昭和40年度放射線医学総合研究所業務計画


第I章 基本方針

第1節 機構整備

 本研究所は、設立以来、放射線の人体に与える障害の解明を第1の目標とし、あわせて放射線の医学的利用の開発のため、関連する諸科学を網羅する総合的研究体制の確立につとめ、諸般の整備を推進してきた。昭和40年度は、臨床研究部の2研究室を分離して、あらたに障害臨床研究部を設置し、ここにようやく放射線障害に関する研究組織が、基礎的分野から臨床的分野にわたり、ほぼ確立することとなった。
 また、技術部においては、動植物管理課を新設し、研究用動植物の供給、管理等の業務を期し、これにより、技術サービスにおいて不十分であった面を体系的に整備する。
 放射線に関する技術者の養成訓練業務は、本研究所の重要な任務の1つであるが、新たにRI基礎医学短期課程を開設し、すでに完成した養成訓練棟において各種の短期課程を年間6回行ない得る状況となった。今後は課程の検討と課程内容の一層の充実をはかる。
 さらに、病院部検査課長を新設し、本研究所病院として、一般と異なる多種類にわたる試料検査に必要な体制の整備をはかる。これにより今後臨床検査機能の十分な発揮が期待できるようになった。
 以上により、本年度は、本研究所の整備に関し、施設、人員、その他、今後に期待すべき問題を残しているが、ほぼ一段階を画することとなった。

第2節 予算構成

 本研究所の昭和40年度予算は、総額525,823千円で前年度518,730千円に比し7,093千円の増額となっているが、このうち、事業経費である特別経費は279,766千円であり、前年度307,091千円に比して27,325千円の減額となっている。この減額は、経常研究費における試験研究用備品費および病院部門、養成訓練部門、東海支所等の運営費における備品費ならびに施設整備費等の減額によるものである。この反面、研究員当積算庁費の増額および技術部門における大型加速器等についての特定装置運営費の新規計上等がある。全体としてはいちじるしい平年度化の傾向を示しており、予算的には本研究所は、建設期から本格的な研究を行なう段階に移行しつつあることを示している。現在までに整備した多種類の近代的施設、機器等に比して、研究員当積算庁費の額は不十分であり、均衝を失している。したがって、本研究所がその研究業務を一層円滑に遂行し、与えられた使命を果たすためには、このような研究所運営の基本となるべき経費のより一層の増額をはかることが重要である。
 また、本年度の予算に経費の規模はともかく特別研究費、外来研究員費等に重点が向けられたことは、これらの研究から生れる規模の大きい研究を本研究所に期待しているものとして、本年度の業務および将来の計画について考慮すべき問題である。以上のほか、放射能調査研究費として21,584千円を計上した。なお、本年度の科目別予算の概要は、別表のとおりである。

第3節 重点計画

 本研究所は、調査研究の実施に関し、つねに基礎的研究を十分行ない得るよう整備を推進し、いまや各分野の基礎的研究は逐年量質ともに向上してきている。しかし、他方、研究所の各分野の総合性を発揚することが学問的にも社会的にも本研究所に期待されているところであるが、従来、このためにとった措置が必ずしも十分な成果を収め得なかったことも事実である。
 本年度は、すでに本研究所における大規模な施設は特殊なものを除き、整備されつつある現状にあり、また、組織においても放射線障害の研究体制が漸次確立されてきた。また技術部、養成訓練部、病院部等各部門においても基本的整備をほぼ終了し、業務体系を確立し得る状況となった。以上のような背景のもとで、本年度は本研究所が従来各研究部の主体性のもとで行なっている基礎的研究を推進するとともに総合研究体制の実をあげ得るよう措置する必要がある。
 しかし、また、ここにいたる整備の過程で当初予想し得なかった事態やその後の内外の事情の変化によるあらたな発展もあり、部分的に歪みを生じている情況も、この際考慮に入れる必要がある。
 したがって本年度は計画の重点を明確にし、全体として強力な重点的施策を推進することとした。この方針のもとに本年度の重点計画は下記の事項とする。

