原子力局

通商産業大臣に対する放射線審議会の答申

−金属鉱山等保安規則の一部改正について−

 本年9月3日通商産業大臣から放射線審議会に対して諮問のあった「金属鉱山保安規則の一部改正」について同年9月22日に開催された第12回放射線審議会総会において審議されたが、「医療法施行規則の一部改正」の審議と併せて臨時に特別部会において付議されることになり、9月27日および10月11日の同特別部会において慎重に審議が行なわれた結果、本年10月22日別記のとおり答申がなされた。

 本答申において注目されることは、核原料物質鉱L山の坑内における222Rnの空気中の許容濃度を10-7μc/cm3とすることについて当分の間やむをえないとしたことである。

 222Rnの空気中の許容濃度については、国際放射線防護委員会(ICRP)の専門委員会IIの勧告どおり10-8μc/cm3とすべきであるが、わが国核原料物質鉱山の現状からすると、使用する扇風機の馬力等からみてこれは相当困難な問題であり、諸外国におけるこれら鉱山とも共通する悩みである。

 わが国の核原料物質鉱山(人形峠)において、現在使用している25HPの扇風機をもってしては222Rnの空気中の濃度を10-8μc/cm3にすることは到底不可能であり、これを可能ならしめるためには現在の通気量の3.63倍、すなわち2,180m3/minの通気量をもたらす約1,200HPの扇風機を設置する必要があると推算される。

 また、扇風機の馬力を増大して換気能力を高めようとすれば、必然的に坑内の空気の流速が著しく増大し、粉じんの飛散を生じ、ひいては、じん肺の多発化を招来するかもしれず、その防止のためには坑道を大幅に拡張する必要に迫られ、著しく設備、経費の増大となり早急な実現はかなり難しいものと考えられる。

 なお、現状のままで作業従事者の被曝線量を低下させるためには、作業に従事する時間を現在の1/10に短縮することが必要である。

 しかしながら、これらの点について審議会は、経済的にこそかなりの問題があろうが、技術的に全く不可能とはいい切れない面もあるので、今後十分調査を重ね研究を進めてできるだけ早い機会にICRPの勧告の趣旨に沿うよう努力すべきであるとした。

(改正の概要)

 金属鉱山等保安規則の改正の概要は次のとおりである。

1.1958年国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に従って核原料物質鉱山の鉱山、労働者の最大許容線量を定め、管理区域を設けて測定管理するようにしたこと。

2.前記の勧告に従って、鉱山の周辺に居住する人達の放射線障害防止のため核原料物質鉱山から排出する空気または水の中に含まれる放射性物質の濃度を定め、さらに核原料物質鉱山内に居住する人達について許容被曝放射線量の水準を定めたこと。

3.新たに一章を設け、従来の核原料物質鉱山に関する規定のうち、総則以外の章に規定されていた事項をこの章に集めるとともに前記1、2に関する事項をこの章において定めたこと。

37放審議第3号

昭和37年10月22日

通商産業大臣 福田 一殿

放射線審議会会長 木村健二郎

金属鉱山等保安規則の一部改正について(答申)

 昭和37年9月3日37保第136号をもって当審議会に諮問のあった「金属鉱山等保安規則の一部改正について」については、昭和37年9月22日の第12回放射線審議会および同年9月27日ならびに10月11日の医療法施行規則および金属鉱山等保安規則一部改正のための特別部会において下記のとおりその結論を得たので答申する。


おおむね貴案のとおりで適当であると考えるが、なお次の点について考慮すること。

1.放射性物質の濃度等の測定について

 放射性物質の濃度等の測定については、その頻度、個所および方法について実態を考慮し具体的な行政指導を行なうこと。

2.告示別表中に掲げる放射性物質の濃度について

(1)226Ra等の核種については、告示別表中になんら規定はないが、今後鉱山における実情を調査し必要に応じて行政指導を行ない障害の防止に努めること。

(2)222Rnに係る空気中の放射性物質の許容濃度については、1959年の国際放射線防護委員会専門委員会IIの勧告どおり10−8μc/cm3とすべきものと考える。しかしながら核原料物質鉱山の特殊な実情にかんがみ、とくに鉱山の坑内について当分の間222Rnのみの最大許容濃度を10-7μc/cm3とすることはやむを得ないが、この点については今後調査研究を積極的に行ない前記勧告の趣旨に沿うよう努力すること。

 なお、管理区域の設定および居住区域の許容限度については、告示別表中の特例の適用がないものとすること。

3.危険時の措置における作業従事者について

 危険時の措置に係る作業従事者については、当該条項但書中に女子を含まないよう規定すること。