地下水の取水可能量は、過去10年間の最大渇水年において33,000m3/日(1年間のうち10日以内は16,500m3/日)である。
 一方、保内町の水需要総量は、将来の増量を見込んでも、年平均約10,000m3/日(需要最大約14,000m3/日)であるので、発電所用水は、確保することができる。
 また発電所敷地内に6,000m3のタンクを設置し、喜木川、宮内川の流況および淡水の需要を考慮して、当該タンクの水を使用する計画である。
 復水器冷却水は、敷地西側に取水口を設け、水深約1.5mの深層海水を約30m3/秒取水する。
 復水器を通った冷却水は敷地北側に設けた放水口より放水される。

2 原子炉施設

 本原子炉施設は、以下のような種々の設計および安全対策が講じられ、そのほか詳細設計、製作、検査等を通じて信頼性の高いものが建設されることになっており、かつ、「安全設計審査指針」にも適合しているので十分な安全性を有するものと認められる。

2.1 核熱設計および動特性

 本原子炉の実効余剰増倍率は、初装荷炉心で、0.24(△K)以下であり、平衡炉心では0.19(△K)以下である。
 一次冷却水の最高使用圧力および温度はそれぞれ約175Kg/cm2gおよび約343℃であり、また、定格出力運転時における最高線出力密度は約0.54Kw/cmである。
 本原子炉は反応度制御に制御棒方式と、一次冷却材中のほう素濃度調整方式を併用しており、一次冷却材中のほう素が減速材温度係数に対し、正の効果をもつので、制御棒だけで制御する原子炉にくらべて減速材温度係数(負)の絶対値は小さくなる。しかし本原子炉では初装荷炉心にバーナブルポイズンを採用して初期余剰増倍率を下げ、ほう素濃度をおさえているので、炉心寿命初期においても、運転温度で減速材温度係数は負に保たれる。また燃料のドップラー効果にもとづく負の反応度効果により反応度外乱に対し常に自己制御性をもっているので制御上の問題はない。
 燃料は初装荷炉心では炉心部をほぼ等しい3領域に分割し、外周部に濃縮度の高い燃料を装荷し、さらにバーナブルポイズンの併用により出力分布の平坦化を図っており、第2サイクル以後においても3領域3サイクル方式の燃料取替により出力分布の平坦化がなされる。サイクル末期においては炉内のキセノンによる出力分布の空間振動の可能性が予測されるが、解析の結果、振動は発散性ではなく、また周期も長いので、出力分布調整用制御棒クラスタにより十分抑制することができる。
 炉心の熱設計は燃料ペレットの中心溶融を起こさないことおよび限界熱流束比(DNB比)が1.3を下まわらないことを設計基準としており、設計過出力(112%)時における解析結果では、燃料ペレット最高中心温度は約2,640℃で溶融点よりかなり低く保たれ、また、DNB比は約1.5で設計基準にくらべかなり余裕がある。

2.2 計測および制御系統施設

(1)核計測系

 中性子束は、原子炉容器外周に設置された検出器により測定される。検出器は12個あり、原子炉容器外周の炉心に近接する個所に分散して配置されている。この検出器によって、線源領域から中間領域を経て、定格出力時の120%までの中性子束を連続的に監視できるようになっている。
 また、12個の検出器とは別個に、炉内を移動させることのできる4個の可動小型中性子束検出器があり、炉内の中性子束分布が直接測定できるようになっている。

(2)安全保護系

 安全保護系は複数のチャンネルから成り、2outof3などの論理回路を形成して、信頼度を高めている。さらに、各チャンネルは相互に分離独立されており、いかなる単一故障によってもその安全保護機能が妨げられないように配慮がなされている。
 安全保護系の作動要素として原子炉圧力、加圧器水位、中性子束等の重要な検出要素が選ばれており、また、系統全体としては電源喪失、回路の断線等に対してフェイルセイフとなる様に設計されている。なお、安全保護系の重複性を実証するための試験は原子炉の運転中にも行なえる設計となっている。

(3)反応度制御系

 ① 反応度制御の方法
 反応度制御系は、制御棒クラスタおよび化学・体積制御設備よりなる。前者は、その位置調整により、原子炉の出力変化および高温停止に必要な反応度制御を行なうとともに、スクラム操作にも使用される。後者は、1次冷却材中のほう素濃度調整により、燃料の燃焼、核分裂生成物の毒作用などによる比較的緩慢な反応度変化に対する補償と低温停止時における余剰反応度の吸収に使用されるほか、非常用制御設備の機能も有する。
 初装荷炉心の実効余剰増倍率は0.24(△K)以下であり、反応度制御系は、最も反応度効果の大きい制御棒クラスタ1本が炉心に挿入できない場合でも、0.25(△K)以上の反応度制御能力を有しており、停止余裕が0.01(△K)以上になるように設計されている。
 さらに、運転中常に必要な停止余裕を確保するために、制御棒クラスタがその挿入位置限界値に近づいたときには、停止余裕監視装置により警報を発するように設計されている。

 ② 制御棒クラスタ
 制御棒クラスタの位置調整は、磁気ジャック式駆動装置により、原子炉の上部から駆動される。
 制御棒クラスタの引抜最大速度は約114cm/分以下に制限されていて、それ以上の速度にはなり得ない設計となっている。
 原子炉のスクラムは、制御棒クラスタが自重で炉心内に落下することにより行なわれる。制御棒クラスタが引抜操作中であっても、原子炉スクラム信号が発生すると制御棒クラスタは落下するように設計されている。