1.本研究所の特色とする総合性の発揚に関し、本年度からあらたな構想のもとに特別研究を設定し、その実施体制の確立をはかり、これを強力に推進する。なお、本年度における特別研究は、「プルトニウムによる内部被曝に関する調査研究」および「緊急時対策に関する調査研究」の2課題とする。

2.経常研究においては、各研究部の担当するそれぞれの分野において主体性と特色を明確にし、基礎的研究をさらに推進する。

3.施設等の整備に関しては、既設の施設および機器等の保守運用に重点をおき、調査研究における効果的活用をはかり得るよう措置する。なお、現在にいたるまでの過程に生じた組織、人員、施設等における歪み是正、特に研究棟に関しては、本年度においてこれを完全に実施することは困難なので、将来の問題として考慮する。

第II章 研究

第1節 研究体制

 本年度から本研究所における調査研究を「特別研究」と「経常研究」とに分けて実施する。
 特別研究は、研究所の総合性を発揚して行なう研究であって、特に大規模に行なう必要のあるもの、早急に解決が望まれるもの、または重点的に推進すべきもの等の性格を有し、各研究部が協力して行ない、これにより本研究所の特色を発揮することが期待される研究である。このような研究を効果的に実施するため、特にその基本的体制を検討した結果、課題の選定、研究の実施、成果の評価等を全所的な立場から行なうためには、所内研究者の多数意見を反映し、調整することが必要である。このため、本研究所では、特別研究の効果的な運営をはかることを目的として、所内に「研究会議」を設置し、その推進体制を確立する。
 一方、経常研究は各研究部の特色を生かし、自主性において行なわれるべき研究であって、研究者の独創性を尊重するとともに、研究者は研究所の目的から逸脱しないようつとめるべきであり、研究所のベースの研究としての重要性を有する。従来も、各研究部の課題相互の関連性を明らかにし、これらを研究所の設定する研究目標のもとに統轄してきた。本年度はさらに各研究部の主体性を明確にし、各分野における問題点を追求することを重視し、総合研究体制の基礎としてこれらの経常研究をより一層強化することとした。以上により特別研究に関しては、従来のプロジェクト研究の制度を廃し、「研究会議」の設置にともなうあらたな体制のもとに、「プルトニウムによる内部被曝に関する調査研究」および「緊急時対策に関する調査研究」をそれぞれ実施する。また、経常研究に関しては、各研究部の主体性のもとに実施し、それぞれの分野において高度の学問的水準を保持するよう努力する。
 なお、特別研究に関して、本年度は外来研究員費の増額をみたので、所外研究者との協力について、その一層有効な活用をはかる。
 以下に、各節ごとに特別研究、経常研究および放射能調査ならびに外来研究員に関し、概要を述べる。

第2節 特別研究

 特別研究に必要な経費として、試験研究用備品費16,590千円、消耗器材費2,978千円、総額19,568千円(ほかに諸謝金14千円)を計上する。
 各課題の概要は、以下のとおりである。

2−1 プルトニウムによる内部被曝に関する調査研究
 原子力産業の発展にともない、放射性核種、ことにアルファ線放射体による内部被曝の影響の評価および障害の防護は、ますます重要かつ緊急の課題となりつつある。このうち、プルトニウムによる内部被曝の問題は、わが国の核燃料処理計画の進行状況にかんがみとくに重要である。すなわち、プルトニウムの人体内に沈着する経路、沈着後における人体内部被曝による障害等検討すべき問題が山積しているが、わが国においてはこの種の研究は皆無に近く、本研究所として、これらの問題に早急に取り組む必要がある。
 したがって、本研究所では、適切な研究グループを組織し、本調査研究を特別研究として強力に実施することとする。
 本調査研究は、プルトニウム取り扱い作業の実施にともなって起こり得ると予想されるプルトニウムによる放射線障害の危険の防止上緊急を要する技術的問題の検討を短期目標とし、プルトニウムによる人体障害の問題の検討を長期目標とする。すなわち、前者については、外傷部の汚染の検出および除去、肺の負荷量測定、尿分析等を行なう。また、後者については、プルトニウムの主たる生体内侵入経路である吸入被曝の実験的解明、沈着後における種々の障害発現の検討等を行なう。
 なお、本調査研究の年次計画、最終目標等に関しては、研究会議において詳細に検討する。

