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東京電力株式会社福島原子力発電所の原子炉の設置変更(6号炉増設)に係る安全性について


昭和47年11月17日
 原子炉安全専門審査会
原子力委員会
委員長  中曾根康弘 殿
                           原子力安全専門審査会
                                            会 長  内 田 秀 雄

 東京電力株式会社福島原子力発電所の原子炉の設置変更(6号炉増設)に係る安全性について

 当審査会は、昭和46年12月23日付け46原委第487号(昭和47年11月15日付け47原委第456号をもって一部訂正)をもって審査の結果を求められた標記の件について、結論を得たので報告します。


Ⅰ審査結果

 東京電力株式会社福島原子力発電所の原子炉の設置変更(低濃縮ウラン、軽水減速、軽水冷却、沸騰水型原子炉1基を増設)に関し、同社が提出した「福島原子力発電所原子炉設置変更許可申請書(6号炉増設)」(昭和46年12月21日付け申請、昭和47年11月14日付け一部訂正)に基づいて審査した結果、本原子炉施設の変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。


Ⅱ 審査方針

 当審査会は、次のような考え方および方針のもとに審査をすすめた。

1審査に当っては、平常時は勿論、地震、機器の故障、その他の異常時においても、一般公衆および従業員に対して放射線障害を与えず、かつ、万が一の事故を想定した場合にも、一般公衆の安全が確保されるべきであることを基本方針とした。

2 審査を行なうに際しては、原子力委員会がこれによるべきであると指示した「原子炉立地審査指針」および「安全設計審査指針」への適合性を検討した。また、平常時の放射線被ばくの許容被ばく線量および放射性物質の放出管理については、「原子炉の設置、運転等に関する規則等の規定に基づき、許容被曝線量等を定める件」(昭和35年科学技術庁告示第21号)に適合することのほか、国際放射線防護委員会の勧告に基づき実用可能な限り放射性物質の放出を低くすることを目標とすべきであることを方針とした。

3 審査を行なうに際しては、東京電力株式会社福島原子力発電所原子炉設置変更許可申請書および添付書類等に基づき、当該原子炉施設の設置許可段階における基本的計画が安全上から妥当であるかどうかを検討した。今後の詳細設計、施工、検査および運転の段階においても、この基本的計画は堅持されるべきものである。


Ⅲ 審査内容

1 立地条件

 本原子炉施設の変更(6号炉増設)に関する立地条件については、敷地の気象、地盤、水理、地震および敷地周辺の社会環境について検討した結果、敷地は次のとおりであり、また「原子炉立地審査指針」にも適合しているので、6号炉の増設を行なっても支障ないものと認められる。

(1)敷地および周辺環境

① 敷地は、東京の北方約220Km、福島県の太平洋側のほぼ中央に位置し、福島県双葉郡大熊町および双葉町にまたがる標高約35mのほぼ平坦な丘陵地帯で、東は急しゅんな断崖となって太平洋に面している。その広さは、約320万m2で、そのほとんどは山林、原野であったが、既許可の原子炉施設の建設に関連し、所内道路の建設、海岸埋立による港湾建設および敷地造成がすでに完了または進行中である。
 本敷地にはすでに、1号原子炉(電気出力46万KW)が稼働中であり、また、2、3、4、5号炉(電気出力各々78万4000KW)の建設が行なわれている。
 本変更に係る原子炉施設(以下6号炉とよぶ)は5号炉の北側に隣接して設置され、設置予定地点から海岸線までの距離は、約80m、敷地境界までの最短距離は西の方向約650mで、その他は1,000m以上の距離となっている。

② 敷地周辺の人口は、半径5Km以内で約9,200人、10Km以内で約36,000人である。
 敷地に近い主な都市には、いわき市(南方約40Km)、郡山市(西方約60Km)および福島市(北西約60Km)がある。また、敷地付近のややまとまった集落としては、北西方約1.8Kmに細谷(人口約190人)、南西方約2.3Kmに夫沢(人口約940人)、北北西方約2.4Kmに郡山(人口約500人)がある。

③ 敷地周辺の公共施設としては、半径5Km以内に病院1(ベット数174)および保育園2、小学校3、中学校2、高等学校1がある。

④ 敷地周辺の主要農産物は、米、雑穀、果樹、葉たばこであり、乳牛飼育および養蚕も行なわれている。
 工業としては、食品製造、木材加工などの小規模工場がある。
 漁業としては、ぶり、かれい、ひらめ、すずきなどが水揚されているが、漁獲高は比較的少ない。

⑤ 敷地の近くを通る鉄道は、国鉄常盤線(上野~岩沼)があるが、6号炉設置予定地点からの最短距離は約2.8Kmである。また、主要道路は、西方約2.2Kmに国道6号線がある。最寄りの港湾としては、南方約50Kmに1万トンの船舶が繋船可能な小名浜港がある。
 なお、敷地周辺に飛行場はない。

(2)地   盤

 敷地付近の地質は、新第三紀鮮新世の相馬層群の上層である富岡層(層厚約200~400m)と、これを覆う洪積世の海岸段丘堆積層(層厚約5~10m)から構成されている。
 原子炉建設用地として整地される標高約13m付近は、黄褐色のしまった砂層であるが、原子炉建屋等の主要建物は標高-3m付近の泥岩層に直接設置される。
 この泥岩層は比較的粗粒で、不規則に薄い砂岩層を挟んでいるが、岩質は堅硬で1、2、3号炉の設置地点における試掘横抗内で実施した載荷試験によれば、700~1000t/m2の支持力を有し、原子炉の常時の荷重が約60t/m2であるのに対し、十分な地耐力を有している。

(3)地   震

 過去の記録によると、福島県近辺は、会津付近を除いて全国的に見ても、地震活動性の低い地域の1つにあたっており、特に原子炉敷地付近は、地震による被害をうけたことがない。

(4)気   象

 敷地周辺の風については、1年間の観測結果によれば、年間を通じて西、西北西および北北西の風が卓越し、その出現頻度は、それぞれ12%弱である。
 また、静穏状態の年間出現頻度は、4.5%程度で、静穏出現回数の80%は、継続時間が1時間以内である。
 大気の安定状態(英国気象局法によるEおよびF型)の出現頻度は、年間約20%で、このときの風はほとんど海の方向に吹いている。
 逆転層の出現頻度は、年間約7.5%であるが、標高100m以上における逆転層の年間出現頻度は、約1%程度である。
 敷地周辺の気象極値は小名浜測候所の記録によれば、日降水量最大225.7mm、最大瞬間風速29.1m/秒、最低気温-10.7℃である。
 台風、集中豪雨等の異常気象は比較的少なく、また、顕著な被害は生じていない。

(5)海   象

 敷地沖合は、黒潮、親潮分流の影響を受け、複雑な流れを形成している。現地における調査の結果によると、付近沿岸流の流向および流速は、一定しないが、概して南から北への微流が多い。
 波高は、水深約10mにおいて最高約8mという記録(昭和40年台風28号)がある。
 現地における潮位は、観測されていないが小名浜港(敷地南方約50km)における観測記録によれば、チリ地震津波時(昭和35年)最高3.1m、最低-1.9mで、平常時における干満の差約1.5mである。

