昭和39年度原子燃料公社事業計画


 内閣総理大臣の定めた原子力開発利用基本計画、ならびに昭和39年度核原料物質探鉱計画に基づいて、原子燃料公社の行なう昭和39年度の事業は次のとおりとする。

 (I)総論

 39年度においては、わが国におけるウラン資源の把握を目的とした探鉱を行なうとともに、プルトニウム燃料開発および使用済燃料の再処理の準備を進めるほか、前記事業の進展に伴う組織についの検討を行なうこととする。

1.核原料物質の開発

(1)人形峠ウラン鉱床発見以来、人形峠鉱山、東郷鉱山を中心に試すい、坑道探鉱に重点をおいて精緻な探鉱を実施してきた結果、鉱床の賦存状況の解明、埋蔵鉱量の増加ならびに確定化について相当の成果を得ることが出来たので、39年度以降は堆積型鉱床の全国的探査をより積極的に取り上げることとし、地質調査所と協力の上で地表調査物理探鉱、化学探鉱および試すいにより堆積型鉱床の全国的探査を進め、わが国におけるウラン資源の実態把握につとめる。このため前年度までの探鉱の結果、鉱床の発展が期待される奥丹後地区(京都)に事務所を設置し、本格的探鉱に移るとともに、ウラン鉱床の賦存が有望視される東濃地区(岐阜)の探鉱に着手するほか、花巻(岩手)、上赤谷(新潟)、仏ヶ仙(鳥取)等の地区についても地表調査、試すい、科学探鉱等による探鉱を積極的に行なう。

(2)人形峠、東郷両鉱山の探鉱については、鉱床の賦存状況の解明をさらに必要とする地区およびこれまでの調査の結果、鉱床の賦存が予想される両鉱山周辺地区に重点をおくこととする。

(3)採鉱および製錬の技術の開発については、人形峠鉱山峠地区において、水力採鉱試験および洗鉱試験を引き続き実施するとともに、山元試験製錬施設を設置して下半期から低品位ウラン鉱石処理現場適用試験を行なう。

2.核燃料の生産

 核燃料の国産化に寄与するため、38年度に引き続き核燃料生産技術の開発を行なうこととし、39年度は東海製錬所において遠心分離によるウラン濃縮技術の開発、燃料検査技術の向上等を目的として試験研究を行なうとともに、精製錬の総合収率の向上をはかるため中間物等を処理してウラン地金を生産する。
 プルトニウム燃料については、日本原子力研究所との共同研究を推進することとし、プルトニウム取扱技術の習得につとめるとともに、セラミック系プルトニウム燃料製造加工技術の開発をはかるため二酸化ウランを使用して予備試験を行なう。また38年度において建設に着手したプルトニウム燃料研究施設の建設を続行する。

3.使用済燃料の再処理

 原子力発電の進展に伴い今後増加を予想される使用済燃料の有効利用をはかるため、38年度に引き続き使用済燃料の再処理施設設計の技術導入を進めるとともに、建設予定地の海洋調査等を行なう。

 また、再処理技術の研究開発は日本原子力研究所の再処理試験施設に要員を派遣し技術の習得に当らしめるとともに各種試験を行なう。

4.核燃料の貸与および譲渡

 38年度に引き続き、日本原子力研究所等の各需要機関に核燃料物質を継続貸与するほか、39年度に生産するウラン地金を新たに試験研究用または加工素材用等として、日本原子力研究所等へ貸与する。

5.組織体制

 以上の事業を行なうため内部体制を強化することとし、理事1名、職員34名を増員する。また今後のプルトニウム燃料開発および使用済燃料の再処理の事業等各事業の進展に則した組織の検討を行なうこととする。

