放射線審議会の動き



 I 放射線審議会に対する諮問

 放射線障害の防止に関する技術的基準の改正について、科学技術庁長官から放射線審議会会長あて下記の諮問がなされた。


40原第3891号
昭和40年11月5日

放射線審議会会長 殿

科学技術庁長官

 放射線障害の防止に関する技術的基準の改正について(諮問)

 放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律施行令(昭和35年政令第259号)、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律施行規則(昭和35年総理府令第56号)および放射線を放出する同位元素の数量等を定める件(昭和35年科学技術庁告示第22号)の一部を改正するに際し、放射線障害防止の技術的基準に関する法律(昭和35年法律第162号)第6条の規定に基づき、放射線障害の防止に関する技術的基準を別紙のとおり改めることについて諮問する。

〔別紙〕

 放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律施行令改正案要綱(内容省略)

 放射性同位元素による放射線障害の防止に関する法律施行規則改正案要綱(内容省略)

 放射線を放出する同位元素の数量等を定める告示改正案要綱(内容省略)

 II 第19回放射線審議会総会

 第19回放射線審議会総会は、昭和40年11月10日、東洋陶器(株)第1会議室において開催されたが、議題および議事概要は、次のとおりである。

1 議題

(1)基本部会の報告について
(2)放射性物質航空輸送特別部会の報告について
(3)放射性物質航空輸送の基準等について(答申)
(4)総括部会の報告について
(5)放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律施行令、施行規則および放射線を放出する同位元素の数量等を定める件の一部改正について(諮問)
(6)その他

2 議事概要

(1)基本部会の報告について
 昭和40年3月17日の第16回放射線審議会総会において基本部会に審議が付託された「放射線防護施設の基準を審議するに当っての基本的考え方について」に関する審議結果が田島部会長から報告され、別項に示す考え方を同審議会の基本的考え方とする旨決定された。

(2)放射性物質航空輸送特別部会の報告について
 運輸大臣から諮問があった「放射性物質の航空輸送基準等について」に関する審議結果が山崎部会長代理から報告された。

(3)放射性物質の航空輸送基準等について(答申)
 放射性物質航空輸送特別部会の報告に基づき審議した結果、別項に示すとおり運輸大臣に答申する旨決定された。

(4)総括部会の報告について
 本総会に先立って開催された総括部会の審議結果について事務局から報告が行なわれた。

(5)放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律施行令、施行規則および放射線を放出する同位元素の数量等を定める件の一部改正について
 科学技術庁長官から諮問があった「放射線障害の防止に関する技術的基準の改正について」については、アイソトープ部会に審議を付託する旨決定された。
 なお、本件を審議するアイソトープ部会の構成は、次のとおりである。

 放射線審議会アイソトープ部会の構成

1.委員

 山崎 文男 理化学研究所主任研究員
 田島 英三 立教大学教授
 塚本 憲甫 科学技術庁放射線医学総合研究所長
 檜山 義夫 東京大学教授
 斎藤 信房 東京大学教授
 勝沼 晴雄 東京大学教授
 西脇  安  東京工業大学教授
 平賀 謙一 建設省建築研究所長
 牧野 直文 日本原子力研究所保健物理安全管理部長

2.専門委員
 藤井 正一 建設省建築研究所第2研究部長
 浜田 達二 理化学研究所副主任研究員
 守屋 忠雄 自治省消防庁消防研究所第1研究部ラジオアイソトープ室長
 村上悠紀雄 日本原子力研究所主任研究員RI研修所次長
 宮永 一郎 日本原子力研究所安全管理室長
 伊沢 正実 科学技術庁放射線医学総合研究所化学研究部長
 吉沢 康雄 東京大学助教授

III 基本部会の報告「放射線防護施設の基準を審議するに当っての基本的考え方について」

1 緒言
 放射線防護については、国際放射線防護委員会(以下「ICRP」という。)が1928年創立されて以来、数回にわたって勧告が行なわれてきた。この勧告は放射線防護に関する基本原則を示したものであり、これまでわが国およびその他各国において十分尊重されてきた。
 わが国では種々の分野において放射線防護施設の基準が定められてきており、今後これらの基準について十分に斉一をはかるために放射線審議会は、昭和40年3月17日に開催された第16回総会において「個人の被曝線量の許容される値または限度の値を確保するため防護施設の基準を審議するに当っての基本的考え方について」に関する審議を本部会に付託する旨決定した。
 本部会においてはこの主旨に基づき、職業人が作業する場所および放射線関係事業所外の区域に対して放射線防護施設はいかなる能力をもつべきかという点を主として検討し、ICRP勧告に示されている基本原則に基づき放射線防護施設の基準を設ける場合においては、放射線障害から国民を保護するとともに原子力開発(放射線の利用を含む。)の健全な促進を図ることを基本的な考え方とした。

