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京都大学原子炉実験所の原子炉の設置変更
(臨界実験装置の増設)に係る安全性について



昭和47年8月21日
原子炉安全専門審査会
原子力委員会
委員長 中曾根康弘  殿
                              原子炉安全専門審査会
                                            会長  内田 秀雄

 京都大学原子炉実験所の原子炉の設置変更(臨界実験装置の増設)に係る安全性について

 当審査会は、昭和47年5月11日付け47原委第173号(昭和47年8月19日付け47原委第320号で一部訂正)をもって審査を求められた標記の件について、結論を得たので報告します。

Ⅰ 審 査 結 果

 京都大学原子炉実験所の原子炉の設置変更(臨界実験装置の増設)に係る安全性に関し、同大学から提出のあった「原子炉設置変更承認申請書(臨界実験装置増設)」(昭和41年5月1日付け申請、昭和47年8月17日付け一部訂正)に基づき審査した結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は十分確保しうるものと認める。

Ⅱ 審査内容

1 変更計画の概要

 本変更は、すでに設置承認をうけ利用されている京都大学原子炉(KUR)の近くに新たに臨界実験装置1基(以下「KUCA」という)を増設しようとするもので、立地条件および施設の概要は以下のとおりである。

1.1  立地条件

 KUCAが設置される京都大学原子炉実験所は大阪府泉南部熊取町大字野田にあり、泉佐野市中心から東南約4kmの丘陵地に位置する。

 付近は稲、そ菜、果樹などを主体とする農業と、紡績・綿織物の中小工場が点在する半農・半工業の地域であるが、最近宅地造成も行なわれつつある。

 敷地の面積は、約320,000m2で、すでに原子炉1基が設置されている。KUCAは、敷地内のほぼ中央で、既設の原子炉の北東約80mに位置する。

 設置地点から敷地境界までの最短距離は西南西方向の坊主池までの約120mであるが、池については地上権を設定してあるので、実質上約300mとなる。

 敷地付近の人口分布は、東方約250mおよび西北西方向約300mに京都大学職員宿舎があり、合わせて約130名が居住している。

 集落は東方合わせて約600mに朝代集落が、北々東約600mに最近開発された住宅地がある。半径1km以内の人口は約1,500名(47年2月現在)である。

 また、敷地付近の特殊な公共施設としては、南東方向約530mに60名収容の保育所がある。

 その他、気象、地震、取水・排水等からみた立地条件は、既設の原子炉の場合と同様である。またKUCA設置地点の地質は、ボーリング調査によると大阪層群最下部層に属する砂質土、粘性土で構成されており連続性は比較的よい。

 さらに、この地盤は十分な地耐力をもっていることが確認されている。

 主な周辺の状況は以上のごとくであるが、既設の原子炉に加えて、今回KUCAを増設しても、後述の「平常運転時の被ばく評価」「事故評価」によれば周辺の環境に対し問題はない。

1.2 原子炉の概要

 KUCAは、高中性子束炉、高速・中速中性子炉、トリウム増殖炉等の基礎研究、開発研究及び全国大学共同の教育訓練を行なうことを目的に設置される。

 これら多種類の目的を満たすため装置に工夫がほどこされその型式は、濃縮ウラン非均質型(軽水減速及び固体減速)複数架台方式と称し、炉心を組める3つの架台のうち2架台では固体減速用炉心を1架台では軽水減速用炉心を組むようになっている。

 しかし、計測制御系統は3架台共通で1組なので、架台が運転中は他の2架台は運転ができないようになっている。これにより、広い範囲の炉心構成ができ、また、休止中の2架台で運転の準備等ができるため運転の効率化がはかれる。

 熱出力については100Wとし、短時間に限って1KWに上げて実験をすることになっている。年間の積算出力は、22KWhr以下である。

 固体減速炉心は、約5cmx5cm厚さ1mmないし5mmの濃縮ウランアルミ合金燃料等を同形の黒鉛またはプラスチック等の減速材と一緒にさやの中に装填したものを立てた構造である。

 この炉心の中央部分は油圧により上下駆動可能とし、スクラム時には、制御棒の落下と同時に炉心外へ抜けるようになっている。

 軽水減速炉心は、直径・深さとも2mのタンクの中に約6cmx60cm厚さ1.5mの板状の濃縮ウランアルミ合金燃料等を要素支持フレームにさしこんだものをたてた構造である。そして制御は、軽水の水位変化と制御棒によって行なわれる。

