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中部電力(株)浜岡原子力発電所の
原子炉の設置に係る安全性について


昭和45年11月16日
原子炉安全専門審査会

原子力委員会
委員長 西田 信一殿

原子炉安全専門審査会
会長 内田 秀雄


中部電力株式会社浜岡原子力発電所の原
子炉の設置に係る安全性について

 当審査会は、昭和45年5月28日付け45原委第134号(昭和45年11月12日付け45原委第401号をもって一部訂正)をもって、審査の結果を求められた標記の件について、結論を得たので報告します。



Ⅰ 審査結果

 中部電力株式会社が商業発電を目的として静岡県小笠郡浜岡町佐倉に設置しようとする低濃縮ウラン、軽水減速、軽水冷却型(沸騰水型)原子炉に関し、同社が提出した「浜岡原子力発電所原子炉設置許可申請書」(昭和45年5月22日付け申請および昭和45年11月10日付け一部訂正)に基づいて審査した結果、本原子炉の設置に係る安全性は十分確保し得るものと認める。



Ⅱ 審査内容



1 設置計画の概要


 本発電所の立地条件および施設の概要は、次のとおりである。


1.1 立地条件

(1)敷地および周辺環境
 敷地は、静岡県御前崎町の西側、遠州灘に面した静岡県小笠郡浜岡町佐倉にある。
 敷地の北部および東部は標高30m前後の丘陵となっており、西南部は平地で、南部の海岸には砂丘が発達している。敷地全体の面積は約1,600,000m2である。
 原子炉は、敷地中央からやや西寄りに設置される。原子炉から敷地境界までの距離は敷地西側を流れる新野川に接した西北西方向の最短距離で約450m、北方向で約900m、東方向および東南東方向で約1,000m、海岸線まで約400mである。また、将来、敷地内の北側(原子炉から約600m)を国道150号線からのバイパス道路が通る予定である。敷地境界から北北西約500m(原子炉から約1,000m)に町営の浜岡浄水場がある。
 敷地周辺には、東北東約1.3kmに上の原部落、北東約1.5kmに雨垂部落、北約1.6kmに桜ヶ池部落があり、原子炉から半径1km以内の人口は約40人、2km以内で約1,900人、5km以内で約16,900人、10km以内で約60,500人である。
 敷地に近い主な都市には、静岡市(北東約45km)および浜松市(西北西約39km)がある。

(2)地質
 敷地付近の地質は、第三紀中新世の相良層とこれを被覆する沖積層および洪積層から構成されている。相良層は、砂岩と泥岩の互層でありその性状は堅硬である。
 発電所設置位置における地質は、沖積層および洪積層の厚さが3~5mと比較的薄く、相良層の岩盤面は平坦であり、基礎として問題となるような規模の断層または破砕帯は見当たらない。
 原子炉建屋は、沖積層および洪積層を取り除いた相良層の泥岩上に設置され、基礎岩盤は十分な地耐力を有する。

(3)海象
 潮位は、敷地近くの御前崎検潮所(敷地東南東約8km)における観測記録によれば、東京湾中等潮位に比較して、最高1.98m(昭和35年5月24日チリ地震津波)、最低-2.18m(同じくチリ地震津波)であり、朔望平均干満差は1.66mである。
 波高は、敷地附辺での観測記録はないが、敷地前面海域と類似している港美半島赤羽根(敷地西方約87km)の観測記録によれば沖波の最大波高は7.15mである。
 浜岡前面海域の流れは潮汐流が支配的であり全般的には海岸線に平行したものが卓越している。
 なお、原子炉建家は、標高6mの整地面に設置される。

(4)気象
 敷地における1年間の観測結果によれば、年間を通じて西風が卓越している。また、静穏状態の年間出現頻度は標高101mで約3%、標高15mで約9%であり、そのうちそれぞれ約80%
および約75%は継続時間が2時間以下である。
 大気の安定状態(英国気象局法によるE.FおよびG型)の出現頻度は、年間約16%である。
 また、標高100m以上が温度逆転である頻度は約13%である。

(5)地震
 過去の記録によると、静岡県近辺の地震活動性はかなり高く、被害を及ぼすような大地震がたびたびあったが、いままでのところ浜岡近辺ではほとんど被害を受けたことはない。また、静岡県遠江地方に大きな被害をもたらした東南海地震のときでも、敷地付近の被害はほとんどなかった。

(6)水利
 本発電所で使用する淡水は最大約1,000t/日である。この水は、新野川流域の地下水を敷地の北方約1kmの地点で揚水することにより確保することとしており、この揚水可能量は約3,000t/日と推定されている。
 復水器冷却用水および補機冷却用水は、発電所前面海域の沖合約600mに取水塔を設け、そこから海底の取水トンネルを通して取水し、敷地前面汀線付近の放水口から放出される。
 発電所敷地内の地下水の流れはおおむね陸より海の方向に向っている。



1.2 原子炉施設
 本原子炉は、先行の東京電力(株)福島原子力発電所2号炉および3号炉とほとんど同様の設計による熱出力約1,593MW(電気出力約540MW)の直接サイクル強制循環沸騰水型である。
 炉心部は、円筒形鋼製圧力容器に収められている。炉心は、燃料棒49本を7×7に組み立てた集合体を1単位とし、この集合体約368個で構成される。燃料棒は、低濃縮二酸化ウラン焼結ペレットをジルカロイ-2製の被覆管内に封入したものであり、その装荷量は、ウラン約72tである。
 制御棒は、ボロンカーバイト粉末を充填したステンレス鋼管を十字型に配列したもので、圧力容器の下方から水圧により駆動される。
 圧力容器内には、気水分離器および気蒸乾燥器が炉心上方に設けられ、ジェットポンプが炉心を取りまいて設けられる。
 冷却系は、給水系、再循環系および主蒸気系からなっている。
 原子炉の制御は、制御棒の操作および再循環流量の調整によって行なわれる。
 圧力容器、再循環回路等原子炉の主要部分は、鋼製格納容器に収められている。格納容器は、ドライウエルとサプレッションチェンバを備えた圧力抑制型で、原子炉建家内に設置される。
 そのほか、放射性廃棄物処理設備、放射線管理設備等が設けられる。



