原子力局

昭和38年度原子力平和利用研究委託費、
研究費補助金交付について



 昭和38年度原子力平和利用研究委託費および研究費補助金の交付については、さる3月1日付官報で別項のように告示された。申請書は来る3月30日までに、科学技術庁長官あてに提出することになっている。原子力局では申請の締切りをまって、ただちに審査を開始し、関係各省庁の意見ならびに日本学術会議の推せんする学識経験者の意見を参考にして交付原案を作成し、庁議にはかったうえ遅くとも6月末までに交付決定の予定である。以下簡単に昭和38年度原子力平和利用研究委託費、同研究費補助金の交付について、予算助成の重点、試験研究題目または課題選定の考え方を示すこととする。

1.昭和38年度予算の概要

 昭和38年度予算政府原案による原子力平和利用研究委託費は157,671千円、同研究費補助金は151,543千円合計309,214千円である。予算規模は昭和37年度に対比して研究委託費は6,254千円増、研究費補助金は2,260千円増、合計8,514千円増である。また、従来研究委託費を交付して行なわれてきた原子力船、ウラン濃縮、放射能対策等に関する試験研究は、予算措置が別途講ぜられており、昭和38年度においては、研究委託費の対象項目としては取り上げないことになっている。

2.昭和38年度助成の重点

 昭和38年度の助成の重点としては、原子力開発利用長期計画に盛られた前期100万kW動力炉の開発の実現に資するため、軽水冷却型およびガス冷却型動力炉の開発に関する試験研究を取り上げることとする。このため研究委託費の対象としては、原子力施設の安全基準および安全評価に関する試験研究に重点をおき、また研究費補助金の対象としては、軽水冷却型およびガス冷却型動力炉の製作技術に関する試験研究とそれに使用する燃料および材料の照射に関する試験研究に重点をおくものとする。

3.研究委託費に係る試験研究題目の選定の考え方

 研究委託費の交付は、国が自ら行なうべき試験研究のうち、国立機関で行なうよりは、他に委託することが当該試験研究をより効率的に遂行しうるものであって、昭和38年度は原子力施設の安全基準、原子力施設の安全評価、炉解析、核融合反応、放射性廃棄物または放射線障害防止に関する試験研究を取り上げるものとする。

(1)原子力施設の安全基準に関する託験研究

 安全性の確保の問題は、動力炉の開発に当たって常に検討すべきものである。なかんずく、原子炉の安全基準の作成および国の安全審査のための資料の整備は原子力発電計画が急速度に具体化しつつある現状にかんがみ、特に緊急を要するものであって、関係試験研究の促進をはかる必要がある。このような事情に対処して、昭和38年度は、主として軽水冷却型動力炉の安全設計基準に関する問題を取り上げることとし、特に原子炉配管系の耐震設計基準、原子炉構造材料の溶接検査基準および腐食試験基準に関する試験研究を継続させるほか、新たに圧力容器の構造設計基準に関する試験研究は、その性質上、関係機関の共同研究によってより効果的に実施されることが望ましい。

(2)原子力施設の安全評価に関する試験研究

 原子力施設には、種々の安全施設が設けられることになっており、その設計には万全の考慮が払われているが、これらの安全施設に対する評価に関する試験研究は、その実験において種々の技術的困難性を伴うことから、世界的にも遅れている分野である。原子力発電計画の具体化しつつある現状にかんがみ、原子力施設の安全基準に関する試験研究と同様、すみやかに試験研究の促進をはかる必要がある。

 昭和38年度は、冷却材喪失事故に伴う炉心の破損又は溶融事故の防止ならびに格納容器の構造および機能に関する試験研究を取り上げる。このほか放射性ガスの拡散および沈着に関する試験研究を継続させる。

 またこれらの諸試験研究についても、原子力施設の安全基準に関する試験研究と同様、関係機関の共同研究によって、より効果的に実施されることが望ましい。

(3)炉解析に関する基礎的試験研究

 炉解析に関する基礎的試験研究は、本来日本原子力研究所を中核体として進められるべきものであり、このため同所においても人員施設の充実がはかられつつある。しかしながら、当面日本原子力研究所のみでは研究の実施が望み薄であるものも少なくない。これらの問題のうち、早期に研究実施が望まれているものについては、その研究基盤ができ次第日本原子力研究所に移すことを前提として、委託研究によりその促進をはかることとする。

