原子炉立地審査指針


原子炉安全基準専門部会報告書を提出

 原子力委員会は、原子炉の安全基準を検討するために昭和33年6月に原子炉安全基準専門部会を設けた。同部会は、原子炉の安全基準の制定に関して、放射線の許容量、立地条件、災害評価、気象条件等を審議するための各小委員会を設け資料の収集検討等を行なってきた。
 36年5月、原子力損害賠償法の可決にあたり、衆議院科学技術振興対策特別委員会は原子炉の安全基準を速やかに確立するよう付帯決議を行なった。これに関して、原子力委員会は、安全基準についてはひき続き原子炉安全基準専門部会が鋭意検討するよう措置した。これに伴い、同部会は第18部会(36年6月)において、安全基準のうち原子炉立地基準についてその作成方針を決定した。
 以降、8回の部会、2回のアンケートおよび多数回にわたる小委員会等の開催により審議検討を重ねた結果、38年11月2日付をもって、原子炉立地基準の前段階のものとして、次のとおり「原子炉立地審査指針」の報告を行なった。

昭和38年11月2日

原子力委員会委員長殿

原子炉安全基準専門部会

部会長 伏見康治

原子炉立地審査指針について

 原子炉安全基準専門部会において審議中の案件の一つである立地基準に関しその前段階として、原子炉立地審査指針を別添の通り作成したので報告する。
 このような基準を作成する主要な目的は、行政判断の一貫性を図ることと申請者にめやすを与えることにあると考える。しかし現段階において、機械的に適用しうる基準はもちろん、定量的な基準を作成することも困難である。従って、今回作成した指針はかなり定性的なものにとどまっており、個々の安全審査においては、従来のように安全審査会の判断によらなければならないところが多い。指針のような内容を決めた経緯および指針の補足説明を解説に述べておいたので、運用にあたってはそれも参考にしてほしい。
 なお、この指針に関連して、今後当部会または他の機関において検討しなければならない問題がいくつかあったので、今後の問題点として解説に掲げておいた。これらの点について原子力委員会の善処を期待したい。

原子炉立地審査指針

 この指針は、原子炉安全専門審査会が原子炉設置に先立って行なう安全審査の際、万一の事故に関連して、その立地条件の適否を判断するためのものである。

 なお、平常運転時に一般公衆に放射線障害を与えないようにいう点からも立地条件の適否を判断すべきであるが、これについては、法令にかなり明確に規定してあるのでそれに従えばよいと考え、この指針では除外した。

1.基本的考え方

1.1 原則的立地条件
 原子炉をどこに設置するにしても、事故を起さないように設計、建設、運転および、保守を行なわなければならない。しかしながら、なお万一の事故に備えて、公衆の安全を確保するためには、原則的に、次のような立地条件が必要であると考える。

(1)大きな事故の誘因となるような事象が少ないことはもちろんであるが、災害を拡大するような事象も少ないこと。

(2)原子炉に設ける安全防護施設との関連において、十分公衆と隔離されていること。

(3)必要に応じ、公衆に対して適切な措置を講じうる環境にあること。

1.2 基本的目標
 万一の事故時にも公衆の安全を確保し、かつ原子力開発の健全な発展をはかることを方針として、この指針によって達成しようとする基本的目標は次の三つである。

 a 技術的見地からみて、最悪の場合には起るかもしれないと考えられる重大な事故(重大事故)の発生を仮定しても、周辺の公衆に放射線障害を与えないこと。

 b さらに、重大事故を超えるような、技術的見地からは起ると考えられない事故(仮想事故)の発生を仮想しても、周辺の公衆に著しい放射線災害を与えないこと。

 c なお、仮想事故の場合にも、国民遺伝線量に対する影響が十分に小さいこと。

2.立地審査の指針
 立地条件の適否を判断する際に、上記の基本的目標を達成するため、少なくとも次の3条件を満たしていることを確認すること。

2.1 原子炉付近の区域は、必要な範囲までは、非居住区域であること。
 ここに、必要な範囲とは、重大事故の場合、周辺の個人に対する線量が適当な基準線量を超える恐れのある範囲を意味する。また、非居住区域とは、一般公衆が原則として居住しない区域をいう。

