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原子力平和利用に関する世論調査


昭和44年7月
科学技術庁

  Ⅰ 調査の概要

1 調査の主旨

 いわゆる「原子力の平和利用」を真に産業・経済の発展、国民の福祉に役立てるためには、これに対する国民の理解と協力が不可欠の要件である。この調査は、原子力の平和利用に関する世間一般の認識や理解、関心などの実態をとらえ、これを原子力行政一般の参考とするためである。


2 調査の主要項目

(1) 原子力に対する一般のイメージ
 (原子力という言葉を開いてどんなことを思い浮べるか)

(2) 原子力の平和利用に関する認識・関心・意見
 a 平和利用に関する基本体制の周知状況
 (わが国の「平和利用に限定」の基本体制についてどの程度知られているのか)

 b 平和利用の分野に関する認識(各種の分野についてどのように認識されているか)

 c 平和利用の積極的な推進についての賛否と関心

 ○平和利用の積極的推進に賛成か反対か
 ○特に推進をのぞむ分野はどれか
 ○推進に反対する者の反対理由は

 d 国による研究態勢のあり方(国の機関の研究部門は強化すべきか否か)

(3) 原子力発電の将来性と安全性への信頼感

 a 原子力発電の展望
   (近い将来発電の主力となるのはどれか)

 b 原子力発電所の安全性についての信頼感
   (原子炉の安全性に関する一般の信頼感は)

 c 原子力発電所近隣地域への設置に対する賛否
   (あなたの町や村に原子力発電所ができるとしたら)

(4) 原子力に対する不安感と一般の認識状況

 a 日本人の不安感についての意見
   (いわゆる核アレルギーという意見をどう見るか)

 b 世間一般の理解度への見解
   (原子力に対して一般はよく理解していると思うか)

 c 世間一般の関心度
   (原子力に関するテレビの解説番組があったら見たいと思うか)

 d 原子力の解説などの難易
   (新聞、テレビの解説はむずかしいか)

(5) 原子力船に関する知識と将来への展望
 a 原子力船建造計画の周知状況
   (わが国の原子力第1船の建造を知っているか)

 b 原子力船の将来性の展望
   (原子力船は将来発展すると思うか)

 c 国際競争と原子力船
   (将来の国際競争に備えて原子力船の積極的建造は必要と思うか)


3 調査対象者

 (1) 母集団 全国の20歳以上の男女

 (2) 標本数 3,000

 (3) 抽出方法 層化2段無作為抽出法


4 調査時期

 昭和44年3月7日~3月13日


5 調査方法

 調査員による面接聴取


6 調査実施委託機関

 社団法人 中央調査社


7 回収結果

(1) 有効回収数 2,538(84.6%)

(2) 性・年齢別回収結果


(3) 欠票内訳

ア) 転居 72人
イ) 長期不在 76人
ウ) 一時不在 171人
エ) 住所不明 43人
オ) 拒否 74人
カ) その他 26人
462人


  Ⅱ 調査結果の概要

 <原子力>の平和利用の分野は多様であり、各国とも、積極的にその研究・開発に取り組んでいる。
 わが国では、<原子力基本法>によって、原子力の利用を「平和目的にのみ限定」するという基本体制が確立され、この体制のもとで国の機関や学校、民間企業体などがそれぞれの立場で研究、開発及び利用を進めており、産業、医療、などの各部門で多くの成果をあげている。
 この調査は、原子力の平和利用の一層の発展向上と安全管理を図るための一助として、世間一般の原子力に関する①イメージ、②「平和利用に限定」の基本体制の周知状況、③平和利用の分野に対する認識状況と態度、④原子力の安全性に対する信頼感、及び⑤原子力に対する「日本人の不安感」についての意見-などの点を質問の骨子としたもので、調査結果概要を概括的にいえば次のようなものである。


1 原子力という言葉のイメージ

 「原子力という言葉を聞くと何を思い浮かべるか」という質問に対して、「原子爆弾」、「広島・長崎」など、戦争に関連のある事柄をあげた者が63%、「平和利用」に関連する事柄をのべた者は35%で、「原子力」に対しては、まだまだ暗いイメージをもっている者が多い。
 しかし、これを前回の調査(1年前)の結果と比較すると、前者(戦争関係)は5%減少し、後者(平和利用)は2倍(前回は17%)に激増しており、原子力に対する国民のイメージは徐々に変化していることを示すものといえよう。