2−2 緊急時対策に関する調査研究
 本調査研究は、原子炉事故あるいは放射性物質取り扱い時の事故に備えて、その対策に関する基礎的な調査研究を行なうとともに、緊急時にとるべき具体的方策のマニュアル作成に寄与することを目的とする。本調査研究は、昭和38年度から関連する研究部が協力しプロジェクト研究として行なってきたが、引き続き特別研究として実施する。
 本年度は、前年度に引き続き、急性放射線障害の予防および治療に関する研究ならびに被曝線量推定に関する調査研究を行なう。すなわち、内部被曝による障害の予防に関しては、放射性ヨウ素の甲状腺および全身に対する負荷を軽減するために、無機ヨウ素、その他諸種薬物投与の効果を検討したが、本年度は特に、姙婦および乳幼児への対策を検討する。また、外部被曝による障害の予防としては、前年度において合成した2ATおよびGEDの誘導体の効力を検定する。さらに、本年度は、治療薬として、白血球減少に対する臓器成分の治療効果を検討する。
 一方、被曝線量の推定に関しては、中性子により放射化された血中ナトリウムおよび毛髪中の硫黄の分析により、中性子線量の推定を行なったが、本年度は全身測定による中性子線量の推定を行なう。また、熱ルミネッセンス法によって、ガンマ線量の推定研究を実施する。なお、本調査研究は、本年度中に一応の結論に到達する予定である。

第3節 経常研究

 本年度は、経常研究に必要な経費として、研究員当積算庁費81,600千円、試験研究用備品費42,000千円(うち国庫債務負担行為現金化分19,440千円)をそれぞれ計上する。
 経常研究に関する各研究部の本年度における方針および計画の大要は以下のとおりである。

3−1 物理研究部
 本研究部は、放射線の障害防止および医学的応用に関して適切な計量と防護方法の基礎的技術の開発を行ない、放射線の人体に対する作用機構を解明するため、人体組織に関する吸収線量の算定に必要な基礎資料を得ることを目的としている。
 従来から、生体内放射能測定法、放射線が人体組織に吸収される場合のエネルギー転換過程の物理学的解明、高エネルギー放射線の遮蔽方法等に関し、研究を行なってきたが、本年度はこれらを継続し、とくにバンデグラフ(3MeV)、ベータトロン(31MeV)、リニアック(6MeV)等の加速器を用い中性子、高エネルギーエックス線、ベータ線に関する研究を推進する。そのほか医用原子炉に関する調査も継続して行なう。

3−2 化学研究部
 本研究部は、放射線の生物に対する作用機構を物理化学的、生化学的に追究し、分子レベルでこれらの機構を解明するとともに、放射線障害の評価を行なうための基礎的研究として放射性物質等の分析方法、とくに応用可能な各種の方法を開発することを目的としている。
本年度は前年度に引き続き、細胞、細胞を構成している核酸、蛋白質等の重要物質、および抗体生産にあずかる系に対する放射線の作用を解明するため、電離放射線の作用のみならず、種々の波長の紫外線、可視光線、化学試薬等の作用を研究し、比較検討を行なう。また、分析関係では、重要な放射性核種および安定元素の分析、分離の機構を理論的に追究するほか、人体臓器中に含まれる微量元素の発光分光分析法による定量を行なう。

3−3 生物研究部
 本研究部は、生体に対する放射線障害発現の機構を、細胞、組織、器官、個体等生体構成要素の種々のレベルにおいて、初期効果から生物学的最終効果にいたる各過程にわたり生物学的に解明することを目的としている。
 本年度は、生物個体レベルでの放射線障害発現を支配する内分泌学的要因と温度条件を解析するため、魚類を材料として広範な実験を継続するが、特に低線量での晩発性障害の発現が生体内外の条件によって左右されるか否かを検討する。また、細胞およびこれを構成する微細構造のレベルで、放射線障害発現の生物物理学的および生物化学的追究を行なうとともに、あらたに癌細胞に対する中性子の影響研究を予備的に行なう。さらに、各種の材料を用い、生理に対する放射線照射の初期段階の変化を解明する。とくに生体の調節機構と生体構造膜に対する放射線の影響に着目し、生体による放射線の直接受容に関する研究を開始する。

