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日本原子力発電株式会社敦賀発電所の
原子炉の設置変更(出力増加)について


45原委第319号
昭和45年9月22日

内閣総理大臣 殿

原子力委員会委員長

 日本原子力発電株式会社敦賀発電所の
原子炉の設置変更(出力増加)について (答申)

 昭和45年6月4日付け45原第3513号(昭和45年9月2日付け45原第5927号で一部訂正)で諮問のあった標記の件について、下記のとおり答申する。

 標記に係る許可の申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に掲げる許可の基準に、適合しているものと認める。
 なお、本設置変更に係る安全性に関する原子炉安全専門審査会の報告は別添のとおりである。


日本原子力発電株式会社敦賀発電所の
原子炉の設置変更(出力増加)に係る安全性について

昭和45年9月21日
原子炉安全専門審査会

原子力委員会
委員長 西田 信一殿

原子炉安全専門審査会
会長 内田秀雄


 日本原子力発電株式会社敦賀発電所原子炉の
設置変更(出力増加)に係る安全性について


 当審査会は昭和45年6月4日付け、45原委第139号(昭和45年9月2日付け原委第273号をもって一部訂正)をもって審査の結果を求められた標記の件について結論を得たので報告します。



Ⅰ 審査結果

 日本原子力発電株式会社敦賀発電所原子炉の設置変更に関し、同社が提出した「敦賀発電所原子炉設置許可申請書(出力増加)」(昭和45年5月28日付け総総発第54号で申請、昭和45年9月1日付け総総発第127号で一部訂正)に基づいて審査した結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。




Ⅱ 変更事項

 本変更は、敦賀発電所の原子炉施設を変更しようとするもので変更事項は次のとおりである。

1 原子炉の熱出力を約1,070MW(従来:約970MW)に変更すること。

2 敷地の広さを約2,200,000m2(従来:約1,400,000m2)に変更すること。

3 主要な熱的制限値として限界熱流束化を定格出力時で1.9以上および燃料最高線出力密度を定格出力時で0.57KW/cm(従来:定格の120%出力時で限界熱流束比を1.5以上及び定格の120%出力時で燃料最高温度を溶融温度以下ならびに被覆材表面の最高温度を約290℃)に変更すること。

4 燃料集合体の最高燃焼度を約28,000MWD/T(従来:約27,000MWD/T)に変更すること。

5 スクラム時制御棒平均挿入時間を全ストロークの90%挿入まで約5秒(従来:スクラム挿入速度約1.5m/sec)に変更すること。

6 主蒸気隔離弁の閉鎖時間を3ないし7秒(従来:3ないし10秒)に変更すること。

7 各主蒸気隔離弁の閉鎖時の漏れを原子炉圧力容器蒸気相体積(110m3)の最大25%/日(非常用復水器始動時圧力)とすること。

8 タービン出力を約357,000KW「従来約322,000KW(設備容量約357,000KW)」に変更すること。




Ⅲ 審査内容

1 安全設計および安全対策

 本変更に係る原子炉施設は、次のような種々の安全設計および安全対策が講じられることとなっており、十分な安全性を有するものであると認める。

1-1 核熱設計および動特性
 本変更に係る出力増加は、既設の原子炉施設を変更することなく、燃料棒の線出力密度を増加させることにより、達成しようとするものである。
 本原子炉の燃料の設計基準は、過渡状態でも燃料被覆に破損が生じないこととしており、その燃料被覆破損の限界として、限界熱流束(CHF)をこえず、また、ジルカロイ被覆管の円周方向の塑性歪み(この歪みを生ずる線出力密度は運転初期において約0.92KW/cm)が1%をこえないことをめやすとしている。これは一部燃料溶融(この溶融が生じる線出力密度は約0.71KW/cm)が生じても燃料棒は破損しないという実験結果に基づいたものである。
 すなわち、定格出力時において、最小限界熱流束比(MCHFR)は1.9以上であり、最高線出力密度は0.57KW/cm以下である。
 この最高線出力密度は、燃料の溶融が生ずる線出力密度に対して約20%以上の余裕がある。
 また、本変更により原子炉の動特性も殆んど変化しない。

1-2 燃料
 本原子炉に使用する燃料は、組成および構造に変更はない。
 本燃料と類似の設計の燃料については、先行原子炉において、本原子炉に近い使用条件での使用実績が得られてきている。

1-3 放射線管理
 本変更により放射線管理に変更はない。


2 平常運転時の被ばく評価

 廃棄物の放出管理は従来と同様にすることとしているが、敷地の拡大に伴い、敷地周辺の被ばく線量を解析する。今仮に50mCi/secで連続的に放出するとして、年間の気象データ、排気筒からの吹上効果、風の流線の降下等を考慮し、また人が年中留るとして、γ線およびβ線による年間積算被ばく線量は南南東敷地境界(排気筒から500m)で約0.11rem、浦底湾沿い公道(排気筒から400m)で約0.15rem、南側敷地境界(排気筒から200m)で約0.30remとなる。これらはいずれも許容値0.5rem/年を下回っている。また南側敷地境界は山地であり、人が住むとは考えられない場所である。


