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日本原子力研究所東海研究所原子炉施設の変更
(JPDRⅡ計画)に係る安全性について


昭和44年9月22日
原子炉安全専門審査会

原子力委員会
委員長 木内 四郎 殿

原子炉安全専門審査会
会長 内田 秀雄

日本原子力研究所東海研究所原子炉施設の変更
(JPDRⅡ計画)に係る安全性について

 昭和42年3月16日付け42原委第65号(昭和43年2月6日付け43原委第36号及び昭和43年4月9日付け43原委第98号をもって一部訂正)及び昭和43年8月22日付け43原委第197号(昭和44年9月20日付け44原委第324号をもって一部訂正)をもって、審査の結果を求められた標記の件について、結論を得たので報告します。



Ⅰ 審査結果

 日本原子力研究所東海研究所原子炉施設の変更(JPDRⅡ計画)に係る安全性に関し、同研究所が提出した「JPDRの変更に関する書類」(昭和42年3月13日付け42原研05第7号。昭和43年1月31日付け43原研05第4号及び昭和43年3月12日付け43原研05第19号をもって一部訂正)及び「試験研究用原子力発電所(JPDR)の原子炉施設変更許可申請書」(昭和43年8月19日付け43原研05第45号。昭和44年9月13日付け44原研05第8号をもって一部訂正)に基づいて審査した結果、同施設の変更に係る安全性は十分確保しうるものと認める。



Ⅱ 審査内容

1 変更計画の概要

 本変更は、高出力密度燃料の実規模照射試験、沸騰水型原子炉の特性把握等を行なうため、次のような原子炉施設の改造を行なおうとするものである。
 原子炉熱出力を90MWに増加し、一次冷却系を自然循環方式から直接サイクル強制循環方式に改める。このため冷却系に再循環系を附加し、また主蒸気管より分岐してダンプコンデンサー系を設ける。
 燃料には、低濃縮二酸化ウラン焼結ペレットをジルカロイ-2で被覆した燃料棒を用いることは変りないが、外径、ピッチを小さくし、一集合体当りの燃料棒本数および配列は7×7の49本のものが用いられる。また、ウラン装荷量は約4.2トンである。
 自然循環から強制循環への変更に伴い原子炉圧力容器内に気水分離器を設ける。原子炉出力の制御は、制御棒の操作および一次冷却材再循環流量の調整によって行なわれる。
 再循環系は原子炉圧力容器とともに鋼製格納容器に収められる。これらの設備の附加にともなって、必要な計測制御回路および保護回路が設けられるほか、関連する既設設備の位置、機能等の変更が行なわれる。
 そのほか、放射性廃棄物の廃棄施設が増設され、非常用電源の負荷も増加される。
 なお、本炉の使用期間は、圧力変動150サイクルまたは90MWに達してから3年のいずれか早い時点までとなっている。


2 安全設計および安全対策

 本変更は、次のような種々の安全設計および安全対策を講じることとなっており、十分安全なものであると認める。

2.1 核熱設計および動特性

(1) 核、熱設計
 変更後の原子炉の熱出力90MWは、72個の燃料集合体による実効熱伝達表面積約196m2と炉心の平均熱流束約3.81×105kcal/m2hとによって、達成される。
 過剰反応度は、初期炉心(濃縮度平均2.52%)で約19%Δk/kとなるが、ポイズンカーテンの炉内装荷により最大約12%Δk/kに抑えられる。
 制御棒の制御容量は約22%Δk/kで、本原子炉は初期炉心で約10%Δk/kの停止余裕を有する。
 ポイズンカーテンは、初期炉心の終りに全部取り出される。平衡炉心では、過剰反応度約12%Δk/kとなり、停止余裕は約10%Δk/kを有することとなる。
 炉心冷却水の流量、圧力、温度(炉心出口)は、定格出力において、それぞれ約3.26×106kg/h、62.5kg/cm2および277℃であり、炉心出口における平均蒸気重量率は約4.4%である。
 燃料の最高中心温度は、125%出力においても2,310℃で、溶融点よりかなり低く保たれ、また最小限界熱流束比(MCHFR)は約2.1である。したがって、過渡状態を含めて、通常期待されるいかなる運転状態でも、燃料の損傷を防止できる設計となっている。

