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新型転換炉ワーキング・グループ報告書


 新型転換炉ワーキング・グループは、動力炉開発の進め方-中間段階における-」の方針にもとづいて40年7月19日に発足して以来、前後14回にわたって検討を行ない、41年2月16日に開催された第16回動力炉開発懇談会にその報告書を提出した。

 Ⅰ 新型転換炉開発の意義

 新型転換炉開発の意義は、この型式の炉が動力炉としてわが国で実用化されることによって得られる燃料サイクル上の意義、およびこの型式の動力炉をわが国で自主的に開発することによって得られる科学技術向上による意義、として把握される。

(1)燃料サイクル上の意義
(イ)核燃料の有効利用
 現在想定されている将来の原子力発電開発量に比較して、わが国内の核原料資源は貧弱であるので多量の核物質の輸入が予想されるが、この外貨負担を減少させ、供給の安定を確保するためには、核燃料を有効に利用しなければならない。

 その具体策としては、短期的にはプルトニウム、減損ウランのリサイクルを可能にするとともに、長期的には単位発電設備容量当りの核燃料所要量および単位発生電力量当りの核燃料所要量の少ない炉型を、早期かつ円滑に実用化することが有効である。

 このため、これらの目的に合った新型転換炉および高速増殖炉を早期に開発利用しなければならない。高速増殖炉は世界的には1980年代に実用化されるとしているが早期には経済性が優先され比較的増殖比が犠牲にされた炉型が採用されることが考えられる。

 新型転換炉は各国とも、従来の技術基盤をいかして開発を進めており、1970年代前半に実用化されようとしいる。

 これは国情により炉型に相違があるが、いずれも在来型炉により経済性を向上させ、あわせて燃料所要量が少なく、また性能を一段と向上させることを指向している。

(ロ)プルトニウムの生成
 新型転換炉は、燃料所要量が少ないことは必要であるが、さらに単位発電量および単位所要ウラン量当りプルトニウムの生成量が多い炉型は、将来経済性のあるプルトニウムを使用した高速増殖炉の早期建設を円滑に行なうことを可能とする。

 すなわち、わが国では、原子力発電が比較的遅れて開発され、かつ、急激に成長すると予想されていのるで、高速増殖炉が実用化された場合、プルトニウムを初期装荷する高速増殖炉の燃料としては、世界的にも商業ベースで十分に蓄積されていないものと考えられる。


 このためその時期に運転中の熱中性子炉および高速増殖炉から生成されるプルトニウムでは不足することが予想され、プルトニウム生産炉としての熱中性子炉がさらに長期間にわたり運転されることが考えられる。

 ただし、このために使用される熱中性子炉はプルトニウム生産を主目的とするあまり、発電コストの上昇、多量の核燃料物質の消費等を伴なう炉型であってはならない。

(ハ)経済性
 新型転換炉は、各国において燃料利用率の向上をめざして、在来炉型の技術の基盤に立って開発されている炉型であり、開発が完了した暁には在来型炉より経済性が向上する可能性を有するものと考えられる。さらに、早期に研究開発を完了して、これを実用化すれば産業規模で建設されることにより、その経済性の一層の向上がはかられる。

 また、燃料利用率が高い炉型であれば燃料の価格上昇に対して、発電コストの上昇は比較的少ない。

 高速増殖炉が十分に建設運転される時期に入ってもプルトニウム燃焼炉として運転が比較的容易なことなどの面からも、その経済性は不利にはならないと考えられる。

 したがって、信頼性、運転の容易性を考慮すると、新型転換炉と高速増殖炉は長期間にわたり共存すると考えられる。

(ニ)多様化
 核燃料物質はエネルギー資源であるから、安定供給の見地から、供給源が多いことが望ましい。

 在来型炉たる軽水炉が、その燃料である濃縮ウランの購入を、当面米国のみに依存しなければならないのに対し、天然ウランの使用可能な新型転換炉を選定すれば、世界の各地から、イエローケーキを安価に購入して、これを燃料とすることが可能である。