2 平和目的に限定されている基本体制(原子力基本法)についての周知状況

 原子力の利用を「平和目的に限定」しているわが国の法律上の基本体制を「知っている」という者が55%で、「知らない」者は45%である。平和利用に徹したわが国の基本体制を国民に周知させる努力をなお一層重ねる必要があるといえよう。
 この点については、「平和利用の積極的推進に対する意見」(後掲)との相関関係をみると、「平和目的に限定」の基本体制を「知っている」者の場合は、平和利用の積極的推進に「賛成」する者が81%の高率を示しているのに比べ、「知らない」者の場合は46%と比較的少数である。
 原子力に対する理解を深める上で、「平和目的に限定」の基本体制の周知徹底はきわめて重要なことといえよう。


3 平和利用についての認識

 平和利用の分野で最もよく知られているのは「原子力発電」(71%)で、「放射線によるガン等の治療」(68%)や「原子力船」(40%)なども比較的よく知られている。これを前回の調査結果と比較すると、「ガン等の治療」の分野の知名度が10%上昇し、他の分野についてもわずかながら上昇している。


4 平和利用の積極的推進に対する意見

 原子力の平和利用を積極的に進めることに「賛成」の者は65%と圧倒的多数であるのに対し、「反対」の者はわずか5%にすぎない。
 平和利用の積極的推進に「賛成」の者について「特に積極的に進めてほしいのはどの分野か」と聞いた結果、放射線による「ガン等の治療」の分野をあげた者は53%で、次いで「原子力発電所」(38%)、「原子炉を利用しての学問的・技術的研究」(19%)、「放射線による農産物の品種改良」(18%)などの順となっている。


5 原子力発電所の安全性に対する信頼感

 原子力発電所の安全性について、「原子炉の爆発や放射能による汚染のおそれはない」という者は18%であるのに対し、そのような「懸念がある」と考えている者は45%であった。また、「もし仮りに、あなたの町や村に原子力発電所ができるとしたら」という質問に対しても、「賛成」するという者が18%で、「反対」するという者は41%となっている。
 さらに、「住宅の近くにつくってほしくないものはどれか」と、4種の近代施設を示して質問した結果、石油コンビナートをあげた者が50%で、原子力発電所(43%)、製鉄工場(33%)、火力発電所(28%)の順になっている。


6 原子力発電の将来性の予測

 水力発電、火力発電及び原子力発電のうち「10年~20年のうちに発電の主力になると思うのはどれか」との質問に対しては「原子力発電」をあげた者が53%で、水力発電は9%、火力発電は5%となっており、原子力発電は水力や火力発電よりもはるかに大きな将来性が予想されていることを示すものといえよう。


7 原子力船の建造について

 わが国の原子力第1船の建造については37%の者が知っており、将来の国際競争に備えて「今のうちから原子力船の建造を積極的に進めた方がよい」と考えている者は41%で、「そうは思わない」という者は23%みられる。
 また、原子力船は今後「急速に増加するだろう」と予測している者は57%にのぼっている。


8 原子力に対する日本人の不安感への意見

 いわゆる「核アレルギー」という言葉で指摘される「日本人の原子力に対する強い不安感」については、日本人は、原子力に対する不安感が特に強いと感じしいる者は61%で、特にそのように感じていない者は13%である。又、不安感が特に強いと感じているもののうち、不安感は強い方がよいという者は40%で、少し強すぎると批判的な見方をする者は21%となっている。
 以上が、調査結果の概括であり、これを質問の主要項目別にみると、だいたい次のようなものとなっている。




1 原子力という言葉のイメージ

 原子力は、高度に科学的であるとともに、ウラン燃料の特殊性もあって、世間一般には、いわゆるなじみにくいものともいわれ、また、その用語が「原子爆弾」や「原子力潜水艦・空母」などと類似していることもあって、唯一の被爆国民である日本人には、「戦争・恐怖」につながる暗いイメージを持つ者が多いといわれている。
 「原子力という言葉をきいてどんなことを思い浮べるか」との質問(問1)に対し、63%の者が「原・水爆」「広島・長崎」「恐怖」など、戦争に関連する事柄をあげており、「平和利用」に関する事柄を述べた者は、34%にとどまっている。これは、平和利用に関する認識や関心、あるいは平和利用の成果についての評価やその推進に期待する気持などとは別に、<原子力>という言葉から、まず「原子兵器・戦争の恐怖」などを反射的に連想する気持が日本人の心にまだまだ根強いことを示しているものといえよう。
 これらのことを昨年3月の同趣旨の調査(質問は全く同じ)結果と比較して見ると、「原・水爆」など戦争に関連のある事柄をあげた者が5%減少(前回は68%)しているのに対し、「平和利用」に関連のある事柄をあげた者が約2倍に増加(前回は17%)していることが注目される。これは、原子力の平和利用の成果が次第に国民の間に浸透してきたことと原子力発電所などの厳格な安全管理や無事故運転の実績などが積み重ねられたことも影響し、国民の原子力に対するイメージが徐々に変りつつあることを示すものといえよう。