(2) 動特性
 本原子炉は、ドップラー効果、冷却材のボイド効果等により負の反応度出力係数を持ち、制御棒の操作などに起因する反応度の外乱に対して自己制御性を有している。
 本原子炉は、強制循環によって水力学的な乱れを抑え、蒸気圧一定制御方式を採用し、負荷変動と外乱あるいは沸騰によるノイズ特性の向上を図っている。また、流量制御方式の採用により、中性子束分布やボイド分布は出力にほぼ無関係に不変に保たれ、MCHFRは部分負荷で改善され、また、出力変化に際して、制御棒操作はほとんど必要としない。
 原子炉の安定性については、国内で開発された大規模なシミュレーションに基づくコードによる解析によってさらに確かめられることになっている。


2.2 燃料
 本原子力炉の燃料は、ジルカロイ-2被覆管に二酸化ウランペレットを封入した燃料棒を7×7に組み立てた集合体を1単位として、この集合体72個で炉心を構成している。各燃料棒は、2本のセグメントより構成され、その全長は1.64mである。
 49本の燃料棒からなる燃料集合体のうち8本の燃料棒が上下の燃料棒支持板と結びつき、燃料棒はすべて自由膨脹ができる構造になっている。被覆管の材質および肉厚は、燃料の使用寿命中の腐食および水素吸収に対し、妥当と考えられる。

2.3 計測および制御系
 新設プラントの主要な計表および制御機器は、既設の中央制御室に配置し、集中的に監視および制御を行なう。特に、安全および重要なプロセス機能に関連する装置は、すべて多重設備とし、さらにフェイルセイフの機能をもたせるよう設計される。

(1) 原子炉出力制御系
 運転中の原子炉出力は、原子炉再循環流量の調整あるいは制御棒動作のいずれかによって増減される。流量調整により原子炉出力を変えている間は、既設タービン系の入口圧力調整装置またはダンプコンデンサ系の圧力制御装置が原子力炉圧力を一定に保持するようにタービン蒸気加減弁または流量制御弁を調整する。流量調整による出力制御範囲は、原子炉系の安定性を考慮して定められる。また、低流量時に間違って制御棒が引き抜かれた場合に炉心に損傷を与えるのを防止するために、再循環流量の値に応じて、あらかじめ定められた中性子束レベルに達すると制御棒引抜きを阻止するインターロックが設けられる。

(2) 原子炉保護系
 原子炉保護系は、独立したフェイルセイフの2つの安全系からなっており、1つのチャンネルの故障によってその保護機能を失うことはない。所内電源が喪失すれば炉はスクラムするが、炉を監視する計測系は、所内蓄電池、非常用電源により、不動作となることはない。
 原子炉保護系は既設の保護系統をそのまま利用するが、本原子炉の変更にともない必要なスクラム条件が追加され、また設定値が変更される。
 また、一本の制御棒の反応度価値が過大にならぬような制御棒配置のインターロックおよび再循環流量変化中の制御棒引き抜き阻止のインターロックも設けられる。

(3) 原子炉プラントプロセス計表
 再循環回路、原子炉給水系および蒸気系、ダンプコンデンサ系等原子炉プラントの重要な部分には必要な計装がなされている。

2.4原子炉冷却系

(1) 圧力容器
 圧力容器は、既設のものを使用するが、この圧力容器には、クラッド材に亀裂のあることが知られている。このため第30部会では、この問題について特に慎重に検討を加えた結果、本炉の使用期間(圧力変動150サイクルまたは90MWに達してから3年のいずれか早い時点まで)中の安全性は十分確保できるものと認める。
 さらに、この期間中においても所定の時間々隔で信頼度の高い計測機器により容器内面を探傷するとともに種々の実験を行ない、万全を期することになっている。
 また、圧力容器は、圧力を受けている間は、容器の温度をNDT+33℃以上に保つようにし、中性子照射によるNDTの上昇については、容器内に試験片を挿入し、定期的に監視することになっている。

(2) 冷却材再循環系
 冷却材再循環系回路は2回路あり、それぞれ主冷却管、再循環回路止め弁、再循環ポンプおよび関連装置より成る。
 再循環ポンプの速度は、ポンプ電動機の電源周波数を変えることによって調整されるが、冷却材温度が低下した場合にはポンプ電動機が過負荷にならぬよう、速度を制限するようになっている。また出口弁が閉鎖していなければポンプを起動できないようなインターロックが設けられている。