3−4 遺伝研究部
 本研究部は、放射線による突然変異誘発機構の解明および放射線の生物(人類)集団に対する影響の評価を行なうことを目的とする。
 本年度は前年度に引き続き、ショウジョウバエ、蚕、微生物等を用い、放射線誘発突然変異率を変化させる要因を明らかにするため、線質による差、生殖細胞発育段階による差、化学物質の影響等を研究する。これと並行して、動物および人類培養細胞を用いて放射線による染色体異常誘発と線量との関係、染色体異常誘発機構および誘発率を左右する要因を調査し、突然変異誘発との場合と比較し、検討する。
 一方、人類集団に対する放射線の影響評価のため、集団中における突然変異遺伝子の時間的消長を理論的に追究すると同時に、ショウジョウバエを用い、突然変異遺伝子の集団中での時間的消長を実験的に調査し、理論の当否を検討する。

3−5 生理病理研究部
 本研究部は、病院を場とする臨床活動と医学的な基礎研究との両面をそなえており、その構成は生理学と病理学の2部門からなっている。
 生理部門は、主として基礎医学における内分泌系の変動を放射線障害の面から追究しているが、本年度は前年度に引き続き、内分泌系におけるステロイド・ホルモン生産能に及ぼす放射線の影響を追究する。
 病理部門においては、まず急性放射線障害をとりあげ、すでに開発した腎血液循環計測装置により循環器障害の病理学的研究を行なうほか、同調培養法によって細胞レベルの急性放射線障害およびその回復機構を究明する。また、慢性放射線障害の研究としては、組織培養細胞に放射線を照射し、細胞の癌化をおこしうるかどうかを検索する。また、哺乳動物の造血臓器障害について、電子顕微鏡学的検索を行なうほか、放射線治療中の腫瘍患者の臨床材料の病理学的電子顕微鏡学的研究を行なう。

3−6 障害基礎研究部
 本研究部は、放射線の人体に対する障害、許容量、障害予防等に関する調査研究を行ない、障害予防の学問的資料を得ることを目的としており、このため、放射線による身体的障害の軽減および評価に関する基礎的研究を実施している。
 本年度は、まず放射線障害の軽減に関するものとして、生化学的観点から脂質の生体内における重要性に着目して、放射線照射による燐脂質の変化の影響、障害発現過程における脂質過酸化物の役割、抗酸化物質の作用機序等を検討し、また機能的観点から、個体による放射線感受性の差異と生理学的差異との関連性の解明、中枢神経系における放射線の影響の電気生理学的研究を行ない、さらに内部被曝による全身的影響の観点から同一個体につき代謝機能の変化を追究する。
 一方、放射線障害の評価に関するものとして、実用的見地からの「障害の模型化」を目的として、混合被曝における各被曝器官相互の関連性の表現化を試みるとともに、その裏付実験を行ない、また放射線比較実験動物学的観点から、動物実験の結果を人類に外挿する際の適用性について検討を行なう。

3−7 薬学研究部
 本研究部は、放射線障害の予防薬、治療薬の合成およびその生物学的試験法の開発および内分泌腺の放射線障害に関する生化学的解明等を主眼として研究を行なっている。
 すでに放射線障害予防薬として、数種の基本物質およびその誘導体化合物の合成を行なったが、本年度は、さらに非対称のジサルファイド系化合物および硫黄を含まないインドール型化合物等あたらしい物質の合成を行ない、防護剤としての効果を検討するとともに、これら化合物の水溶液での安定性、その他物理化学的測定を行なう。これと関連して、放射線障害の予防剤、治療剤の生物学的効力検定の標準的方法を確立し、有効な薬剤の開発につとめる。
 また、前年度に引き続き、ホルモンの影響下にある生殖腺系の放射線障害を生化学的に解明し、その治療法に関する研究の基礎を確立する。