2.2 非居住区域の外側は、必要な範囲までは、低人口地帯であること。
 ここに、必要な範囲とは、仮想事故の場合、何らの措置も講じなければ、公衆に著しい放射線災害を与える恐れのある範囲を意味する。また、低人口地帯とは、著しい放射線災害を与えないために、適切な措置を講じうる環境、例えば人口密度の低い地帯をいう。

2.3 原子炉敷地は、人口密集地帯から必要な距離だけ離れていること。
 ここにいう人口密集地帯から必要な距離とは、仮想事故の場合、国民遺伝線量の見地から十分受け入れられる程度に全身被ばく線量の積算値が小さい値になるような距離を意味する。

3.適用範囲
 この指針の適用範囲は、陸上に定置する熱出力、1万kW以上の原子炉とする。
 なお、適用範囲以外の原子炉についても、この指針の考え方を尊重することが望ましい。

解説

1.指針のような内容を決めた経緯
1.1 従来の立地審査
 わが国においては、すでに十数基の原子炉について安全審査が行なわれた。その中には、熱出力1万kW以上の原子炉が4基ある(JRR-2、JRR-3、JRDR、原電1号炉)。立地条件の適否を判断する際の現在までの方針は、原子炉の平常運転時および事故時において一般公衆に放射線障害を与えないことであった。すなわち、

(1)平常運転時においては、敷地外における空中または水中の放射性物質の濃度および一般公衆に対する被ばく線量が法令に定める許容限度を超えないことであり、

(2)また、技術的見地からみて、最悪の場合には、起るかもしれないと考えられる重大な事故を、その原子炉について想定し、この事故の場合には、敷地外の一般公衆に対して放射線障害を与えないことである。

1.2 今回の立地指針のたて方
 行政判断の一貫性を図り、かつ申請者にめやすを与えるため、安全審査全般にわたって、将来基準を順次整備する必要があると考える。しかし、原子炉技術が発展途上にあり、かつ、その進歩の著しい現段階において、定量的な基準を作成することは、技術的にも行政的にも困難である。
 従って、今回は、安全審査全般にわたる基準の一つである立地基準の前段階のものとして原子炉立地審査指針を作成したが、この指針も同様な理由からかなり定性的なものにとどまっている。

1.3 平常運転時を除外したこと
 立地条件の適否は、従来行なわれたように、平常運転時および事故時の両方について判断しなければならない。平常運転時においては、一般公衆に放射線障害を与えないようにすべきであるが、これについては、すでに法令にかなり明確に規定してあると考える。従ってこの指針では、もっぱら事故時に公衆の安全を確保できるかどうかという立場から、立地条件の適否を判断することについて述べている。

1.4 立地条件の考え方
(1)大きな事故の誘因がないこと。
 事故時の検討には、まず事故発生の確率とその規模が問題である。現段階において、これを統計学的に論ずることは、困難であるが、大きな事故の確率は極めて小さなものでなければならないと考える。このために敷地周辺における事象について検討し、それが大きな事故の誘因とならないかどうかを判断しなければならない。その事象としては、例えば、①自然条件としては台風、洪水、津波、地震、陥没、地すべり等、②社会条件としては、火災、爆発、航空機事故等について検討する必要がある。

(2)事故に備えて原則的に必要な立地条件
 万一の事故に備えて、公衆の安全を確保するためには、さらに次のような立地条件が必要であると考える。

(i)敷地周辺における事象について検討し、大きな事故が発生した場合に、災害を拡大するようなものが少なくなければならない。その事象としては、例えば、①自然条件としては気象、水象等、②社会条件としては、土地利用状況、水利等について検討する必要がある。

(ii)原子炉と公衆は、必要かつ十分に離れていなければならない。その程度は個々の場合について判断する必要がある。

(iii)実際に大きな事故が起った場合には、放射線被ばくをできるだけ少なくするために、適切な措置を講ずる必要がある。立地条件としては、このような措置を講じうる環境になければならない。

1.5 基本的目標
 この指針において達成しようとする基本的目標は、本文に述べたように、万一の事故時にも公衆の安全を確保し、かつ原子力開発の健全な発展をはかるという方針のもとに定められた。

