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九州電力(株)玄海発電所の原子炉の
設置に係る安全性について


昭和45年11月16日
原子炉安全専門審査会

原子力委員会
委員長 西田 信一殿

原子炉安全専門審査会
会長 内田 秀雄

九州電力株式会社玄海発電所の原子炉の設置に係る安全性について

 昭和45年6月4日付け45原委第141号(昭和45年11月12日付け45原委第402号をもって一部訂正)をもって審査の結果を求められた標記の件について結論を得たので報告します。



Ⅰ 審査結果

 九州電力株式会社が、商業発電を目的として、佐賀県東松浦郡玄海町に設置しようとする低濃縮ウラン、軽水減速、軽水冷却、加圧水型原子炉に関し、同社が提出した「玄海発電所の原子炉設置許可申請書」(昭和45年5月30日付け申請および昭和45年11月6日付け一部訂正)に基づいて審査した結果、本原子炉の設置に係る安全性は十分確保し得るものと認める。



Ⅱ 審査内容

1 設置計画の概要

 本発電所の立地条件および施設の概要は、次のとおりである。


1.1 立地条件

(1)敷地および周辺環境
 発電所の敷地は、玄海灘に面する値賀崎半島の先端にあり、北東は外津浦に、南西は八田浦に面している。
 敷地全体の面積は、約738,000m2であり、東側の敷地境界付近に約33,000m2の地役権設定地域がある。
 原子炉は敷地のほぼ中央に設置する。原子炉から敷地境界までの最短距離は約480m、地役権設定地域境界までの最短距離は約600mである。
 また、敷地の西端には値賀崎灯台(無人)があり、原子炉から灯台までの最短距離は約880mである。敷地周辺には、西外津(東約1.0km)、東外津(東約1.2km)、普恩寺(南々東約1.3km)、下宮(南東約1.3km)などの部落があり、人口は5km以内で約7,400人、10km以内で約36,800人、15km以内で約91,400人である。

(2)地質
 敷地の地質は玄武岩、第3紀堆積岩である。
 第3紀堆積岩は、玄武岩に接する表層部では風化して砂状および粘土状になっているが、その他の部分では、おおむね、堅硬かつち密である。また第3紀堆積岩には小規模の破砕帯およびひん岩の貫入が見られるが、原子炉基礎はこれらを避けて配置することになっており十分な耐力を有する。

(3)海象
 現地から約15km離れた唐津港における潮位観測結果によれば、唐津港の潮位は、東京湾中等潮位に比較して最高1.84m、最低-1.56mであり、平常時における干満の差は2.29m程度である。
 外津浦(取水口側)と八田浦(放水口側)の間に循環流はない。また、敷地付近では過去において、津波等による被害を受けた例はない。

(4)気象
 敷地周辺における1年間の観測結果によれば、年間を通じて南および北東寄りの風が卓越している。また、静穏状態(風速0.4m/sec以下)の年間出現頻度は約5%である。
 大気の安定状態(英国気象局法によるE.F.G型)の出現頻度は、年間約24%であり、このときの風向出現頻度は南寄りの風が多くなっている。
 逆転層は、年間を通じて約30%発生している。

(5)地震
 過去の記録によると、九州の北西部は地震活動性が極めて低い。
 特に敷地付近は、ほとんど震害の経験はない。また、敷地の地盤条件も良好であるので、地震が建物等に与える影響は比較的小さいものと推定される。

(6)水利
 本発電所において、使用する淡水は約1,000t/日である。
 淡水源としては、敷地の東南約2kmを流れる志札川および敷地内貯水予定地を流れる八田川があり、所要水量は、十分確保出来る。
 復水器冷却水は、外津浦から取水し、八田浦へ放水される。



