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動力炉・核燃料開発事業団の原子炉
(臨界実験装置)の設置について



 原子力委員会は、動力炉・核燃料開発事業団から申請のあった原子炉(臨界実験装置)の設置に関し、原子炉等規制法に定める許可の基準の適合について、内閣総理大臣から、昭和43年7月24日付けをもって諮問を受けた。

 以来安全性について、原子炉安全専門審査会に審査を行なうよう指示し、本年11月16日、審査会長から安全性は確保し得る旨の報告を受けた。

 委員会としては、審査会から報告のあった安全性のほか、平和利用、計画的開発利用、経理的基礎について審査を行ない、設置許可基準に適合する旨11月7日の定例会議で結論を得たので、同日付けで内閣総理大臣に答申した。

動力炉・核燃料開発事業団の原子炉(臨界実験装置)の計画概要

1 型式、熱出力及び基数
 濃縮ウラン重水減速型 1kW、1基

2 設置場所
 茨城県東茨城部大洗町成田町4002 動力炉・核燃料開発事業団大洗事業所

3 工事計画
 工事は昭和43年12月着工し、昭和朗年12月臨界の予定である。

4 経理
 工事に要する費用は約25億円であり、政府出資金及び民間出資金により調達される。

動力炉・核燃料開発事業団の原子炉(臨界実験装置)の設置について(答申)

43原委第293号
昭和43年11月7日


  内閣総理大臣 殿

原子力委員会委員長

動力炉・核燃料開発事業団の原子炉(臨界実験装置)の設置について(答申)

 昭和43年7月24日付け43原第3650号(昭和43年10月21日付け43原第5284号をもって一部訂正)をもって諮問のあった標記の件について、下記のとおり答申する。

 動力炉・核燃料開発事業団が重水減速・沸騰軽水冷却型動力炉の開発研究のための実験を行なうことを目的として茨城県東茨城郡大洗町成田町4002番に設置しようとする濃縮ウラン重水減速型、熱出力1kWの原子炉(臨界実験装置)1基の設置許可申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に規定する許可の基準に適合しているものと認める。

 なお、各号の基準の適合に関する意見は別祇のとおりである。

 別紙2

核原料物質、核燃料物質及び原子炉の
規制に関する法律第24条第1項各号に
規定する許可の基準の適合に関する意見

 (平和利用)
1 本原子炉は、動力炉・核燃料開発事業団が重水減速沸騰軽水冷却型動力炉の開発研究のための実験を行う目的で使用するものであり、平和の目的以外に利用されるおそれはないものと認める。

 (計画的開発利用)
2 本原子炉の設置は、「原子力開発利用長期計画」に定める新型転換炉の開発に資するものであって、わが国における原子力の開発および利用の計画的遂行に支障を及ぼすおそれがないものと認める。

 (経理的基礎)
3 本原子炉の設置に要する資金は、動力炉・核燃料開発事業団法に基づく政府出資金および民間の出資金により開発されることになっており、原子炉を琴置するために必要な経理的基礎があるものと認める。

 (技術的能力)
4 別添の原子炉安全専門審査会の審査結果のとおり、本原子炉を設置し、その運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があるものと認める。

 (災害防止)
5 別添の原子炉安全専門審査会の審査結果のとおり原子炉施設の位置、構造および設備は、核燃料物質、核燃料物質によって汚染された物又は原子炉の災害防止上支障がないものと認める。

動力炉・核燃料開発事業団の原子炉(臨界実験装置)の設置に係る安全生について

昭和43年11月6日
原子炉安全専門審査会

昭和43年11月6日

 原子力委員会
  委員長  鍋島 直紹 殿

原子炉安全専門審査会
会長 向坊  隆

動力炉・核燃料開発事業団の原子炉(臨界実験装置)の設置に係る安全性について

 当審査会は、昭和43年7月26日付け43原委第180号(昭和43年10月21日付け43原委第271号をもって一部訂正)をもって審査を求められた標記の件について結論を得たので報告します。

 Ⅰ 審査結果

 動力炉・核燃料開発事業団の原子炉(臨界実験装置)の設置に係る安全性に関し、同事業団が提出した「原子炉(臨界実験装置)設置許可申請書」(昭和43年7月18日付け申請、昭和43年10月17日付け一部訂正)に基づき審査した結果、本原子炉(臨界実験装置)の設置に係る安全性は、十分確保し得るものと認める。