 また、代替の可能性としては、軽水型炉からの減損ウランおよび必要によっては減損ウランに、プルトニウムブレンド等により、減損ウランおよびプルトニウムを利用できる有望な炉型になりうる可能性がある。

 特に重水減速炉については適当な同位元素組成のプルトニウムを添加することにより、高燃焼度の達成される可能性を持つものと考えられる。

(ホ)増殖炉への発展の可能性
 核燃料物質が増殖されることは、一般に資源的にも経済的にも望ましいことである。高速増殖炉はこの目的にそって、世界的に開発が進められているが、新型転換炉もトリウムを使用することにより、ほぼこの目的を果すことが可能である。

 すなわち、転換比が1に近い新型転換炉が開発された場合、これによって拡大される資源量は相当に大きく、世界のトリウムの賦存量を考慮した場合、これによって拡大される核燃料資源量は飛躍的に大きい。

 高速増殖炉と熱中性子増殖炉またはニヤ・プリダーを比較した場合、核燃料インベントリー、運転の容易さにおいて、後者が有利である。

 いずれにせよ、動力炉が実用化されるためには増殖という資源的立場より、発電コストの経済性が優先されると考えられる。

 以上の諸点を総合すれば、これらの特性をそなえる新型転換炉を早期に実用に供する事が必要である。

(2)新型転換炉の自主開発の意義
 動力炉の自主開発は、
(i)長期的観点から、国のエネルギー需要、核資源等を勘案して、燃料サイクル上有効な炉型を選定できること。

(ii)動力炉の開発は先導性を有する技術であり、関連技術分野への波及効果の大きいことから、わが国の産業基盤の確立、技術水準の向上に資するところが大きいこと。

(iii)現在わが国における動力炉の海外技術への依存状態から脱脚できること。

(iv)積極的に、国の産業技術基盤を生かして、産業の重工業化への誘導も可能であること。

(v)また、輸出も可能な炉型の選択により、わが国の技術水準からして、輸出産業にまで発展しうること、さらには、核燃料資源の海外からの入手確保にとって有力なバーター材としても考えられること。などの意義をもつものである。
 わが国の現状では、技術導入による在来炉の建設が急激に進められつつあり、今後ともその改良、大型化等を通じて、導入技術への依存はいぜんとして続くおそれがあり、その対貨も相当多額なものになろうとしていることから、わが国においても、早期に国情に適した炉型である動力炉の研究開発を実施し、早期に産業規模にいたらしめることが肝要である。

 このためには、わが国でこれまで得られた技術を有効に生かし、かつ早期に開発が可能であるとともに長期的にも発電コストのより一層の低減の可能性を有し、さらにはエネルギー供給面から有効な炉型を選定し、その炉型について動力炉ないしプラントのシステムエンジニヤリングをわが国独自なものとして確立されなければならない。

 現在の高速炉の開発のテンポからすれば、高速炉が開発されるまで技術導入による在来炉のみを建設することは、以上の観点からわが国にとって外国技術への依存を深めるばかりでなく、新型転換炉の自主開発を進めることにより早期に産業技術水準のレベルアップを行なわなければ、原子力におけるわが国の技術の後進性からの脱却の機会を永久に失うおそれがある。

 それ故、諸外国の例をひくまでもなく、先進諸国においても新型転換炉を含めた動力炉の自主開発を行ない技術の向上、産業基盤の強化に努めているごとく、わが国においても国の計画として新型転換炉の自主開発を実施することが必要である。

 Ⅱ 新型転換炉の炉型選定

 自主的に研究開発すべき新型転換炉の炉型選定にあたって、現在世界各国において開発途上にある炉型について、与えられた前提条件である
 (1)経済性
 (2)核燃料の効率的利用
 (3)核燃料利用の多様化
 (4)熱中性子増殖炉への発展の可能性
のほかにさらに
 (5)動力炉の構成要素の工業化への可能性
 (6)技術的な観点から早期開発の可能性
 (7)技術導入ベースの外国技術からの脱却
の面から検討を行ない、動力炉開発調査団の報告も考慮して
 重水減速沸騰軽水冷却炉
 重水減速炭酸ガス冷却炉
の2炉型を選定した。