(3) 気水分離器
 出力増加に伴い冷却方式を自然循環から強制循環に変更することによって、キャリオーバおよびキャリアンダの量が増加するのに対処するため、気水分離器を設ける。
 気水分離器はサイクロン式で、圧力容器炉心上部に配置された20個の分離器ユニットと乾燥器(既設)より成り、これによって蒸気は湿分0.1W/O以下の蒸気となって主蒸気管ノズルより出ることとなる。

(4) ダンプコンデンサ系
 出力上昇に伴い既設設備で処理できない蒸気を処理するため、ダンプコンデンサおよび空気抽出器、主蒸気管隔離弁等が設けられる。ダンプコンデンサは容量約63t/hで、ここに導入される蒸気は、流量制御弁により約0.1kg/cm2abs.まで減圧され、海水の漏洩を容易に検出できるよう2区分された冷却水管に分流する構造となっている。また、ダンプコンデンサに設けられるホットウエルの容量は、半減期の短い放射性物質を減衰させるに充分な滞留時間がとれる設計になっている。
 ダンプコンデンサ系の復水は、全量がダンプコンデンサ系復水脱塩装置を通り、核分裂生成物および腐食生成物が除去される。

2.5 廃棄物処理系

(1) 気体廃棄物
 本原子炉から発生する気体廃棄物の大部分は空気抽出器からの廃ガスであるが、ダンプコンデンサの空気抽出器廃ガスに対して既設タービン復水器の空気抽出器廃ガスの処理設備と同じ設計思想に基づき処理設備を増設する。廃ガス中の水素・酸素は再結合器を通して水蒸気として凝縮分離し、残留ガスは廃ガス貯蔵タンクを経て濾過処理後、スタックから大気中に放出される。また、必要があれば、再結合後、廃ガス貯蔵タンク(1日分の貯留容量のもの3基)に圧縮貯蔵し放射能を減衰させて大気中に放出する。

(2) 液体廃棄物
 液体廃棄物は、低レベルのもので放出可能なものは、海水で希釈して海へ放出し、その他のものは廃液処理設備により処理され、または東海研究所内の廃棄物処理場に送り処理される。
 廃液処理設備は既設の処理設備と同じ設計思想に基づき増設される。

(3) 固体廃棄物
 固体廃棄物の貯蔵は、既設設備を使用して行なうほか一部増設する貯蔵設備で行なう。雑固体はすべて東海研究所内の廃棄物処理場に送り処理される。

2.6 放射線管理

(1) 放射線遮蔽
 放射線源としてダンプコンデンサ系、原子炉冷却系、廃棄物処理系、補助系が付加されるが、これらの遮蔽については、従業員の作業時間に応じ、その被ばく線量が法規に規定された許容値を十分下まわるように設計される。また、既設の格納容器内生体しゃへいは、炉出力90MWにおいても充分しゃへい効果を有するよう設計されている。なお、炉内に破損燃料がある状態で運転を続ける場合でも既設タービン周辺等の放射線量の増加は僅かで、従業員の被ばく線量は、法規に規定された値を十分下まわる。

(2) 廃棄物の放出管理
 スタックからの気体廃棄物の放出に関しては、周辺監視区域に居住する一般公衆の本原子炉による被ばく線量が3ケ月間で0.04remを超えないとともに、周辺の原子炉からの被ばくも合わせた総被ばく線量が3ケ月間で0.13remを超えないように管理される。このため、放出量の上限は、30分間減衰の廃ガスについては75Ci/h,24時間減衰の場合は250Ci/hに抑えられる。本原子炉では実験用燃料の照射等を行なうためある程度の燃料破損を許して運転を行なうことも考えられるが、上述の値は約10本の燃料棒の被覆が完全に破損した状態に相当する。
 ダンプコンデンサ系およびタービン系の廃ガスはそれぞれモニタされ、これらの測定の結果、放出放射能が高くなると判断された場合には、両系の廃ガスを貯蔵タンクにたくわえて減衰を待ち、気象条件を選んで放出する。
 スタックのガスモニタにより放出される全放射能は、連続的に測定され、設定値以上になると、廃ガス放出弁は自動的に閉鎖される。
 液体廃棄物処理系から廃液を環境に放出する際には、一旦サンプリングしてその放射性濃度を測定し、循環水で希釈して、その濃度を法令に定める許容濃度以下にして放出する。
 固体廃棄物は、すでに述べたように、貯蔵設備および東海研究所内の廃棄物処理場に運搬され処理される。

