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昭和45年度原子力年報(総論)



(1)原子力発電所の建設

 わが国の原子力発電所の建設は急速に進展しており、45年度においても新たに2基の発電用原子炉の運転が開始された。これによりわが国で現在稼動している発電炉は4基、合計電気出力は132万3,000キロワットとなった。

 さらに電気事業者により9基の発電炉(合計電気出力580万3,000キロワット)の建設がすすめられているほか将来の電力供給の主要な担い手として多数の発電炉の建設が計画されている。

第1-1図 わが国の原子力発電開発計画



 原子力発電が急速な進展を遂げつつある理由は、一つには電力需要が毎年著しく拡大していること、原子力発電の安全性についての信頼が高まる一方、発電炉の大型化等により将来の経済性の見通しが得られたことなどによるものである。

 このような情勢から、将来の原子力発電開発規模について最近の見通しによれば昭和50年度には約860万キロワット、60年度には6,000万キロワットに達するものとなっており、42年4月原子力委員会が原子力開発利用長期計画で見通した開発規模を可成り上回るものとなっている。(第1-1図)
 
 一方、原子力発電の本格化は国内の原子産業の発展を促しており、近年、原子炉機器産業、核燃料加工事業などの進展には著しいものがある。わが国の発電炉技術については現在80万キロワット級の発電所を国内メーカーが主契約者となり、建設をすすめる段階に達しているほか、核燃料加工事業についても本格的な生産体制が整いつつある。

 しかしながらこのような大規模な原子力発電開発を円滑にすすめてゆくためには、環境との調和に配慮しつつ、ウラン資源および濃縮ウランの確保、原子力発電所の立地確保、放射性廃棄物の処理、処分等について今後積極的にその解決をはかってゆく必要がある。

(2)核燃料確保

 原子力発電の進展に対処して核燃料サイクルの確立をはかることが極めて重要である。現在、核燃料加工使用済燃料の再処理などの面で逐次進展をみているが、ウラン資源および濃縮ウランの確保などについては、長期的には産業体系としての核燃料サイクルの確立をめざし、さらに積極的な施策を講じてゆく必要がある。

 わが国の天然ウランの需要は、最近の見通しによれば、昭和43年度から50年度までに累積約1万8,000トン(U3O8ショートトン、以下同じ)、60年度までには約12万トンに増大することが見込まれている。このため、電気事業者は海外の鉱山会社と長期契約を結びその確保に努めており、46年4月現在の確保量は約5万5,000トンに達している。また電力会社、鉱山会社等では外国の鉱山会社と共同で米国・カナダの三地域において探鉱開発活動をすすめており、45年5月に発足した海外ウラン資源開発(株)は、フランス原子力庁、ニジェール政府と共同でニジェールのアコカン西部地域において探鉱活動を開始した。

 さらに、動力炉・核燃料開発事業団(動燃事業団)では民間の探鉱活動に先駆けて海外のウラン事情の調査、探鉱活動などをすすめているが、45年度においては、カナダ、オーストラリア等において調査を行った。

 しかし、今後増大する需要を満たすためには、さらに積極的にウラン資源の確保をはかる必要があるので原子力委員会は46年4月、ウラン資源確保対策懇談会を設け、ウラン資源の長期的な確保策、探鉱開発のあり方等について検討をすすめている。

 現在建設がすすめられている原子炉は濃縮ウランを利用する軽水炉である。最近の見通しではわが国の濃縮ウラン需要量は昭和50年度には約3,000トン/年(分離作業量)、60年度には8,000トン/年となっている。この必要とされる濃縮ウランは当分の間は、日米原子力協定にもとづき米国からの供給に期待することとしており、これまですでに161トン(U-235)が提供されることになっていたが、45年度においては、さらに48年までに着工予定の原子炉に必要な濃縮ウランの追加供給について交渉がすすめられ事務的に合意された。しかし今後予想されるわが国の原子力発電に対応して、さらに多量の濃縮ウランを確保する必要がある。

 一方、米国の現在の供給能力は年間最大1万7,000トン程度であり、出力増強計画を実施したとしても1970年代の後半には自由世界の需要をまかないきれなくなるものと見られている。このため、欧州各国においても積極的に濃縮ウランの自主確保策を講じつつある。英国、西独、オランダでは三国共同で遠心分離法による濃縮プラントの建設をすすめつつあるほか、フランスが不拡散法によるヨーロッパ共同濃縮計画の提案を行っている。

