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昭和42年度原子力予算

昭和41年8月25日原子力委員会調整額決定

 原子力委員会は、昭和42年度原子力予算(原子力局および各省庁からの要求総額約266億円、国庫債務負担行為額約151億円)について慎重に検討を重ねていたが、8月25日以下のような調整額を決定した。

昭和42年度原子力関係予算の見積方針について

Ⅰ 基本方針
 わが国における原子力の研究開発は着手以来10年以上経過し、この間海外における研究成果を吸収しつつ、その計画的な推進がはかられてきた。しかしながら今や、動力炉の開発、原子力船の建造等原子力利用の重要課題について、その基本的方針が確立され、実施に踏み出すべき段階にいたった。

 動力炉の開発についてはその開発に関する基本計画に基づいて策定される高速増殖炉および新型転換炉の開発を国のプロジェクトとして強力に推進するとともに、実施機関として国の総力を結集し得るよう42年度において新しい開発体制を確立する。また、在来型炉については、燃料および安全性に関する研究開発を中心として原子炉技術の向上をはかる。

 使用済燃料再処理施設の建設計画については、前年度に引き続いて推進する。

 原子力船の建造については、「原子力第一船開発基本計画」の実施上の問題点を充分検討の結果、船価を増額し、基本計画の方針に沿って、国内技術を主体とする原子炉を塔載する、原子力第一船の建造を推進することとし、42年度当初において建造契約を締結し建造を開始するとともに、附帯陸上施設の建設に着手する。

 放射線の利用について従来に引き続き、放射線化学等各分野における研究を推進するとともに、42年度から新たに、食品の放射線照射の研究について総合的に促進をはかる。

 原子力施設の安全対策、放射線障害の防止、環境における放射能調査および研究等については、引き続いて強力に推進するものとするが、とくに42年度から先に策定した方針に基づき、放射性物質の海洋処分に関する調査研究を総合的に推進する。

 以上のほか、試験研究機関、開発機関等における原子力開発研究の推進、民間に対する試験研究の助成、国際協力の推進等必要な諸施策等についても、その重要性にかんがみ慎重に配慮し所要の経費を計上する。

 以上の方針に基づき慎重に調整を行なった結果、42年度の原子力予算は動力炉開発費中、高速増殖炉および新型転換炉の計画的開発に必要な経費としては約45億円が必要であるが、その一部約13億円を計上したのをはじめとして、各省庁行政費までを含めて、約168億円および国庫債務負担行為額約92億円である。

 また行政機関の定員増を含め、原子力開発機関等に必要な人員増は352名である。

Ⅱ 主な事業
1 動力炉の研究開発
 42年度においては、高速増殖炉および新型転換炉の原型炉開発に必要な研究については、国のプロジェクトとして推進することとし、このため、実施計画を推進・実施する特殊法人を設立する。

 高速増殖炉については、その研究に必要な一部として高速臨界実験装置の建設を引き続き行なうほか、大型ナトリウム・ループ建設および高速増殖実験炉の詳細設計に着手する。新型転換炉については、これまでの調査研究の成果をいかし、詳細設計およびこれに必要な研究の一部を実施する。

 以上の高速増殖炉および新型転換炉の計画的開発に必要な経費としては要求枠の関係上、僅かに13億円にすぎず、当委員会としては動力炉開発を長期計画にそって推進するためには、42年度においては最小限度45億円の事業を行なうことが必要であると判断する。

 また、在来型炉については、その国産化を促進するための動力試験炉(JPDR)の改造、試験研究委託費、補助金の交付等により、安全性および燃料に関する研究を推進する。

 さらに、これら各炉型の研究開発の推進に必要な材料試験炉(JMTR)も引き続き既定計画に沿って建設する。
(計上経費46億円、国庫債務負担行為額28.4億円)

2 原子力第一船の建造
 42年度当初において建造契約を締結し建造を開始するとともに、附帯陸上施設の建設および乗員訓練に着手する。
(必要経費12.6億円、国庫債務負担行為額60.3億円)

3 使用済燃料再処理施設の設計
 46年度完成を目標に42年度においては、引き続き再処理施設の詳細設計を実施する。
(必要経費5.7億円)

Ⅲ その他の主要な事項
1 原子炉の運転等
 日本原子力研究所の原子炉による研究開発を円滑に行なうため、原子炉および機器の整備をはかる、また、わが国における原子炉および臨界実験装置の運転ならびに研究に必要な核燃料を調達する経費を計上する。
(必要経費17.0億円、国庫債務負担行為額2.6億円)

2 放射線の利用
 引き続き日本原子力研究所における高崎研究所の放射線化学中間規模試験施設およびアイソトープ事業部の整備をはかるとともに、国立試験研究機関等および民間における医学、工業、農業等の分野における放射線の利用に関する研究を促進する。とくに42年度より新たに食品の放射線照射に関する研究を総合的に実施する。

 なお、42年度に日本放射線高分子研究協会を日本原子力研究所に吸収し、放射線化学の基礎的研究を充実せしめ高崎研究所の中間規模試験の促進をはかる。
(必要経費8.6億円、国庫債務負担行為額0.3億円)

3 民間企業に対する研究補助および研究委託
 引き続き民間の行なう重要な試験研究について補助することとし、42年度においては在来型炉の国産化の重要性にかんがみ燃料加工および原子炉の設計・製作に関する研究に重点をおく。

 また、国が行なう必要のある試験研究のうち、民間において実施することがより効果的なものについては、これを民間に委託することとし、42年度においては在来型炉の安全性に関する試験研究に重点をおく。
(必要経費3.3億円)

4 安全対策の強化
(1)原子力利用に伴う安全対策
 引き続き放射線医学総合研究所、日本原子力研究所等において、また、前記委託費の交付を通じて、放射線障害防止ならびに原子力施設の安全に必要な研究を実施する。

