前頁 |目次

放射線障害防止法の施行状況について


昭和41年度

はじめに

 原子力平和利用への一分野である放射性同位元素等の利用は、医療、教育、研究、産業等の各方面において近年ますます発展し、利用核種、数量も増加し、利用形態も複雑化している。

 放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(以下「放射線障害防止法」という。)に基づく許可届出事業所も年々増加をつづけ昭和42年3月末日現在、使用事業所1,425、販売所43、廃棄事業所5に達している。

 放射線障害防止法は、放射性同位元素や放射線発生装置を使用しようとする者、また、放射性同位元素の販売や廃棄を業とする者に対し許認可(使用の場合一部については届出)を義務づけ、それぞれの施設や取扱いを定められた基準に適合させることによって公共の安全をはかるために昭和32年に公布された。

 其の後35年に大幅な法改正があり、それにともなって政令、施行規則の改正があった。

 さらに、41年に政令ならびに施行規則が改正された。

Ⅰ 使用、販売および廃棄事業所の状況

1 使用事業所
(1)機関別の使用事業所の状況

 放射線障害防止法に規定する放射性同位元素や放射線発生装置を使用しようとする者は、同法に基づき、事前に科学技術庁長官の許可をうけなければならない。

 ただし、1工場又は1事業所当り、密封された放射性同位元素の総量100ミリキュリー以下を使用する場合は届出でよいことになっている。
 許可又は届出による使用事業所数は第1表に示すように、昭和42年3月末現在許可1,039、届出386、総計1,425に達し、前年度に比してそれぞれ90、14および104の増加となっている。

第1表 使用事業所数の推移



 第2表および第1図はこれらの事業所を機関別(註)に分類して、その年度別の推移を示したものである。

第2表 使用事業所数の機関別推移


第1図 使用事業所の推移


 41年度における機関別の構成比は医療機関35.8%、教育機関9.9%、研究機関19.8%、民間企業32.1%、その他2.4%となっている。

 また、事業所数の前年度に対する増加は、医療機関22、教育機関6、研究機関25、民間企業48、その他3となっており、百分率にしてそれぞれ4.5%、4.5%、9.7%、11.7%および9.7%の増となっている。

(註)使用事業所の機関別分類
 医療機関:医療法に基づく病院および診療所
(国立、公立、私立の病院および診療所ならびに大学の附属病院)

 教育機関:学校教育法に基づく学校(国立、公立、私立の学校、大学の附属病院、自衛隊の学校)等は含まれていない。

 研究機関:国立、公立、私立の研究所および試験所ならびに教育機関または民間会社の附置研究所、試験所、研究施設

 民間企業:民間の工場および事業所
 その他:前記の分類に属さないもの


 さらに、昭和42年3月末における都道府県別機関別の分布は第3表および第2図のとおりで、このうち事業所数の多い主要な都道府県をとってみると、第4表に示すように、6都府県で半数近くを占めており、大都市および工業地域において放射性同位元素が多く利用されていることを示している。

第3表 都道府県別機関別使用事業所数


第2図 都道府県別使用事業所数の分布


第4表 主要都府県における使用事業所数



(1)-(i)医療機関
 使用事業所数の約36%を医療機関が占めている。

 医療機関における使用は密封状態のラジウム226、コバルト60等の照射器具や装置がほとんどで、これらは悪性腫瘍などの治療に用いられている。

 たゞし、放射性物質であっても薬事法に基づく医薬品または医薬部多品である場合には放射線障害防止法の規制の対象外となっている。

 放射線発生装置のうちエックス線についてはそのエネルギーが100万電子ボルト以上のものが放射線障害防止法の規制対象となっているため、医療用のエックス線で規制対象となる装置はベータートロンと直線加速装置のみであって、これらを設備している医療機関の数はきわめて少い。

 ラジウム226による悪性腫瘍の治療の歴史は古く現在も広く普及している。

 ラジウム226は、法施行以前から使用されていたため、施設に改善を要するものが多く、また、管理面でも十分な注意を要するものである。

 近年コバルト60やセシウム137等、人工の放射性同位元素の医療面への利用の伸びはいちじるしいものがあり、特に2,000~3,000キュリー程度のコバルト60による遠隔照射装置の使用が急増しており、癌等の悪性腫瘍の治療にその偉力を発揮している。