2 安全設計および安全対策

 本原子炉は、次のような種々の安全設計および安全対策が講じられることになっており、かつ「安全設計審査指針」にも十分適合していると認められるので、十分な安全性を有するものであると認める。


2.1 核、熱設計および動特性

(1)核、熱設計
 実効余剰増倍率は、第1炉心(濃縮度約2.4w/o)の初期には約0.25(ΔK)となるが、ポイズンカーテンを炉内に装荷することにより、最大約0.13(ΔK)に抑えられる。ポイズンカーテンは、最初の燃料取替時に全部取り出される。
 第2サイクル以降、濃縮度約2.8w/oの燃料を装荷する計画であるが、その場合も、実効余剰増倍率は最大約0.15(ΔK)に保つことにしている。
 冷却材の圧力および温度は、原子炉出口において定格出力運転時にそれぞれ約71kg/cm2gおよび約286℃であり、定格出力運転時における燃料棒の最高線出力密度は約0.61kw/cmで最高被覆表面温度および最高中心温度はそれぞれ約300℃および約2,460℃である。また、このときの最小限界熱流束比(MCHFR)は1.9以上である。
 タービン発電機トリップ、再循環ポンプ電源喪失などの比較的おこる可能性の大きい運転上の過渡状態にあっても、最小限界熱流束比は1.1を下回らず、また最高線出力密度0.92kW/cmをこえることはなく、燃料の許容損傷限界をこえない。

(2)動特性
 本原子炉は、ドップラー効果、減速材のボイド効果等により負の反応度出力係数をもち、制御棒の操作等に起因する反応度の外乱に対して自己制御性を有している。
 また、原子炉出力制御は、制御棒を定格出力に対応する位置に設定したまま、再循環流量制御方式により定格出力の100~75%の間で、十分安定な運転を行なうことができる。



2.2 燃料
 燃料は、二酸化ウランペレットを長さ約4mのジルカロイ-2製の被覆管(肉厚約0.8mm)に入れたものである。
 高出力、高燃焼度の部分にはディシュドペレットを使用し、中性子照射によるスエリングにより、燃料被覆管に過大な歪が生じないよう配慮されている。
 燃料被覆管は、ペレットによる内部からの支持がなくなっても外圧によって圧壊することのない自立形の設計であり、燃料棒上部に設けられるプレナム体積も、最高燃焼度に対応する核分裂生成ガス等の蓄積により過大な内圧上昇をもたらさないよう十分大きくとってある。
 燃料集合体は、上下燃料棒支持板を結びつける8本の燃料棒と1本のスペーサー支持燃料棒によって保持され、燃料棒はすべて長さ方向の自由膨張ができる構造になっている。


2.3 計測および制御系

(1)核計装系
 原子炉中性子計装については、検出器が炉心全域に配置され、炉心内の局部的な中性子束上昇が検知できるよう設計される。

(2)安全保護系
 安全保護系は、電源喪失、回路の断線等に対してフエイルセーフな設計であり、中性子束、原子炉圧力、原子炉水位等の重要な検出要素については独立した検出回路が多数重複して設けられ、保護動作の確実性を高めるよう配慮されている。

(3)反応度制御系
 制御棒の反応度抑制効果は、実効増倍率の変化にして約0.18(ΔK)である。制御棒はどの1本が引抜かれた状態でも原子炉を停止させる能力を持っている。
 すなわち、最大の反応度を持つ制御棒が完全に引抜かれていてその他の制御棒が全挿入の場合、原子炉がいかなる状態にあっても常に全炉心の実効増倍率が0.99以下となるように設計される。
 制御棒は水圧式駆動機構により下方から操作される。スクラム動作は制御棒ごとに設けられたアキユムレータの水圧によって行なわれ、その圧力が低下した場合には炉内圧力によって行なわれる。
 スクラム動作に必要な弁は空気系によって操作され、空気圧の低下に対してフエイルセーフな設計となっている。この方式については、使用経験によって信頼性が確められている。
 このほか、後備停止装置として手動によるほう酸注入系があり、全制御棒が動かなくなった場合でも単独で原子炉を冷態停止させる能力をもっている。
 以上のような配慮がなされているので、いかなる場合でも、原子炉の停止は確実に行なわれる。
 また、制御棒には、誤って炉心から脱落した場合の落下速度を制限するために、制御棒落下速度リミッタが設けれる。原子炉容器の下側には、制御棒駆動機構のフランジあるいはハウジングが破損しても制御棒が逸出しないようハウジング支持機構が設けられる。

(4)制御棒操作
 制御棒の操作は、運転員が所定の手順に従って行ない、操作手順は安全上制御棒1本あたりの効果が過大とならないように定められる。運転員の誤操作に対しては、後備保護装置として制御棒価値ミニマイザおよび制御棒引抜監視装置が設けられており、誤動作は自動的に阻止される。したがって、制御棒価値ミニマイザの働きによって実効増倍率の増加は0.025(ΔK)をこえることはなく、また制御棒引抜監視装置の働きによって、部分的高出力となって燃料破損をきたすような制御棒の連続引抜きは生じえない。