(6)水   利

 6号炉で使用する淡水は、約1,000m3/日であり、1、2、3、4、5号炉の合計使用量4,600m3/日と合わせて、発電所全体で5,600m3/日となるが、熊川水系大川原川の坂下ダムより、11,000m3/日の取水が48年4月より可能となり、敷地内の深層地下水の流動水3,000m3/日と合わせて所要量を十分まかなうことができる。また、水質も特に問題はない。
 復水器冷却用水は、すでに1,2,3,4号炉用として発電所前面海域に構築されている北側防波堤を5,6号用に拡張し、その内側に取水設備を設けて取水する。復水器を通った水は、コンクリート放水路を経て北側防波堤外の海域に放水される。

2 原子炉施設

 本原子炉施設は、以下のような種々の安全設計および安全対策が講じられ、そのほか、詳細設計、製作、検査等を通じて信頼性の高いものが建設されることになっており、かつ、「安全設計審査指針」にも適合しているので、十分な安全性を有するものと認められる。

2.1核、熱設計および動特性

(1)核、熱設計

 実効余剰増倍率は第1炉心(燃料の平均濃縮度約2.2W/O)の初期には約0.12(△k)であり、第2炉心以降は平均濃縮度約2.7W/Oの燃料を装荷する計画であるが、その場含も0.15(△k)以下に保つことにしている。
 炉心冷却水の圧力および温度は、原子炉出口において定格出力運転時に、それぞれ約72kg/cm2absおよび約286℃である。
 定格出力運転時における燃料の最高線出力密度は約0.61Kw/cmで、最高被覆管温度および最高燃料中心温度は、それぞれ約400℃および約2,500℃である。ガドリニア入りの燃料棒については、最大線出力密度は約0.51Kw/cmを越えないように設計されている。定格出力運転時の最小限界熱流束比(MCHFR)は19以上である。
 本原子炉の燃料の設計基準は、過度状態でも燃料破損が生じないこととしており、その燃料破損の限界として、最大熱流束は限界熱流束(CHF)をこえず、またジルカロイ被覆管の円周方向の平均の伸びは、1%をこえないこととしている。
 これは一部燃料中心溶融が生じても、燃料被覆管は破損しないという実験結果にもとづいたものである。

(2)動 特 性

 本原子炉は、ドップラー効果、冷却材のボイド効果等により負の反応度出力係数をもち、制御棒の操作等に起因する反応度の外乱に対して、自己制御性を有している。
 反応度帰還による原子炉系の安定性は、再循環流量による出力の制御範囲を制限する(100%再循環流量に対する出力の100~65%)ことによって、炉心寿命の初期においても十分に維持される。また、キセノンに起因する中性子の空間振動については、炉心寿命末期においても出力係数が-0.03(△k/k/△p/p)であるため、強い減衰効果があり、制御上の問題はない。
2.2 計測および制御系統施設

(1)核計測系

 核計測については、検知器が炉心の全域に配置され、中性子源領域から出力領域までの中性子束を連続的に監視し、炉心内の局部的な中性子束上昇が検知できるように設計される。中性子モニタとしては、中性子源領域は可動型計数方式、中間領域は可動型キャンベル方式、出力領域は固定型底流方式が用いられる。

(2)安全保護系

 安全保護系は2系統から成り、両系統による異常検出の結果保護動作が行なわれる。さらに、各系統とも2つ以上の小系統に分れており、いかなる単一故障によっても、その安全保護機能が妨げられないように配慮がなされている。
 安全保護系の作動要素として原子炉圧力、原子炉水位、中性子束等の重要な検出要素が選ばれており、また、系統全体としては電源喪失、空気圧喪失、回路の断線等に対してフェイルセイフとなるように設計される。なお、安全保護系の重複性を実証するための試験は、原子炉の運転中にも行なえる設計となっている。

(3)反応度制御系

 制御棒の反応度抑制効果は、合計で実効増倍率の変化にして約0.17(△k)である。また、最大反応度抑制効果を有する制御棒1本が引抜かれ、その他のすべての制御棒が挿入された状態で、実効増倍率は0.99をこえることはないようにされ、制御棒はどの1本が引抜かれた状態でも、原子炉を停止させる能力をもっている。
 制御棒は水圧式駆動機構により、下方から操作される。スクラム動作は制御棒ごとに設けられたアキュムレータの水圧によって行なわれるが、その圧力が低下した場合には炉内圧力によって行なわれる。スクラム動作に必要な弁は空気系によって操作され、空気圧の低下に対してフェイルセイフな設計となっている。この方式については、使用経験によって信頼性が確かめられている。
 このほか、後備停止装置として手動のほう酸水注入系があり、単独でも炉を停止させる能力をもっている。
 以上のような配慮がなされているので、いかなる場合でも原子炉の停止は確実に行なわれる。
 また、制御棒には誤って炉心内から脱落した場合の落下速度を制限するために、速度リミッタが設けられる。
 圧力容器の下側には、制御棒駆動機構ハウジングが破損しても、制御棒が進出しないようにハウジング支持機構が設けられる。

(4)出力制御系

 原子炉の出力制御は、手動による制御棒位置および自動または手動による原子炉再循環流量の調整によって行なわれる。
 原子炉圧力は、圧力調整装置(2台あり、内1台は予備)によりタービン制御弁を調節し、予め定められた値に保たれる。さらに、圧力が上昇すると同じ圧力調整系により、約25%容量のタービンバイパス弁が開かれるようになっている。冷却材流・量は再循環系統の流量制御弁を操作することにより調整される。流量調整による出力制御範囲は、原子炉系の安全性を考慮して定められる。

(5)制御棒操作

 制御棒の操作は、運転員が所定の手順に従って行ない、操作手順は、安全上制御棒1本あたりの効果が過大とならないよう、また、局所的な燃料損傷を起さないように定められる。運転員の誤操作に対しては、後備保護装置として制御棒価値ミニマイザおよび制御棒引抜監視装置が設けられており、誤操作は自動的に阻止される。制御棒価値ミニマイザは、制御棒1本の実効増倍率を0.025(△k)に押えるようになっている。また、制御棒引抜監視装置の働きによって局所的に高出力となって、燃料損傷を来たすような制御棒の連続引抜きもない。

(6)中央制御室

 中央制御室には、原子炉施設の通常運転および事故対策操作に必要なすべての計測制御装置が設備されており、事故時においても運転員が安全に所要の措置をとりうるよう、遮蔽、換気等の放射線防護上の配慮がなされている。
 
2.3 燃 料

 燃料は二酸化ウランペレットおよびガドリニア入りペレットを長さ約4mのジルカロイ-2製の被覆管(肉厚約0.9m)に入れたものである。
 燃料被覆管は、ペレットによる内部からの支持がなくても外圧によって、つぶれることのない自立型の設計であり、燃料棒上部に設けられたプレナム体積も燃料集合体最高燃焼度約35,000MWD/Tに応じて、核分裂生成ガス等の蓄積により、過大な内圧上昇をもたらさないよう十分大きくとってある。
 燃料集合体は、7×7の燃料棒の正方形配列で構成され、上下燃料俸支持板を結びつける8本の燃料俸と1本のスペーサー支持燃料俸によって、保持されており、燃料棒はすべて軸方向の自由膨脹ができる構造になっている。
   
