原子力船運航者の責任に関する
条約の常設委員会の開催


11月24日〜31日


 「原子力船運航者の責任に関する条約」は昭和37年5月25日にブラッセルにおいて採択されたが、その際原子力損害賠償のための国際的保証基金等の設立の問題、国際的裁判管轄権を行使する機関の問題及び政府間機関により運航される原子力船に対する同条約適用に関する問題については、十分な検討を加える時間的余裕がたかったので、未解決のまま残された。このため採択会議は、同日これらの問題について検討を加えるための常設委員会を設置すべき旨の決議を行なった。
 これに基づき第1回常設委員会が昭和38年10月24日(木)から同31日(木)まで8日間モナコにおいて開催され、国際海事法会議議長アルバート・リラー氏が議長となり、12ヵ国の参加のもとに次の3事項について、それぞれワーキング・グループを設置して検討を行なった。
 なお、次回は来年3月(場所は未定)に開催される予定である。

(参加国)
 アルゼンチン、フランス、イタリア、インド、日本、スウェーデン、ノルウェー、オランダ、ソ連、アラブ連合、イギリス、アメリカ

(オブザーバー)
 モナコ、西ドイツ、スペイン、ENEA、EURATOM、IMCO

(日本側参加者)
在ベルギー大使館参事官     井川克一

法務省民事局民事第一課長   池川良正

科学技術庁原子力局政策課   渡辺敬之

1.国際保証基金または相互保証制度の設置
 会議の冒頭、基金または制度のいずれを選ぶかについて採決を行なった結果、制度の設置が決り、ワーキング・グループを設置して細目の検討を行なった。
 (日本はアルゼンチン、インド、アラブと共に、基金を設置すべき旨の提案を行なった。)

(1)機構
 相互保証制度を採ることに決った。(8:4)

(2)運用開始金額
 運用を開始する金額として、一定金額(たとえば100万ドル)、各国の損害賠償措置額または相互保証制度参加国間で決定した金額などの意見があった。

(3)参加国
 すべての締結国が参加することが望ましく、許可国以外の締約国の参加は任意とする旨意見の一致をみたが、許可国の参加については、強制的か任意的かで意見が分れ、採決の結果、任意とすることに決った。(7:3:2)

(4)保証金額の決定
 原子力船の数、トン数または舶用炉の熱出力等を基礎として決定するという意見、相互保証制度参加国間で決定するという意見があった。

(5)組織
 相互保証制度によれば、特定の国際的組織は不要であるとの意見であった。

(6)設置時期
 相互保証制度参加国間の決定に委ねることに決った。

(7)国の責任
 依然として、国の賠償責任は残るという意見が強かった。

2.国際的裁判管轄権を行使する機関の設置
 いかなる型の裁判機関とするかは議論されなかったが、国際的裁判機関の設置の必要性は認められ、ワーキング・グループを設置して、細目の検討を行なった。

(1)裁判機関の型
 二国間調停委員会、仲裁裁判所、国際裁判所のいずれにすべきかについては検討が行なわれなかったが、臨時的裁判機関を設置することを決めた。

(2)管轄
 当初事務局案として、本条約の解釈についてのみ管轄権を認めるという提案があったが、すべての場合に管轄権ありとする意見が強かった。ただし、許可国の領域内または原子力船において受けた損害から生ずる訴訟または軍艦に関する訴訟については、条約第10条の規定により管轄権を有する国に管轄権が残るとする意見があった。

(3)構成
 裁判官の数は3人または5人とし、許可国と損害発生地国は各々同数の裁判官を任命し、中立の裁判官は当事国間の話合いで決めるが、決定されぬ場合には国際司法裁判所長に選任を依頼することに決った。

(4)任期
 当該訴訟の行なわれている期間に決った。

(5)資格
 検討が行なわれなかった。

(6)適用法
 国際裁判機関が、裁判を行なうにあたり適用する法律については、条約第10条により管轄権を有する国の法律を原告が自由に選択できるという意見、国際裁判機関所在地国法とする意見または損害発生地国法とする意見があった。

3.政府間機関により運航される原子力船への条約の適用この問題については、時期尚早との意見が強かったが、ワーキング・グループを設置して細目の検討を行なった。

(1)政府間機関の義務
 ある一定の金額までに、損害賠償措置を講ずることに決った。

(2)参加国の義務
 上記措置額と条約第3条の責任限度額との差額は、参加国が賠償金支払を保証し、その保証割合を他の締約国に対して通知することに決った。

(3)機関の型
 原子力船を共同して建造し、運航させることを目的として設置された臨時的機関も、条約への加入を認めることに決った。(5:4:2)