 昭和38年度は、核定数の解析および3次元炉心構造における中性子の計算コードに関する試験研究をとりあげる。この種の試験研究は、その性格上共同研究によって実施されることが望ましい。

(4)核融合反応に関する試験研究

 昭和38年度以降、研究委託費をもって取り上げてきた高温プラズマ加熱に関する試験研究は、昭和39年度をもって一応の目途をつけるため、既設の高温プラズマ発生装置を使用して、データの集積整理をはかることとし、試験研究を継続する。

(5)放射性廃棄物または放射線障害防止に関する試験研究

 放射性廃棄物については、ガス状廃棄物および動物廃棄物等の処理方法並びに最後処分に適した廃棄物用容器に関する試験研究を取り上げる。また放射線障害防止については、薬剤に関する試験研究を継続するほか、新たに職業環境における、放射線障害防止用器材に関する試験研究を対象として取り上げる。

4.研究費補助金に係る試験研究課題の選定の考え方

 研究費補助金の交付は原子力関係技術の育成のため国がその試験研究費の一部を交付することにより当該試験研究が促進されその成果が期待される試験研究を対象として行なうものであって、昭和38年度は軽水冷却型およびガス冷却型動力炉の製作技術に関する試験研究、動力炉用燃料又は材料の照射試験、炉物理又は燃料に関する試験研究、アイソトープ又は放射線の利用に関する試験研究を取り上げるものとする。

(1)軽水冷却型またはガス冷却型動力炉の製作技術に関する拭験研究

 軽水冷却型又はガス冷却型動力炉の開発については、従来海外からの技術を消化し、動力炉国産化のための技術基盤を確立するよう研究開発がすすめられてきた。その結果動力炉製作に関する一般基礎技術水準は、相当高められてきたが、現段階として未だ国内製作の見通しのえられないものも少なくない。

 このため、動力炉製作に関する国産化比率向上の見地から、積極的に助成措置を講ずるものとし、国内における基礎研究が比較的遅れているものについては、海外からの技術を消化しうるまで技術基盤を高め、またわが国の関連技術が相当高いものについては海外からの技術の導入がなくとも製作しうるよう研究開発を促進することを当面の目途とする。上記のような観点から昭和38年度は、これらのうち主循還ポンプ又はガス圧送機の軸封機構、制御棒駆動装置の材料および加工、主弁の機構で、燃料被覆管の加工、コンクリート圧力容器の施工法に関する試験研究を助成の対象とする。

(2)動力炉用燃料または材料の照射に関する託験研究

 動力炉用燃料および材料の開発過程において、炉内照射試験の必要なことは今さら申すまでもないことである。しかしながら日本原子力研究所において目下建設準備中の材料試験炉は、その完成までになお数年を要する見込みであるので、燃料材料の国産化比率向上の見地からとくに重要かつ緊急を要すると考えられている照射試験については、当面海外に試験を依頼し、その促進をはかることとする。昭和38年度においては、二酸化ウラン燃料および圧力容器用鋼材についてそれぞれ従来開発された製造技術を基礎としてそれらを動力炉に使用したさいの実効性または任用限界を明らかにすることを目的とした照射試験を助成の対象とする。

(3)炉物理または燃料に関する試験研究

 昭和38年度の助成の重点は、上記(1)および(2)に述べた動力炉の製作技術およびそれに使用する燃料、材料の照射に関する試験研究におかれているが、原子炉開発に関する試験研究もまた、今後の動力炉開発の進展に欠くことのできないものであり、国内技術の萠芽の育成の観点からも、重要と考えられるものに対して助成を行なうことが必要である。この場合、この種の試験研究は、きわめて広範多岐にわたるものであるが、昭和38年度は、これらのうちとくに炉物理および燃料に関する試験研究に対し、助成措置を講ずることとした。すなわち炉物理および燃料に関しては多領域炉心の炉物理および炉物理実験に使用する測定機器に関する試験研究を助成の対象とし、燃料に関しては、目下開発中のウラン製錬法に関する試験研究を継続させるとともに、新たに日米研究協力の線に沿って行なわれるセラミック系燃料および分散型燃料に関する試験研究を助成の対象とする。

