原子力損害の民事責任に関するウィーン条約


締約国は、
 原子力の平和的利用から生ずる損害に対し財政的保護を与えるための最低限度の基準を設定することが望ましいことを認め、原子力損害の民事責任に関する条約は、各国の憲法上及び社会上の制度の相違にかかわらず、各国間の友好関係の発展に貢献することを確信し、この目的のため条約を締結することに決定して、次のとおり協定した。

 第1条
1.この条約の適用上

(a)「者」とは、個人、組合、公私の団体(法人であると否とを問わない。)施設国の法律に基づき法人格を有する国際機関及び国又はその構成部分をいう。

(b)「締約国の国民」とは、締約国若しくはその構成部分、組合又は締約国の領域内で設立された公私の団体(法人であると否とを問わない。)を含む。

(c)「運営者」とは、原子力施設に関しては、施設国が当該施設の運営者として指定し又は承認した者をいう。

(d)「施設国」とは、原子力施設に関しては、当該施設が自国の領域内におる締約国、又は、施設がいずれの国の領域にもない場合には、自国が又はその権限の下に原子力施設を運営する締約国をいう。

(e)「権限のある裁判所の法律」とは、この条約に基づき管轄権を有する裁判所の法律(国際私法に関する規則を含む。)をいう。

(f)「核燃料」とは、核分裂の自続的連鎖過程によりエネルギーを生産することができる物質をいう。

(g)「放射性生成物又は廃棄物」とは、核燃料の生産若しくは利用に際し生成された放射性物質又はこの生産若しくは利用に付随する放射線に被ばくすることにより放射化された物質をいう。ただし、ラジオ・アイソトープで、科学上、医学上、農業上、商業上、又は工業上の目的のため使用しうるように加工の最終段階に達したものは、含まない。

(h)「核物質」とは、次のものをいう。

 (i)単独で又は他の物質と結合して原子炉外で核分裂の自続的連鎖過程によりエネルギーを生産することができる核燃料(天然ウラン及び劣化ウランを除く。)

 (ii)放射性生成物又は廃棄物

(i)「原子炉」とは、中性子源を追加することなく核分裂の自続的連鎖過程が内部で起りうる装置を有する構造物で核燃料を包蔵するものをいう。

(j)「原子力施設」とは、次のものをいう。

 (i)原子炉(海洋又は航空運送手段に、その推進用のためであると他の目的のためであるとを問わず動力源として装備されるものを除く。)

 (ii)核物質生産のため核燃料を使用する工場又は核物質処理工場(照射ずみ核燃料再処理工場を含む。)
 (iii)核物質を貯蔵する施設(核物質の輸送に付随する貯蔵を除く。)ただし、施設国は、同一敷地内にある−運営者の数箇の原子力施設を−度子力施設とみなすものと決定することができる。

(k)「原子力損害」とは、次のものをいう。

 (i)原子力施設内の核燃料又は放射性生成物若しくは廃棄物又は原子力施設から発出され、同施設が起点になり若しくは同施設に発送される核物質の放射性特性から又は放射性特性と有毒性、爆発性その他の危険な特性との結合から生じ又はこれらに起因する死亡、身体の傷害又は財産の滅失若しくは損害