(5)出力制御系
 原子炉の出力制御は、手動による制御棒位置および自動または手動による再循環流量の調整の2方法によって行なわれる。
 制御棒は燃料燃焼にともなう長期の反応度変化に対する調整および出力分布の調整に使用され、負荷変化は原則として再循環流量制御方式による。流量は再循環ポンプの速度を変えることにより調整される。すでに述べたように、流量調整による出力制御範囲は原子炉系の安全性を考慮して定められる。

(6)中央制御室
 中央制御室には、原子炉施設の運転に必要なすべての計測制御装置が設備される。また、事故時においても運転員が安全に所要の措置をとりうるようにしゃへい、換気等の放射線防護上の配慮がなされている。



2.4 原子炉容器および原子炉冷却設備

(1)原子炉容器、配管等
 原子炉容器、配管等原子炉冷却材圧力バウンダリを形成する系の設計、材料選定、製作ならびに検査については、わが国の法令を満足するようになっている。また、この系は、制御棒落下あるいは冷水付加のような急激な反応度事故を生じたとしても破損することのないように設計される。
 さらに、原子炉容器は、脆性破壊を防止するため、加圧時は使用される材料の脆性遷移温度より33degC以上高い温度を保つようにしている。運転中、脆性遷移温度の変化は、照射試料を炉内に挿入して原子炉寿命中に数度取り出して試験をすることにより確認する。
 なお、原子炉容器、再循環ポンプ、各種弁および配管等の主要機器は、その健全性を評価するために試験および検査ができるように設計上配慮することにし、また、これら機器、配管類を開放した場合には、原子炉の起動前に必ず水圧試験を行ない、漏洩のないことを確認することにしている。

(2)安全弁、逃し弁、タービンバイパス系等
 格納容器内の主蒸気管には、安全弁および逃し弁が設けられ、事故時に原子炉系に生じる異常な圧力上昇を抑えるようになっている。また、主蒸気管には、定格蒸気量の約25%をバイパスして直接復水器に導くタービンバイパス系が設けられ、原子炉起動、停止時および過渡状態での主蒸気圧力の調整を行なうことができるようになっている。
 そのほか、原子炉停止後の炉心崩壊熱を除去する原子炉停止時冷却系が設けられる。



2.5 燃料取扱設備
 燃料取替は、原子炉容器の上方まで水を張り、燃料交換プラットホームに取り付けられた燃料つかみ器で行なわれる。このつかみ器は、駆動源喪失時においても燃料が落ちないような構造に設計される。燃料取替中は、臨界防止のためインターロックによって制御棒は引き抜けないようになっている。
 また、破損燃料を検出する装置があり、検出された破損燃料は燃料プールに移され、破損がはなはだしい場合は容器に収納される。
 燃料プールは、原子炉建家内に設けられ、全炉心装荷量および1回取替量以上の燃料(約150%炉心分の燃料相当)ならびに制御棒、ポイズンカーテン等を貯蔵する能力を有するように設計され、かつ、冷却、浄化、臨界防止等について十分配慮されている。


2.6 廃棄物処理設備

(1)気体廃棄物
 本原子炉から発生する気体廃棄物のほとんどは、一次冷却系からのもので、ガス減衰タンク(1日分の貯留容量のもの2基)およびフイルタを通して、放射能レベルの連続測定後、標高約106m(地上高さ約100m)の排気筒から放出される。

(2)液体廃棄物
 液体廃棄物は、液体廃棄物処理施設で処理され、極く低レベルの放射性廃液を除き環境へ放出されない。
 原子炉冷却系およびタービン系から生じる放射能濃度の高い機器ドレンは、フイルタおよび脱塩装置によって処理され、サンプルタンクで放射能レベルを測定後、補給水として再使用される。
 各建家の床ドレンは、フイルタまたはフイルタと脱塩装置によって処理され、サンプルタンクで放射能レベルを測定後、再処理または放出される。
 樹脂再生などの際に生じる再生廃液は、中和処理後、放射能濃度が高い場合には濃縮、固化される。放射能濃度が低い場合には、床ドレン系に移した後、放出される。

(3)固体廃棄物
 放射能の高い使用済制御棒、ポイズンカーテン、燃料チャンネルボックス等は、その放射能が十分減衰するまで燃料プールに貯蔵、保管される。その他の固体廃棄物は、ある期間貯蔵タンクで減衰させた後、ドラム缶内に固化し、固体廃棄物置場に保管される。



2.7 放射線管理

(1)放射線しゃへい等
 放射線しゃへいは、従業員の作業時間に応じ、その被ばく線量が現行法令に定められた許容量を十分下回るように設計される。
 換気系は、主要な場所ごとに別系統となっており、事故時における放射能汚染の拡大防止等について十分配慮されている。

(2)廃棄物の放出管理
 気体廃棄物は、放出に先立って放射能レベルが連続的に測定される。測定の結果、放射能が高い場合には排気筒からの放出は一時中止し、ガス減衰タンクに貯留し放射能を減衰させたのち、気象条件を考慮して放出する。
 最高放出率は1日平均50mCi/sec(γ線エネルギー0.17MeV相当)に抑えられるが、放出される放射能の量はできる限り低くすることにしている。
 放射能レベルの低い液体廃棄物を放出する場合は、復水器冷却水で希釈し、その濃度は法令に定める許容値以下にすることにしている。固体廃棄物は、これを海洋投棄する場合には関係官庁の承認を受けることにしている。