(II)主要事業の概要

1.核原料物質の探鉱

(1)人形峠出張所管内

(イ)中津河

 38年度に新たに発見した南部富鉱体につき引き続き試すいおよび約100mの坑道探鉱を実施し、鉱体の拡がりを追求する。

(ロ)長者

 38年度までの試すいおよび坑道探鉱により鉱床の賦存状況の解明につとめた結果、鉱体の延びは北北西へ発展することが判明したので、39年度はさらに試すいと約150mの坑道探鉱を併用して、この鉱床の拡がりを追跡する。

(ハ)十二川

 38年度までの試すいの結果、鉱体が北方に延びることが判明したので、さらにこれを追跡し、あわせて東郷鉱山、神ノ倉鉱床との関連性を探究する。

(ニ)その他

 高清水において、38年度試すいにより確認した鉱体の南北への延びを把握するため、39年度も継続して試すいを実施する。
 倉見、黒岩および赤和瀬には鉱体の存在が推定されるので、地表調査および試すいを実施する。

(2)倉吉出張所管内

(イ)神ノ倉

 38年度に引き続き第2鉱体に重点をおいて探鉱を実施することとし、約1,700mの探鉱坑道を堀進して鉱況を解明することとする。

(ロ)鉛山

 鉛山は試すいを重点的に実施し、神ノ倉第4鉱体と十二川鉱体の中間に賦存を予想される潜頭鉱床の発見と、十二川鉱体の北方への延長を追跡する。

(ハ)飯盛山

 これまでにおける試すいおよび科学探鉱の結果鉱床賦存の可能性が増大したので、引き続き地震探鉱電気探鉱および試すいにより、潜頭鉱床の発見につとめる。

(ニ)その他

 38年度までの調査の結果鉱体を発見した白石および八葉寺付近を重点として試すいを継続する一方、鹿野および河内においても引き続き地表調査、化学探鉱および試すいを実施し、新鉱体の発見につとめる。

(3)奥丹後地区(京都)

 34年度以来地質構造の検討、鉱床の賦存状況の究明につとめてきた結果、本地区の鉱床は有望なものとして期待されるに至ったので、今後は本地区の全域にわたり本格的な探鉱を行なうこととする。
 したがって39年度は駐在員事務所を設置し、以降地表調査、化学探鉱、電気探鉱および試すいを実施して既知鉱体の拡大および新鉱体の発見につとめる。

(4)東濃地区(岐阜)

 37年12月地質調査所のカーボン調査によって発見されたこの地区のウラン鉱床は、その後も各所に露頭が発見され相当の拡がりが予想されるに至った。
 39年度からは公社が引き継いで、土岐市北方の地表調査、化学探鉱および試すいを行ない、鉱床の実態把握およびその分布範囲の拡大につとめる。

(5)その他地区

 鉱体の発見が期待される花巻(岩手)、上赤谷(新潟)、車峠(福島)、仏ヶ仙(鳥取)、島根東部、垂水(鹿児島)等の地域において地表調査、Uスコープ調査等を実施して新鉱体の発見および既知鉱体の拡大につとめる。これらのうち赤谷および仏ヶ仙では試すいを実施する。

(6)鉱区調査

 公社保有鉱区(探鉱契約鉱区を含む)は、38年12月末現在出願鉱区326、登録鉱区244、計570、鉱区を有しているが、これらの鉱区のうち約100鉱区につき、鉱区調査を実施して鉱床賦存の可能性を検討し鉱区整理につとめる。
 また、有望地区については適宜鉱区の出願および探鉱契約を行ない探鉱する。

(7)その他

(イ)東海製錬所原子燃料試験所においては、人形峠、東郷両鉱山、奥丹後地区等の鉱石の鉱物に関する研究を行なう。

(ロ)岡山大学温泉研究所に人形峠、倉吉両鉱山における鉱床の富鉱体と基盤および母岩の粘土化に関する調査、ならびに三朝層群の層序と構造に関する研究を委託する。

2.核原料物質の採鉱、選鉱および製錬

(1)水力採鉱試験

 たい積型ウラン鉱床の採鉱法として水力採鉱法が有望と考えられるので、水力採鉱技術の確立のため、38年度に人形峠に水力採鉱試験設備を設置し試験を実施した。
 39年度は上記試験を引き続き行ない採鉱技術の向上をはかる。
 本試験による採掘鉱石は、中間規模洗鉱試験の処理原料にあてるが、山元試験製錬施設の操業開始後は、試験原鉱石の一部として給鉱する。