 すなわち与えられた条件について
 (1)経済性については
 検討した各炉型ともその経済性が在来型導入炉に比し有利となる可能性を持つと考えられるが、この面のみでは新型転換炉の各炉型間に有意な差はみられなかった。

 (2)核燃料の効率的利用については
 トリウムを使用する炉型は高濃縮ウランを必要とするが、燃料所要量は少なく核燃料を効率的に利用しうる。しかしトリウム燃料の研究開発の機関を考慮に入れて将来トリウムも使用できるが、当面ウランのみを使用する炉型においては、重水減速炉が良好な燃料利用率を持っていると考えられる。

 (3)核燃料利用の多様化については
 各炉型とも経済性の最適化を別にすれば、トリウム、プルトニウム、濃縮ウランのいずれも使用が可能であるが、重水減速炉のみは天然ウランも使用が可能である。

 わが国における経済的な濃縮工場の建設の可能性にもよるが、濃縮ウランの入手上の問題からして天然ウランをも使用できる重水炉が有利であろう。

 (4)熱中性子増殖炉への発展の可能性は
 いずれの炉型ともトリウムを使用すれば、その可能性を有しているがトリウム燃料の研究開発が、いまだ初期段階にあるためその転換比などの差が炉型の選定にあたって有意な炉型間の差とは認められなかった。

 トリウムの使用に関しては、トリウム燃料の再処理、再加工を早期に工業規模化するには難点があるので、研究開発の初期の段階ではウランおよびプルトニウムによって研究開発を進め、将来、開発の進展に応じてトリウムの使用により、その増殖炉への発展が考えられる。

 さらに炉型選定のため当ワーキング・グループで追加検討した条件として

 (5)動力炉の構成要素の工業化への可能性は
 わが国における産業構造から動力炉の開発が実用化に進んだ際、容易に工業規模となりうるような原料、材料、構成要素および技術基盤によって製作可能な炉型が輸入の防あつおよび実用化に際しての製造システムの確立がはかり得るなどの面から望ましい。

 重水製造はほぼ研究段階を終えており、大量に需用が発生することになれば経済性のある工業規模化がはかられる可能性がある。

 また、早期からトリウム利用をはかる炉型では、再処理、再加工設備の工業化規模にいたる過程で問題があろう。

 (6)技術的観点から早期開発の可能性については
 新型転換炉は燃料の安定供給と効率的利用および国内技術の早期確立の両面から早期に開発し、実用化しなくてはならない役割をもっているもので、わが国における技術基盤を十分活かすことにしても、材料面(燃料を含む)の開発は一般に時間を要することから、その性能向上が材料の開発に多くを依存する炉型の選定は望ましくない。

 この点でトリウムの利用に大きく依存する高温ガス炉、シードアンドブランケット炉、スペクトラルシフト炉のほか重水減速有機材冷却炉、(有機材、SAP、UC)ならびに溶融塩炉(燃料、炉容器)は適当な炉型とはいえない。

 また外国で目下開発中であってもその開発の段階からして相当長期の研究開発が必要であると予想される炉型すなわち、重水減速超臨界圧軽水冷却炉、混合スペクトラム核過熱炉および溶融塩炉は除外されることとなる。

 (7)技術導入ベースの外国技術からの脱却については一般に動力炉の開発が技術の自立を目的としている以上、当然将来とも外国技術に従属をせまられるノウハウに関するロイヤリティをともなう商業的な技術導入にその開発が大きく依存する炉型を採用することは望ましくない。

 しかし、わが国の現状からしていたずらに技術の独立をはかるのではなく、国際的な協力のもとで開発が可能でありかつ、国内技術が正当な対貨をうることなく流出するおそれのない炉型を選定し開発を進めなくてはならない。