(3)放射線監視
 発電所敷地内における放射線監視は、固定モニタによる中央制御室での連続監視、移動モニタによる定期監視、サンプリング測定等によって行なわれる。また、個人の被ばく管理に必要な機器も備えられる。
 発電所敷地外に関連する放射線監視として、排気筒モニタおよび排水モニタによる連続監視が行なわれる。また、気体廃棄物の放出管理のため風向風速の連続監視が行なわれる。
 さらに、周辺監視区域境界付近数か所に設けられるモニタリングポストおよび敷地外の適当な場所数か所に設けられるモニタリングステーションにより空間線量率および積算線量の測定監視が行なわれる。
 そのほか、放射能観測車による放射線の測定や環境試料のサンプリング等により周辺一般公衆の被ばく線量が法令に定める許容値以下であることを確認することになっている。



2.8 原子炉非常冷却系
 原子炉冷却機能が失われるような事故時においても、原子炉停止後の炉心崩壊熱を除去しうるように、次のような配慮がなされている。

(1)原子炉隔離時冷却系
 原子炉隔離時に、蒸気の一部を利用したタービン駆動ポンプにより復水タンク水と余熱除去熱交換器の凝縮水またはサプレッションプールの水を炉内に補給し、炉心水位を維持する。
 この系は外部電源を必要としない。

(2)炉心スプレイ系
 再循環回路の完全破断のような大破断に対しては単独で、中破断に対しては高圧注入系と連携して燃料の溶融を防止するための系統で、サプレッションプールの水を炉心上に取り付けられたノズルからスプレイする。
 この系は独立な2系統からなっており、非常用電源にも接続される。

(3)低圧注入系
 再循環回路の完全破断のような大破断に対しては単独で、中破断に対しては高圧注入系または自動逃し弁と連携して燃料の溶融を防止するための系統で、サプレッションプールの水を破断していない方の再循環配管を通して原子炉容器内に注入する。
 この系は2系統からなっており、非常用電源にも接続される。

(4)高圧注入系
 原子炉一次配管の小破断に対しては単独で、中破断に対しては炉心スプレイ系または低圧注入系と連携して燃料の溶融を防止するための系統で、タービン駆動ポンプにより復水タンク水またはサプッションプールの水を給水配管を通して炉心に注入する。
 この系は外部電源を必要としない。



2.9 放射性物質の放出防止
 事故時においても、周辺環境に大量の放射性物質が放散されないように、次のような配慮がなされている。

(1)圧力抑制型格納容器
 原子炉容器、再循環回路等を完全に取り囲む格納容器が設けられる。格納容器は、ドライウエルおよびそれにつながるサプレッションチェンバからなる圧力抑制型であり、再循環回路破断等の事故によって炉心に蓄積された放射性物質が、原子炉建家内へ漏洩するのを抑制するようになっている。
 また、格納容器には窒素ガスが充填され、事故に伴うジルコニウム-水反応によって発生する水素の燃焼を防止するようになっている。
 設計圧力は、3.92kg/cm2gとしてある。これは、後に述べる仮想事故のジルコニウム-水反応による圧力、温度上昇があったと仮想しても十分の余裕がある。また、漏洩率0.5%/日(空気、常温、設計圧力において)をこえることのないように設計され、その漏洩率も必要な場合には試験できる設計となっている。
 さらに、脆性破壊を防止するため、使用材料の脆性遷移温度は、最低使用温度より17degc低い温度以下としている。

(2)格納容器冷却系
 サプレッションチェンバ内のプール水をドライウェル内にスプレイする格納容器冷却系が設けられ、格納容器の圧力抑制効果を高めるようになっている。
 この系は独立な2系統からなっており、非常用電源にも接続される。

(3)隔離弁等
 格納容器を貫通する主蒸気管等の主要な配管にはドライウエルの内外に2個の隔離弁が設けられ、事故時に放射性物質が周辺環境に放出されないようになっている。
 なお、主蒸気隔離弁は、十分短い時間(3~5秒)で閉鎖できるよう設定される。また、主蒸気隔離弁の漏洩率、閉鎖時間等の性能については、必要な場合試験できる設計となっている。さらに主蒸気管には破断事故時に冷却材の放出量を制限する流量制限器が設けられる。

(4)非常用ガス処理系
 原子炉建家内は常時負圧に保たれており、事故時に格納容器から漏洩してくる放射性物質は、非常用ガス処理系によりろ過して排気筒から放出され、直接周辺環境に放散されるのを防止するようになっている。
 非常用ガス処理系は、ファン、湿分除去装置粒子用高効率フィルタおよびチャーコールフィルタにより構成され、性能を確認するための試験検査ができるような設計になっている。
 この系は独立な2系統からなっており、非常用電源にも接続される。



2.10 安全防護設備の機能確保

(1)非常用電源等
 原子炉施設に必要な電力は発電機または275kV2母線から供給されるが、さらに予備電源として77kV送電線からも受電できる。これらの電源がすべて喪失しても、原子炉施設の安全確保に必要な電力は、ディーゼル発電機および所内の蓄電池から供給できるようになっている。

(2)保守点検
 計測および制御系、ほう酸注入系、炉心スプレイ系、高圧注入系、低圧注入系、格納容器冷却系、非常用ガス処理系および各種の弁類は、原子炉施設の耐用時間を通じて、運転中あるいは停止中に点検または試験し、その機能が確認できるように設計される。