1.2 原子炉施設
 本原子炉は、熱出力約1,650MW(電気出力約559MW)の加圧水型である。
 炉心部は円筒型鋼製原子炉容器に収められ、燃料としては、低濃縮二酸化ウランペレットをジルカロイ-4被覆管に詰めた有効長約3.66mの燃料要素を集合体に組立てたものが使用される。この装荷量はウラン量約48トンである。
 制御棒クラスタは、ボロンカーバイトをステンレス鋼被覆管に収めたもので、約16本をクラスタ状にして燃料集合体の中に挿入する。作動に際しては、原子炉の上方から磁気ジャック式駆動装置により駆動され、緊急時には自然落下させる。 出力分布調整用制御棒クラスタはローラ・ナット式駆動装置により駆動され、緊急時にも落下しない。さらにほう素濃度を調整して、反応度制御を行なう化学・体積制御設備が設けられる。なお、この設備は、非常用制御設備としての役目も果すようになっている。
 バーナブルポインズンは、ほうけい酸ガラス管をステンレス鋼で被覆したもので、クラスタ状にして制御棒クラスタの入っていない燃料集合体の制御棒案内シンブルに挿入される。
 冷却系としては、原子炉から蒸気発生器への1次系2回路およびタービンへの2次系1回路が設けられる。
 原子炉格納施設としては、原子炉本体および1次冷却系を収納する鋼製格納容器が設けられるほか、その外周にコンクリート壁が設けられ、これらの間の下半部を二重格納構造のアニュラス部としている。
 そのほか、原子炉施設として必要な放射性廃棄物処理施設、放射線管理施設等が設けられる。



2 安全設計および安全対策

 本原子炉は、以下のような種々の安全設計および安全対策が講じられることになっており、かつ、「安全設計審査指針」にも適合しているので、十分な安全性を有するものであると認められる。


2.1 核、熱設計および動特性
 加圧水型の原子炉は、わが国においても4基が建設中であり、諸外国においては、すでにいくつか建設され、運転経験も得られているので、実証的な資料および解析結果から、核、熱設計および動特性についての計画値は、十分信頼し得るものと考える。
 本原子炉は反応度制御に1次冷却材中のほう素濃度調整方式を併用しているので、制御棒だけで制御する原子炉にくらべて減速材温度係数(負)の絶対値は小さくなるが、燃料のドップラー効果に基づく負の反応度出力係数を持つので、反応度外乱に対して自己制御性を有する。また本原子炉はバーナブルポイズンを採用しており、炉心寿命の初期においても運転温度における減速材温度係数は負となり、制御上の問題はない。
 炉内でのキセノンによる出力分布の空間振動の可能性は予測されるが、解析の結果、振動は発散性でなく、また周期も長いので出力分布調整用制御棒クラスタにより抑制でき、十分に対処しうる。
 1次冷却材の圧力および出口温度は、定格出力運転時において、それぞれ約157kg/cm2gおよび約323℃である。燃料の最高被覆表面温度および最高中心温度は、それぞれ約347℃および約2,360℃であり、DNB比は1.8以上である。
 仮に設計過出力(112%)の場合でも、燃料の最高中心温度は約2,570℃で、溶融点よりかなり低く保たれ、DNB比は1.3以上である。


2.2 燃料
 本原子炉の燃料としては、外径約11mm厚さ約0.6mmのジルカロイ-4被覆管に二酸化ウランペレットを封入した燃料要素を制御棒クラスタ案内管および計測管とともに、14×14に組立てた無側板型の集合体が使用される。燃料要素は支持格子によって横方向に支持され、軸方向には自由に膨張を許し、変形および振動を防止するような設計となっている。
 被覆管には、表面温度がかなり高いこと、冷却水中に水素が多くなることを考え、水素吸収率の小さいジルカロイ-4が使用される。管内の自由体積は燃料要素の最高燃焼度約48,000MWD/Tに応じ得るように配慮されている。
 しかし、線出力密度および燃料中心温度がかなり大きいので類以の先行原子炉における使用実績を参考とするとともに使用中の破損燃料の検出も十分配慮することとしている。


2.3 計測および制御系

(1)核計測系
 中性子束は、原子炉容器外周に設置された検出装置により測定され、また炉内に置かれた可動小型中性子束検出器により必要に応じて、中性子束分布が測定される。

(2)安全保護系
 安全保護系は多重チャンネル構成で中性子束、原子炉圧力等重要な検出要素に対して“2 out of 3”方式などの論理回路を形成し信頼度を高め、さらに電源喪失、回路の断線等に対してフエイルセイフの機能を持たせて、安全性を高めるよう配慮されている。

(3)反応度制御系
① 反応度制御の方法
 反応度制御系は制御棒クラスタおよび化学・体積制御設備よりなる。前者はその位置調整により、原子炉の出力変化および高温停止に必要な反応度制御を行なうとともに、スクラム操作にも使用される。
 後者は、1次冷却材中のほう素濃度調整により燃料の燃焼、核分裂生成物の毒作用による比較的緩慢な反応度変化に対する補償と低温停止時における過剰反応度の吸収に使用されるほか非常用制御設備の機能も有する。
 初装荷炉心の実効余剰増倍率は0.24(ΔK)以下で最も反応度効果の大きい制御棒クラスタ1本が炉心に挿入できない場合でも制御系の反応度抑制効果は、実効増倍率の変化にして0.25(ΔK)以上であり、常に炉心の実効増倍率を0.99以下に抑えるだけの停止余裕があるように設計される。
 さらに、運転中常に必要な停止余裕を確保するため、制御棒クラスタが挿入位置限界値に近ずいたとき、停止余裕監視装置により、警報を発するよう設計される。

