原研東海研究所原子炉施設の変更に係る安全審査


 原子力委員会は、内閣総理大臣から日本原子力研究所東海研究所原子炉施設の変更(JRR-2およびJRR-3に対するインパイルループの設置)に係る安全性について、昭和39年10月23日付をもって意見を求められていたところ、次のとおり安全上支障がないものと認める旨答申した。

 I 日本原子力研究所東海研究所原子炉施設の変更に係る安全性について
(JRR-2に対するインパイルループTLG-1-50の設置)(答申)

 (昭和40年3月27日付)

 日本原子力研究所東海研究所原子炉施設の変更(JRR-2に対するインパイルループTLG-1-50の設置)に係る安全性に関し、同研究所が提出した安全性に関する審査のための書類(39原研11-6号)に基づいて審査した結果、別添の原子炉安全専門審査会の安全性に関する報告書のとおり安全上支障がないものと認める。

(別添)原子炉安全専門審査会の報告

(昭和40年3月5日付)

1.審査結果
 日本原子力研究所が設置する原子炉施設の変更に係る安全性について、同研究所が提出した安全性に関する審査のための書類(昭和39年9月10日付39原研11-6号)に基づき審査した結果、本件インパイルループの設置にともなう原子炉施設の変更に関する安全性は、十分確保されるものと認める。

2.変更内容
 JRR-2にインパイルループTLG-1-50を設置する。

3.審査内容

3-1  TLG-1-50の概要
 本装置は、JRR-2の水平実験孔HT-2にとりつけられる高温ガスループであって、照射プラグは、不銹鋼製の4重管からなり、内側から、①案内管、②圧力管、③保温層外管、④外管と名付けられる。
 案内管の内部には、試料ホルダーおよび試料ホルダー軸が挿入される。案内管内部すなわち試料周辺および案内管と圧力管の間を回流する流体は、圧力15kg/cm2g以下(ガスブロワー出口)、温度550℃以下(照射プラグ出口)のヘリウムガスであり(主冷却ガス系)、圧力管と保温層外管の間には、約1気圧の静止ヘリウムガスが入っていて保温層をなしている。保温層外管と外管の間を圧力3.5kg/cm2g以下(循環ポンプ出口)、温度60℃以下(照射プラグ出口)の水が流れて冷却を行なう(照射プラグ冷却水系)。さらに主冷却ガス系と二次冷却水系の間には、圧力(最高)3.5kg/cm2g、ほぼ常温の水が回流している(中間冷却水系)。以上の冷却系によって、インパイルループの内部で発生する熱は、原子炉本体の冷却系から完全に独立した状態で除去される。
照射試料は、主として核燃料物質であって、その最大使用量は、37g(U-235)である。
 ループの異常状態を検出し、ループおよび原子炉の安全性を確保するため、警報装置、クールダウン装置、炉スクラム信号発生装置、緊急冷却装置の安全保護設備がもうけられている。

3-2 JRR-2本体の動特性に対する影響
 本ループにおいては、インパイルチューブ部分、試料部分等の反応度効果は、何れも無視出来るほど小さいのでJRR-2本体の動特性に対して影響を及ぼすことがないと認められる。

3-3 障害対策
(1)遮蔽
 従事者が、運転中近接するおそれのある部分については、表面から1mの距離での放射線量率が2mrem/hをこえないように設計されている。照射済試料は、十分な遮蔽をほどこした試料取出し装置によって取出され、試料輸送容器に入れて、ホットラボラトリーに送ることとしている。
 なお、線量率が、散乱等によって上記の設計値をこえる場所については、立入制限区域を指定し、管理を十分に行なうこととしている。
(2)廃棄物の処分
 試料、試料ホルダー軸および照射プラグの使用後の処分は、保安規定にしたがって廃棄物処理場において行なわれる。主冷却ガス系からの排気、照射プラグ冷却水系からの排水は、保安規定に定める値以下で、それぞれ煙突、またはドレインタンクから排出される。