 すでに外国で開発が進んでおり、ノウハウに関するロイヤルティをともなう技術導入ベースとならざるをえない炉型については,セミプルーブンとして、前提条件でAGR、CANDU-PHWが除かれている。

 以上により、わが国で自主的に研究開発を行ない、その実用化が比較的早期に期待できる炉型として、重水減速沸騰軽水冷却炉および重水減速炭酸ガス冷却炉を選定した。

 この2つの炉型については下記の特徴をもっている。
(i)重水減速沸騰軽水冷却炉
 重水減速沸騰軽水冷却炉は、天然ウランを使用する場合と濃縮ウランを使用する場合では問題の難かしさに若干の差はあるが、従来問題とされた正のボイド係数の問題は、プラントの総合的な特性として見るときは解決の見通しが得られたと思われる。

 トリウムを用いて増殖炉に発展させる場合を考慮すると、重水減速ガス冷却炉の方が良いと考えられるが、直接サイクルなので資本費は重水減速ガス冷却炉よりも低減の可能性が大きい。

 また、運転中の燃料配置換えを行なえば、天然ウランの使用ができることなどの諸点から本炉は良好になる可能性が高い。

(ii)重水減速炭酸ガス冷却炉
 本炉は天然ウラン利用への発展の可能性が考えられる有望な炉型であり、被覆材としてベリリウムに期待するところが大きい。

 ベリリウムの開発はフランスにおいて行なわれつつあるが、現在のところ十分な解決はえられていない。またベリリウムの代替として考えられているジルコニウム・銅合金の開発は緒についた段階にあるものと見られる。

 本炉はまたベリリウム被覆材を使用すればトリウムを用いることによって増殖炉への可能性が高く、かつ重水炉の特長である運転中の燃料取替は重水減速沸騰軽水冷却炉に比べ容易なものと思われる。

 本炉の将来性は一に被覆材の開発にかかっているが、良好な動力炉となる可能性がある。
 Ⅲ 研究開発の進め方

 (1)研究開発の内容、規模およびスケジュール
 重水減速沸騰軽水冷却炉については、英国がSGHWRとして、またカナダがCANDU-BLWとして研究開発を進めている。前者は1967年完成目標で100MWeの原型炉を建設中であり、後者はCANDU-PHWの技術を基に1971年に完成することを目標に250MWeの原型炉を建設することを近く決定する予定である。

 さらに英国およびカナダでは、次の段階として1975年までに実用規模の動力炉を建設する計画を有しているようである。

 このほかイタリアでもこの型の炉の開発に着手しており、オーストラリア、インド等も近く開発に着手する旨発表している。

 重水減速ガス冷却炉としては、フランスが1967年に完成することを目標に73MWeの原型炉EL-4の建設を進めており、このほか、スイス、チェコスロバキア、西ドイツ等においても原型炉の建設または設計が進行している。

 したがって、わが国の新型転換炉開発計画も当初考えていたよりもその実施計画を早めることが必要であると考えられるに至った。

 すなわち、先進諸国よりも遅れて研究開発にスタートしたわが国の現状を考慮した結果、動力炉開発調査団報告書にも述べられているとおり、わが国で自主的開発を遂行するためには短期間に原型炉の段階を終えて、10年後には実証炉建設の段階に入っていることが必要であると考えられる。

 原型炉建設の目的は
(i)重水炉の技術開発を総合的に集約し
(ii)実証炉の建設に必要な技術的情報を得るとともに
(iii)実証炉ないしは実用炉をスケールダウンした規模で技術的実用性をデモンストレーションするところにあり、わが国が必要とする炉性能をプラントシステムとして実現させることにある。
 実証炉の目的は
(i)前段階の原型炉の成果を総合化し
(ii)実用炉に必要な情報を得るとともに
(iii)とりあげた炉型と競争関係にある実用炉に劣らない経済性および信頼性のもので、かつ、新型転換炉の実用炉と同程度の規模および性能が得られることを、工業規模のシステムにおいて確立できることをデモンストレーションする
ところにある。