2.11 耐震上の考慮
 原子炉施設は、原則として剛構造とし、重要な建物、構築物は直接岩盤に支持される。すべての施設は、安全上の重要度に応じてA、BおよびCの3種のクラスに分類され、それらに応じて耐震設計が行なわれる。
 原子炉、原子炉建家等のように、その機能喪失が原子炉事故をひきおこすおそれのある施設および周辺公衆の災害を防止するために緊要な施設はAクラスとする。
 Aクラスの建物、構築物の耐震設計は、基盤における最大加速度が300galの地震波により動的解析を行なって求められる水平震度または建築基準法に示された水平震度(この場合、地域による低減は行なわない。)の3倍のいずれをも下回らない値によって行なわれる。垂直震度は、建物、構築物の高さ方向に一定とし、建築基準法に示された水平震度の1.5倍を下回らない値とし、水平および垂直方向の地震力は同時に不利な方向に作用するものとする。
 Aクラスの機器、配等類の耐震設計は、基盤における最大加速度300galの地震波により動的解析を行なって求められる水平震度による。ただし、この水平震度は、据付位置における支持構造物の水平震度の1.2倍を下回らないようにする。垂直震度は、建物、構築物に対する値をとり、水平および垂直方向の地震力は同時に不利な方向に作用するものとする。また、これらの振動によって生ずる変位、変形は、機能保持に支障ないものとする。
 また、Aクラスのうち、安全上特に緊要な原子炉格納容器、制御棒駆動機構等については、基盤における最大加速度が450galの地震動による動的解析を行ない、その機能が保持されることを確認する。
 タービン設備、廃棄物処理設備のように、高放射性物質に関する施設はBクラス、その他の施設はCクラスとし、それぞれ建築基準法に定められた水平震度の1.5倍および1倍の値によって耐震設計が行なわれることになっている。
 なお、原子炉圧力容器内構造物、サプレッションチェンバ等の支持方法については、詳細設計にあたって十分配慮されることになっている。
 また、地震の際に原子炉を非常停止させるため、地震加速度検出計を設け、自動的に原子炉を停止することができるようになっている。



3 平常運転時の被ばく評価

 平常運転時における被ばく評価は次のとおりであり、敷地周辺の公衆に対する放射線障害の防止上支障がないものと認める。


3.1 気体廃棄物
 気体廃棄物の放出にあたっては、周辺監視区域外における年間被ばく線量が法令に定める値をこえないようにすることは勿論のこと、放出等理を十分に行なって、できるだけ被ばく線量を少なくするようにしている。
 放出率は、1日平均で最高50mCi/sec(γ線エネルギー0.17MeV相当)に抑え、これをこえるような運転は行なわないことになっている。かりに最高値で連続放出するとして、敷地における1年間の気象観測データを用いて年間の被ばく線量を計算すると、敷地外で被ばく線量が最大となるのは敷地境界(原子炉から東約850m)であって、その地点における被ばく線量は、γ線約0.015rem(β線約0.003rem)となる。これは、周辺監視区域外の許容被ばく線量(0.5rem/年)を十分下まわっている。さらに、実際の運転時には、これよりもかなり下回ることが予想される。
 なお、敷地内外に放射線監視設備を設け、十分な監視を行なうこととしている。


3.2 液体および固体廃棄物
 安全設計および安全対策の項で述べたように、液体および固体廃棄物の廃棄については、十分な安全対策を講じることになっている。



4 各種事故の検討

 本原子炉において発生する可能性のある事故として、運転時における単一機器の故障あるいは運転員の単一誤操作により引き起される過渡変化と機器の破損等によって引き起される事故とに分けて検討した結果、これらの事故について、それぞれ次のような対策が講じられており、安全性は確保しうるものであると認める。


4.1 機器の故障等

(1)再循環系の故障

 a 再循環ポンプの故障
 運転中に再循環ポンプ1台の軸が固着すると、全体の流量は低下するが、直ちに出力も低下するので、燃料被覆の破損には至らない。
 また、なんらかの原因により再循環ポンプ2台が同時に停止しても、系の慣性により流量の低下がゆるやかであるうえ、流量低下に伴う出力低下があるため、燃料被覆の破損には至らない。

 b 再循環流量制御器の誤動作
 再循環流量制御器の誤動作が起っても、再循環流量の最大変化率は制御系機器により制限されるよう設計されているので熱出力の変化率はわずかであり、燃料被覆の破損には至らない。

 c 再循環冷水ループの誤起動
 原子炉を再循環系1系統で部分負荷運転中停止している外部再循環回路の冷水が誤って炉心に流入しても、燃料被覆の破損には至らない。

(2)給水系の故障

 a 給水制御器の故障
 給水制御器の故障により給水がその最大変化率で増加しても、水位上昇によるタービントリップにより原子炉はスクラムされるので、燃料被覆の破損には至らない。

 b 給水加熱の喪失
 抽気弁のトリップあるいは加熱器のバイパスにより給水温度が下り、このため正の反応度が入っても、再循環制御系により炉心流量が減少し負の反応度を加え出力上昇を抑えるので、原子炉のスクラムには至らない。
 また、燃料被覆の破損にも至らない。

 c 全給水流量の喪失
 定格運転時に全給水流量が喪失すると水位は急速に低下するが、原子炉水位低により原子炉はスクラムされるので、燃料被覆の破損には至らない。

(3)主蒸気系の故障

 a 発電機トリップ(タービン加減弁急速閉鎖)
 高出力運転中に発電機トリップが生じると、圧力上昇により中性子束は上昇するが、タービン加減弁急速閉鎖信号により原子炉はスクラムされるので、燃料被覆の破損には至らない。

 b タービントリップ(タービン主蒸気止め弁急速閉鎖)
 定格出力運転時にタービントリップが生じると復水器の真空度が維持されている場合にはタービンバイパス弁が作動するが、真空度が維持されていない場合にはバイパス弁は作動しない。しかし、いずれの場合にも主蒸気止め弁閉鎖信号により原子炉はスクラムされるので、燃料被覆の破損には至らない。
 また、定格出力の30%以下の低出力運転時にタービントリップが生じても主蒸気止め弁位置による直接スクラムはバイパスされるが、原子炉は中性子束高スクラムによりスクラムされ、燃料被覆の破損には至らない。

