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サバンナ号の寄港について


-原子炉安全専門審査会報告-

昭和42年4月12日

 原子力委員会は、ファースト・アトミック・シップ・トランスポート・インコーポレーテットから申請のあった原子力船サバンナを本邦水域内に立ち入らせることに関し、原子炉等規制法に定める設置許可基準の適合について、内閣総理大臣から3月17日付で諮問を受けた。

 以来、安全性について、原子炉安全専門審査会に審査を指示し、4月12日に、審査会長から安全性は確保しうる旨原子力委員長に報告された。

昭和42年4月12日

 原子力委員会
  委員長 二階堂 進 殿

原子炉安全専門審査会
会長 向坊 隆

原子力船サバンナの本邦水域立ち入りに係る安全性について

 当審査会は、昭和42年3月17日付け42原委第67号(昭和42年4月11日付け42原委第98号をもって訂正)をもって、審査の結果を求められた標記の件について、結論をえたので報告します。

Ⅰ 審査結果

 ファースト・アトミック・シップ・トランスポート・インコーポレーテットが、原子力船サバンナを本邦水域内に立ち入らせることに関し、同社が提出した「原子力船サバンナの日本国水域立入りに関する許可申請書」(昭和42年3月17日付け申請および昭和42年4月11日付け訂正)に基づいて審査した結果、原子力船サバンナの本邦水域立ち入りに関する安全性は、次の条件が満たされるならば、十分確保しうるものと認める。
①停泊場所から管理地帯の境界までの離隔距離が360m以上あること。

②停泊場所から非居住地帯の境界までの離隔距離が420m以上あること。

③港内停泊時の引船の用意は、事故発生後船を2時間以内に安全な距離に引き出しうるもりであること。

④遠隔びょう地から非居住地帯の境界までの離隔距離が5,000m以上あること。

⑤仮泊場所から陸岸までの離隔距離が420m以上あること。

⑥沿岸航行時および狭水路通過時の陸岸(防波堤および管理地帯を除く。)からの離隔距離が100m以上あること。
Ⅱ 審査内容

 1. 本船の概要
 本船は、米国沿岸警備隊の規則、米国船級協会の規則および海上人命安全条約に則って建造された全長約182m、総トン数約15,600トンの平甲板型鋼製単螺旋船で、約21ノット(常用出力にて)の速力を有し、既に数年間、米国と欧州の間の国際航海に就役している。

 原子炉は、熱出力80MW(推進軸馬力約22,000SHP)の加圧水型で、低濃縮ウラン約6.2トンからなる炉心部を内蔵する圧力容器、蒸気発生器等の原子炉施設の主要な部分はほとんど船体の中央にある原子炉室内の格納容器中に納められている。

 2. 安全対策
 本船は、次のような種々の安全対策が講ぜられており、十分な安全性を有するものであると認める。
  2.1 船体関係
 本船は、乾舷甲板に達する10枚の水密隔壁により区画されており、任意の相隣れる2区画に浸水しても限界線が水没しないように設計されている。

 原子炉室の外側には縦通隔壁およびコリジョンマットを設け、さらに、その外例の甲板を増厚して、他船の衝突から原子炉施設を保護している。

 原子炉室下部の2重底内には肋板および桁板を密に設け、座礁した場合に内底板が損傷しないよう考慮を払っている。

 さらに、本船には横揺れを軽減するために、ひれ式動揺安定装置が設けられ、また、横方向の非対称の浸水を少なくするため、所要の位置にクロス・フラッデイグ・ダクトが設けられている。

 本船は、海上人命安全条約の最高基準に従った防火構造を採用し、火災探知および警報装置ならびに炭酸ガス消火装置が設けられている。

 操舵機は、独立した2系統の動力および油圧装置を持ち、操舵室およびドッキングブリッジから操作することができる。

 原子炉による推進が不可能になった場合にそなえて、補助ディーゼル発電機を電源とする逆転可能な帰港用モーターを装備しており、6.5ノットの速力を保持することが可能である。
  2.2 原子炉施設関係
(1)核・熱設計
 本原子炉は、加圧水型に固有な自己制御性を有する。

 1次冷却材の圧力および平均温度は、それぞれ122kg/cm2および264℃であるが、出力が定格出力の120%に上昇した過渡状態でも燃料の最高中心温度は2,650℃であり、最小限界熱流束比は2.2以上である。

