原子力委員会

原研水性均質臨界実験装置の一部変更の
安全性に関する委員会の答申

 原子力委員会では、昭和37年2月23日付で諮問を受けた、日本原子力研究所、水性均質臨界実験装置のトリウムスラリーを使用することに伴う、一部変更の安定性について審議を行なっていたが、結論を得たので次のとおり6月7日付で内閣総理大臣あて答申を行なった。

37原委第44号

昭和37年6月7日

内閣総理大臣 殿

原子力委員会委員長

日本原子力研究所原子炉施設(水性均質臨界実験装置)の一部変更の
安全性について(答申)

 昭和37年2月23日付37原第640号をもって諮問のあった標記の件について、下記のとおり答申する。


 日本原子力研究所原子炉施設(水性均質臨界実験装置)の一部変更の安全性については、日本原子力研究所の提出した「原子炉施設(水性均質臨界実験装置)の一部変更に関する資料」(昭和37年2月22日付)に基づいて審査した結果、別添の原子炉安全専門審査会の安全性に関する報告書のとおり、安全上支障がないものと認める。

昭和37年5月28日

原子力委員会委員長

三木 武夫 殿

原子炉安全専門審査会

会長 矢木  栄

 日本原子力研究所原子炉施設(水性均臨界実験装置)の一部変更の安全性について当審査会は、昭和37年2月24日付37原委第12号をもって審査の結果の報告を求められた標記の件について結論を得たので報告します。

 I 審査結果

 日本原子力研究所が原子炉開発に関する研究を目的として、茨城県那郡珂東海村、日本原子力研究所東海研究所に設置した水性均質臨界実験装置の一部変更について、同研究所の提出した原子炉施設(水性均質臨界実験装置)の一部変更に関する資料(昭和37年2月22日付)に基づき審査した結果、この装置の安全性は変更後も十分確保しうると認める。

 II 審査内容

1.熱出力

 熱出力は、従来、最高熱出力10W、連続運転時間3時間であったが、今回の変更によって最高熱出力50W、連続最大熱出力時間100W時、週当りの最大熱出力時間250W時となる。この出力の上昇は実験上妥当なものと認める。

2.ブランケット液およびブランケット液循環系この装置は球形の炉心タンクのまわりに球形のブランケットタンクをもった2領域の装置であり、炉心タンクには硫酸ウラニルの重水溶液をブランケット循環系には垂水を入れて実験を行なっていたものである。

 今回の変更は、ブランケット液として重水のほかに酸化トリウムの重水スラリー(以下スラリーと云う。)を用いることおよびブランケット液循環系の軸流ポンプ2台をキヤンドポンプ2台に置き換えることである。このブランケット循環系にスラリーを入れて実験を行なうことに関しては、昭和34年6月30日付原子炉安全審査専門部会の報告書において、スラリーにおける酸化トリウムの沈降に関する資料が整った上で別途検討すべきであることを明らかにしている。

 今回の審査にあたっては、日本原子力研究所から提出されたスラリーの沈降試験、攪拌試験、管内再浮遊試験、ブランケット系試験等のコールド試験結果を参考として検討を行なった。

 ブランケットタンクに入れるスラリーの濃度はA炉心(80cmφ)の場合100g/l〜1kg/l、B炉心(66cmφ)の場合100g/β〜700g/l、C炉心(53cmφ)の場合100g/lとなっている。この範囲の濃度におけるスラリーの沈降速度は沈降速度試験の結果によれば、濃度が濃くなるに従って遅くなり、スラリーの沈降によって生ずる反応度の増加を推算すると最も反応度増加率の大きい場合でも、沈降開始後10分間で約0.5%△K/Kである。

 スラリーのブランケットタンク内および循環系内における流動状態についても実物大の模型による試験の結果から見て、上記のスラリーの沈降は循環系が動作している限り起らないことが確かめられている。