(4)アイソトープまたは放射線の利用に関する試験研究

 アイソトープ又は放射線の利用に関する試験研究は新しい着想に基づく技術の育成をはかることとするが、昭和38年度はアイソトープ利用の実態調査の結果実用面で比較的開発の遅れているアイソトープの工業利用および放射線化学に助成の重点をおくものとし、特に放射線化学については、日本原子力研究所高崎研究所における中間工業化試験に結びつく基礎研究のうち、有機物質の放射線化学反応に関する試験研究を中心に考えている。

 またこのほか、アイソトープ又は放射線の利用に関連して生ずる、民間、国立機関等から要望の強い有機標識化合物の製造、実用的な放射線測定方法の開発に関する試験研究を助成の対象とする。


科学技術庁告示第2号

 原子力平和利用研究委託費交付規則(昭和32年7月科学技術庁告示第5号)第1条第2項および第2条第2項の規定に基づき、昭和38年度原子力平和利用研究委託費に係る試験研究題目および申請書の提出期間を次のように定める。

 昭和38年3月1日

      科学技術庁長官 近 藤 鶴 代

 昭和38年度原子力平和利用研究委託費に係る試験研究題目および申請書の提出期間

(一)試験研究題目は、次のとおりとする。

1.原子力施設の安全基準に関する試験研究

 (1)配管系構造物の耐震設計基準に関する試験研究

 (2)圧力容器の構造設計基準に関する試験研究

 (3)原子炉構造材料の溶接検査基準又は腐食試験基準に関する試験研究

2.原子力施設の安全評価に関する試験研究

 (1)原子炉の炉心の破損又は溶融事故の防止に関する試験研究

 (2)原子炉格納容器の構造および機能に関する試験研究

 (3)放射性ガスの拡散および沈着に関する試験研究

3.炉解析に関する基礎的試験研究

 (1)核定数の解析に関する試験研究

 (2)三次元炉心構造における中性子束の計算コードに関する試験研究

4.核融合反応に関する試験研究

 (1)高温プラズマの加熱に関する試験研究

5.放射性廃棄物又は放射線障害防止に関する試験研究

 (1)放射性廃棄物の処理方法又は処分方法に関する試験研究

 (2)放射線障害防止用薬剤に関する試験研究

 (3)職業環境における放射線障害防止用器材に関する試験研究

(ニ)申請書提出期間は、昭和38年3月1日から昭和38年3月30日までとする。

科学技術庁告示第3号

 原子力平和利用研究費補助金交付規則(昭和32年4月科学技術庁告示第2号)第1条第2項および第2条第2項の規定に基づき、昭和38年度原子力平和利用研究費補助金に係る試験研究課題および申請書提出期間を次のように定める。

昭和38年3月1日

     科学技術庁長官 近藤 鶴代

昭和38年度原子力平和利用研究費補助金に係る試験

研究課題および申請書の提出期間

(一)試験研究課題は、次のとおりとする。

1.軽水冷却型又はガス冷却型動力炉の製作技術に関する試験研究

(1)主循環ポンプ又はガス圧送機の軸封機構に関する試験研究

(2)制御棒駆動装置の材料および加工に関する試験研究

(3)主弁の機構に関する試験研究

(4)燃料被覆管の加工に関する試験研究

(5)コンクリート圧力容器の施工法に関する試験研究

2.動力炉用燃料又は材料の照射に関する試験研究

 (1)二酸化ウラン燃料の照射に関する試験研究

 (2)圧力容器用鋼材の照射に関する試験研究

3.炉物理又は燃料に関する基礎的試験研究

 (1)多領域炉心物理に関する試験研究

 (2)炉物理実験用測定機器に関する試験研究

 (3)セラミック系燃料又は分散型燃料に関する試験研究

 (4)ウランの新製錬法に関する試験研究

4.アイソトープ又は放射線の利用に関する試験研究

 (1)有機標識化合物の製造に関する試験研究

 (2)アイソトープの工業利用に関する試験研究

 (3)放射線の測定方法に関する試験研究

 (4)有機物質の放射線化学反応に関する試験研究

(二)申請書の提出期間は、昭和38年3月1日から昭和38年3月30日までとする。