② 制御棒クラスタ
 制御棒クラスタの位置調整は、磁気ジャック式駆動装置により上方から駆動されるが、スクラム動作は制御棒クラスタが自重で炉心内に落下することにより行なわれる。

③ 化学・体積制御設備
 ほう素濃度調整は化学・体積制御設備により、1次冷却材の注入、抽出およびイオン交換によって行なうが、いずれの場合も、濃度の変化に基づく原子炉の反応度変化は緩慢で、原子炉の運転制御に支障を与えることはない。
(4)出力制御系
 原子炉の出力は、蒸気発生器入口および出口における1次冷却材温度の平均値が負荷に応じた値をとるように制御棒クラスタの位置を調整することにより自動制御される。

(5)1次冷却材圧力制御系
 1次冷却材の圧力制御は加圧器によって行なわれ定格出力の±5%/分のランプ状および±10%のステップ状負荷変化に対しても、1次冷却材圧力を許容範囲内に制御する機能を有する。また加圧器上部には、安全弁および逃し弁を設けて1次冷却系に発生する異常圧力上昇を制限する。

(6)中央制御室
 中央制御室には、原子炉施設の運転に重要なすべての計測制御装置が設備されており、事故時においても運転員が安全に所要の措置をとり得るように遮蔽、換気等の放射線防護上の配慮がされている。



2.4 原子炉容器および原子炉冷却系

(1)原子炉容器および1次冷却系配管
 原子炉容器、配管等の原子炉冷却材圧力バウンダリを形成する系の設計、材料選定、製作ならびに検査については、わが国の法令を満足するようになっている。
 また、この系は冷水付加のような急激な反応度事故を生じたとしても破損することのないように設計される。
 さらに、原子炉容器は圧力を受けている間、容器の温度をNDT+33degC以上に保つようになっている。
 なお、中性子照射によるNDT温度の上昇については原子炉容器内に照射試料を挿入しておき、定期的に監視することになっている。

(2)安全注入設備等
 安全注入設備は、蓄圧注入、高圧注入および低圧注入の三つの系統からなり、1次冷却材喪失事故時にほう酸水を原子炉容器に注入し、燃料温度の過度の上昇を防止して、燃料の損傷、溶融、燃料被覆管のジルコニウム-水反応を防止する機能を有する。ポンプおよび配管は多重性を持たせた設計とし、ポンプの電力は非常用電源設備からも供給される。
 また、余熱除去設備により原子炉停止後の崩壊熱除去を行なうほか、2次冷却系には蒸気バイパス設備を設けている。



2.5 燃料取扱設備
 燃料取替は、原子炉上部のキヤビティにほう酸水を水張りし、水中で燃料取扱設備を用いて行なわれる。燃料取扱中は、仮に制御棒クラスタが全部取り出されたとしても、原子炉を末臨界に保てるようほう素濃度が調整される。
 使用済燃料貯蔵水槽は、原子炉補助建家内に設けられ、約4/3炉心相当分の貯蔵容量を有し使用済燃料を垂直に保持して水中貯蔵するようになっている。



2.6 廃棄物処理設備

(1)気体廃棄物
 本原子炉から発生する気体廃棄物の大部分は、1次冷却材中のほう素濃度を変更する際の抽出水とともに出てくるもので、ガス減衰タンク4基に貯蔵され、サンプリングによる放射能レベルの測定後、排気筒モニタで連続測定しつつ、原子炉格納容器端の排気筒(頂部標高約54m)から放出される。

(2)液体廃棄物
 液体廃棄物は、液体廃棄物処理施設で処理され、ごく低レベルのものを除き、放出されない。
 ごく低レベルのものは、復水器冷却水で希釈して放出される。その値は、わが国の法令に定める許容濃度以下にすることとしている。

(3)固体廃棄物
 使用済樹脂、蒸発濃縮器廃液等は、放射能を減衰させた後、ドラム缶詰めにして貯蔵保管される。なお、これらを海洋投棄する場合は、関係官庁の承認を受けることとしている。