 c 主蒸気隔離弁の閉鎖
 主蒸気隔離弁が最高閉鎖速度3秒で閉鎖しても、隔離弁閉鎖信号により原子炉はスクラムするので、燃料被覆の破損には至らない。

 d 初圧調整装置の故障
 初圧調整装置が故障するとタービン加減弁およびバイパス弁が開くかまたは閉じることになるが、過渡変化はタービントリップ、バイパス弁不動作の場合よりもゆるやかであるので、燃料被覆の破損には至らない。

 e 圧力逃し弁の開放
 圧力逃し弁1個が故障し開放しても、初圧調整装置が原子炉圧力を維持するように加減弁を絞るので、圧力低下はわずかにとどまる。

(4)制御棒駆動系の故障および誤操作

 a 未臨界状態からの制御棒引抜き
 原子炉の起動時に未臨界の状態から制御棒価値ミニマイザで許容される最大反応度価値の制御棒が引抜かれても、核的逸走はドップラー効果で抑えられ、かつ、中性子束高スクラムにより原子炉は停止し、燃料被覆の破損には至らない。

 b 出力運転中の制御棒引抜き
 定格出力運転中に誤って制御棒1本を連続的に引抜く場合には、制御棒引抜き臨視装置により引抜きは阻止される。この事故によって、最小限界熱流速比は約1.2にとどまり、燃料被覆の破損には至らない。

(5)補助電源の喪失
 常用所内電源がすべて喪失した場合には、安全系も停電するので原子炉はスクラムされ、スクラム後の原子炉は原子炉隔離時冷却系によって冷却される。安全上重要な機器を操作するに必要な非常用電源としては、非常用ディーゼル発電機および所内蓄電池系があるので、常用所内電源および外部電源がすべて喪失したとしても、発電所の安全性がそこなわれることはない。



4.2 機器の破損等による事故

(1)制御棒落下事故
 駆動軸から分離して炉心内にとどまっていた制御棒が臨界状態の炉心から脱落しても、制御棒の反応度効果は実効増倍率の変化にして0.025ΔK以下に抑えられており、落下速度は落下速度リミッタで制限される。この場合、核的逸走はドップラー効果で抑えられ、かつ、中性子束高スクラムにより原子炉は停止する。この事故による発生エネルギーによって燃料被覆の一部は破損することも予想されるが、核分裂生成物は一次冷却系内に保留される。

(2)制御棒逸出事故
 定格運転中に制御棒駆動機構のフランジあるいはハウジングが完全に破損しても、ドライウエル内に冷却材の流出があるので、ドライウエルの圧力上昇によりスクラムし原子炉は停止する。
 しかも、制御棒駆動機構ハウジングの下側には支持構造物を設け、制御棒の移動距離を小さくすることにより原子炉に大きな反応度を加えることにはならない。

(3)燃料取扱事故
 燃料取替は水中で行なわれるが、取扱系の故障により使用済燃料の集合体1個が落下し集合体の全燃料棒の被覆が完全に破損するような場合にも、放出される核分裂生成物の量はごくわずかで、しかも排気筒に導かれる前に非常用ガス処理系によって処理される。

(4)冷却材喪失事故
 なんらかの原因により冷却機の漏出ないしは喪失があって、炉心の冷却が十分でない場合にも次のような対策が講じられている。小破断に対しては、ドライウエルの温度および圧力の上昇、ドライウエル・サンプ水位の上昇によって検出することができ、原子炉隔離時冷却系および高圧注入系の作動によって原子炉への注水が行なわれる。また、高圧注入系のバックアップとして自動逃し弁を動作させて原子炉圧力を低下させ、炉水位が異常低下となっても炉心スプレイ系および低圧注入系が作動し十分な冷却が行なわれる。
 中破断に対しては、まず高圧注入系あるいは自動逃し弁が作動し、原子炉圧力が低下すると炉心スプレイ系または低圧注入系も作動し、原子炉に注水が行なわれる。
 大破断に対しては、原子炉水位の低下および原子炉圧力の減少により炉心スプレイ系または低圧注入系によって注水が行なわれる。
 いずれの場合にも、ドライウエル圧力高または原子炉水位低の信号によりスクラムされ原子炉は停止する。
 最も苛酷な例として、再循環回路配管が完全に破断する場合を仮定しても、炉心スプレイ系および低圧注入系の作動によって燃料被覆の破損は一部に抑えられ、燃料の溶融には至らない。この事故によって放出された核分裂生成物は圧力抑制型の格納容器内に保留され、さらに原子炉建家内に漏洩したものは、排気筒に導かれる前に非常用ガス処理系で処理される。

(5)主蒸気管破断事故
 主蒸気管がドライウエル外の箇所で破断しても、冷却材の放出流量は流量制限器で制限され、かつ流量制限器の圧力損失増加信号によって主蒸気隔離弁が急速に閉鎖し、冷却材の放出は短時間に止まる。また、主蒸気隔離弁閉スクラムで原子炉も停止する。
 この事故によって、主蒸気隔離弁閉鎖までに放出される冷却材中の放射能濃度はきわめて低い。また主蒸気隔離弁閉鎖後も漏洩は続くが、炉内圧力の急速な低下および逃し弁等による核分裂生成物のサプレッションチェンバへの移行により、その漏洩量はきわめて少ない。




5. 災害評価

 本原子炉は、すでに述べたように種々の安全対策が講じられており、かつ、各種事故に対しても検討の結果安全を確保しうるものと認めるが、さらに「原子炉立地審査指針」(以下「立地指針」という。)に基づいて重大事故および仮想事故を想定して行なった災害評価は次のとおりで、解析に用いた仮定は妥当であり、その結果は、「立地指針」に十分適合しているものと認める。