 荒天時の船体運動が熱特性に及ぼす影響も極めて少さく、燃料の溶融および被覆管の焼損が生ずるおそれはない。

(2)燃料
 ステンレス鋼被覆管に2酸化ウランペレットを封入した燃料要素からなる燃料集合体は、十分な強度と耐蝕性を有するよう設計されている。

 また、1次冷却水および気体廃棄物中の放射性物質の濃度を監視することにより、燃料の破損を発見できるようになっている。

(3)制御系
 安全保護系は、電源喪失、回路の断線などに対してフェイルセイフな設計であり、核計装、プロセス計装等の重要な検出要素については検知回路が多重化され、安全動作の確実性を高めるよう配慮されている。

 制御棒の反応度抑制効果は、合計約13.7%△k/kで常に2%△k/k以下の停止余裕がある。

 また、全制御棒が挿入されている状態での制御棒の1本の効果は2%△k/k以下であるので、制御棒はその1本が引き抜かれた状態でも原子炉を停止させる能力を持っている。

 制御棒は、電気機械式駆動装置によって上方から操作される。

 スクラム動作は制御棒ごとに設けられた油圧シリンダによって行なわれる。

 スクラム動作に必要な弁は電磁式であり、安全保護系の電源に対してフェイルセーフな設計となっている。

 この方式については、船体傾斜を模擬した陸上試験によっで性能および信頼性が確かめられている。

 このほか、後備停止装置として、手動の液体ポイズン注入系があり、運転温度で停止している原子炉を冷態停止に導きうる能力をもっている。

 以上のような配慮がなされているので、いかなる場合でも原子炉の停止は確実に行なわれると考えられる。

 加圧器は、通常の負荷変動により生ずる1次冷却材圧力の変動を制限された範囲内に制御する機能を有する。

 また、加圧器上部には安全弁および逃がし弁を設けて、1次冷却系に発生する異常圧力上昇を制限する。

 原子炉施設の運転は、機関室後部の中央制御室から行なわれるが、事故時には非常用制御室からも運転員が適切な措置をとりうるよう配慮されている。

(4)圧力容器および1次冷却系配管
 圧力容器、配管等は、米国の関連法規および米国船級協会の規定にしたがい設計、製作および検査されたものであり、検討の結果、これらの規定は、わが国の動力炉に適用されているものと比較して妥当なものと認められる。

(5)原子炉冷却系
 事故時においても原子炉の熱除去が完全に行なえるよう1次系小形キャンドポンプ、海水ポンプ、冷却器等よりなる非常用冷却系統が設けられている。

 ポンプの電源は主電源の喪失と同時に起動する非常用ディーゼル発電機から供給される。

(6)廃棄物処理
(i)気体廃棄物
 原子炉格納容器内の原子炉系機器からの気体廃棄物は、格納容器ドレンタンクに集められ、2重に設けられた弁を通して格納容器外のマニホールドに放出される。

 格納容器外の原子炉系機器からの気体廃棄物は直接マニホールドに放出される。

 マニホールドに放出された気体廃棄物は、原子炉室換気系に入り、フィルターによりろ過され、放射能レベルの連続測定後、マストに取りつけられた排気口(高さ海面上約28m)から大気中に放出される。

(ii)液体廃棄物
 原子炉機器からの液体廃棄物のうち、高レベルのものは耐衝突構造内に設けられた廃液貯蔵タンク・格納容器ドレンタンクなどの各種タンクに貯蔵され、低レベルのものは2重底タンクに貯蔵される。

 船底外板と内底板との間は中間板により上下に2分されており、2重底タンクはその上の部分である。

 これらのタンク容量は、100日間の航海に対して十分な余裕をもっている。

 なお、液体廃棄物は本邦水域内では放出しないことになっている。

(iii)固体廃棄物
 固体廃棄物は、すべて密封包装して保管され、わが国においては処分しないことになっている。
(7)放射線遮蔽
 遮蔽は米国関連法規に従って設計されており、建造後放射線レベルの実測が行なわれ、船内および船側外の一般公衆に対する放射線レベルは、わが国で許容される値以下であることが確認されている。

(8)放射性物質の放出防止
 事故時においても、放射性物質の放出による乗員および本船周辺の一般公衆の放射線被ばくを極力抑制するため、原子炉施設の主要部分は、耐圧性の原子炉格容器に収容されている。
(i)原子炉格容器は、鋼製耐圧密閉容器であり、管、電線等の貫通部分は漏洩のないように設計されている。また、沈没時に庄潰しないよう設計されており、従って、放射性物質を放出することはない。