 (ii)権限のある裁判所の法律が定める場合には、その限度において、前記のものから生じ又はこれに起因する他の喪失又は損害

 (iii)施設国の法律が定める場合には、原子力施設内の他の放射線源が放出する他の電離放射線から生じ又はこれに起因する死亡、身体の傷害又は財産の滅失若しくは損害

(l)「原子力事故」とは、原子力損害を生ずる事故又は同一の原因による一連の事故をいう。

2.施設国は、予想される危険の程度が小さいことが確実である場合には、小量の核物質をこの条約の適用から除外することができる。ただし、次のことを条件とする。

(a)前記の量の除外の最高限度が、国際原子力機関の理事会が設定したものであること。

(b)施設国による除外が、設定された前記の限度内のものであること。

 この最高限度は、理事会が定期的に再検討する。

 第2条
1.原子力施設の運営者は、原子力損害が次のいずれかの原子力事故により生じたことが証明された場合には、その原子力損害について責任を負う。

(a)自己の原子力施設内の原子力事故

(b)自己の原子力施設から発出され又は同施設が起点になる核物質に係る原子力事故で次の時の前に生じたもの

 (i)核物質に係る原子力事故に関する貴任を他の原子力施設の運営者が文書による契約の明示の条項に従って引き受けた時

 (ii)前記の明示の条項がない場合には、他の原子力施設の運営者が核物質を引き取った時

(iii)核物質が運送手段に動力源としての使用のため(推進用のためであると他の目的のためであるとを問わない。)装備されている原子炉において使用されることが意図されている場合には、その原子炉を運営することを正当に許可された者がこの核物質を引き取った時

(iv)核物質が非締約国の領域内の者に発送された場合には、2の核物質を非締約国の領域内に輸送した運送手段からこの核物質を卸した時

(c)自己の原子力施設に発送される核物質に係る原子力事故で次の時の後に生じたもの

 (i)核物質に係る原子力事故に関する責任を文書による契約の明示の条項に従って他の原子力施設の運営者から引き受けた時

 (ii)前記の明示の条項がない時には、核物質を引き取った時

 (iii)運送手段に動力源としての使用のため(推進用のためであると他の目的のためであるとを問わない。)装備されている原子炉を運営する者から核物質を引き取った時

 (iv)核物質が運営者の書面による同意を得て非締約国の領域内の者から発送される場合には、この核物質をその国の領域から輸送する運送手段にこの核物質を積み込んだ時

 ただし、(a)の規定は、原子力損害が、原子力施設内で生じ、かつ、核物質の輸送に付随して同施設内に貯蔵される核物質に係る原子力事故により生じた場合において、他の運営者又は他の者のみが(b)又は(c)の規定に従い責任を負うときは、適用しない。

2.施設国は、法令で定める条項に従い、核物質の輸送者又は放射性廃棄物の取扱者を、その者の要請に基づき、かつ、当該運営者の同意を得て、それぞれこれらの核物質又は放射性廃棄物に関して当該運営者の代わりに運営者として指定し又は承認する旨を法令によって規定することができる。この場合には、前記の輸送者又は前記の者は、この条約の適用上、当該国の領域内にある原子力施設の運営者とみなされる。

3.(a)原子力損害が二以上の運営者の責任を生じさせる場合には、関係運営者は、各運営者に帰することができる損害を合理的に分けることができない限り、連帯して責任を負う。

  (b)原子力事故が、核物質の輸送中に同一の運送手段において又は輸送に付随する貯蔵の場合には同一の原子力施設において発生し、かつ、二以上の運営者の責任を生じさせる原子力損害を生じたときは、その総責任は、第5条の規定に基づき一運営者について適用される最高の額をこえないものとする。

  (c)(a)及び(b)のいずれの場合にも、一運営者の責任は、第5条の規定に基づきその運営者について適用される額をこえないものとする。

4.の規定に従うことを条件として、同一の運営者の数個の原子力施設が一原子力事故に関係する場合には、その運営者は、各関係原子力施設に関し、第4 の規定に従うことを条件として、同一の運営者の数個の原子力施設が一原子力事故に関係する場合には、その運営者は、各関係原子力施設に関し、第5条の規定に基づきその運営者について適用される額まで責任を負う。

5.この条約に別段の定めがある場合を除くほか、運営者以外の者は、原子力損害について責任を負わない。ただし、このことは、この条約が署名のため開放される日に効力を有し又は署名、批准若しくは加入のため開放されている運送の分野における国際条約の適用に影響を及ぼすものではない。