 本プロジェクトにおいては燃料サイクル上優れた特性を有する燃料体を開発することがその成否の鍵をにぎるものであるから、これは特に重点をおくものとする。

 原型炉、実証炉建設運転の段階を経た暁には、とりあげた炉型はプラントの総合的な経済性の面でこれと同じ頃に建設される在来動力炉プラントよりも優れたものになっていると考えられる。

 このため、次のように研究開発を進めることが必要である。
(i)本プロジェクト発足の準備段階として、Ⅱにおいて選定された2炉型についてできるだけすみやかに実証炉ないし実用炉を対象として炉心に工学的諸パラメータの検討を行ない工学的諸元の最適値を求める。

 これにより原型炉の基本的諸元と独創性を発揮すべき目標を具体的に明らかにする。

 以上の結果から原型炉建設のために実施すべき試験研究の内容およびプロジェクトの進め方ならびに資金、人材の具体化を行なう。

(ii)(i)の検討と並行して早期に開発実施体制の整備をはかり(i)により具体化された資料に基づき適当な1炉型を選定しプロジェクトを発足させる。

(iii)プロジェクトの第1段階として、原型炉を設計建設する。この場合、原型炉の規模は、諸外国において開発されているものとの重複をさけ、また実用炉へのスケールアップを容易にするという観点から200MWe程度のものが適当である。

(iv)原型炉の完成時期は1975年より早くすべきであり1972~1973年を目標とする。

(v)原型炉の建設には4~5年を要するが、自主開発を行なうという観点からは建設のために試験研究の集約を行ない、また建設準備を進める期間として建設着手に先立って2~3年が必要である。

(vi)実証炉(500~1,000MWe)は原型炉の運転特性がその製作建設に反映されるよう考慮しておかなければならない。

(vii)以上の計画を遂行するためには、特に原型炉の建設および運転が行なわれるまでは、諸外国との国際協力を行なうことが考えられるが、新型転換炉の自主開発の意義自体を弱めることとならないよう、自主開発の原則を堅持しつつギブ・アンド・テイクで国際協力を行なうことが必要である。
 (2)研究開発の分担および総合化の方法
 新型転換炉の開発を進めるにあたっては、わが国の原子力関係の技術と頭脳の総力を結集して行なうべきことが必要であり、このためには計画、設計、試験研究、製造、建設、据付、運転などの原型炉完成のための諸機能が有機的連携の下に総合されることが必要である。

 これらの機能は関係機関によって分担されることとなろうがそれらの活動を総合的に推進していくためこの国のプロジェクトの遂行につき全体の計画を総合する中枢的機能を果すものとして政策面の責任をもち、企画、審議にあたるポリシー・ボードの存在が必要であろう。

 プロジェクトの実施については関係機関の中から、リーダーとなる実施担当機関で定め、実施面の責任を与え、その責任と自主性においてプロジェクトをできるだけ弾力的に進行せしめるよう措置することが必要である。

 さらに前記のリーダーとなる実施担当機関にそれ以外の分担機関が円滑に協力参加できるよう配慮しておく必要がある。

新 型 転 換 炉 研 究 開 発 の 進 め 方



(3)研究開発に要する資金および人員

(イ)資金
 原型炉研究開発プロジェクトに必要な資金は、総額450~650億円程度、うち、原型炉建設費は、300~400億円(15~20万円/kWe)程度と考えられる。

 これらの研究開発費は、原則として国家資金をもってこれにあてる必要があるが、金利を考慮しないですむ資金をもって計画が遂行できるよう努力すべきである。

(ロ)人材
 本研究開発プロジェクトに必要な人材は従来の動力炉技術と密接な関係のある分野から比較的円滑に動員することが可能であると考えられる。

 技術関係人員総括はほぼ次のとおりと見込まれる。
試験研究 200~250人
設  計 150人
製  造 150人
建  設 150人
運  転 100人
(特性試験担当者を含む)