2 平和利用についての認識と態度

(1) 「平和利用に限定」の基本体制の周知状況
 わが国では、原子力の利用は「平和目的に限定する」という法律上の基本体制が確立されており、軍事目的での利用は禁じられている。この基本体制の周知状況はどうであろうか。
 「平和目的に限定」の基本体制について「聞いたことがあるか否か」との質問に対して「聞いたことがある」と答えた者は55%で半数を上回り、「聞いたことがない」と答えた者は45%である。「聞いたことがある」者のうち、その根拠法令名を正確に知っている者は8%(全体では4%)にすぎないが、この場合、平和利用に限定の基本体制を「知っているか否か」が重要な点であって、法律に関する知識はさほど重要なことではない。
 この基本体制の「周知率55%」は、問題が一般になじみのうすい法律事項であることを考えれば、一応の周知状況と見ることもできよう。だが、一般には、「原子爆弾・戦争・恐怖」などに通じる暗いイメージがまだまだ根強い現状にあることを思えば、<平和目的に限定>しているわが国の基本体制を「知らない」者が国民の半数近くにのぼっているということは、原子力の平和利用の健全な発展を期するうえに軽視できないことといえよう。
 このような認識の不足は、国民が原子力の平和利用を理解するうえに少なからぬ妨げとなっているものと見ることができよう。このことは、<平和目的に限定>の基本体制を「知っている」者の場合は「知らない」者よりも、平和利用の積極的な推進に賛成するものがはるかに多い、ということからもうなずけることであろう。この基本体制の周知徹底はきわめて重要なことといえよう。
 なお、この基本体制についての周知度は、女性よりも男性が高く、また、男女ともに、年齢層の若い者ほど高くなっている。


(2) 平和利用の分野に対する認識
 原子力の平和利用の分野はきわめて広く、今後の開発にまつものは無限ともいわれている。わが国でも、原子炉を利用しての「学問的・技術的研究」の分野をはじめ、「原子力発電」「原子力船」放射線を利用しての「ガンその他の病気治療」「農産物の品種改良」など多くの分野が開発されており、すでに数々の成果をあげている。では、このような平和利用の分野の周知度や認識状況はどのようなものであろうか。
 平和利用に関する7つの分野について「知っているもの」をあげさせた結果では、「原子力発電」の知名度が最も高く、71%の者がこれをあげている。これに次いでよく知られているのは「放射線によるガンの治療」の分野(68%)で、「原子力船の建造」の分野(40%)も比較的によく知られている。いずれの分野についても「知らなかった」者は16%であり、まずまずの周知状況といえよう。
 放射能を利用しての「農産物の品種改良」、「食品保存」、「工場製品の品質検査」の分野については、すでに実用化され、産業経済の発展や国民生活の向上に貢献している割に知名度が低いのは、その直接の利用が特定の業種に限られていることもその一因であろう。
 これらの分野の知名度は、そのままこれらに対する「関心や認識の度合」と見ることはできず、また、その分野についての研究・開発又は利用の現状から判断して「高い」と見るか「低い」と見るかは大きく主観に左右される問題であろう。これを前回の調査結果(43年度)に比較してみると、放射線による「ガンの治療」の分野の知名度が10%上昇(前回は58%)したのをはじめ、他の分野についても、僅かながら上昇カーブを描いている。