3−8 環境衛生研究部
 本研究部は、生活環境および職業環境における放射線の影響、ならびに放射性核種の自然環境における動向を主眼として研究を行なっている。
 従来、放射性降下物中、重要核種からの放射線による被曝を究明するため、環境における核種の動向、生物体内での代謝、線量の測定等を行なってきたが、本年度はあらたに原子力開発の進展にともなって増大すると考えられる放射線影響の問題に対処するため、これらに関する基礎的調査研究を本研究部の主要研究として計画に加える。すなわち、従来の自然放射線の国民線量への寄与、放射性降下物中の長期効果に関係のある核種等に関する研究のほか、原子炉および使用済核燃料処理工程における放射性排出物等中の主要核種の環境における挙動に関する調査研究を行なう。さらに核燃料等アルファ線放射体の影響について、職業人を対象として調査を行なう。

3−9 環境汚染研究部
 本研究部は、放射性物質による環境の汚染水準に関する調査研究を主眼とし、本庁の放射能調査業務と密接な関連を保ちつつ放射性降下物、放射性廃棄物、原子力事故時に飛散する放射性物質等が国民に与える影響を把握するため、大気、土壌、河川、湖沼、海洋等一般環境に放出された放射性物質の人体への還元について、地球化学的調査研究を行なっている。
 本年度は、土壌、淡水系における放射性核種の移動、放射性核種による食品の汚染、および環境汚染と人体組織の汚染との相関を追究する。
 また、環境汚染評価に必要な指標の設定ならびに汚染の除去に関する研究を行なう。

3−10 臨床研究部
 本研究部は、ラジオアイソトープによる疾病の診断および治療、ならびに放射線、とくに高エネルギー放射線による悪性腫瘍の治療に関する調査研究を目的としている。
 本年度は、診断関係として、前年度に引き続きラジオアイソトープによる血液循環器疾患等の診断、ヒューマン・カウンターによるカリウム代謝等の研究のほか、とくに甲状腺疾患の診断、ヨウ素−131の投与後におこる機能低下症発現機序に関する研究を行なう。
 治療関係では、各種のフィルターによる腫瘍内の適正線量分布に関する研究を継続し、悪性腫瘍の治療効果の改善を目指す一方、高線量率の変化が生物あるいは実験的腫瘍に与える影響について検討する。

3−11 障害臨床研究部
 本研究部は、臨床研究部の一部を独立して本年度あらたに設置したもので、人体の放射線障害に対する診断および治療に関する調査研究を目的としている。
 このため、ビキニ被災者、トロトラスト被投与者、ラジウムダイアルペインター等種々の放射線源からの被曝者について、臨床的観察ならびに検索を行ない、また採取した臨床材料について諸種の方法により精密な研究を積み重ね、放射線による身体的障害の発現機序の解明、さらに障害の治療法の開発に資するものとする。
 本年度は、放射線被曝の影響の細胞形態学的研究および生化学的研究を行なうが、とくに、放射線による晩発効果の一つである白血病の誘発機構を究明し、また、骨髄移植に関する基礎的研究を開始する。

第4節 放射能調査

 放射能調査研究は、本研究所においても従来から積極的に参加し、関係機関と協力してその一部を分担してきたが、本年度も従来からの調査研究を継続する。
 本年度は、放射能調査研究費として、21,584千円を計上し、放射能レベル調査、被曝線量調査および放射能データセンター業務の3項について、それぞれ以下のとおり実施する。

4−1 放射能レベル調査
 前年度に引き続き、全国の放射能調査地点のうち、とくに6地区(札幌、東京、新潟、大阪、広島、福岡)に重点をおき、放射性降下物の蓄積量、海洋、河川への流亡、食品への寄与、人体蓄量等を調査し、わが国における放射能水準の実態を総合的に把握し、あわせてそれらの相関関係の究明に資する。とくに、原子力関係施設からの廃水の放出、放射性廃棄物の海洋投棄、あるいは将来の原子力船の実用化に関連して沿岸、海洋における放射性核種の動向の調査について、その規模を拡大し、重点的に実施する。また、原子力関係施設周辺のバックグランドを明らかにし、かつ、そのモニタリング法の確立に資するため、施設周辺の各種環境物質中の安定および放射性核種の含量を解明する。
 これらの調査は、主として環境汚染研究部が担当し、一部を環境衛生研究部が分担する。