 各項目の内容は段階的に進められ、かつ重複している部門もあるので、技術者の年間総人量はピークで約400人と考えられる。

 なお、上記の数字には管理者、補助者、工員などは含まれていない。

 Ⅳ 国際協力

 研究開発を進めて行くに当っては、その所期の目標から、わが国の主体性を保ちつつ進めて行くことが強く要望される。このため、国際協力を行なう場合においても、わが国の主体性を保持しつつ、わが国の開発計画に有意義に寄与しうる国際協力を中心としたものとする必要がある。

 したがって国際協力はいわゆるギブ・アンド・テイクの精神に基づいたものでなければならず、このような基本的態度で臨まない限り、自主的な研究開発は不可能であり、あるいは、十分な利益が得られないであろう。

 国際協力の実施に際しては、わが国の研究開発と協調しうるよう、その時期、内容について十分な検討を行ない、わが国の研究開発遂行に最大の効果をもって織り込むよう考慮しなければならない。
 研究開発の提携
 本プロジェクトの推進にとって、海外における適当な新型転換炉開発に下記の項目について加わることは開発期間の短縮と資金、人材の節約を図るのに有効である。

(i)開発計画の提携、参加
(ii)外国施設の利用
(iii)研究技術者の交流および情報の入手

 原型炉の建設、およびそのコンポーネントの製造には、多くのノウハウが心要となるが少なくとも原子炉またはプラントのシステムエンジニアリングに関しては、従来行なわれている商業ベースによる技術導人は、排除しなければならない。

 したがって研究開発は情報の交換およびロイアリティベースにならない技術提携程度をもって行なわれることが必要であり、外国プロジェクトへの参加に関しても工業所有権の取扱いが、わが国の実情に則して行なわれるものでなければならない。

 ただし、既に諸外国の機関がわが国の工業所有権を取得しているものについては、実施上その取得のために技術導入を行なうことおよび原型炉建設段階までに工業規模で生産が行なわれる可能性がない粗材および機械要素については、輸入によることはやむを得ない。

 Ⅴ 研究開発計画において考慮されるべき性能向上の開発項目

 研究開発の実施にあたっては、新型転換炉の意義に述べた方向にそってその特性の改善が考慮されなければならないと考えられる。

 選定された2炉型、重水減速沸騰軽水冷却炉および重水減速炭酸ガス冷却炉については、まだ海外諸国においても実証される段階にいたっておらず、わが国で今後行ない得る性能向上の開発項目をここに挙げておくこととする。

 これらの項目が、原型炉・実証炉・実用炉の段階でどのようにとり入れるか否かは、開発期間、開発資金、開発のリスクによって、さらに実施段階において検討されるべきであるが、このような目標や考慮をもって研究開発を進めるべきであろう。

 重水減速炉共通の開発項目はつぎの諸点があげられる。
(1)On Power Refueling Machineの開発
 圧力管型は、On Power Refuelingをし易く、On Power Refuelingにより、燃焼度は上昇する。

 しかし、何れの炉型でも、わが国の国情や規制に基いたものを開発する必要があろう。

(2)高張力ジルコニウム合金の開発
 ジルコニウム合金圧力管の肉厚が、燃焼度に及ぼす影響は、天然ウランを用いる場合は相当に大きく、30万kWe概念設計の沸騰軽水冷却型格子の場合、ジルコニウム合金の肉厚を8mmから4mmにすると燃焼度は倍増する(JAERI-1080)。

 現在Zr-Nbなど高張力ジルコニウム合金が開発中で、その意味は天然ウラン重水減速炉め場合特に大きい。
 重水減速沸騰軽水冷却炉
(1)燃料
(a)天然ウランの使用、プルトニウムおよびトリウムの利用、
 おそらく原型炉は微濃縮で出発することになると思われるが、開発の方向は天然ウランの使用であろう。

 そして重水炉は、核物質利用のフィジビリティが良い(Pu239を略U235と同程度の価値に利用できるなど)と考えられるので、プルトニウムやトリウムの利用、または、プルトニウム生産炉として使用もできよう。

