前頁 |目次 |次頁

原子力船懇談会報告



まえがき

 わが国の原子力船の開発については、昭和42年4月に原子力委員会が策定した「原子力開発利用長期計画」において、第1船の建造を行なうことにより、船体と舶用炉を一体とした原子力船建造に関するわか国の技術体系が早期に確立されるものと期待され、また原子力船は50年代には実用化される見込みであり、これらの原子力船の建造運航は民間企業が中心となることが期待されるとして、この方向に沿った調査研究がすすめられてきた。
 当懇談会は、わが国の原子力船開発の推進に資するため、改めて内外海運界の動向および海外における原子力船開発に関する動向などを十分に把握し、わが国の原子力船開発に関する将来のあり方について検討することを目的として、昭和44年6月に設置され、別紙に示す構成員により、約1年にわたり審議を重ねた。この間、原子力船に関する諸問題を詳細に検討するために、2つの検討グループを設け、主として海外における舶用炉開発の現状と問題点、商船の大型化、高速化の見通しなどについて検討を行ない、これら2つの検討グループの検討結果(別添参考資料)をもとに概ね次のような論調を得た。


別紙

 原子力船懇談会構成員(順不同)
座長 与謝野 秀 原子力委員会委員
新津 利秋 日本郵船株式会社常務取締役
山田 知之 大阪商船三井船舶株式会社専務取締役
村上 外雄 石川島播磨重工業株式会社理事
木下 昌雄 日立造船株式会社常務取締役
横須賀 正寿 三菱原子力工業株式会社取締役
若林 良一 日本原子力事業株式会社取締役
山県 昌夫 財団法人日本海事協会名誉会長
安藤 良夫 東京大学工学部教授
地田 知平 一橋大学商学部教授
五弊 淳次 社団法人日本造船研究協会常務理事
米田 冨士雄 社団法人日本船主協会副会長
山田 泰造 社団法人日本造船工業会専務理事
森 一久 日本原子力産業会議事務局長
佐々木 周一 日本原子力船開発事業団理事長
村田 清 日本原子力研究所副理事長
見坊 力男1) 運輸省官房審議官
大坂 保男2) 科学技術庁原子力局次長
 (注)1)第1回、第2回、第3回は、内村 信行(前運輸省官房審議官)
    2)第1回、第2回、第3回は、礒西 敏夫(前科学技術庁原子力局次長)



1 外航商船の大型化、高速化の動向

(1)世界経済の発展に伴って、世界における貿易量は大幅に増加しており、これに対処して商船の船腹量の拡大がはかられているが、このなかで外航海運における顕著な傾向は、タンカーの大型化と定期貨物船のコンテナ化である。

(2)タンカーは,1港積、1港揚げまたはそれに近い形態でピストン輸送されるが、一般に高載賃率が期待でき、また、特に高速力の必要性がないので、建造費および輸送費の低減を目的として、近年非常に大型化が進んでいる。現在最大級のものは、運航中のもので326,000重量トン、建造中のものでは370,000重量トンに達しており、新造船の平均値としては200,000乃至250,000重量トン程度となっている。

(3)コンテナ船による輸送は、荷役の合理化による輸送時間の短縮など輸送合理化を可能にする革命的な 輸送方式であり、流通機構の近代化、国際的な一貫輸送体制のもとに、世界の主要定期航路は今後大部分コンテナ化されることは必至であると思われる。
 このような情勢に伴って、1,000個積23ノット程度のコンテナ船が多数建造されているが、アメリカでは1,950個積30ノット高速コンテナ船8隻を建造中であり、イギリス、西ドイツおよびわが国においても2,000個積26乃至27ノット級のコンテナ船を発注、建造または計画を進めているなど、一部のコンテナ船の高速化が進んでいるのが注目される。

(4)商船の大型化、高速化など外航海運の将来の動向は、各国の異なった海運政策のもとに行なわれる複雑な国際競争によって左右されるものであり、長期にわたり正確に予測することは非常に困難であるが、タンカーの大型化、コンテナ船の高速化の傾向は、今後も続くものと思われる。当面の可能性に絞れば、最大級のものとして、タンカーは500,000重量トン15ノット程度、コンテナ船は2,000乃至3,000個積30ノット程度の出現が考えられる。



2 各国における舶用炉研究開発の動向


2.1 現状
(1)舶用炉など原子力船実用化のための研究開発は、「原子力開発利用長期計画」の策定を行なった昭和42年当時に比して、世界的に必ずしも活発とはいえない現状にある。特に世界の主要海運国であり,かつ原子力の分野では先進国であるアメリカ、イギリスにおいて特筆すべき具体的進展は認められない。

(2)アメリカでは、現在のところ経済性のある原子力船の建造には、なお舶用炉の研究開発が必要であるとの考えもあり、これまで原子力船隊の建造が種々計画されたが実現するに至っていない。

(3)イギリスでは、1965年に原子力船の経済性はまだ十分ではないとし、原子力船の建造延期を決定して以来、この基本的な考えを変えていないと思われる。またベルギーと共同で研究開発を進めてきたVulcainは、当初舶用としても考慮されていたが、舶用炉としては経済性が十分ではないということから、現在では小型発電用炉として開発が主目的となっている。
 なお、オランダがユーラトムの協力を得て原型炉の建設を行なってきた舶用炉(NERO)は、すでにその建設が中止されている。

