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加工施設の安全審査指針について


-加工施設等安全基準専門部会-

昭和42年5月16日

 原子力委員会は、核燃料物質加工施設の安全性を審査するための指針の作成および核燃料物質輸送容器の安全性を審査するための基準の作成のため、昭和41年8月18日加工施設等安全基準専門部分を設置した。

 同専門部会は、9月14日に第1回専門部会を開催した後、部会内に加工施設小委員会および輸送容器小委員会の2小委員会を設置してそれぞれ審議を重ねてきた。

 今回このうち加工施設小委員会の審議が終了したので、同専門部会部会長から原子力委員会委員長あて、昭和42年5月16日に標記指針を報告した。

 原子力委員会
  委員長 二階堂 進 殿

加工施設等安全基準専門部会
部会長 三島 良績

核燃料物質加工施設の安全審査指針について

 加工施設等安全基準専門部会は、昭和41年9月14日以来、核燃料物質加工施設の安全性を審査するための指針および核燃料物質輸送容器の安全性を審査するための基準の作成について審議を重ねてきた。

 今回、このうち核燃料物質加工施設の安全性を審査するための指針を別添のとおり作成したので報告する。

 この指針は、ウラン燃料の加工施設を対象として作成したものである。

 なお、この指針は、原子力関係技術の発展に伴い科学的知見の集積に応じて将来適当な時期に再検討されるべきものである。

 また、この指針に関連して、今後検討を要する問題がいくつかあったので、今後の問題点として解説に掲げておいた。

 これらの点について、原子力委員会の善処を期待したい。

加工施設の安全審査指針

 この指針は加工施設の安全性の審査に際し、主として放射線管理、臨界管理および立地条件について審査の統一的判断のめやすを提供するとともに、加工施設建設の際のめやすを与え、もって原子力開発利用の健全な発展に資することを目的とする。

Ⅰ 放射線管理

 1 基本的な考え方
 加工施設内の核燃料物質が取り扱われる各工程における放射線障害の発生および環境汚染の発生の可能性の有無を検討し、放射線障害および環境汚染を防止するため十分な対策が講じられていることを確認する。

 2 放射線管理の審査指針
 加工施設における放射線障害および環境汚染を防止するため、次の措置が講じられていることを確認しなければならない。
(1)管理区域および周辺監視区域が設定されていること。

(2)従事者の被ばく線量および集積線量が別記1に示すそれぞれの許容値をこえないよう対策が講じられていること。

(3)従事者の呼吸する空気中および飲用する水中の放射性物質の濃度が別記1に示すそれぞれの許容値をこえないよう対策が講じられていること。

(4)周辺監視区域外の放射線量、空気中および水中の放射性物質の濃度が別記1に示すそれぞれの許容値をこえないよう対策が講じられていること。
 なお、上記の事項が適確に遂行されるため、放射線管理の方法、組織等について適切な配慮がなされていなければならない。

Ⅱ 臨界管理

 1 基本的な考え方
 加工施設内の核燃料物質が取り扱われる各工程における臨界の可能性の有無を検討し、臨界を防止するため十分な対策が講じられていることを確認する。

 2 臨界管理の審査指針
 加工施設の各工程において臨界を防止するため、次の措置が講じられていることを確認しなければならない。
(1)核燃料物質を取り扱う場合、単一のユニットの質量、寸法、体積または溶液の濃度のいずれか1項目が別記2に示す核的に安全な制限値以内に維持されていること。

(2)(1)に定められた単一のユニットが二つ以上存在する場合には、それぞれの相互干渉を考えて別記2に示す核的に安全な配置がとられていること。
 なお、上記の事項が適確に遂行されるため、臨界管理の方法、組織等について適切な配慮がなされていなければならない。

Ⅲ 立地条件

 1 基本的な考え方
 加工施設が、万一の事故を想定してもなおかつ公衆の安全を確保できるような立地条件を満足していることを確認する。

 2 立地条件の審査指針
 加工施設の立地条件については、万一の事故を想定してもなおかつ公衆の安全を確保するため、次の条件が満足されていることを確認しなければならない。
(1)洪水、高潮等大きな事故の誘因となるような事象が少ないことはもちろん、災害を拡大するような事象も少ないこと。

(2)加工施設は、安全対策設備との関連を考慮して公衆から十分離れていること。

 すなわち、加工施設の設備の周囲はその設備からある範囲までは非居住区域であること。

 ここにいう「ある範囲」とは万一の事故を想定した場合、もしその範囲内に人が居つづけるならば個人に対する線量が放射線障害を与えるかも知れないと判断される別記3に示す範囲を意味する。