 ③ 化学・体積制御設備
 1次冷却材中のほう素濃度調整は、化学・体積制御設備により、1次冷却材の注入抽出による希釈濃縮またはイオン交換によって行なわれるが、いずれの場合も、ほう素濃度の変化に基づく原子炉の反応度変化は緩慢で、原子炉の運転制御に支障を与えることはない。

(4)出力制御系

 原子炉の出力は、定格出力の15%までは手動で、それ以上の出力では自動で制御を行なって負荷の変動に応答させるように設計されている。その制御方法は、1次冷却材の流量を一定に保ち、蒸気発生器出入口における1次冷却材温度の平均値がタービン発電機負荷に応じた値をとるよう制御俸クラスタの位置を調整することにより行なわれる。

(5)1次冷却材圧力制御系

 1次冷却材の圧力制御は加圧器によって行なわれ、定格出力の±5%/分のランプ状および±10%のステップ状負荷変化に対しても、1次冷却材の圧力を許容範囲内に制御する機能を有する。
 通常運転中、加圧器の下約半分は液相、上半分は気相となっており、液相部には電熱ヒータ気相部にはスプレイ装置が設けられている。1次冷却材の圧力が低下すれば、電熱ヒータの発熱量を増加させ、圧力が上昇すればスプレイ装置を作動させることにより正常な圧力に回復させるようになっている。さらに、加圧器上部には安全弁および逃がし弁を設けて、1次冷却系に発生する異常圧力上昇を制限するよう設計されている。

(6)中央制御室

 中央制御室には、原子炉施設の通常運転および事故対策操作に必要なすべての計測制御装置が設備されており事故時においても運転員が安全に所要の措置をとり、得るように遮蔽、換気等の放射線防護上の配慮がなされている。

2.3 熱   料

 本原子炉の熱料としては、外径約11mm、厚さ約0.6mmのジルカロイ-4被覆管に二酸化ウランペレットを封入した燃料要素179本を制御棒クラスタ案内管16本と計測管1本とともに14×14の正方形配列に組立て、上部および下部に304ステンレス鋼製のノズルを取りつけた無側板型の燃料集合体が使用される。燃料集合体は、上記の制御俸クラスタ案内シンブルおよび計測管に溶接された7個のバネつき支持格子によって骨格を形成し、燃料要素はこの支持格子によって横方向に支持され、冷却材の流動による振動、回転などを防止し、被覆材と支持格子の相互作用を防ぎ、軸方向には自由に膨張を許し、熱膨張による変形を防止する設計となっている。
 被覆管は表面温度がかなり高いこと、冷却材中に水素が多くなることを考え水素吸収率の小さいジルカロイ-4が使用され、燃料要素は過渡状態を含め、運転中に健全性を損わないように、DNB比、燃料中心温度などの熱的制限条件のもとで予想される熱および機械的荷重に対し、十分余裕のある設計がなされている。
 なお、燃料要素はあらかじめヘリウムを加圧封入した加圧型燃料要素である。
 また管内の自由体積は燃料ペレットの最高燃焼度約48,000MWD/Tに応じ得るよう配慮されている。

2.4 燃料取扱施設

 燃料取替は、原子炉上部のキャビティにほう酸水を水張りし、水中で燃料取扱装置を用いて行なわれる。
 水面下の作業であるため、ほう酸水が放射線しゃへい材となり、また崩壊熱除去の確実な冷却媒体となる。燃料取扱中は、仮に制御棒クラスタが全部取出されたとしても、原子炉を未臨界に保てるようにほう素濃度が調整される。
 使用済燃料ピットは原子炉補助建家内に設けられ約4/3炉心相当分の貯蔵容量を有し、その構造は使用済燃料を垂直に保持して水中貯蔵するようになっている。
 なお、使用済燃料ピット内に貯蔵可能な約4/3炉心相当分の使用済燃料の崩壊熱を除去するのに十分な容量を有するピット水浄化冷却設備を設けている。

2.5 原子炉容器および1次冷却系統施設

 原子炉容器の円筒部内径は約3.3m、容器の全長は約11.5mで胴円筒部には、1次冷却材出入ロノズル等が設けられている。
 1次冷却材配管の内容は、低温側が約700mm高温側が約740mmである。
 原子炉容器、1次冷却材配管等の原子炉冷却材圧力バウンダリを形成する系は、冷水付加のような急激な反応度事故が生じた場合でも1次冷却材の圧力変化を加圧器および逃がし弁、安全弁により許容範囲内に制限することにより、破損することのないように設計されている。
 また、この系のフェライト系鋼材を使用する部分は脆性破壊を防止するために、NDT+33degC以上で使用するようになっている。
 なお、長期間の中性子照射による原子炉容器材料に及ばす影響については、カプセル内に収容した試験片を、炉心周囲にそう入しておき、定期的に取り出し監視試験を行ない、供用期間中安全であることが確認される。
 また原子炉冷却材圧力バウンダリを構成する圧力容器、配管、ポンプ、バルブ等の耐圧部およびこれらの支持構造物については定期的な供用期間中検査を実施しその健全性が確認されることになっている。

2.6 放射性廃棄物処理施設

(1)気体廃棄物処理系

 気体廃棄物処理系は、ガス圧縮装置2台、ガス源衰タンク6基および排気筒等からなる。
 本原子炉から発生する気体廃棄物の大部分は、1次冷却材中のほう素濃度を変更する際の抽出水とともに出てくるもので、ガス減衰タンク6基(うち2基は予備)に貯蔵され、サンプリングによる放射能レベルの測定後、排気筒モニタで連続測定しつつ格納容器端に設けた排気筒(頂部標高約78m)から放出される。
 ガス減衰タンクは、4基で平常運転時約45日間貯留する能力がある。