(4)現在、舶用炉の研究開発を意欲的に行なっているのは西ドイツである。西ドイツは第1船オットー・ハーン号を1968年に完成させ、実験航海を続ける一方、第1船に塔載した加圧水炉を実用炉としての性能と経済性をさらに満足させるための改良研究を進めている。


2.2 舶用炉の技術的問題点と今後の見通し
(1)実用舶用炉として満足すべき条件は、安全性、信頼性および経済性にあることはいうまでもない。
 これまでに建造、運航された原子力船の炉はすべて加圧炉であるが、この炉の船用炉としての安全性および信頼性は、サバンナ号などの実験航海,商業航海を通じて全面的に実証されている。しかし、サバンナ号やわが国の「むつ」に使用されている炉は、一次系主要機器が分離した、いわゆる分離型加圧水炉といわれるものであり、この型の炉は比較的大型となるので小容量である限り経済性は十分ではない。

(2)分離型加圧水炉を改良進歩させた炉の概念のひとつとして、一次系全体をひとつの圧力容器内に収容することにより、炉の軽量コンパクト化をはかろうとするいわゆる一体型加圧水炉がある。この型の炉は当初アメリカで研究されたが、その後アメリカでは進展がみられず、かわって、西ドイツが研究を進め、FDR(Fortschrittlichen Driichwasser Reaktor)としてオットー・ハーン号に塔載された。西ドイツではすでに述べたようにさらに経済性を高めるための改良FDRの開発を行なっているが、これが現在のところ世界で最も進んだ商用舶用炉であると考えられる。

(3)一般に,舶用炉は陸上発電用炉のように大容量化により経済性の向上をはかることは、現在の海上輸送方式の上では限界があるので、炉の軽量化、コンパクト化により価格の低減を達成せざるを得ないが、安全性などの点からやはり限界があり、上記3条件を同時に満足させることは容易ではない。
 結局、実用舶用炉の技術的課題は、安全性を十分に確保しつつ、どこまで小型化ができるかにあると思われるが、この課題を十分克服できるような炉は現在実現しておらず、また将来どのような炉が最も実用性をもつことになるのか、現時点では明確にし難い。
 しかしながら、当面は、これまでの原子力船や発電用炉において技術的に最も蓄積の多い加圧水炉、特に一体型加圧水炉を中心とした研究開発が進むものと考えられる。また、長期的に見た場合は、ガス炉特に高温ガス炉などの出現も予想される。



3 原子力船の実用化の見通し

(1)原子力船は、少量の燃料で長時間高速運転が可能であること、大量の燃料の積載が不要であることなど、在来船では不可能なすぐれた特性を有しておりこれを商船として利用した場合、きわめて柔軟性のある運航が可能である。この特性は高速船においてよりその長所を発揮するものと考えられる。商船の高速化については、すでに述べたように、近年コンテナ船の高速化が進み、現在、アメリカの30ノット船はじめイギリスや西ドイツなどの26乃至27ノット級の船の建造が行なわれている。これらのコンテナ船の所要出力は、80,000乃至120,000馬力であり、在来推進機関が使用されることになっているが、このような大出力になると、在来推進機関では種々問題が生じる。特に問題となるのは燃料有費量である。アメリカの30ノット船は航路にもよるが、1航海に10,000トン以上もの大量の燃料油を消費することになり、貨物を積載できる割合が大幅に減少するなど船舶としての機能が著しく低下する。この問題を解決するものとして原子力船の実用化に対する期待が一層高まりつつある。

(2)しかし商船として原子力船を実用化するためには、原子力船が在来船と経済的に競合できかつ安全性、信頼性が十分であることのほか、入出港航行の自由が在来船におけると同様十分に保証されていること、燃料交換施設、修理施設などの諸施設が整備されていることなどの条件が満足されなければならない。
 現在、世界で就航または建造されている原子力船はすべて実験船であって、実用的な原子力船がまだ実現していないが、その原因は、上記のような諸条件が現在ではなお十分に満足されていないためと思われる。

(3)特に原子力船の経済性については、どの程度の機関出力をもった原子力船が在来船と競合し得るのか現在世界的に見解は一致していない。
 これまでわが国では、加圧水炉の改良研究を進めることにより、1970年代後半には、原子力推進機関の建造費は、在来推進機関のそれの2倍程度、核燃料費は軸馬力時あたり2ミル以下になるものと見込み、およそ120,000馬力の商船において原子力船は在来船と競合し得ると考えてきた。
 しかしその後の研究結果からフランスでは、1985年の時点において、楽観的にみても120,000馬力以上でなければ原子船の経済性はないので、原子力船の実用化は当分困難であるとしており、一方西ドイツでは、1970年代初期には、原子力推進機関の建造費は在来推進機関のそれを少し上まわる程度となるので、40,000乃至50,000馬力で原子力船は在来船と競合し得ると考えている。