 また、「非居住区域」とは公衆が原則として居住しない区域をいう。
Ⅳ 適用範囲

 この指針は、事業としてウラン燃料(濃縮ウランを含む。)を加工する施設の安全性の審査の際に適用するものとする。


別記1 許容被ばく線量等に関する判断のめやす
 放射線管理の審査指針にいう従事者の被ばく線量および集積線量の許容値、管理区域および周辺監視区域外における水中および空気中の放射性物質の許容濃度等の値については、昭和35年科学技術庁告示第21号に定められている値を適用することが妥当と考えられる。
別記2 核的に安全な制限値等に関する判断のめやす
 臨界管理の審査指針にいう核的に安全な制限値および核的に安全な配置については、TID-7016Rev 1(Nuclear Safety Guide 1961)に示された数値等を用いることが妥当である。

 上記以外の数値等を用いる場合には、公表された文献、確立された計算、実験等によって核的に安全であることが立証されたものでなければならない。
別記3 立地条件の審査指針を適用する際に必要な判断のめやす
 立地条件の審査指針にいう「ある範囲」を判断するための放射線量については、昭和39年5月27日に原子力委員会が決定した下記の「原子炉立地審査指針」の判断のめやすを準用するものとする。

   全身に対して  25レム
   甲状腺(小児)に対して  150レム

解説


Ⅰ まえがき
 核燃料加工施設においては多量の核燃料物質が取り扱われるので、その安全性を審査するにあたっては、これに伴う特殊な問題を検討しなければならない。

 この特殊な問題には、核燃料物質による汚染に関する問題と臨界に関する問題とが考えられる。

 前者については核燃料物質が粉末、気体または揮発しやすい状態で取り扱われる場合、後者については濃縮ウランが取り扱われる場合にとくに検討しなければならない。

 さらに、加工施設の万一の事故を想定してもなおかつ一般公衆の安全を十分確保するため、その立地条件についても検討しなければならない。

 加工施設は、上記の特殊な問題を除けば、一般の化学工場、冶金工場、金属加工工場等と同種の施設と考えられるので、一般の安全性については、これらの工場と同様の配慮をしなければならない。

 なお、この指針は、事業としてウラン燃料(濃縮ウランを含む。)を加工する施設を対象に考えたが、ウラン燃料を取り扱うその他の施設についても、この指針を準用することが望ましい。

Ⅱ 放射線管理
 多量の核燃料物質が取り扱われる加工施設においては、放射線管理上、外部放射線に対する考慮が払われなければならないことはもとより、とくに被覆されない状態の核燃料物質が取り扱われる工程においては、作業環境および周辺環境の汚染防止に努めなければならない。

 このため加工施設においては原則的に次のような配慮が必要であると考える。

(1)加工施設の管理区域は核燃料物質を被覆しない状態で取り扱う汚染の可能性のある場所と、そうでない場所とを区別しなければならない。

(2)加工施設で取り扱われる核燃料物質の比放射能は一般に低く外部放射線による被ばくについての問題はほとんどないと考えられる。

 しかしながら、外部放射線が問題となる場合には、保護具の使用等適切な対策を講じなければならない。

(3)作業環境の汚染を防止するためには次のような対策を講じなければならない。
(i)液体状または気体状の核燃料物質を収納する機器・設備はろうえいのない構造であること。

(ii)粉末状の核燃料物質を取り扱う場合、空気を汚染する可能性のある工程の機器・設備は核燃料物質の空気中への飛散を防止できるような構造であること。

 また、必要な場合には機器・設備の内部を負圧に維持できる構造であること。

(iii)空気の汚染の可能性のある部屋には排気系統を設け、かつ、他の部屋に汚染が拡大しないような構造であること。
(4)周辺環境の汚染を防止するためには次のような対策を講じなければならない。
(i)空気の汚染の可能性のある部屋の構造はろうえいが少ない構造であること。

(ii)空気の汚染の可能性のある排気系統には、核燃料物質の外部への放出を防止するため、適切な除去設備を設けること。

(iii)核燃料物質の流入するおそれのある排水系統は核燃料物質の外部への放出を防止するための廃液処理設備を設けること。
(5)核燃料物質の取扱われる部屋の放射線量率、空気中の放射性物質の濃度、ならびに周辺監視区域外へ放出される空気中および水中の放射性物質の濃度等を監視するために必要な機器・設備を設けなければならない。

Ⅲ 臨界管理

 多量の核燃料物質を取扱う加工施設においては、臨界を防止するため、臨界管理の審査指針に記したように単一のユニットの質量、寸法、体積または溶液の濃度について核的に安全な制限値が定められており、またユニット相互間は核的に安全な配置でなければならない。