2 ICRPの基本的考え方とその適用に当って

(1)放射線による被曝は被曝した個人およびその子孫に現われる障害をもたらしうるものである。これらはそれぞれ身体的障害および遺伝的障害と呼ばれている。放射線防護の目的は身体的障害を防止し、または最小にとどめるとともに、その集団の遺伝的素質の劣化を最小にとどめることである。ICRPが勧告した最大許容線量は最大の値であることが強調されており、ICRPは不必要な被曝はすべて避けるよう勧告している。

(2)放射線防護の立場から考えて、ICRPの放射線障害に関する基本的な考え方は、線量−効果関係に、しきい値が存在するという積極的な証拠がない限り、放射線の被曝は、たとえ少量でもそれ相当の身体的または遺伝的障害を惹き起す可能性があるという考え方に立っている。

(3)放射線防護は、放射線を使用することによって得られる利益と放射線の被曝により受ける個人の負担および社会の負担との釣合の上に人に対する被曝を容認される程度に抑えるように計画実施されるべきものである。
 しかし実際にはこの利益と負担とに対する定量的な評価は困難であるので、この釣合が適切であるかどうかは責任ある機関の判断によって決められなければならない。

(4)ICRPが勧告した種々の最大許容線量は、一つには放射線の生物学的作用の科学的知識を基とし、他方では原子力の開発によって得られる効用の知識を基として適当と判断した結果に基づくものである。従ってその根底にある思想は、原子力の開発によって得られる効用をあまり削減することなしに、更に人の被曝を少なくすることができる場合には、そのような取扱いがなされることを期待しているものと思われる。

(5)ICRP勧告は、放射線防護の基本的原則を取り扱ったものであり、その具体的な規制については、各国の責任において定めるのが適当であると思われる。

(6)この考え方の対象とする放射線関係施設は、原子炉施設、使用済燃料の再処理施設からアイソトープ使用施設、X線使用施設等多岐にわたっている。放射線管理は、これらの施設の性格に応じて行なわれるものであるから、施設の基準を考えるにあたっては管理の状況には差異があることに十分注意を払う必要がある。

(7)わが国としてはICRP勧告を諸法規に探り入れるに当って、わが国の原子力開発の健全な促進とその他の国情を考慮し、且つ国際的視野に立って、責任ある機関による放射線の危険と利益との釣合に対する判断が行なわれなければならない点に特に注意を払わなければならない。

3 管理区域内の職業人(Aカテゴリー)の作業する場所について

(1)職業人(Aカテゴリー)の最大許容線量を超えないようにするためには放射線防護施設の能力と放射線管理の二つの要素を合理的に組合せて行なうよう考慮されなければならない。

(2)職業人(Aカテゴリー)の被曝線量に関して最大許容総線量はD=5(N−18)レムで定められ、一方、いずれのひき続いた3ヵ月においても3レム(妊娠可能な女子においては1.3レム)を超えない率で線量を蓄積することができる。個人の最大許容年線量は、被曝歴によって5〜12レムの間にあるけれども、施設の計画においては、原則的には全ての職業人に5レム以上の年間蓄積を生じないようにするのが適切である。

(3)従って放射線防護施設は、放射線管理の状況を考え合わせて職業人(Aカテゴリー)が年5レムを超えて被曝しないような能力を有していなければならない。
 放射線防護施設は、この5レム/年を超えない適当な期間に比例的に割当てた限度を用いて計画しなければならない。その期間を比較的長い期間例えば年とするか、比較的短い期間例えば週とするかについては、施設の性格、人の被曝管理を含めた放射線管理の状況を考慮して判断するものとする。
 施設の稼働時間、人の滞留時間等を予め計画、管理し難いような場合には、比較的短い期間例えば週をとることが適切であろうし、稼働時間および人の滞留時間の時間的変動を考えて作業を行なわなければならないような場合には、それに見合う放射線管理運転管理等を行ない、比較的長い期間例えば年をとることができる。

(4)B(b)カテゴリーの人は、管理区域の中にときどき立ち入るから、管理区域内においては放射線防護施設だけではB(b)カテゴリーの人に対して勧告された年間の最大許容線量1.5レムを超すおそれがある。したがって個人の被曝管理を通じてこの値を超えないよう適切な管理を行なう必要がある。

(5)管理区域の外の人々は、個人の被曝管理が行なわれていないのが通例であるから、その人々の被曝を定められた限度をこえないようにするため、管理区域の境界については、第4節の(3)と(6)に準じて考えるものとする。

4 放射線関係事業所外の区域について

(1)一般人(B(C)カテゴリーおよびCカテゴリー)は、各種の放射線源から発生する放射線に被曝する可能性をもっている。そしてこれらの人々は、各個人ごとに被曝管理をうけていないので各人がどれだけの線量を受けたかを知ることは困難である。したがって放射線防護施設の能力ならびに事業所外のモニタリングおよび防護施設の適切な運転管理を通じて一般人の被曝が最大許容線量を超えないようにするよう考慮されなければならない。