(4)原子力船の経済性の見通しに関するこの見解の相異は、船用炉についての技術進歩の見通しの相異に起因している。一般に、西ドイツの見通しは楽観すぎ、フランスはやや悲観的であるように思われるが、わが国としては、舶用炉、特に、一体型加圧水炉など進歩した舶用炉に関する技術的な資料が十分にないので、いずれが妥当な評価であるか的確な判断を行なうことは難しい。原子力船の経済性の見通しを得ることは、原子力船の実用化の時期および開発の目標を定める上で特に重要であるので、原子力船の実用化の今後の推進にあたっては、このためにはまず一体型加圧水炉などに関して検討を行なうことが必要であると思われる。

(5)また、原子力船の入出港、航行の自由が保証されるためには、原子力損害賠償に関する国際条約の締結ならびに原子力船についての特別な国家補償制度損害賠償責任保険および、船体保険などの保険制度の確立が必要であるが、これらを全面的に解決することは実際上相当困難なことと予想される。



4 わが国の原子力船開発の今後の進め方

(1)原子力船は在来船では得ることのできないすぐれた特性を有しているので、これを商船として利用することはきわめて有意義なことである。今後その実用化を進めるにあたっては、安全性および信頼性とともに商船としての経済性の確保を考慮することとし第1船の建造、運航によって得られた成果を十分に生かしつつ、今後も国産技術を主体とした開発を行なうべきである。これをより効果的に推進するために状況に応じて諸外国との協力も考慮する必要があろう。

(2)商船の大型化、高速化の動向、世界各国における舶用炉の研究開発の状況、原力船の経済性に関する各国の見通しなどを総合的に判断すると、わが国としては、原子力船の実用化を推進するためには、さらに舶用炉についての広範な調査研究を行なうことが必要である。このために、一体型加圧水炉を主眼とした舶用炉の設計研究を早急に行ない、舶用炉の技術的、経済的問題点を明らかにするべきである。原子力船実用化のための方策は、その研究結果と第1船の成果、コンテナ船の高速化など内外海運界の動向、各国における舶用炉開発の進展状況などをあわせて、改めて検討することが適切である。

(3)原子力船の実用化のためには、そのほか原子力船の入出港、航行の自由が、在来船におけると同様十分に保証されなければならないが、現時点では、その保証を全面的に得ることは相当困難なことと予想されるので、一層国際的国内的にその解決のための努力を行なわなければならない。




参考資料 1

原子力船懇談会第1検討グループ
報告


昭和45年6月24日
第1検討グループ

(まえがき)

 昭和44年6月原子力委員会に設置された原子力船懇談会は、その審議の過程において、原子力船に関する諸問題についてさらに詳細に検討するため、2つの検討グループの設置を決定した。その決定にもとづき、当検討グループは、原子力船の技術上の問題を中心に、主として、世界における舶用炉開発の現状と将来の見通し、実用舶用炉として満足すべき条件および舶用炉の価格などについて、下記の構成員により約8ヶ月にわたり検討を重ね、ここにその検討結果をとりまとめた。


構成員(順不同)
主査 安藤 良夫 東京大学工学部教授
三本 力 日本郵船株式会社企画部企画課長
岡田 稔 大阪商船三井船舶株式会社調査室付課長
島 栄吉 石川島播磨重工業株式会社原子力船部次長
田口 正雍 日立造船株式会社東京支社原子力課長
藤永 一 三菱原子力工業株式会社原子力船総括室長
木村 隆義 財団法人日本海事協会機関調査課
五弊 淳次 社団法人日本造船研究協会常務理事
長本 良夫 日本原子力船開発事業団企画部調査課長
村主 進 日本原子力研究所東海研究所動力試験炉部長
高田 良夫 運輸省船舶技術研究所機関開発第二部長
国部 淳 運輸省船舶局技術課原子力船技術調査官
竹林 陽一1) 科学技術庁原子力局技術振興課長


検討会開催日
 第1回 昭和44年10月29日
 第2回 昭和44年11月21日
 第3回 昭和45年2月6日
 第4回 昭和45年5月25日
 注1)第1回は根岸正男(前科学技術庁原子力局技術振興課長)



