参与会

第 4 回

〔日 時〕 昭和37年5月10日(木)14.00〜16.00

〔場 所〕 海運クラブ

〔配布資料〕
1.放射能対策関係資料
2.米国の核実験再開に伴う放射能対策
3.南方海域の船舶に対する一般的留意事項
4.放射能降下物および食品中の放射能について
5.放射能降下物の人体への影響に関する基本的な考え方について
6.放射能対策日誌
7.原子力関係科学者技術者等の養成訓練状況について
8.原子力発電の立地等に関する統一見解について
9.再処理専門部会報告書要約
10.再処理専門部会報告書
11.材料試験炉専門部会報告書

〔出席者〕
(原子力委員会)
三木委員長、石川、有沢、西村、兼重、駒形 各委員

(参 与)
稲生、井上、大屋、岡野、菊池(代)、倉田(代)、嵯峨根、瀬藤、高橋、塚本、成富、藤岡、伏見正井、三島、三宅、安川、山県、脇村、和田 各参与

(関係者)
経済企画庁、通商産業省

(事務局)
杠局長、森崎次長、井上次長、政策課長、調査課長、国際協力課長、研究振興課長、アイソトープ課長、放射線安全課長、原子力開発機関監理官、その他担当官

〔議事概要〕

 議事に入る前に三木原子力委員長から次のような要望があった。

三木委員長:核爆発実験再開以来の現実に対処して私は予備費等の処置を講じいろいろと対策に苦慮してきた。この席上で各参与方の意見を承りたい。

(1)放射性降下物の人体への影響に関する基本的な考え方について(答申)他

 放射線安全課長から資料に基づき説明があった。

井上次長:放射能対策について簡単に述べたい。

 資料1号に示すとおり放射能対策本部の組織について最初に示されており、内容については放射能対策本部の活動状況と題して後半にわたって書かれている。原子力委員会としては、36年度放射能対策関係として約1億1,400万円を支出し、また37年度は約1億円を計上している。

 また、今春からは雨水、塵、成層圏等の放射能調査業務をより一層促進させるために防衛庁にも調査を依頼している。現在までの調査結果によると、野菜などのSr90についてみると1km2当り27キュリーとなっている。一方諸外国のデータに当たってみると、ソ連の方は情報入手困難につきはっきりしたことは解らないが、国連科学委員会において調べたデータによると現在は低レベルの模様で欧米の1/2程度と聞いている。

 今般、米国の核爆発実験の再開に伴い南方海域の実験区域近くに操業中のマグロ漁船などについて種々の処置を講じている。現在までの実験状況によると実験は6回行なわれ、その規模は10kton〜20ktonである。

 現在、原子力委員会ならびに放射能対策本部では上記の現状に対処するため次の3点に重点を置き対策を練っている。

(1)実験区域に調査船を派遣し海水、プランクトン、マグロ等魚類を採集し測定分析などの調査を依頼する。

(2)天水使用人口は全国で10万人と推定される。核爆発実験後急激に降ってくる天水の中の半減期の長短の核種を含む払foll−Outに対処し、全国10万人天水使用家族に対し国家予算でイオン交換体のろ過装置を設置する。

(3)南方海域などで操業中のマグロ漁船に対しては、これも政府援助でサーベメーターなど測定機器を取り付けさせ、漁船従業員の安全管理に努める。

大屋参与:この前米国のケネディー大統領が、核爆発実験再開に伴い関連した声明の中で天水および国民の被曝線量が自然被曝線量に比べてみても低い値を示しているというようなことをいっていたが、これは日本においてのものなのか、実験地域におけるものなのかわかりかねるが、これはどういう意味か。

安全課長:宇宙線等から1年間に自然放射線を120mr位受けている。この程度の放射線は、生まれた時から死ぬまで一生を通じてあびていることになる。

 では、1年間に放射線をどの位まで当たってよいlものか? 放射線は無論少ない程良いが、現在国際的な規定によると自然放射線+100%すなわち240mr位までは許容線量として認めようということになっている。現在は許容線量の範囲を出していない。