(2)液体廃棄物処理系

 液体廃棄物処理系は、次の4系統からなる。

 ① ほう酸回収および格納器内機器ドレン処理系
 ② サンプリング廃液および補助建家機器ドレン処理系
 ③ 床ドレンおよび除染廃液処理系
 ④ 洗たく排水等処理系

 これらの液体廃棄物は原則として貯蔵タンクにたくわえ、蒸発装置で処理し、その蒸留水は脱塩塔およびフィルタを通したのち再使用する。
 また濃縮液は、ほう酸として再使用するか、あるいはドラム詰めして固体廃棄物として処理することになっている。
 一部の低レベルの液体廃棄物は、脱塩塔、フィルタ等を通し、放射性物質が十分低いことを確認したのち、復水器冷却水で希釈して放出することとしている。
 本設備は、貯蔵タンク5基、蒸発装置3基、フィルタおよび脱塩塔9基等からなり、貯蔵タンクの貯留容量および蒸発装置などの処理容量は発生廃液量に対して十分対処できるようになっている。

(3)固体廃棄物処理系

 固体廃棄物処理系は、雑固体廃棄物を圧縮するためのベイラ1基、ドラム詰め装置1基、運搬装置1式および使用済樹脂貯蔵タンク6基等からなる。
 蒸発装置濃縮液のうち1次冷却系で再使用しないものおよび雑固体廃棄物は、いずれもドラム缶詰めにして固体廃棄物貯蔵所に貯蔵保管される。
 使用済樹脂については当面使用済樹脂貯蔵タンクに貯蔵される。
 使用済樹脂貯蔵タンクは発生する使用済樹脂の約5年分の貯蔵保管能力がある。
 固体廃棄物貯蔵所は発生する固体廃棄物を詰めたドラム缶の数年分を貯蔵する能力がある。

2.7 工学的安全施設

 1次冷却材喪失事故等を想定した場合に、燃料被覆管の大破損や放射性物質の放散を防止しもしくは抑制するために、次の工学的安全施設が設けられる。

(1) 非常用炉心冷却系

 非常用炉心冷却系は非常用電源までを含めて動的機器の単一故障があっても十分な機能を発揮できるように多重性を有するように設計されている。
 非常用炉心冷却設備は、蓄圧注入系、高圧注入系および低圧注入系の3つの系統からなり、1次冷却材喪失事故時等にほう酸水を原子炉容器内に注入し、燃料温度の過度の上昇を防止して燃料の損傷、溶融、燃料の被覆管のジルコニウム-水反応を防止する機能をする。
 蓄圧注入系は、事故時に1次冷却材の圧力が約53kg/cm2g以下に減少すれば蓄圧タンクのほう酸水を1次冷却材回距の低温側に注入し、高圧注入系は高注圧入ポンプにより燃料取替用水タンクのほう酸水を原子炉容器および1次冷却材回路の低温側に注入する。
 また低圧注入系は余熱除去ポンプにより燃料取替用水タンクのほう酸水を原子炉容器に注入する。
 なお、燃料取替用水タンクのほう酸水を注入し終えた場合には、原子炉格容器底部のサンプにたまったほう酸水を余熱除去熱交換器で冷却し、再循環することができる。

(2)原子炉格納施設

 原子炉格納施設は、鋼製格納容器およびその外周コンクリート壁からなり、両者の間は、密閉格納構造のアニュラス部を構成し、原子炉施設の主要部分は、この原子炉格納容器に収納される。また格納容器を貫通する配管および配線は、アニュラス部に集められる。
 原子炉格納容器を貫通する重要な配管には隔離弁を設け、事故時に放射性物質が外部に漏えいしないように設計されている。
 また、原子炉格納容器は運転中容器の温度をNDT+17degC以上に保つことになっている。

(3)アニュラス空気再循環系

 アニュラス空気再循環系は、フィルタ装置および排風機からなり、この設備により、原子炉格納容器内に放射性物質が放出されるような事故時にはアニュラス部の空気をフィルタでろ過し、再循環するとともにアニュラス部を負圧にする。
 負圧にするための排気は排気筒から放出される。

(4)原子炉格納容器圧力低減系

 原子炉格納容器内部にはスプレイ設備が設けられており、1次冷却材喪失事故時に、原子炉格納容器内圧の減少をはかるとともに、浮遊する核分裂生成物(特によう素)の除去を行なうようになっている。

2.8 安全防護施設の機能確保

(1)非常用電源設備

 本原子炉施設に必要な電力は、主発電機または187KV母線から供給されるが、予備電源として66KV送電線からも受電できる。
 これらの電源がすべて喪失しても、原子炉施設の安全確保に必要な電力は、ディーゼル発電機および所内蓄電池系から供給できるようになっている。

(2)保守点検

 原子炉安全保護系、非常用炉心冷却系、原子炉格納容器圧力低減系および原子炉格納容器の気密を保持するために必要な隔離弁等は、原子炉施設の耐用期間を通じてその機能を確認するため、運転中あるいは停止中に点検または試験ができるようになっている。
 また、原子炉格納容器の漏洩率を定期的に測定することとしており、かつ、配管、配線貫通部は漏洩検出のための試験ができるようになっている。