1 世界における舶用炉の研究開発の状況

1.1 水炉
 1962年に完成したサバンナ号に搭載された加圧炉は、これまでの実験航海、商業航海を通じて現在まで約7年間順調に運転が続けられ、その安全性および信頼性が全面的に実証されたが、この炉は圧力容器熱交換器、循環ポンプなどの一次系主要機器がそれぞれ分離したいわゆる分離型加圧水炉といわれる出力に比して比較的大形の炉であり、経済性の点で満足できるものではない。また、すでに開発は中止されているが、オランダがユーラトムの協力を得て原型炉の建設を実施をしてきた水ジェットによる内部循環方式の舶用炉(NERO)も、サバンナ号のものと大差はない。
 一方、アメリカ、イギリスなどの原子力軍艦に使用されている炉も分離型加圧水炉といわれているが、これらの炉は燃料として90%程度の高濃縮ウランを使用し、各部材料にごく良質なものを使用するなど経済性は重視されておらず、その技術は、一般に、微濃縮ウランを使用する商船用原子炉とは根本的に異なった技術であると思われる。従って原子力軍艦用の炉の技術が直ちに全面的に商船用炉の技術として役立つことはないが、利用できる部分も相当あるとみなければならない。
 分離型加圧水炉からさらに進んだ舶用炉の1つの概念は、一次系全体を一つの圧力容器内に収容し炉の簡素化をはかろうとするものである。この一体型加圧水炉としては、アメリカB&W(Badcock&Wilcox)社のCNSG(Consolidated Nuclear Steam Generator)Ⅲ、CE(Combustion Engineering)社のUNMOD(United Modular Plant)などがある。在来船と経済的に競争できることを目的として研究されたこれらの炉は、1963年にその概念設計を完了したものであるが、その後研究を進めていない模様であり、実用舶用炉として技術的に未完成のものと思われる。これらの技術は現在ではむしろ西ドイツB&W社およびInteratom社にひき継がれ、1968年FDR(Fortschrittlichen Driickwasser Reaktor)としてオットー・ハーン号に搭載された。これはまだ実用上不十分なものであるので、西ドイツでは、出力密度の上昇など実用舶用炉としての適応性を向上させ、その経済性を高めるための改良FDRの開発を行なっているが、これが現在世界でもっとも進んだ舶用炉と考えられる。
 なお、イギリスがベルギーと共同で研究開発を進めている軽、重水減速冷却加圧水炉Vulcainは、当初は舶用としても考慮されていたが、舶用炉としては経済性が十分ではなく、現在では小形発電用炉の開発が主目的となっている、また沸騰水炉については研究例が少なく、この炉の評価は全く今後の問題である。

1.2 ガス炉
 ガス炉については、黒鉛減速の特徴として、出力密度が小さく炉心寸法が大形になるなどの理由により舶用炉としては不適当であると考えられてきたが、最近注目されている高温ガス炉は、水炉に比して高熱効率高燃焼度など有利な条件があり、水炉に継ぐ第二世代炉としての可能性を有している、西ドイツGKSS(Gesellschaft Für Kernenergieverwertung in Schiffbau and Sohiffahrt)は現在クローズドサイクルガスタービンと組合せたヘリウム冷却の舶用高温ガス炉について調査研究を行なっており、さらに発電用が主目的であるが陸上原型炉を建設中である。しかし世界的には、水炉に比して、舶用ガス炉の研究は緒についたばかりである。


2 船用炉として満足すべき条件

 舶用炉として必要な条件は、安全性、信頼性および経済性にあることはいうまでもない。ここでは舶用炉および関連機器に要求される具体的事項について、主として第1船「むつ」を例に検討した。

(1)炉の小形、軽量化
 舶用炉の小形、軽量化は、船の載貸量の増大、炉の製造費の軽減など原子力船の経済性向上にとってきわめて重要な因子である。
 舶用炉を小形、軽量にするためには、炉心の出力密度の上昇、一次系機器の一休化とともに、しゃへい格納容器などの安全防護設備の簡素化をはからねばならない。「むつ」搭載炉の二次系を含むプラント合計重量は3,839トンに達し、同規模の在来機関のプラント重量の4倍以上になるが、このうち一次しゃへいを含むしゃへい重量はプラント全体の58%を占めているので、炉本体の小形化をはかり、しゃへい重量の大幅な改良を行なわねばならない。

(2)関連機器の簡素化
 「むつ」の発電機容量は総計3,280KWに達し、在来同型船のそれの約4倍で著しく大きいので、原子炉系の運転に必要な電力をできるだけ小さくしなければならない。負荷の大きなものは一次冷却水ポンプおよび加圧器ヒーターであり、これらの所要電力を減らす必要がある。特に起動時および崩壊熱除去時に一次冷却水ポンプを必要とせず、自然循環だけで運転し、補助発電機容量を小さくできるような炉が望まれる。

(3)振動、動揺などに対する考慮
 陸上炉では、地震および特別な条件下での共振などによる振動を考慮すれば十分であるが、舶用炉の場合は、振動、動揺、傾斜など洋上で船舶が遭遇する苛酷な条件下でも原子炉が安全に運転できるような配慮が必要である。また、衝突、座礁、浸水、大傾斜、沈没などの海難の発生に備えて、重要機器の安全保護装置を二重に配置するなどいかなる場合にも安全に炉の運転停止を可能とする対策および放射性物質の船内、船外への拡散防止措置を講じなければならない。

(4)信頼性
 大洋航海中に発生した原子炉施設の重大な故障を船内で修理することは殆んど不可能であるなど舶用炉は陸上炉にくらべて非常に不利な環境におかれるものであるので特に高い信頼性が要求される。

(5)建造期間の短縮
 わが国の「むつ」や西ドイツのオットー・ハーン号の建造期間は4年以上を要し、在来船のそれに比して著しく長い、これでは商業用としては長すぎ、また金利負担との関係で原子力船の経済性にも影響するので、建造期間を2年程度に短縮する必要がある。これまでに建造された原子船は、格納容器、しゃへい、格納容器内機器艤装などの工事をすべてシリーズに行なわるを得ない構造になっているが、実用炉では各工事をできるだけ併行して進めることならびに格納容器および機器のプリアッセンブリ化などをはかり、工期の短縮をはからねばならない。