(2)中間規模洗鉱試験

 39年度上半期は、水力採鉱試験からの出鉱および一部神ノ倉、中津河の鉱石を対象として、湿式ふるい分け試験を行なう。
 下半期は試験製錬施設の一部として本施設を活用する。

(3)山元試験製錬

 39年度は、38年度に人形峠鉱山峠地区において建設に着手した山元試験製錬施設を9月に完成せしめ、引き続き工程の調整、作業員の操作訓練等に重点をおき試験操業を実施する。
 この試験用鉱石は、主して峠坑に長壁式切羽を設置して採掘したもの、および水力採鉱よって得た鉱石を使用する。
 試験によって得た精鉱は東海製錬所においてウラン地金とする。

(4)鉱山保安

 鉱山の保安については、38年度に引き続き前述の業務に即応して施設の整備、安全作業の確立、保安教育の徹底および鉱害の防止に万全を期する。
 とくにラドン対策および坑内放射性粉じん対策に重点をおき、通気系統の改善および通気管理を行なう。
 以上のほか、坑廃水調査を実施するとともに、関係河川水の水質総合調査を38年度に引き続き、鳥取、岡山両県に委託する。

3.核燃料の生産およびこれに伴う研究開発

(1)ウランの生産

 39年度は東海製錬所精製錬試験施設において地金約18tの生産を行なう。また、38年度回収工程を補強し施設の整備を行なったので、中和澱物、中間物、返還屑等からのウラン回収を積極的に行ない総合収率の改善をはかるとともに、燃料生産技術とくに鋳造技術の向上をはかる。

(2)プルトニウム燃料の研究開発

(イ)プルトニウム燃料研究施設の建設と要員の養成40年末からこの施設の使用開始を目標として、建家の建設および内装機器の据付に着手する。この施設の要員養成のため、日本原子力研究所および海外の研究機関に職員を派遣する。

(ロ)プルトニウム燃料の研究

 プルトニウム燃料研究施設が完成するまでは現有設備を使用して次の研究開発を行なう。

(i)酸化プルトニウム−酸化ウラン混合燃料体の製造を目的として、二酸化ウランを用いて、ゾルーゲル法および振動充てん法による成型技術の研究を進めてきたが、39年度は中間規模試験を行なう計画で8月に試験装置を完成するとともに、これと併行して二酸化ウラン試料により、高温におけるセラミック燃料の挙動に関する研究と確性試験を行なう。

(ii)成型加工に関する研究は、38年度に引き続き振動充てん法に重点を置くこととし、その燃料要素の加工に対する適用性を検討するとともに、スエージャーの併用による模擬燃料の試作研究も行なう。素材として二酸化ウランを使用する。

(3)ウラン濃縮の研究

(イ)遠心分離関係

(i)ウラン濃縮研究室に移設した遠心分離機の給排気機構の改造を行ない、機械的性能試験を確かめた上、さらに軽ガスを使用しての分離性能試験を行なう。

(ii)ガラス繊維強化樹脂回転胴の高速回転限界試験を行なう。

(iii)小型遠心分離機(ジッペ式)による高速回転機構の研究については、高真空保持機構と耐久試験をテーマとして、38年度に引き続き(財)工業振興会に委託する。

(iv)六フッ化ウランの精製に関する試験は、38年度に引き続き理化学研究所に委託する。

(ロ)化学的濃縮関係

 イオン交換濃縮法の研究を日本原子力研究所と協力して行なう。

(4)燃料の検査

(イ)検査技術の開発

 38年度に引き続き、セラミック型プルトニウム燃料に関する欠陥検出法の研究を行なうほか、燃料体端栓熔接に関する確性試験を行ない端栓熔接部の検査基準の作成につとめる。
 また、燃料検査基準確立のための統計的解析も引き続き行なう。