5.1 重大事故
 重大事故として、冷却材喪失事故、主蒸気管破断事故およびガス減衰タンク破損事故の3つの場合を想定する。

(1)冷却材喪失事故
 原子炉容器に接続している最大口径の配管である再循環回路配管1本が瞬時に完全破断し、冷却材が放出されると仮定する。
 解析の結果では、炉心スプレイ系1系統のみが作動するとしてもその冷却効果により燃料の溶融は生ぜず、燃料棒本数の13.5%が過熱のため被覆に破損がおこる。また、事故後のドライウエル圧力は十分低く抑えられ、約37日後には大気圧にもどる。
 なお、被ばく線量の計算には核分裂生成物の放散過程にしたがい次の仮定を用いる。
① 全部の燃料棒の被覆に破損があったとし、1年間定格出力運転後の炉心に内蔵されている核分裂生成物中のよう素の1%、希ガスの2%がドライウエル内へ放出される。この場合、よう素のうち10%が有機状のものとし、残りの無機よう素が格納容器の壁面等に吸着される割合を50%、液相-気相間の分配系数を100とする。有機よう素についてはこれらによる低減を期待しない。

② ドライウエルから37日間にわたって0.5%/日の漏洩がある。

③ ドライウエルから漏洩した核分裂生成物は、原子炉建家に入り、そこから換気率100%/日で非常用ガス処理系を通り、排気筒から放出される。

④ 非常用ガス処理系では、チャーコールフィルタでろ過する。よう素全対に対するろ過効率は90とする。

⑤ 大気中での拡散に用いる気象条件は、排気筒の高さ、現地の気象データ等をもとに「原子炉安全解析のための気象手引」(以下「気象手引」という。)を参考にして、最初2日間は高さ100m以下均一分布、拡散幅30°、有効拡散風速6m/sec(24時間放出として算出)とし、残りの35日間は大気安定度A型、拡散幅30°、有効拡散風速6m/sec(24時間放出として算出)とする。
 解析の結果、大気中に放出される放射性物質は、全よう素が約240Ci(131I換算、以下同様)、希ガスが約1.1×104Ci(γ線エネルギー0.5MeV相当、以下同様)である。
 敷地外において被ばく線量が最大となるのは敷地境界(原子炉から約450m)であって、その地点における被ばく線量は、甲状腺(小児)に対して約2.1rem、全身に対してγ線約0.008rem(β線約0.014rem)となる。

(2)主蒸気管破断事故
 ドライウエルの外で主蒸気管1本が瞬時に完全破断し、冷却材の気水混合物が大気中に放出されると仮定する。隔離弁の閉鎖時間は5.5秒、放出流量は流量制限器によって定格流量の約200%に制限されるものとして解析すると、隔離弁の閉鎖までに蒸気約5.9t、水約7.9tが放出されるが、炉心は露出しない。隔離弁閉鎖後は隔離弁からの漏洩により気相中の核分裂生成物が大気中へ放出されるものとする。
 そこで、次の仮定を用いて被ばく線量を計算する。
① 事故前の一次冷却材中の核分裂生成物の濃度は、原子炉運転中の冷却材放射能濃度の最高限度である45μCi/cm3(うち131Iで1.0μCi/cm3)とする。

② 事故発生後の原子炉圧力の減少に伴い、破損燃料から核分裂生成物が冷却材中に放出されるが、その量は全よう素が約3.8×104Ci(うち131I約2.0×104Ci)、よう素以外のハロゲン約6.1×104Ci(γ線エネルギー0.5MeV相当以下同様)希ガスが約4.5×105Ciとする。
 なお、隔離弁閉鎖までに、冷却材中に放出される核分裂生成物の1%が破断口からタービン建家を通じて放出されるものとする。

③ 原子炉圧力は隔離弁閉鎖後24時間で大気圧まで一定割合で減圧されるものとする。

④ 隔離弁は、8個のうち1個が閉じないものとする。隔離弁閉鎖後の漏洩率は、逃し弁作動圧力(75.9kg/cm2g)時において原子炉容器の蒸気相体積に対して60%/日とし、炉内圧の変化に伴い変化するものとする。

⑤ 燃料から放出されるよう素のうち90%は無機よう素、10%は有機よう素とする。無機よう素については、タービン建家内の壁面等への吸着および凝縮により除去される割合を50%、原子炉容器内の液相-気相間の分配係数を100とする。
 有機よう素については、その低減率を1/10とする。

⑥ 放出された冷却材は、気温33℃、相対湿度40%の大気中に全部蒸発して、半径約84mの半球状放射性雲となる。
 この雲は、風速1m/secで風下方向に移動するものとする。

⑦ 隔離弁から漏洩した放射性物質の大気中での拡散に用いる気象条件は、「気象手引」を参考にして、地上放散、大気安定度F型、有効拡散風速3m/sec(1時間放出として算出)、拡散幅30°とする。
 解析の結果、大気中に放出される放射性物質は、内部被ばくに関するものとして全よう素約66Ci、外部被ばくに関するものとしてハロゲン約1,100Ci、希ガス約1,360Ciである。
 敷地外において被ばく線量が最大となるのは敷地境界(原子炉から約450m)であって、その地点における被ばく線量は、甲状腺(小児)に対して約22rem、全身に対してγ線約0.01rem(β線約0.03rem)となる。

(3)ガス減衰タンク破損事故
 ガス減衰タンクが破損し、貯留されていた放射性気体廃棄物が一時に放出されると仮定する。
 そこで、次の仮定を用いて被ばく線量を計算する。
① 原子炉は、放出される気体廃棄物の放射能が、24時間減衰後の排気筒放射能放出率に換算して、50mCi/secの状態で運転されていたとする。

