前頁 |目次 |次頁

動力炉開発懇談会高速増殖炉
ワーキング・グループ報告


 動力開発懇談会は昨年7月に「動力炉開発の進め方について」の中間結論をまとめ、以後、動力炉開発調査団による海外事情調査や2つのワーキング・グループによる作業をすすめ、それぞれの専門的立場により問題点の検討を行なってきた。高速増殖炉ワーキング・グループ(大山彰、田中直治郎氏他)は4つのサブ・グループの作業と動力炉開発調査団の報告を検討して、1月19日開催された第15回動力炉開発懇談会にその報告書を提出した。

 Ⅰ 研究開発の進め方

(1)研究開発の内容、規模およびスケジュール
わが国が高速増殖炉の研究開発を技術導入ベースでなく、自国のプロジェクトとして行なうべきことは、すでに、動力炉開発懇談会において一致した意見であったと考えるが、その目的は
i)エネルギー資源に乏しく、エネルギー需要増加の大きいわが国として、経済性および安定供給性の両面から理想的な発電設備と考えられる高速増殖炉の実用期を早め、そのもたらす大きな利益を享受したいこと。

ii)工業国の1つとしての地位を保ち、さらに延ばしていくため、米、英、ソ連、仏、西独などの諸国が国のプロジェクトとして推進している高速増殖炉の研究開発を、わが国でも取り上げ、将来の高速炉技術の国際競争時代に備えたいこと。
の2点であろう。

 最近の高速炉国際会議等における報告および動力炉開発調査団の報告から見て、諸外国における高速増殖炉開発のテンポは早められる方向にあると考えられる。

 すなわち、ソ連、英、仏、西独、米の諸国はそれぞれ1965年から1969年の間に原型炉を建設開始する計画を提示している。したがってわが国の高速増殖炉開発計画も当初考えられていたよりも、計画を早めることが必要と考えられ、研究開発に遅れてスタートしたわが国の現状を考慮した結果、10年後に原型炉の建設が完了に近づくことを開発の第一次の目標とすることが適当であると考える。

 原型炉建設の目的は、各国によって多少のニュアンスの差があるようにみられるが
i)高速炉技術開発を総合的に集約し
ii)実証炉に必要な技術的情報を得
iii)大型炉の技術的実用性をデモンストレートする
 ものである。将来の高速炉技術の焦点は
i)燃料技術(再処理を含む)
ii)冷却系技術
iii)安全技術
であり、先進各国はこれらの技術開発を行なって、それらを原型炉に集約しようとしているとみられる。

 第一次目標に対する開発の進め方については、先ず実験炉の建設を行ない、次いで原型炉の段階に移行するA案と、海外の諸設備を大幅に利用することにより実験炉の建設を行なわず、原型炉の段階に入るB案とを作成し、それぞれ利害、得失と実現の可能性につき比較検討を行なった。

 その結果
i)わが国の原子力開発の現状、とくにエンジニアリングの面において経験の乏しいこと。
ii)15年以上にわたる高速増殖炉の開発を考えた場合、適当な燃料照射設備を国内に持つことが望ましいこと。
iii)開発の初期段階においては海外における燃料照射施設の利用を推進すべきであるが、当初B案において考えられたように海外の施設を大幅にわが国が利用し得る可能性はうすらいだこと、また海外の施設のみに頼ることは研究計画にそごを来たすおそれがあること。

等よりして、早期に実験炉の建設を行なうべきであるとの結論に達した。
 実験炉の役割りとしては
i)原型炉のための技術開発に対する貢献
ii)燃料照射施設
の2つの面があり、この両者をいかに調整するかは、設計段階における作業と考えられるが、燃料照射施設として、あまりに高度の要求を行なうことは、早期建設の必要性からみてさけるべきであると考えられる。

 また、高速増殖炉の開発に関しては各国とも国際協力を行なっているが、とくに遅れて開発に着手したわが国においては、この立ち遅れを救うために実験炉の建設と並行して積極的に国際協力を行なう必要がある。

 国際協力については、研究者技術者の交流および情報の交換を行なうものと、諸外国における施設の利用や共同プロジェクト参加の2種がある。前者については、主として、基礎的研究開発の分野におけるものと考えられるので、広く先進国と協力関係を結ぶことが望ましい。

 しかし、原型炉に関する情報をこの方法により入手することは、困難であるので、原型炉の設計、建設のために十分な情報を得るためには、海外における適当なプロジェクト(エンリコ・フェルミ炉における混合酸化物燃料計画、その他)に設計の段階より参加することが必要である。

