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株式会社東京原子力産業研究所原子炉の
設置変更について



 原子力委員会では、内閣総理大臣から株式会社東京原子力産業研究所原子炉の設置変更について、諮問を受けたが、審査を行なった結果、次のように安全上支障のない旨答申した。

株式会社東京原子力産業研究所原子炉の設置変更について(答申)

 昭和41年7月20日付41原第2,579号(昭和41年7月23日付41原第2,858号および8月23日付41原第3,330号をもって一部訂正)をもって諮問のあった標記の件については、下記のとおり答申する。

 株式会社東京原子力産業研究所代表取締役社長浜田秀則から提出のあった「原子炉設置許可に係る変更許可申請書」(昭和41年6月30日付)および「原子炉設置許可に係る変更許可申請書の一部訂正について」(昭和41年7月22日付、8月22日付)に基づき審査した結果、本変更申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に規定する許可基準に適合するものと認める。

 なお、本件に関し、原子炉安全専門審査会からの安全性に関する報告は、次のとおりである。

原子炉安全専門審査会の報告

Ⅰ 審査結果
 株式会社東京原子力産業研究所原子炉施設の変更に係る安全性に関し、同社が提出した「原子炉設置許可に係る変更許可申請書」(昭和41年6月30日付)および「原子炉設置許可に係る変更許可申請書の一部訂正について」(昭和41年7月22日付)および(昭和41年8月22日付)に基づいて審査した結果、本原子炉施設の変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。

Ⅱ 変更事項
 原子炉のパルス運転を行なうため、瞬時最大熱出力を500MWにし、燃料集合体をステンレス鋼被ふくの9本の燃料要素からなるものにするほか、パルス運転用制御棒装置、安全設備等を追加する。

Ⅲ 審査内容
(1)パルス運転の概要
 パルス用制御棒が圧さく空気により高速で引き抜かれると、原子炉に過剰反応度が付加され、炉出力は急増する。出力の増加に伴って、主としてドップラー効果による負の反応度が付加され、炉出力は減少し、パルスとなる。この間、炉出力110KWにおいてスクラム信号が発せられ、通常の制御棒により、炉はスクラムされる。

 しかし、制御棒が働くまでには時間遅れがあるので、出力上昇に対する最初の主たる制御要素は上記ドップラー効果である。投入反応度の最大値は1.20%△K/Kであり、解析結果によれば、この最大反応度を投入した時、放出エネルギーは約7MW・sec、ホットチャネル燃料の中心温度は約700℃となる。

(2)安全対策
 パルス運転を行なうときは、従来の100KW定常運転時の安全設備のうち、炉周期スクラムをバイパスするが、新たに次のような安全対策がなされる。
1)パルス運転用燃料要素の燃料材には、2酸化ウラン(10%濃縮)を用い、被覆材には内圧上昇に対し十分な強度を持つステンレス鋼を用いる。

2)出力110KWでスクラム信号を発するパルスチャネルを1チャネル追加する。

3)引き抜かれたパルス用制御棒を2秒以内に自動的に炉心に再挿入する圧さく空気設備を設ける。

4)パルス用制御棒と通常の制御棒を同時には動かさないためのインターロック設備を設ける。

5)手動操作でボロン球を炉心に落下させる非常用停止設備を設ける。

6)パルス運転に係る主たる核的、熱的制限値として、最大投入反応1.20%△K/K、パルスのピーク時までの出力積分値3.5MW・sce及び燃料要素の中心最高温度700℃などが規制される。

7)最初の性能試験においては、次のような措置がとられる。
①投入反応度の増加は段階的に行ない、各段階の反応度増加は0.2%△K/K以下とする。

②①の各段階で、炉心燃料部より中性子束の高い反射体領域に挿入したモニター燃料により、規制値を超さないことを確めてから、次の段階の実験を行なう。
(3)平常運転時の被ばく評価
 パルス運転は運転操作上、1時間当り10回以下であるので、平均の炉出力は20KW程度であり、パルス運転に起因する被ばく線量は最も線量率の高い炉頂部にいる人で1時間につき約0.5mremをこえることはない。

(4)災害評価
1)重大事故
 燃料要素を製作の際の作業上の不注意などにより、長年月使用している間に被ふくの一部に腐食が進行し、小さな孔が生じ、ここから燃料要素と被ふく管の間隙に蓄積されていた核分裂生成物が冷却水中に放出される事故を考える。

 このような事故は、100KWで長時間運転したのち、1本の燃料要素に発生すると想定する。

 この時、冷却水中に放出される核分裂生成物の量は、希ガス0.45キュリー、ヨウ素0.20キュリー、その他0.10キュリーである。このうち、希ガスの全量及びヨウ素の110が煙突から放出されるものとする。

 その結果、周辺監視区域境界にいる人の最大被ばく線量は、全身で0.04mrem、甲状腺で2.9mrem(小児約12mrem)となり、「原子炉立地審査指針」に示された値にくらべ十分少ない。

 2)仮想事故
 仮想事故としては、パルス運転時に炉のもつ全過剰反応度、1.25%△K/Kが誤って投入され、全ての制御棒が落下せず、15秒後に手動の非常用停止設備が作動して原子炉は停止するという事故を想定する。

 このような事故時にはホットチャネルの燃料中心温度は約2,000℃に達するので、ホットチャネルでは炉中心より下部においてバーンアウトを起すことが予想される。

 このため、最大装荷燃料要素の約半数にあたる200本の被ふくが破損し、蓄積されていた核分裂生成物が瞬時に冷却水中に放出されると仮定する。また、このような事故は100KWで長時間運転した後で発生すると仮定する。

 燃料中心温度が約2,000℃なることを考慮して、核分裂生成物の放出率を5%とすると、希ガス2,700キュリー、ヨウ素1,200キュリー、その他600キュリーが冷却水中に放出されることとなる。

 このうち希ガスの全量、ヨウ素の21.5キュリー(ヨウ素の水対空気の分配係数を104とし、水に溶けたヨウ素はイオン交換樹脂塔により半減期約18時間で減少する。)が炉室に放出される。

 仮想事故時には換気が停止されるので、ヨウ素の炉室等への沈着を50%、炉室空気の漏洩率を50%/日とすると大気中への放出量は希ガス700キュリー、ヨウ素3.0キュリーとなる。

 大気中への拡散に用いる気象条件は、英国気象局法を用い、地上放散、F型、有効指数風速は0.5m/secとすると、周辺監視区域境界における被ばく線量は全身1.5rem、甲状腺4.3remであり、同区域外においては、「原子炉立地審査指針」に示されている値に比べ十分少ない。
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