2.4 燃料取扱施設

 燃料取替は炉心上に水を張り、移動床に取り付けられた燃料つかみ器で行なわれる。このつかみ器は、駆動源喪失時においても燃料を落さないような構造に設計される。
 また、燃料取替時に破損燃料を検知する装置により燃料の検査をな行い、破損の大きな燃料は、容器に収容することになっている。さらに、燃料取替中は、臨界防止のためインタロックによって制御棒は引抜けないようになっており、また、制御棒は、周囲の4個の燃料集合体を取り出さなければ、取り出すことができないような構造になっている。
 燃料プールは、原子炉建家内に設けられ、炉心装荷量および1回分取り出し量以上の燃料ならびに使用剤制御棒等を貯蔵する能力を有するよう設計され、かつ、冷却、浄化、臨界防止等について十分配慮されている。

2.5 原子炉容器および原子炉冷却施設

(1)原子炉容器、配管等

 原子炉容器の円筒部内径は、約6.4m、容器の全長は約23mで胴円筒部には、主蒸気出口、給水入口、再循環水出入口などのノズルが、下鏡板部には制御棒用、炉内核計測管用ノズルが多数設けられる。主蒸気管および再循環管の外径は、それぞれ約660mmおよび610mmである。
 原子炉容器は、炉心、気水分離器、蒸気乾燥器、ジェットポンプ等を内蔵している。
 原子炉容器の下端は、円筒状スカートで支持され、容器の頂部は横方向の支持のため構造物に取りつけられた横振動防止機構で支持し、軸方向および半径方向への容器の膨脹が来るようになっている。
 また、材料の疲労および応力集中などについて解析を行ない、これらに十分耐えることを確認することになっている。
 さらに、圧力容器は圧力を受けている間は、容器の温度を、NDT+33degC以上に保つようにし、必要があるときは加熱できるようになっている。なお、中性子照射による材料の機械的性質の変化を監視するため、圧力容器内に照射試料を挿入することになっている。原子炉容器、配管等の耐圧部分およびこれらの支持構造物は、定期的な供用期間中検査を実施し、その健全性が確認されることになっている。

(2)逃がし安全弁、タービン・バイパス系等

 格納容器の主蒸気管には、18個の逃がし安全弁が設けられ、バネ式の安全弁の機能を有しており、このうち12個は、空気式の逃がし弁の機能を兼ねている。この逃がし安全弁により主蒸気止め弁閉鎖事故時に原子炉系に生ずる異常な圧力上昇を抑えるようになっている。また、主蒸気管には、定格蒸気流量の25%をバイパスして、主復水管に導くタービン・バイパス系が設けられ、原子炉起動時、停止時の主蒸気圧力の調整を行なうことができるようになっている。
  発電機全負荷しゃ断時には、タービン蒸気加減弁の急速閉の信号により、18個の逃がし安全弁により80%の容量の蒸気をサプレッションプールに逃がし、タービン・バイパス系との併用により、原子炉の不必要なスクラムを避けるようになっている。
 そのほか、原子炉停止後の炉心崩壊熱を除去する原子炉残留熱除去系が設けられる。

(3)原子炉隔離時冷却系

 原子炉隔離時冷却系は原子炉への給水が停止し、かつ、原子炉が主復水器から隔離された場合に、蒸気の一部を利用してタービン騒動ポンプにより復水貯蔵タンク水または残留熱除去系熱交換器で冷却された一次冷却材を炉内に補給する系統で、これにより炉心水位を維持する。また、この系統はサプレッションプールの水も炉内に補給することができる。
 この系は外部電源を必要としない。

2.6 放射性廃棄物処理施設

(1)気体廃棄物処理系

 気体廃棄物処理系は再結合器、減衰管、活性炭式希ガスホールドアップ装置、排気筒等からなる。再結合器は触媒を使用し、排ガス中の水素を減少させる。
 減衰管は通常運転時の排ガス流量40Nm3/時に対して保留時間30分の容量を有する。
 活性炭式希ガスホールドアップ装置は活性炭による希ガスの可逆的吸着現象を利用するもので排ガス流量40Nm3/時に対してキセノンを27日以上、クリプトンを40時間以上保留させることができる。通常運転時にはこの装置の前後に設けられる放射能検出器により、その性能が維持されていることが確認される。
 なお、排気筒は5号炉と共通であり、標高約13mの地表に、高さ約120mのものが設置され、敷地周辺からみた地上高は約100mである。

(2)液体廃棄物処理系

 液体廃棄物処理系は床ドレン・化学廃液処理系、洗浄廃液処理系および機器ドレン処理系からなる。処理装置としてはろ過装置4基、脱塩装置2基蒸発濃縮装置2基がある。
 各系の液体廃棄物は、タンク類に収集されその放射能濃度を確認し、処理される。
 タンクの貯留容量および処理装置の処理容量は発生廃液量に対して十分対処することができるようになっている。

(3)固体廃棄物処理系

 固体廃棄物処理系の処理装置としては脱水器2基、プレス1基、固化装置1基を有する。原子炉施設で発生する雑固体廃棄物はプレスによって圧縮減容されドラム缶に詰められる。
 使用済樹脂貯蔵タンクは発生量の約10年分を貯蔵する容量を有し、固体廃棄物置場は当面、固体廃棄物を詰めたドラム缶の約1年分を貯蔵する容量のものが設けられるが今後、必要があるときには、敷地内に増設することが可能である。

2.7 工学的安全施設

 冷却材喪失事故あるいは主蒸気管破断事故を想定した場合に、燃料被覆管の大破損や放射性物質の放散を防止しもしくは抑制するために、次の工学的安全施設が設けられる。

(1)非常用炉心冷却系

 非常用炉心冷却系は非常用電源までを含めて動的機器の単一故障があっても、十分な機能を発揮できるように多重性を有するように設計されている。

① 高圧炉心スプレイ系
 高圧炉心スプレイ系は、再循環回路の安全破断にいたるまでのすべての破断面積に対し、単独で燃料被覆管の大破損を防止する。すなわち復水貯蔵タンク水あるいはサプレッションプール水を、炉心上のノズルから燃料集合体上にスプレイすることにより、中小破断に対しては水位の確保と減圧、大破断に対してはスプレイ冷却によってその機能を果す。この系は、1系統からなり非常用電源にも接続される。

② 低圧炉心スプレイ系
 低圧炉心スプレイ系は、冷却材喪失時にサプレッションプール水を炉心上にとりつけたノズルから燃料集合体にスプレイする系統で、大破断に対しては単独で、中小破断に対しては高圧炉心スプレイ系または自動減圧弁と連携し、燃料の過熱溶融を防止できるようになっている。
 この系統は、1系統で非常用電源にも接続される。

③ 低圧注水系
 低圧注水系は、低圧炉心スプレイ系と同様、大破断に対しては単独で、中小破断に対しては高圧炉心スプレイ系または自動減圧系と連携して燃料被覆管の大破損を防止する。この系は、サプレッションプール水を、直接炉心シュラウド内部に注入し、炉心を冠水することにより、炉心冷却を行なう。この系は、1系統(3ループ)からなり非常用電源にも接続される。