3 原子力船と在来船の経済比較

 現在、世界において就航もしくは建造されている原子力船はすべて実験研究船であって、商船として実用的な原子力船はいまだに実現されていないし、またアメリカにおける種々の原子力船隊建造計画もすべて中止になるなど、原子力船開発の動きは、世界的に、昭和42年の「原子力開発利用長期計画」策定当時に比して活発とはいえない現状にある。その理由は、原子力船の経済性が不明確であること、入出港、航行の自由が保証されていないこと、建造に長期を要することなどによるものと思われる。

3.1 原子力船の経済性に関する試算
 原子力船と在来船の経済性を比較した場合、大きな相異点は、資本費と燃料費である。原子力船は舶用炉など主機関の製造価格が在来船のそれに比して著しく高く、従って一般に資本費は高くなるが、核燃料価格は重油のおよそ半額程度を期待でき、また燃料の重量およびその貯蔵スペースが小さくてすむなどの利点をもっている。従来、世界各国で原子力船の経済性に関する試算が行なわれているが、その多くは、経済性の尺度を貨物の輸送費とし、同種、同型同一速力の原子力船と在来船を比較し、相対的にいかなる点で競合するかを求める方法をとっている。当面の目的を原子力船と在来船の経済的優劣比較に絞る限り、この相対比較の方法で妥当であろう。用いられるパラメータとしては、船種、船型、速力など種々あるが、これらを総括するものは機関出力であるので、これをもとに原子力船と在来船の経済的競合点を示すことが適切である。
 各国の試算結果によると、機関出力が増大する程,原子力船が在来船に比して相対的に有利となるとの傾向は一致しているが、その具体的な領域については各国でまちまちである。わが国で現行「原子力開発利用長期計画」策定の際に行なわれた試算結果では、経済的競合点は機関出力でおよそ120,000馬力,西ドイツの研究では40,000乃至50,000馬力フランスでは、今後の舶用炉の技術進歩を考慮して1985年の時点で120,000馬力以上となっている。
 これらの試算結果の相異の原因として、舶用炉価格、核燃料価格など多数の因子が考えられるが、そのなかで最も著しい影響を与えているのは舶用炉価格であって、核燃料価格など他の因子は、大局的には各国で余り差はないと考えてさしつかえない。わが国の試算では、炉型をCNSGⅢ、その技術段階を2乃至3基実用になった量産初期とし、例えば、66,000馬力の舶用炉を約24億円と仮定しているが、西ドイツでは同じ66,000馬力で約12億円と評価している。またフランスの研究では同程度の出力の炉の1985年の時点における量産価格として、楽観的にみて約28億円と想定している。
 このように舶用炉価格の評価に大きな相異があるので、舶用炉価格に関する詳細な技術上の検討を加えずに原子力船の経済性の試算を行なうことは余り意味がないと思われ、これまでわが国で行なわれた試算結果は、現時点では、120,000馬力程度を原子力船と在来船の経済的競合点とするための、舶用炉および核燃料に関する技術的な目標を与えるものであると解釈されるべきである。

3.2 舶用炉の価格
 原子炉製造価格に影響を及ぼすものとして、炉の出力と量産がある、出力の増大による炉価格の単位出力あたりの低下は、価格のある部分が出力に関係なく一定であることによるものであるが、アメリカや西ドイツの資料を整理してみると、炉価格は100,000馬力までは出力の0.33乗に比例する結果となっており、フランスは0.55乗と考えている。フランスの想定はやや高目にみすぎており、少なくとも100,000馬力までは0.33乗を上廻ることはないものと思われる。量産が製造価格の低下に及ぼす効果については、西ドイツでは、原子炉価格に占めるものとして、材料費、加工費、組立費などの製作費の他に、プラント全体の設計、建設において発生する技術費というものを考えており、1号機については、この技術費が原子炉価格の約40%を占めるのに対して、2号機以降については技術費は除外され、5乃至10基量産価格は1号機の半額程度になるとしている。アメリカの原子炉メーカーが発表している資料によると、量産による価格の低減は、1号機に比して10乃至15%となっており、フランスでは30乃至35%の低減率とみている。
 西ドイツの研究は1966年に行なわれたものであるが、1970年代初期に到達可能な技術段階とし、100,000馬力のもので1号機価格約32億円、量産価格約14億円、この見積り価格の精度は±5%であるとしている。フランスの研究では1968年と1985年の2つの時点を考えているが、1968年における1号機価格は100,000馬力で約90億円、年4%の値下り率を見込んでの1985年における量産価格は約32億円である。またアメリカにおける研究は、1966年にNUS(Nuclear Utility Service)社が政府の委託を受けて、B&W社、WH(Westinghouse Electric)社など原子炉メーカー各社から出された技術資料をもとにとりまとめたものであるが、100,000馬力程度の舶用炉の量産当初価格は約36億円、5乃至8基量産時でおよそ30億円と見積っている、わが国における舶用炉価格の想定は、B&W社がCNSGⅢに関して発表した資料にもとづいて行なったものであって、NUS社のものより、比較的安価に見積っている。すなわち、3基量産時の100,000馬力舶用炉価格を比較すると、わが国では約28億円NUS社では約33億円となり、NUS社の資料をもとに原子力船の経済性の試算を行なうと、経済的競合点はおよそ150,000馬力になるものと思われる。定性的には、西ドイツの評価は楽観すぎる傾向があり、フランスは高く見積りすぎているように思われるが、わが国には実用的な舶用炉に関する技術資料が少なく、どれが正しい価格であるか的確な判断を行ない難い。



