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再処理施設等から生ずる放射性廃液の海域放出に係る
障害防止に関する考え方について(答申)



44放審議第3号
昭和44年2月6日

内閣総理大臣 佐藤栄作 殿

放射線審議会会長
木村 健二郎

再処理施設等から生ずる放射性廃液の海域放出に係る
障害防止に関する考え方について(答申)

 昭和43年3月19日付け43原第1206号をもって本審議会に諮問のあった標記については、海域放出特別部会において慎重に審議を重ねてきたが、昭和44年2月6日開催の第23回放射線審議会総会において下記のとおり結論を得たので、答申する。

Ⅰ 審議にあたっての基本的態度

 放射線審議会は、原子力の平和利用の推進にあたって国民を放射線障害から守るための基本は、国際放射線防護委員会の勧告を尊重することであると考えている。
 本審議会は、次のような基本的態度をとって審議にあたった。


1 被ばく線量について
 国民の被ばく線量については、これをできるだけ少なくすることにつとめ、国民のひとりひとりが日常生活においてうけるすべての被ばく(ただし、診療を受けるための被ばくおよび自然放射線による被ばくを除く。)を考慮しても国際放射線防護委員会の勧告する公衆の構成員に対する線量限度をこえるべきではない。

2 内部および外部被ばくについて
 海域に放出される低レベル放射性廃液(注1)については、廃液中の放射性物質が海産食品を介して人に摂取されることによってうける内部被ばくおよびその海域あるいは周辺において人が直接うける外部被ばくとについて考慮すべきである。

3 対象とする集団について
 前項の被ばくについては、すべての国民の安全を確保するために、もっとも被ばく線量が多くなると考えられる集団を対象として考慮すべきである。

4 対象とする施設について
 主として再処理施設について検討するが、審議の結果きめられる考え方は基本的にはすべての原子力施設に適用されるものと考える。なお、その具体的な適用にあたっては、国際放射線防護委員会の勧告の精神を尊重し、施設の種類および環境の状況等のあらゆる条件を考慮にいれて、被ばく線量をできるだけ少なくするようにじゅうぶん配慮すべきである。



Ⅱ 審議の結果

 従来、わが国においては国民を放射線障害から守るため、国際放射線防護委員会の勧告の精神を尊重して、放射線被ばくはできるだけ少なくすることを基本としており、職業人については勧告された最大許容線量をこえないように法的規制を行ない、また、一般人については勧告に示された公衆の構成員に対する線量限度をこえないようにじゅうぶんな方策を講じている。
 再処理施設等から生ずる低レベル放射性廃液が海域に放出される場合の被ばく線量についても、この原則が守られなければならない。
 したがって、低レベル放射性廃液の海域放出に係る障害防止に関する考え方は、次に述べるとおりである。


1 海域放出に起因する被ばくの特殊性
 低レベル放射性廃液の海域放出に起因する人の放射線被ばくは、一つには海域から生産される海産食品を介して人が摂取する放射性物質からうける内部被ばくがある。この場合、海産生物による放射性物質の体内濃縮および海産食品の表面に放射性物質が付着することなどについて考慮されなければならない。
 一方、漁業者あるいは海水浴者等が漁具あるいは海浜等からうけるかもしれない外部被ばくがある。
 したがって、低レベル放射性廃液の海域放出に起因する人の放射線被ばくは、この二つの型の放射線被ばくが総合的に検討されなければならない。

2 被ばく線量の目安
 低レベル放射性廃液の海域放出に起因する人の被ばく線量は、できるだけ少なくすることに配慮し、それ以外の原因による被ばく(ただし、診療を受けるための被ばくおよび自然放射線による被ばくを除く。)を含めて、国際放射線防護委員会の勧告する公衆の構成員に対する線量限度をこえることがあってはならない。
 したがって、低レベル放射性廃液の海域放出に起因する人の被ばく線量の目安とする線量は、この線量限度を相当に下まわる値がとられるべきであり、この値は施設の種類および環境の状況等の具体的要因によって、適切にきめられなければならない。(注2)

3 海域環境の管理
 低レベル放射性廃液の海域放出にあたっては、廃液の質・量等に応じて、廃液中の放射性物質が人に接触するまでの過程をたどり、前述の被ばくに関する諸因子を考慮して、放射能レベルについて海域環境が適切に管理されなければならない。

4 放射性廃液の放出
 人の被ばく線量をもとにして一定期間に放出しうる放射性物質の量を推定する場合は、前述の被ばくに関する諸因子が考慮されなければならない。これらの因子の値については、当該海域の調査その他必要な調査を施設の種類および廃液の質・量等に応じて行ない、総合的に検討し、結果が安全側になるようにきめられなければならない。

5 複数施設からの放出
 同一海域に複数の施設が設置されあるいは設置が予想される場合は、放出される放射性廃液の相加的効果があることに留意し、当該海液全体として前述の考え方が適用されるよう個々の施設について低レベル放射性廃液の放出が制限されなければならない。

6 海域における放射能の監視および評価
 低レベル放射性廃液の海域放出にあたっては、当該海域における海水および必要な海産生物等の放射性物質の濃度を施設の種類および廃液の質・量等に応じて定期的に測定し、環境の放射能レベルが監視されなければならない。また、その結果を公正に評価するための権威ある機構があらかじめ整備されなければならない。
 上記の測定と評価の結果は、海域の環境放射能に関する研究の進展と相まって、将来の低レベル放射性廃液の海域放出にあたっての重要な資料として活用されるべきものである。
 以上の考え方は、放射性廃液の海域放出にそなえて、国民を放射線障害から守るための基本となるものである。


(注1) 原子力委員会廃棄物処理専門部会の報告書(昭和36年9月12日)では、処理のための区分として10-3~10-6μCi/cm3を低レベルとしている。本審議会では、低レベル放射性廃液については10-3μCi/cm3程度以下および人の被ばくから考えてこれと同等に取り扱いうるものを考慮して以下の審議をすすめた。

(注2) 当面の必要性にこたえるため、再処理施設の場合についての被ばく線量の目安となるべき値について特に審議した。その結果この値は、当面、公衆の構成員に対する線量限度の1/10とするのが適当であると考える。

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