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原子力開発利用長期計画改訂の基本方針



昭和46年6月17日

原子力委員会


 1 改訂の趣旨

 原子力委員会は、昭和42年4月、原子力開発利用長期計画を策定し、原子力の開発利用の促進をはかってきたが、この長期計画は、策定後4年有余経過し、この間に原子力をめぐる内外の情勢の変化も著しいものがあるので情勢の変化に即応したものとすることが必要となってきている。
 このため、長期計画を改訂し、新しい長期計画のもとに開発利用を促進することが必要となった。改訂の要因となった主要事項は次のとおりである。

(1)わが国のエネルギー需要は、今後とも続く経済成長を反映して現行長期計画策定時の予想を大幅に上まわる増大傾向を示し、この傾向は、なお当分続くものと予想される。このエネルギー供給を担っている化石燃料は、大気汚染防止問題、原油の国際価格上昇問題等があり、将来とも化石燃料に全面的に依存することに対して不安がある。一方、軽水炉を中心とする発電用原子炉は原子力開発の進展にともない著しい技術進歩をとげ、その経済性をほぼ確立するに至っている。このような状況のもとに総エネルギー需要の急激な増大に対処してエネルギー源としての原子力への要請は一段と高まりつつあり、今後原子力発電所の建設は、現行長期計画策定時に予期した以上に大幅に進めなければならない事情にある。
 したがって、これに対処して、わが国における原子力発電の開発規模の見通しについて再検討するとともに、新型動力炉の利用の見通しをより具体的にすることが必要となってきた。

(2)原子力発電の実用化の急速な進展にともない、ウラン資源の確保、濃縮ウランの確保等の核燃料の供給、再処理工場の建設等核燃料の安定供給と有効利用のための施策を確立しなければならなくなってきている。とくに、ウラン資源の確保については急増する需要に対処して、海外資源の開発を積極的に進めることがますます重要となっている。また、濃縮ウランの確保については、長期的には、海外に全面的に依存することが困難な見通しにあり、しかも欧州共同濃縮工場の提案、欧州3国によるウラン濃縮共同計画の進展、米国のガス拡散法によるウラン濃縮技術の海外提供の動き等ウラン濃縮をめぐる国際情勢は近時一層進展している。このような情勢下において、わが国はウラン濃縮の研究を推進しつつ、将来における濃縮ウランを合理的に確保するための方策を確立しなければならない。

(3)原子力発電の進展、使用済燃料の再処理工場の建設等にともない、今後大量の放射性廃棄物が発生することが見込まれている。この放射性廃棄物の処理処分について具体的な対策を確立すべき時期にきており、このことは、原子力開発利用を推進するうえにおいて重要な課題となっている。

(4)原子力発電所をはじめ核燃料施設、再処理工場等の多種多様化する原子力施設の建設を円滑に推進して行くためには、国土が狭く、人口密度の高いわが国としては、環境との調和を考えた立地問題に対する対策を講ずるとともに、原子力施設の安全性および環境放射能対策に、万全を期することは、一段と重要性を増している。

(5)その他、原子力船の開発、放射線利用の推進、核融合研究の推進、基礎研究の促進等に関し、研究開発の進展に応じて施策の大綱をより具体的に示すほか、国際協力の進め方、保障措置の実施方策、原子力関係科学技術者の確保策等についても、最近の原子力をめぐる内外の情勢の変化に即応し新たな観点から検討することが必要となっている。
 以上のような新しい情勢に対処して、わが国の原子力開発利用全般にわたりこれを推進するうえに基本となる考え方を明らかにし、これに基づき長期計画を改訂するものとする。
 新長期計画は、昭和65年度までの20年間における将来の姿を展望しつつ、昭和55年度までの10年間における原子力開発利用の重点施策の大綱および推進計画を明らかにするものとする。


 2 計画改訂の方針

(1)原子力発電

(方針)

 原子力発電はエネルギーの安定供給上の有利性、経済性向上の見通しからみて、今後のわが国の経済社会の発展を支えるエネルギー供給の有力な担い手となるものであり、その開発を積極的に推進する。
 原子力発電の開発規模の見通しとそのすすめ方を明らかにするにあたっては、環境との調和を十分配慮するほか、原子力のエネルギー源としての有利性、動力炉の研究開発計画を考慮しながら決定する。

(審議事項)

(イ)原子力発電技術の進歩、ユニット容量の増大、核燃料価格等の動向を見きわめ、ここ当分の間、わが国の原子力発電の主流を占めると思われる軽水型原子力発電の経済性の見通しを検討する。

(ロ)新型転換炉は、昭和50年代後半に実用化が見込まれるので、核燃料の節減効果と経済性を勘案してその開発利用の具体的計画を検討する。高速増殖炉は、昭和60年代初期に実用化が見込まれるので、その開発の具体的計画を検討する。