2.9 耐震設計

 原子炉施設は、原則として剛構造とし、原子炉格納施設などの重要な建物および構造物は岩盤に直接支持される。
 全ての施設は安全上の重要度に従ってつぎのようにA、BおよびCの3クラスに分類され、それぞれの重要度に応じた耐震設計が行なわれる。
 なお、地震の際には、原子炉を自動的に停止することができるようになっている。

(1) Aク ラ ス

 原子炉冷却材圧力バウンダリ、原子炉格納施設等のように、その機能喪失が原子炉事故をひきおこすおそれのある施設および周辺公衆の災害を防止するために緊要な施設はAクラスとする。

 ① 建物および構築物
 Aクラスの建物および構築物は建築基準法に示された水平震度(0.2×0.8)の3倍の値より求められる水平方向地震力と地点の地震特性をもった設計地震により動的解析によって求められる水平方向地震力のいづれも下回らない地震力によって設計される。
 設計地震は、地点における過去の地震から推定された最大規模の地震、タイプ-AおよびBのそれぞれの基盤における最大加速度(165galおよび45gal)ならびに卓越周期を基礎にして定められたもので、基盤における最大加速度は200galである。
 鉛直震度は、建物および構築物の高さ方向に一定とし、それらの基礎底面の水平震度の1/2を下回らない値とする。
 この場合、水平および鉛直方向の地震力は、同時に不利な方向に作用するものとする。
 また、地震荷重とその他の荷重との組合わせおよび許容応力は建築基準法に従うものとする。

 ② 機器および配管類
 この場合の水平震度は設計地震を入力とする動的解析により求められる値とし、かつ据付位置における支持構造物に関し建築基準法に示された水平震度の3.6倍を下回らない値とする。
 鉛直震度はAクラスの建物および構築物に対する値の1.2倍を下回らない値とし、水平および鉛直方向の地震力は、同時に不利な方向に作用するものとする。
 なお、原子炉格納容器、原子炉非常停止装置およびほう素制御系などのように安全対策上とくに緊要な施設については、Aクラスの扱いのほかに、その機能が保持されることを確認するため、基盤における最大加速度を、1.5倍にした地震波を入力とする動的解析が行なわれる。とくに、原子炉格納容器については、設計地震力と1次冷却材喪失事故時の内圧との組合せに対しても、その機能を保持するように設計される。

(2)Bク ラ ス

 原子炉補助建家、廃棄物処理系等のように高放射性物質に関する施設はBクラスとする。

 ① 建物および構築物
 Bクラスの建物および構築物は建築基準法に定められた震度の1.5倍の水平震度によって設計される。

 ② 機器および配管類
 Bクラスの機器および配管類はその据付位置における支持構造物の静的震度の1.2倍を下回らない値より求められる水平方向地震力によって行なわれる。
 また、支持構造物の振動と共振のおそれのあるものは動的解析が行なわれる。

(3)Cクラス
 AクラスおよびBクラスに属さない施設はCクラスとする。

 ① 建物および構築物
 Cクラスの建物および構築物は建築基準法に定められた震度によって耐震設計が行なわれる。

 ② 機器および配管類
 Cクラスの機器および配管類の耐震設計は必要と認められるものについてのみ行なわれる。

3 放射線管理および平常運転時の被ばく評価

 平常運転時における放射線管理および被ばく評価は次のとおりであり、発電所従業員および敷地周辺の公衆に対する放射線障害の防止上支障がないものと認められる。

3.1放射線管理の基本方針

 放射線管理は、いかなる場合においても原子炉等規制法にもとづいて発電所従業員および敷地周辺の公衆に対し放射線障害をもたらさないこととし、さらに不用な放射線被ばくを避ける観点から実用可能な限り放射線被ばくを低くする方針をとっている。

3.2 放射性廃棄物管理

(1)気体廃棄物

 ① 平常運転時に発電所から放出される可能性のある気体廃棄物は、主として燃料から冷却材中に漏洩してくるクリプトン、キセノン等の希ガスである。希ガスは1次冷却系、同付属タンクのカバーガスおよび抽出冷却材の脱ガス操作に伴って発生する水素等に混入し、ガス減衰タンクに収集される。
 また、希ガスの一部は、原子炉補助設備等から原子炉格納容器および原子炉補助建家にも漏洩するものと考えられる。
 1次冷却材中の希ガスの濃度は、年平均最大約244μCⅰ/cc(γ線エネルギー/0.08MeV相当)と推定されており、排気筒からの放出は減衰タンクガス、格納容器換気空気および原子炉補助建家換気空気の合計で、約20,600Ci/年(γ線エネルギー0.05MeV相当)以下になるように管理される。
 この値はガス減衰タンク放出ガスについて30日間減衰後放出するとした場合の値である。

 ② ガス減衰タンクに収集した希ガスは、原則として30日間以上貯留して放射能を減衰させるとともに、風向が人の居住していない海側で風速が5m/秒以上のときを選び排気筒より放出するが、放出に先だって試料採取により放射能を測定し、放出放射能量を管理することになっている。
 格納容器内空気は平常運転中は排気せず、定期検査などで格納容器内に立入る前に換気することとしているが、換気に先だって、格納容器内空気の放射能を測定し、放出放射能量を管理することになっている。
 また、原子炉補助建家は原子炉運転中連続して換気するが、排気筒モニタで放射能を測定し、放出放射能量を管理することになっている。