② 1日分の貯留容量のあるガス減衰タンク1基が1日分貯留し終った瞬間に破損し、その全量が放出されるものとする。

③ 大気中での拡散に用いる気象条件は、「気象手引」を参考にして、地上放散、大気安定度F型、風速1m/sec(1時間放出として算出)とする。
 解析の結果、大気中に放出される放射性物質は、希ガス約1.3×104Ciである。
 敷地外において被ばく線量が最大となるのは敷地境界(原子炉から約450m)であって、その地点における被ばく線量は全身に対してγ線約0.31rem(β線約2.6rem)となる。
 上記各種重大事故時の被ばく線量は、「立地指針」にめやす線量として示されている甲状腺(小児)150rem、全身25remより十分小さい。



5.2 仮想事故
 仮想事故として、冷却材喪失事故と主蒸気管破断事故の2つの場合を想定する。

(1)冷却材喪失事故
 重大事故と同じ事故について、非常用炉心冷却系の効果を無視し、炉心内の全燃料が溶融したと考えた場合に相当する核分裂生成物の放出があるものとし、炉心内にあるジルコニウムの約27.5%が水と反応するものと仮定する。
 この場合、事故後のドライウエルの最高圧力は設計圧力より低いが、原子炉建家への核分裂生成物の漏洩は長時間続く。
 そこで、重大事故と同じ仮定を用いて被ばく線量を計算する。ただし、次の仮定は重大事故と異なる。
① 炉心に内蔵される核分裂生成物中のハロゲン50%、希ガス100%がドライウエル内に放出される。

② ドライウエルから原子炉建家への漏洩は無限に続く。

③ 国民遺伝線量の評価における大気中での拡散に用いる気象条件は、「気象手引」を参考にして、大気安定度F型、拡散幅30°、風速1.5m/secとする。
 解析の結果、大気中に放出される放射性物質は、全よう素が約1.2×104Ci、希ガスが約5.8×105Ciである。
 敷地外において被ばく線量が最大となるのは敷地境界(原子炉から約450m)であって、その地点における被ばく線量は、甲状腺(成人)に対して約27rem、全身に対してγ線約0.38rem(β線約0.84rem)、となる。また、全身被ばく線量の積算値は約15万人remである。

(2)主蒸気管破断事故
 重大事故の場合と同じ事故について、冷却系の効果を無視し、原子炉容器から核分裂生成物の漏洩が長時間続く場合を想定する。
 そこで、重大事故と同じ仮定を用いて被ばく線量を計算する。ただし、次の仮定は重大事故の場合と異なる。
① 破損燃料から冷却材中に放出される核分裂生成物は、隔離弁閉鎖後その全量が放出されるものとする。

② 原子炉圧力は、逃し弁作動圧力範囲に長時間保たれ、隔離弁からの漏洩は60%/日の割合で無限時間続くものとする。
 解析の結果、大気中に放出される放射性物質は、内部被ばくに関するものとして全よう素約180Ci、外部被ばくに関するものとしてハロゲン約1,820Ci希ガス約2,190Ciである。
 敷地外において被ばく線量が最大となるのは敷地境界(原子炉から約450m)であって、その地点における被ばく線量は、甲状腺(成人)に対して約20rem全身に対してγ線約0.016rem(β線約0.067rem)となる。
 また、全身被ばく線量の積算値は、冷却材喪失事故の場合の値に比べて十分小さい。
 上記各仮想事故時の被ばく線量は、「立地指針」にめやす線量として示されている甲状腺(成人)300remおよび全身25remより十分小さい。
 また、全身被ばく線量の積算値は、国民遺伝線量の見地から示されているめやす線量の200万人remより十分小さい。




6 技術的能力

 申請者は、長年にわたり原子力発電に関する調査および原子力発電所の建設準備を行なってきている。
 浜岡原子力発電所の設置および運転には約170名の技術者を予定しており、これらの技術者については日本原子力発電株式会社、日本原子力研究所、海外の原子力関係諸施設へ派遣するなど、技術的能力の確保を図っている。今後さらに国内・国外の諸機関を利用して、技術者の養成訓練を行なうことになっている。
 なお、本発電所の建設にあたっては、内外の関係研究機関および機器製作者との技術的協力を密にし、また、発電所全般にわたる運転、保守および燃料取替計画等については、機器製作者その他との技術的協力を密にすることにしている。
 これらの点から、本原子炉を設置するために必要な技術的能力および運転を適確に遂行するに足る技術的能力を有すると認める。




Ⅲ 審査経過

 本審査会は、昭和45年6月12日第80回審査会において、次の委員よりなる第64部会を設置した。

(審査委員)
青木 成文(部会長) 東京工業大学
大崎 順彦 建築研究所
表 俊一郎 建築研究所
日下部正雄 気象庁
小平 吉男 日本気象協会
左合 正雄 東京都立大学
竹越  尹 動力炉・核燃料開発事業団
浜田 達二 理化学研究所
三島 良績 東京大学
宮永 一郎 日本原子力研究所
(調査委員)
武谷 清昭 日本原子力研究所
福田 整司 日本原子力研究所
望月 恵一 動力炉・核燃料開発事業団

 同部会は、通商産業省原子力発電技術顧問会と合同で審査を行なうこととし、昭和45年6月19日第1回会合を開き審査方針を検討するとともに、Aグループ(炉関係)Bグループ(環境関係)を設置して審査を開始した。
 以後、部会および審査会において審査を行なってきたが、昭和45年11月9日の部会において部会報告書を決定し、同年11月16日第86回審査会において本報告書を決定した。




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