 これら3架台は、円筒形の遮蔽をかねた鉄筋コンクリート製建家内を4分割してパルス発生装置とともに格納されている。

 計測制御系統施設としては、中性子束を測定する核計装設備、水位、温度、水質等を測定するプロセス計装設備と安全保護系統設備及び制御設備がある。

 その他、所要なエリアモニタ、スタックモニタ等の放射線管理施設排気・排水施設等も有する。
 なお、臨界実験装置の特殊性から発熱は特にないため強制冷却は行なわれない。

2 安全設計及び安全対策

 KUCAは、次のような安全設計および安全対策が講じられることになっており、十分な安全性を有するものであると認める。

2.1  核燃特性及び動特性

KUCAは、次の核・熱的制限の範囲内で実験が行なわれる。
 (1)制御棒の反応度抑制効果

    …過剰反応度に加えて1%⊿k/k以上、ただし、全体として4%⊿k/kをこえない。
           また最も反応度の大きい制御棒でも全体の1/3をこえない。
 (2)中心架台及び軽水ダンプによる反応度抑制効果

    …制御棒とは独立にそれぞれ完全な未臨界状態維持の機能をはたす。
 (3)反応度付加率

    …臨界近傍では0.02%⊿k/k/sec以下(制御棒引抜き、中心架台上昇、軽水水
           位上昇いずれの場合も)
 (4)最大過剰反応度

     固体減速炉心   0.35%⊿k/k
     軽水減速炉心   0.5%⊿k/k
  (5)減速材対燃料割合
          固体減速炉心     プラスチック減速の場合
                                     H/Uの原子比約4.0×103以下
                                  黒鉛減速の場合
                                     C/Uの原子比約1.6×103以下
     軽水減速炉心    H/Uの原子比約0.4×103以下
これらはいづれも減速不十分領域である。
 (6)炉心挿入物の印加反応度

      ポイズン   -10%⊿k/k~0%⊿k/k
      空  孔   -0.5%⊿k/k~5%⊿k/k
  ただし、運転中は反応度の有意な変動はないものとする。

            パイルオシレ一タ0.1%⊿k/k

  以下以上、KUCAは、過剰反応度を小さくし、本質的に燃料熔融の可能性がないように設計される。

 制御棒の反応度抑制効果は過剰反応度の2倍以上で、かつ最小抑制効果を保つように設計されている。

 また、最大の抑制効果をもつ制御棒は全体の1/3以下にすることになっているので、1本の制御棒が挿入不能でも十分安全を保つことができる。

 さらに、中心架台、軽水ダンプによる独立の停止機構を有する。
 炉心構成は、減速材対燃料の原子比に従って行なわれるが本装置ではいづれも減速不十分領域である。

 また、軽水減速炉心の温度係数は、ドップラー効果、減速材膨脹などで十分大きい負の値になる。

 固体減速架台は反応度の大部分が、熱中性子又は熱外中性子領域に依っているので、高濃縮ウランであるがドップラー効果によって負の反応度が期待でき、燃料の膨脹効果も負に働くという装置固有の安全性を有している。

2.2 燃料・炉心構成

 KUCAの燃料は、濃縮度約93%以下のウラン・アルミ合金でその他試験用として、炉心の一部に天然ウラン、劣化ウラン、トリウム等の金属酸化物を使用する。

 ウラン・アルミ合金等は、固体減速炉心用には耐放射性プラスチックの、軽水減速炉心用にはアルミニウムの被覆がほどこされる。

 運転出力が低いことから核分裂生成物の蓄積が微量のうえ裸のウラン・アルミ合金でも核分裂生成ガスの保持力は優れているので、万一事故が発生しても炉心からの放射性物質は微量しか放出されない。

 燃料体の炉心装荷方法は、固体減速炉心の場合、架台支持構造第一段に十分な荷重に耐えられるように設計された格子板の孔に、燃料体のさやの円筒状の足をさし込んでたてる構造になっている。

 さや相互の位置を確定させるためには、さやの上部をクリップによって4本づつまとめるとともに、さや同志は上部外側に設けられた約1mmの突出部が当って間隙をうめるようになっている。

 一方、軽水減速炉心の場合は、燃料板を約3.0mmから4.5mmのピッチの溝により固定した燃料要素支持フレームを炉心タンク中の格子板の孔にさし込む構造になっている。