2.7 放射線管理

(1)放射線しやへい等
 しやへいについては、従業員の作業を考慮して、その被ばく線量が、法令に定める許容被ばく線量を十分下回るように設計される。
 換気系は、主要な場所ごとに別系統となっており、事故時における放射能汚染の拡大防止等についても、十分に配慮されている。

(2)放射線監視
 発電所敷地内における放射線監視は、固定モニタ(原子炉格納施設モニタ、排気筒モニタ等)による中央制御室での連続監視、移動モニタによる定期監視、サンプリング測定等によって行なわれ、また、気体廃棄物の放出管理のため風向、風速の連続監視が行なわれる。その他、個人の被ばく管理に必要な機器も備えられる。
 敷地外の放射線監視については、敷地境界付近および周辺の適当な場所に設置したモニタリングポストでの空間線量率等の測定および排水モニタによる連続監視が行なわれ、さらに放射線観測車も備えられる。これらにより、周辺一般公衆の被ばく線量が法令に定める許容被ばく線量を越えないことを常に確認することとしている。



2.8 放射性物質の放出防止
 事故時においても、周辺環境に大量の放射性物質が放散されないように、次のような配慮がなされている。

(1)原子炉格納施設
 原子炉格納施設は、鋼製格納容器およびその外周コンクリート壁からなり、両者の間は、密閉格納構造のアニュラス部を構成し、原子炉施設の主要部分は、この原子炉格納容器に収納される。また格納容器を貫通する配管および配線は、アニュラス部に集められる。

(2)アニュラス空気再循環設備
 アニュラス空気再循環設備は、フィルタ装置および排風機からなり、この設備により、原子炉格納容器内に放射性物質が放出されるような事故時には、アニュラス部の空気をフイルタでろ過し、循環するとともにアニュラス部を負圧にする。負圧にするための排気は排気筒から放出される。

(3)隔離弁
 原子炉格納容器を貫通する重要な配管には隔離弁を設け、事故時に放射性物質が外部に漏洩しないように設計されている。

(4)原子炉格納容器スプレイ設備
 原子炉格納容器内部にはスプレイ設備を設け1次冷却材喪失事故時に、原子炉格納容器内圧の減少をはかるとともに、浮遊する核分裂生成物(特によう素)の除去を行なうようになっている。



2.9 安全防護設備の機能確保

(1)非常用電源設備
 本原子炉施設に必要な電力は、主発電機または220KV母線から供給されるが、予備電源として66KV送電線からも受電できる。これらの電源がすべて喪失しても、原子炉施設の安全確保に必要な電力は、ディーゼル発電機および所内蓄電池系から供給できるようになっている。

(2)保守点検
 原子炉安全保準系、安全注入設備、原子炉格納容器スプレイ設備、および原子炉格納容器の気密を保持たるために必要な隔離弁等は、原子炉施設の耐用期間を通じて、その機能を確認するため、運転中あるいは停止中に点検または試験ができるようになっている。
 また、原子炉格納容器の漏洩率を定期的に測定することとしており、かつ、配管、配線貫通部は、漏洩検出のための試験ができるようになっている。



2.10 耐震上の考慮
 原子炉施設は、原則として剛構造とし、重要な建物、構築物は直接岩盤に支持される。
 すべての施設は、安全上の重要度に従って、A、BおよびCの3種のクラスに分類され、それぞれに応じて耐震設計が行なわれる。
 冷却材圧力バウンダリ、原子炉格納施設等のように、その機能喪失が原子炉事故をひきおこすおそれのある施設および周辺公衆の災害を防止するために緊要な施設は、Aクラスとする。Aクラスの建物、構築物の耐震設計は、基盤における最大加速度が少なくとも180galの地震波により動的解析を行なって求められる水平震度ならびに建築基準法に示された水平震度(この場合、地域による低減は行なわない)の3倍を下回らない値によって行なわれる。
 垂直震度は、建物、構築物の高さ方向に一定とし、それらの基礎底面における水平震度の1/2を下回らない値とする。この場合、水平および垂直方向の地震力は、同時に不利な方向に作用するものとする。Aクラスの機器、配管類については、運転時の応力と地震力による応力を加え合わせた場合について、応力集中および材料の弾、そ性等を考慮した解析により耐震設計が行なわれる。この場合の水平震度は、前記の地震波に対する動的解析によって求められる値とし、かつ、据付位置における支持構築物に関し建築基準法に示された水平震度の3.6倍を下回らない値とする。
 垂直震度は、建物、構築物に対する値の1.2倍を下回らない値とし、水平および垂直方向の地震力は、同時に不利な方向に作用するものとする。また、機器、配管類の振動によって生ずる変位、変形は機能の保持に支障のないものとする。
 さらに、原子炉格納容器、原子炉停止装置、ほう素濃度制御系等のように安全対策上、特に緊要な施設については、Aクラスの扱いのほかに、その機能が保持されることを確認するため、基盤における最大加速度が少なくとも、270galの地震動による動的解析を行なう。特に原子炉格納容器については、設計用地震力と事故時の内圧、温度条件との組合せに対しても、その機能を保持するように設計される。
 また、原子炉補助建屋、廃棄物処理系等のように高放射性物質に関する施設は、Bクラス、その他の施設は、Cクラスとし、それぞれ建築基準法に定められた震度の1.5倍および1倍の値によって耐震設計が行なわれることになっている。なお地震の際には、原子炉を自動的に停止することができるようになっている。