④ 自動減圧系
 自動減圧系は、逃がし安全弁7個からなり、このうち6個の逃がし安全弁が作動すれば、中小破断の冷却材衰失事故時に原子炉蒸気をサプレッションプールへ逃がし、原子炉圧力を低下させて低圧炉心スプレイ系あるいは低圧注水系による注水を早期に可能とし、燃料被覆管の大破損を防止する。

(2)原子炉格納容器

 圧力容器、再循環回路等を完全に取り囲む格納容器が設けられる。
 格納容器は、ドライウェルおよびそれにつながるサプレッションチェンバからなる圧力抑制型であり、再循環回路破断等の事故によって炉心に蓄積された放射性物質が原子炉建家へ漏洩するのを抑制するようになっている。
 運転中は、格納容器には窒素ガスが充填され事故に伴うジルコニウム-水反応によって発生する水素の燃焼を防止するようになっている。
 また、格納容器は運転中容器の温度をNDT+17degC以上に保つことになっている。

(3)原子炉格納容器圧力低減系

 サプレッションチェンバ内のプール水をドライウェル内にスプレイできる格納容器冷却系が設けられ、格納容器の圧力抑制効果を高めるようになっている。
 なお、この系は独立な2系統からなり、非常用電源にも接続される。

(4)隔離弁等

 格納容器を貫通する主蒸気管などの主要な配管にはドライウェルの内外に2個の隔離弁が設けられ、事故時に周辺環境に放出される放射性物質を抑制するようになっている。
 なお、主蒸気隔離弁は十分短かい時間(3~4.5秒)で閉鎖できるよう設計されるが、さらに主蒸気管には、破断事故時に冷却材の放出量を制限する流量制限器が設けられる。

(5)非常用空気浄化系

 原子炉建家内は、常時負圧に保たれており、事故時に格納容器から漏洩してくる放射性物質は、非常用ガス処理系によりろ過して排気筒から放出され、直接周辺環境に放散されるのを防止するようになっている。
 非常用ガス処理系は、ファン、湿分除去装置、粒子用高効率フィルタおよびチャコールフィルタにより構成され、定期的にその性能を確認できるように設計されている。
 なお、この系は、独立な2系統からなり非常用電源にも接続される。

2.8 安全防護施設の機能確保

(1)非常用電源等

 本発電所に必要な非常用電力は500KV送電線1回線、66KV送電線2回線より供給される。
 上記電源が喪失した場合でも、ディーゼル発電機(3台、うち1台は5号炉と共通)および所内の蓄電池から供給できるようになっている。
(2)保守点検

 計測および制御系、ほう酸水注入系、高圧炉心スプレイ系、低圧炉心スプレイ系、低圧注水系、格納容器スプレイ系、非常用ガス処理系および各種の弁類は、原子炉施設の耐用期間を通じて運転中あるいは停止中に点検または試験し、その機能を確認できるように設計される。

2.9 耐震設計

 原子炉施設の機器、配管系は、原則として剛構造とし重要施設が据付けられる原子炉建屋は、人工岩盤を造成して直接岩盤に支持される。
 すべての建屋、構築物、機器、配管系は安全上の重要度に従って、A、BおよびCの3種のクラスに分類され、それらに応じて耐震設計が行なわれる。
 原子炉、原子炉建屋等のように、その機能喪失が原子炉事故をひきおこすおそれのある施設および周辺公衆の災害を防止するために緊要な施設はAクラスとする。
 Aクラスの建屋、構築物の耐震設計は、地点における過去の地震から推定された最大規模の地震の基盤における最大加速度0.14gを考慮し0.18gを設計地震として動的解析を行ない、これから求められる水平地震力ならびに建築基準法に示された水平震度(この場合、地域による低減は行なわない。)の3倍から定める水平地震力を下回らない値によって行なわれる。垂直震度は、建屋、構築物の高さ方向に一定とし、それらの基礎底面における水平震度の1/2から定まる値を下回らない値とする。
 この場合、水平および垂直方向の地震力は、同時に不利な方向に作用するものとする。 Aクラスの機器、配管類については、運転時の応力と地震力による応力を加え合わせた場合について、応力集中等を考慮した弾性解析により耐震設計が行なわれる。この場合の水平地震力は、前記の地震波に対する動的解析によって求められる値とし、かつ、据付位置における支持構築物の水平震度の1.2倍から定まる地震力を下回らない値とする。垂直震度は、建屋、構築物に対する値をとり、水平および垂直方向の地震力は同時に不利な方向に作用するものとする。また、これらの振動によって生ずる変位、変形は機能保持に支障ないものとする。
 Aクラスのうち、原子炉格納容器、制御棒駆動機構等のように安全対策上特に緊要な施設は、基盤における最大加速度が少なくとも0.27gの地震波に対して、全体として機能が保持されることが確認される。
 また、タービン系、廃棄物処理系等のように高放射性物質に関する施設はBクラスとし、これらの建屋、構築物の設計水平地震力は建築基準法に定める震度から求められる値の1.5倍とし、垂直地震力は考慮しない。
 Bクラスの機器・配管系の設計水平地震力は据付位置における支持構築物の設計水平震度の1.2倍から定まる値を下回らないものとし、共振の恐れのあるものについては動的に検討する。
 また、その他の施設はCクラスとし、これらの建屋・構築物の設計水平地震力は建築基準法に定める震度から求められる値とする。Cクラスの機器、配管系の耐震設計は必要なものについてのみ行ない、設計水平地震力は、建築基準法の震度から定まる値の1.2倍を下まわらないものとする。
 また、強い地震の際に原子炉を非常停止させるため、地震加速度検出器を設け、自動的に原子炉を停止せさるようになっている。

3 放射線管理および平常運転時の被ばく評価

 平常運転時における放射線管理および被ばく評価は、次のとおりであり、発電所従業員および敷地周辺の公衆に対する放射線障害の防止上支障がないものと認められる。

3.1放射線管理の基本方針

(1)放射線管理は、いかなる場合においても原子炉等規制法にもとづいて発電所従業員および敷地周辺の公衆に対し、放射線障害をもたらさないこととし、さらに不用な放射線被ばくを避ける観点から、実用可能な限り放射線被ばくを低くする方針をとっている。

(2)本原子炉は、5号炉と隣接して設置されるので、施設に関連する放射線管理は大部分が5号炉と共通で行なわれる。また、周辺監視区域、周辺監視区域の放射線管理設備、発電所外の放射線監視設備および環境試料の定期サンプリングは、福島原子力発電所全体で共通して行なわれる。

3.2 放射性廃棄物管理

(1)気体廃棄物

① 通常運転時に発生する放射性気体廃棄物は、原子炉冷却水中の水素、酸素および冷却水中に溶けている空気が放射化されて生じる非凝縮性排ガスおよび破損燃料から原子炉冷却水に漏洩してくる核分裂生成物である。これらはタービンを通過後、復水器空気抽出器から排出されるほか、1、2号炉では、タービン衛帯蒸気として排出され、気体廃棄物処理装置を通ったあと排気筒から排気される。気体廃棄物のうち、酸素および非凝縮性排ガスは、半減期が極めて短かく排気筒から放出されるまでに無視されるほど減衰するので、排気筒から放出される気体廃棄物は、主として燃料が破損した場合に生ずるクリプトンキセノン等の希ガスである。