(ii)原子炉室換気設備
 原子炉換気設備は、フィルター装置、送風機等からなり、原子炉室を常に負圧に保ち、放射性物質の船内拡散を防止するとともに、事故時に原子炉室内に放出される放射性物質をろ過し、希釈しながらマストから大気中に放出するようになっている。

(iii)隔離弁
 原子炉格納容器を貫通する主要な配管には隔離弁を設け、事故時に放射性物質が外部に漏洩しないように設計されている。
(9)安全防護設備の機能確保
 原子炉施設に必要な電力は、2台の主発電機(それぞれ1,500kw)から供給され、予備電源として2台の補助ディーゼル発電機(それぞれ750kw)がある。

 これらの電源がすべて喪失しても、原子炉施設の安全確保に必要な電力は、非常用ディーゼル発電機(300kw)から非常用配電盤をとおして給電できるようになっている。

 その他無停電にて電力を供給すべき負荷へは、蓄電池、直交変換機および交直変換機よりなる電源から給電されるようになっている。

 通常使用の主母線は、2重母線方式になっており、また、非常用ディーゼル発電機は他の4台の発電機から離れた航海船橋甲板に配置されている。
 3. 平常運転時の被ばく評価

 気体廃棄物の放出については、アラームの設定点をガスに対しては3×10-6μci/cc、エアボーンパーティクルに対しては3×10-9μci/ccとして、これらの値以下におさえている。

 したがって、平常運転時には甲板上または船側附近の一般公衆に対して、大気の希釈効果を考慮すれば障害を与えるものとは考えられない。

 4. 各種事故の検討
 本船において発生する可能性のある船体事故および原子炉事故について検討した結果、それぞれ次のような対策がなされており、本船は十分な安全性を確保しうるものであると認める。

  4.1 船体事故
 本船は、衝突、座礁等に対し、十分な強度を有するとともに、このような事故による衝撃に対しても原子炉施設は必要な機能を失なうことはなく、また、火災、浸水、沈没等の海難事故によっても一般公衆に放射線博害を与えるような原子炉事故は発生しないものと認められる。
(1)衝突
 本船に他の船舶が衝突して原子炉室の側部に食い込み、原子炉施設の主要な部分を破損し、一般公衆に放射線障害を与える大きな原子炉事故を誘発する可能性について解析した結果、この可能性はほとんどない。

 また、特に本邦水域内を航行する大型タンカー、高速大型船との関連において解析した結果、この可能性は一層少なく、港内においては全くないと認められる。

(2)座礁
 かりに座礁するとしても、原子炉室において船体が折損するとは考えられない。

 また、2重底内の低レベルタンクは、座礁により破損するおそれは少ないと思われるが、かりに破損して廃棄物が放出されるとしても、放射性物質の総量は少なく、その濃度が低いため短時日のうちに海水によって十分希釈されるので、一般公衆に放射線障害を与えることはないと考えられる。

(3)荒天候
 船体、原子炉施設その他の機器は荒天、波浪による船体の動揺、加速度に十分耐える強度をもっており、また動揺安定装置が設けられているので、荒天候にも船休、原子炉施設の機能を失なうことはないと認められる。
  4.2 原子炉事故
(1)反応度事故
 起動事故、出力時制御棒引抜き事故、冷水事故等の反応度事故に対しては、原子炉の自己制御性で核的逸走が抑えられ、かつ、スクラムにより原子炉は停止される。

 反応度事故によって燃料の溶融、被覆管の破損は生ぜず、したがって核分裂生成物の放出はない。

(2)機械的事故
 機械的事故のうち制御棒駆動機構の故障、計測制御用空気の喪失、1次系ポンプの故障、支流電源の喪失等の事故においては、燃料の溶融、被覆管の破損が生ずることはなく、したがって、核分裂生成物の放出はない。

 核分裂生成物の放出が考えられる事故としては、1次冷却材の漏洩事故および喪失事故がある。

 1次冷却材の漏洩に対しては、原子炉室で放射能を連続モニターし、事故を検出する。

 この事故による原子炉室外への放射性物質の放出は小さく問題はない。

 1次冷却材喪失事故の際には、被覆管が損傷し溶融燃料が圧力容器下部に蓄積されるが、再臨界になることはなく、格納容器の底にたまった水の自然循環により溶融燃料の余熱除去が行なわれ、圧力容器の溶融を防いでいる。