(1)基本的目標のa項は、従来行なわれた安全審査の先例を踏襲するものであって、考えられる事故の範囲では、公衆に放射線障害を与えないことを目標としている。

(2)b項は、a項の後楯として、技術的見地から起るとは考えられない事故の場合でも、公衆に著しい放射線災害を与えないことを目標としている。

(3)a項およびb項が、事故時に被ばくする公衆のその世代における放射線の影響を問題とするのに対し、c項は、国民遺伝線量の見地から、子孫にできるだけ遺伝的影響を及ぼさないことを目標としている。

1.6 指針の3条件
 基本的目標を達成するために、原子炉の立地条件は、必要な広さの非居住区域があり、その外側は必要な範囲まで低人口地帯となっており、さらに、人口密集地帯とは必要な距離だけ離れていなければならないこととした。
 それらの広さおよび距離は、敷地周辺の事象、原子炉の特徴、安全防護施設、一般公衆の状態等を考慮して災害評価を行ない、個々の場合について判断する必要がある。

2.指針の補足説明
2.1 重大事故に関して

(1)重大事故
 重大事故とは、災害評価のためのもので、敷地周辺の事象、原子炉の特徴、安全防護施設等を考慮し、技術的見地からみて、最悪の場合には起るかもしれないと考えられる重大な事故を意味する。これは、従来の安全審査における先例のように、技術的立場からの合理的推論と判断によって想定するものである。

(2)基準線量
 この指針では、重大事故の場合、一般公衆は放射線障害を与えないと判断するためのめやすとして基準線量を考えることとしている。
 当部会は、この意味における基準線量について諸種の検討を重ねた。その結果、当分の間、付録に掲げる基準線量を採用するのが適当であると考える。なお、この値は暫定的なものであり、とくに世界的すう勢とにらみ合せて今後更に総合的に検討する必要がある。

(3)非居住区域
 非居住区域については、障害を与えないための事後の措置を設置者においてとることが十分実際的であり、かつ、可能であると判断される場合、若干の公衆が居住しても差支えないと考える。

2.2 仮想事故に関して
(1)仮想事故
 重大事故を超えるような事故として仮想しうる事故には、いろいろある。たとえば、重大事故を想定する際には考えられなかった種類の事故、考えた種類の事故ではあるが、たとえば環境条件の虚無事象の多重した結果、その規模が想定より大きくなった事故等である。災害評価の目的には、次のように仮想事故を想定することによって、この種の事故を代表させることができるであろう。
 重大事故を想定する際に、その効果を期待した安全防護施設のうち、仮想事故の場合には、その幾つかが動作しないと仮定し、これに相当する放射性物質の放散を仮定するものである。
 しかし、この場合、どの安全防護施設をどの程度不動作と仮定するかの判断の基準は、原子炉の型式およびその設計方針等により差異がある。

(2)指標線量
 「著しい放射線災害を与えない」ということに対する指標線量は、重大事故の場合の基準線量とは、質的に異なり、量的にはそれを上廻るものと考える。その量的程度は、このような指標線量として使われている外国の例が参考になると考える。

(3)低人口地帯
 低人口地帯の人口密度および総人口が、仮想事故の場合に適切な措置を講じうる環境にあるか否かは、個々の場所について判断する必要がある。それは、いかなる措置を講ずるかによって違い、また環境の状況(例えば、地形、交通通信事情、人口分布、将来計画等)によって異なるからである。

2.3 国民遺伝線量に関して
 仮想事故の場合の国民遺伝線量は、国際放射線防護委員会(ICRP)にいう国民に対する遺伝線量の割当の中のごく小部分に納める必要がある。ICRP(1958)によれば、自然バックグラウンドおよび医療被ばくを除いた最大許容遺伝線量を5remとし、その割当は各国当局にゆだねるとしているが、一応のめやすとして集団全般の被ばくに2remを例示している。
 わが国でも、未だこの割当をきめていないので、一応ICRPのめやすに基づいて、このうち1.5remは他に用いられるものとし、残りの0.5remについて考えてみる。わが国の人口約1億人から考えると、集団全般の被ばく0.5remは、全人口および被ばく集団に占める生殖可能年令グループの比率が等しいと仮定すれば、0.5×108man・remに相当する。
 従って、仮想事故の場合の全身被ばく線量の積算値は、0.5×108man・remに比べてかなり小さい値でなければならないと考える。