② 希ガスの発生率は、燃料破損の程度により異なるが、最悪の場合でも30分減衰後の希ガスホールドアップ装置入口で、1号炉約650mCi/秒、2~6号炉1000mCi/秒と推定されている。6号炉運開時点では、排気筒からの放射能放出率は、1、2号炉の低圧タービン衛帯蒸気にクリーンスチームが使用されており、1号炉年平均1.5mCi/秒、2号炉年平均2.3mCi/秒であり、また3~6号炉については年平均1.7mCi/秒である。
排気筒からの放射能放出は、これらの値以下になることを目標に管理されることになっている。

③ 通常、タービン主復水器は真空状態で運転されており、原子炉およびタービンが停止した場合真空が破壊される。停止後、比較的短時間で原子炉およびタービンを超動するときは、これらの系統を真空にする必要があるが、短時間停止後起動する場合は内部に内蔵する放射性物質が真空ポンプの運転により出てくる。
 起動時における真空ポンプの運転中に排気筒より放出される放射能は年間1号炉1,750Ci-MeV、2~6号炉各々2,500Ci-MeYをこえないことを目標として管理することになっている。
液体廃棄物
 液体廃棄物は、機器ドレン、建屋の床ドレン、復水脱塩系および廃棄物処理系樹脂の再生廃液建屋の機器の除染廃液および被服等の洗たく廃液である。
 洗たく廃液以外の廃液は、廃棄物処理設備において処理され、処理済液は廃棄せずに原則として再使用される。
 液体廃棄物処理設備によって処理された一部の低放射能の廃液と洗たく廃液は、サンプルタンクに貯蔵し、放出に当っては、サンプリングして放射能濃度を測定し、復水器冷却水路中における放射性物質濃度が原子炉等規制法で定める許容濃度以下であり、かつ、魚、貝、海藻類の放射性物質の濃縮および蓄積の効果を考慮した濃度以下であることを確認の上放出することになっている。

3.2 放射性廃棄物管理


(1)気体廃棄物

① 通常運転時に発生する放射性気体廃棄物は、原子炉冷却水中の水素、酸素および冷却水中に溶けている空気が放射化されて生じる非凝縮性排ガスおよび破損燃料から原子炉冷却水に漏洩してくる核分裂生成物である。これらはタービンを通過後、復水器空気抽出器から排出されるほか、1、2号炉では、タービン衛帯蒸気として排出され、気体廃棄物処理装置を通ったあと排気筒から排気される。気体廃棄物のうち、酸素および非凝縮性排ガスは、半減期が極めて短かく排気筒から放出されるまでに無視されるほど減衰するので、排気筒から放出される気体廃棄物は、主として燃料が破損した場合に生ずるクリプトンキセノン等の希ガスである。

② 希ガスの発生率は、燃料破損の程度により異なるが、最悪の場合でも30分減衰後の希ガスホールドアップ装置入口で、1号炉約650mCi/秒、2~6号炉1000mCi/秒と推定されている。6号炉運開時点では、排気筒からの放射能放出率は、1、2号炉の低圧タービン衛帯蒸気にクリーンスチームが使用されており、1号炉年平均1.5mCi/秒、2号炉年平均2.3mCi/秒であり、また3~6号炉については年平均1.7mCi/秒である。
排気筒からの放射能放出は、これらの値以下になることを目標に管理されることになっている。

③ 通常、タービン主復水器は真空状態で運転されており、原子炉およびタービンが停止した場合真空が破壊される。停止後、比較的短時間で原子炉およびタービンを超動するときは、これらの系統を真空にする必要があるが、短時間停止後起動する場合は内部に内蔵する放射性物質が真空ポンプの運転により出てくる。
 起動時における真空ポンプの運転中に排気筒より放出される放射能は年間1号炉1,750Ci-MeV、2~6号炉各々2,500Ci-MeYをこえないことを目標として管理することになっている。
液体廃棄物
 液体廃棄物は、機器ドレン、建屋の床ドレン、復水脱塩系および廃棄物処理系樹脂の再生廃液建屋の機器の除染廃液および被服等の洗たく廃液である。
 洗たく廃液以外の廃液は、廃棄物処理設備において処理され、処理済液は廃棄せずに原則として再使用される。
 液体廃棄物処理設備によって処理された一部の低放射能の廃液と洗たく廃液は、サンプルタンクに貯蔵し、放出に当っては、サンプリングして放射能濃度を測定し、復水器冷却水路中における放射性物質濃度が原子炉等規制法で定める許容濃度以下であり、かつ、魚、貝、海藻類の放射性物質の濃縮および蓄積の効果を考慮した濃度以下であることを確認の上放出することになっている。

(2)固体廃棄物

 ドラム缶詰めされた固体廃棄物は固体廃棄物貯蔵所に貯蔵保管され、使用済樹脂は、当面使用済樹脂貯蔵タンクに貯蔵される。
 なお、これらを最終的に処分する場合は、関係官庁の承認をうけることとしている。

3.3 敷地内の放射線管理

(1)管理区域内の管理

 原子炉施設、原子炉付属施設、タービン施設等のうち、空間放射線線量率、放射性物質の水中あるいは空中、濃度または表面汚染密度が原子炉等規制法によって定められた値をこえ、またはこえるおそれのある区域をすべて管理区域とするが、管理上の便宜を考慮して原子炉施設、タービン施設、原子炉付属施設等の大部分を管理区域として設定する計画である。
 管理区域はエリアモニタ、ダストモニタ等の設備によって、原子炉の運転に伴う空間線量率、空気中放射性物質の濃度を連続監視する他、移動モニタによる定期監視、サンプリング測定等を行なうことにより常にその放射線レベル等を把握し、安全の確認を行なうことになっている。
 管理区域に立ち入る従業員の放射線被ばく管理については、法令に定める許容値を越えないよう常に監視するため、フィルムバッジ等の個人モニタ器具により被ばく線量を測定評価するほか、管理区域の出入、作業方法、作業時同等の管理、放射線測定器具の携帯、防護具着用などの放射線防護対策を講ずることになっている。

(2)放射線遮蔽等

 放射線遮蔽は従業員の作業時間に応じ、その被ばく線量が、現行法令に規定された許容量を十分下回るように設計される。
 換気系は、主要な場所ごとに別系統となっており、事故時における放射能汚染の拡大防止等について十分配慮されている。

(3)周辺監視区域内の管理

 原子炉等規制法にもとづき、周辺監視区域が設定されるが、管理の便を考慮し、発電所敷地境界付近に設置される建設用宿舎等を除く敷地の全域を周辺監視区域とする計画となっている。
 周辺監視区域においては、8ヶ所のモニタリングポストを設け、空間線量率および積算放射線量の測定監視を行なうほか、さく等によりみだりに人が立ち入らないよう管理することになっている。

