原子力委員会

動力炉開発調査団報報告


 原子力委員会は10月16日から約1ヵ月間にわたり動力炉開発調査団を欧米7ヵ国へ派遣したが(原子力委員会月報Vol.10、No.9参照)、去る12月16日同調査団から原子力委員会に対し報告書が提出された。以下「動力炉開発調査団報告書」の総合所見について紹介する。

動力炉開発調査団報告書

 動力炉開発調査団は海外における動力炉開発状況を調査するため、原子力委員会の決定に基づき、昭和40年10月16日から約1ヵ月間にわたり、西ドイツ、イタリア、フランス、英国、米国およびカナダの諸国ならびに関係国際機関を訪問した。
 今回の調査において、これらの国々および関係国際機関の原子力開発の本部機関の首脳者と懇談したほか、新型転換炉および高速増殖炉のグループ別に主要な動力炉研究開発施設を視察し、関係専門家と意見を交換することができた。
 調査日程は極めて限られたものであったが、訪問先機関の好意ある応待と相まって、当初の目的を達しえたものと考える。ここに調査結果ならびにこれに基づく所見をとりまとめて報告する次第であるが、わが国の動力炉開発方針の決定にあたり参考となることを期待するものである。終りに、現地在外公館その他関係各方面の方々の御配慮に対して、深く謝意を表する次第である。

      昭和40年12月

動力炉開発調査団

団長 丹羽周夫

動力炉開発調査団名簿

団長  丹羽周夫 日本原子力研究所理事長

副団長 河内武雄 中部電力(株)常務取締役

顧問  武田若一 原子力委員会委員

団員  石田泰一 原子燃料公社東海製錬所検査課長

〃   井上力  通商産業省公益事業局原子力発電課長

団員  大山彰  東京大学教授

〃   川口啓造 関西電力(株)原子力部第1課長

〃   沢井定  日本原子力研究所原子炉設計部副主任研究員

〃   島史朗 (株)日立製作所中央研究所王禅寺支所長

〃   志村吉久 日本電気(株)原子物理研究所研究主任

〃   鈴木範雄 東京電力(株)原子力発電課長

〃   妹尾三郎 三菱原子力工業(株)取締役社長

〃   武安義光 原子力局次長

〃   那須速雄 日本原子力発電(株)社長室副主査

〃   能沢正雄 日本原子力研究所原子炉設計部副主任研究員

〃   松本静夫 電源開発(株)原子力課長代理

〃   望月博治 川崎重工業(株)原子力部長

〃   山田太三郎 工業技術院電気試験所電力部長

〃   小泉益通 原子燃料公社東海製錬所燃料試験所副主任研究員(米国のみ)

随員  吉川秀夫 日本原子力研究所総務部外国課

I 総合所見

1.まえがき
 各国を訪問して最も印象深かったことは、それぞれの国の将来の動力炉について、自国における自主開発を目指して、長期的方針を確立し、しかも、その基本線を堅持しつつ、各界協力のもとに堅実に前進を続けていることであった。
 新型転換炉については1970年代に採用さるべき炉型たることを期待して訪問した総ての国が、また、高速増殖炉にらいては、1980年代前半における実用化を目標として掲げ、カナダ(新型転換炉の開発に集中している)を除く、総ての国が両炉の開発を政策としてとりあげている。

動力炉開発調査団訪問先

 これらの開発利用にあたって、各国は将来における低廉なエネルギーの供給の確保および核燃料の有効利用に重点をおくとともに、産業基礎の強化、国内技術水準の高度化等の効果をも考慮してその推進を図っているものとみられた。
 わが国としても速かに動力炉に関する長期的開発計画を樹立し、これを国策としてとりあげ、各分野の力を結集して、その推進を図る必要があるものと考える。

2.新型転換炉について
 新型転換炉については、将来における低廉なエネルギー供給源の確保および燃料利用の効率化多様化を図るため、さらに産業基盤の強化、技術水準の向上への効果を考慮した場合、わが国として開発を進めることが必要であると考える。
 新型転換炉の開発は諸外国ですでにかなり進歩している段階にあることに鑑み、わが国で自主的開発を遂行するためには、短期間にプロトタイプの段階を終えて、10年後には実証炉建設の段階に入っていることが必要であろう。
 このため、速やかに開発を進めるべき必要があるが、次の2炉型のうちからプロトタイプを建設すべき炉型を選定するものとし、

 A 重水減速沸騰軽水冷却型

 B 重水減速炭酸ガス冷却型

ただちに具体的開発計画を検討し、これに基づく国際協力についての打診を行ない、その結果と相まって方針を決定し、次の諸事項に留意して開発を進めるべきであると考える。

(i)新型転換炉の開発は国の方針としてとりあげ、これを推進する体制の整備を図って強力に推進すること。

(ii)開発期間の短縮と資金人材の節約を図るため国際協力を行なうことが適当であること。
 国際協力の方法はわが国の自主的開発のための主体性を失なわないものであることが必要であること。

