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三菱原子力工業(株)の原子炉
(臨界実験装置)の設置変更について


45原委第417号
昭和45年11月19日

内閣総理大臣 殿

原子力委員会委員長


三菱原子力工業株式会社の原子炉
(臨界実験装置)の設置変更について(答申)

 昭和45年9月17日付け45原第6111号(昭和45年11月12日付け45原第7453号で一部訂正)で諮問のあった標記の件について、下記のとおり答申する。

 標記に係る許可の申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に掲げる許可の基準に、適合しているものと認める。
 なお、本設置変更に係る安全性に関する原子炉安全専門審査会の報告は別添のとおりである。




三菱原子力工業株式会社の原子炉(臨界実験装置)の
設置変更に係る安全性について

昭和45年11月16日
原子炉安全専門審査会

原子力委員会
委員長 西田 信一殿

原子炉安全専門審査会
会長 内田 秀雄


三菱原子力工業株式会社の原子炉(臨界実験装置)の
設置変更に係る安全性について

 昭和45年9月17日付け45原委第311号(昭和45年11月12日付け45原委第405号をもって一部訂正)をもって審査の結果を求められた標記の件について結論を得たので報告します。



Ⅰ 審査結果

 三菱原子力工業株式会社の原子炉(臨界実験装置)の設置変更に関し、同社が提出した「三菱臨界実験装置変更許可申請書」(昭和45年9月14日付け申請および昭和45年11月4日付け一部訂正)に基づいて審査した結果、本原子炉(臨界実験装置)の設置変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。



Ⅱ 審査内容

1 変更計画の概要

 本変更は主として原子力船「むつ」用(以下本船用という。)の第一次装荷炉心の陸上臨界試験を行なうために原子炉(臨界実験装置)施設を変更しようとするもので、変更計画の概要は次のとおりである。

(イ)燃料要素として本船用燃料集合体を使用する。

(ロ)本船用の制御棒を、固定吸収棒、安全棒、実験制御棒として使用する。

(ハ)安全保護回路を追加する。

(ニ)液体ポイズン注入装置および蓄電池を新設する。


2 安全設計および安全対策

 本変更に係る原子炉施設は、次のような安全設計および安全対策が講じられることになっており、十分な安全性を有するものであると認める。

(イ)炉心構成
 炉心は今回追加する燃料集合体および上、下炉心板、炉心隔板、炉心隔板支え板等から構成され既設の炉心タンク中に組みこまれる。今回の炉心支持構造物は、従来のものと異ったものを使用するので従来の棒状燃料と今回の燃料集合体の同時装荷は不可能である。
 燃料集合体用燃料の最大挿入量は、濃縮度約4.4w/oのもの約68kg(U235重量)、濃縮度約3.2w/oのもの約30kg(U235重量)である。

(ロ)燃料
 本変更に係る燃料は、本船用燃料集合体34個(濃縮度約4.4w/oのもの21個約3.2w/oのもの13個)と実験用燃料集合体2個(濃縮度約4.4w/oのもの1個、約3.2w/oのもの1個)の2種類である。
 両方とも各燃料要素はステンレス鋼製被覆管に二酸化ウランペレットを挿入し、端栓後溶接したもので、リークタイト構造になっている。また、燃料集合体の構造は、多段のスペーサーにより燃料要素およびバーナブルポイズン要素を11×11の正方形に配列支持したものである。

(ハ)反応度制御設備
 本原子炉の反応度制御設備は、水位制御装置および安全板装置よりなっていたが、本変更に係る炉心においては、このうち安全板装置にかえて本船用制御棒(12本)の一部を安全棒として用いる。
 安全棒は臨界実験の条件により2~5本が使用され、通常、全引抜きの待機状態にあってスクラム信号により自由落下し炉を停止する。
 安全棒として使用されるもの以外の本船用制御棒は実験制御棒(最大2本)あるいは固定吸収棒(最大10本)として用いる。
 本船用制御棒は、ステンレス鋼被覆管に銀-インジウム-カドミウム合金棒を封入したものを十字形に配列した吸収部とジルカロイ-2フオロワーよりなる。

(ニ)核特性および動特性
 炉心の過剰反応度は、従来同様その最大値が0.5%Δk/kを越えないように制限されている。
 また、燃料温度係数、減速材温度係数およびボイド係数が負であるので、反応度外乱に対して自己制御性が高く、固有の安全性を有している。
 安全棒の反応度抑制効果は、如何なる場合でも1.5%Δk/k以上に保たれることになっており、その一本が挿入されない場合でも炉心の実効増倍率を0.99以下に抑える停止余裕を持っている。

(ホ)安全保護回路
 本原子炉は、誤操作、機械の故障、地震等の場合の事故を防止するため、スクラム回路、ダンプ回路、警報回路およびインターロック回路を設けているが、今回次のものを追加している。
 スクラム回路としては、①炉室高レベルγ線エリア、モニタが設定値を越えたとき、②実験制御棒の引抜きが設定値を越えたとき、ダンプ回路としては待機中の安全棒が落下した場合を追加している。
 警報回路としては、①屋外の放射線量が増大したとき、②廃水貯溜池の水位が増大したとき、インターロック回路としては安全棒引抜インターロックと実験制御棒駆動インターロックを追加している。


3 平常時の被ばく評価
 今回の変更に伴う本原子炉においても、年間積算出力および廃棄物の放出管理は従来と変更ないので外部被ばく線量は従来と同程度であると考えられる。
 したがって、一般公衆および従事者の受ける被ばく線量は、許容値を十分下廻るものと認められる。


4 事故評価
 今回の変更に伴う本原子炉において、何らかの原因で、運転中炉心の反応度が上昇する水位連続上昇事故実験制御棒連続抜き出し事故、実験用器材の潰滅、等の各種の事故を検討した結果、安全性は確保し得るものと認める。
 また、最大想定事故としては、従来と同様炉心タンクの水位連続上昇に伴う反応度事故を想定し、次の仮定を用いて線量を計算している。

① 反応度附加の割合は2×10-2%Δk/k/secとする。

② 核計装設備、放射線監視設備および水位制御装置から発せられる全てのスクラム信号を無視する。

③ 事故の発生は、放射線監視設備よりのアラーム信号により検知し、事故停止の処置はダンブバルブの開放により行なう。

 その結果は、放出エネルギーが約293MW.secとなり、燃料温度の最高は約460℃となるが、燃料および燃料被覆材の溶融、破損に至らず、炉室建屋外での被ばく線量は最大約1.8rem程度であり、また、敷地境界では約0.1remである。
 したがって、変更に係る本原子炉は、敷地外の一般公衆に対して安全であると認められる。



Ⅲ 審査経過

 本審査会は、昭和45年9月21日第83回審査会において、次の委員からなる第71部会を設置した。

審査委員
植田 辰洋(部会長) 東京大学
弘田 実弥 日本原子力研究所
浜田 達二 理化学研究所
調査委員
望月 恵一 動力炉・核燃料開発事業団
 同部会は昭和45年11月4日の部会において部会報告書を決定し、昭和45年11月16日第86回審査会において本報告書を決定した。




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