3.4 発電所外の放射線監視

 気体廃棄物の排気については、排気筒に設けた排気筒モニタにより、また液体廃棄物の排水については、放出の都度放射能を測定するとともに放出口付近に設けた排水モニタにより放出放射能を管理し、周辺環境に与える影響を極力避けることにしている。
 敷地外の放射線監視としては、常時サンプン可能なダストサンプラーを設備したモニタリング・ステーションを設け、空間放射線線量率の測定記録が行なわれる。
 このほか、発電所を中心とする数Kmの範囲内において、空間線量率を定期的に測定し、また井戸水、海水、農作物、海産物などをサンプリングし、定期的に放射能の監視をすることになっている。

3.5 平常運転時の被ばく評価

(1)気体廃棄物
 気体廃棄物による被ばく評価は次の条件を用いて行なった。

①a 平常運転時希ガスホールドアップ装置を経由して、連続して放出する場合の放射能放出率を1号炉、1.5mCi/秒、2号炉、2.3mCi/秒、3~6号炉各々1.7mCi/秒とする。
 
b 風速は年間有効拡散風速を用いる。

② プラント起動時の真空ポンプの運転に伴って放出される放射能の寄与については、

 a 運転1回(約2時間)あたりの放出放射能については、1号炉350Ci-MeV、2~6号炉各々500Ci-MeVが放出されるとする。

 b このような事象の年間想定回数は1基当り5回とする。

 c 着目地点への影響回数は、風向出願頻度年間放出回数二項確率分布で評価する。

 d 風速は、着目方位の逆数平均風速を用いる。評価の結果、周辺監視区域外における被ばく線量が最大となるのは南側の周辺監視区域境界上でありγ線約4.2ミリレム/年、β線約1.3ミリレム/年である。

(2)液体廃棄物
 液体廃棄物による被ばく評価は次の条件によって行なった。

① 放出放射能の量については、1号炉の実績に基づき、さらに規模の相違を考慮し1基当り1Ci/年(トリチウムを除く)とした。

② 放出核種についても1号炉の分析結果を用いた。

③ 放射性廃液は復水器冷却水によってのみ希釈されるものとし、放出後の海水による混合希釈は考えない。

④ 魚類、海藻などによる濃縮係数については、現在報告されているもののうち厳しい値を用いた。

⑤ 住民の魚類、海藻の摂取量はそれぞれ100g/日、10g/日とし、この量を連続的に摂取するものとした。
 評価の結果は、全身被ばくで約0.05ミリレム/年となる。
 なお、トリチウムの放出は1基当り100Ci/年以下であって、これによる全身被ばくは、上記の値に比べて極めて低く無視できる程度である。

4 各種事故の検討

 本原子炉において発生する可能性のある事故として運転時における単一機器の故障、あるいは、運転員の単一誤操作により引き起される過渡変化と機器の破損等によって引き起される事故とに分けて検討した結果これらの事故について、それぞれ次のような対策が講じられており、安全性は確保しうるものであると認める。
 
4.1機器の故障等

(1)再循環系の故障

 a 再循環ポンプの故障
 原子炉運転中、再循環ポンプ2台が同時に停止した場合は,炉心流量は減少するが,ポンプの慣性のため,減少は緩やかであり,流量低下に伴う出力低下があるため燃料被覆管の破損には至らない。
 なお、運転中に1台の再循環ポンプの軸が何らかの原因で固着して瞬時に停止する場合を考えても、炉心流量は急速に低下するが、直ちに出力が低下するので、燃料被覆管の破損には至らない。

 b 再循環流量制御系の誤動作
 再循環流量制御系の誤動作により再循環流量が過渡的に増大し、出力が急増しても再循環流量の最大変化率は、制御系機器の設計により制限されており、また、中性子束高によってスクラムするので燃料被覆管の破損には至らない。

 c 再循環冷水ループの誤起動
 原子炉を再循環系1系統で部分負荷運転中停止している外部再循環回路の冷水が誤って炉心に流入しても、中性子束の上昇はわずかであり、スクラムすることはなく、燃料被覆管の破損には至らない。

(2)給水系の故障

 a 給水制御器の故障
 給水制御器の故障により給水がその最大変化率で増加しても、水位上昇によるタービントリップにより原子炉はスクラムされるので燃料被覆の破損には至らない。

 b 給水加熱の喪失
 抽気弁のトリップにより給水温度が下り、このため正の反応度が入っても、再循環流量制御系により炉心流量が減少し負の反応度を加え、出力上昇を抑えるのでスクラムには至らない。また、燃料被覆管の破損も生じない。

 c 全給水流量の喪失
 定格運転時に全給水流量が喪失すると水位は急速に低化するが、原子炉水位低により原子炉はスクラムされるので、燃料被覆管の破損には至らない。
(3)主蒸気系の故障

 a 発電機トリップ(タービン加減弁急速閉鎖)
 高出力運転中に発電機トリップが生じるとタービン加減弁急速閉鎖によりタービンバイパス弁および逃がし安全弁が作動し、蒸気はそれぞれ復水器、サプレッションプールに放出される。
 さらに一部の制御棒が急速に挿入されるとともに再循環水量も急速に減じられるので原子炉出力は定格の20%前後になる。初期の出力上昇および圧力上昇はわずかであり、スクラムには至らず、燃料被覆管の破損も起らない。

 b タービントリップ(タービン主蒸気止め弁急速閉鎖)
 高出力運転時にタービントリップが生じると復水器の真空度が維持されている場合にはタービン・バイパス弁が作動するが、真空度が維持されていない場合には、タービン・バイパス弁ま作動しない。しかし、いずれの場合にも原子炉はタービン主蒸気止め弁閉鎖信号によりスクラムされるので、燃料被覆管の破損には至らず、また、原子炉圧力バウンダリの健全性はそこなわれない。また、30%以下の低出力運転時にタービントリップが生じても、主蒸気止め弁位置による直接スクラムはバイパスされるが、中性子束高スクラムにより、燃料被覆管の破損には至らない。

 c 主蒸気隔離弁の閉鎖
 全主蒸気隔離弁が最高閉鎖速度3秒で閉鎖しても、隔雑弁閉鎖信号により原子炉はスクラムし、逃がし安全弁が作動するので燃料被覆管の破損には至らず、また、原子炉圧力バウンダリの健全性はそこなわれない。

 d 圧力制御装置の故障
 圧力制御装置が故障すると、タービン加減弁およびバイパス弁が開くか閉じることになるが過度変化はタービントリップ・バイパス弁不動作の場合よりもゆるやかであるので燃料被覆管の破損には至らず、また原子炉圧力バウンダリの健全性はそこなわれない。

 e 逃がし安全弁の開放
 逃がし安全弁1個が故障し開放しても、圧力制御装置が原子炉圧力を維持するよう加減弁を絞るので、圧力低下はわずかにとどまる。

(4)制御棒駆動系の故障

 a 未臨界状態からの制御棒引抜き
 原子炉の起動時に未臨界の状態から制御棒価値ミニマイザで許容される最大反応度価値を有する制御棒を連続的に引抜いても、核的逸走はドップラー効果で抑えられ、かつ、中性子束高スクラムで原子炉は停止し、燃料被覆管の破損は生じない。

 b 出力運転中の制御棒引抜き
 定格出力運転中に誤って制御棒1本を連続的に引抜く場合には、制御棒引抜き監視装置により引抜きが阻止される。この事故の際にも最小限界熱流速比は1.1を下廻らず、燃料被覆管の破損は起らない。