3 災害評価

 本原子炉において、発生する可能性のある反応度事故および機械的事故について検討した結果、十分な対策が講じられており、安全性を確保し得るものと認めるが、さらに「原子炉立地審査指針(以下「立地審査指針という」)」に基づいて重大事故および仮想事故を想定して行なった災害評価は次のとおりで解析に用いた仮定は妥当であり、その結果は立地審査指針に十分適合しているものと認める。

3-1 重大事故
 重大事故として、冷却材喪失事故と主蒸気管破断事故およびガス減衰タンク破損事故の三つの場合を想定する。

(1)冷却材喪失事故
 圧力容器に接続している最大口径の配管である再循環回路(内径60cm)1本が瞬時に完全破断し、冷却材が放出されると仮定する。解析の結果では、炉心スプレイ系が作動して、その噴霧冷却により燃料の溶融は生じないが、燃料棒本数の45%は、過熱のため被覆の一部に破損がおこる。また、事故後のドライウエル圧力は、十分低く抑えられ、約2日後には大気圧にもどる。
 そこで、核分裂生成物の放散過程に従って、次の仮定を用いて被ばく線量を計算する。

① 全部の燃料棒の被覆に破損があったとし、500日間全出力運転機の炉心に内蔵されている核分裂生成物中のよう素の0.5%、希ガスの1%がドライウエル内へ放出される。よう素のうち10%が有機状であると仮定し、液相-気相間の分配係数を100とする。ドライウエルに放出された核分裂生成物の壁面等への吸着は無視する。

② ドライウエルから、2日間にわたって0.5%/日の漏洩がある。

③ 非常用ガス処理系では、湿分除去により相対湿度を30%以下に下げ、チャーコールフィルタで濾過することになっているので、よう素全体に対する濾過効率を90%とする。

④ 核分裂生成物は、原子炉建物から換気率50%/日で、排気筒を通し放出させる。

⑤ 大気中での拡散に用いる気象条件は、排気筒の高さ、(頂部標高約130m)現地の気象データ等をもとに、「原子炉安全解析のための気象手引(以下「気象手引」という。)」を参考にして、高さ130m以下均一分布、拡散幅20°、風速1.5m/secとする。

 解析の結果、大気中に放出される放射能は、全よう素が約16Ci(よう素131換算以下同様)希ガスが約1,010Ci(0.5MeV換算以下同様)であり、居住可能区域で被ばく線量が最大となるのは、居住可能区域境界(原子炉から南南東側約600m)であって、その地点における被ばく線量は甲状腺(小児)に対し、約1rem、全身に対し約0.03remである。

(2)主蒸気管破断事故
 ドライウエル外で主蒸気管(内径46cm)1本が瞬時に完全破断し、冷却材の気水混合物が大気中に放出されると仮定する。隔離弁は事故後約8秒で閉鎖され、放出流量は流量制限器によって定格流量の約200%に制限されるものとして冷却材の放出量を解析すると、隔離弁の閉鎖迄に蒸気約2.9トン、飽和水約20.8トンとなるが、炉心は露出しない。隔離弁閉鎖後は隔離弁からの漏洩により気相中の核分裂生成物が大気中へ放出されるものとする。
 そこで次の仮定を用いて被ばく線量を計算する。

① 主蒸気管が破断した後、隔離弁が閉鎖する迄に炉内圧は定格運転時圧力(約70kg/cm2g)より約8kg/cm2下がる。隔離弁が閉鎖した後炉内圧は崩壊熱により非常用復水器始動圧力(約75kg/cm2g)迄上昇した後、非常用復水器の冷却効果により炉内圧は一定の割合で、24時間で大気圧迄減圧する。

② 放出された飽和水は気温33℃、相対湿度40%の大気中に全部蒸発して半球状放射性雲となる。半球状放射性雲は風速1m/secで風下に運ばれる。

③ 放出される飽和水の濃度は原子炉運転中の冷却材放射能濃度の最高限度とすることになっている28μCi/ceである。

④ 炉内圧が大気圧に低下する迄に破損燃料から追加放出される核分裂生成物の量はよう素131約4,000Ci、希ガス約87,000Ciである。

⑤ 隔離弁が閉鎖する迄に、その閉鎖時間内に追加放出されるよう素20%、の希ガスの100%が大気中に放出される。

⑥ よう素のうち、10%を有機状、90%を無機状とし、無機よう素がタービン建家の壁面等に吸着される割合を50%、圧力容器内における液相-気相間の分配係数を100とするが、有機よう素は全量が放出される。

⑦ 隔離弁は4個のうち3個が正常に作動する。隔雄弁閉鎖後の炉内からの漏洩率は非常用復水器始動圧力(約75kg/cm2g)時において42%/日とし、漏洩率は炉内圧の変化に伴い変化する。