6.いずれの者も、第1条1(k)の規定に基づく原子力損害ではないが同条1(k)(ii)の規定によれば原子力損害となりうる喪失又は損害について、責任を負わない。

7.直接請求は、権限のある裁判所の法律が規定する場合には、第7条の規定に基づき損害賠償措置を提供している者に対し提起する。

 第3条
 この条約に従って責任を負う運営者は、第7条の規定に基づき要求される損害賠償措置を提供する保険人若しくは他の財政的保証人が発給し又はこの者のために発給される証明書を輸送者に提供するものとする。

この証明書には、当該運営者の氏名及び住所並びに損害賠償措置の額、種類及び期間を記載するものとし、これらの記載について、証明書を発給した者又は自己のために証明書が発給された者は、争うことができない。この証明書は、また、損害賠償措置が適用される核物質を指示し、かつ、指名された者がこの条約の解釈上の運営者である旨の施設国の権限のある公の当局による記載を含むものとする。

 第4条
1.この条約に基づく運営者の原子力損害についての責任は、絶対的なものである。

2.原子力損害の全部又は一部が、この損害を受けた者の重大な過失から、又はその者が損害を発生させようとする意図をもって行なった行為若しくは不作為から生じたものであることを運営者が証明する場合には、権限のある裁判所は、その法律が定めるときは、その者が受けた損害について運営者の賠償支払義務の全部又は一部を免除することができる。

3.(a)運営者は、武力紛争行為、侵略、内戦又は反乱に直接起因する原子力事故により生じた原子力損害については、この条約に基づく責任を負わない。

(b)施設国の法律に反対の定めがある場合を除くほか、運営者は、異常な性質の巨大な天災地変に直接起因する原子力事故により生じた原子力損害については、責任を負わない。

4.原子力損害及び原子力損害以外の損害の双方が一原子力事故により又は一原子力事故と一若しくは二以上の他の事故との双方により生じたときは、この原子力損害以外の損害は、この条約の適用上、原子力損害から合理的に区別することができない限度において、原子力事故により生じた原子力損害とみなす。ただし、損害がこの条約の適用を受ける原子力事故とこの条約の適用を受けない電離放射線の放射との双方により生じたときは、この条約のいかなる規定も、その電離放射線の放射に関連して責任を負う者の責任で、原子力損害を受けた者に関係するもの又は求償若しくは分担請求の方法によるものを制限し、又は他の影響を及ぼすものではない。

5.運営者は、次のものに対する原子力損害についてはこの条約に基づく責任を負わない。

(a)原子力施設又はこの施設の敷地内にある財産でこの施設に関連して使用され又は使用を意図されているもの

(b)原子力事故の時に当該核物質を積載していた運送手段

6.施設国は、法律により、5(b)の規定を通用しない旨を規定することができる。ただし、いかなる場合においても、運送手段に対する原子力損害以外の原子力損害についての運営者の責任は、一原子力事故について5百万合衆国ドルより少なく減じてはならない。

7.この条約のいかなる規定も、次のものに影響を及ぼすものではない。

(a)運営者が3又は5の規定によりこの条約に基づく責任を負わず、かつ、ある個人が損害を生じさせようとする意図をもって行なった行為又は不作為により生じさせた原子力損害についてその個人の責任

(b)運営者が5(b)の規定によりこの条約に基づく責任を負わない原子力損害についての運営者のこの条約外における責任

 第5条
1.運営者の責任は、施設国が一原子力事故について5百万合衆国ドルを下らない額まで制限することができる。

2.この条の規定に基づき設定される責任の限度は、利息又は原子力損害賠償請求のための訴訟において裁判所が裁定した費用を含まない。

3.この条約にいう合衆国ドルは、1963年4月29日の金による合衆国ドルの価値、すなわち、純金1トロイ・オンスあたり35合衆国ドルに等しい計算単位である。

4.第4条6及びこの条の1に掲げる額は、各国の通貨に端数のない額で換算することができる。

 第6条
1.この条約に基づく賠償請求権は、原子力事故の日から10年以内に訴が提起されないときは、消滅する。ただし、施設国の法律に基づき運営者の責任が10年をこえる期間について保険、他の損害賠償措置又は国家資金によりてん補されるときは、権限のある裁判所の法律は、運営者に対する賠償請求権が、10年をこえるが施設国の法律に基づきその運営者の責任期間とされる期間をこえない期間の後に消滅する旨を規定することかできる。この消滅期間の延長は、いかなる場合にも、前記の10年の期間の消滅前に死亡又は身体の傷害について運営者に対し訴を提起した者のこの条約に基づく賠償請求権に影響を及ぼすものではない。