 このような状況のもとでわが国はウラン濃縮の研究開発を原子力特定総合研究として、積極的に研究開発をすすめているが、さらに内外の情勢を勘案し、濃縮ウランの自主的な確保策について具体的に検討を要する段階に立ち至った。このため原子力委員会は、45年10月、濃縮ウラン対策懇談会を設け、海外の動向の分析、ウラン濃縮の技術開発のあり方と推進方策、および濃縮ウランの長期安定確保策等について鋭意審議をすすめているところである。

 このほか、動燃事業団による再処理施設の建設については、地元の反対等により着工が遅れていたが、昭和44年10月、茨城県議会より基本的な同意が得られたことなどから進展をみ、46年6月建設に着手し、49年度内に完成を予定している。

(3)動力炉開発

 現在わが国で建設がすすめられている原子力発電所はすべて軽水炉によるものである。軽水炉は現在実用化されている原子炉としてすぐれた経済性を有する炉であるが、核燃料の有効利用という面から見て限度がある。一方、高速増殖炉は消費された以上の核燃料を生成する画期的なものであり、ウランの持つエネルギーを最高限度に利用しうる最も理想的な原子炉である。しかし高速増殖炉が実用化されるまでには長期の開発期間を要するため、高速増殖炉実用化までの過度的な段階として、軽水炉と違い天然ウランが利用出来、早期の実用化が期待される新型転換炉の開発が重要である。

 このような観点からわが国は、高速増殖炉および新型転換炉の開発を国のプロジェクトとして積極的に推進している。昭和43年3月には動力炉開発についての基本方針が策定され、同年4月、43年度から45年度までの具体的な動力炉開発業務を定めた第1次基本計画を策定した。

 45年度は第1次基本計画の最後の年に当り、過去3ケ年の新型動力炉の研究開発の成果をふまえ新たに昭和46年度から49年度までの期間を対象とした第2次基本計画の策定がすすめられた。

 新型転換炉の開発については、電気出力20万キロワット程度の重水減速沸騰軽水冷却型の原型炉の建設をすすめることとし、その建設に先立ち44年には新型転換炉評価検討専門部会において技術的、経済的見通しについての検討が行われ、原型炉を動燃事業団の計画どおり建設することが妥当であるとの結論を得た。45年11月には内閣総理大臣の原子炉設置許可を得、敦賀において基礎工事を開始するとともに、機器の製作について発注準備契約交渉がすすめられた。なお、46年4月に策定された第2次基本計画では、昭和50年に同原型炉を臨界にいたらせるものとしている。

 高速増殖炉についてはプルトニウム、ウラン混合酸化物系燃料を用いるナトリウム冷却型高速増殖炉の開発をすすめている。高速実験炉建設については45年2月内閣総理大臣の設置許可を得、45年度には、原子炉建屋の基礎工事を終え、格納容器の据付けを行なうとともに、炉心本体構成機器の製作を開始した。

 また実験炉建設の経験をもとに建設を予定している原型炉については、前年度に引きつづき第1次設計を行なうとともに炉心およびプラントの主要仕様の評価検討を行なった。

 第2次基本計画では実験炉については第1期熱出力5万キロワット(目標熱出力10万キロワット程度)のものを昭和49年に、また原型炉としては電気出力20万ないし30万キロワット程度のものを53年頃、臨界に至らせるものとしている。

 このようにわが国の動力炉開発は第1次基本計画で示された研究開発課題について可成りの成果を収めつつ進められているが、第2次基本計画で明らかにされたように、新型転換炉原型炉、高速増殖炉実験炉および原型炉等の臨界目標について、それぞれ2年程度の遅れを見せている。これは、新型動力炉の開発が10数年の開発期間と2,000億円以上の開発資金を要するわが国では未曾有の巨大科学技術プロジェクトであり、研究要素が極めて多岐にわたっているため、多数の人材と関係各界の密接な協力および綿密なプロジェクト管理等が必要であるが、これ等の問題を短期間に解決することが予想以上に困難であったためである。

 しかし、このような困難を克服することは、単に原子力の研究開発の進展をはかるのみならず、わが国科学技術水準の向上、ひいては産業基盤の強化に大きく貢献するものと考えられる。このため原子力委員会はこれまでの研究開発の成果および経験をふまえて、今後の動力炉開発を推進することとしている。

(4)原子力船の開発

 わが国における原子力船の開発については第1船を建造運航することにより、船体および舶用炉を一本とした原子力船建造に関する技術の確立ならびに経験の習得を目指しているが、その経済性については、世界的にまだ実証されておらず、実用化のためには舶用炉の開発を中心としてさらに研究開発を推進する必要がある。