(3) 放射線監視
 所内における放射線監視は、固定のエリアモニタによる空間線量率、プロセスモニタによる流体の放射能の検出により中央制御室で連続監視し、また個人の被ばく測定についても、必要な機器を備えている。
 所外の放射線監視は、敷地境界附近および周辺の適当な場所に設置したモニタリングポストでの積算線量の測定、排水口での排水モニタおよびスタック出口におけるダストモニタおよびガスモニタにより行なわれる。

2.7 原子炉の非常冷却
 通常の原子炉冷却能力が失われるような事故時においても、原子炉停止後の炉心崩壊熱を除去しうるように、既設の非常用復水器、炉心スプレー系が流用されるが、これらは炉出力90MWにおいても充分な能力を有するよう設計されている。

2.8 放射性物質の放出防止
 事故時においても周辺環境に大量の放射性物質が放散されないよう既に格納容器が設けられているが、さらに、格納容器の配管、電線貫通部および隔離弁から漏洩する放射性ガスをフィルターを経てスタックより排気する非常用換気系が設けられる。

2.9 安全防護設備の機能確保
 既設非常用ディーゼル発電機の負荷として、非常用換気系等が附加されるほか、蓄電池等が増設され、外部電源喪失時にも原子炉施設の安全確保に必要な電力を供給できるようになっている。

2.10 耐震上の考慮
 耐震設計については、既設設備の場合と同じく、施設の重要度に応じてA.B.Cの3種に分類され、それぞれ次の設計基準によることとなっている。Aクラスの施設は基盤における最大加速度0.15gの地震動に対して安全であるように設計され、その設計地震力は建築基準法に示された震度の3倍の震度から定まる値を下廻らないようにする。
 Bクラスの施設の設計地震力は建築基準法に示された震度の1.5倍の震度から定まる値を下廻らないものとし、Cクラスの施設の設計地震力は建築基準法に示された震度から定まる値を下廻らないものとする。
 変更にともなって設置される施設については、Aクラスに原子炉本体、原子炉冷却系等が含まれ、Bクラスにはダンプコンデンサー系、廃棄物処理系等が含まれる。
 再循環系配管、ダンプコンデンサ建屋等については、既設の格納容器およびタービン建屋に設置されている地震計の観測結果を取り入れた動的解析を行なってその設計を行なうこととなっている。

2.11 実験用燃料の照射
 実験用燃料を炉心に挿入し、照射実験を行なう場合についても、本原子炉の核的熱的制限値をこえて安全性を損うことのないよう十分規制して行くこととなっている。


3 平常運転時の被ばく評価

 平常運転時における被ばく線量の評価は、次のとおりであり、敷地周辺の公衆に対して放射線障害を与えることはないものと認める。

3.1 気体廃棄物
 安全対策の項で述べたように、スタックよりの気体廃棄物の放出は75Ci/h(30分間減衰)に制限されるが、これは、周辺監視区域外における被ばく線量を3ケ月当り0.04rem以下にすることから定められたものである。
 従来の運転実績をもとに推定した通常運転時の放出率は、約1.0Ci/h程度と見られるので、廃ガス放出による周辺への影響はほとんどないと認められる。

3.2 液体および固体廃棄物
 液体廃棄物は循環水で希釈して放出されるが、1日の通常の放射能放出量は、約1.8mciと見積もられ、海に放出する際の平均放射能濃度は1.26×10-8μCi/ml程度となり、その他の廃液を考慮しても、約1.44×105m3/日の大量の循環水があるので、安全な濃度にまで希釈して海へ放出できる。
 固体廃棄物についても十分安全対策が講ぜられている。


4 各種事故の検討

 本原子炉において発生する可能性のある反応度事故および機械的事故について検討した結果、それぞれ次のように対策が講ぜられており、本原子炉は十分安全性を確保し得るものであると認める。

4.1 反応度事故

(1) 起動事故
 制御棒配置インターロックにより1本当りの制御棒反応度は1.6%Δk/k以下に抑えられ、運転員の誤操作または機器の誤動作により最大反応度効果を有する制御棒1本を最大引抜速度で連続的に引き抜いても、核的逸走は負の出力係数で抑えられ、かつ、中性子束高スクラムにより原子炉は停止するので、燃料被覆が破損することはない。

(2) 制御棒落下事故
 制御棒が駆動軸から分離して炉心内にとどまっていた場合、それが臨界状態の炉心から脱落しても、核的逸走は負の出力係数で抑えられ、かつ中性子束高スクラムによって原子炉は停止する。この事故によって燃料被覆が破損することはない。