3 平常運転時の被ばく評価


 平常運転時における被ばく評価は、次のとおりであり、敷地周辺の公衆に対する放射線障害の防止上支障がないものと認める。


3.1 気体廃棄物
 平常運転時の年間放出限度は、約46,000Ci(γ線エネルギー0.066MeV相当)としている。これは、燃料被覆の破損率5%で運転をし、その時発生する気体廃棄物をガス減衰タンクで30日間減衰後放出するとした場合の値である。
 気体廃棄物の放出に当っては、周辺監視区域外における年間被ばく線量が法令に定める値をこえないようにすることはもちろんのこと、原則として風向が人の居住していない海側で、風速が標高38mのところで3m/sec以上、標高67mのところで5m/sec以上の時を選んで放出するように、できるだけ被ばく線量を少なくすることとしている。
 上記のような気象条件が出現しない場合には、45日目に気象条件に無関係に放出することとなるが、この場合の頻度を考慮し、かつ陸上の同一方向に放出されたとして年間の被ばく線量を計算すると、敷地外で被ばく線量が最大となるのは、敷地境界(原子炉から約480m)であって、その地点における被ばく線量はγ線約0.2mrem(β線約1mrem)となる。これは周辺監視区域外の許容被ばく線量(500mrem/年)に比較して十分下回っている。さらに、実際の運転時には、これより下回ることが予想される。
 なお、敷地内外に放射線監視設備を設け十分な監視を行なうこととしている。


3.2 液体および固体廃棄物
 安全設計および安全対策の項で述べたように、液体廃棄物および固体廃棄物の廃棄について十分な安全対策を講じることになっている。




4 各種事故の検討

 本発電所の原子炉において発生する可能性のある反応度事故および機械的事故について検討した結果それぞれ次のような対策が講じられており、本原子炉は、十分安全性を確保し得るものであると認める。


4.1 反応度事故

(1)制御棒クラスタ引抜事故
 運転員の誤操作または機器の誤動作により、最大反応度効果を有する制御棒クラスタ1本を最大速度で連続的に引き抜いても、核的逸走は負の出力係数でおさえられ、かつ、中性子束高スクラムにより原子炉は停止するので、燃料被覆が破損することはない。

(2)ほう素希釈事故
 運転員の誤操作、または化学・体積制御設備の機器の誤動作による炉心内のほう素濃度の減少に基づく反応度付加率は、制御棒クラスタの連続引抜きによる反応度付加率より小さい。

(3)制御棒クラスタ落下事故
 運転中に最大反応度効果を有する制御棒クラスタ1本が落下し、中性子束分布に歪みが生じても制御棒の落下を検出して「自動制御棒引抜き阻止インターロック」で制御棒の引き抜きを阻止し、タービン負荷の自動切下げを行ない安全に原子炉の運転を継続できる。

(4)制御棒クラスタ逸出事故
 制御棒クラスタ駆動機構の圧力ハウジングが破損し、制御棒クラスタ1本が瞬時に抜け出しても運転中は制御棒クラスタがほぼ引き抜かれた状態にあるため、それによる反応度付加量は小さく、他の制御棒クラスタにより、原子炉は停止できる。