(b)燃料型式
 ロッドクラスター型の開発が、比較的容易であるが、新型燃料、特にTube-in-Shell型は、核的面(高速核分裂効果、ボイド係数など)、熱除去面(Burn-Out限界の上昇)、製作面あるいは燃料の時定数が長いなどの特徴があるので、この型の開発が望まれる。
(2)炉内平均軽水密度の低下
 炉内平均軽水密度の低下については、燃焼度の面からも(軽水密度が0.1g/cc低下すると約1,000MW D/Tの上昇)、制御面からも好ましい。(JAERI-1080)

 このためには、次の方法がある。
(a)蒸気再循環
 発生した蒸気を一部再循環して、炉心入口の冷却材の蒸気重量比を1%程度にすることができれば(Burn-Out限界の新たな開発をせずに)、炉内平均軽水密度を低下させることができる。これはBurn-Out限界から、出口蒸気重量比が10~15%に押えられている場合、特に有効である(約0.15g/cc低下させることができる)。

 この蒸気再循環が開発されれば、新型燃料などによるBurn-Out限界上昇の開発とあいまって、Fog冷却に発展することが、考えられる。

(b)出口蒸気重量比の増加(=Burn-Out限界の上昇、あるいはBurn-Out安全率の切り下げ)新型燃料(Annular型や、Tube-in-Shell型)の開発および実物大熱除去試験が必要である。

(c)冷却材通路断面積の減少
 ロッドクラスタ型燃料よりもAnnular型やTube-in-Shell型燃料の方が有望である。

(3)横型沸騰
 On Power,Bi-directional Refuelingを考慮すると、縦型より横型の方がし易いといえよう。

 このため、横型の炉内平均軽水密度、内力密度が縦型の場合と対抗し得る程度に実現し得れば横型の価値が高まるが、この点が横型にする場合の問題点である。

 Hanford研究所の19本クラスタ燃料の実物大熱除去実験結果(水平沸騰)では、その可能性もあるようである(USAEC,Report.HW-77303)
(4)核過熱用ジルコニウム合金
 この炉型では、ステンレス鋼やインコロイなどで核過熱を実現して熱効率を高めても、燃焼度損失が大きいため、gainはほとんどないであろう。

 また、核過熱を実現するには、蒸気温度を400℃以上にしなければ意味がないといわれているが、重水減速炉の場合、この温度に耐えるジルコニウム合金の開発をすることが必要であろう。

 重水減速炭酸ガス冷却炉
 (1)燃料
 重水沸騰軽水冷却炉の場合同様、天然ウランの使用がまず目標にされるがさらにトリウムを用いてニヤ・ブリーダーまたは増殖炉にすることも考慮されよう。この意味で、ベリリウム被覆材の開発が、重要なかなめとなっている。

 核物質使用のフィジビリティが大きいことはもちろんであるが、最初は二酸化ウランが用いられるにしても、将来は密度も高く、熱伝導率も良い炭化ウランが考慮されよう。

 (2)冷却材圧力の上昇
 この型式炉では、被覆材表面のラフネスをつけない限り、冷却材圧力は60気圧以上でなければ、よい特性を発揮するとはいえないが、これを100気圧程度に上げれば、出口冷却材温度を約60℃上昇させることができる。

 ∫kdθの最大は限度があるので、出力密度は、冷却材圧力を上げても上げられないから、崩壊熱も変らない。

 (3)ベリリウム被覆材の製造
 フランスでは、粉末冶金法の採用はBeOが(多く)混入して具合が悪いといっているが、わが国では粉末冶金法による製造を開発しつつあり、現在、コールド試験の結果は良好といわれている。

 (4)その他検討すべき点はつぎのとおりである。
(a)圧力管の十字配置
(b)ガスタービンの使用
(c)耐高温ジルカロイ
 付 記
 本報告書は、原子力委員会の“動力炉開発の進め方について”の考え方を前提として検討したものであり、将来における低廉なエネルギー供給の確保および燃料利用の効率化、多様化を図る必要があること、さらに、新型転換炉の自主的開発により得られる産業基盤の強化、技術水準の向上などへの効果を享受する必要があることを目的に、国の計画として研究開発が進められることが必要であるという大多数の意見をもってとりまとめたものである。