(結論)

(1)現在、世界において、実用原子力船の建造に関する具体的な計画はない。また商用舶用炉の研究開発についても、西ドイツ以外の国ではほとんど実施されておらず、実用舶用炉は、現時点ではまだ実現されていない。現時点でもっとも研究が進んでいるのは西ドイツの改良FDRであって、当面は、この種一体型加圧水炉が有力と思われる。

(2)実用舶用炉は、安全性、信頼性とともに経済性を満足することが要求され、この点「むつ」塔載炉は特に経済性において改良の余地が多い。

(3)各国で行なわれた原子力船と在来船の経済性比較試算結果によると、その経済的競合点は機関出力で数万馬力から100,000馬力以上の広範囲にわたっておりきわめて不明確である。その原因は舶用炉価格の評価の相異にあるが、わが国には実用舶用炉に関する技術蓄積に乏しく、その価格について的確な評価を行なうことはできない。従って、舶用炉価格についての詳細な技術的検討をさしおいて、経済性試算結果のみをとりあげ、原子力船の実用化を論評することは無意味と思われる。

(4)わが国としては、まず、一体型その他新しい技術をとり入れた加圧水炉からなる100,000馬力程度の原子力機関を、在来機関の2倍程度の価格で製造するためにはどのような技術的問題があるかを明らかにするための設計研究を実施することが望まれ、原子力船実用化のための方策は、この研究の結果と第1船「むつ」の成果をあわせて改めて検討することが適切である。




参考資料 2

原子力船懇談会第2検討グループ
報告


昭和45年6月24日
第2検討グループ


(まえがき)

 昭和44年6月原子力委員会に設置された原子力船懇談会は、その審議の過程において、原子力船に関する諸問題についてさらに詳細に検討するため、2つの検討グループの設置を決定した。その決定にもとづき、当検討グループは、海運面から、主として、商船の大型化、高速化の見通しおよび保険、賠償など原子力船の運航に伴う問題について、下記の構成員により、約8ヵ月にわたり検討を重ね、ここにその検討結果をとりまとめた。


構成員(順不同)
主査 地田 知平 一橋大学商学部教授
谷川 久 成蹊大学法学部教授
米里 正明 日本郵船株式会社調査部調査室長
宮本 清四郎 大阪商船三井船舶株式会社監査役
古寺 一郎 川崎汽船株式会社企画部企画室長
萩原 正彦 ジャパンライン株式会社人事部審議役
平田 元 日本航空株式会社調査開発室長
山口 文緒 日本原子力保険プール
福永 晄 船舶保険連盟業務部長
真田 良 社団法人日本船主協会常務理事
高橋 全吉 運輸省海運局外航課長
石原 明 運輸省船員局労政課長
竹林 陽一1) 科学技術庁原子力局技術振興課長
検討会開催日
 第1回 昭和44年10月24日
 第2回 昭和44年11月14日
 第3回 昭和44年12月10日
 第4回 昭和45年2月13日
 第5回 昭和45年2月17日
 第6回 昭和45年5月29日
 (注)1)第1回は根岸正男(前科学技術庁原子力局技術振興課長)



1 商船の大型化、高速化の現状

 世界における原材料の需要の大幅な伸びに伴って タンカー、鉱石運搬船などの船腹量の伸びが著しい、タンカーやバラ積船のように、比較的安価な貨物を1港積,1港揚げ又はそれに近い形態でピストン輸送する場合には、特は高速力を必要とせず、また高載賃率が期待できるので、輸送費の低減を目的とした大型化がこれらの船種の顕著な傾向となっている。とくにタンカーについては、200,000乃至250,000重量トン15ノットが新造船の平均値であり、運航中の最大のものは326,000重量トン、建造中のものでは最大370,000重量トンに達している。
 外航海運における最近のもうひとつの著しい変化は定期貨物船のコンテナ化である。コンテナ船は、一般貨物船に比して、寄港地を制限することにより高速高回転の稼動が可能であり、大型化によるメリットがあることは勿論のこと高速化が直接貨物の輸送時間の短縮につながるので、大型化高速化がこの船種の傾向となっている。コンテナ船による輸送は、荷役の合理化による輸送時間の短縮など輸送合理合化を可能にする革命的な海上輸送方式であり、流通機構の近代化、国際的な一貫輸送体制のもとに、世界の主要定期航路は今後大部分コンテナ化されることは必至である。このこのよう情勢に伴って、1,000個積23ノット程度のコンテナ船が多数建造されているが、特に米国シーランド社は44年8月、1,950個積30ノットの高速コンテナ船をオランダに3隻、西ドイツに5隻計8隻を、またイギリスや西ドイツは、2,000個積26乃至27ノット級のコンテナ船をそれぞれ数隻発注、建造中であり、一方、わが国においても1,840個積、26ノットのコンテナ船の建造計画を進めているなどコンテナ船の高速化が一段と進んでいるのが注目される。