 Ⅱ 審査内容

1. 設置計画の概要

  本原子炉施設の立地条件及び施設の概要は次のとおりである。

1.1 立地条件
(1)環境
 本原子炉施設は、茨城県東茨城郡大洗町成田町の動力炉・核燃料開発事業団大洗事業所の敷地内に設置される。

 敷地面積は約450,000m2で、水戸市の南々東約14kmに位置し、日本原子力研究所大洗研究所に隣接している。

 本施設から敷地境界までの最短距離は約80mであり、敷地及びその周辺は海抜40m前後の比較的平担な山林及び畑地で、本施設の東方的180mには国道51号線がとおっており、また、敷地の北々東約5kmには人口約13,000人の大洗町がある。

(2)地盤及び地震
 本敷地は、北西部都河川渦沼湖系の沖積平野であり、東側は海岸段丘となっている、地質はおおむね第3期層で、洪積層を基盤としてそのうえに不整合の段丘砂礫層が重なっており、地表は薄い関東ロームで覆われている。地表面下約3.2m~8mに中粒砂層があり、これより下はシルト、砂礫であり、ボーリング等の調査結果によれば支持地盤として十分な地耐力を有している。

 また、過去において構造物に被害を与えるような地震は発生していない。

(3)水利
 本施設の用水は、動力炉・核燃料開発事業団が施設付近に設ける井戸からの地下水を利用することになっており、施設からの排水は、構内排水管を経て日本原子力研究所大洗研究所の一般排水溝へ放出される。
1.2 施設の概要

 本原子炉は、熱出力最大1kWの濃縮ウラン重水減速型であり、炉心は直径約3m、高さ約3.5mのアルミニウム製タンクに収められる。

 燃料は、天燃ウラン並びに濃縮度1.5w/O及び1.2w/Oの二酸化ウランペレットをアルミニウム被覆管に収めたものを多数本クラスタ状にまとめたものと、ウラン・アルミニウム合金燃料をアルミニウムで被覆し多層同心円筒状に組立てたものが使用される。

 燃料アッセンブリは、炉心タンク上部のグリッド板に固定されたカランドリア管内につり下げられ、また、合金燃料は重水減速材中にそう入固定される。

 燃料領域はカランドリア管により最高161チャンネルに区分され、中央13チャンネルは冷却水が循環できるようになっている。

 使用されるU235の最大量は175kgである。

 反応度制御は、重水水位制御装置で行なわれ、実験の目的に応じて外径約70mm及び外径約7.5mmの2種の制御棒が使用される。

 また、停止装置として重水排水回路および安全棒4本が設けられる。 主な実験装置としては、パルス中性子発生装置が設けられる。

2. 安全設計及び安全対策

 本原子炉には以下の安全設計及び安全対策が講じられることになっており、十分な安全性を有するものと認める。

2.1 反応度係数

 本原子炉の燃料温度係数及び冷却材温度係数はいずれも負である。

2.2 安全保護回路
 本施設には安全保護回路として緊急時原子炉が停止回路、警報回路及びインターロック回路が設けられ安全棒及び重水ダンプ回路はいずれもフェイルセーフ設計となっている。

2.3 反応度制御装置
(1)重水水位制御装置及び重水ダンプ装置
 炉心タンクへの重水の給水は、高速給水(約10l/sec)回路及び低速給水(約2g/sec)回路で行なわれる。

 高速給水は、臨界水位の90%以下の水位に設定される高速給水停止水位まで行なわれ、この水位で自動的に停止される。

 低速給水回路には、最大付加反応度0.5%△k/k以下に相当する容量の補助タンクが設けられ、低速給水タンク容量の範囲で段階的に行なわれる。

 低速給水速度は反応度付加率にして0.015%△k/k/sec以下である。

 水位制御の後備として臨界水位の95%以下の水位に高速給水用益流管が、また超過反応度0.5%△k/kの水位にも低速給水用益流管が設けられる。

 緊急時停止のため、重水ダンプ回路2回路が設けられ、スクラム信号により自動的にダンプ弁及び排水弁を開き炉心タンク内の重水を排出する。

 本回路は、ダンプ弁及び排水弁が開いてから約5秒以内に重水水位を100mm低下させるよう設計される。

 重水系は炉室地下1階にあり、管系の破損等の場合炉心タンクの重水は洗出し、他の系統から炉心タンクへ重水が流入することはない。

(2)安全棒
 合計2.4%△k/k以上の反応度抑制効果をもつ安全棒4本が設けらた、電磁カップリングにより上部からつり下げられ、スクラム信号を受けた場合又は電源事故時には自重で落下するようになっている。
2.4 放射線の遮蔽
(1)炉性タンクの遮蔽
 炉心タンクは、炉室壁で遮蔽する構造となっている。

