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原子力開発利用長期計画改訂の基本方針


Ⅰ 原子力開発利用長期計画改訂の趣旨

 原子力委員会は、昭和36年2月、原子力開発利用長期計画を決定し、開発利用の促進をはかってきたが、現行長期計画は、策定後5年有余の間に原子力をめぐる内外の情勢の変化により現状にそぐわない諸点が生じている。このため、長期計画を改訂し、新しい長期計画のもとに開発利用を促進する必要が生じてきた。その主なものは、

1 最近の海外における動力炉開発の急速な進展、とくに米国における軽水炉の著しい経済的、技術的進歩により、わが国においても原子力発電が近い将来在来火力発電に十分匹敵し得ると見込まれる情勢になってきた。

 このため、日本原子力発電(株)1号炉の建設、2号炉の着工開始にひきつづき、関西電力(株)、東京電力(株)の原子力発電所建設計画が具体化し、これらによる原子力発電の開発規模は昭和45年度までに約130万kWに達する見通しである。

 一方、将来著しく増加が見込まれるわが国のエネルギー需要に対処し、総合エネルギー政策の観点に立脚して、その供給を長期的かつ合理的に解決するため、原子力発電に対する期待が、海外の動向も反映し、急速に高まってきた。

 このため関係諸機関において、長期にわたる原子力発電の位置づけ、見通しの検討が行なわれた。これらによる見通しでは、原子力委員会が昭和36年策定した長期計画における原子力発電の見通しを大幅に超過する趨勢にある。

 したがって、このような情勢に対応して、わが国における原子力発電の開発の見通しとこれにともなう措置を再検討する必要性が生じてきたこと。

2 エネルギーの安定かつ低廉な供給の確保とともに科学技術水準の向上と産業基盤の強化をはかるため動力炉の開発を自主的にすすめることがきわめて重要である。

 このような観点から原子力委員会は、昭和41年6月、動力炉開発の基本方針を内定した。この基本方針にもとづいた計画を長期計画の一環として織り込む必要性が生じてきたこと。

3 原子力発電の進展と動力炉開発計画の推進にともない、核燃料の安定供給とその効率的利用をはかるため、国内における核燃料サイクルの確立は、ますます緊要なこととなってきた。

 このため、核燃料の民有化を前提として、核燃料の確保、ウラン燃料の加工、使用済燃料の再処理、プルトニウム利用等、わが国における核燃料に対する考え方をより明確にしこれを長期計画に示す必要性が生じてきたこと。

4 原子力第一船の建造の推進にひきつづく原子力第二船以降の開発の見通しおよびその方策について、海外の動向と関連して、より明確にする必要性が生じてきたこと。

5 放射線利用については、放射線化学、食品照射等の分野において、より計画を具体化し、推進する必要性が生じてきたこと。

6 原子力開発利用における国際協力の果す役割の重要性にかんがみ、動力炉開発をはじめとする原子力開発利用の各分野において、その効率的推進をはかるため、諸外国の開発計画への参加等国際協力を強化する必要性が生じてきたこと。

7 原子力開発利用の進展にともない、安全対策、産業育成策、人材養成等に関し適切な措置を講じる必要性が生じてきたこと。などである。
 したがって、現行長期計画で明らかにした原子力開発利用の意義に従い、新しい情勢に対応し、原子力発電の積極的推進、動力炉の自主的開発、核燃料、その他わが国の原子力開発利用全般にわたりこれらを推進するうえに基本となる考え方を明らかにし、これにもとづき長期計画を改訂する。

 新長期計画は、昭和60年度までの間における将来の姿を展望しつつ、昭和41年度から昭和50年度までの10年間における原子力開発利用の推進計画および重点施策の大綱を明らかにし、あわせてこれらに必要な資金、人材等の見通しを示し、原子力開発利用をより適切かつ計画的にすすめることを趣旨とする。

Ⅱ 計画改訂の方針

1 原子力発電
〔方 針〕
 原子力発電は、エネルギーの安定供給上の有利性経済性向上の見とおしからみて、今後のわが国経済の成長を支える大量のエネルギー供給の有力な担い手となるものであり、その開発を積極的に推進する。

 原子力発電の開発見通しとそのすすめ方を明らかにするにあたっては、わが国のおかれた環境に即し、原子力のエネルギー源としての有利性を十分いかすとともに、産業基盤の強化をはかるよう配慮し、また動力炉の研究開発計画との調和をはかるものとする。