 なお、この格子板は水平に約25cmほど2分割することができるが、その駆動は、原子炉停止時にのみ行なえるようになっている。

 炉心構成は、固体減速炉心の場合、単一炉心とドライバー炉心の2通りの組み方がある。前者は、燃料を含んでいる部分が単一組成でできている。

 後者は、中央から順に高速スペクトルのテスト領域、高速中性子のみを通すフィルターの働きをするバッファー領域、反応度の大部分を受けもつ熱中性子によるドライバー領域、熱中性子の反射体領域からなっている。

 天然ウラン金属等は、バッファー領域テスト領域等に使用される。なお、誤装荷を防止するため燃料要素には色分けがほどこされている。

 軽水減速炉心の場合は、単一炉心と中央に熱中性子束ピーキング領域をもつ2分割炉心がある。2分割された間隙にはベリリウム等の反射材が配列される。

 これら炉心は、前述の減速材対燃料の原子比に従って構成される。

2.3 計測・制御系

 KUCAの核計装は、起動系3チャンネル、線型出力系、対数出力炉周期系各1チャンネルの計6チャンネルを有し、十分なフェイルセーフ方式で設計されている。

 これらの中性子検出器は、3架台にそれぞれ設けられているが、核計装については3架台共通で、制御棒駆動装置固定板に設けられた中継箱により完全に接続された架台のみ運転できるようなインターロックが設けられている。

 その他、制御棒位置指示計や中心架台位置指示計のほかにプロセス計装系として軽水架台では、水位、水質及び水源の指示計を、固体減速架台では炉心温度指示計を有し、特に重要なものはインターロック回路に組み入れている。

 制御系については、制御棒の吸収体は各架台に6本づつ有するが、その駆動装置はどの架台にも共通に使用される。

 同駆動装置が、他の架台に移動するときは吸収材はすべて炉心の中に確実に挿入され不用意に抜け出さない構造になっている。

 さらに、固体減速架台では中心架台が下端に固定され、軽水減速架台では、タンク内の水が空の状態でなければ移動できないようになっている。

 なお、制御棒はスクラムのときは電磁石の電流がきれ、自重により自然落下する構造になっている。
 軽水減速架台では、制御棒による制御のほかに水位変化による制御が行なわれる。

 給水は、高速、低速、微調整の3段階をとり、また、入れすぎに備えオーバーフロー装置が設けられている。

 固体減速架台では中心架台の上昇による臨界近接は行なわないが、安全のため中心架台の上昇速度は、上の方にくるほど順次自動的に上昇速度が低下する構造になっている。

 緊急停止の場合、軽水減速架台では緊急水位下降装置およびダンプ弁開放の独立した二重の停止装置が働き緊急排水し固体減速架台では、油圧装置につけた独立な系統の弁を開放し中心架台を炉心から落下させるようになっている。

 安全保護回路としては、制御棒引抜き、中心架台上昇、給水等に対する措止インターロックを設け、また、スクラム、一斉挿入、警報等の回路も有する。
 
2.4 核燃料物質の管理

 核燃料物質の貯蔵設備として燃料貯蔵室が2階の一隅に設けられ、バードケージ方式の貯蔵容器により、浸水、臨界に対し配慮をはらっている。その貯蔵能力は約93%の濃縮ウランで130kgと十分な能力を有する。

 また、燃料組立装置、フレーム固定台等必要な取扱設備を設けることになっている。

2.5 廃棄物処理系

 気体廃棄物については、架台室、燃料室等で生成された放射性塵挨を除去するためにフィルターを有する系統別の排気チェンバーを設け、平常時は一部を排気口から放出するほかは大部分は循環するようになっている。

 排気は各種フィルターを通しモニターした後高さ約30mの排気口から行なう、事故時にはダンパーを閉じ排気を停止し、その後はチャコールフィルターを有する排気系で炉室が負圧になる程度にわずかずつ排気する。

 液体廃棄物、固体廃棄物については、既設の廃棄物処理場へ送り処理する。本処理場はKUCAから排出される廃棄物が加わっても十分処理能力を有するものである。
 
2.6 放射線管理

 各架台室間は厚さ約1m、高さ約8mのコンクリート壁で仕切られ、また入口は厚さ約0.5mの鉄製可動遮蔽により、運転していない架台室の空間線量率を下げるようにしている。

 計算によると、隣室における空間線量率は、天井からの反射と遮蔽を通過してくるものを合わせ1W運転時において約1.8mrem/hrなので、隣室への立入りは保安規定等により被ばく管理を十分行なうことにしている。