大屋参与:これは米英においてなのか、日本においてなのか? ケネディ一大統領は日本では少ないといっているようであるが、自然放射能より少ないというならば対策を講ずるなどの問題にならないのではないか。また、高空における自然放射能はどうなるのか。

塚本参与:今、いわれたような点は考えておくことが重要であろう。放射能対策本部においても検討中であると聞いている。非常時にはどうすればよいかということは我々も考えている。例えば身近なfall-outの問題もケネディ大統領のいっていることは、年間平均として自然に対する被曝線量が100%を超えないという意味である。しかし、このような考え方が当たっているかどうかも解らない。

藤岡参与:学問的に現状段階で決めるのは非常に困難な問題だ。

三木委員長:いろいろの行政措置を取る場合には目安を何におくかという点を明らかにしなければならない。

嵯峨根参与:このような問題を一般国民には解るようにし、しかも学者側からはいじめられないような名案を作成することは困難な点に違いない。

三木委員長:現在次のようなことを研究している。

 研究といっても1つは海洋汚染の度合、マグロ等魚類に関しての調査である。大きな問題として現在3つの点について検討を進めており、

 1つは農林省(水産庁)の調査船を貸り受け、大気、海水、マグロなどの汚染状態等を危険水域外に約2ヵ月位派遣し調査にあたらせる。

 2つとして、天水を飲んでいる人達の対策についてである。これらの人達は全国に10万人位おり、この対策に関しろ過装置などの対策を政府全額支出の形で各家庭に整えさせたい。これに要する費用は約4〜5千万円位かかるだろう。しかし大蔵省などでは子供のいる家庭だけでどうか? などといっている。

 3として、南方海域の危険区域近くで操業するマグロ漁船等にカウンターを取り付けさせる。これについても1隻に付き8万円位かかるだろうから、カウンターを取り付けろといっても簡単には困難だろう。この点についても政府が資金の全面的バックアップまたは補助を行なうことを考慮している。

 以上述べた3点であるが、少なくとも1と2については実現を期したい。とりあえず予備費から天水対策に4,000万円、調査船派遣に6,000万円、計1億円を計上する。

藤岡参与:私の経験からおして調査後のデータの処理が時間を要し大変だろう。このデータ(資料1号)は核爆発実験再開前に比べどう違うか?

井上次長:実験後は一時的に非常に高くなり、昨年11月6日、7日頃がピークであった。現在では平常時よりやや高めである。

嵯峨根参与:現在はきれいな水爆があるので、ビキニ当時の実験と違いfall−Out等の汚染度合も大部薄らいだが、いろいろ対策を講じ調査させることは有益である。ちょうどビキニの実験のとき、私は米国に行っていたが、この時日本ではマグロを廃棄処分にした。米国でもかんづめが輸入されたとき実際には買わなかった。

三木委員長:損害賠償の要求をしようと考えているが、要求できるデータを必要とする。

嵯峨根参与:外国からのデータが取り寄せられないだろう。

杠局長:補償の問題については、カツオ・マグロ漁業従業員の人達側からも要求がでている。この点は直接よりも間接損害に当たるから困難である。

三木委員長:この損害賠償の要求問題は、米国ばかりでなしにソ連側にも要求できるすじ合いのものだ。しかしソ連の核爆発実験の際には危険区域という特別の指定を公海上に設けなかったので、要求する根拠は稀薄である。けれども、徐々ではあるが被害を受ける点には変わりない。

(2)原子力関係科学者技術者等の養成訓練状況について

 政策課長から資料に基づき説明があった。

大屋参与:英国の原子力公社などでは15〜17才位の若い人達を対象にして募集しているパンフレットをもらったが?