2.4 適用範囲に関して

(1)新しい型式の原子炉
 この指針では、すでに運転経験が得られた型式の原子炉を対象に考えている。従って、新しい型式の原子炉については、未知の要素があることも考慮してこの指針を運用する必要がある。

(2)原子力船
 原子力船については、この指針の適用対象外とした。

(3)1万kW未満の原子炉
 陸上に定置する熱出力1万kW未満の原子炉(臨界実験装置を含む)は、この指針の適用対象外とした。しかし、これらの原子炉の審査にあたっても、本指針の精神を十分尊重して準用することが望ましい。
 なお、①非居住区域については、必要範囲まではこれを定めなければならない。②低人口地帯および人口密集地背からの距離については、たとえ重大事故を超える事故を仮想しても、周辺の公衆に著しい放射線災害を与えないことが明らかな場合は、必ずしも低人口地帯はなくてもよく、また全身被ばく線量の積算値が、国民遺伝線量の見地から受け入れられることが明らかな場合は、原子炉は人口密集地帯から離れている必要はないと考える。

(4)2基以上の原子炉の場合
 同一敷地または近接する敷地に、2基以上の原子炉を設置することとなる場合には、

 ①各原子炉の関連性を考慮に入れて、この指針を適用すべきである。

 ②なお、平常運転時についても、法令の定めるところに従い、別に検討しなければならない。

3.今後の問題点
 この指針に関連して、今後、当部会または他の機関において検討しなければならない問題がいくつかあった。その主なものは次の通りである。これらの問題について、関係当局が積極的な施策を講ぜられることが望ましい。

3.1 この指針を、順次定量的なものにすることが望ましい。そのために災害評価に使うパラメータ(事故の想定、放射性物質の拡散条件、放射線の影響判断に関する基準線量、指標線量、国民遺伝線量等)および解析方法については、さらに今後総合的に検討する必要がある。

3.2 原子炉技術が発展途上にあってその進歩が速いこと、また科学的知見が急速に増加していることにかんがみ、この指針自体も適当な時期に再検討する必要がある。

3.3 原子力船に関する指針は、その特徴も考慮し、この指針の考え方に添って別途作成することが望ましい。

3.4 実際に原子炉事故が発生した場合に対する措置は他の機関において、この指針も考慮した上で、緊急時対策として検討されねばならない。

付録

 基準線量
 よく知られているように、放射線が生体に与える影響は漸増的なものであって、あるしきい値以下では全く影響がないという性質のものではない。従って、人体に障害を与えるか否かの限界を与えるような線量を純生理学的に定めることはできない。障害を与えるか否かのけじめをつけるための線量は、放射線を使用することの利益なども考慮に入れて、総合的に判断してきめられるべきものである。よってまたそのような線量は、どのような条件の下に適用されるかによってちがってくるものである。ここでいう基準線量とは、原子炉立地の安全性を判断するにあたって、災害評価のために使うためのものである。

1.基準線量を決めた経緯
 当部会は、原子炉の安全基準を作成するのに必要な放射線許容量を検討するために、昭和33年7月に第1小委員会を設置した。第1小委員会は、35年3月から立地に対する原子炉施設の安全性を判断するための庶子炉設置基準線量の検討を開始し、37年11月に部会へ報告書を提出した。
 原子炉設置基準線量は、①原子炉の安全審査における災害評価に限定して使用する。②したがって、汚染飲食物摂取制限および退避等の規制に用いる線量とは内容的に異なるものである。③放射線審議会緊急被ばく特別部会の決めた最小限界線量(現在の医学的見地から人間に対する放射線障害を検知し得たという文献的に報告された最小の値)のうち、甲状腺および全身被ばく線量の値を重要な参考資料とするという方針のもとに定められた。
 当部会においては、上記原子炉設置基準線量および最小限界線量の制定経緯等を検討考慮した結果、原子炉立地審査指針に用いるべき基準線量として、暫定的に、原子炉設置基準線量を採用することとなった。
 なお、基準線量は暫定的なものであり、とくに世界的にこの種の考察が成熟するに従って、今後更に総合的に検討する必要がある。

2.基準線量
 基準線量としては、暫定的に次の値を採用するのが適当であると考える。
 甲状腺に対して150rem
 全身に対して25rem
 この基準線量は、(1)普通の型の原子炉を対象とすること、(2)周辺の公衆には、小児がいること、(3)重大事故が起る確率は極めて小さいこと等を前提にして決めたものである。