(2)液体廃棄物

 液体廃棄物は、ほう素濃度変更による抽出冷却材、1次系機器ドレン、樹脂再生廃液、サンプに収集されるドレン、除染廃液、洗たく排水および実験室試料採取廃液である。
 洗たく廃液以外の廃液は、廃棄物処理設備において処理され、処理済液は廃棄せずに原則として再使用される。
 液体廃棄物処理設備によって処理された一部の低放射能の廃液と洗たく廃液は、一旦貯留し放出に当っては、サンプリングして放射能濃度を測定し、復水器冷却水路中における放射性物質濃度が原子炉等規制法で定める許容濃度以下でありかつ、魚、貝、海藻等による放射性物質の濃縮および蓄積の効果を考慮した濃度以下であることを確認の上放出することになっている。

(3)固体廃棄物

 ドラム缶詰めされた固体廃棄物は固体廃棄物貯蔵所に貯蔵保管され、使用済樹脂は、当面使用済樹脂貯蔵タンクに貯蔵される。
 なおこれらを最終的に処分する場合は、関係官庁の承認をうけることとしている。

3.3 敷地内の放射線管理

(1)管理区域内の管理

 ① 原子炉格納施設、原子炉補助建家等のうち平常時に空間線量率、放射性物質の水中あるいは空気中の濃度または表面汚染密度が原子炉等規制法によって定められた値をこえまたはこえるおそれのある区域をすべて管理区域にするが、管理上の便宜を考慮して原子炉格納施設、原子炉補助建家の大部分および固体廃棄物貯蔵所を管理区域として設定する計画である。

 ② 管理区域は、エリアモニタ、ダストモニタ等の設備によって原子炉の運転に伴う空間線量率、空気中放射性物質の濃度を連続監視するほか各種サーベイメータによる定期監視サンプリング測定等を行なうことにより常にエリアの放射線レベル等を把握し、安全の確認を行なうことになっている。

 ③ 管理区域に立ち入る従業員の放射線被ばく管理については、法令に定める許容値を越えないよう常に監視するためフイルムバッチ等の個人モニタ器具により被ばく線量を測定評価するほか、管理区域の出入、作業方法、作業時同等の管理、放射線測定器具の携帯、防護具着用などの放射線防護対策を講ずることになっている。

 ④ 放射線遮へい等
 放射線遮へいは従業員の作業を考慮して、その被ばく線量が法令に規定された許容量を十分下回るように設計される。
 換気系は、主要な場所ごとに別系統となっており、事故時における放射能汚染の拡大防止等について十分配慮されている。

 ⑤ 汚染した、あるいはそのおそれのある区域から退出する場合には、手足モニタなどによって汚染検査が行なわれ、汚染が認められた場合には、手洗い、シャワーなどによって適切な除染が行なわれることになっている。

(2)周辺監視区域内の管理

 ① 発電所敷地内に原子炉等規制法によって定められた値を越える区域および越えるおそれのある区域を周辺監視区域として設定するが管理上の便宜を考慮して、敷地境界付近に設定する計画である。

 ② 周辺監視区域においてはモニタリングポスト等を配置して、外部放射線量を連続監視するほか、さく等により、みだりに人が立ち入らないように管理することになっている。

3.4 発電所外の放射線監視

 気体廃棄物の排気については、排気筒に設けたモニタにより、また液体廃棄物の排水については放出の都度放射能を測定するとともに排水管出口付近に設けた排水モニタにより放出放射能を監視し、周辺環境に与える影響を極力避けることにしており、これを確認するため、モニタリングポスト、モニタリングポイント等の放射線監視設備を配置して連続監視を行なうことになっている。このほか放射線監視用車輌等により発電所を中心とする半径数kmの範囲内において空間線量率ならびに飲料水、海水、農作物、海産物などをサンプリングし、定期的に放射能の監視をすることになっている。

(1)気体廃棄物

 気体廃棄物による被ばく評価は、次の条件を用いて行なった。

 ① 減衰タンクのガスは30日間貯留後45日目までに放出するが、放出時に都合のよい気象条件が出現しないことを考慮し、その確率を控え目に20%とする。また、評価方向への風向出現頻度と放出回数から二項確率分布により、最多生起度数(信頼度97%)を計算し、評価方向への放出放射能量を求める。

 ② 格納容器換気空気は、原則として海方向に放出するが、被ばく評価に当っては、無差別に放出すると仮定し、評価方向の風向出現頻度と放出回数から最多生起度数(信頼度97%)を計算し、評価方向への放出放射能量を求める。

 ③ 補助建家換気空気は連続放出されるので、有効拡散風速から計算する。
 評価の結果着目地点における年間の被ばく線量を計算すると周辺監視区域(予定)外において、γ線被ばくが最大となるのは、原子炉から南約750mの地点であり、年間の被ばく線量は約0.6ミリレムである。(β線被ばく線量約1.5ミリレム)なお、この場合使用した気象条件は、排気筒出口位置での実測値が得られないことおよび敷地の地形が複雑なことのため、風洞実験の結果および現地での気象観測データーの解析結果から、①②については風速3.2m/秒、③については有効拡散風速13m/秒、大気安定度D型、放出高さ47mとしている。