(3) 平和利用の積極的推進に対する賛否
 原子力の平和利用には各国とも積極的に取り組んでおり、わが国でも、国の機関や学校、民間企業体などがそれぞれの立場でその研究・開発及び利用を進め、多くの成果をあげている。世間一般では、平和利用の積極的推進についてどのように考えているのであろうか。
 「平和利用を積極的に進めることについて賛成かどうか」との質問に対して、「賛成」するという者が65%で圧倒的に多く、「反対」の者は僅か5%にすぎない。このことは、世間一般では、<原子力>という言葉から受ける暗いイメージや核兵器などにいだく恐怖の気持とは別に、原子力の平和利用への期待は大きく、また、その成果を高く評価していることを物語るものといえよう。
 次に、原子力の利用を「平和目的に限定」しているわが国の基本体制への「認識の有無」と平和利用の推進に対する「賛否」との相関関係をみると、下表に示すとおり、この基本体制を<聞いたことがある>者の場合は、平和利用の積極的推進に「賛成」する者が81%と圧倒的多数であるのに対して<聞いたことがない>者の場合は46%と比較的に少なく、反面、平和利用の推進に「反対」の意見については、<聞いたことがある>者の場合は3%で<聞いたことがない>者の場合は7%と逆に多くなっている。
 また、この基本体制を<聞いたことがある>者の場合は、平和利用の推進について「一概にいえない・わからない」とその賛否を明確にしなかった者が17%(11%+6%)にとどまっているのに対して、<聞いたことがない>者の場合は47%(15%+32%)と、前者の約3倍の多数にのぼっている。これらの相関関係でも明らかなように、「平和利用に限定」の基本体制の周知徹底には、より一層の努力が必要といえよう。

 次に、原子力の平和利用を積極的に進めることに「賛成」の者に対して「特に積極的に進めてほしい分野はどれか」と聞いた結果では、「放射線によるガン等の病気治療」をあげた者が53%で最も多く、次いで「原子力発電所」(34%)、「原子炉を利用しての学問的・技術的研究」(19%)、放射線による「農産物の品種改良」(18%)、「食品の保存」(13%)などの順となっている。放射線によるガン等の治療に対する希望が圧倒的に高いのは、最近のガンに対する恐怖心とも相まって、世間一般のこの分野の発展・充実についての願望が切実なものであることを物語るものといえよう。

 なお、平和利用の推進に反対の者の<反対理由>は、「なんとなく不安」「危険だから」「平和利用への不信」「悪用の可能性」などきわめて抽象的であり、具体的な反対理由をあげたものはほとんどなかった。「原子力は危険なもの」という固定観念から、理屈を越えた反対意見もあろうが、しかし原子力に関する認識の不足に起因する無用の不安・恐怖が大部分と思われる。平和利用の推進について賛否を述べなかった「一概にいえない・わからない」が30%をこえていることも勘案し、正しい知識の普及はなおざりにできない問題といえよう。

(4) 国による研究態勢のあり方
 現在国の機関では、原子力委員会のもとに、関係行政や学問的・技術的研究などを担当しているが、「国の機関による研究部門の強化」の必要性を唱える意見は少なくない。世間一般では、これについてどのように考えているのであろうか。
 「国はもっと積極的に研究を進めるのがよいと思うか。あまりやらない方がよいと思うか」との質問に対して、「もっと積極的に」という意見が48%で半数に近く「あまりやらない方がよい」という否定論は僅か5%と積極論の約10分の1という少数であった。ここでも、「一概にいえない・わからない」と述べた者は合わせて33%にのぼっているが、<原子力>そのものはもとより国の<研究態勢>についてよく知られていない現状では、むしろ予想される数字ともいえよう。この質問は原子力の基礎的な「研究」の分野について「国がやるべきか民間がやるべきか」という趣旨のものではなく、「国の機関による<研究>は充実すべきか否か」というものであり、世間一般の「基本的な考え方」あるいは「感覚的な反応」を知るためのものである。
ここに示された国の機関による<研究開発部門>の強化に関する「否定論」5%に対して「賛成論」48%という数字は、多くの未開発分野を有する原子力の研究開発に「国はさらに努力すべきである」という世間一般の希望と期待がよく現われているといえよう。