 また循環が停止した場合にはスラリーが沈降しきるまでの時間は10時間以上である。循環系に従来0.55HPの軸流ポンプ2台が使用されていたが、これを7.5HPのキャンドポンプ2台に変えることはスリラーの流動特性を改善するために必要かつ妥当と考える。

 なお、ブランケットタンク内に部分的にスラリーが沈殿する可能性があるが、吹出口、吸込口の位置、形状を変えることにより、部分的な沈殿を防止できることが確められている。

 以上の試験結果からみて、ブランケット循環系にスラリーを入れた試験を行なうことは安全上支障がなく、またブランケット液循環系の変更は必要かつ妥当であると考える。

3.硼酸重水注入装置

 この臨界実験装置の安全保護設備としては、従来はスクラム信号による制御棒および安全板の落下ならびにダンプバルブの開放が行なわれることになっていた。

 今回の変更では、上記の安全保護設備のほかにさらに硼酸重水注入装置を設けることになっている。

 今回の変更による実験を行なう場合、循環系が故障し、かつ最悪の場合として安全保護設備が動作しない場合には、スラリーの沈降に伴って徐々に反応度が増加するが、このような最悪の事態が発生した場合でもブランケットタンク内に硼酸重水を注入し、装置を確実に停止するよう配慮されていることは妥当と考える。

4.遮蔽体の追加

 この装置の最高熱出力は今回の変更によって10Wから50Wに増加することになり、これに伴い、装置周辺の漏洩放射線畳も増加するが、コンテナーの北側にコンクリートの遮蔽体および制御室側に鉛およびパラフィンの遮蔽体を追加し、またこの装置では実験の性質上、1週間に250W時以上の運転をしないことになっており、従事者の受ける放射線量が、科学技術庁告示第21号に定める許容値を十分下まわるように、次のように設計、計画されておるのは放射線障害防止上妥当な措置と考える。

(1)制御室内における常時従事者の被曝放射線量は1週間当り約12mrem以下とする。

(2)10W以上の出力での運転中は炉宝への立入りを禁止する。

(3)建屋周辺の柵外での被曝放射線量は1週間当り5mrem以下とする。

5.燃料の追加

 この臨界実験装置に使用する燃料には20%濃縮硫酸ウラニルを使用し、従来はU2352kgを使用していたが、今回の変更ではU2353kgを追加し、合計5kgを用いることとなる。

 この変更は、ブランケットタンク内に酸化トリウム重水スラリーを入れることにより、臨界量が増加し、実験を行なうために必要なものと認める。

6.事故時の安全対策

 今回の変更によるスラリーを用いた実験を行なうために、考えられる事故としては、ブランケット循環系が故障した場合の酸化トリウムの沈降に伴う反応度事故である。

 この反応度増加は、すでに述べたとおり、最も悪い条件においても、酸化トリウムが沈降しはじめて後10分間で約0.5△K/Kである。この程度の反応度増加は、制御棒、安全板によって十分吸収しうるものであり、またダンプバルブの開放によっても装置は停止される。たとえ制御棒、安全板、ダンプバルブなど全ての停止装置が動作せず酸化トリウムの沈降が進行するという事態が起こったとしても、炉心液を抜き出すことも可能であり、さらに硼酸重水の注入によって装置を停止することもできるので重大な事態に至ることはないと考える。

 この臨界実験装置の最悪想定事故としては全超過反応度1%△K/Kが瞬時に加えられ、かつあらゆる安全装置が動作しない場合が考えられる。この場合の8MW−sec程度のエネルギーが生ずるが、その際の発生する分解ガスが爆発した場合には炉心タンクの破壊に至るおそれがある。炉心タンクの破壊は反応度を減少させ装置を停止させる。もしブランケットタンクも破壊した場合には核分裂生成物が放散するがコンテナーが設けられているので建屋外での核分裂生成物の濃度は最大10-8μC/cc程度であり放射線障害防止の問題はないと考える。