(ロ)検査技術の応用

 38年度までに超音波探傷、X線透過、渦流探傷など種々の検査技術を開発したが、39年度はそれらの開発された検査技術をJRR−2、JRR−3およびJPDR燃料の国産化に伴う検査に応用する。

(ハ)受託検査

 外部の依頼により核燃料要素、燃料集合体等に関する各種検査を行なう。

(5)燃料評価試験

 プルトニウム模擬燃料試料として、ゾルーゲル法および振動充填法により製造した二酸化ウラン燃料体を日本原子力研究所に低照射を依頼し、照射後試験を行なう。

4.核燃料の再処理

(1)再処理工場建設計画

 38年度において、再処理工場の予備設計に着手し、その工程の一部については詳細設計に関する契約を締結した。
 39年度は、予備設計の完了を待ち主工程の詳細設計の契約を行なう。
 また、予定数地の調査については、38年度中に気象ならびに地質調査の大部分を終了したので、39年度は周辺海域の海洋調査を実施する。

(2)再処理に関する試験研究

(イ)38年度には、ミキサーセトラー試験装置を日本原子力研究所に設置し、運転準備を整えたので、39年度はこの装置を使用し同所と共同して再処理本プラントに対応する動的特性の確認および工程試験を行なう。

(ロ)ウランの同位体比の分析法とプルトニウムの管理分析法の確立を推進するとともに、38年度に引き続きインライン分析装置の開発をはかる。

(ハ)38年度に日本原子力研究所の再処理試験施設の遮へいが完了したので、JRR−3模擬燃料でコールド試験および再処理施設の運転操作技術の習得のため、引き続き日本原子力研究所と共同研究を実施する。

5.東海製錬所におけるその他の計画

(1)放射線管理

(イ)安全対策

 プルトニウム燃料研究施設、再処理工場の安全管理に必要な事故解析および計測技術の習熟をはかりつつ、安全管理要員の養成につとめる。
 また、これら施設の操業に備えバックグラウンドの調査を行なう。

(ロ)放射線衛生

 放射線衛生としてプルトニウム燃料研究要員の被曝管理方式の研究を開始し、とくに糞尿中のプルトニウムの検査方法の確立をはかる。その他定常業務としての保健管理については、一層の向上をはかる。

(2)分析関係

(イ)日常分析

 ウラン地金生産のための日常分析をはじめとして、各種試験研究に伴う分析等を行なうとともに分析作業の合理化をはかる。

(ロ)分析法の開発研究

 分析法に関する開発研究としては、主として下記のとおりとする。
 金属ウラン、ウラン化合物の分析方法の研究については、とくにウラン純分の精密定量、金属ウラン中の硫黄等の分析法の研究を行なう。
 六フッ化ウラン中の不純物および235Uの分析法を行ない、単能質量分析器の評作研究を社外に委託する。

6.核燃料物質の貸与および譲渡

(1)核燃料物質の貸与

 38年度末に貸与している天然ウラン(金属)の量は約23トンである。その主なものは、日本原子力研究所のJRR−3燃料用地金13トン(第1次装荷分3.8トン、第2次装荷分9.2トン)、高速炉未臨界実験装置用ブランケット棒5トン、軽水炉末臨界実験装置用燃料2トンおよび東京工業大学の未臨界実験装置用燃料2.5トンである。
 39年度に新たに貸与する見込の天然ウラン(金属)は、日本原子力研究所のJRR−3の第3次装荷分約9トン、その他試験研究用約2トン、計約11トンとする。したがって39年度末の貸与量は、返還分約4トンを見込めば約30トンとなる。

(2)核燃料物質の譲渡

 39年度において国内の試験研究用として約0.1トンの天然ウラン(金属)の譲渡を予定する。