(5)補助電源の喪失
 常用所内電源がすべて喪失した場合には、安全系も停電するので原子炉はスクラムされ、スクラム後の原子炉は、原子炉隔離時冷却系によって冷却される。安全上重要な機器の電源としてはディーゼル発電機および所内蓄電池系があるので、常用所内電源および外部電源がすべて喪失したとしても発電所の安全性が損われることはない。

4.2 機器の破損等による事故

(1)制御棒落下事故

 駆動軸から分離して炉心内にとどまっていた制御棒が臨界状態の炉心から脱落しても、制御棒の反応度効果は実効増倍率の変化にして0.025(△k)以下に抑えられており、落下速度は速度リミッタで制限される。この場合核的逸走はドップラ効果で抑えられ、かつ、中性子束高スクラムにより原子炉は停止する。この事故による発生エネルギーによって燃料被覆管の一部は破損することも予想されるが、核分裂生成物は1次冷却系内に保留される。

(2)制御棒逸出事故

 定格出力運転中に制御棒駆動機構のフランジあるいはハウジングが完全に破損してドライウェル内に蒸気の流出があれば、ドライウェルの温度および圧力上昇によりスクラムし、原子炉は停止する。しかも、制御棒駆動機構ハウジングの下側に支持構造物を設け、制御棒の移動距離を少なくすることにより原子炉に大きな反応度を加えることにはならない。

(3)燃料取扱事故

 燃料取替は水中で行なわれるが、取扱系の故障によって使用済燃料の集合体1個が落下し、そのすべての燃料棒が破損するような場合にも核分裂生成物のうち、原子炉建家外に放散されるものは、その量がごく僅かで、しかも、排気筒に導かれる前に非常用ガス処理系で処理される。

(4)タービン破損事故

 何らかの原因により、タービン・ケーシング等が破損しても、主蒸気止め弁が閉鎖し、タービン内の一次系蒸気とともに大気中に放散される核分裂生成物の量はわずかである。また、主蒸気止め弁が閉鎖しない場合には、主蒸気管破断事故として取り扱われている。

(5)冷却材喪失事故

 何らかの原因により、冷却材の漏出ないしは喪失があって、炉心の冷却が十分でない場合にも次のような対策が講じられている。
 すなわち、中小破断に対しては、ドライウェルの温度および圧力の上昇によって検出し、原子炉隔離時冷却系および高圧炉心スプレイ系の作動によって原子炉への注水が行なわれる。なお、高圧炉心スプレイ系のバックアップとして自動減圧系が作動し炉心圧力を低下させ、低圧炉心スプレイ系および低圧注水系を作動させることになっている。
 大破断に対しては、原子炉水位の低下および原子炉圧力の減少により炉心スプレイ系または低圧注水系によって注水が行なわれる。いずれの場合でもドライウェル圧力高または原子炉水位低の信号でスクラムされ原子炉は停止する。
 最も苛酷な例として、再循環回路が完全に破断する場合を仮定しても炉心スプレイ系および低圧注水系の作動によって燃料被覆管の破損は一部に抑えられ、燃料の溶融には至らない。この事故によって放出された核分裂生成物は圧力抑制型の格納容器に保留され、さらに原子炉建屋内に漏洩したものは排気筒に導かれる前に非常用ガス処理系で処理される。

(6)主蒸気管破断事故

 主蒸気管がドライウェル外の個所で破断しても冷却材の放出流量は流量制限器で制限され、かつ流量制限器における流量増加信号等によって主蒸気隔離弁が急速に閉鎖し、冷却材の放出は短時間で止まる。また主蒸気隔離弁嗣スクラムで原子炉も停止する。
 なお、冷却材中の放射能濃度は低く抑えられているので、冷却材とともに大気中へ放散される核分裂生成物の量はわずかである。

5 災害評価

 6号炉はすでに述べているように、種々の安全対策が講じられており、かつ、各種事故に対しても検討の結果、安全を確保しうるものと認めるが、さらに「原子炉立地審査指針」に基づいて重大事故および仮想事故を想定して行なった災害評価は次のとおりで、解析に用いた仮定は妥当であり、その結果は立地指針に十分適合しているものと認める。

5.1重大事故

 重大事故として、冷却材喪失事故および主蒸気管破断事故の二つの場合を想定する。

(1)冷却材喪失事故
 原子炉容器に接続している最大口径の配管である再循環回路配管(外径約610mm)1本が瞬時に完全破断し破断口両端から冷却材が放出される事故を仮定する。解析の条件として、もっともきびしい機器の単一動的故障を考え、低圧炉心スプレイ系につながるディーゼル発電機1台が作動しないものとする。
 解析の結果では、高圧炉心スプレイ系および低圧注水系2系列が作動してその冷却効果により二酸化ウランの溶融温度に達することはなく、燃料被覆管がジルカロイの溶融温度に達することはないが、燃料本数の約7%は被覆管が破損する。また、燃料被覆管の最高温度は約1,018℃であり、炉心内のジルコニウム-水反応は0.12%である。燃料被覆材は事故期間中その建全性が大きく損なわれることはなく、非常用炉心冷却系の機能は維持される。
 また、事故後のドライウェル圧力は設計圧力に比べ十分低く抑えられ、約33日後には大気圧にもどる。
 なお、被ばく線量の計算には核分裂生成物の放散過程に従い、次の仮定を用いる。

① 全部の燃料棒の被覆管に破損があったとし定格の105%出力で1年間運転後の炉心に内蔵されている核分裂生成物中のよう素の1%、希ガスの2%がドライウェル内へ放出される。
 この場合、よう素については、壁面等に吸着される割合を50%、液相-気相間の分配系数を100とするが、よう素のうち、10%は有機状のものとしてこれらによる低減を期待しない。

② ドライウェルから33日間にわたって0・5%/日の漏洩がある。

③ ドライウェルから漏洩した核分裂生成物は、原子炉建家に入り、そこから換気率100%/日で、非常用ガス処理系を通り、排気筒から放出される。

④ 非常用ガス処理系では、チャーコールフィルタでろ過する。よう素全体に対するろ過効率は90%とする。

⑤ 大気中への拡散に用いる気象条件は、排気筒の高さ、現地の気象データ等をもとに「原子炉安全解析のための気象手引」(以下、気象手引という)を参考にして最初2日間は高さ100m以下均一分布、拡散幅30°、有効拡散風速4m/秒とし、残りの31日間は英国気象局方式を用い、大気安定度B型、拡散幅30°、有効拡散風速4m/秒とする。
 以上の解析の結果、大気中に放出される放射性物質は全よう素が約502Ci(131I換算、以下同様)、希ガスが約1.36×104Ci(γ線エネルギー0.5MeV相当、以下同様)である。
 敷地外において被ばく線量が最大となるのは敷地境界(原子炉から約650m)であって、その地点における線量は、甲状線(小児)に対して約4レムおよび全身に対してγ線約0.01レム(β線約0.024レム)となる。