 なお、ここにいうユニットとは、臨界管理を考える場合、対象となる核燃料物質を取り扱う一つの単位をいう。

 ユニットについての核的に安全な制限値および配置を定める場合には、とくに立証されない限り、最も効率の良い減速度を用い、かつ、十分厚い反射体に囲まれたものと仮定し、測定または計算による誤差および誤操作等を考慮して十分な安全係数を見込まなければならない。

 これらの具体的数値等については、既に公表された手引書のうち、TID-7016 RevIを参考にすることが妥当であると考える。

 これに示された安全な制限値および配置についての基本的事項と思われるものを次の(A)~(D)に掲げる。

(A)単一のユニットについては次の制限値以下であれば核的に安全であるとみなすことができる。
  濃縮度93.5%のウランに対する制限値(最大値)
  質量 溶液
金属
0.35kg(U-235量)
10.0 kg(U-235量)
  無限円筒の直径 溶液
金属
127mm
68.5mm
  無限平板の厚さ 溶液
金属
38.1mm
12.7mm
  体積 溶液 4.8l
  水溶液中の核燃料物質の濃度 10.8g/l(U-235量)

 ただし、上記の制限値に対しては濃縮度、減速度、形状、密度および稀釈度に応じた補正値を用いることができる。

(B)二つ以上のユニットが存在する場合ユニット相互間の間隔および配置については次の場合に核的に安全であるとみなすことができる。

 一つのユニットの配列内の他のすべてのユニットに対する最大立体角は、そのユニットの中性子増倍係数Kが0.3末満の場合6ステラジアン以下、Kが0.3以上で0.8末満の場合(9-10K)ステラジアン以下であり、かつユニット相互間の表面間隔は305mm以上(ユニットが二つの場合は204mm以上)はなれていること。

(C)複数のユニットからなる配列が二つ以上ある場合配列相互間は次の場合に隔離されているとみなすことができる。
a 配列相互間が305mm以上のコンクリートによって隔離されている場合

b 平面配列あるいは立体配列が二つある場合には、これら二つの配列の相対する表面間の間隔が次のいずれの値よりも大きい場合
  (i)配列のうち最も長い寸法
  (ii)3.66m
c 直線配列の場合には、配列相互間の間隔がその列の寸法にかかわらず3.66m以上離れている場合
(D)溶液を入れた円筒容器の配列内の個々の円筒容器の直径が127mm以下であり、かつ、その配列が他の配列と隔離されて一直線上にならんでいる場合は、その配列内の互に隣接する内筒容器の軸間の距離が610mm以上離れていれば、その配列内に円筒容器を数に制限なくならべることができる。

 なお、加工施設の安全を確保するため臨界管理上次のような対策を講じなければならない。
(1)核燃料物質を収納する機器・設備のうち、その寸法または容積を制限し得るものについてはその機器・設備についての寸法または容積は(A)に示したような核的に安全な制限値以下であること。

(2)(1)の規定を適用することが困難な場合には、取扱う核燃料物質自体の質量、寸法、体積または溶液の濃度が(A)に示したような核的に安全な制限値以下であること。

 このため、工程中の核燃料物質が、上記の制限値以下であることを確認するための設備を設けるか、またはその方法が明らかにされていること。

(3)機器・設備等は(B)、(C)および(D)に示したような核的に安全な配置をとること。

 核燃料物質を移動する場合には、他のユニットとの間隔が(B)に示したような核的に安全な条件を満足するような措置が講じられていること。

(4)核燃料物質が流入するおそれのある機器設備についても(1)~(3)に示したような臨界管理上の条件が満されていること。

(5)核燃料物質を取扱う施設の要所に臨界警報装置を設けること。
Ⅳ 立地条件

 公衆の安全を確保するという立地審査指針の基本的考え方は、加工施設の場合も原子炉の場合と相違するものではない。

 しかしながら、加工施設においては、核燃料物質は常に臨界量以下で取扱われ、また施設内には核分裂生成物が全く存在しないという点で、原子炉の場合と本質的に異なる。

 また、臨界事故を想定した場合でも事故により影響を受ける範囲は、極く狭い範囲に限定されるものと考えられる。

 したがって、この指針では、原子炉の立地審査指針に規定されている低人口地帯および人口密集地帯からの距離についての規定は特に設けない。

 なお、平常運転時における一般公衆に対する放射線障害を防止するという点からの立地条件の適否の判断については、放射線管理の審査指針に規定している。

 加工施設の安全性の評価に当っては、まず、事故の発生確率とその災害規模の評価が重要である。

 現段階においてこれを統計学的に論ずることは困難であるが、大きな災害を伴う事故の発生率はできるだけ小さなものでなければならない。このため、加工施設の立地条件に関して
(1)次の事項について検討し、大きな事故の誘因とならないことを確認することが必要である。
(i)自然条件として、台風、洪水、高潮、津波、地震、陥没、地すべりなど