(5)燃料取替事故
 燃料取替中、運転員の誤操作もしくは機器の誤動作により、燃料集合体が炉心に落下しても、水中のほう素濃度が高いので臨界に達することはない。



4.2 機械的事故

(1)1次冷却材流量喪失事故
 原子炉運転中、1次冷却材ポンプが機械的故障電源喪失あるいは、運転員の誤操作により2台同時に停止しても、1次冷却材流量低スクラムまたは、1次冷却材ポンプ電源喪失スクラムにより原子炉は停止し、系の慣性により1次冷却材流量は急激に減少しないので、燃料被覆が破損することはない。

(2)1次冷却材喪失事故
 1次冷却系配管が破断し、充てんポンプによる加圧器水位の維持が困難となれば、原子炉圧力の低下により蓄圧タンクが作動し、また、加圧器水位低と原子炉圧力低の同時信号により、高圧および低圧安全注入系が作動するとともに、スクラムにより原子炉は停止し、燃料の過熱がおさえられる。
 この事故により燃料被覆の一部が破損しても、燃料から放出される小量の核分裂生成物は、原子炉格納容器内に保留され、そのうちのよう素は、アルカリ性スプレイにより除去される。
 希ガス等原子炉格納容器から漏洩したものは、アニュラス空気再循環設備を経て排気筒から放出される。

(3)蒸気発生器細管破損事故(外部電源のある時)
 蒸気発生器の細管破損により、1次冷却材が2次系に流出しても、蒸気発生器のブローダウン配管と、復水器エゼクタの2箇所に設けられた放射線モニタにより、運転員が事故を検出し、原子炉は停止されるとともに、復水器への蒸気バイパス弁が、開放され、1次冷却系の冷却が行なわれる。
 1次系圧力が2次系の設計圧力以下にまでなった段階で、破損を起した蒸気発生器を蒸気隔離弁により分離することになっている。なお、外部電源喪失の場合は、重大事故および仮想事故として解析する。

(4)主蒸気管破断事故
 出力運転時に主蒸気管が破断すると、蒸気発生器での熱交換量が急増し、原子炉出力が異常に増加するが、中性子束高スクラムにより原子炉は停止する。このときのDNB比は1.3を十分上回る。
 高温待機時に主蒸気管が破断し、かつ、最大の反応度効果を有する制御棒1本が挿入不能の場合には、原子炉はスクラム後に再臨界に達し、その最大出力は定格出力の約50%になった後ほう酸水の注入により原子炉は停止する。
 このとき、燃料被覆材のごく一部が局部的にDNBに達する可能性もあるが、その割合は10%をはるかに下回る。

(5)燃料取扱事故
 燃料取扱中、使用済燃料が装置の故障で落下し、一部が破損しても、操作はすべて原子炉格納容器内または、原子炉補助建屋内の水中で実施されるので、水中から放出される核分裂生成物の量はわずかである。さらに放射性気体は換気設備によりろ過された後排気筒から放出される。

(6)気体廃気物処理設備の破損事故
 気体廃棄物処理設備の配管やタンク等が破損しても、放射性気体は、換気設備によりろ過された後、排気筒から放出される。
 この場合、敷地周辺の公衆に対する被ばく線量は低いので支障がない。

(7)その他の事故
 制御棒クラスタ駆動装置、主要弁類、蒸気発生器2次側給水設備等の故障または誤動作、復水器真空度の低下、電源の喪失等があっても、いずれも、十分な対策がなされている。




5 災害評価

 本原子炉はすでに述べたように、種々の安全対策が講じられており、かつ、各種事故に対しても検討の結果安全を確保し得るものと認めるが、さらに「原子炉立地審査指針」(以下立地指針という)に基づいて重大事故および仮想事故を想定して行なった災害評価は次のとおりで、解析に用いた仮定は妥当であり、その結果は立地指針に十分適合しているものと認める。


5.1 重大事故
 重大事故として、1次冷却材喪失事故および蒸気発生器細管破損事故の二つの場合を想定する。

(1)1次冷却材喪失事故
 原子炉容器に接続している最大口径の配管である1次冷却系配管(内径約700mm)1本が原子炉出口ノズル付近で瞬時に破断し、破断口両端から1次冷却材が放出される事故を仮定する。解析の結果では、二酸化ウランの溶融温度に達することはなく、また、燃料被覆がジルカロイの溶融温度に達することはない。ただし、一部は被覆管の破損を起こすと予想される温度をこし、さらに、炉心内のジルコニウムの数%は水と反応する。
 原子炉格納容器内の圧力は1次冷却材の放出により急上昇するが原子炉格納容器スプレイ設備により冷却され、設計圧力をこえることなく、事故後数時間以内に内圧はほぼ大気圧近くまで減少する。そこで核分裂生成物の放散過程に従って、次の仮定を用いて被ばく線量を計算する。
① 燃料ペレットは溶融温度に達することはないが、全部の燃料棒の被覆に破損が生じたとし、全炉心に内蔵されている核分裂生成物のうち、希ガス2%、よう素1%、固体核分裂生成物0.02%相当分の放出があるものとする。なお格納容器内に放出されたよう素のうち10%は有機よう素であり、また残りの無機よう素の50%は格納容器壁面等に吸着されるものとする。