3-4 事故評価
 本ループにおいて、原研敷地周辺の一般公衆に対し放射線障害を与えることとなるような事故を想定するとすれば、照射試料の被覆が溶融、破損して試料内に蓄積されている核分裂生成物が炉室外に放出される場合である。
 溶融、破損事故を起す可能性を検討するため、ループ自体および原子炉本体について種々の事故原因を想定した。
 ループ自体についての事故原因としては、主冷却ガス系、照射プラグ冷却水系、中間冷却水系、二次冷却水系の冷却材流動停止、または冷却材そう失事故が考えられるが、解析の結果によれば、これらのどの事故が起っても、炉スクラム等により、上記の溶融破損は起らないと認められる。
 また、原研資料「JRR-2の概要と安全対策」に記載された原子炉本体の事故のうち、本ループに最も大きな影響を与えると考えられる燃料の誤挿入を想定しても、解析の結果によれば照射試料の溶融破損は起らないと認められる。
 ただし、この場合試料の加工管理、検査などが万全であることを仮定しているが、一方検知不可能な欠陥が照射下で成長することが絶対にあり得ないとは、認めがたい。
 以上の考察結果により、重大事故としては、照射試料加工中に発生した欠陥にもとづく被覆の破損事故が、13個のうち1個に発生し、同時に主冷却ガス系の一部に機械的破損が発生すると仮定した(圧力検出器のブルドン管に起ると仮定)事故をとった。また、仮想事故としては、13個の試料全部の被覆破損事故と主冷却ガス系の一部に上記の機械的破損が同時に発生すると仮定した事故をとった。
 これら重大事故、仮想事故の場合、原研の敷地周辺の一般公衆に対する被曝線量を試算すると、重大事故においても、仮想事故においても、その値は、「原子炉立地審査指針」別紙2に記載された線量に比し、非常に小さいものとなっている。

3-5 設置および運転に関する技術的能力
 JRR-1、JRR-2、TLW-1-50インパイルループなどの建設、運転、保守を経験した者によって構成されている本インパイルループの設置および運転に関する技術的能力は十分あるものと認める。

4.審査経過



II 日本原子力研究所東海研究所原子炉施設の変更に係る安全性について
(JRR-3に対するインパイルループLHTLの設置)(答申)

 (昭和40年3月27日付)

 日本原子力研究所東海研究所原子炉施設の変更(JRR-3に対するインパイルループLHTLの設置)に係る安全性に関し、同研究所が提出した安全性に関する審査のための書類(39原研07-3号)に基づいて審査した結果、別添の原子炉安全専門審査会の安全性に関する報告書のとおり安全上支障がないものと認める。

(別添) 原子炉安全専門審査会の報告

 (昭和40年3月5日付)

1.審査結果
 日本原子力研究所が設置する原子炉施設の変更に係る安全性について、同研究所が提出した安全性に関する審査のための書類(昭和39年9月12日付原研07-3号)に基づき審査した結果、本件インパイルループの設置にともなう原子炉施設の変更に関する安全性は十分確保されるものと認める。

2.変更内容
 インパイルループLHTLがJRR-3に設置される。

3.審査内容

3-1 LHTLの概要
 本装置は、JRR-3の水平実験孔H-5に設置される極低温照射装置であり、その構成は、内側から、照射試料カプセルを冷却する4.2°KHeガス冷却系、不銹鋼製の断熱真空照射筒、ファストコンヴァーターを冷却するファストコンヴァーター冷却水系となっている。その他に、80°KHeガス冷却系が、熱遮蔽用として存在する。回流する冷却材は、4.2°KHeガス冷却系における液体気体混合He〔温度4.2°K以上(J-T弁出口)、圧力0.2kg/cm2G以下(J-T弁出口)〕、ファストコンヴァーター冷却水系における水〔温度43℃以下(照射プラグ出口)、圧力3kg/cm2G以下(ポンプ出口)〕、さらに80°KHeガス冷却系におけるHe〔温度78°K以上(照射プラグ入口)、圧力1.6kg/cm2G(照射プラグ入口)〕である。以上の冷却系によって、インパイルループの内部で発生する熱は原子炉本体の冷却系から完全に独立した状態で除去される。
 照射試料は、核燃料物質でなく、Cu、Al、Fe、NaCl等であり、ファストコンヴァーターは、ウラン・ジルカロイ合金(ウラン235-470g)から出来ている。
 本装置の安全運転のため、42°KHeガス冷却系、ファストコンヴァーター冷却水系、80°KHeガス冷却系に、インターロック系、警報回路、スクラム信号発生装置等の安全保護設備がもうけられている。