 格納容器内圧は最大12kg/cm3まで上昇するが、格納容器の損傷はない。

 格納容器外に漏洩した放射性物質は、原子炉室換気系の3段のフィルターでろ過された後、大気に放出される。
 5. 災害評価と離隔距離

 本船は、すでに述べたように、種々の安全対策が講ぜられており、かつ、各種事故に対しても検討の結果、安全を確保しうるものと認めるが、さらに、「原子炉立地審査指針」に準じて、重大事故および仮想事故を想定して、種々の離隔距離について停泊湯所、遠隔びょう地、仮泊場所ならびに、沿岸航行および狭水路通過に関し検討した。

  5.1 事故対策
 原子力船の事故対策としては、港の環境状況、原子炉事故の規模、船の引き出し時間等から判断して、合理的に容認される場所を停泊場所、遠隔びょう地等として選定することが必要である。

 すなわち、仮りに停泊中の原子炉事故が発生した場合、一定時間内に船が引き出されるとしても、停泊場所の周囲の公衆に放射線障害を与えないことが必要であるので、停泊場所の周囲のある範囲は、管理可能な地帯(管理地帯)内に、また、その外側のある範囲は、原則として人の居住しない地帯(非居住地帯)内になければならない。

  5.2 事故想定
 陸上炉と異なり、原子力船は船を停泊場所から引き出すことにより被ばく時間を限定することができる。

 この被ばく時間に基づき被ばく線量を計算するので、船の引き出しが確保されることは重要な条件である。

 本船の場合には、引き出し時間は重大事故については2時間を、仮想事故については24時間を仮定することとした。
(1)重大事故
 入港、あるいは、停泊時において原子炉の1次冷却系配管が瞬時に破断する事故を想定する。

 解析にあたって、次のことを仮定した。
①原子炉の出力歴を考え、燃料の溶融の時間的割合を考慮する。燃料内に内蔵されている核分裂生成物のうち、希ガス100%、よう素50%団体核分裂生成物1%が、格納容器内に放出される。

②格納容器内に放出されたよう素のうち50%は格納容器壁面に吸着されるものとする。原子炉室に漏洩したものは原子炉室内に付着あるいは沈着しないものとする。

③格納容器からの漏洩率は、事故の継続期間中1.5%/dayとする。

④格納容器内からの漏洩は、原子炉室換気系フィルターを通してマストの排気口から大気中に放出される。そのフィルターの除去効率は、よう素に対して90%をとる。希ガスに対しては除去効果は考えない。

⑤大気中への拡散に用いる気象条件は、放出の高さ0、風速1m/sec、気象安定度F型および拡散幅30°とする。

⑥事故直後における船の引き出しは、停泊場所については、必要に応じ引船あるいは補助動力によって2時間以内に行なわせることが十分可能であると考え、被ばく継続時間を2時間とする。遠隔びょう地については被ばく継続時間を30日とする。
(3)仮想事故
 原子炉施設の最大の事故として、原子炉が常用出力でかなり長時間運転された状態で、1次冷却系配管が瞬時に破断し、破断口から1次冷却材が放出される事故を想定する。

 解析にあたって、次のことを仮定した。
①燃料は100%溶融し、炉心内に内蔵されている核分裂生成物のうち、希ガス100%、よう素50%、固体核分裂生成物1%が、1次系完全破断と同時に格納容器内に放出される。

②格納容器内に放出されたよう素のうち50%は、格納容器壁面に吸着されるものとする。原子炉室に漏洩したものは、原子炉室内に付着あるいは沈着しないものとする。

③格納容器からの漏洩率は、事故の継続期間中1.5%/dayとする。

④格納容器内からの漏洩は、原子炉室換気系フィルターを通って、マストの排気口から大気中に放出される。そのフィルターの除去効率は、よう素に対して90%をとる。希ガスに対しては、除去効果は考えない。

⑤大気中への核散に用いる気象条件は、放出の高さ0、風速1m/sec、気象安定度F型および拡散幅30°とする。

⑥船の引き出しに2時間以上要するとは考えられないが、停泊場所については被ばく継続時間を24時間とする。遠隔びょう地については、被ばく継続時間を30日とする。なお、沿岸航行および狭水路通過については、通過時間を考慮して有効な被ばく継続時間をとることとする。
(3)解析結果
 以上の仮定により計算した離隔距離は次のとおりである。

  5.3 停泊場所に対する離隔距離

 停泊場所については、重大事故時の被ばく線量が全身25レムまたは甲状腺(小児)150レムとなるような地点は、管理可能な地帯(管理地帯)内になければならない。また、仮想事故時の被ばく線量が全身25レムまたは甲状腺(成人)300レムとなるような地点は、原則として人の居住していない地帯(非居住地帯)内になければならない。