 なお、昭和40年代の原子力発電の炉型は、軽水炉を中心とした在来型炉が対象となることが見込まれるので、これらの在来型炉の国産化を推進する。
〔審議事項〕
(イ)原子力発電技術の進歩、ユニット容量の増大、建設経験の累積等によって、軽水炉等在来型炉の原子力発電のコストは逐次低下しつつあるのでその経済性、技術進歩の見通しを明らかにする。

(ロ)新型転換炉は、昭和50年代の前半に実用化が見込まれるので、その開発見通しを検討する。高速増殖炉は、昭和50年代の後半に、実用化が見込まれるので、その開発利用のあり方を検討する。

(ハ)原子力発電開発規模の想定は、関係諸機関の検討結果を考慮し、エネルギーの需要見通し、原子力発電の経済性の見通し、電源構成のあり方、核燃料の安定供給と有効利用の方策等と関連して検討する。
2 原子力船
〔方 針〕
 原子力第一船の建造は、原子力委員会の決定した基本計画にそって推進する。

 原子力第二船以降の開発については、実用化の時期の見通しおよびその開発方策を明らかにする。
〔審議事項〕
(イ)原子力第二船以降の開発について、海外における動向を勘案し、経済性の見通しおよび実用船の開発方策を第一船の建造と関連して検討する。

(ロ)原子力船の性能の改善および舶用炉の改良に必要な試験研究のすすめ方について検討する。
3 動力炉開発
〔方 針〕
 動力炉の研究開発は、わが国エネルギー政策上の重要課題であるとともに、産業基盤の強化、科学技術水準の向上に重大な役割をはたし、産業構造高度化の支柱の一つとなるものであるので、わが国においても、海外技術を有効に吸収しつつ、可能な限り自主的な開発を行なうことが必要である。

 このような観点から、さきに内定した動力炉開発の基本方針にもとづいた計画を長期計画の動力炉開発計画とする。
4 核燃料
〔方 針〕
 将来の核燃料所要量の増加にともない、核燃料の安定供給の有効利用をはかることを目標にして国内における核燃料サイクルの確立を期することを目的とした核燃料の利用に対する考え方を明確にするとともに、必要な研究開発を促進する。

 なお、核燃料サイクルは、原子力発電の開発見通しとそのすすめ方に密接に関連するので、核燃料利用の考え方を検討するにあたっては、これらを十分考慮する必要がある。

(イ)ウラン燃料の供給は、海外のウラン資源に依存せざるをえないので、必要に応じ国際協定の締結ないし改訂を行ないその入手をはかる。さらに内外におけるウラン資源の確保につとめる。

(ロ)ウラン燃料の加工は早急に国内で行なうこととする。

 また、減損ウランについて、その有効利用をはかる。

(ハ)プルトニウムについては、高速増殖炉への利用を最終目標とするが、その本格的利用までには長期間を必要とするので、昭和50年代の実用化を目途として、当面熱中性子炉への利用をはかるものとする。

 プルトニウム燃料の研究開発は、動力炉開発計画にそって、熱中性子炉燃料および高速増殖炉燃料について、日本原子力研究所および原子燃料公社を中心として行なうものとする。

(ニ)使用済燃料の再処理は、国内における核燃料サイクル確立のため、これを国内において行なうこととし、昭和46年度完成を目途に、原子燃料公社において再処理工場を建設する。
〔審議事項〕
(イ)国内ウラン資源の一層の確保をはかるための方策について検討する。また、海外ウラン資源の確保をはかるための具体的措置を検討する。

(ロ)ウラン加工事業者の健全な育成をはかるため、その適正規模を含め具体的措置について検討する。

(ハ)プルトニウム燃料の加工事業のあり方およびそれに必要な措置を検討する。熱中性子炉燃料の研究開発の具体化について検討する。

(ニ)昭和50年代の前半には、大規模な再処理工場の建設が必要となるので、再処理事業のあり方を検討する。

(ホ)高濃縮ウラン燃料およびプルトニウム燃料の再処理の方針について検討する。また、使用済燃料の新方式の再処理、および高速増殖炉燃料の再処理の研究開発の方針について検討する。

(ヘ)濃縮ウランは将来、国内生産を行なうことも考えられるので、ウラン濃縮の考え方および必要な研究開発について検討する。

(ト)トリウム燃料は、熱中性子増殖炉と関連し、日本原子力研究所を中心とした研究について検討する。
5 放射線利用
〔方針〕
 放射線利用は、広汎な分野に及ぶ多岐多様にわたり、今後の産業の発展、国民福祉の向上に大きな貢献が期待されるので、医学、農林水産業、鉱工業等の各分野における一層の促進をはかるとともに、国立試験研究機関、日本原子力研究所、民間等における試験研究をさらに積極的に推進する。