(2)液体廃棄物

 液体廃棄物による被ばく評価は次の条件によって行なった。

 ① 放出放射能量については、同形炉の運転実績等にもとづき、約1Ci/年(トリチウムを除く)とした。

 ② 放出核種についても、同型炉の経験にもとづく結果を用いた。

 ③ 液体廃棄物による海水中の放射性物質濃度については、放水口近傍海域での濃度を採用した。

 ④ 魚類、海藻などによる濃縮係数については、現在報告されているもののうち厳しい値を用いた。

 ⑤ 住民の海産物の摂取量はそれぞれ魚200g/日海藻10g/日、無せきつい動物(いか、たこ、えび、うに等)20g/日とし、この量を連続的に摂取するものとした。
 評価の結果は、全身被ばくで約0.01ミリレム/年である。
 なお、トリチウムの放出量は500Ci/年以下であってこれによる全身被ばくは上記の値に比べて極めて低く無視できる程度である。

4 各種事故の検討

 本発電所の原子炉において発生する可能性のある反応度事故および機械的事故について検討した結果、それぞれ次のような対策が講じられており、本原子炉は、十分安全性を確保し得るものと認められる。

4.1反応度事故

(1)制御棒クラスタ引抜事故

 運転員の誤操作または機器の誤動作により、最大反応度効果を有する制御棒クラスタ1本を最大速度で連続的に引き抜いても、核的逸走は負の出力係数でおさえられ、かつ中性子東高スクラムにより原子炉は停止するので、燃料被覆管が破損することはない。

(2)ほう素希釈事故

 運転員の誤操作、または化学体積制御設備の機器の誤動作による炉心内のほう素濃度の減少に基づく反応度付加率は、制御棒クラスタの連続引抜きによる反応度付加率より小さく、燃料被覆管が破損することはない。

(3)制御棒クラスタ落下事故

 運転中に最大反応度効果を有する制御棒クラスタ1本が落下し、中性子束分布に歪みが生じても制御棒の落下を検出し、タービン負荷の自動切下げを行なうとともに、「制御棒クラスタ引き抜き阻止インターロック」で制御棒の引き抜きが阻止されるので、原子炉は安全に運転できる。

(4)制御棒クラスタ抜出事故

 制御棒クラスタ駆動機構の圧力ハウジングが破損し、制御棒クラスタ1本が瞬時に抜け出しても運転中は制御棒クラスタがほぼ引き抜かれた状態にあるため、それによる反応度付加量は小さく、他の制御棒クラスタにより、原子炉は安全に停止できる。

(5)燃料取替事故

 燃料取替中、運転員の誤操作もしくは機器の誤動作により燃料集合体が炉心に落下しても水中のほう素濃度が高いので臨界に達することはない。

4.2 機械的事故

(1)1次冷却材流量喪失事故

 原子炉運転中、1次冷却材ポンプが機械的故障、電源喪失あるいは、運転員の誤操作により2合同時に停止しても、1次冷却材流量低スクラムまたは、1次冷却材ポンプ電源喪失スクラムにより原子炉は停止し、また、系の慣性のため1次冷却材流量は急速に失なわれることはなく、熱除去能力は急激に減少しないので、燃料被覆管が破損することはない。

(2)1次冷却材喪失事故

 1次冷却系配管が破断し、充てんポンプによる加圧器水位の維持が困難となれば、原子炉圧力の低下により蓄圧タンクが作動し、また、原子炉格納容器圧力高あるいは、加圧器水位低と原子炉圧力低の同時信号により、高圧および低圧注入系が作動するとともに、スクラムにより原子炉は停止し、燃料の過熱がおさえられる。
 この事故により、燃料被覆管の一部が破損しても、燃料から放出される小量の核分裂生成物は、原子炉格納容器内に保留され、そのうちのよう素は、アルカリ性スプレイにより除去される。原子炉格納容器から漏洩した希ガス等は、アニュラス空気再循環設備を経て排気筒へ導かれる。

(3)蒸気発生器細管破損事故(外部電源のある時)蒸気発生器の細管破損により、1次冷却材が2次系に流出しても、蒸気発生器のブローダウン配管と、復水器エゼクタの2個所に設けられた放射線モニタにより、運転員が事故を検出し原子炉は停止されるとともに、復水器への蒸気バイパス弁が開放され、1次冷却系の冷却が行なわれる。
 1次系圧力ガス2次系の設計圧力以下にまでなった段階で、破損を起した蒸気発生器を蒸気隔離弁により隔離することになっている。なお、外部電源喪失の場合は、重大事故および仮想事故として解析する。

(4)主蒸気管破断事故

 出力運転時に主蒸気管が破断すると、蒸気発生器での熱交換量が急増し、原子炉出力が異常に増加するが、中性子束高スクラムにより原子炉は停止する。このときのDNB比は1.3を十分上回る。高温待機時に主蒸気管が破断し、かつ最大の反応度効果を有する制御棒1本が挿入不能の場合には、原子炉はスクラム後1次的に再臨界に達するが、安全注入設備の作動で高濃度のほう酸水が注入される結果、原子炉はすぐに末臨界になり、燃料および被覆材の溶融は起らない。

(5)燃料取扱事故

 燃料取扱中、使用済燃料が装置の故障で落下し、一部が破損しても、操作はすべて原子炉格納容器内または、原子炉補助建屋内の水中で実施されるので、水中から放出される核分裂生成物の量はわずかである。さらに放射性気体は換気設備によりろ過された後排気筒へ導かれる。

(6)気体廃棄物設備の破損事故

 気体廃棄物処理設備の配管やタンク等が破損しても、放射性気体は、換気設備によりろ過された後、排気管へ導かれる。この場合、敷地周辺の公衆に対する被ばく線量は極めて低い。

(7)タービン破損事故

 タービンの異常振動等によりタービンが破損してもその飛散物は、外部しゃへい等により格納容器を貫通することはなく、原子炉1次系には影響を与えない。またこの場合、原子炉は安全に自動停止される。