② 原子炉格納容器内に浮遊するよう素はアルカリ性スプレイにより、大部分が除去されるが、その除去効率は無機よう素に対して等価半減期100秒とする。

③ 原子炉格納容器からの漏洩率は事故後24時間まで0.3%/日その後3日間は0.135%/日とする。

④ 原子炉格納容器からの漏洩は、97%がアニュラス部に生じ、3%は原子炉格納容器のドーム部で生ずるものとする。
 なお、アニュラス部に漏洩したものは、アニュラス空気再循環設備を経て再循環し、その一部はアニュラス部の負圧維持のため排気筒から放出される。このアニュラス空気再循環設備に設置されるよう素フィルタの除去効率は90%とする。なお、事故後アニュラス部の負圧の達成までに5分間を要し、この間はアニュラス空気再循環設備のフイルタは有効でなく格納容器からアニュラス部に漏洩してきた気体は、そのままアニュラス上部から放出されるものとする。

⑤ 大気中での拡散に用いる気象条件は、排気筒の高さ(頂部標高約54m地上高約43m)現地の気象データをもとに「原子炉安全解析のための気象の手引」(以下気象手引という)を参考にして、高さ43m以下均一分布、拡散巾30°有効拡散風速3m/sec(1時間放出として算出、以下同様)とする。
 解析の結果、大気中に放出される放射性物質は全よう素が約13Ci(よう素131換算、以下同様)希ガス約2.600Ci(γ線エネルギー0.5MeV相当、以下同様)である。
 居住可能区域で被ばく線量が最大となるのは、地役権設定地域境界(原子炉から約600m)であって、その地点における被ばく線量は甲状腺(小児)に対して約1rem、全身に対してγ線約0.25rem(β線約0.02rem)となる。
(2)蒸気発生器細管破損事故
 蒸気発生器細管の1本が破断し、1次冷却材が2次側へ流出して、その中に含まれる核分裂生成物が大気放出弁を経て排気管から放出される事故を仮定する。
 事故発生後、1次系圧力の低下により原子炉はスクラムされ、1次系の圧力が2次系の設計圧力まで下った後、蒸気隔離弁を閉鎖する。それまでに約30分を要するが、1次冷却材の2次側への流出は保有水量の約30%である。
 そこで、次の仮定を用いて被ばく線量を計算する。
① 事故前の1次冷却材中のよう素濃度11μCi/cm3希ガス濃度272μCi/cm3(運転中の冷却材放射能濃度の最高限度)とする。

② 炉内圧が大気圧に低下するまでに破損燃料から追加放出される核分裂生成物の量は、全よう素約38,800Ci希ガス約200,000Ciである。

③ 2次側へ流出した1次冷却材中に含まれる核分裂生成物のうち希ガスの全部とよう素の一部が大気放出弁を経て排気管から放出されるものとする。

④ よう素のうち90%は無機状のもの、10%は有機状のものとする。無機状のものの液相-気相間の分配係数を100、有機状のものの低減率を1/10とする。

⑤ 破損した蒸気発生器を蒸気隔離弁で隔離した後における大気放出弁、安全弁からの漏洩量は蒸気圧力の平方根に比例するものとする。

⑥ 大気中での拡散に用いる気象条件は、現地の気象データをもとに気象手引を参考にして地上放散、大気安定度F型、拡散巾20°、有効拡散風速3m/secとする。
 解析の結果、大気中に放出される放射性物質は全よう素が約61Ci、希ガス約26,800Ciである。
 居住可能区域で線量が最大となるのは地役権設定地域境界(原子炉から約600m)であって、その地点における被ばく線量は、甲状腺(小児)に対して約29rem、全身に対してγ線約0.1rem(β線約0.7rem)となる。
 上記各重大事故時の被ばく線量は立地指針にめやす線量として示されている甲状腺(小児)150rem、全身25remより十分小さい。