 これらの設備については、障害防止上、施設面を完備する必要があるため、ほとんど大病院において行なわれている。

 医療機関について使用事業所を国、公、私立別に分類すると第5表のようになり、国立の病院においてはかなり使用されていることがわかる。

第5表 医療機関組織別事業所数

(注)( )内は診療所で内数である。
 医療関係使用事業所数は、病院、診療所を含めて計511で、うち病院は457であり全国病院総数に対し6.5%となる。
(1)-(ii)教育機関
 教育機関における放射性同位元素等使用事業所は、ほとんどが大学各学部であって、高等学校等はわずか9件にすぎない。

 大学は、教育機関であるとともに研究機関としての性格も併せもっており、使用事業所である大学学部の約80%が非密封放射性同位元素を使用している。

 学部別にみると、医学部がもっとも多く、ついで工学部、農水産学部、理学部、薬学部の順で理科系各学部にわたっている。

 また、これを国、公、私立別にみると、第6表のように国立が圧倒的に多いが、普及率では第7表に見られるように公立大学が最も高い、しかし全般にかなり高い普及率を示しており、今後の件数の増加は、少ないものと考えられる。

第6表 教育機関組織別事業所数

第7表 教育機関における使用普及度

※文部省大学学術局大学課「昭和41年度全国大学一覧」(昭和41年4月現在)による昼間部理、工、農、医薬、歯学部のほか教養、文理、学芸、教育の各学部を含む。
(1)-(iii)研究機関

 放射性同位元素や放射線発生装置は、当初から、理学、工学、農学、医学等の各分野において 研究用として活発に使われてきた。

 現在も、研究機関における普及率は第8表に示すとおりかなりの高率を示している。

第8表 研究機関における使用普及度

※ 総理府統計局「1966年科学技術研究調査報告」(昭和41年4月現在)による。

 自然科学関係研究機関に、自然科学関係の大学附置研究所を加えたもの。

 その使用状況の特徴は、他の機関にくらべて放射線発生装置の使用が多いことおよび放射性同位元素では非密封作用の比率が多いことである。

 これらの研究機関を、国、公、私立別に分類すると第9表のようになる。

第9表 研究機関組織別事業所数

 当初は国立試験研究機関における使用が多かったが、最近は、民間会社関係の試験研究機関における使用の増加が目立っている。

 研究機関においては、今後も使用量、使用核種または使用台数の増加がみられるであろうが、これらの機関の数は限られているので、使用事業所数としてはそれほど増加しないものと思われる。
(1)-(iv)民間企業
 民間企業における放射性同位元素および放射線

発生装置の使用は、各方面に順調な伸びを示しており、これを業種別にみると、第10表のように広く各業種にまたがって使用されている。

第10表 民間企業業種別使用事業所数



 民間企業においては、当初、研究、実験的な利用が多かったが、近年は厚み計や液面計のような工場現場用測定装置への利用が大幅に増加している。

 民間企業の放射性同位元素装備機器許可台数を機種別に分類すると第11表のように、厚み計、液面計等工場の工程設備内に組入れられる測定装置が57.4%を占め、この面の工業利用の過半数を占めている。

第11表 民間企業工業利用装備機器許可台数


(注)非破壊検査装置には放射線発生装置は含まれていない。

 また、41年3月末現在と比較すると厚み計、液面計、水分計が大幅に増加しているのが見られる。

 また、溶接部や鋳造物の内部欠陥の検査に使われている非破壊検査用照射装置の保有台数を増加している。

 今後もこの種の装備機器使用はますます増加するものと思われる。
(1)-(v)その他

 その他としては、自衛隊関係、行政官庁、地方建設局工事事務所などがある。

 密封小線源による教育訓練用や調査的な使用が多く、一時的な使用がかなりを占めている。

(2)利用形態別の使用事業所の状況
(2)-(i)非密封放射性同位元素
 昭和42年3月末現在、非密封の放射性同位元素を使用する事業所は380に上り、全使用事業所の約27%にあたる。

 非密封放射性同位元素使用事業所の機関別内訳は第12表のとおりで、教育機関と研究機関が圧倒的に多く、両者で約83%を占めている。

第12表 非密封放射性同位元素機関別使用事業所数



 非密封放射性同位元素の利用は、化学、生物等の実験研究用をはじめとし製鉄用高炉々壁の浸蝕調査、金属中の不純物の挙動研究など、実際の工業面の利用や建設土木関係におけるダムの漏水、地下水の移動、河川の流量調査など広範囲にわたっている。

 なお、治療用の非密封放射性同位元素は放射性医薬品となっており薬事法に委ねられている。
(2)-(ii)照射装置
 昭和42年3月末における、1Ci以上のコバルト60及びセシウム137を装備する機器の機関別許可台数は第13表及び第14表のとおりである。