 わが国の原子力第1船は日本原子力船開発事業団(原船事業団)によって、43年11月その船体工事に着手され、44年6月に進水し「むつ」と命名された。進水後「むつ」は原子炉格納容器周辺の2次遮蔽工事、船体ぎ装工事等を終了し、船体部試運転を行ない、45年7月原船事業団に引き渡された。その後「むつ」は青森県むつ市の定保港に補助ボイラーにより自力回航され、直ちに原子炉ぎ装工事が開始された。
 今後、炉ぎ装工事、機能試験を行なった後、47年6月に完成の予定である。

 また、「むつ」の建造については、船型変更、建造費の上昇等のため着工が遅れ、実験航海が終了し、成果の取りまとめが完了するのは50年度末となる見込みとなった。このため原船事業団法の一部を改正し、同法の存続期限を4年間延長(50年度末まで)とする旨の法律改正が行なわれた。これに伴い原子力委員会は46年5月原子力第1船開発基本計画の改正を行った。

 商船の大型化、高速化の傾向は近年ますます増大しつつあり、このため原子力船に対する期待は大きいものがあるが、実用化の見通しについては、世界的にその経済性が実証されておらず、原子力船の航行に必要な国際的環境も十分には整備されていない等の点から、その実現までには、まだかなりの時間を要するものとみられる。このような状況において、内外海運界の動向および海外における原子力船開発に関する動向などを十分に把握し、長期的にみたわが国の原子力開発の推進に資するため、44年6月原子力委員会に原子力船懇談会が設置され、審議を重ね、45年8月報告書を提出した。

 この報告は原子力船を実用化するためには、一体型加圧水炉等の舶用炉の設計研究、評価等を早急に行ない、舶用炉の技術的、経済的問題点を明らかにし、その結果と第1船「むつ」の成果、内外海運界の動向等をあわせ、改めて実用化の見通しについて検討することが適切であると述べている。原子力委員会はこれを受けて、今後舶用炉の研究開発を促進する旨の決定を行なった。

 一方、民間においても、海運、造船業界と西ドイツのGKSS(原子力船建造運航利用会社)との間で原子力船の共同評価研究について合意に達し、46年8月頃を目途に8万馬力のフルコンテナー船を想定して、原子力船と在来船との経済性の比較検討を行なうこととなった。

(5)放射線利用

 放射線利用については、品質管理、工程管理などの工業利用、放射線治療や核医学などの医学利用、照射やトレーサー利用などの農業利用等各方面に広範に利用されている。とくに45年度には放射線滅菌法による医療用具の国内における使用が認められた。一方、食品照射、放射線化学等について積極的に研究開発が進められ、実用化の見通しが強まりつつある。放射線利用機器については、厚み計、密度計などの測定器、非破壊検査装置をはじめ、放射線利用分析装置など各種機器が民間企業において著しく普及し、工程管理、品質管理など生産工程の自動化を図る上で大きな役割を果している。

 また、放射線利用に関する研究開発は民間企業、日本原子力研究所(原研)、国立試験研究機関、大学や主要な病院等で行なわれているが、とくに貯蔵性、加工性等の向上により食品流通の合理化が期待されている食品照射については、原子力委員会が原子力特定総合研究に指定し、馬鈴薯、玉ねぎ、米、ウインナーソーセージ、小麦、みかんおよび水産ねり製品について、照射試験が行なわれたが、馬鈴薯については、すべての試験がほぼ終了し、近く食品衛生法による許可を得て実用化に移される見通しが強くなった。

 また、放射線化学の分野では、原研高崎研究所および同大阪研究所等で高分子物質の放射線による改質、重合等に関する研究が行なわれており、ポリ塩化ビニールなどについては、加工性、成型性、抗張力などが改善されることが実証されている。

 放射線利用を公害防止に応用することについては、放射性同位元素をトレーサーとして利用して種々の公害の原因を追跡する調査等が、原研、国公立試験研究機関等により行なわれている。

(6)新たな分野の研究開発

 わが国における原子力利用は原子力発電、放射線利用等の分野において、漸次成果を収めつつある。一方、国民生活の向上、産業構造の改善に原子力をより直接的、多面的に寄与せしめるため、原子炉の多目的利用の調査検討、中性子線の医学利用の研究および人類の夢である核融合についての研究が行なわれている。

 原子炉から得られる熱を発電のほか、海水脱塩、製鉄、化学工業用プロセスヒート、地域暖房等に利用するいわゆる原子炉の多目的利用は、エネルギー供給の合理化、多様化に寄与するほか、大気汚染の防止などに、大きな効果が期待され、近年急速に関心が高まってきている。原子炉の多目的利用を実現するためには、解決すべき多くの問題があるが、まず技術的中心課題である製鉄に直接利用可能な冷却材出口温度が得られる高温ガス炉の実現性について見通しを得ることが必要である。この観点から原子力委員会は製鉄用高温ガス炉の技術的問題点とその解決の見通し等について検討するため45年8月高温ガス炉懇談会を設置した。