(8)その他の事故

 制御棒クラスタ駆動装置、主要弁類、蒸気発生器2次側給水設備等の故障または誤動作、復水器真空度の低下、電源の喪失等があっても、いずれも十分な対策がなされている。

5 災害評価

 本原子炉はすでに述べたように、種々の安全対策が講じられており、かつ、各種事故に対しても検討の結果安全を確保し得るものと認められるが、さらに、「原子炉立地審査指針」(以下「立地指針」という)に基づいて重大事故および仮想事故を想定して行なった災害評価は次のとおりで、解析に用いた仮定は妥当であり、その結果は立地指針に十分適合しているものと認められる。

5.1  重大事故

 重大事故として、1次冷却材喪失事故および蒸気発生器細管破損事故の二つの場合を想定する。
(1)1次冷却材喪失事故

 原子炉容器に接続している配管である1次冷却系配管(低温側、内径約700mm)1本が、原子炉入口ノズル付近で瞬時に破断し、破断口両端から1次冷却材が放出される事故を仮定する。解析の結果では、二酸化ウランの溶融温度に達することはない。
 また、燃料被覆管の最高温度は約1150℃であり、炉心内のジルコニウム-水反応の割合は0.1%以下であって、被覆材は事故期間中その健全性が大きく損なわれることはなく、非常炉心冷却系の機能は維持される。
 原子炉格納容器内の圧力は、1次冷却材の放出により急上昇するが原子炉格納容器スプレイ設備により冷却され、最大許容圧力をこえることなく、すみやかに大気圧近くまで減少する。そこで核分裂生成物の放散過程に従って、次の仮定を用いて被ばく線量を計算する。

 ① 燃料ペレットは溶融温度に達することはないが、全部の燃料棒の被覆管に破損が生じたとし、全炉心に内蔵されている核分裂生成物のうち、希ガス2%、よう素1%、固体核分裂生成物0.02%相当分の放出があるものとする。なお、格納容器内に放出されたよう素のうち10%は有機よう素であり、また残りの無機よう素の50%は格納容器壁面等に吸着されるものとする。

 ② 原子炉格納容器内に浮遊するよう素はアルカリ性スプレイにより、大部分が除去されるが、その除去効率は無機よう素に対して等価半減期100秒とする。

 ③ 原子炉格納容器からの漏洩率は事故後24時間まで0.3%/日、その後3日間は0.135%/日とする。

 ④ 原子炉格納容器からの漏洩は、97%がアニュラス部に生じ、3%は原子炉格納容器のドーム部で生ずるものとする。
 なお、アニュラス部に漏洩したものは、アニュラス空気再循環設備を経て再循環し、その一部はアニュラス部の負圧維持のため排気筒から放出される。このアニュラス空気再循環設備に設置されるよう素用フィルタの除去効率は90%とする。
 なお、事故後アニュラス部の負圧の達成までに10分間を要し、この間はアニュラス空気再循環設備のフィルタは有効でなく格納容器からアニュラス部に漏洩してきた気体は、そのままアニュラス上部から放出されるものとする。

 ⑤ 大気中での拡散に用いる気象条件は、現地の地形を考慮して気象データをもとに「原子炉安全解析のための気象の手引」(以下「気象手引」という)を参考にして、放出高さ68m(頂部標高約78m)、大気安定度F型、水平方向拡散幅30°、有効拡散風速2.5m/秒とし、被ばく評価は放出点と同一高度の風下軸上で行なうものとする。
 解析の結果、大気中に放出される放射性物質は全よう素が約20Ci(よう素131換算、以下同様)希ガス約3,290Ci(γ線エネルギー0.5MeV相当、以下同様)である。
 敷地の外で被ばく線量が最大となるのは、敷地境界(原子炉から約700m)であって、その地点における被ばく線量は甲状線(小児)に対して約1.9レム、全身に対してγ線約0.11レム(β線約0.03レム)となる。

(2)蒸気発生器細管破損事故

 蒸気発生器細管の1本が破断し、1次冷却材が2次側へ流出して、その中に含まれる核分裂生成物が大気放出弁を経て排気管から放出される事故を仮定する。
 事故発生後、1次系圧力の低下により原子炉はスクラムされ、1次系の圧力が2次系の設計圧力まで下った後、蒸気隔離弁を閉鎖する。それまでに約30分を要するが、1次冷却材の2次側への流出は保有水量の約30%である。
 そこで、次の仮定を用いて被ばく線量を計算する。

 ① 事故前の1次冷却材中のよう素濃度を約11mCi/cm3、希ガス濃度を約170mCi/cm3(運転中の冷却材放射能濃度の最高限度)とする。

 ② 炉内圧が大気圧に低下するまでに破損燃料から追加放出される核分裂生成物の量は、全よう素約38,800Ci、希ガス約165,000Ciとする。

 ③ 2次側へ流出した1次冷却材中に含まれる核分裂生成物のうち希ガスの全部とよう素の一部が主大気放出弁を経て排気管から放出されるものとする。

 ④ よう素のうち90%は無機状のもの、10%は有機状のものとする。無機状のものの液相気相間の分配係数を100、有機状のものの低減率を1/10とする。

 ⑤ 破損した蒸気発生器を蒸気隔離弁で隔離した後における大気放出弁、安全弁からの漏洩量は蒸気圧力の平方根に比例するものとする。

 ⑥ 大気中での拡散に用いる気象条件は、現地の気象データをもとに気象手引を参考にして地方放散、大気安定度F型、水平方向拡散幅20°、有効拡散風速2m/秒とする。
 解析の結果、大気中に放出される放射性物質は全よう素約61Ci、希ガス約19,400Ciである。
 敷地の外で被ばく線量が最大となるのは敷地境界(原子炉から約700m)であって、その地点における被ばく線量は、甲状腺(小児)に対して約3.3レム、全身に対してγ線約0.1レム(β線約0.7レム)となる。
 上記各室大事故時の被ばく線量は立地指針にめやす線量として示されている甲状腺(小児)150レム、全身25レムより十分小さい。