⑧ 隔離弁から漏洩した核分裂生成物の大気中での拡散に用いる気象条件は、現地の気象データ等をもとに気象手引を参考にして地上放散、大気安定度F型、拡散幅20°、風速1.5m/secとする。

 解析の結果、隔離弁閉鎖以前に放出された核分裂生成物の放射性雲の大きさは半径約110mであり、放射性物質は全よう素約120Ci希ガス約10,000Ciである。また隔離弁からの漏洩により大気中へ放散される核分裂生成物の量は全よう素約63Ci、希ガス約1,870Ciである。
 居住可能区域で被ばく線量が最大となるのは居住可能区域境界(原子炉から南南東側約600m)であってその地点における被ばく線量は甲状腺(小児)に対し約60rem、全身に対し約0.09remとなる。

(3)ガス減衰タンク破損事故
 ガス減衰タンクが破損し、貯留されている放射性気体廃棄物が一時に放出されると仮定する。そこで次の仮定を用いて被ばく線量を計算する。

① 原子炉はそれから放出される気体廃棄物の放射能が24時間減衰後の排気筒放出率に換算して50mCi/secの状態で運転されていたとする。

② ガス減衰タンク1基に1日の気体廃棄物が貯留され終った瞬間にその全量が放出される。

③ 大気中での拡散に用いる気象条件は気象手引を参考にして地上放散、大気安定度F型、拡散幅8°、風速1m/secとする。

 解析の結果、大気中に放出される放射能は希ガスが約14,000Ciであり、居住可能区域で被ばく線量が最大となるのは居住可能区域境界(原子炉から南南東側約600m)であって、その地点における被ばく線量は全身に対し約0.5remである。
 上記各重大事故時の被ばく線量は、立地審査指針にめやす線量として示されている甲状腺(小児)150rem、全身25remより小さい。

3-2 仮想事故
 仮想事故として冷却機喪失事故および主蒸気管破断事故の二つの場合を想定する。

(1)冷却機喪失事故
 重大事故の場合と同じ事故について、非常用炉心冷却系の効果を無視し、炉心内の全燃料が溶融したと考えた場合に担当する核分裂生成物の放出があるものとし、炉心内にあるジルコニウムの約1/4が水と反応するものと仮定する。
 この場合事故後のドライウエルの最高圧力は設計圧力より低いが、原子炉建家への核分裂生成物の漏洩は長時間続く。
 なお、線量の計算には重大事故の場合と同じ仮定を用いる。
 ただし、次の仮定は、重大事故の場合と異っている。

① 炉心に内蔵される核分裂生成物中のよう素50%、希ガス100%がドライウエル内に放出される。

② ドライウエルから原子炉建家への漏洩は無限に続く。

 解析の結果、大気中に放出される放射能は、全よう素約8,500Ci、希ガス約3.2×105Ciであり、居住可能区域で被ばく線量が最大となるのは、居住可能区域境界(原子炉から南南東側約600m)であって、その地点における被ばく線量は、甲状腺(成人)に対し、約100rem、全身に対し約0.6remである。
 また、全身被ばく線量の積算値は約8.3万人remである。

(2)主蒸気管破断事故
 重大事故と同様の事故を想定するが、仮想事故においては、主蒸気隔離弁が閉鎖した後追加放出の対象となる核分裂生成物が破損燃料からすべて一次冷却機中に放出され、かつ炉内圧が主蒸気逃し弁作動圧力に長時間保たれるものと仮定する。
 その他の条件および隔離弁閉鎖までの核分裂生成物の放出量および被ばく線量の評価方法については重大事故と同様とする。
 以上の解析の結果隔離弁閉鎖後の隔離弁からの漏洩により大気中に放出される核分裂生成物の量は全よう素約546Ci、希ガス約7,200Ciであり、居住可能区域で被ばく線量が最大となるのは居住可能区域境界(原子炉から南南東側約600m)であって、その地点における被ばく線量は甲状線(成人)に対し約100rem、全身に対し約0.27remである。
 また、全身被ばく線量の積算値は冷却材喪失事故の場合の値に比べて十分小さい。
 上記各仮想事故時の被ばく線量は立地指針にめやす線量として示されている甲状腺(成人)300remおよび全身25remより小さい。
 また、全身被ばく線量の積算値は、国民遺伝線量の見地から示されているめやす線量の200万人remより十分小さい。




Ⅳ 審査経過

 本審査会は、昭和45年6月12日に開かれた第80回審査会において次の委員からなる第65部会を設置した。


都甲 泰正(部会長) 東京大学
竹越 尹 動力炉・核燃料開発事業団
浜田 達二 理化学研究所 
三島 良績 東京大学 
渡辺 博信 放射線医学総合研究所
 同部会は通商産業省原子力発電技術顧問会と合同で審査し、昭和45年9月18日の部会において部会報告書を決定し、昭和45年9月21日第83回審査会において本報告書を決定した。



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