 架台室の外周壁は、0.7mから1.5mの厚さのコンクリートを用い建家外壁の線量率が0.6mr/hr以下になるようにしている。

 放射線監視装置としては、各架台室内にγ線エリアモニタ、ガスモニタ、ダストモニタを設け、警報を制御室と現場で発するようになっている。

 また、排気中の放射性塵挨、放射性ガス濃度を連続測定するスタック空気モニタ、排水タンク内の濃度を測定する排水モニタを設け、屋外管理用の既設のモニタもある。
 
2.7 耐震上の考慮

 架台支持構造物及び計測制御系等安全上特に重要な部分すなわち、架台支持構造物、制御棒駆動装置、中心架台駆は、水平震度0.6g、垂直震度0.3gの地震に対して十分安全性を確保できる構造としている。

 その他、原子炉格納施設、スタック排気設備、非常用電源、クレーン等は、水平震度0.3g、垂直震度0.15gの地震に対して十分安全性を確保できる構造としている。
 
3 平常時の被ばく評価

 KUCAの平常運転時における炉心からの漏減並びに散乱放射線による被ばく、屋外への放射性ガス及び放射性塵挨の放出による被ばくはほとんどない(年間0.01mrem以下)。

 なお、既設の原子炉からの放射性気体廃棄物による敷地境界の最大被ばく線量を計算すると年間0.23mremになる。

 従って両者を合わせても、一般公衆の受ける被ばく線量は許容値を十分下廻ると認められる。

4 事故評価

 KUCAにおいて発生する可能性のある事故として、制御棒駆動装置固定板のない架台の制御棒引抜き、燃料の過装荷、軽水減速架台の過注水、燃料集合体の落下等が考えられるがそれぞれ適当な対策が講じられており、十分安全性を確保しうるものであると認める。

 さらに、最悪事故として以下の仮定を用いた場合の被ばく線量を計算する。
 ① 最大反応度印加率0.02%⊿k/k/secとする。
 ② 全印加反応度は、軽水減速架台の場合0.5%⊿k/k団体減速架台の場合
        0.35%⊿k/kとする。
 ③ 核計装からはスクラム信号が発信しない。
 ④ 放射線モニタの警報(1.2KWトリップ)により、その異常に気付き20秒の時間
       遅れの後手動スクラムする。
 ⑤ 手動スクラムの際、制御棒は落下不能、中心架台の落下、あるいは炉心タンク
       の排水によって装置を停止する。その作動時間は10秒とする。
 ⑥ 事故時の運転状態は出力0.01Wで運転中とする。

 代表的な軽水減速炉心、固体減速炉心について解析した結果、前者は放出エネルギー6.7MWsec、最高燃料温度上昇166degCとなり、後者は、放出エネルギー10.8MWsec、最高燃料温度上昇329degCとなる。この燃料温度上昇では燃料の溶融等は生じない。

 放射性ガスの放出については、実験による放出率を参考に計算すると希ガス約0.4mci、よう素約1mciとなりよう素のフィルター効率90%、排気筒の有効高さ10mとし、大気安定度F型、風速0.5m/secの気象条件で解析する。

 その結果、被ばく線量が最大となる地点(スタックから風下400m)における被ばく線量は甲状腺(成人)に対し7.0×10-6rem、全身に対してγ線3.8×10-7rem(β線4.6×10-7rem)で「原子炉立地審査指針」に示されている甲状腺(成人)300rem、全身25remより十分小さい。また、全身被ばく線量の積算値は0.27人remと同指針でめやす線量として示されている200万人remより十分小さい。
 
5 技術的能力

 申請者である京都大学は原子力のあらゆる面にわたり有能な人材を多数容している。

 また、すでに原子炉1基を設計・建設し運営している実績も有する、KUCAについては、臨界集合体施設委員会、臨界集合体専門研究会等をもち広く学内外から参加者を求め研究してきている。従って、本装置の設置、運転管理の技術的能力を有するものと認める。
 

Ⅳ 審 査 経 過

 本審査会は、昭和47年5月12日第101回審査会において次の委員からなる第87部会を設置した。

  審査委員
   弘田 実弥(部会長)   日本原子力研究所
   大崎 順彦          東京大学
   小平 吉男          日本気象協会
   竹越   尹            動力炉・核燃料開発事業団
   武谷 清昭          日本原子力研究所
   西脇 一郎          宇都宮大学
   望月 恵一          動力炉・核燃料開発事業団
   渡辺 博信           放射線医学総合研究所

    調査委員
   大久保忠恒          東京大学

 審査会および部会において審査を行なってきたが、昭和47年8月16日の部会で部会報告書を決定し、同年8月21日の第104回審査会において本報告書を決定した。
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