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昭和45年度原子力年報(概要)
-開発進む日本の原子力-



昭和46年8月3日

原子力委員会


 原子力委員会は、昭和31年以降、毎年わが国における原子力開発利用の動向をとりまとめた原子力年報を作成してきたが、このたび45年度を中心とする第15回原子力年報を作成した。

 本年報は15章からなり、第1章総論においては、原子力発電の実用化が急テンポに進展しつつあること、これに伴い核燃料確保の必要性が益々高まってきたこと、新型動力炉および原子力第1船の開発が本格化していること、放射線利用の進展、原子炉の多目的利用、核融合、中性子線によるガンの治療など新たな分野の研究開発、安全対策の充実、積極的な国際協力のほか、保障措置をめぐる国際的動きなどわが国における原子力開発利用の動向を総括的に概観した。

 第2章から第15章までの各論では、動力炉開発、原子力発電、核燃料、濃縮ウラン、原子力船、放射線利用、基礎研究および原子力特定総合研究、安全性の確保、放射性廃棄物の処理処分、環境放射能対策、国際協力、保障措置、原子力関係技術者の養成およびその他の活動、原子力関係予算についてそれぞれ述べている。

 このうち45年度における重要な動きを述べると次のとおりである。

(1)昭和41年12月から建設が進められていた東京電力(株)の福島原子力発電所1号炉および関西電力(株)の 美浜発電所の1号炉が完成し、わが国で運転中の原子力発電所は日本原子力発電(株)の東海発電所および同敦賀発電所と合わせて4基となり、合計電気出力は132万3000キロワットとなった。このほか、前年度に引き続き5基の発電用原子炉の建設が進められていたが、45年度においては、さらに4基の発電用原子炉の建設が着手された。これにより現在わが国で建設中の原子力発電設備容量は580万3000キロワットとなり、運転中を合わせると13基712万6000キロワットに達した。

(2)このような原子力発電開発の急速な進展に伴い、核燃料確保の必要性が従来にもまして緊要となってきた。海外のウラン資源の確保については、動力炉・核燃料開発事業団が先行的調査を進めるとともに、鉱山業界、電力業界が外国の企業と共同してカナダ、米国等で探鉱、開発を進めた。また、電力業界では長期購入契約によってウラン資源の確保をはかっている。
 ウラン濃縮サービスの確保については、日米原子力協定にもとづき、従来161トン(U235換算量)が供給されることになっていたが、45年度には48年末までに着工予定の13基の発電用原子炉に必要な濃縮ウランについても、追加供給することが事務的に合意された。しかし、長期的にウラン資源、濃縮ウランの安定供給の確保をはかることは、わが国の原子力開発を円滑に進めるうえで、きわめて重要であり、さらに積極的な施策を講じて行く必要がある。
 一方、使用済燃料の再処理については、動力炉・核燃料開発事業団が46年6月建設に着手し、また、核燃料の成形加工等の面においても民間企業において産業体制が整えられつつある等核燃料サイクル確立のために着実な進展がみられた。

(3)新型動力炉の開発については、動力炉・核燃料開発事業団を中心として積極的に進められてきたが、45年度は第1次基本計画の最後の年に当り、過去3ケ年の成果をふまえて新たに46年4月第2次基本計画が策定された。また、45年度には新型転換炉原型炉について内閣総理大臣の設置許可を得、敦賀において基礎工事が開始されたのを始め、高速増殖炉の実験炉については原子炉建屋の基礎工事を終え格納容器の据付けを行なうとともに、炉心本体構成機器の製作を開始した。高速増殖炉原型炉については前年度に引き続き第1次設計を行なうとともに、炉心およびプラントの主要仕様の評価検討を行なった。

(4)原子力船の開発については、原子力第1船「むつ」の船体工事が完了し45年7月日本原子力船開発事業団に引き渡された。「むつ」は現在、青森県むつ市において、原子力船特有の炉ぎ装工事を行なっており47年6月完成の予定である。完成後、燃料装荷、実験航海等を行ない、これらの取りまとめが完了するのは50年度となることが見込まれており、このため、日本原子力船事業団法を4年間延長し同法の存続期限を50年度末までとする旨の法律改正が行なわれた。これに伴い、原子力委員会は原子力第1船開発基本計画を改訂した。
 一方、原子力船の実用化については、その実現までには、まだかなりの時間を要するものとみられているが、油輸送船、コンテナー船等の大型化、高速化の傾向が著しく、原子力船に対する期待が大きいため、原子力委員会は舶用炉の開発を中心とした研究開発を促進することとしている。

(5)放射線利用については、逐年その利用事業所が増加しており、昭和46年3月現在2,091に達している。特に民間企業における工業利用が著しい。とくに45年度には、放射線滅菌法による医療用具の国内における使用が認可され、放射線利用の実用化は大きく前進した。
 放射線利用の研究開発については、食品照射、放射線化学などの分野で前進がみられ、食品照射については前年度に引き続き馬鈴薯、玉ねぎ、米等について保存性向上のための照射試験が行なわれたが、馬鈴薯についてはすべての試験がほぼ終了し、良好な成績をおさめている。

(6)以上述べた原子力の研究開発分野のほか中性子線によるガンの治療、人類の夢である核融合などの面で調査、研究が進められており、原子力関係への期待は一層広汎なものになりつつある。速中性子線のガン治療については、放射線医学総合研究所において、サイクロトロンの建設に着手し、これと並行して、速中性子線の医学利用についての研究開発を開始した。

(7)このような原子力開発利用にとって、安全性の確保は必須の要件であり、原子力委員会としても常に大きな努力を払ってきたところである。原子力委員会に設置されている動力炉安全基準専門部会においては、軽水炉についての安全設計に関する審査指針がまとめられたほか、安全性の確保に関する具体的措置等について、さらに慎重な評価検討を加えている。
 また、現行の原子力損害賠償制度の見直しを行なっていた原子力損害賠償制度検討専門部会は45年11月原子力委員会にその検討結果を答申した。
 これにもとづき「原子力損害の賠償に関する法律」および「原子力損害賠償補償契約に関する法律」の改正が行なわれた。

(8)原子力開発利用の推進にとって国際協力はきわめて重要な要素である。このため、国際原子力機関(IAEA)を中心とする多国間協力ならびに米国、欧州諸国をはじめとする二国間協力を積極的に推進してきた。
 多国間協力については、わが国は創設以来IAEAに加盟し、理事国として、45年3月に発効した核兵器不拡散条約(NPT)に基づく保障措置制度のあり方等の検討について、積極的にその活動に参加している。
 二国間協力については、日英原子力会議が英国において開催されたほか、米国との間でも45年3月の日米原子力会議の合意にもとづき、濃縮ウランの追加供給について事務的合意が得られるなど積極的な協力が行なわれている。


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