 新型転換炉を含む性能の向上した改良熱中性子炉を、わが国において早期に発電系統に組み入れることについては、その経済性の達成が可能となるならば、望まい、ことであるという点で意見の一致をみている。

 これに関連して、AGR、CANDU-PHWなどが、外国において、在来炉との比較により、経済性、信頼性の面で実証されるならば、本研究開発プロジェクトの途中においても、これがわが国において実用に供せられることになるかもしれない。

 しかし、これら導入される実用炉と研究開発プロジェクトでとりあげた新型転換炉との関係は、本プロジェクトが進められているという理由だけで導入を阻止すること、導入実用化が図られるからという理由だけでプロジェクトを中止することなど、相互に排他的関係にすることなく、そのケースの内容を、国民経済的な広い視野で、ケース・バイ・ケースに、適確に判断すべきものと考えた。

 その他、この報告書について、つぎの少数意見が出されていることをつけ加えておく。

 Ⅰ 研究開発の進め方について
(i)海外において、早くから各種型式の新型転換炉が研究開発されているが、現在のところ、どれが最適か結論に達していない。

(ii)しかし、他面これらの新型転換炉のあるものについては、ここ数年のうちには、実用化の目安がつくものも出てくる可能性があり、本プロジェクトの目標達成前に、海外からの技術導入により、早期にわが国で導入できる可能性がある。

(iii)新型転換炉の開発を本報告書のごとき規模およびスケジュールで行なうとすれば、多額の、かつ、弾力性のある国家資金の投入と、海外よりの積極的な技術導入が必要であるので、本報告書に述べてある意味での自主開発の達成は、非常に困難であると思われる。

(iv)以上の3点を総合すると、次のような方策が考えられる。
(a)基本的には、ここ当分の間は今後実用可能な新型転換炉をわが国に導入する場合に備えて、近い将来、有望と思われる転換炉(複数)について、研究団体、製造業者、電気事業者の各界において、調査、基礎研究および一部材料、機器の国産化研究などを分担して行なう。

 このため国家は、必要な資金を支出する。また必要な国際協力を行なう。ただし、この際、原型炉の建設までにはいたらない。

(b)もし資金が許し、自主開発を行なうこととなるならば、新型転換炉の将来性に着目し、Near Proven型ではなく、むしろ、Near Breeder型の炉のように、比較的長期目標の炉型を、もっと息の長いスケジュールで、弾力性のある計画により行なう。
 Ⅱ ウラン濃縮問題との関連
 本報告書において述べた核燃料サイクル上の意義に関し、遠心分離法によるウラン濃縮プラントの研究開発の方が非常に容易かつ比較的安くできるという前提から、ウラン濃縮プラントを開発することにより、核燃料多様化のための新型転換炉の必要性はうすれ、高速炉に必要なプルトニウムを濃縮ウランで代替することができるので、プルトニウム生産炉としての必要性もうすくなる。

 また、核燃料の節約は高速増殖炉の実用時期を1980年頃とみれば、新型転換炉を採用して大差ないとの理由により、核燃料サイクル上の意義に述べられた所説は十分ではなく、削除すべきであるとの少数意見が出された。

 ウラン濃縮プラントの研究開発については、技術情報入取の可能性の問題もあり、別途考慮検討を要する問題である。

 もし、ウラン濃縮プラントの実現がなされるならば本報告書で述べた新型転換炉の核燃料サイクル上の意義は弱まることはあっても、その意義が失なわれることにはならないという意見が多数であった。

 なお、このほか新型転換炉の中には在来炉を上回る経済性を有するものが出る可能性はないとはいえないが、本報告で採用した重水減速型については重水インベントリーとその補給を考えれば、熱料費の多少の向上を考慮しても在来型改良炉を上回る経済性が達成される可能性は必ずしも明るいとはいいきれないとの少数意見も出た。
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