第13表 コバルト60 1Ci以上を装備する機関別照射装置許可台数


第14表 セシウム137 1Ci以上を装備する機関別照射装置許可台数



 コバルト60については1Ci~100Ciまででは大部分、民間企業における非破壊検査用であり、100Ci~10,000Ciまではがん等の悪性腫瘍の治療に多く使われている。

 10,000Ci以上が9件あるがこれらは研究機関で使用されて化学反応促進や合成繊維等の物性研究、植物の品種改良等、種々の研究実験に使われている。

 セシウム137については10Ci未満における非破壊検査装置などの装備機器による使用が大部分を占め、100Ci以上の利用は30件でその普及率はコバルト60にくらべるときわめて低いといえる。
(2)-(iii)放射線発生装置
 放射線障害防止法に基づく放射線発生装置の機関別許可台数は第15表のとおりである。

第15表 放射線発生装置許可台数



 研究機関が最も使用数が大であり、また、各種の発生装置を使用しており、全体の約52%を占め、特にコッククロフト、ワルトン型加速装置の利用の増加が著しい。

 その用途は、主として物理実験、放射化分析等に使われている。

 民間企業では、ベータートロンの使用が多いが、このほとんどは、ボイラー、高圧容器等の非破壊検査に使われている。

 医療機関における放射線発生装置の使用は少ないが、ベータートロンと直線加速装置は、がん等の悪性種瘍の治療に使われている。

 許可台数を前年に比較してみると総数で30台の増加となっている。
 2 販売所および廃棄事業所
 販売所
 販売業の許可事業所の年度推移は第16表に見られるとおりであり、昭和42年3月末日現在43となっている。

第16表 販売所数、廃棄事業所数の推移



 これを地域別にみると、東京都32、京都府、兵庫県各3、茨城県、群馬県、神奈川県、愛知県、大阪府各1となっている。

 販売の形態は第17表に示すとおりである。

第17表 販売所の形態による分類

 販売されている核種は、非常に多種にわたっており、60Co,137CSなどの大量線源及び長半減期の放射性同位元素は輸入が多いが、短半減期の核種は国内生産によるものが増加しており、この種販売業の申請が最近多くなってきている。

 非密封のものとして、3H,14C,35S,32P等の標識化合物については、これまでは輸入が多かったのであるが、最近国内で各種の標識化合物や標識肥料の製造販売を行なおうという申請がみられてきた。

 廃棄事業所
 廃棄業の許可数は昭和42年3月末日までに5件を数えている。

 これらは、日本放射性同位元素協会の事業所4件と日本原子力研究所の事業所1件である。

Ⅱ 今後の利用の見通し

 放射線障害防止法施行以来10年目をむかえることとなったが、その間、放射性同位元素等の利用はいちぢるしく進展した。

 放射線事業所の数は、今日までに毎年100余の増加をつづけ、昭和41年度末において事業所数の累計は、1,473に達した。

 今後においても、放射性同位元素等の利用はさらに増大してゆくと予想されるが、今後の利用の拡大は、かならずしも放射線事業所の数のいちぢるしい増加という形よりも、今後はむしろ同一事業所内における核種および数量の増加という形をとる傾向となるものと考えられる。

 この傾向はすでに現われてきており、今後10年間の事業所数を推計すると、5年後の昭和46年には1,900程度、10年後の51年には2,200~2,300程度となることが予測され、事業所数の延びは次第に鈍化するであろう。

 しかしながら、1事業所当りの核種、数量等は増大し、利用方法も次第に多角化、複雑化してゆくものと思われる。

Ⅲ 放射線取扱主任者

 放射線取扱主任者の資格には第1種と第2種がありいずれも国家試験によりその免状が与えられる。

 放射線取扱主任者免状所有者数は、第18表のとおりである。

第18表 放射線取扱主任者免状交付数

( )内は認定によるもので内数

 医師、歯科医師が診療のために用いるとき、および薬剤師が医薬品、医療器具等の製造所において使用するときは、それぞれ医師、歯科医師および薬剤師を取扱主任者に選任することができるので、医療機関においては放射線取扱主任者の有資格者は十分満たされているといえる。

 しかし、それ以外の機関では放射線取扱主任者試験に合格したものが有資格者となり得るため一部の事業所に有資格者が偏在している傾向が見られる。

 なお、放射線取扱主任者試験合格率を年度別にあげると第20表に示すとおりであり、第2種については平均合格率41.8%であるが、第1種についてはわずか25.4%である。