3 原子力発電の展望と安全性に対する信頼感

(1) 原子力発電所の将来性の展望
 現在わが国の原子力発電所は、すでに送電を開始しているのは一基(東海村)だけであるが、目下建設中のものは5基で、今後も急速に増加する傾向にある。原子力発電所は、建設費は巨額であるが燃料費は低廉であり、かつ、公害がほとんど見られないこともあって、その将来性はきわめて大般では、水力、火力の両発電との、対比で原子力発電の将来をどのように予測しているのか。
 「火力、水力、原子力の3種の発電のうち、今後10~20年のうちにその主力となると思うのはどれか」との質問に対して、半数以上の52%の者は「原子力発電」と答えている。これに対して水力発電は9%、火力発電は5%と、いずれも原子力発電とは比較にならない少数である。10~20年後の将来については、専門家といえども正確に予測することは難かしいであろうし、ここに示された展望も、なんとなく「そう思う」という程度の意見が多いとは思われるが、しかし、<原子力発電所の安全性>について一部にはなお払拭できない不安感や危惧の念がもたれている現状にあっても、国民の半数以上の者が「近い将来、電子力発電の時代が来る」と考えているということは興味深いことといえよう。
 この点について、後述の「原子力発電所の安全性」の質問の結果との関係をみると、原子力発電所は「爆発や放射能の汚染の懸念がある」と思っている者のうちの60%の者が、本項では原子力発電所を「10~20年のうちに発電の主力となる」と答えている。このことは、多くの国民が原子力の平和利用の飛躍的発展は「新らしい時代の要請」であるとハダで感じているものといえよう。


(2) 原子力発電所の安全性に対する信頼感
 原子力発電所施設は、常識をはるかに越えた厳格な安全基準と周到な安全対策に基いて建設されており、厳重な安全管理のもとに運転されている。その<原子炉>は原理や構造上いわゆる爆発は起り得ないし、施設に万一の事故があっても爆発や放射能で付近が汚染することのないよう2重、3重の安全確保の措置が施されているが、その安全性について不安をいだいている者はまだまだ多い。
 「原子力発電所に万一の事故があったとしても原子炉の爆発や放射能で汚染することはない、といわれていることに対してどう思うか」との質問に対して、その安全性を「信頼する」という者が18%、「信頼しない」という者は45%みられる。
これは、厳格な安全基準や防護対策についてよく知られていないことにもよろうが、しかし、それは理論以前の<感覚的>な不安も決して少なくはないと思われる。この点については、原子力の平和利用の積極的推進に「賛成」している者でも、その48%が「爆発や放射能で付近が汚染するかも知れない」と思っていることからもうなずけよう。
 原爆の唯一の被爆国であり、<死の灰>の脅怖の経験をもつ日本人としては、原子炉の本質や構造、あるいはウラン燃料についてよく知られていないこととも相まって、その安全性に対する学問的裏付けや科学者の意見について考えて見る前に「危険なもの」と受取る傾向は否定できないものといえよう。


(3) 原子力発電所の近隣地域への設置に対する賛否原子力発電所の建設に対して周辺住民の反対運動が起ることがあり、多くの場合「放射能の汚染」が、その主要な反対理由となっている。
 わが国の原子力発電所は、その構造上多量の冷却水を必要とし、また、安全対策の見地もあって海岸近くの広大な敷地が確保できる場所に建設されている。従って、どこにも、ここにもできるというものではないが、世間一般では、原子力発電所の設置についてどのように考えているのか。
 「あなたの住んでいる町や村に原子力発電所ができるとしたら」という仮定の質問に対して、「反対」という者は41%、「賛成」は18%と、近隣への設置に反対する意見は依然として根強いことを示している。だが、ここで留意したいのは世間一般の感情からすれば、環境保全の見地もあって、住宅の近くには鉄筋のビルが建つことにも反対するのが人情であろう。まして、「原子力発電所ができるとしたら」といわれれば、一応「反対」というのはむしろ当然のことともいえよう。このような観点からすれば、反対41%に対して賛成18%という数字は、むしろ意外に接近したものといえよう。
 ここに示された賛否の数字は、前問の原子力発電所の「安全性に対する意見」にみられる<信頼する>者18%に対する<信頼しない>者45%という数字ときわめて類似しているが、両者の間には密接な相関関係は見当たらない。下表に示すととおり、原子力発電所の安全性を<信頼する>者でも、その近隣地域への設置に「反対」する者は31%(賛成は37%)にのぼっており、また、安全性を<信頼しない>者の中にも、近隣設置に「賛成」する者が14%みられる。
 このような現象は、原子力発電所の設置問題は、石油コンビナートその他の近代工場施設の場合と同様、単に公害問題だけに限らず、地元や地域住民個々の利害関係が複雑にからんでいるためともみることができよう。また、同時に原子力発電所の安全性についての<不安感>は、直接その「設置反対」に結びつくほど決定的なものではないとみることもできよう。
 なお、原子力平和利用を積極的に進めることに賛成の者(65%)の中で「<原子力発電>を特に積極的に進めてほしい」という者は34%である。