 とくに、医学利用、放射線化学、食品照射、放射線育種等に関しては、その研究の進展にともない。利用の普及を一層促進する。

 なお、食品照射については、食品照射専門部会の答申をまってその方針を決定する。
〔審議事項〕
(イ)アイソトープの生産に関し、早急にその国産化を行なうこととし、その生産ならびに頒布の体制の整備について検討する。また、この国産化の方針に関連して生産の研究についてそのすすめ方を検討する。さらに、使用済燃料の再処理によって得られる大量の核分裂生成物より有用なアイソトープを分離する研究についても、検討する。

(ロ)医学利用については、大学における研究の進展を考慮し、国立試験研究機関および国立医療機関の役割ならびに必要な研究について検討する。

(ハ)放射線化学については、日本原子力研究所における今後の研究方針を検討する。

(ニ)放射線育種の研究に関しては、その研究の進展にかんがみ、今後のすすめ方を検討する。

(ホ)アイソトープを用いた小型動力源など新しい利用分野の研究について検討する。
6 放射性廃棄物の処理、処分
〔方針〕
 放射性廃棄物は、今後、原子力発電をはじめとする原子力開発利用の進展にともない、ますます多量になることが予想されるので、これらの処理、処分を安全かつ合理的に行なうための方法および体制の確立をはかるとともに必要な研究を促進する。
〔審議事項〕
(イ)廃棄物処理、処分を行なうに必要な管理体制を含めて適切な実施機関のあり方を検討する。

(ロ)放射性廃棄物の処理、処分の研究は、日本原子力研究所、原子燃料公社、放射線医学総合研究所をはじめとする国立試験研究機関等関係機関が協力して行なうこととし、これら機関における必要な研究とその分担について検討する。
7 基礎研究
〔方針〕
 基礎研究は、わが国の科学水準の向上に大きな役割を果すとともに、幅広い開発利用の将来の発展を支えるうえにも重要な基盤となるものである。

 このうち、基礎科学における研究については、主として大学における研究の発展に期待し、また応用科学における研究については、大学における研究の進展に期待するとともに、日本原子力研究所、国立試験研究機関等における研究を推進する。

 また、これら関係諸機関の研究の一層の緊密化をはかることとする。
〔審議事項〕
(イ)日本原子力研究所、国立試験研究機関等の基礎研究分野における役割を検討する。

(ロ)大学、日本原子力研究所、国立試験研究機関等関係機関相互の一層の緊密化をはかる方策を検討する。
8 核融合
〔方針〕
 核融合の研究については、内外における動向を勘案しつつ、その推進をはかる。
〔審議事項〕
(イ)超高温プラズマを対象とした研究を総合的に推進する方針を検討する。

(ロ)核融合研究を総合的に推進する体制を検討する。
9 安全対策
〔方針〕
 原子力施設の安全とその周辺環境に及ぼす影響に関し、万全の対策を講じ、原子力開発利用の健全な発展をはかる必要がある。

 このため原子力技術の進展に即応して、原子力施設の安全基準の確立につとめる。

 また、これら施設等における放射線障害防止に必要な管理体制を一層整備する。
〔審議事項〕
(イ)原子力施設の安全基準の整備等に必要な体制および研究について検討する。

(ロ)放射線障害防止の研究のうち重点的に行なう必要のある研究について検討する。
10 その他の促進方策
〔方針〕
 原子力開発利用の推進をはかるため、上記開発利用、研究開発を促進するとともに、原子力産業の育成、原子力施設の用地確保、科学技術者の養成、原子力に関する内外の科学技術情報の交流などについても促進方策を確立し、強力に実施するものとする。また、原子力開発利用の健全な発展をはかるため、原子力の正しい知識の普及につとめる。

 なお、原子力施設の災害補償制度についても、整備をはかるものとする。
〔審議事項〕
(イ)原子力産業の健全な育成発展のため、長期低利資金の確保、減価償却制度等の税制上の優遇措置、関税制度の運用等についての方策を検討する。

(ロ)原子力発電所等、原子力施設の用地の確保について、必要な措置を検討する。

(ハ)原子力開発利用を効果的に推進するため、日本原子力研究所、放射線医学総合研究所等における養成訓練の拡充、向上策ならびに大学およびその他の教育訓練機関における教育計画の充実等研究開発および開発利用に従事する人材の養成に必要な措置を検討する。

(ニ)原子力に関する科学技術情報の流通機構について、その整備の方策を検討する。
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