(2)放射線防護施設の計画にあたっては、その施設は対象となる一般人のうち最も被曝の多いと予想される人々についてどの個人もいかなる過度の被曝を受けないように、その場所の一般人の被曝が最大許容線量0.5レム/年を超えないような能力を有していなければならない。しかし観察されたサンプルの中の人々と習性の非常に違った人々がサンプル中の最高の値よりもっと高い線量を受ける可能性は全くないとはいえない。このような個人があらわれる頻度は零ではないにしても極めて小さいであろう。また0.5レム/年を若干超えたとしてもその個人に影響を及ぼすことはほとんどないものと考えられる。

(3)放射線防護施設は、0.5レム/年を超えない適当な期間に比例的に割当てた限度を用いて計画しなければならない。その期間を比較的長い期間例えば年とするか、比較的短い期間例えば週とするかについては、施設の性格、放射線管理の態様、周辺の状況等を考慮して判断するものとする。
 一般に施設の運転管理、施設外のモニタリング等が十分に計画且つ実施され、上記の限度を確保し得ると認められる場合には、上記の期間として比較的長い期間例えば年を用い、然らざる場合には比較的短い期間例えば週を用いるものとする。
 ただし、比較的長い期間を用いることができる場合にあっても、短い期間を用いても実際上支障がない場合には、短い期間を用いる方が被曝を少なくするうえで望ましい。

(4)いくつかの事業所の影響が重なることが考えられる場所について1年につき0.5レムを超えて被曝することがないよう関係事業所間の調整を行なうことが必要である。

(5)放射線防護施設の設計に当っては、施設の計画に当って考慮した諸条件の変更が将来予想される場合には、その点について考慮しておく必要がある。

(6)なお、一時使用等で短期間だけしか放射線源が使用されない場合であって、第4節に述べた考え方を適用するのが実際上困難なときには、事情に応じて適切な判断のもとに事業所外の人の被曝をできるだけ少なくするよう作業の計画をたてる必要がある。
 なお、終りにあたって、次の点に配慮する必要がある。

(1)体内被曝と体外披曝の複合については、今後、更に十分検討する必要があろう。

(2)1つの施設に適用される基準については、今後、この基本的な考え方に従って斉一を図るよう特に配慮する必要があろう。

(注)本文にいうA.B.C等のカテゴリーの記号は、1958年ICRP勧告によったものであって次のとおりである。

A:職業上被曝する個人

B(a):管理区域の近隣で働くが、放射線に被曝するような仕事には従事していない成人

B(b):その職務上ときどき管理区域に立ち入るが放射線従業員とはみなされない成人

B(c):管理区域の周辺に住む一般人

C:集団全般

 IV 放射性物質の航空輸送基準等について(答申)

40放審議第52号
昭和40年11月10日

運輸大臣 中村寅太殿

放射線審議会会長 木村健二郎

放射性物質の航空輸送基準等について(答申)

 昭和39年10月12日付空航第630号をもって、本審議会に諮問のあった標記については、放射性物質航空輸送特別部会を設け、審議を重ねてきたが、昭和40年11月10日に開催された第19回総会において下記のとおり結論を得たので答申する。


放射性物質の航空輸送については、貴省基準のとおりで差支えないものと考える。

V 放射線審議会部会の議事概要

総括部会

第1回

〔日時〕昭和40年11月10日(水)13:00〜14:00

〔議題〕

1 科学技術庁長官から諮問があった「放射線障害の防止に関する技術的基準の改正について」の取り扱いについて

2 その他

〔議事概要〕

1 科学技術庁長官から諮問があった「放射線障害の防止に関する技術的基準の改正について」については、アイソトープ部会に審議を付託することとし、この旨総会に諮ることとなった。

2 放射線障害の防止に関する技術的基準全般に関して同審議会委員の意見を聞くこととなった。

アイソトープ部会

第1回

〔日時〕昭和40年11月18日(木)13:30〜17:00

〔議題〕

1 放射線障害の防止に関する技術的基準の改正について

2 その他

〔議事概要〕

 科学技術庁長官から諮問のあった放射線障害の防止に関する技術的基準のうち、法律施行令改正案要綱に関して検討が行なわれ、次の事項について引き続き審議を行なうことになった。

(1)使用施設および廃棄施設の耐火性能のあり方について
(2)使用室のインターロックについて
(3)使用施設および廃棄施設の出入口が1箇所であることについて
(4)汚染検査室のあり方について
(5)その他

VI 放射線審議会アイソトープ部会の専門委員の追加について

 去る8月17日付発令による放射線審議会の下記専門委員が、11月10日放射線審議会総会において科学技術庁長官から諮問のあった「放射線障害の防止に関する技術的基準の改正について」の審議のためアイソトープ部会の専門委員として追加された。


 板倉 哲郎 日本原子力発電株式会社技術部