 以上の考え方に基づき解析結果から判断すれば、停泊場所から管理地帯の境界までに必要な離隔距離は360mとなる。

 また、停泊場所から非居住地帯の境界までに必要な離隔距離は420mとなる。

  5.4 遠隔びょう地に対する離隔距離

 事故が発生して遠隔びょう地へ船が引き出された場合、遠隔びょう地周辺の公衆に放射線障害を与えないことが必要である。

 このためには、事故時の被ばく線量が全身25レムまたは甲状腺(小児)150レムとなるような地点は、非居住地帯内になければならない。

 以上の考え方に基づき、解析結果から判断すれば、遠隔びょう地から非居住地帯の境界までに必要な離隔距離は5,000mとなる。

  5.5 仮泊湯所に対する離隔距離

 一般に仮泊場所には引船の用意はないが、補助動力で船を移動させることを考慮すれば、仮泊場所の要件は停泊場所の場合とほとんど同じであると考えられるので、仮泊場所から陸岸までに必要な離隔距離は420mとする。

 なお、仮泊する場合には、その近くには遠隔びょう地の条件を満す場所のあることが必要である。

 また、事故発生時の仮泊については、遠隔びょう地の要件を満す場所であることが必要である。

  5.6 沿岸航行時および狭水路通過時の離隔距離

 沿岸航行中または狭水路通過中に事故を起して、補助動力により移動している場合に、陸岸の公衆に放射線障害を与えないことが必要である。

 船が移動中、有効な被ばく時間における被ばく線量が、全身25レムまたは甲状腺(小児)150レムとなるような地点は陸岸に含まれてはならない。

 気象に関する仮定は、5.2(1)⑤とし、風向については、常に陸岸上の1点に向うとして評価を行なった。

 以上の仮定によって計算された解析結果から判断して、陸岸から船までに必要な離隔距離は100mとする。

  5.7 国民遺伝線量に対する影響

 上記の種々の離隔距離がとられるならば、管理地帯および非居住地帯以遠については、人口密度30,000人/km2という人口分布を仮定して停泊場所における24時間の被ばく継続時間で考えた全身被ばく線量の積算値の推定値は、12万人レムである。

 次に遠隔びょう地における推定値は、12万人レムである。

 合計値24万人レムは、立地審査指針に示された値200万人レムに比べて小さいので容認されるものと考えられる。

 なお、この計算に用いた人口分布は、日本の主要な港に当てはめてみて安全側にあるものと認めて差し支えない。

 6 技術的能力

 本船は、1962年に就航して以来、4年間にわたり欧州各国を訪問し、その運航実績は十分認められている。

 原子炉を運転する者および保健物理技術者は米国沿岸警備隊の規則に規定する資格を保有している。

 また、原子炉の運転中は勿論、停止時においても適確な処置をとれるような体制になっている。

 以上の点から、原子力船の運航に必要な技術的能力は十分あると認める。

Ⅲ 審査経過

 本審査会は、昭和42年3月17日第45回審査会において第31部会を設置した。

 同部会は、船体・運航係関グループ、機関・原子炉関係グループ、および環境関係グループを設置し、参考人の協力をえて次表のように審査を行なってきたが、昭和42年4月10日の部会において部会報告書を決定し、昭和42年4月12日第47回審査会において本報告書を決定した。

第31部会委員
 内田 秀雄 (部会長)  東京大学
 芥川 輝孝  運輸省
 安藤 良夫  東京大学
 折原  洋  航海訓練所
 川崎 正之  日本原子力研究所
 川瀬 二郎  気象庁
 都甲 泰正  東京大学
 浜田 達二  理化学研究所
 原  三郎  日本海事協会
 弘田 実弥  日本原子力研究所
 牧野 直文      〃
 元良 誠三  東京大学

参考人
 大角 英樹  日本原子力船開発事業団
 加藤  豊       〃
 河合 保彦       〃
 川口  修  三菱原子力工業株式会社
 黒沢  昭  日本原子力船開発事業団
 佐藤加賀生       〃
 田島 義弘       〃
 藤家 洋一       〃
 保坂 彬夫       〃
 矢口親之亮  三菱原子力工業株式会社
 横村 武宣  日本原子力船開発事業団
 吉田 章一       〃
 渡辺 卓嗣       〃
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