2.原子力損害が、その損害の時に盗取され、喪失され、投荷され又は放棄された核物質に係る原子力事故により生じたときは、1の規定に基づき設定される期間は、その原子力事故の日から起算する。ただし、この期間は、いかなる場合にも、盗取、喪失、投荷又は放棄の日から20年をこえないものとする。

3.権限のある裁判所の法律は、原子力損害を受けた者が損害及び親書について責任を負う運営者を知った日又は知るべきであった日から3年を下らない消滅時効期間を設定することができる。ただし、1及び2の規定に基づき設定される期間をこえないものとする。

4.権限のある裁判所の法律に別段の定めがある場合を除くほか、原子力損害を受けたと主張し、かつ、この条の規定に基づいて適用される期間内に賠償の訴を提起した者は、この期間の経過後においても、最終判決が言い渡されていないことを条件として、損害の増大を理由に請求を変更することができる。

5.裁判管轄権が第11条3(b)の規定に基づき決定され、かつ、この決定を行なう権限のあるいずれかの締約国に対しこの条の規定に基づき適用される期間内に申請が行なわれたが、この決定の後の残りの時日が6箇月より短いときは、訴を提起することができる期間は、前記の決定の日から計算して6箇月とする。

 第7条
1.運営者は、施設国が定める額、積類及び条件で原子力損害に対する自己の責任をてん補する保険その他の損害賠償措置を維持するよう要求される。施設国は、保険又は他の損害賠償措置の支払額が運営者に対し提起された原子力損害賠償請求を満たすため不適当であり、かつ、第5条の規定に基づき設定される限度をこえない限りにおいて、必要な資金を提供することにより、その請求の支払を確保するものとする。

2.1のいかなる規定も、締約国又は州若しくは共和国のようなその憲法上の構成部分に対し、運営者としての責任をてん補するための保険又は他の損害賠償措置を維持するよう要求するものではない。

3.の規定に基づき保険若しくは他の損害賠償措置により又は施設国により提供される資金は、もっぱらこの条約に基づき支払われる損害賠償のためにのみ使用されるものとする。3 の規定に基づき保険若しくは他の損害賠償措置により又は施設国により提供される資金は、もっぱらこの条約に基づき支払われる損害賠償のためにのみ使用されるものとする。

4.いずれの保険者又は他の損害賠償措置者も、1の規定に基づき提供される保険又は他の損害賠償措置を、権限のある公の当局に対し少なくとも2箇月の書面による予告を与えることなしに、又はその保険又は損害賠償措置が核物質の輸送に関連する限りその輸送期間中に、停止し、又は取り消してはならない。

 第8条
 この条約の規定に従うことを条件として、損害賠償の性質、形式及び範囲並びにその衡平な配分は、権限のある裁判所の法律により規律するものとする。

 第9条
1.国の又は公共の健康保険、社会保険、社会保障、労働者補償又は職業病補償の制度が原子力損害についての損害賠償を含むときは、この条約に基づき損害賠償を受けるこれらの制度の受益者の権利及び責任を負う運営者に対するこれらの制度上の求償権は、この条約の規定に従うことを条件として、これらの制度が設定された締約国の法律又はこの制度を設定した政府間機関の規則により決定されるものとする。