4−2 被曝線量調査
 自然および人工の各種の放射線源から国民が被曝している線量を明らかにすることは、それらの放射線が国民生活の現在と将来に及ぼす影響を評価するうえできわめて重要である。このため、本研究所では、これらの被曝線量の実態調査を放射能調査研究の一環としてとりあげ、従来自然放射線および放射性降下物による外部被曝線量の算定、放射性浮遊塵による内部被曝線量の評価、ならびに人工放射線による国民線量の推定等を行なってきたが、本年度もこれらの調査を継続して実施する。これらの調査は物理研究部および環境衛生研究部が担当する。

4−3 放射能データセンター業務
 前年度に引き続き、(1)内外の放射能調査資料の収集、整理、保存、(2)海外との放射能関係情報の交換、(3)放射能調査資料の解析等を行なう。これらをとりまとめて放射能調査資料として刊行する。

第5節 外来研究員

 外来研究員制度は、本研究における調査研究に関し、広く所外における関連分野の専門研究者を招き、その協力を得て研究成果の一層の向上をはかることを目的として、昭和38年度に設置し、以来現在まで、技術と知識の交流が行なわれ、所期の成果を収めることができた。本年度は、本制度がきわめて効果的であった経験から、本制度の一層の活用を期し、また特別研究の実施等に関連してさらにその規模を拡大することとなった。
 このため、これに必要な経費として前年度1,132千円に対し、本年度は、2,020千円を計上する。
 本年度の外来研究員による研究課題は下記のとおりであるが、それぞれ該当する研究部等に配置し、調査研究の成果の向上をはかる。

1.プルトニウムの動物吸入実験方法に関する研究

2.プルトニウムの生体内における動向と生体構成物質との結びつきに関する物理化学的、生化学的研究(生体試料中のプルトニウムの化学的分析を含む)

3.抗体産生誘導の機構

4.溶液中における有機物質のNMRによる研究

5.放射線障害に関する生物学的指標としての「血中セロトニン量」の検討

6.海洋プランクトン、海底堆積物への放射性核種の移行

7.放射線障害に対する薬物の研究

第III章 養成訓練部

 養成訓練業務は、現在まで別表のとおり、放射線防護短期課程、放射線利用医学短期課程、放射性薬剤短期課程を実施してきたが、前年度養成訓練の新装もなり、本年度は、あらたにRI基礎医学課程を開設する。これは最近基礎医学、臨床医学の基礎的研究に放射性同位元素を利用する研究者の要望もあり、主としてこの方面に従事する医学、生物学等の研究者を対象として放射性同位元素の取り扱い、利用等について設定された課程である。

 本年度の運営経費として、12,210千円を計上し、養成訓練の充実および教育用実習測定機器等の整備を行ない、新設の課程も加え、各課程の効果的実施をはかる。

 本年度は、放射線防護短期課程を2回、放射線利用医学短期課程を2回、放射性薬剤短期課程を1回、ならびに新設のRI基礎医学課程を1回、総計6回の課程を開設し、約140名の技術者を養成する。

 各課程の開設予定時期は次のとおりである。

 第12回放射線防護短期課程
      昭和40年9月上旬〜10月下旬

 第13回放射線防護短期課程
      昭和41年1月下旬〜3月下旬

 第8回放射線利用医学短期課程
      昭和40年4月中旬〜5月下旬

 第9回放射線利用医学短期課程
      昭和40年11月初旬〜12月中旬

 第2回放射性薬剤短期課程
      昭和40年6月中旬〜7月中旬

 第1回RI基礎医学課程
      昭和40年11月上旬〜12月中旬

 昭和39年度末現在



第IV章 技術部

 技術部は、共用実験施設の運用および管理、研究用物品の工作および修理、実験用動物の増殖、管理および供給、ならびに所内の放射線安全管理、職員の放射線に関する健康管理、放射性廃棄物の処理等、調査研究の遂行に関し必須の重要業務を担当している。
 このため、技術部門運営費として16,671千円、ほかに、廃棄物処理費6,662千円、および特定装置運営費9,917千円を計上し、これらの技術業務、動植物管理業務、放射線安全業務等の円滑な運営と一層の強化をはかることとなった。とくに、研究用動植物に関しては、あらたに技術課からこの面の業務を分離し、動植物管理課を設置することとなったので、その増殖、飼育、栽培、供給、管理等について業務の充実を期する。
 本年度の重点的事項は下記のとおりである。