(4) 近隣地域に設置してほしくない近代施設
 前問の結果でも明らかのように、原子力発電所の近隣地域への設置に反対する意見は少なくない。では<公害>の面でよく引き合いに出される石油コンビナートや製鉄工場などに比べて原子力発電所はどの程度忌避されているのであろうか。
 「あなたの近くにつくってほしくないものはなにか」との質問に対して、「石油コンビナート」をあげた者は50%で最も多く、原子力発電所は43%とこれに次いでおり、製鉄工場(33%)及び火力発電所(28%)の順となっている。これらの施設は全国いたるところにあるわけではなく、また、回答者がそのすべてに知識をもっているものでもないので、これも<感覚的>な意見と見ることができよう。
 ここで注目したいのは、原子力発電所が「爆発」「放射能」などといわれながらも、石油コンビナートよりも忌避率が低いことと製鉄工場又は火力発電所と比較した場合でも大きな差は見られないことである。
 原子力発電所は、原・水爆のイメージや原子力に関する科学的知識が普及していないこともあって世間一般からばく然とした不安感を持たれていることは事実であろう。だが、原子力発電所には「騒音、煤煙、亜硫酸ガス」など、いわゆる一般的な公害要因が皆無に等しいため、これらの公害が歴然としている石油コンビナートなどと併列比較した場合、これという忌避の理由が見当たらないのも大きな要因の一つであろう。
 しかし、最も大きな理由は、わが国の場合はもとより世界のどの国の原子力発電所でも爆発事故が全く起っていないという事実が大きな底流となっているためと思われる。



4 原子力に対する不安感・認識・関心

(1) 日本人の不安感についての意見
 いわゆる<核アレルギー>という言葉で指摘されるように、日本人の原子力に対する<不安感>は「特に強い」といわれる。このことは、外国人のよく指摘するところであり、日本人の中にもこれを肯定的に見る者が少なくない。これは「日本人は原子力や核の問題について敏感すぎる。」という意見であろうが、これに対して「唯一の被爆国である日本として当然の心情だ。」「いや、必要以上に敏感だ。」あるいは「そんなことはない」など、いろいろの論議がきかれるところである。では、世間一般ではこのことについてどのように受取り、どのような見方をしているのであろうか。
 ここでは、日本人の原子力に対する不安感が①「特に強いのは当然であり、強い方がよい。」、②「少し強すぎる。」、③「特に強いということはない。」という3つの見方を設定してその見解をきいてみた。その結果、「特に強い」と見ている者、いわゆる核アレルギー論を肯定的にみる者が61%で、「特に強いということはない」と否定的見方をしている者は13%である。肯定的な意見を持つ者のうち、「強いのは当然、強い方がよい」という者は40%で、「少し強すぎる」と現状を批判的にみている者は21%である。外国人の原子力に対する不安感がどの程度のものかよく知られておらず、また、不安感の度合いを測る基準というものがないので、ここに示された見解はいずれも自身の<感覚、感触>を述べたものではあろうが、しかし、国民の61%の者が、「不安感は特に強い」という見方をしていることは、注目すべきことであろう。
 このような「特に強い不安感」が原子力の平和利用の発展にとっての阻害要因であるのか、あるいは、安全対策・安全管理の強化を促し、ひいては平和利用の健全な発展を生むことになるのかは、にわかに判断できない問題であろう。また、これらの意見については、他の質問結果との明確な相関関係を見い出すことは困難である。しかし、強いていえば、原子力の平和利用に「反対」している者や原子炉の安全性に「不安」をもっている者は、これらについて「賛成」している者や「信頼」している者に比較して「原子力に対する不安感は強い方がよい」という意見をもつ者がやや多くなっている。
 下表のとおり原子力の平和利用の推進に<賛成>している者の場合は、原子力に対する不安感は「強い方がよい」という意見が42%であるのに対して「少し強すぎる」が27%であり、その推進に<反対>している者の場合は「強い方がよい」が63%、「少し強すぎる」が13%と、両者の差は著しく開いていている。また、「原子力発電所の爆発等への懸念」の結果にも同様の傾向が見受けられる。