2.(a) 運営者でない締約国の国民がいずれかの国際条約又は非締約国の法律に基づき原子力損害に対する賠償を支払ったときは、その者は、自己が支払った額まで、損害賠償を受けた者のこの条約に基づく権利を代位により取得する。いずれの者も、運営者がこの条約に基づきその者に対し求償権を有する限度まで権利を取得することができない。

 (b)この条約のいかなる規定も、第7条1の規定に基づき提供される資金以外の資金から原子力損害に対する損害賠償を支払った運営者が、同規定に基づき損害賠償措置を提供する者又は施設国から、自己が支払った額まで、損害賠償を受けた者がこの条約に基づき取得する額を回収することを妨げるものではない。

 第10条
 運営者は、次の場合にのみ求償権を有する。

(a)書面による契約により明示的に定められている場合

(b)原子力事故が損害を生じさせる意図をもって行なわれた作為又は不作為から生じた場合には、その意図で作為又は不作為を行なった者に対する場合。

 第11条
1.この条に別段の定めがある場合を除くほか、第2条の規定に基づく訴訟の管轄権は、その領域内で原子力事故が生じた締約国の裁判所のみが有する。

2.原子力事故が締約国の領域外で生じた場合又は原子力事故が明確に認定しえない場合には、訴訟の管轄権は、責任を負う運営者の施設国の裁判所が有する。

3.及びこの規定に基づき二以上の締約国の裁判所が管轄権を有する場合には、管轄権は、次の裁判所が有する。3 及びこの規定に基づき二以上の締約国の裁判所が管轄権を有する場合には、管轄権は、次の裁判所が有する。

 (a)原子力事故が一部は締約国の領域外で生じ、一部は単一の締約国の領域内で生じたときは、その単一の締約国の裁判所

 (b)その他の場合には、1又は2の規定に基づき自国の裁判所に権限が与えられる締約国間の合意により決定される裁判所

 第12条
1.第11条の規定に基づき管轄権を有する裁判所が言い渡した最終判決は、次の場合を除くほか他のいずれの締約国の領域内においても承認されるものとする。

 (a)詐欺により判決が与えられた場合

 (b)判決が下された当事者が自己の弁論を行なう公正な機会を与えられなかった場合

 (c)判決が、その領域内で承認するよう求められている締約国の公の政策に反するものであり、又は裁判の基本原則に合致しない場合

2.承認された最終判決は、その執行が求められる締約国の法律により要求される手続に従って執行を求られたときは、その締約国の裁判所の判決として執行しうるものとする。

3.判決が与えられた請求の本案は、その後の訴訟手続に服さない。

 第13条
 この条約及びこの条約に基づいて適用される国内法は、国籍、住所又は居所に基づき差別なしに適用するものとする。

 第14条
 執行措置に関する場合を除くほか、国内法又は国際法の規定に基づく裁判管轄の免除は、第11条の規定に基づいて権限を有する裁判所に対しこの条約に基づいて提起された訴において援用してはならない。

 第15条
 締約国は、原子力損害賠償、原子力損害賠償に関連して裁判所が裁定した利息及び費用、保険料及び再保険料並びにこの条約に基づき保険、再保険並びに他の損害賠償措置により提供される資金又は施設国により提供される資金が、その領域内で損害が発生した締約国の通貨及びその領域内に賠償請求者が通常居住する締約国の通貨に、また保険又は再保険の料金及び支払金に関しては、保険又は再保険の契約に定める通貨に、自由に交換しうることを確保するため適当な措置を執る。

 第16条
 いずれの者も、原子力の分野における民事責任に関する他の国際条約に基づき同一の原子力損害に関して損害賠償を受けた限度において、この条約に基づく損害賠償を受ける権利を与えられない。

 第17条
 この条約は、この条約が署名のため開放される日に効力を有し又は署名、批准若しくは加入のため開放されている原子力の分野における民事責任に関する国際協定又は国際条約の適用について、これらの協定又は条約の当事国間に影響を及ぼすものではない。