3-2 JRR-3本体の動特性に対する影響
 本ループにおいては、ファストコンヴァーター、熱中性子遮蔽体、照射プラグ構成材の反応度効果は、いずれも無視出来るほど小さいので、炉本体の動特性に対して影響をおよぼすことがないと認められる。

3-3 障害対策

(1)遮蔽
 本ループ装置は、ループ運転中、装置表面から1mの距離における放射線量率が2mrem/hをこえないように設計されている。照射済試料は十分に遮蔽をほどこされた照射済試料容器に入れ、保安規定に従って運搬される。

(2)廃棄物の処分
 試料、カプセルの実験終了後の処分は、保安規定に従い、廃棄物処理場において行なわれる。

3-4 事故評価
 本ループが、原研敷地周辺の一般公衆に対し、放射線障害を与える可能性を検討するために、事故原因を炉本体およびループに求めて検討した。
 まず、原研資料「JRR-3の概要と安全対策」に記載された炉本体の種々の事放のうち、本ループに影響を与えると考えられる最大のものは1.5%△K/Kの反応度が階段状に印加されている場合であるが、この事故によってファストコンヴァーターの溶融、破損は起らないと認められる。
 ループに発生する種々の事故として、4.2°KHeガス冷却系に侵入した空気の凝縮したものの中に生成するオゾンの爆発事故、ファストコンヴァーター冷却水系の冷却材停止事故、ファストコンヴァーター冷却水系の冷却材そう失事故、ファストコンヴァーターの溶融、破損事故が想定される。
 オゾンの爆発事故は、解析によると、発生エネルギーが小さいので、配管の破損を起すことはないと認められる。また、照射プラグは、オゾンの爆発部分から外側に不銹鋼製の4重管(厚さ2mm、2mm、1mm、1mm)を構成し、空間の大きさが爆発を弱めるのに十分の余裕があり、さらに真空照射筒にもラプチャープレートがとりつけてあるので、オゾンの爆発により、炉本体、ファストコンヴァーターが損傷をうけることはないと認められる。
 ファストコンヴァーター冷却水系の冷却材そう失事故は、不銹鋼製の配管の破断の可能性の小さいこと、また破断によっても冷却水がそう失しないように設計されていることから考えて、技術的には起らないと認められる。
 ファストコンヴァーターの溶融事故は、冷却材がそう失しても、炉がスクラムされる限り起らない。被覆は、1mm厚のジルカロイ-2であるが、平常の運転状態では、冷却材温度は43℃以下であるので、たとえ被覆に検知不可能な欠陥があっても、それ以上は拡大しないと思われる。
 以上のように種々の事故原因について検討してみると、技術的見地から考えた場合、放射性物質の放出をともなうような重大な事故は、起らないと認められる。
 仮想事故としては、ファストコンヴァーターの冷却材がそう失して、温度が上昇し、検知不可能であった被覆の欠陥が拡大するような仮想的な事故を想定した。
 しかしながら、この場合においても、原研の敷地周辺の一般公衆に対する被曝線量を試算すると、その値は、「原子炉立地審査指針」別紙2に記載された線量に比し、非常に小さいものとなっている。

3-5 設置および運転に関する技術的能力
 JRR-2、JRR-2のインパイルループ(LNTL)などの建設、運転、保守を経由した者によって構成されている本インパイルループの設置および運転に関する技術的能力は、十分あるものと認める。

4.審査経過