5.2 仮想事故
 仮想事故としても、重大事放と同様、二つの事故の場合を想定する。

(1)1次冷却材喪失事故
 仮想事故としては、重大事故と同じ事故について安全注入設備の炉心の冷却効果を無視して炉心内の全燃料が溶融したと考えた場合に相当する核分裂生成物の放出があるものと仮想する。また原子炉格納容器スプレイ設備およびアニュラス空気再循環設備の効果については重大事放と同じとし次の点については重大事故の場合と異なる仮定をして被ばく線量を計算する。
① 炉心の100%溶融により内蔵されている核分裂生成物のうち希ガス100%、全よう素50%、固体核分裂生成物1%、相当分が原子炉格納容器内に放出される。

② 国民遺伝線量の評価における大気中での拡散に用いる気象条件は、気象手引を参考にして大気安定度F型、拡散幅30°、風速1.5m/secとする。

 解析の結果、大気中に放出される放射性物質は、全よう素が約666Ci、希ガス約130,000Ciとなる。
 居住可能区域で被ばく線量が最大となるのは、地役権設定地域境界(原子炉から約600m)であって、その地点における被ばく線量は、甲状腺(成人)に対して約9.5rem全身に対してγ線約12.5rem(β線約0.8rem)となる。また、全身被ばく線量の積算値は約5.5万人remである。

(2)蒸気発生器細管破損事故
 重大事故と同じ事故について、破損燃料内の自由空間に存在する核分裂生成物がすべて1次冷却材中に放出され、かつ、健全な蒸気発生器による減圧効果がなく10m3/日の蒸気の漏洩が無限時間続くと仮想する。また大気中での拡散に用いる気象条件は弁の閉鎖までに放出される冷却材については重大事枚と同じものを用い閉鎖後の漏洩による影響については現地の気象データをもとに気象手引を参考にして地上放散、大気安定度F型、拡散幅30°、有効拡散風速3m/secとする。
 また、国民遺伝線量については風速1.5m/secとする。解析の結果、大気中に放出される放射性物質は、全よう素が約359Ci、希ガス約74,000Ciである。
 居住可能区域外で被ばく線量が最大となるのは地役権設定地域境界(原子炉から約600m)であって、その地点における被ばく線量は甲状腺(成人)に対して約34rem、全身に対してγ線約0.3rem(β線約1.6rem)となる。
 また、全身被ばく線量の積算値は約3.1万人remである。
 上記各仮想事故時の被ばく線量は、立地指針にめやす線量として示されている甲状腺(成人)300rem、および全身25remより十分小さい。
 また、全身被ばく線量の積算値は、国民遺伝線量の見地から示されているめやす線量の200万人remより十分小さい。




6 技術的能力

 申請者は、長年にわたり、原子力発電に関する調査および原子力発電所の建設準備を行なってきている。
 玄海発電所の建設および運転に備え、約100名の技術者を確保しており、これらの技術者については、日本原子力発電株式会社、日本原子力研究所および、海外の原子力関係諸施設において訓練し、技術的能力の向上をはかっている。
 また、昭和44年10月以降、玄海発電所の設計、建設、および運転に関して三菱原子力工業株式会社と協同研究を行なっておりさらに、今後、運転、保守、燃料取替計画等について、三菱原子力工業株式会社および三菱重工業株式会社の指導を受けることにしている。
 これらの点から、本原子炉を設置するために必要な技術的能力および運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があると認める。





Ⅲ 審査経過

 本審査会は、昭和45年6月12日に開かれた第80回審査会において次の委員からなる第67部会を設置した。


審査委員
都甲 泰正(部会長) 東京大学
大崎 順彦 建築研究所
表 俊一郎   〃
小平 吉男 日本気象協会
左合 正雄 東京都立大学
弘田 実弥 日本原子力研究所
三島 良績 東京大学
渡辺 博信 放射線医学総合研究所
調査委員
飯田 国広 東京大学
伊藤 直次 日本原子力研究所
海老塚佳衛 東京工業大学
大久保忠恒 東京大学
 同部会は、通商産業省原子力発電技術顧問会と合同で審査を行ない、昭和45年6月27日に第1回会合を開き、審査方針を検討するとともに、Aグループ(炉、装置、プラント関係)およびBグループ(環境関係)を設置して審査を開始した。
 以後、部会および審査会において審査を行なってきたが、昭和45年11月9日の部会において部会報告書を決定し、同年11月16日第86回審査会において本報告書を決定した。

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