 同懇談会は、46年5月報告書をまとめたが、この報告において、製鉄に直接利用可能な冷却材出口温度1,000℃の高温ガス実験炉は実現の見通しがあり、さらに原子力製鉄の実用化の見通しを得るには技術的信頼性を実験炉規模で確認するとともに、還元ガス製造および還元炉等を含む原子力製鉄プロセスの試験研究を進める必要があるとしている。今後、原子力委員会は同報告を受けて製鉄への利用を中心とする多目的用高温ガス炉の研究開発の進め方について検討することとしている。

 また、がん細胞が正常の組織細胞よりも放射線に対する感受性が高い性質を利用して、ガンマ線、エックス線および電子線によるがん治療が従来から行なわれている。しかし、低酸素細胞を有するがん細胞に対しては上記の放射線は効果が少なく照射後も残存して再発の原因となっていた。一方、がん細胞に直接、速中性子線を照射すれば、低酸素細胞に対しても著しい効果を挙げることが最近明らかとなり、放医研では、45年度より4カ年計画でサイクロトロンの建設に着年し、これと並行して速中性子線による悪性腫瘍の治療に関する諸問題を解明するため、45年度から5ケ年計画で速中性子線の医学利用に関する研究を開始した。

 核融合の研究については、基礎研究の段階から一歩進めて制御された核融合の実現を明確な目的とする研究開発を43年度に原子力特定総合研究に指定し、原研を中心に理化学研究所、電子技術総合研究所等でその研究を推進してきた。原研では、低ベータ軸対称トーラス磁場装置(JFT-1)の成果をふまえ、JFT-1に比し、核融合反応実現領域に一歩近づいたプラズマ発生装置であるトカマク型の中間ベータトーラス磁場装置(JFT-2)の建設を45年9月に着手し、47年春完成をめざして建設中である。なお、45年度においては、原研を中心として内外の主要な研究指導者を招いて討論会を開催するなど、各方面で活発な動きがみられた。

(7)安全性の確保と関連施策

 原子力施設の安全性確保の重要性にかんがみ、政府は「核原料物質、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律」(原子炉等規制法)および「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」(放射線障害防止法)にもとづき積極的に必要な措置を講じてきた。

 従来から原子力施設については事前にその安全性について十分検討を加え、設置を許可してきたが、近年における原子力発電所の急増、動力炉開発の本格化、再処理施設の建設等の原子力開発利用の著しい進展に応じて、安全基準をはじめ安全性の確保に関する具体的措置等について、さらに慎重な評価検討を加えている。とくに昭和45年度においては、動力炉安全基準専門部会において、軽水炉についての安全設計に関する審査指針等についての報告がまとめられた。

 また、原子力施設の安全性について、さらに充実した実証的データーを得るため、安全性確保に関する研究が、昨年度にひきつづき原研および政府の委託費をうけた民間機関において、計画的に実施されている。

 一方、近年の発電用原子炉の急速な増加に伴なって濃縮廃液、雑固体等の放射性廃棄物は、今後多量に発生すると予測されるので、その適切な処理処分、および今後行なう必要のある研究開発等について、原子力局に設置された放射性固体廃棄物処理処分検討会は昨年度にひきつづき精力的な検討を進めており、近々報告書をまとめることとしている。

 さらに、環境保全を重視する立場から、原子力局は従来から、大気、雨水等の一般環境、食料、人体関係についての環境放射能の調査を進めていたが、今年度は新たに東京湾の海底土について放射能測定を行なうなど積極的対策を実施した。しかし、原子力開発利用の一層の進展に応じて今後、放射性物質の食物連鎖、低放射線被ばくの影響などについて、さらに綿密な研究を推進し、適切な対策をとる必要がある。

 このほか、現行の原子力損害賠償制度についての見直しを行なっていた原子力損害賠償制度検討専門部会は、45年11月原子力委員会に対し報告を行なった。これにもとづき政府は①国の援助に関する規定の適用を、さらに10年延長し、56年12月末までに運転を開始する原子炉に適用すること。②原子力船関係の賠償制度を整備し、原子力船の国際的相互寄港の際の損害措置および責任限度額の決定は政府間協定によることとする。③原子力損害賠償措置額を50億円から60億円に引き上げること等を骨子にする原子力損害の賠償に関する法律及び原子力損害賠償補償契約に関する法律の一部を改正する法律案を第65回国会に提出した。同法案は両院でそれぞれ採決され46年5月1日公布された。