(ハ)原子力発電開発規模については、関係諸機関の検討結果を考慮し、エネルギーの需要見通し、原子力発電の経済性の見通し、電源構成のあり方、核燃料の安定供給と有効利用の方策等との関連において検討する。

(ニ)原子力発電所をはじめとする原子力施設の用地の確保の円滑化に必要な措置を検討する。

(2)動力炉開発

(方針)

 動力炉の研究開発は、わが国のエネルギー政策上の重要課題であるとともに、科学技術水準の向上、産業構造の高度化に資するものであるので、わが国においても、国際交流を進め、開発の効率性に十分留意し、可能な限り自主的な開発を行なうことが必要である。このような観点から、動力炉開発については、原子力委員会が決定した第2次動力炉開発基本計画およびそれに続く基本計画に基づいて進めることとし、その利用促進計画を具体的に策定するものとする。

(3)核燃料

(方針)

 原子力発電の進展にともない急増する核燃料需要に対処して、核燃料の安定供給と有効利用をはかることを目標にして、核燃料の供給および利用に対する施策を講ずるとともに必要な研究開発を促進する。

(イ)わが国が必要とするウラン資原の供給は、その大部分を海外に依存せざるをえない状況であるので、海外(ウラン)資源の安定確保のためには、長、短期の購入契約と並んで、海外における探鉱開発を積極的に進めるべきである。

(ロ)濃縮ウランの供給は、当分の間は海外に依存せざるをえない。しかし、長期的には、海外から低廉かつ安定的な供給を期待することは困難となることも危惧されるので、濃縮ウランをめぐる国際情勢の進展状況を勘案しつつ、その合理的な供給確保策を講ずるものとする。

(ハ)核燃料の加工事業は民間において行なうことを期待する。

(ニ)使用済燃料の再処理は、第2再処理工場以降は民間企業にその建設、運営を期待するものとし、このため、所要の措置を検討する。なお、使用済燃料の輸送は民間において行なうものとして輸送事業の育成をはかる。

(ホ)プルトニウムについては、高速増殖炉への利用を最終目標とするが、その本格的利用までには長期間を必要とするので、当面熱中性子原子炉への利用をはかるものとする。
 プルトニウム燃料の研究開発は、新型転換炉および高速増殖炉燃料については動力炉開発計画の一環として進めるものとし、熱中性子炉燃料については、民間において利用の推進がはかられることを期待する。

(ヘ)炭化物燃料、窒化物燃料等将来その実用化が期待される核燃料の研究開発は、日本原子力研究所、民間企業等が協力して推進するものとする。

(審議事項)

 ウラン資源の確保策および濃縮ウランの確保のための施策については、ウラン資源確保対策懇談会、濃縮ウラン対策懇談会の審議結果にそって検討する。

(イ)再処理事業については、第2再処理工場建設時期および所要の措置を検討する。

(ロ)プルトニウムの長期的需給の見通しと利用の促進方策を検討する。

(4)原子力船

(方針)

 原子力第1船の開発は、原子力第1船開発基本計画に基づいて推進する。また昭和51年度以降の第1船の運航等については、第1船の実験航海によって各種データが得られるほか、その間原子力商船の実用化の見通しがより明確になると思われるので、これらの状況を勘案して第1船の保有形態および運航方針について明確にするものとする。
 長期的にみた原子力船の開発については、民間が主体となって進めるものとし、当面、原子力船実用化のためもっとも中心的な技術課題である船用炉の研究開発を進めるものとする。

(5)原子炉の多目的利用

(方針)

 原子炉の多目的利用においてエネルギー政策上もっとも意義の大きい原子力製鉄をはじめ、広く多目的利用を推進する必要がある。この観点から、高温ガス炉の研究開発の進め方および原子力製鉄を中心とした原子炉多目的利用の見通し等を明らかにするとともに在来炉の外目的利用について、所要の方策を講ずる。

(審議事項)

(イ)製鉄に直接利用可能な高温ガス炉の研究開発の進め方を検討する。

(ロ)製鉄を中心とした原子炉多目的利用の見通しとその研究開発の進め方を検討する。

(ハ)在来炉の多目的利用の見通しとその進め方を検討する。

(6)放射線利用

(方針)

 放射線利用は、原子力の動力利用とともに、広汎な分野にわたり、産業の発展、国民福祉の向上に大きな貢献が期待されるので、医学、農林水産業、鉱工業等の各分野においてなお一層の研究開発および利用の促進をはかる。とくに、放射線化学、食品照射等に関しては研究の進展にともない実用化の見通しを明らかにするとともに、利用の促進をはかる。また、放射線の新しい医学利用における研究開発を積極的に進め、放射線利用の促進をはかる。

(審議事項)

(イ)放射性アイソトープの供給体制の整備等線源確保の方策について検討する。

(ロ)アイソトープの国産化に関連して、使用済燃料の再処理によって得られる大量の核分裂生成物より有用なアイソトープを分離する研究および核分裂生成物そのものの利用法も含め分離した有用なアイソトープの利用法について検討する。