2 商船の大型化、高速化の見通し

 各船種のなかで、大型化はタンカーに、高速化はコンテナ船に著しいという傾向は、今後も変らないと思われるが、実際どこまで大型化、高速化が進むかの見通しをたてることは非常に困難である。船腹量は貿易量との関係からある程度まで予測することも可能であるが、その船腹量が今後どのような船種、船型によって構成されるかの正確な見通しをたてることは殆んど不可能に近い。商船の高速化については、その所要出力は速力の3乗に比例して増加し、これにともなって輸送費が上昇するので、一定の経済的速力をこえるような高速化は望ましくない。しかし現実には、ある程度経済性を犠牲にしても、輸送シェアの維持、拡大のための高速輸送が行なわわている。また大型化は、輸送費低減のために最も効果的であるが、それには高載賃率が前提であり、また運河、港湾施設など解決を要する問題も少なくない。商船の大型化、高速化などその将来の動向は、根本的には各国の異なった海運政策のもとに行なわれる複雑な国際競争にもとづいており、明確には予測し難いので、当検討会においては、当面の可能性に絞って商船の大型化、高速化の見通しについて検討を行なった。

(1)タンカー
 タンカーは技術的には1,000,000重量トンも建造可能と思われるが、大型化による輸送費低減の効果が次第に減少しつつあること、また、航行上の制約、保険引き受け上の問題などを考慮すると、当面出現の可能性があるのは500000重量トン程度と思われる。今後も大型タンカーが多数建造されることになろうが、その平均値は200,000乃至300,000重量トンであろう。なお、タンカーは、輸送費の低減を第一の目的としているので、スピード・アップは当面おこなわれないものと考えられる。

(2)コンテナ船
 一般に定期貨物船の高速化を進める原因として、海運内部に起因するものと、外部に起因するものとが考えられる。海運内部のものとしては運賃同盟がある。運賃同盟に加入している商船は運賃を規制されているため、わずかでも他船より高速化して輸送時間を短縮する方が集荷において有利となり、採算を犠牲にした高速輸送を行なって市場をおさえ競争相手を排除しようとすることも少なくない。前述したシーランド社の30ノットコンテナ船は現在の標準的なコンテナ船をはるかに抜きんでた高速船であり、このような超高速船がその競争相手に与える打撃は大きいものと思われる。しかしながら、一般にコンテナ船の経済的速力は20ノット前後であり、これを越えると速力の増大に伴って輸送費が大幅に上昇し、採算性を悪化させることにもなる。シーランド社の場合は軍用貨物の輸送なども考慮されている模様であり、30ノットという高速力の運航を行なっても、採算がとれないとは断言できないが、わが国はじめ他の国が同様な高速船を運航させた場合においても実際に採算がとれるかどうか疑問である。当面は30ノット級のコンテナ船が一般化することはないものと思われる。しかし、コンテナ輸送の本来の目的は、ドア・ツー・ドアの海陸一貫輸送にあるので、コンテナ船の高速化の必要性について単に海上における採算のみから議論するのは必ずしも適切とはいえず、シーランド社の30ノットコンテナ船隊が就航すると予想される47年以降を注目する必要があろう。
 高速化を進める要因のうち海運外部に起因するものとしては航空機との競争が考えられる。すぐれた大型貨物輸送機の開発により航空輸送の運賃低減が進んだ場合は、海上輸送に頼っていた高価貨物の一部は航空輸送に移行するであろう。これに対抗して海上輸送においても商船の高速化など輸送時間短縮のための努力が払われることになろうが、航空機のスピードと船舶のそれとは本質的に異なるものであること、高速化に伴う特別料金の採用は、かえって高速船の集荷を悪化させる可能性もあるので実現は困難であることなどの理由により、航空機相手の大幅なスピードアップは行なわれないものと思われる。
 大型化については、コンテナ船においても輸送費の低減のために有効な方法であるが、大型化によるメリットは、大型化する程相対的に小さくなること、船、コンテナおよびコンテナ・ターミナルなど諸設備への巨額の投資ならびに十分な貨物量を必要とすること。さらにサービス間隔、荷役時間、運河、港湾施設に関する問題などを考慮すると大型化にも限界があると考えねばならない。その限界は相当長期的にみても3,000個積程度と思われる。