 なお、水戸原子力事務所による放射能監視業務の強化をはかる。
(必要経費1.1億円)

(2)放射能調査の強化
 放射性降下物等の人体に与える永続的影響にかんがみ、環境、食品、人体等の放射能の調査および研究を引き続き実施することとし、とくに裏日本における調査を強化する。また、先に策定した方針に基づき放射性廃棄物の海洋処分に関し、海洋汚染の調査研究の強化をはかる。
(必要経費2.0億円)
5 国際協力の推進
 引き続き、国際原子力機関、欧州原子力機関等国際機関との協力ならびに米、英、加等の国との間の二国間協定等を通じての国際協力を一層強力に推進するため、科学技術者の交流、情報の交換、国際的共同事業および主要会議への参加等を積極的に行なう。

 とくに42年度においては欧州原子力機関の共同事業のうち、新たに食品照射に関する共同事業に参加する。

 またハルデン計画についても日本原子力研究所をして参加せしめることとする。
(必要経費2.6億円)

6 人材の養成
 引き続き、日本原子力研究所の原子炉研修所およびラジオアイソトープ研修所ならびに放射線医学総合研究所養成訓練部において、原子力関係科学技術者の養成訓練を行なうほか、専門技術を習得させるため海外に留学生を派遣する。
(必要経費1.5億円)

7 行政機構の整備
 動力炉開発を国のプロジェクトとして推進することにともなう動力炉開発業務の増大およびアイソトープ使用事業所等の増加にともなう関係業務の増加に対処し、また、水戸原子力事務所の業務の増大に対処するため、職員6名の増員を行なう。

 さらに国際協力を一層推進するため、科学技術担当アタッシェについて所要の増員を行なう。

8 東海地区原子力施設地帯整備
 前年度に引き続き、建設省の行なう公共事業の一環として、東海地区における道路の整備事業を実施せしめ、それに必要な補助措置を講ずる。
(必要経費1.9億円)

Ⅳ 原子力関係機関等に必要な経費
1 日本原子力研究所
 既にのべた事業のほか、大洗地区の整備拡充ならびに東海研究所および高崎研究所の研究部門の充実、研究サービス部門の整備等を含め、42年度における同研究所に必要な経費の総額は約102.9億円(うち、政府出資約99.7億円)および国庫債務負担行為額約30.4億円である。また、材料試験炉の建設、放射線化学中間規模試験、動力炉開発等の本格化に伴なう人員の充足に重点を置き224名の増員を行なう。

2 原子燃料公社
 既にのべた事業のほか、核原料物質の探鉱および製錬、プルトニウム燃料の研究開発、海外核原料資源の調査等を含め、42年度における同公社に必要な経費の総額は約24.4億円(うち政府出資約23.7億円)および国庫債務負担行為額約0.6億円である。また、再処理およびプルトニウム部門の整備に重点を置き60名の増員を行なう。

3 日本原子力船開発事業団
 既にのべた原子力第一船の建造にともなう必要な経費のほか管理運営費を含め、42年度における同事業団に必要な経費の総額は、約16.5億円(うち政府出資約12.6億円)および国庫債務負担行為額約60.3億円である。また、原子力船の運航準備のため6名の増員を行なう。

4 放射線医学総合研究所
 海洋調査を含む特別研究の充実、経常研究費の増額、第2研究棟の整備等を含め、42年度における同研究所に必要な経費の総額は、約7.2億円である。また、特別研究の充実に重点をおき、14名の増員を行なう。

5 国立試験研究機関および理化学研究所
 国立試験研究機関における食品照射等の放射線の利用、原子炉材料、原子力船等に関する研究および核原料物質等の探査を含め42年度において国立試験研究機関に必要な原子力関係経費の総額は約6.7億円である。

 また、理化学研究所におけるバンデグラフ型加
速器の建設、サイクロトロンによる研究等を含め、42年度において同研究所に必要な原子力関係経費は、総額約2.6億円、国庫債務負担行為額約0.3億円である。

6 動力炉開発事業団(仮称)
 高速増殖炉および新型転換炉の原型炉の開発を総合的に行なうため、42年度半ばに発足させることを目途に、動力炉開発事業団(仮称)を新設する。

 事業団が自ら実施する事業規模としては、予算要求枠の関係上、新型転換炉の設計を中心に管理運営費を含め、経費約1.5億円(うち政府出資1億円)、人員39名を計上するが、42年度における動力炉開発を長期計画に沿って遂行するためには、最小限度、管理運営費も含め、約15億円の事業を行なうことが必要であると判断する。

昭和42年度原子力関係予算概算要求事項別総表



 1. 昭和42年度日本原子力研究所予算概算要求総括表





 2. 昭和42年度原子燃料公社予算概算要求総括表






 3. 昭和42年度日本原子力船開発事業団予算概算要求総括表




 4. 動力炉開発事業団(仮称)に必要な経費


 5. 昭和42年度放射線医学総合研究所概算要求総括表



 6. 試験研究機関等の試験研究に必要な経費











 7. 原子力平和利用研究の助成等に必要な経費


 8. 核燃料物質の購入等に必要な経費


 9. 科学技術者の資質向上に必要な経費



 10. 放射能測定調査研究に必要な経費




 11. 理化学研究所に必要な経費



 12. 原子力発電所立地調査に必要な経費


 13. 原子力委員会に必要な経費


 14. 放射線審議会に必要な経費


 15. 原子力局の一般行政に必要な経費



 16. 関係各省庁における行政費



 17. 東海地区原子力施設地帯整備に必要な経費



 18. 日本科学技術情報センターに必要な経費

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