(3) 出力運転中制御棒引抜事故
 定格出力またはその近傍で運転している際に、誤って制御棒一本を連続的に引き抜いた場合、中性子束および熱流束が増加するが、その速度は緩慢であり、中性子束高でスクラムするまでに燃料の破損は生じない。

(4) 冷水事故
 給水加熱器が何らかの理由でその機能を喪失すると、炉心入口の冷却材温度が低下し、炉心に正の反応度が付加されるが、負の出力係数およびスクラムによって出力増加は抑えられ、燃料の破損は生じない。

4.2 機械的事故

(1) 冷却材喪失事故
 運転中に原子炉圧力容器に接続されている配管が破損すると、格納容器内に冷却水が漏出する。破断口が極めて小さい場合には給水量の増加によって原子炉水位は維持されるとともに格納容器内のエリアモニターで検出できる。破断口が大きくなって炉心水位が維持できないときは、炉心水位低スクラムにより原子炉は停止する。再循環回路の破断のような大事故のときは、炉心水位および炉内圧は急激に低下し炉心スプレイ系が作動して燃料の過熱を抑える。この事故により燃料被覆の一部が破損しても、燃料棒から放出される核分裂生成物はその量が僅かで、かつ格納容器内に保留される。

(2) 主蒸気管破断事故
 主蒸気管が格納容器外で破断した場合、蒸気および冷却材が外部に放出される。圧力容器内圧とタービンおよびダンプコンデンサ附近の圧力との差によって事故が検出され、主蒸気隔離弁が閉鎖し、原子炉はスクラムされ、炉心スプレイも働く、これによって冷却材の放出が止められると同時に燃料の破損も防止される。また冷却材中の放射能濃度は低く抑えられているので、冷却材とともに大気中へ放散される核分裂生成物の量は僅かである。

(3) 冷却材流量喪失事故
 運転中に冷却材再循環ポンプ1台がMGセットの故障、ポンプ軸の破損等の故障によって停止すると、残り1台のポンプの平衡流量まで流量は低下するが、その変化はさほど急激でなく、また出力も低下するので、燃料のバーンアウトは起らない。この場合、原子炉はスロースクラム(全制御棒の通常速度による挿入)される。
 また、所内電源の喪失によってポンプ2台が停止しても、系の慣性による自然循環があり、流量低下に伴う出力低下および停電によるスクラムにより、燃料被覆の破損には至らない。

(4) その他機器類の故障
 制御棒駆動設備の故障、給水系の故障、弁類の故障、廃ガス貯蔵タンクの破損等があっても、いずれも十分に対策がなされている。


5 災害評価

 本原子炉はすでに述べているように、種々の安全対策が講ぜられており、かつ各種事故に対しても検討の結果安全を確保し得るものと認めるが、さらに「原子炉立地審査指針」に基づいて重大事故および仮想事故を想定して行なった災害評価は次のとおりで、解析に用いた仮定は妥当であり、その結果は、立地指針に十分適合しているものと認める。

5.1 重大事故
 重大事故として、冷却材喪失事故および主蒸気管破断事故を想定する。

(1) 冷却材喪失事故
 圧力容器に接続している最大口径の配管である再循環回路(外径41cm)1本が瞬時に完全破断し、冷却材が放出されると仮定する。
 解析の結果では、炉心スプレイ系が作働して、その冷却により燃料の溶融は生じないが、その一部に破損を生ずる。また事故後の格納容器内の圧力は十分低く抑えられ、約0.7日以内に大気圧にもどる。そこで核分裂生成物の放散過程に従って次の仮定を用いて線量を計算する。
① 全部の燃料棒の被覆に破損があったとし、平均12,000MWD/T燃焼した燃料に内蔵されている核分裂生成物中の希ガスの1%、ハロゲンの0.5%が格納容器内に放出される。
 この場合、ハロゲンについては、壁面等に吸着される割合を50%、格納容器内の水に吸収される割合は、事故後時間とともに増加し2時間以後84%とする。ただし、ハロゲンのうち、10%は有機状のものとしてこれらによる低減を期待しない。

② 格納容器から事故発生後0.7日間は0.5%/day以後30日間はZr-水反応による発生水素の分圧に相当する0.0052%/dayの漏洩が続くものとする。

③ 格納容器からの漏洩のうちの約半分が貫通部および弁から漏出し、非常用換気系によりフィルタを通して外気に放出される。フィルタの沃素に対する濾過効率を90%とする。