3.基準線量の説明

3.1 甲状腺と全身に対するものを決めた理由
 原子炉の事故のとき、放出される放射性物質による直接の被ばくを検討した場合、個人が受けると思われる線量は、甲状腺の被ばくが圧倒的に大きい。また、障害発生の点からも甲状腺が最も支配的と思われる。従って、まず甲状腺に対する基準を決めた。
 なお全身は、各臓器に対する被ばくならびに遺伝的問題に関係があるので、全身に対する基準もきめた。

3.2 被ばく線量の計算
 災害評価における被ばく線量の計算に際しては、原子炉建物内の放射性物質、汚染雲および地表面沈着物による外部被ばくならびに汚染雲呼吸による内部被ばく等を集計すべきである。
 内部被ばくを計算する場合には、ICRP勧告(1958)および同専門委員会IIの体内放射線の許容量に関する報告(1959)にある常数および計算方法を用いて、標準成人に対する被ばく線量を求めるのが適当である。また、小児に対する内部被ばくは、当分の間標準成人に対して求めた値に、甲状腺の場合は4、全身の場合は2をそれぞれ乗じて求めることが適当と思われる。

3.3 対象等について
(1)対象とする施設
 新しい型式の原子炉に対しては、甲状腺、または全身よりも他の臓器の方が障害の見地からより重要となることがあるかも知れない。そのような特殊な原子炉に対しては、他の臓器に対する基準が追加されるべきである。

(2)対象とする公衆
 放射線審議会緊急被ばく特別部会報告書において、甲状腺に障害を生じた最小の線量は、小児150rem、成人2,000remで、小児の方が成人よりも障害発生の線量の低いことを明らかにしている。従って、成人のみの集団に対しては、基準線量をそのまま適用することには、一考を要する。

(3)被ばくの重複
 重大事故の起る可能性は極めてまれであるので同一個人が原子炉災害による被ばくを一生に2回受けることは殆んどないと考えられる。
 しかし、かりに2回受けたと仮想しても、甲状腺に対しては、基準線量は小児を対象として決めてあるので小児期間中に2回被ばくを受けない限り、障害発生の可能性は極めて少ないと考える。
 また、全身に対しては、前に述べたように甲状腺被ばくが最も支配的であるので、その基準線量を超えることはないと考える。

4.外国における関係諸例
 ここにいう基準線量と関係のある諸国の基準例に次のものがある。

(i)英国:MRC報告(一次報告1958、二次報告1960、三次報告1961)

(ii)英国:AEAの災害評価に関する報告(An Assessment of Environmental Hazards from Fission Product Releases 1961)

(iii)米国:AECの原子炉敷地基準(1962)

 英国のMRC報告は、原子炉事故発生後の措置に対するものである。従ってここにいう立地審査のための基準線量とは意味が異なるものである。その一次報告は飲食物摂取制限、三次報告は吸入に関する報告である。一次、三次報告とも、小児甲状腺に対して25remを許容値としており、われわれの基準線量150remより小さい。しかし、これらMRCの値を用いたAEAの報告においては、甲状腺に対して、上記許容値の他に傷害線量(damage dose)200remを採用し、大事故の場合には許容値までの被ばくで退避することは実際上不可能であり、その際は傷害線量以上を被ばくすることをさけるように努力すべきであると述べている。なお、二次報告は外部被ばくに関するもので、30rem(小児および姙婦に対しては20rem)を許容値としており、その値はわれわれの基準線量25remとあまり差はない。
 一方、米国の原子炉敷地基準においては、事故の想定に際して、発生の可能性があるいかなる災害よりも大きな災害をひき起こすと思われる事故を仮定しなければならないとしている。
 従って、一般に炉心の相当部分の溶融を仮定しており、われわれが重大事故と仮想事故の両方について考えたのに比べて、仮想事故に近い考え方である。この事故に伴う災害の評価の指標線量として、甲状腺に対し300rem(大人)、全身に対し25remを採用している。この際2時間以内に呼吸または直接被ばくにより、指標線量以上を受ける所は人口排除区域、また事故継続期間中留まっている場合に、この線量以上を受ける地域は低人口地域でなければならないとされている。