1.共同実験施設の整備に関しては、特別研究「プルトニウムによる内部被曝に関する調査研究」に関連して、アルファ線実験棟の実験用機器等の整備を強力かつ迅速に推進する。また、放射線照射施設は、本研究所の特色であり、重要性を有するので、たとえばコバルト−60線源の補充、正確な線量測定のための測定機器の整備を重点的に行なう。

2.動植物管理課の本年度における新設、また、前年度における哺乳動物観察実験棟、水生昆虫舎増設等の施設の完成により、研究用動植物の管理供給体制の整備を行なうが、とくに哺乳動物に関し重点的に考慮する。

3.放射線安全業務に関しては、アルファ線実験棟の全面的使用に対処して、安全管理、廃棄物処理等の設備の充足と管理体系の整備をはかる。

 なお、その他の共同実験施設に関しては、さらに整備すべき部面があるので、その運用に関して重点的に考慮し、一層の円滑化を期するとともに、次年度以降の問題として考慮する。

第V章 病院部

 本年度は、病院部門運営費として28,947千円を計上した。
 病院部は、本研究所の研究目的にそって、放射線障害者の診断および治療、ラジオアイソトープの利用による各種疾患の診断および治療、ならびに高エネルギー放射線による悪性新生物の治療等に適合する患者等を診療するため、約90床の病院として、入院ならびに外来診療を行なっている。
 本年度は、上記の疾患の診療について、最も設備のととのった医療機関の一つであることを自覚し、大学病院、国立病院等関連の深い医療機関との連けいを密にして、本研究所病院部としての目的を十分に発揮できるようにつとめる。また、病院部がたんに地域病院としてでなく、本研究所の目的に合致する病院として、各研究部との連絡を密にするとともに、病院部の社会的位置を明確にすることにつとめる。
 本年度は、検査課長の新設により、近代病院として欠くことのできない検査業務の拡充を行ない、とくにこの種病院に必要な特殊検査の充実をはかる。
 以上の観点から、本年度、病院部において取り扱う患者等は、(1)ビキニ被災者、トロトラスト投与者、慢性骨髄性白血病患者、(2)ラジオアイソトープを利用して診断、治療する甲状腺疾患等内分泌系疾患の患者、(3)ヒューマンカウンターを利用して診断する血液疾患、循環器疾患、(4)高エネルギーエックス線(6MeVリニアック)、電子線(31MeVベータトロン)の照射を適当とする悪性新生物疾患の患者とする。
 病院部における調査研究は、患者の治療に直結したものを主として行なうほか、患者に関する予後調査を行ない、前年度に引き続き、深在性悪性新生物(食道癌、肺癌、子宮癌)に対する放射線治療法の改善、外科手術と放射線照射との併用、放射線の効果を増強する薬剤を併用しての照射研究を行なうほか、とくにコバルト−60ガンマ線、6MeVリニアックのエックス線、25MeV〜30MeVベータトロンのエックス線等による治療効果を比較、検討する。

第VI章 東海支所

 東海支所の本年度における運営費は3,028千円を計上し、前年度に原研における短寿命ラジオアイソトープの生産開始にともない、東海支所におけるラジオアイソトープ取り扱いに関し施設の改造を行なったので、本年度はこれに関する内部設備の充足につとめる。
 また、隣接する日本原子力研究所の原子炉等の施設を積極的に利用し、中性子線に対する生体の感受性および痘細胞に対する中性子線の影響等の研究を行ない、あわせて所外の研究者に対する支所施設の利用の便の向上をはかる。

第VII章 建設

 本年度の研究所施設費は、10,208千円を計上し、空気調和設備用循環水槽新営のほか、雑工作物としてバンデグラフ棟放射線遮へい壁補強工事、土留工事等を行ない、研究所施設の円滑な運営を期する。また、公務員宿舎施設費として23,872千円を計上し、職員宿舎の充足をはかる。
 営繕計画の実施は、別表のとおりである。

(別表) 昭和40年度放射線医学総合研究所営繕実施計画