(iii)メーカの技術を十分活用できる体制と方法を講ずるほか、開発計画へのユーザの協力参加が必要であること。

3.高速増殖炉について

 高速増殖炉については、将来の炉型として各国とも力を入れ、開発の速さを早やめようとしている。わが国としても高速増殖炉計画を確立して、促進する必要があるがこの際、留意すべきものとして、次の諸点を指摘したい。

(1)国策として、はっきり取り上げることが必要である。米国、英国、フランス、西ドイツはいずれも高速炉に本格的に取り組んでおり、15年ないし20年先において、これら諸国と競争しうる力を養うには、画期的な決意が必要であると痛感された。

(2)予算・人員等の規模は、今後10年に約1千儀礼数百名と推定される。各国の高速炉開発に投入しつつある資金は、現在において年間、数十億円の程度で、今後さらに大型高速炉建設のために投入資金は上昇する傾向にある。また、人員はプロフェッショナル・スタッフで数百名の現状であり、これも、今後増加の傾向にある。従ってわが国が高速炉開発に取り組むためには、数百名程度に増加させる必要がある。

(3)燃料政策と一貫性がなければならない。とくに初期段階における開発用プルトニウムの確保は重要である。それには

i)外国より導入する。

ii)わが国の再処理計画を予定通り行なう。

の2つの道を共に並行して推進する必要がある。

(4)研究と開発と二本立の計画が必要である。

 所要経費の内で、20%前後を研究のために確保し、技術の基礎を固め、将来の飛躍に備えることが重要で、残途は目標実現のために集中する必要がある。

(5)国際協力は、積極的に、また、速断速決の必要がある。
 高速炉開発における国際協力は、各国の間に複雑多岐にひろがっており、かつ非常なスピードで変容している。
 多数国の協力もあるし、二国政府間のもの、政府管理下の機関同志のもの、国際機関と一国政府、国際機関と民間事業体、政府関係機関と民間など様々のものがある。
 国際協力といっても、大別して2種類あり、1つは人材および情報交流を行なうもので、他の1つは、外国施設の利用および資金と人材を持ちよって行なう共同プロジェクトである。
 前者については、日本原子力研究所−UKAEAの協定が進んでいるが、このような形のものは、なるべく広く各国または国際機関との間で推進させる必要がある。その目的は

 i)技術情報の入手

 ii)わが国技術者の貢献

 iii)高速炉関係専門家の教育

である。技術技術情報の入手に対しては、人材交流のほかに、最新情報を得るため

 i)高速炉国際会議への派遣

 ii)専門家の短期派遣

を自由に実施することは、要する費用に対して得られる利益が大きいと考える。
 第2の国際協力については、世界の情勢が流動しているので不断の情報入手と早く決心し行動することが必要である。

(6)将来の国際競争となる技術開発分野は次の三分野であろう。

 i)高速炉用燃料技術(燃料製造および再処理)

 ii)冷却系技術

 iii)安全技術

(7)高速炉は、約10年後にプロトタイプ炉を建設することを目標とし、その準備段階として、実験炉建設、国際協力、大型モックアップ試験などを考慮すべきであろう。
 前項の技術開発のための手段として、米国、英国、フランスにおいては、すでに実験炉を建設しおわり、または、建設中であり、1〜4年後には、米国、英国、西ドイツ、フランスにおいてプロトタイプ炉の建設がはじまろうとしている。
 出発点の遅れているがわが国としては非常に遅れることなく、プロトタイプ炉を建設することを目標としたい。それには遅くとも昭和40年代にプロトタイプの建設が完成に近いことが必要であろう。他方では、元来プロトタイプ炉とは、さらに次のステップである実証炉の前段階で、実証炉建設のための技術的情報を得るためのものであるが、英国をのぞく3国では、まだプロトタイプ炉概念は確定しておらず、ましてわが国では、その設計を直ちにおこなうことは困難であり、少なくとも数年の準備が必要と予想される。
 このための準備としては、

i)わが国に実験炉を早期に建設する。

ii)国際協力

iii)冷却系技術や安全技術をそれぞれ大形モックアップにより開発する。

などの手段があり、これらの3つをうまく組合わせることによって達成するのがよいと考えられる。

実験炉建設は、

 i)プロトタイプ炉のための技術開発に対する貴献

 ii)運転後は、燃料照射施設として利用しうる。

 ただし、実験炉の運転経験によって得られる情報をまって、はじめてプロトタイプ炉の設計を行なうことは、タイム・スケジュール上不可能であるから、できる限りの国際協力を行なうことと並行させねばならない。

(8)国の総力を結集させる必要がある。

 i)産業界の頭脳と技術を積極的に参加させるための施策をほどこす必要がある。

 ii)計画、評価、コーディネーションのための機関を直ちに発足させる必要がある。

II 調査結果(省略)