 第18条
 この条約は、原子力損害に関し、国際公法の一般原則の下に締約国が有することがある権利に影響を及ぼすものと解してはならない。

 第19条
1.第11条3(b)の規定により合意を行なった締約国は、その合意の写しを、他の締約国への情報及び配布のため、国際原子力機関の事務局長に遅滞なく提出するものとする。

2.締約国は、この条約の適用を受ける事項に関連する自国の法令の写しを、他の締約国への情報及び配布のため、国際原子力機関の事務局長に提出するものとする。

 第20条
 この条約の規定は、第25条の規定に基づく終了又は第26条の規定に基づく廃棄によるいずれかの締約国に対するこの条約の適用の終了にかかわらず、その終了前に生じた原子力事故により発生した原子力事故により発生した原子力損害に対し引き続き適用する。

 第21条
 この条約は、1963年4月29日か5月19日までウィーンにおいて開催された原子力損害の民事責任に関する国際会議に代表を派遣した国の署名のため開放する。

 第22条
 この条約は、批准されなければならない。批准書は、国際原子力機関の事務局長に寄託するものとする。

 第23条
 この条約は、5番目の批准書の寄託の後3箇月で効力を生じ、その後に条約を批准する名国については、その国の批准書の寄託の後3箇月で効力を生ずる。

 第24条
1.国際連合又はいずれかの専門機関若しくは国際原子力機関の加盟国で、1963年4月29日から5月19日までウィーンにおいて開催された原子力損害の民事責任に関する国際会議に代表を派遣しなかったものは、この条約に加入することができる。

2.加入書は、国際原子力機関の事務局長に寄託するものとする。

3.この条約は、加入国については、その国の加入書の寄託の後3箇月で効力を生ずる。ただし、第23条の規定に基づくこの条約の効力発生の目前には効力を生じない。

 第25条
1.この条約は、その効力発生の日から10年の期間効力を有する。いずれの締約国も、この10年の期間の終了前に少なくとも12箇月の予告を国際原子力機関の事務局長に行なうことにより、その10年の期間の終わりに自国に対するこの条約の適用を終了させることができる。

2.この条約は10年の期間の後は、この規定に基づきこの条約の適用を終了させなかった締約国についてさらに5年の期間存続し、その後は、5年間の期間ごとに、この各期間の終了前に少なくとも12箇月の予告を国際原子力機関の事務局長に行なうことによりその期間の終わりにこの条約の適用を終了させなかった締約国について存続する。

 第26条
1.国際原子力機関の事務局長は、この条約の効力発生の日から5年の期間が満了した後はいつでも、締約国の3分の1がこの条約の改正を検討するため会議を開催することを希望する旨を表明するときは、このための会議を招集するものとする。

2.いずれの締約国も、1の規定に基づいて開催された第1回改正会議の後12箇月の期間内に、国際原子力機関の事務局長にあてた通告により、この条約を廃棄することができる。

3.廃棄は、国際原子力機関の事務局長が廃棄の通告を受領した日の後1年で効力を生ずる。

 第27条
 国際原子力機関の事務局長は、1963年4月29日から5月19日までウィーンにおいて開催された原子力損害の民事責任に関する国際会議に招請された国及びこの条約に加入した国に対し次の事項を通告する。

(a)第21条、第22条及び第24条の規定に基づいて行なわれた署名並びに受領した批准書及び加入書
(b)第23条の規定に基づいてこの条約が効力を生ずる日
(c)第23条及び第26条の規定に基づいて受領した終了及び廃棄の通告
(d)第26条の規定に基づいて行なわれる改正会議の招集の要請

第28条
 この条約は、国際連合憲章第102条の規定に従い、国際原子力機関の事務局長により登録されるものとする。  第29条
 英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語の本文をひとしく正文とするこの条約の原本は、国際原子力機関の事務局長に寄託するものとする。国際原子力機関の事務局長は、その認証騰本を配布する。
 以上の証拠として、下名の全権委員は、このため正当に委任を受け、この条約に署名した。
 1963年5月21日にウィーンで作成した。