3 原子力船の実用化の見通し

 原子力船は、核燃料の保有エネルギーが非常に大きいので、高速力の運航を行なっても航続距離にほとんど制約を受けないこと、大量の燃料油の搭載が不要であるため、それだけ貨物の積載量を増大させることができることなどにより、きわめて柔軟性のある運航を可能にするすぐれた特性を有している。従ってこれを海上輸送に利用することはきわめて有意義なことと思われる。実際、このすぐれた特性はすでに原子力潜水艦などに利用され、その戦略的価値を飛躍的に高めている。しかし経済性を特に重視しない軍艦と異なり、商船としては第一にその経済性を考慮しなければならない。また原子力船を海上輸送に真に生かすためには、相当数の商船が、原子力推進によって経済ベースで運航できることが重要であろう。
 昭和42年に原子力開発利用長期計画を策定するに当って行なわれた原子力船の経済性試算結果によると機関出力がおよそ120,000馬力以上になると、原子力船は在来船より経済的に有利であるとされている。この試算方法は、同種、同型、同一速力の原子力船と在来船の輸送費を海上部分に限定して相対比較を行なったものである。理想としてはドア・ツー・ドアの範囲における船の耐用期間を通じての原子力船の絶対的な収支利益を示すことが望まれるが、実際上非常に困難であるので、この相対比較方法でもやむをえないであろう。仮に120,000馬力程度を原子力船実用化のための目安と考えた場合、タンカーはその必要性に乏しい。タンカーの大型化は、当面は最大のもので500,000重量トン、その速力は15ノット程度になると思われる。この場合でもその機関出力は、およそ50,000馬力にすぎず、また万一火災が発生した場合の原子炉に及ぼす危険性など考慮すると、タンカーの原子力推進は当面得策ではなかろう。
 他方コンテナ船については、シーランド社の30ノット船は、すでに120,000馬力に達しておりまたイギリスや西ドイツの26乃至27ノット船で約80,000馬力になるなどコンテナ船の高速化とともにその所要力は急増している。これらの船はいずれも在来機関を塔載しているが、このような大出力になると、在来機関では技術的に種々問題が生じるものと思われる。高速船に在来機関を使用する場合の最大の問題は燃料消費量である。シーランド社の30ノット船は、航路にもよるが1航海に10,000トン以上の燃料油を消費することとなり、貨物を塔載できる割合が著しく低下する。この問題を根本的に解決するためには、原子力機関によらざるを得ないであろうが、原子力船の貨物積載量における有利さを考慮してもシーランド社の30ノット船がようやく原子力船が経済ベースに乗るか乗らないかの範囲であると考えられるので、当面はコンテナ船の推進についても原子力を利用する意味は余りないと思われる。
 しかしながら、コンテナ船はその普及に伴って今後技術改良などにより輸送費低減の努力が行なわれることも予想されるので、150,000馬力程度の機関出力を要する3,000個積30ノット程度のコンテナ船が実現になると、原子力船の使用が日程にのぼらざるをえなくなるであろう。当面はそのようなコンテナ船は数少ないであろうが、経済性が実証され、一方で原子力船に関する技術が進歩すると、それに伴って原子力船の実用化が促進され、相当数の原子力船が建造運航されることも予想される。


4 原子力船の運航に伴う保険,賠償などの問題

 原子力船を建造、運航させるにあたり、まず、その経済性および安全性が証明されることが絶体的な条件であるが、それとともに入出港、航行の自由のために原子力損害賠償に関する国際条約の締結など原子力船の取り扱いが在来船におけると同様十分な措置をとり支障をきたすことのないようにしなければならない。
 一般に在来船は1960年SOLAS条約にもとづき、その安全性に関する証明を受けることによって国際貿易に従事している、原子力船についても一応この条約に規定されているが、原子力船による災害が発生した場合の賠償責任に関する最高補償措置が各国間で異なるので、国際的運航にあっては条約乃至協定が必要となり、これが締結されない限り入出港、航行の自由は確保されない、この点、コンテナ船は一般貨物輸送が主力であり、大都市に近接した港湾を利用することとならざるを得ないため、タンカーなどに比して不利となることは否定できない。さらに、原子力船についての特別な国家補償制度、損害賠償責任保険、船体保険などの保険制度の確立、燃料交換施設、修理施設の整備、人員の養成、訓練などの環境の整備が必要である。
 以上の原子力船の運航上の取扱いに関する諸問題は、原子力船の実用化にあたり、実際上困難な要因となりうるのみならず、その全面的な解決には国際的協力に長年にわたる絶えざる努力が必要と思われる。



(結論)

(1)商船の大型化、高速化がどこまで進むかの見通しをたてることは非常に困難である。当面の可能性にしぼればタンカーは最大級のもので500,000重量トン15ノット程度、コンテナ船については、2,000乃至3,000個積30ノット程度と予想される。

(2)原子力船を建造、運航させるにあたっては、第一にその経済性が考慮されるべきである。この点、タンカーにあっては大きな機関出力の必要性はなく原子力を利用しなければならない理由はない、コンテナ船についても、当面はごく限られたものについてのみ原子力利用の可能性があるにすぎない。

(3)原子力船の運航上の取り扱いに関する諸問題は、原子力船の実用化に伴って逐次解消されるものと予想され、本質的な妨げとなるものではないであろうが、当面は、この解決は困難なことであり、今後長期にわたる国内的国際的努力が必要と思われる。

(4)原子力船は、在来船では実現できないすぐれた特性を有しているが、まだ技術的には開発初期にありこれを利用できる範囲は現時点ではごく限られている。原子力船の特性を海上輸送に真に生かすためには、今後、原子力船に関する諸技術を進歩発達させ大型高速船に限らずもっと広範囲の商船に利用できるようにすることが望まれる。



前頁 |目次 |次頁