 開発のスケジュールとしては、実験炉の建設を43年度に開始し、46年度建設完了、約1ヵ年試運転の後、原型炉燃料の照射確性試験に使用する。実験炉の設計は43年半ば頃までにおおむね完了するので、43年頃に実証炉の概念設計を行ない、大型炉開発の方針を決定し,引き続き、実験炉、臨界実験装置、各種工学試験よりの情報と国際協力により得られた情報をとり入れつつ原型炉の設計を行なう。原型炉は47年度から着工し、50年度に完成を予定する。

 本計画の遂行には、プルトニウムの入手が極めて重大な関係を持つが、臨界実験装置のためのプルトニウムについては海外から購入する可能性があると考えられるので,海外から購入するものとし、実験炉燃料についても、海外からの入手にでき得る限りの努力を行なうが、もしプルトニウムの入手が不可能の場合には初期燃料には高濃縮ウランを使用するものとする。

 原型炉においては、当初より、わが国の再処理工場から生産されるプルトニウムを使用する。



 以上は、高速炉研究開発計画のうちで、現時点で本道と目される液体金属冷却型原型炉の建設までの開発計画を述べたものであるが、10年後以降の長期にわたる高速炉実用期に備えて、技術の基礎を固めるための研究、およびガス冷却、スチーム冷却高速炉の調査と研究、その他高速炉開発を支える広い分野の研究などのために、経費の20%程度を確保することが必要である。

(2)研究開発の分担および総合化の方法
 前記のごとき開発を進めるにあたっては、わが国原子力関係の技術と頭脳を動員して、これを行なうことは論をまたないが、この場合、政府関係の研究開発機関と民間産業界との協力を緊密にすることが特に重要であると考えられる。

 民間産業界が、この開発計画に参加する方法として
i)産業界が政府関係研究機関に人員を派遣し、あるいはこれら機関より試作発注を受ける。
ii)産業界への委託研究
の2つの方法がある。開発研究に関して、従来は主としてi)の方法によるものが多かったが、産業化に関する技術に関しては、産業界が主体となることが望ましいと考えられるので、i)、ii)の方法を研究課題により併用することが好ましい。委託研究の方法については委託研究受注者の決定方法、原価補償方式、研究成果の帰属と公開等につき、なお検討の要がある。

 次に基礎的研究においては、大学および政府関係研究機関の一部が、その責任を負うこととなろうが、とくに大学研究者の十分な協力を得られる方途を検討し、実施することは、長期にわたるわが国の高速炉技術の発展と、優秀な人材の確保のために重要である。

 また、各界の研究者、技術者の努力を一つの方向に集中し、開発を行なうためには、これら全体の計画を総合する中枢組織の存在が必要である。この組織の機能は
i)日本における高速増殖炉の開発に対して全責任を持ち
ii)開発全体の企画、調整(国際協力を含む)を行なう、
ことである。
 これらの問題に関しては、種々の観点よりなお検討の要があると考えられるが、プラント・サブ・グループ報告書において、やや詳しい検討を行なっているので参考とせられたい。

(3)国際協力
(イ)研究技術者の交流および情報の入手
 国際協力の一つの方式である人員の交流と国際間の協力協定による情報の入手の目的は、大きく分類して i)技術情報の入手 ii)わが国技術者の海外諸国への貢献および iii)高速炉関係の専門研究技術者の教育、養成を備えたものであると言える。

 これらの国際協力は、わが国の高速炉開発計画において有効な利用を図るため開発計画の企画、調整を図る中枢機関の下で系統的に行なわれるべきである。これらの対象となる分野については、別添のプラント・サブ・グループ報告書(省略)に詳しく述べられており、また専門研究技術者の派遣先、人員等の具体例も同じく示されている。

 研究技術者の交流が、上記の目的から比較的長時間にわたるものとなるのに対して、このほか、最新の情報や世界の研究開発の趨勢を把握するため、国際会議への参加、派遣および専門家の短期派遣を行ない、わが国の開発方針の評価、検討に資することが極めて重要である。

(ロ)研究開発の提携
 上記の国際協力の範囲が主として、基礎的研究開発を中心としたものであると考えられるが、原型炉や実証炉の設計、建設に必要な情報、知識を得るためには、海外における適当な開発計画に参加することが極めて有意義であると考えられる。
i)開発計画の提携、参加
 この具体的な例として考えられるのが、現在、その緒についたエンリコ・フェルミ炉計画における混合酸化物炉心開発計画である。この計画内容、時期、また提携、ないしは参加の可能性を備えていることなどから考えて、極力、実行するよう努力すべきである。
 さらに、FFTF建設計画や各国で計画されているプロトタイプ炉建設計画、などの動向に常に注目し、必要な情報を入手し得るようつとめる必要がある。またNa技術や安全性に関する研究開発の共同研究についても考慮すべきである。