 炉室側壁は無窓で、非管理区域に面する2面は厚さ1.5m、管理区域に接する2面は厚さ1.35mのコンクリート壁とされる。

 また、炉室上方の空気による散乱ガンマ線の遮蔽を考慮し、地表から10mの高さまで上記の壁厚とされる。

 炉室の出入口には、炉室壁と同じ遮蔽効果のある厚みを有する遮蔽扉が設けられる。

(2)照射済燃料取扱時の遮蔽
 照射済燃料アセンブリ取扱いのための遮蔽用プールが炉室内及び燃料取扱室内に設けられ、炉心内から取り出された燃料アセンブリの分解、仮置が可能なようになっている。
2.5 廃棄物の放出管理

 気体廃棄物は、フィルタを経て排気口に設けられるガスモニタで放射性物質の濃度を監視しながら大気中に放出される。

 液体廃棄物については、一旦廃液タンクに貯留し、放射能レベルが一定値以上のものについては、日本原子力研究所に委託処理される。

 固体廃棄物については、日本原子力研究所に委託処理される。

2.6 耐振上の考慮

 本原子炉施設は、安全上の重要度に応じてそれぞれ次の耐震設計が行なわれる。

 また、第1類の施設については動的な検討を行なって地震により機能が損なわれないことを確認することになっている。

 第1類 重水系、炉心タンク、炉心要素、制御・安全棒駆動装置……水平0.6G 垂直0.3G
 第2類 軽水系、ガス系、燃料取扱設備、原子炉建屋……水平0.3G 垂直0.15G
 第3類 その他の施設および装置……水平0.2G

3. 平常時の被曝評価

 安全設計及び安全対策の項で述べているように、炉室からの放射線の漏えいは十分に遮蔽されている。

 年間積算出力は50kWh以下であり、この場合の年間最大被曝線量は敷地境界で最大と考えられる地点で約36mremであり、敷地外の一般公衆の受ける被曝線量は許容被曝線量より十分小さい。

 また、実験計画によれば燃料の取扱、実験用試料の取替え作業に際し、従業者が被曝することが考えられるが、この全被曝推定量は、年間約300mremであり、評価の仮定が安全側にあること、および従業者の被曝管理が十分に行なわれることを勘案して、この値は容認されるものと認める。

4. 事故評価

 本原子炉において発生する可能性のある事故として制御棒連続引抜き事故、重水の異常上昇事故、重水の流出事故、軽水冷却材の流出事故等を考え、これらについて検討した結果、それぞれ適当な対策が講じられており、本原子炉は十分安全性を確保し得るものと認める。

 さらに最大想定事故として、重水水位の異常上昇事故、すなわち起動時に運転員の誤操作または装置の故障により、連続的に水位が上昇し、正の反応度が付加される場合を想定し、次の仮定を用いて線量を計算している。
① 反応度付加率は0.015%△k/k/secとする。
② 核計表、水位制限スイッチ等によるすべてのスクラムが動作しない。
③ 運転員が炉室内放射線モニターの警報(出力2.2kWに対応する値に設定)により事故を検知して制御室に設けられている手動スクラムによりダンプ弁を開放する。
 この場合ダンプ回路は1系統のみが開放される。また、この所要時間を20秒とする。
④ スクラム動作については、安全棒動作を無視してダンプ弁の開放のみとする。
 解析の結果、放出エネルギーは約0.37MWsec、燃料被覆最高温度上昇は0.4degであり、燃料および燃料被覆材の溶融、破損には至らず、炉室建屋外での被曝線量は最大0.66mrem程度であり、また敷地境界では、0.074mremである。

 したがって、本原子炉は、敷地外の一般公衆に対して安全と認められる。

5. 技術的能力

 申請者は原子炉の開発を設立目的の一つにしており、この目的を遂行するため各界から原子炉の専門家が参加している。

 現在原子炉主任技術者の資格を有するもの7名、第1種放射線取扱主任者の資格を有するもの4名を擁しており、開発が進むに従い更に強化される予定である。

 さらに本原子炉の建設に当っては、既に多くの原子炉の設置運転の経験を有している日本原子力研究所が緊密に協力することになっており、本原子炉を設置するに必要な技術的能力および運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があるものと認める。

  Ⅲ 審査経過

 本審査会は、昭和43年7月30日第61回審査会において次の委員からなる第40部会を設置した。

   内田 秀雄 (部会長)  東京大学
   安藤 良夫     〃
   都甲 泰正     〃
   牧野 直文  日本原子力研究所

 審査会および部会においては、次表のとおり審査を行ない、昭和43年10月21日の部会において部会報告書を決定し、同年11月6日第64回審査会において本報告書を決定した。

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