(ハ)放射線化学、食品照射等に関し、今後の研究方針および実用化時期の見通しと利用普及の方策について検討する。

(ニ)放射線の新しい医学利用の研究開発の進め方を検討する。

(7)放射性廃棄物の処理、処分

(方針)

 放射性廃棄物は、原子力発電をはじめとする原子力開発利用の進展にともないますます大量に発生することが見込まれるので、これらの処理、処分を安全かつ合理的に行なうための施策を講ずるとともに必要な研究の促進をはかる。

(審議事項)

(イ)放射性廃棄物の処理、処分の進め方について検討する。

(ロ)放射性廃棄物の処理、処分に関する研究について、関係機関における研究分担と研究の促進方策を検討する。

(8)核融合

(方針)

 核融合の研究については、当面、核融合研究開発基本計画に基づき、研究を進めるものとするが、その後の進め方については、海外における動向を勘案しつつ、長期的観点から研究の推進をはかる。

(審議事項)

(イ)昭和50年度以降における核融合研究について総合的推進体制の検討を含め研究の進め方を検討する。

(ロ)核融合炉に関する工学的研究の進め方について検討する。

(9)基礎研究

(方針)

 基礎研究は、原子力の幅広い開発利用の将来の発展を支えるうえに重要な基盤となるものであるとともに科学技術水準の向上に大きな役割を果たすものである。とくに、返年、原子力分野における境界領域の重要性がましているほか、科学の進歩にともない大型研究施設の整備充実が要請されている。
 このような観点から、基礎研究については主として大学における研究の進展に期待し、目的基礎研究については、日本原子力研究所、国立試験研究機関等において研究を推進するとともに、大学における研究の進展に期待する。また、産・官学の人材の交流等を積極的に進め、関係諸機関の研究の一層の緊密化をはかるほか、原子力における共同利用施設のより効率的活用をはかることとする。

(審議事項)

(イ)大学における研究との関連において日本原子力研究所、国立試験研究機関等の基礎研究分野における役割を検討する。

(ロ)産・官・学の共同研究体制のあり方をはじめ人材の交流促進等による関係機関相互の一層の緊密化をはかる方策を検討する。

(10)安全対策

(方針)

 原子力開発利用の進展にともない、原子力発電所をはじめとする原子力施設の大型化が進む一方、核燃料施設、再処理工場等原子力施設の多種多様化をもたらし、原子力施設の安全性の確保をはかることはますます重要となっているほか、原子力施設の周辺環境に及ぼす影響に関し、万全の対策を講ずることは、原子力開発利用の健全な発展をはかる上で、重要な問題である。
 このため、技術進歩に即応して、原子力施設の安全対策に万全を期すと同時にモニタリングシステムの強化等必要な施策を講ずる。また安全上の諸施策を実施するうえに必要な研究について、周辺還環の保全に関する研究を含め、総合的観点から積極的にその促進をはかる。

(審議事項)

(イ)原子力施設の安全対策および周辺環境の保全に必要な施策について検討する。

(ロ)原子力施設の安全性の確保等に必要な研究について、研究体制を含め、総合的な検討を行なう。

(ハ)人体に対する放射線の影響等に関し次の検討を行なう。

①低レベル放射能の人体への影響に関する研究の進め方

②職業人の放射線被ばくに関する研究の進め方

(11)国際協力

(方針)

 原子力開発利用におる国際協力の果たす役割の重要性にかんがみ、動力炉開発をはじめとする原子力開発利用の各分野において、積極的な国際協力を行なう。
 また、わが国の原子力開発利用は、今や研究開発から利用面にわたって国際場裡において重要な地位を占めるに至っている。したがって今後さらに、国際社会の発展に寄与すべく、国際機関等を通じ国際協力を積極的に進める。

(審議事項)

(イ)研究協力、資源確保をはじめ原子力開発利用を進める上に必要な国際協力の進め方を検討する。

(ロ)原子力開発利用における開発途上国援助の進め方を検討する。

(12)その他の促進方策等

(方針)

 原子力開発利用の推進をはかるため、上記開発利用、研究開発を促進するとともに、原子力産業の育成、原子力関係科学技術者の確保、原子力関係科学技術情報の交流の促進、原子力知識の啓発普及等について施策を確立し、強力に実施するものとする。また、保障措置に関しては長期的にみてわが国の原子力開発利用の健全な発展をはかる観点から、保障措置の合理化に努めつつ、必要な研究開発を積極的に進める。

(審議事項)

(イ)原子力関係科学技術者の確保について日本原子力研究所、放射線医学総合研究所その他国立試験研究機関における養成訓練の充実ならびに大学その他の教育訓練機関における教育計画の充実等科学技術者の確保に必要な措置を検討する。

(ロ)原子力に関する科学技術情報の交流の円滑化に関する方策を検討する。

(ハ)原子力産業の健全な発展をはかり、原子力開発利用を円滑に推進するため、その産業規模の見通しを明らかにする。


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