(2) 原子力に対する世間一般の理解度
 原子力に関して国民一般はよく理解しているのか、それともよく理解していないのか。これを識別することは難かしい。では、世間一般ではこのことをどのように見ているのであろうか。
 「世界一般の人はよく理解していると思うかどうか」との質問の結果では、半数以上の56%の者が「あまり理解していない」という見方をしており、「多少理解している」と見ている者が23%で、「よく理解している」と考えている者は僅か2%にすぎない。<理解>の程度を測る基準もなく、またその比較対象するものもないため、その意見の多くは回答者自身の気持も基準に推測したものと考えられるが、他の質問の結果にも見られるように原子力に対する「不安感」、原子力発電所の安全性に対する「危惧の念」などが多いことからも、世間一般の<理解度>はまだまだ低いことがうかがわれよう。この一事を見ても原子力に関する正しい知識の普及には一層の努力が必要であろう。


(3) 原子力に関するテレビ解説への関心
 前問の結果でも明らかなように、世間一般の原子力に対する認識や理解はまだまだ低いが<関心>の点ではどうであろうか。テレビの解説番組という比較的身近かな事柄を通じて一般の関心をきいてみた。
 「原子力に関するテレビの解説番組があればみたいと思うか」との質問に対して、「積極的に見たい」という者が18%、「たまたま見ている局でやっていれば見る」という者は46%と、その度合いは別としても、「関心」があるとみららる者は64%にのぼっている。これに対して、「見たいとは思わない」と、全く関心を示さない者は21%となっている。
 この質問は、原子力をテーマとするいわゆる<空想科学もの>など興味本位のものではないので、「見たいとは思わない」という者は、単なる無関心というよりは、その内容の科学性という点もあって、「どうせ見てもわからない。時間のムダ」を頭から決めこんでいるものも少なくないといえよう。これには、いろいろの原因もあろうが原子力関係の解説などにまだまだ「わかりにくい・むずかしい」ものが少なくないこともその一因といえよう。
 この点について、後掲の「原子力の解説はわかりやすいかどうか」の結果との関係をみると、原子力に関する新聞やテレビの解説について<わかりやすい>という者の場合は、本項の質問に対して「積極的に見たい」と答えた者が44%であるに対して、「見たいとは思わない」と答えた者は僅か5%にとどまっており、高い関心度を示している。反面、テレビ解説などを<非常にわかりにくい>という者の場合は、「積極的に見たい」と答えた者が15%で、「見たいと思わない」と答えた者が31%と、逆に無関心の者が多くなっている。
 原子力に対する認識や関心の低さは、単にその解説などの「むずかしさ」だけに起因するものではなかろうが、少なくともその一因となっているとみることはできよう。このことは、原子力に限らず他の自然科学もの一般についてもいえることであることはもちろんである。


(4) 原子力に関する解説などはむずかしいか。
 専門書や述語が多いせいもあろうが、原子力についての解説記事などは、一般の人にとって<難解>なものが多いという声がよく聞かれる。
 「原子力に関する新聞やテレビの解説などはわかりやすいと思うか、どうか。」という質問に対して、「わかりやすい」という者は僅か4%にすぎず、27%は「非常にむずかしい」と答えている。また、37%は「むずかしいが、よく聞けば(読めば)わかる」として、一応はむずかしいと受取っており原子力の解説を「わかりにくい」と思っている者は64%にのぼっている。「むずかしいがよく聞けばわかる」というものの中には、「一見むずかしそうに見えるが……」というものも含まれてはいようが、しかし「よく聞こう、よく読もう」と思うほど関心の高い問題は別として、世界一般には、原子力の解説などはまだまだ<難解>で自分自身には関係がうすいものと受取られていると見ることができよう。このことは、大学卒の者にあってさえ、「わかりやすい」という者が僅か11%であるのに対して、「むずかしいがよく聞けばわかる」という60%はまずまずとしても「非常にむずかしい」というのが13%、「一概にいえない・わからない」も16%となっていることから見ても容易に推測できよう。