5.2 仮想事故

 仮想事故としても、重大事故と同様、二つの事故の場合を想定する。

(1)1次冷却材喪失事故

 仮想事故としては、重大事故と同じ事故について安全注入設備の炉心の冷却効果を無視して炉心内の全燃料が溶融したと考えた場合に相当する核分裂生成物の放出があると仮想する。また、原子炉格納容器、同スプレイ設備およびアニュラス空気再循環設備の効果について重大事故と同じとし、次の点については重大事故の場合と異なる仮定をして被ばく線量を計算する。

 ① 炉心の100%溶融により内蔵されている核分裂生成物のうち、希ガス100%、全よう素50%、固体核分裂生成物1%相当分が原子炉格納容器内に放出される。

 ② 国民遺伝線量の評価における大気中での拡散に用いる気象条件は、気象手引を参考にして大気安定度F型、水平方向拡散幅30°、風速1.5m/秒とする。解析の結果、大気中に放出される放射性物質は、全よう素が約944Ci、希ガス約164,500Ciとなる。
 敷地の外で被ばく線量が最大となるのは、敷地境界(原子炉から約700m)であって、その地点における被ばく線量は、甲状腺(成人)に対して約23レム全身に対してγ線約5.7レム(β線約1.6レム)となる。また、全身被ばく線量の積算値は約6.7万人・レムである。

(2)蒸気発生器細管破損事故

 重大事故について、事故時に新たに燃料から放出される核分裂生成物は事故直後に全量が1次冷却材中に放出されるものとし、かつ、健全な蒸気発生器による減圧効果がなく、10m3/日の蒸気の漏洩が無限時間続くと仮想する。また大気中での拡散に用いる気象条件は、弁の閉鎖まで放出される冷却材については重大事故と同じものを用い、閉鎖後の漏洩による影響については現地の気象データをもとに気象手引を参考にして地上放散、大気安定度F型、水平方向拡散幅30°、有効拡散風速2.5m/秒とする。また、国民遺伝線量については風速1.5m/秒とする。
 解析の結果、大気中に放出される放射性物質は、全よう素が約359Ci、希ガス約58,200Ciである。
 敷地の外で被ばく線量が最大となるのは、敷地境界(原子炉から約700m)であって、その地点における被ばく線量は甲状腺(成人)に対して約38レム、全身に対してγ線約0.3レム(β線約1.5レム)となる。
 また、全身被ばく線量の積算値は約2.4万人・レムである。
 上記各仮想事故時の被ばく線量は、立地指針にめやす線量として示されている甲状腺(成人)300レム、および全身25レムより十分小さい、また、全身被ばく線量の積算値は国民遺伝線量の見地から示されているめやす線量の200万人・レムより十分小さい。

6.技術的能力

 申請者は長年にわたり原子力発電に関する調査および原子力発電所の建設準備を行なってきている。
 技術者の養成にあたっては、海外の原子力施設はもとより、国内においても日本原子力研究所、日本原子力発電株式会社、関西電力株式会社等へ多数の技術者を派遣して現在約90名の原子力技術者を養成しているが、伊方発電所1号機の運転予定年度(昭和52年度)には、約120名を必要としており、今後さらに国内外の諸機関を活用して養成訓練を行なうこととしている。特に発電所の運転要員については、福井県内に設置される予定のPWR訓練用シミュレータも活用して十分な運転訓練を実施するよう計画している。また、申請者は昭和45年7月以降、伊方発電所の設計、建設、運転に関して三菱重工業株式会社と協同研究を行なっている。
 これらの点から、本原子炉を設置するために必要な技術的能力および運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があると認められる。


Ⅵ 審査経過

 本審査会は、昭和47年5月11日、第101回審査会において、次の委員よりなる第86部会を設置した。
(審査委員)
高 島 洋 一 (部会長) 東京工業大学
安 藤 良 夫 東 京 大 学
大 崎 順 彦  東 京 大 学
木 村 耕 三 気  象  庁
左 合 正 雄 東京都立大学
村 主  進 日本原子力研究所
浜 田 達 二 理化学研究所
三 島 良 績 東 京 大 学
宮 永 一 郎 日本原子力研究所
(調査委員)
伊 藤 直 次 日本原子力研究所
藤 村 理 人 日本原子力研究所
福 田 整 司 日本原子力研究所
垣 見 俊 弘 地質調査所 (47年9月以降)
松 田 時 彦 東京大学  (  〃  )

 同部会は通商産業省原子力発電技術顧問会と合同で審査を行なうこととし、昭和47年5月17日第1国会合を開き、審査方針を検討するとともに、主として施設を担当するグループと、主として環境を担当するBグループを設け審査を開始した。

 以後、部会および審査会において審査を行なってきたが、昭和47年10月31日の部会において部会報告書を決定し同年11月17日第107回審査会において本報告を決定した。
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