水戸原子力事務所の放射線観測の概況


1.まえがき

 本年10月1日に科学技術庁水戸原子力事務所も開設以来1年を迎えるが、水戸原子力事務所における業務の3本の柱の1つである放射線監視業務のうち、1つの手段として行なっているモニタリングカー(放射線監視車)による原子力施設周辺の放射線の観測の概況を紹介する。
 なお、モニタリングカーは当月報1962年12月号(Vo1.7、No.12、P.15)に記されているごとく、所要の機器装備を行なって、水戸原子力事務所開設に約10ヵ月先立ち、昭和37年12月3日から東海地区の放射線観測業務に従事し、走行粁も2万粁に達している。稼働してから現在までの経過および測定結果を中心に記載する。

2.観測網

 当初、日本原子力研究所の8ヵ所のモニタリング・ステーションとの関係位置、地形、気象条件、人口集密地域等を勘案して、測定地点31地点ではじめられたが、その後地元の要望等もあり、現在では35地点に増え、さらに10月以降は原子力研究所大洗研究所予定地周辺のバックグランド測定地点を増加し、36地点になる予定である。一方施設者側としてもこの間、日本原子力発電(株)のモニタリング・ステーションが3ヵ所設置され、東海地区の放射線観測網は一層充実されつつあるといえよう。
 第1図にモニタリングカーの測定地点(36地点)、日本原子力研究所(No.1〜No.8)、日本原子力発電(株)(日立、水戸、那珂湊)、原子燃料公社(東海製錬所内)のモニタリング・ステーションの位置を示す。

第1図


3.測定種目

 当初は、測定種目別として、パルスハイトアナライザー(256チャンネル)の核種判別もふくめ、第1種から第5種までであったが、第1種測定の内容の充実、すなわち、シンチレーション・カウンターによる空間線量率(γ)の測定、ならびに浮遊塵埃の測定の場合の吸引空気量を約2万lに増加したため当初の第1種測定地点を分け、新たに第6種測定を設け、現在では第1種測定が16ヵ所、第6種測定が14ヵ所となっている。運行計画と測定種目別の関係は第1表のとおり。

(第1表) 昭和39年度第3四半期運行計画


4.機器ならびに車両の整備

 機器については39年度予算にて、GM式とシンチレーション式のサーベイメーター、各1台増設し、海水処理測定用器、試薬も備える予定になっている。
 一方車両については、当初予想していた以上に道路がわるく、車両の振動はげしく、38年度予算にて、ショク・アブソーバーを増やすと共に、測定機器のほとんどがトランジスター化のため、夏季高温中の機器保守の目的で、39年度予算にて、恒温恒湿装置を車内に備えるようになった。

5.測定結果

現在のところ、測定の対象は

イ、空間線量率(γ、β+γ)

ロ、塵埃濃度(β)

ハ、湖沼、河川水濃度

ニ、施設の排水濃度

ホ、気象観測(気圧、気温、湿度、風)

となっているが、ここではこれらについての概略をのべる。

a)空間線量率(γ):

 第2図に地域分布を示す。測定時刻は午前11時±1時間の測定値。測定値としては、宇宙線成分を含み、7〜9μr/hr位である。
 地域特性としては、二軒茶屋付近、押延付近が低く、久慈川流域の豊岡付近がやや高めである。
 一方全域の月別平均を第3図に示す。当初に比べ値は減少の傾向にあり、これはfall−outの地表面における減衰のためとみられる。なお、この傾向は、水戸地方気象台における測定結果とも一致している。
 他方、これら全測定地点を、施設中心の象限別、中心からの距離別に分類してみても、差異は認められず、施設の影響は無いと言える。
 さらに、若干詳細に検討するために、試みとしてある係数、すなわちシンチレーションによる線量率とGMによる線量率の比をとり、その分布をみると、得られる等値線は略々第2図と等しく、これらと茨城県の地質図を比較すると、第2図の地域分布が略々地質による相異と判断される。すなわち、山岳地帯、久慈、那珂川流域、関東ローム層というように、地域特性が出てきた。

b)浮遊塵の放射能:
 第4図に全域の月別平均を示す。これはΔt=4時間±30分、すなわち、試料の減衰起算時刻−測定時刻が4時間±30分なるデータのみをとったものである。
 図中参考までに気象庁の官署で行なっている測定結果も入れた。傾向は、東海地区としての特別なものはない。これからも施設の影響とみられるものはないといえる。また、同時に、核実験停止によって、大気の放射能による汚染もずいぶん少なくなってきたことを示している。

c)湖沼・河川水濃度:
 測定値としては、10−8〜10−9μc/cc位で、たまに大雨の後の混濁した河川水から10−7がみられた程度であり、強いて言えば、涸沼の水は低い値を示している。

d)日本原子力研究所、原子燃料公社における排水口の水濃度:
 測定値としては、10−8〜 10−9μc/cc 位で異常はない。

e)気象観測:
 第5図に、一例として夏の風(昭和38年6、7、8月)の平均を示す。ただし時刻は、11時±30分のものである。
 この他、気温の高いところ、風向の地域性等若干データが集積されつつあるが、連続測定がないため未だ解析には不十分である。

6.むすび
 モニタリングカーを主体とした放射線モニターのデータからすれば、数多い原子力施設を有する東海地区の放射線は異常無しといえる。

 また、水戸原子力事務所としては、39年度において、データ伝送装置が稼働を開始(40年3月からの予定)し、原研モニタリング・ステーションのデータも刻一刻入手できるようになるので、今後はこれらと関連をもった放射線監視を行なうべくモニタリングカーも40年度からは走行中でも空間線量率を測定しうる装置を備えるよう予算要求するなど、整備充実を計画している。

(注)b)、c)、d)、における測定値の処理は、2σ以下の時は検出限界以下としている。

第2図


      第3図 月別平均空間線量率    第4図 地表付近における浮遊塵の放射能


第5図