第19表 放射線取扱主任者試験合格率一覧

(1)第1種試験

(2)第2種試験

第20表 年度別機関別立入検査実施件数


(注1) 昭和38年10月1日から、42年3月31日の間、水戸原子力事務所が行なった立入検査数は加えていない。
(注2) ( )内は年間実施件数に対する比率を%で表わしたものである。

Ⅳ 立入検査

 放射線障害防止法第43条の規定により科学技術庁に放射線検査官をおき、同法または同法に基づく命令の実施のため使用施設、貯蔵施設等に立入検査を実施することが定められている。

 この規定に基づき、昭和33年4月法律施行以来、毎年度200~300前後の事業所に対し立入検査を行ない、その実施回数は第20表に示すとおり、昭和42年3月末までに延2,097に達している。

 しかしながら、検査の対象となる事業所は年々増加しているので、事業所数に対する検査件数の比率は低下している。

 また、事業所によっては、検査の結果問題があると認められ、数回にわたる立入検査を必要としたものもあり、昭和41年3月末日現在において全事業所数の約25%にあたる329事業所が未検査であった。

 昭和41年度は、これら未検査事業所をはじめとし、過去の検査の結果再検査の必要が認められた事業所および検査後3~4年が経過している事業所を選出し、308事業所に対して立入検査を実施した。

 これにより未検査事業所は約10%になった。

 昭和41年度における立入検査の結果は第21表の通りである。

第21表 昭和41年度における立入検査結果


   (注) 民間の( )内は、販売所で内数である。

 立入検査により指摘を行なった事項では、施設の不備なもの71件、核種および数量の変更許可手続の未了、主任者の選任届あるいは予防規定届の末届等手続を怠たっていたもの97件、場所の測定を行なっていないもの90件、被ばく線量の測定を行なっていないもの59件、健康診断を行なっていないもの50件等である。

 これら不備の指摘を行なった事業所を機関別にみると、医療機関、教育機関、研究機関がそれぞれ72%、80%、60%と多く、これにくらべて民間企業およびその他の機関は少なく、それぞれ27%、17%であった。

 一般に未検査事業所では、施設面や管理面に問題のある場合が多く、特に昭和33~35年度に使用を開始し、以後変更のない事業所では特にこの傾向が著しかった。

 再検査事業所では、管理面はかなり改善されていたが、施設面では改善のテンポが遅い。

 これを機関別にみると、医療機関では、遠隔治療装置については良好であるが、医療器具として用いている226Ra,60Co等の小線源については、近年改善されつつあるものの、未だ改善を必要とするものが多い。

 総じて管理面、すなわち、場所の線量率の測定や被ばく線量の測定、健康診断が十分でない事業所が多く、また、手続を怠っている事業所が多くみられた。

 教育機関では、施設面のほか管理体制が不十分なために場所の線量率等の測定が不十分であり、被ばく線量の測定や健康診断も全般的に不徹底であった。

 研究機関では、民間のものは、比較的問題は少なかったが、大学附置研究所および国公立研究所等では、教育機関と類似した問題が認められた。

 民間企業では、設備面および管理面とも概して良好であった。

 特にRI工業用計測器を使用している場合はほとんど問題が認められなかった。

 立入検査によって障害防止上改善を要する事項が発見された場合、これを指摘するとともに、これに対してとられた措置について報告を求めた。

 その中、とくに施設面、管理面について問題のあった事業所3件に対しては、公文書によって警告した。

 これに対し、全事業所から改善ならびに今後の措置について報告があり、施設および管理体制等の改善にきわめて効果的であったと考える。

 今後も、立入検査に際して施設および管理体制等において好ましくない点の発見された事業所に対しては、より積極的に改善を要する点を指摘し、強力にその改善をうながす。

 昭和42年度における立入検査は、未検査事業所、3年以上検査を行なっていない事業所および改善を要すると思われる事業所に重点を置いて行なう予定である。

Ⅴ 放射線事故

 放射性同位元素等による放射線障害を防止し、公共の安全を確保するため、放射性同位元素の盗取又は所在不明が生じた場合、放射性同位元素又は放射性同位元素によって汚染された物が異常に漏えいした場合、管理区域に立ち入った者が異常に被ばくした場合、又は異常に被ばくしたおそれのある場合、若しくは、放射線障害が発生した場合などの事故については、その状況およびその発生後講じた処置について報告を求めているが、昭和41年度においてはこれらの事故は皆無であった。
前頁 |目次