核燃料経済専門部会の第3次中間報告 核燃料経済専門部会(部会長大山義年東工大教授)では、昨年提出の第2次中間報告(ウラン濃縮に関する報告)にひきつづき検討を行なっていた再処理経済の問題につき、一応の結論を得たので、9月27日、第3次中間報告書として原子力委員長あて提出した。その概要は以下のとおりである。 まえがき 原子力委員会核燃料経済専門部会は、燃料サイクルの中で再処理が重要な位置を占めるので、その経済の面からの考慮を核燃料経済の検討に加える必要があると考え同専門部会の下に再処理経済小委員会を組織して再処理の経済性について審議を行なうことにした。 再処理小委員会は昭和35年7月第1回の会合を開き、再処理の経済的問題について今日に至るまで計11回の検討を重ねてきた。 世界の現存再処理工場は、いずれも政府所有のものでようやくアメリカにおいて商業用再処理工場の計画が論議されているような情勢であるので、商業ベースの再処理料金の設定はまだ例をみない。ただアメリカの原子力委員会が民間動力炉の育成をはかり、またその経済評価に基盤を与えるための政策として、再処理サービスをおこなうことを決定し、その料金を定めている。 当小委員会では、海外から得られた技術的資料に基づいて、仮想再処理工場の基本設計をおこない、その建設費および操業費を試算し、これを基にして再処理経済の検討をおこなった。 本「報告書」はその検討結果を取りまとめたものである。 第1章 再処理経済検討方針 わが国における再処理の経済性を検討するため、仮想再処理工場の建設費および操業費の試算をおこなった。 この仮想工場の規模については、将来の実用規模の工場の経済性を推定できる点から考えて天然ウランないし低濃縮ウランの使用済燃料の処理量が1日1トンの規模のものとした。 この工場は溶媒抽出法により天然ウランおよび低濃縮ウラン燃料を処理するものとし、現在開発段階にある技術をも採り入れることとした。 建設費の試算は次の方法によった。 (1)工程機器については工程系統図および物質収支を作成し、これに基づいて機器仕様を定め、価格見積りをおこなう。 (2)機器据付費、配管費、計装およびサンプラー費は、機器価格に係数を乗じて算出する。 (3)セル(遮蔽壁をもった部屋)は機器配置図およびセル設計図を作成し、重コンクリート、基礎コンクリート、ステンレスライニングおよび換気量等を算出し、単位量当りの価格から見積る。 (4)建物は、建家建築、電気、給排水および換気設備等の単位床面積当りの価格を基にして見積る。 第2章 仮想再処理工場 1.工場要目 仮想工場の要目を次のように想定した。 (1)処理量 (2)処理燃料要素 (3)処理方式 (4)保守 (5)臨界制御 (6)精製 2.工程系統 工程系統を下図に示す。
3.工場建設資金 (1)建設費 建設費を試算するにあたって溶媒抽出工程については1サイクルおよび2サイクルが考えられ、間接建設費および技術費の相違については相当の幅が考えられるのでこれらの組合せにより次の4つの場合について計算した。ここで技術費とは設計、監督、検査、特許等に要する費用をいう。 1)AA工場−溶媒抽出を1回おこなう1サイクル方式で間接建設費を直接建設費の20%とし、補助および一般管理施設を除く施設の技術費を建設費の10%とする。 2)A′工場−1サイクル方式で、間接建設費を40%とし、補助および一般管理施設を除く施設の技術費を20%とする。 3)B工場−溶媒抽出を2回くりかえしておこなう2サイクル方式で、間接建設費を20%とし、補助および一般管理施設を除く施設の技術費を10%とする。 4)B′工場−2サイクル方式で、間接建設費を40%とし、補助および一般管理施設を除く施設の技術費を20%とする。 前記各工場の建設費およびその比較は第1表のとおりである。詳細な内訳をB工場に例をとって示せば第2表のようになる。 第1表 A、A′、B、B′各工場の建設費とその比較 第2表 Bエ場建設費内訳 以上のように1トン/日規模の再処理工場の建設費は70〜80億円と見積られ、そのうちセル建物の占める場合は20〜25%、セル建物内主要工程機器が17〜19%、廃液処理、燃料貯蔵、分析等の付属施設が25%、電気、水等の補助施設が7%である。設計料等の技術費は7〜14%である。 また現在行なわれているのは2サイクル方式が標準であるが、この第2サイクルを省略することによる節約は3%程度になる。 (2)試運転費 試運転費としては直接操業費の10ヶ月分を見込むが、直接操業費はA、A′、B、B′各工場とも大差ないので、A工場の場合を採って一律に637,350千円とする。 (3)運転資金 運転資金は以下第3表に示す(a)−(b)の合計とし、各工場ともに同額とする。 第3表運転資金内訳 (4)建設資金総額 以上の4工場に要する資金総額は、建設費、試運転費、運転資金の和であり、各工場別に資金総額および、その比を示せば第4表のようになる。 第4表 A、A′、B、B′各工場の建設資金総額とその比較 4.年間操業費 (1)操業費内訳 年間の操業費の算定は次の4例について行なった。 1)A工場で保守材料費が(建設費−土地整地費)×0.01であり、資本金および運転資金に対する利子あるいは利益を考慮しない場合。また保険を見込まない。 2)B′工場で保守材料費が(建設費−土地整地費)×0.02であり利子および保険は考慮しない。) 3)B′工場で保守材料費が(建設費−土地整地費)×0.02、利率6%とし、保険料率を建設費の1%とする。 4)B′工場で保守材料費が(建設費−土地整理費)×0.02、利率10%および保険料率1%の場合。 以上4例について操業費を計算すると第5表のようになる。 以上の減価償却は減債基金によるものとし、機器および試運転費については7年の償却とする建物および土地については30年とした。 第5表 年間操業費 (単位:干円) (2)操業費のまとめ 以上のように年間操業費は17〜26億円と見積られ、建設資金等に対する利子を見込むと、見込まない場合にくらべて2〜3割高となる。 直接操業費は年間全操業費の30〜45%を占め、その中で副原料および人件費が各々20%、蒸気が13%程度である。 償却費は年間全操業費の30〜40%にあたり、ほぼ直接操業費と同額になる。 利子は、利率が10%の時、年間操業費の22%に及び、直接操業費または減価償却費の7割にもあたり利率の再処理費に及ぼす影響は少くない。 第3章 考察 (1)本仮想工場に関する考察 この仮想工場における使用済爆料1トン当りに要する再処理費は、年間300トンを処理するものとすれば、550〜850万円である。アメリカ原子力委員会の設定した1トン/日処理の仮想再処理工場の1日の使用料は610万円(1960年)であるが、これは償却期間が異なり、また資本に対する利率も不明である。しかしこの仮想工場による再処理費はおおむねこのアメリカの再処理費と同じ程度と思われる。 また再処理費は、工場の稼動率によって大きく左右される。たとえば資本に対する利率を年間10%と見込み、年間300日稼動として再処理料金を決めれは、工場使用1日当り870万円となる。 処理する使用済燃料の種類および回分量もまた再処理費に影響を及ぼすが、濃縮度5%以下の種々な燃料の再処理費の差は、特殊な燃料を除いてあまり大きくないものと思われる。別種類の燃料要素を処理前後に工場の運転停止、除染および運転開始のための時間が必要で、これが数日を要するものと思われるので、その費用は相当大きくなる。 (2)再処理に関する一般的考察 以上、1トン/日工場の再処理費について試算をおこなってきたが、この他再処理に関連して経済的に大きい影響をおよぼす因子がいくつかある。 すなわち、使用済燃料は放射能が極めて強いので国内で再処理をおこなう場合は勿論のこと、海外に再処理を依頼する場合は特に輸送費が多額にのぼることが予想される。また、冷却、輸送等のために要する期間も高価な燃料に対して利子あるいは賃借料がかかっているので無視できない。再処理によるウランおよびプルトニウムの損失もまたこれらが高価な物質であるため考慮しなければならない。 再処理産物である減損ウランおよびプルトニウムの使用形態も間接的に再処理費に影響を与える。たとえば精製減損ウランを6フッ化ウランに転換するものとすれば、転換費は再処理費に付加する必要があろう。 この他、工場規模も再処理費に影響を与えるが、天然ウラン燃料のみを処理する工場では、プルトニウムを取扱う工程を除いて、個々の機器は規模に見合ったものを使用できるので、規模の拡大による再処理費の低下を期待しえよう。しかし濃縮ウランを処理する工場では、臨界管理を機器のジオメトリーによりおこなうかぎり、個々の機器の大きさや機器間距離が制限されるため工場規模を大きくしてもセルやセル内の主要工程機器については、再処理費の低下に寄与する効果を大きくは期待しえないであろう。 |