(ii)社会的条件として、火災、爆発、航空機事故など
(2)万一の事故に構えて公衆の安全を確保するため次の事項を確認することが必要である。
i)敷地周辺における次の事項について検討し、大きな事故が発生した場合にも災害を拡大するような事象が少ないこと。
  イ 自然現象として、気象、水理など
  ロ 社会条件として、土地の利用状況、水利など

ii)万一の事故が起った場合にも、放射線被ばくをできるだけ少なくするために、必要に応じて適切な措置を講じうる環境であること。
Ⅴ 「安全対策設備との関連」について

 加工施設の立地条件が審査指針に適合しているか否かを判断するためには、加工施設の特質、敷地周辺の事象などとともに安全対策設備の効果をも考慮して、技術的見地から見て、最悪の場合には起るかも知れないと考えられる万一の事故を想定し、この想定事故によって周辺に及ぼす放射線障害の程度を評価しなければならない。

 この評価に際しては、事故防止ならびに放射性物質の施設外への放出防止の機能に関して、加工施設の建屋、フィルター等の安全対策設備の効果をも考慮することができる。

 なお加工施設における事故の発生を防止するためおよび万一の事故が発生したと仮定した場合に災害の拡大を防止するため、原則的に次のような安全対策が講じられていなければならい。
(1)加工施設の建屋は耐火構造または不燃材料で造られたものであり、かつ、耐震構造であること。

(2)核燃料物質を取扱う施設は核燃料物質が浸水を受けるおそれのない構造であること。

(3)加工施設の機器設備等には警報装置等安全上必要な設備を設けること。

(4)加工施設には停電時にも安全上必要な設備を作動し得る電源設備を設けること。

(5)事故時に放射性物質を飛散するおそれのある部屋はろうえいの少ない構造であること。
Ⅵ 加工施設の事故について

 加工施設において、放射性物質等の放出を伴う可能性のある事故としては、機器、設備の破損、誤動作、運転員の誤操作、過失および火災その他の原因により六弗化ウラン、二酸化ウラン粉末等の核燃料物質が飛散する場合が考えられる。

 これらの事故によって放出される物質中には、核分裂生成物は含まれない。

 核分裂生成物が含まれる唯一の場合としては臨界事故が考えられるが、加工施設の設計、運転および保守に際して十分な臨界管理が行なわれていれば、この種の事故はほとんど起りそうもないものである。

 実際に、いわゆる加工施設において、これまでこの種の事故が発生した例はない。

 しかしながら、核燃料物質の種類、状態およびその取扱い方法等によっては万一の事故として臨界事故の可能性を検討する必要がある。

 一般に、濃縮ウランを取り扱う施設では、核燃料物質が減速材を含む場合または減速材が混入するおそれのある場合には、臨界事故の可能性を検討しなければならない。また、減速材が含まれず、かつ、減速材が混入するおそれのない場合でも、濃縮度5%以上のウランを取り扱う場合には、臨界事故の可能性を検討しなければならない。

 臨界事故の原因、規模等については“Safety Analysis of Enriched Uranium Processing”(NYO-2980)の解析例等が参考となろう。

Ⅶ 今後の問題点
 この指針の作成にあたって、今後検討しなければならない次のような問題点があった。

 これらの問題点について、関係当局において適切な措置が講じられることが望ましい。
1 加工施設についてだけの問題ではないが、空気中の核燃料物質の濃度および内部被ばくの測定方法について標準化する方向で今後さらに研究を行なうことが望ましい。

2 臨界警報装置について、その設置位置、警報設定値等を標準化する方向で今後さらに研究を行なうことが望ましい。

3 臨界管理に関する制限値等は、当面TID-7016 Rev.1(1961)を参考にするものとしたが、新しい情報、経験の蓄積に伴いこれを採り入れるよう配慮する必要がある。

加工施設等安全基準専門部会構成員

部会長
三島 良績  東京大学
加工施設小委員会
委員長
高島 洋一  東京工業大学
委員
青木 成文  東京工業大学
石田 泰一  原子燃料公社
江藤 秀雄  放射線医学総合研究所
大木 英夫  日本国有鉄道
加賀山 正  日本原子力発電(株)
清瀬 量平  東京大学
関  義辰  三菱原子力工業(株)
竹越  尹  電気試験所
武谷 清昭  日本原子力研究所
高柳  弘  日本原子力研究所
西 山 厚  住友電気工業(株)
西脇  安  東京工業大学
       ○印は加工施設小委員会委員
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