(2)主蒸気管破断事故

 ドライウェルの外で主蒸気管1本が瞬時に完全破断し冷却材の気水混合物が大気中に放出されると仮定する。隔離弁の閉鎖時間は5秒、放出流量は流量制限器によって定格流量の約200%に制限されるものとして冷却材の放出量を解析すると、蒸気約13トン、水約22トンが放出されることになるが、炉心は、冷却水上に露出しない。
 なお、被ばく線量の計算には次の仮定を用いる。

① 事故前の1次冷却材中131Iの濃度は原子炉運転中の最高限度である0.5μCi/cm3とする。

② 主蒸気隔離弁は事故後5秒で閉鎖するが、8個のうち1個は閉じないものとし、その結果全体として原子炉容器の蒸気相体積に対し5%/時の割合で漏洩するものとする。この際炉内圧力と温度の低減によって漏減量は漸時減少していく。

③ 事故発生後炉内圧力の減少に伴い、破損燃料から核分裂生成物が冷却材中に放出されるが、その量は全よう素が約7.5×104Ci(うち131I約4×10Ci)、よう素以外のハロゲン約8.09×104Ci(γ線エネルギー0.5MeV相当、以下同様)希ガス約9.85×105Ciとする。

④ 核分裂生成物のうち希ガスは全て気相部へ移行する。放出されたよう素のうち10%は有機よう素と考えるが、加水分解等により10分の1に減少する。無機よう素およびよう素以外のハロゲンは、液相-気相間に分配係数100で分配される。

⑤ 主蒸気隔離弁閉鎖前に放出された核分裂生成物を含む冷却材は、大気中で完全蒸発して半球状の放射性雲を形成し、1m/秒の速度で風下方向へ移動する。

⑥ 主蒸気隔離弁閉鎖後漏洩する放射生物質は地上放散され大気中へ拡散するが、拡散の気象条件としては英国気象局方式を用い、大気安定度F型、拡散幅30°、有効拡散風速1.5m/秒とする。

 以上の解析の結果、大気中に放出される放射性物質は内部被ばくに関するものとして全よう素が約233Ci、外部被ばくに関するものとしてハロゲン約4,000Ci、希ガス約3,200Ciである。
 敷地外において被ばく線量が最大となるのは敷地境界(原子炉から約650m)であってその地点における線量は、甲状腺(小児)に対し約66レムおよび全身に対してγ線約0.043レム(β線約0.076レム)となる。
 上記各重大事故時の被ばく線量は、立地指針にめやす線量として示されている甲状腺(小児)150レム、全身25レムより十分小さい。

5.2 仮想事故

 仮想事故として、冷却材喪失事故と主蒸気管破断事故の二つの場合を想定する。

(1)冷却材喪失事故
 重大事故の場合と同じ事故について、非常用炉心冷却系の効果を無視し、炉心内の全燃料が溶融したと考えた場合に相当する核分裂生成物の放出があるものと仮定する。
 この場合事故後のドライウェルの最高圧力は設計圧力より低いが、原子炉建家への核分裂生成物の漏洩は無限時間続くものとする。
 なお、線量の計算には重大事故の場合と同じ仮定を用いる。
 ただし、次の仮定は、重大事故の場合と異っている。

① 炉心に内蔵される核分裂生成物中のよう素50%、希ガス100%がドライウェル内に放出される。

② ドライウェルから原子炉建家への漏洩は無限に続く。
 以上の解析の結果、大気中に放出される放射性物質は、全よう素が2.6×104Ci、希ガスが約7.0×105Cⅰである。
 敷地外において被ばく線量が最大となるのは敷地境界(原子炉から約650m)であってその地点における線量は甲状腺(成人)に対し52レム全身に対しγ線約0.55レム(β線約1.6レム)である。また、全身被ばく線量の積算値は約10万人・レムである。

(2)主蒸気管破断事故

 重大事故の場合と同じ事故について、主蒸気管隔離弁閉鎖後も無限時間5%/時の漏洩が続くものと仮定し、さらに、破損燃料棒から破断と同時にプレナム中の核分裂生成物がすべて放出されると仮定する。
 大気中の拡散については英国気象局方式を用い大気安定度F型、拡散幅30°とし、有効拡散風速は4m/秒とする。その他の条件は、重大事故の場合と同じ仮定を用いる。
 以上の解析の結果大気中に放出される放射性物質は、内部被ばくに関するものとして全よう素が約655Ci外部被ばくに関するものとしてハロゲン約5,450Ci、希ガスは約11,200Ciである。
 敷地外において被ばく線量が最大となるのは敷地境界(原子炉から約650m)であってその地点における線量は甲状腺(成人)に対して約24レムおよび全身に対してγ線約0.069レム(β線約0.133レム)となる。
 また、全身被ばく線量の積算値は冷却材喪失事故の場合の値に比べて十分小さい。
 上記各仮想事故時の被ばく線量は立地指針にめやす線量として示されている甲状腺(成人)300レムおよび全身25レムより十分小さい。
 また、全身被ばく線量の積算値は、国民遺伝線量の見地から定めためやす線量の200万人・レムより十分小さい。

6 技術的能力

 申請者はすでに福島原子力発電所1号炉の建設と運転の実績を有しており、さらに現在2、3、4、5号炉の建設を行なっている。
 発電所の運転に当っては6号炉の運転開始時、約300名の技術者を予定しており、これらの技術者については、現在2、3、4、5号炉の建設に従事している者に加えて、今後さらに国内の諸機関を活用して養成訓練を行なうほか、海外の原子力関係諸施設へ派遣するなど技術的能力の確保を図っている。6号炉運転要員については1、2、3、4、5号炉の運転を通じ、また6号炉の試運転期間中に所要の教育訓練を実施することになっている。
 これらの点から、6号炉を設置するために必要な技術的能力および運転を的確に遂行するに足りる技術的能力があると認める。


Ⅱ 審査経過

  本審査会は昭和47年1月10日第98回審査会において、次の委員よりなる第85部会を設置した。
(審査委員)
村 主  進(部会長) 日本原子力研究所
飯 田 国 広 東京大学
江 藤 秀 雄 放射能医学総合研究所
金 井  清 日本大学
小 平 吉 男 日本気象協会
竹 越  尹 動力炉・核燃料開発事業団
武 谷 清 昭 日本原子力研究所
西 脇 一 郎 宇都宮大学
宮 永 一 郎 日本原子力研究所
望 月 恵 一 動力炉・核燃料開発事業団
(調査委員)
石 田 恭 一 動力炉・核燃料開発事業団
伊 藤 直 次 日本原子力研究所
海老塚  佳衛 東京工業大学

 同部会は、通商産業省原子力発電技術顧問会と合同で審査を行なうこととし、昭和47年1月24日第1回会合を開き審査方針を検討するとともに、主として施設を担当するAグループと主として環境を担当するBグループを設け審査を開始した。
 以後、部会および審査会において審査を行なってきたが、昭和47年11月7日の部会において部会報告書を決定し、同年11月17日第107回審査会において本報告書を決定した。
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