嵯峨根参与:この資料は報告なのか計画なのか? 計画案であるならばどのようなことを考えているのか。私個人として考えていることは原子力機関の専門学科を設け基礎教養もそなわっていない若いうちから専門に養成するということは、現在の段階では人を採り易いかもしれないが、将来はむしろ、マイナスであると考える。

瀬藤参与:子供に好きな電気をやらせた後に原子力関係に進ませるか、あるいは最初から原子力に進ませるかの二者択一を問われれば私は前者をとりたい。

嵯峨根参与:現在の大学の教養学部から進んだ者ですら原子力というものが解っていない。

政策課長:嵯峨根参与の質問の返答に当たるかどうか、わからないが、事務局としては昨年決定をみた長期与計画に基づき12,000名の科学者技術者の養成を考えている。

 概要を述べると内訳は原子力専門科学技術者(原子物理、原子力工学等)1,200〜1,300名、原子力関連科学技術者(機械、電気、物理、化学等)が4,500,〜5,300名、放射線利用関係科学技術老5,000〜5,50名、また、放射線安全管理技術者300〜350名、合計12,000名位の技術者養成を1970年(昭和45年)までに進めたい。

 現在は4,000名位と推定している。内訳は、日本原子力研究所・原子燃料公社関係2,191名の内、技術系1,300名位、国公立試験研究機関500〜700名、民間で1,870名位、計約4,000名である。

嵯峨根参与:原電では大学出を使っているのは便利であるから使用しているまでで、大学卒を将来にわたり原子力関係専門に当たらせるとは考えていない。この点統計のとり方も難しいと思う。

岡野参与:戦前の例であるが私が関係してた航空機についてみると航空関係専門の出身者よりも、機械科関係出身の人の方が非常に役つ立ったように記憶している。

 良い技術者を養成するためには速成式に行なうよりも、時間はかかっても応用のきく幅のある人材養成が大切だろう。

嵯峨根参与:一番心配しているのは、大学時代に専門のことばかり長いことやらせるようでは困る。むしろ大学院の時に、解る人だけが専門に入るのが理想論だ。

(3)原子力発電所の立地等に関する統一見解について

 政策課長から資料に基づき説明があった。

岡野参与:RI訓練センターについては、アジアにおけるものなのか、日本におけるセンターとして始めるものなのか。

杠局長:現状段階では、地域センターとして設けたい。

 運営に当たっては、IAEA三理事国ならびに関係アジア諸国にも積極的な協力を願うし、また運営費は日本を含め、多少は関係アジア諸国が負担することになろう。役員などの点についてはIAEA事務局からも派遣していただく。

大屋参与:アジア原子力会議については共産圏を入れるのか?

杠局長:中共、ソ連は入れるつもりはない。政治的な会議としないたてまえだ。

大屋参与:私の聞きたいのはそのようなことではなく、米国などから教えられた技術を共産圏を加えることにより秘密が漏れることを米国側が恐れ日本に圧力をかけてこないかという心配だ。

瀬藤参与:この資料における射爆場返還問題に関してのこの文は国会では了承したのか。

杠局長:国会では、特に原子力発電の立地について国家的立場から委員会が予算を組んで実地調査をやれという意見が強かったが、大体了承を得ている。

岡野参与:先般、スマート中将に会ったが、返還問題について非常に寛大な態度のように思えた。

三木委員長:代替地として北海道などが良いと思うが距離的にまずいし、まして誘致運動が有り得ない。

 この点については事務次官が近く日米科学委員会のために渡米するので、この機会に射爆場の返還促進方を要望するよう、私からよくいってある。

(4)再処理専門部会報告書について

 事務局から資料に基づき説明があった。

藤岡参与:再処理工場はどうなるのか?

石川委員:原子燃料公社にやらせる。

(5)材料試験炉専門部会報告書について

 研究振興課長から報告書に基づき要旨説明があった。

岡野参与:設置する敷地の広さはどの位か?

研究振興課長:その点についてはまだ検討されていない。

大屋参与:英国などは、どのような規模のものを持っているのか。

石川委員:10,000kW位のものだろう。

 次回は6月14日としたい。