(8)国際協力

 わが国の原子力開発利用の発展にとって国際協力の推進は極めて重要な要素である。このため政府においては国際原子力機関(IAEA)に加盟し、また欧州原子力機関(ENEA)に準加盟して、積極的に多国間協力をすすめる一方、米国、カナダ、英国などと原子力協力協定を結び原子力全般にわたる技術、情報の交換、核燃料物質の供給などにおいて強力に二国間協力をすすめてきた。また、動燃事業団、原研等の研究機関においても、原子力先進諸国の原子力機関との協力協定を結び動力炉開発、放射線利用の研究等広汎な分野で積極的な国際協力を行なっている。

 多国間協力については、わが国は創設以来IAEAに加盟し、理事国としてその活動に参加している。45年度におけるIAEAの最大の課題は、核兵器不拡散条約(NPT)に基づく保障措置制度のあり方の検討であり、IAEAは理事会の下に保障措置委員会を設置して検討を行ない、その結果は46年4月の理事会で承認された。これと平行して、理事会構成の再検討の問題も重要な問題として検討が行なわれたが、45年9月の総会において、理事会を拡大し、かつ地理的配分の公平を図るためのIAEA憲章第6条の改正案が採択された。またENEAにおいては、中性子データー編集センター、計算機プログラムライブラリーおよび沸騰重水炉開発計画等の共同事業に参加してひきつづき活動している。

 二国間協力については45年6月日英原子力会議が英国で開催され、両国の原子力事情と将来の見通しなどについて意見の交換がなされたほか、特に高速増殖炉等の開発において、今後一層協力を深めることで意見の一致がみられた。また米国との協力については、45年3月の日米原子力会議の合意にもとづき、濃縮ウランの追加供給についての交渉を行なった結果、48年までに建設に着手される原子炉13基に必要な濃縮ウランの供給を得ることについて事務的合意が得られた。

 このほか、フランスとの間でも高速増殖炉、放射線化学等の研究開発について協力が行なわれているがこれを今後一層強化するため包括的な政府間の協定を締結する方向で交渉がすすめられている。

 また動燃事業団、原研などの研究開発機関における国際協力についても、45年6月従来の原研と英原子力公社との協定にかわり原研、動燃事業団と英国原子力公社との間で新たに高速炉開発に関する協力協定の調印がなされたほか、46年4月原研と米国原子力委員会との間に技術情報の交換に関する覚書の締結がなされた。

 フランスとの間でも動燃事業団は高速炉開発、原研は放射線化学の分野において、それぞれフランス原子力庁との協力を行なっているが、46年5月新たに原研とフランス原子力庁との間で材料試験炉に関する協力協定が締結された。また西ドイツとの間でも動燃事業団とカールスルーエ研究所の間で高速炉開発についての協力協定が締結された。このように、わが国の原子力開発利用の進展にともない、多岐にわたって国際協力が実施されるに至っている。

(9)保障措置制度の整備

 現在、わが国では米国、カナダ、英国などと原子力協力協定を結び原子力開発利用の進展をはかっているが、これに関連し、これらの国から供給される核物質等は国際原子力機関(IAEA)の保障措置の適用をうけている。

 45年度には延約90施設、約380人・日の査察がIAEAによって行なわれた。保障措置関係業務は、今後核物質の使用量のより一層の増加を考えれば、ますます複雑となるので、正常な研究開発、産業活動に支障をきたすことのないよう、今後もその合理化をはかっていく必要がある。

 一方、核兵器不拡散条約(NPT)は45年3月発効し、わが国はこれに先立ち同年2月調印を行った。政府は同条約の調印に際して声明を発表し、同条約によってわが国の原子力平和利用がいささかも妨げられてはならないこと、同条約にもとづく査察は各国の管理制度を活用し、可能な限り簡素なものであることなどの点を強調した。

 同条約にもとづく保障措置についてはIAEAは45年4月、理事会に保障措置委員会を設置しわが国をはじめ47か国が参加して検討を行ない、46年3月までに延80数回にわたり審議を行ない、NPT下の保障措置モデル協定を作成した。

 また、わが国は、保障措置制度の整備およびそれに関連する技術的諸問題等について検討し、その検討結果を、IAEAの保障措置委員会の審議に反映させるため、45年3月科学技術庁原子力局に保障措置検討会を設置した。

 しかし、今後、わが国の保障措置制度を整備するためには技術的問題等解決すべき課題が多いので、46年4月、保障措置検討会を改組し、国内体制を含めこれらの問題についてさらに検討をすすめている。


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