5 原子力船に関する知識と将来への展望

(1) 原子力船建造計画の周知状況
 <原子力船>、つまり原子力を動力とする船舶(非軍事用)は欧米でも開発され、米、ソ連、西独ではすでに就航している。わが国でも、目下、日本原子力船開発事業団によって原子力第1船の建造が進められており、昭和47年に完成の予定である。ではこの建造計画は、一般にどの程度知られているのであろうか。
 「日本でも原子力船の建造が進められているが、そのことを知っているか」との質問に対して「知っている」者が37%で「知らない」者は63%である。最近の出来事の割に知られているのは、新聞、テレビなどによる報道や<船名>の公募が行なわれたことが影響しているものと思われる。ここで注目されるのは、原子力船の建造の知名率が高い割にこの分野の「積極的な推進」をのぞんでいる者が僅か11%という少新であるという点である。これは、原子力船についての知識や認識がまだまだ深くないことや<原子炉>に対する不安感が少なくないことなど、いろいろの理由もあろうが、しかし、放射線によるガンの治療や原子力発電所などと異なり「生活に直接つながる問題でない」ことやその就航が「まだまだ先のこと」であるということが要因のひとつといえよう。



(2) 原子力船の将来性
 <原子力船>は、その絶対ともいえる確実な安全性などから「未来の海の支配者」と予測する向きも少なくない。世界一般では、原子力船の将来性についてどのように見ているのであろうか。
 「将来、原子力船は多くなると思うか」との質問に対して、「多くなると思う」という者は57%で圧倒的に多く、「多くなるとは思わない」はわずか8%にすぎない。
 ここで注目したいのは、「多くなると思う」の57%は、<原子力船建造の分野>を「知っている」という40%より17%も多い、という点である。これは、原子力船についての知識がない者でも、平和利用の他の分野の現状から、原子力船の将来性を類推したものと思われるが、その根拠はなんであれ世間一般では、原子力の平和利用の将来性をハダで感じていることを物語るものといえよう。このことは、他の質問との関係でも明らかといえよう。
 この点について、原子力の平和利用の推進に対する賛否との関係をみると、その推進に<反対>または<一概にいえない>という者でも、それぞれ45%が「原子力船は多くなる」と予想しており、また、原子力発電所は<爆発や放射能の汚染の懸念がある>という者の中の65%も同様の見解を示していることから見てもうなずけよう。


(3) 国際競争と原子力船の建造
 日本は<貿易立国>の国柄であり、世界第1位をほこる造船国でもある。このような視点から国家百年の将来のため、「原子力船の積極的な建造を進めるべきだ」という意見がある。このことについて世間一般ではどのような見解をもっているのであろうか。
 「この意見についてどう思うか」との質問に対して、「そう思う」つまり積極的建造に賛成の者が40%であり、「そうは思わない」としてこれに否定的な者は23%であった。世間一般には、欧米における原子力船の開発やその活動状況がよく知られておらず、また、わが国の現状についても<ニュース>的な程度のことしか知られていない実情にあるため「将来の国際競争」という大きな課題について適確な判断に基づく見解を期待することは困難といえよう。この質問は、いわば、世間一般の<感触>を聞いたものである。
 原子力船は、原子力発電と同様<原子炉>を利用するものであるが、原子力船の建造についての賛否と原子力発電の設置に対するそれとは著しい違いが見受けられるのは興味深い。
 原子力発電所の安全性を<信頼>する者とその近隣地域への設置に<賛成>の者とは、ともに18%であり、安全性を<信頼しない>者と近隣設置に<反対>の者の場合も、45%と41%で両者はきわめて類似している。ところが、原子力船の積極的な建造についての賛否の比率は、前述のとおり、「賛成(肯定)」が40%で「反対(否定)」が22%であり、原子力発電所の場合と賛否の関係が逆転している。
 これは、原子力船の場合は「国際競争に負けないために」という大義名分をうたっていることも影響しているかと思われるが、しかし、根本的な原因は、原子力発電所の場合は「自宅の近くにできるかも知れない」という危惧があるのに反し、原子力船の場合はそれがない、ということにあると思われる。だが、原子力発電所の設置に対する忌避率が石油コンビナートよりも低いという事実は、原子炉の爆発などについての不安や危惧よりも<環境保全>の見地から自宅の近くには、「ビルが建つことにも反対」するという心情にも通じる「反対意見」とみなすこともできよう。
 こうした観点からすれば、原子炉をも含めて、原子力に対する世間一般の不安感や不信感は決定的なものではなく、原子力に関する正しい知識の普及によって除去できる性質のものということができよう。もちろん、原子力の平和利用を発展させ、また、国民の理解と協力を得るためには、国は、正しい知識の普及に一層の努力を払うとともにその安全管理にはなお一層の努力が必要であることは当然である。



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