④ 大気中の拡散に用いる気象条件は、現地の気象データ等をもとに、「原子炉安全解析のための気象手引」を参考にして、大気安定度下型、風速2m/sec、拡散幅30°とし、地上放散とする。

以上の解析の結果、敷地外において線量が最大となる原子炉から約800mの地点における線量は、甲状腺(小児)に対して約1.5remおよび全身に対して約19mremとなる。

(2) 主蒸気管破断事故
 格納容器外で主蒸気管(外径約20cm)1本が瞬時に完全破断し、冷却材の気水混合物が大気中に放出されたと仮定する。隔離弁の閉止時間は15秒であるが、解析に当っては15秒後に瞬時に閉じるとする。弁が閉鎖すると、圧力容器内に残る水は約3.5トン(約14トンが放出)となり、このときの原子炉圧力は約3.3kg/cm2gであって、この間燃料は露出することはない。
 そこで次の仮定を用いて線量を計算する。
① 冷却水が気温27℃、相対湿度40%の大気中に放出され全部蒸発して半球状放射性雲となる。

② 放出される冷却材中の放射能濃度は、本原子炉運転中の冷却材中の濃度の上限に当る15μci/gとする。

③ 半球状放射性雲は風速1m/secで風下に運ばれる。
以上の解析から求めた放射性雲の大きさは、半径76mであり、敷地境界における線量は、甲状線(小児)に対して約4.1rem全身に対して約4.6mremとなる。
 これらの重大事故時の線量は、何れも立地指針にめやす線量として示されている甲状腺(小児)150remおよび全身25remより十分小さい。従って、めやす線量になる地点は、非居住区域に十分含まれる。


5.2 仮想事故
 仮想事故として冷却材喪失事故および主蒸気管破断事故の場合を想定する。

(1) 冷却材喪失事故
 重大事故の場合と同じ事故について、炉心スプレイの効果を無視し、炉心内の全燃料が溶融したと仮想する。この場合、炉心内にあるジルコニウムの約30%が水と反応し、相当量(約200m3)の水素が発生する。この影響を考慮しても、格納容器内の圧力変化の状況はさして変らず、また、水素濃度は約5%強の程度であるので爆発が起ることはない。
 そこで、重大事故の場合と同様の仮定を用いて線量を計算する。
 ただし、炉心の100%溶融により、内蔵されている核分裂生成物中の沃素の50%、希ガスの100%が格納容器内に放出されるものとする。
 以上の解析の結果、敷地外において線量が最大となる原子炉から約800mの地点における線量は、甲状腺(成人)に対して約36rem全身に対して約19remとなる。

(2) 主蒸気管破断事故
 重大事故の場合と同じ事故について、隔離弁の閉止が遅れ、冷却材の全量約17.4トンが放出されると仮定する。
 重大事故の場合と同様の仮定を用いて線量を計算する。ただし、本原子炉が燃料棒10本の被覆の完全破損相当まで運転を行なう可能性のあることからみて、燃料棒10本の被覆が同時に破損し、プレナム部に蓄積されていた放射性物質の全量が水中に放出された瞬間に主蒸気管が破断したものとする。この前提では、放出冷却材中の放射能濃度は18μci/gとなる。
 以上の解析から求めた放射性雲の大きさは、半径81mであり、敷地境界における線量は、甲状腺(成人)に対して約4.4rem全身に対して約12.7mremとなる。

 これらの仮想事故時の線量は、立地指釘にめやす線量として示されている甲状腺(成人)300remおよび全身25remより十分小さい。従って、めやす線量になる地点は低人口地帯に十分含まれる。
 また、冷却材喪失事故時の全身被ばく線量の積算値は約0.61万人remで、めやす線量の200万人remよりかなり小さい。



Ⅲ 審査経過


 本審査会は、昭和42年3月17日第45回審査会において、次の委員よりなる第30部会を設置した。

三島 良績(部会長) 東京大学
大山 彰   〃
小平 吉男 気象協会
後藤 清太郎 電力中央研究所(昭和43年4月13日辞任)
竹越 尹 電気試験所
渡辺 博信 放射線医学総合研究所
 昭和43年4月10日第58回審査会において、次の委員が追加された。
内田 秀雄 東京大学
安藤 良夫   〃
高島 洋一 東京工業大学

 部会および審査会においては、次表のように審査を行なってきたが、昭和44年9月11日の部会において部会報告書を決定し、同年9月22日第73回審査会において本報告書を決定した。




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