ii)外国施設の利用
 開発計画の参加、提携や共同研究とはやや異なるが、開発の初期においては諸外国の高速炉を利用して燃料の照射を行なうことが必要であり、このためドンレイ炉、フェルミ炉、EBR-Ⅱなど既存の高速炉での燃料照射の可能性の検討を行なう。また諸外国における燃料照射計画の方針や現状、たとえばEBR-Ⅱにおける燃料照射計画などの調査も、わが国における照射計画を進めるに当たって、大いに参考となるであろう。
(ハ)わが国の寄与しうる事項
 高速炉の研究開発における国際協力において、わが国が寄与しうる分野は、わが国の高速炉開発計画が諸外国に比して遅れているため、将来のポテンシャルは別にして、現状では、限定されたものとなる。

 実際には、わが国に世界的水準の関連施設のあるもの、あるいはその能力のあるものが当面の対象となり、この点から期待されるのが、原研の高速臨界実験装置(FCA)、原燃のPu燃料開発施設、およびわが国の科学者、技術者の能力と産業界の技術水準の活用などである。

(ニ)国際協力のあり方
 この研究開発を進めて行くに当たっては、その所期の目標からして、わが国の主体性を保ちつつ進めて行くことが強く要望され、このため、これらの国際協力においてもわが国の主体性を保持しつつ、わが国の関発計画に有意義に寄与しうる国際協力を中心としたものとする必要がある。

 したがって、国際協力はいわゆるGive and Takeの精神に基づいたものでなければならず、このような基本的態度で臨まない限り、自主的な研究開発は不可能であり、あるいは十分な利益が得られないであろう。

 また、高速炉開発はそのテンポが早く、世界各国が競争して開発を進めている状態にあること、さらに世界の情勢が流動していることから、不断の情報入手にあわせて、国際協力においても、わが国の開発方針、進捗度とにらみあわせ、素早く決心し、直ちに行動に移すことが強く必要とされる。

 したがって国際協力の実施に際しては、わが国の研究開発と協調しうるよう、その時期や内容について十分な検討を行ない、わが国の研究開発遂行に最大の効果をもって織り込むことのできるよう、総合的な調整を図る体制が必要である。実際には、重複して述べることになるが、開発計画を推進する中枢機関において、これらの国際協力が、わが国の開発計画の一部として、国内の諸研究開発とを調整しつつ推進さるべきである。

 Ⅱ 研究開発に要する資金および人員

 前記の開発計画に必要な資金および人員はおおむね次の通りと考えられる。

 なお、資金の見積りにおいて、実験炉は熱出力100MW、原型炉は電気出力200MW、実証炉は電気出力1,000MWを想定している。

資 金 総 括 表(昭和41年度~50年度)


資 金 総 括 表 補 足(昭和51年度~59年度)



 Ⅲ 研究開発を進めるにあたっての問題点

 高速増殖炉の開発は、わが国の総合エネルギー問題の基本的解決のために、そしてまたわが国が一流工業国としてながく、一層の緊栄を続けてゆくために、完遂されるべきである、という認識を本報告書の開発計画は前提としている。

 諸外国における幅広い研究の蓄積、開発体制の整備、開発の進捗は、付属資料に記したごとく、また動力炉開発調査団報告にみられるごとく、極めて顕著なものである。

 これらをわが国のそれと思いあわせるならば、所期の目標を達成するためには、国をあげての格別の努力が必要である。

 広く、国内各界の力を発揚叫合して1つの開発に集約していかなければならない。そのためには、各界がそれぞれ力を尽し、長期にわたり、協力し得る総合的開発体制をつくりだすことが必要である。

人   員   総   括   表



 一方には、有効な国際協力の途を見出してゆくことが必要であるが、自主開発を進めるためには、わが国の技術水準の向上を図ることが肝要である。

 民間産業界における技術の育成に有効な措置を講ずることは当面の急務の1つであろう。

 従来、不十分であった学界の原子力開発への寄与についても対策をたてるべきである。

 開発は関連基礎研究から実証炉の運転に至る幅広くかつ長い期間にわたるものである。

 開発には一貫性が要求される。また同時に弾力性をもった運用が要求される。

 開発を進めるにあたって、個々の開発の進捗を客観的、総合的視点から分析評価し、内外の情勢に即応した方向づけを適時適切に行なってゆくことが必要である。そして、広く各界の力を長期にわたり有効に総合集約していかなければならない。

 以上の諸条件を果たしていくためには、開発の中枢機構を設け、その中枢機能が、十分果たされ得る総合開発体制を確立していくことが必要である。

 なお、本計画を進めるためには国内における燃料再処理施設の遠かな稼働を図るべきであろう。
前頁 |目次 |次頁