日立、原研臨界実験装置に関する委員会の答申

 原子力委員会では、昭和36年1月24日付で諮問を受けた株式会社日立製作所および日本原子力研究所の軽水減速型臨界実験装置における核燃料物質の使用の安全性について審議を行なっていたが、結論をえたので次のとおり9月28日付で内閣総理大臣あて答申を行なった。

〔日本原子力研究所の軽水減速型臨界実験装置
における核燃料物質の使用の安全性〕

36原委第83号

昭和36年9月28日

内閣総理大臣殿

原子力委員会委員長

日本原子力研究所の軽水減速型臨界実験装置における
核燃料物質の使用の安全性について(答申)

 昭和36年1月24日付36原第177号をもって諮問のあった標記の件については、下記のとおり答申する。


 日本原子力研究所の軽水減速型臨界実験装置における核燃料物質の使用の安全性については、標記の臨界実験装置における核燃料物質の使用申請書(昭和36年1月21日付)に基づき審査した結果、別添の原子炉安全専門審査会の安全性に関する報告書のとおり、安全上支障がないものと認める。

(別添)

昭和36年9月22日

原子力委員会 委員長

  荒木万寿夫殿

原子炉安全専門審査会会長

矢木 栄

 日本原子力研究所の軽水減速臨界実験装置における核燃料物質の使用の安全性について当専門審査は、昭和36年8月31日付36原委第67号をもって審査の結果を求められた標記の件について結論を得たので報告します。

I 審査結果

 日本原子力研究所が、臨界実験装置による動力試験炉およびその他の原子炉ならびに燃料要素等の原子炉物理的試験を目的として、茨城県那珂郡東海村、日本原子力研究所東海研究所に設置する臨界実験装置における核燃料物質の使用の安全性について、この実験に係る核燃料物質使用許可申請書(昭和36年1月21日付)により審査した結果、この臨界実験装置における核燃料物質の使用の安全性は十分確保し得ると認める。

II 審査内容

1.装置の概要

 本臨界実験装置は、濃縮度2.6%の二酸化ウランをペレットに形成したものをアルミニウムまたはジルコニウムの被覆管に収めたものを燃料として使用し、低出力で運転される。

 実験に使用されるウラン235の全量は約30kgである。

 この燃料棒は、直径約1.8m、深さ約2.1mのアルミニウム製炉心タンク内の燃料格子架台に組込まれ、給排水装置より注入される脱塩軽水の水位の調節によって集合体の反応度が制御される。またタンク上部より集合体に挿入れている調整棒も併用されるようになっている。

 安全制御板はボロン鋼のもの5枚(反応度3〜5%)を備え、電磁石カップリングを経て駆動機構に接続されている。またタンク中央部には、実験用の制御棒(反応度0.5%)が備えられる。本装置にはその他、中性子源(Ra−Be約106n/sec)給水および循環ポンプ系、急速排水用ダンプバルブ、計測制御系、安全制御系、放射線モニタ設備などが付属している。

2.障害対策

 臨界実験室は、制御室に面する壁は1.2m、その他の面は0.9mの厚さのコンクリートの壁で囲まれ、制御室はこの壁からさらに7m離れた処にあり、従事者に対する放射線の被曝を少なくするよう設計されている。

 定常運転時(最大200W、年間22.5kWh)において、制御室の臨界実験室に面した外側の点における年間の放射線量は約0.05remとなる。一方、周辺監視区域外における年間の放射線量は0.05rem以下になると考える。

 また、従事者のうちで二燃料を取扱う者については、もし運転計画(年間22.5kWh)による燃料取換作業を2人の従事者が分担して行なうと年間約4rem3ヶ月間で約1remとなる。

 これらは、いずれも昭和35年科学技術庁告示第21号に定める許容被曝線量を下回り、従事者および一般公衆に対する放射線障害のおそれはないものと考える。

 この臨界実験装置より出される放射性廃棄物の量は極く少量と予想されるが、その廃棄物は次のように処理されることになっている。

 気体廃棄物および液体廃棄物は、それぞれモニタされ、その濃度が許容値の1/10以下にして廃棄される。

 液体廃棄物で、濃度が上記の値をこえる場合およびすべての固体廃棄物は、原研内の廃棄物処理場に運搬して処理されることになっている。これらの放射性廃棄物の廃棄の方法は、この施設で出される廃棄物の量から見て妥当なものと考える。

3.安全対策

(1)臨界実験装置で行なわれる実験

 この臨界実験装置ではJPDRの臨界予備テストJPDRの基礎特性の解明、JPDRの開発研究のための実験、その他軽水炉一般の炉物理的問題の研究等の実験が予定されている。これらの実験には模擬ボイド、ポイズンを挿入した際の核定数の測定などが含まれ、その実験方法が安全対策上主要な検討対象となる。

 この臨界実験装置で行なわれる実験の範囲は次のようなものである。

イ、水対燃料体積比   1.50〜3.0

ロ、模擬ボイド挿入実験

ボイドとしては、中空のボイド管またはスチロフォーム、ルサイト等を挿入する。
付加される負の反応度0〜5%

ハ、ポイズン

ポイズンは、固体ポイズンまたは液体ポイズンとして挿入される。付加される負の反応度10〜20%

 これらの実験は、すべて超過反応度0.4%以下で行なわれ、また水位が燃料下端より70cm以下で臨界となる実験は行なわないことになっている。

 実験時に挿入される液体ポイズンの濃度は、飽和濃度に戟べ低く、析出沈降などによる反応度上昇の危険はないと考える。

 固体ポイズンとして箔を使用する場合は、應料棒内のペレット間に挿入し、ワイヤー等を使用する場合は燃料棒に固定し、ポイズンが脱落しないように計画されている。

 また模擬ボイドは管板の間に固定され浮上することのないよう考慮されている。

 炉心タンクへの注水はプレスボタンの操作により、始め0.25cm/secの速度で注水し、実効増倍率Keff=0.9になる水位に達すると、注水は一旦停止し、その後は反応度付加率にして、2×10-2%Δk/k/secに相当する注水速度で、水位上昇による反応度付加の効果を計測制御回路で観測するに必要な時間的間隔をおいて、断続的に注水され、さらに臨界に近い水位においては炉心タンクの側面に設けられた水位微調整ピストンによって水位が調節され、急速な水位の上昇を防ぐよう計画されている。

 また、この水位はサーボマノメータ、圧力計型水面計の独立した2つの系統によって監視されるほか、運転水位制限リレースイッチおよび後備水位制限リレースイッチが設けられており、誤操作および故障によるタンク内水位の異常上昇を防止している。

 これらの実験の範囲および実験に対する考慮は安全性の面から見て妥当なものと考える。

(2)安全装置

 本装置の起動インターロックは、制御盤の運転スイッチの短絡、安全制御回路のリセット、中性子源の挿入およびその中性子東レベル、安全制御板の引抜、炉室扉の閉鎖、電源電圧に対して行なわれ、上記条件が揃った時のみダンプバルブが閉じ、給水回路が働く。

 スクラムは、水位異常上昇、炉周期減少、中性子束異常上昇、電源異常、炉室扉の開放および地震(水平加速度30gal以上)ならびに手動に対して働き、安全制御板の落下、給水ポンプの停止、ダンプバルブの開放を行なう。その他各種の異常信号により働く警報装置が設けられている。

 これらの安全に対する設計がなされていることは妥当と考える。

(3)事故解析

 この装置の事故の原因として考えられるものに制御棒の連続引抜き、連続注水、ボイド消失、ポイズン脱落等が考えられるが、最も付加反応度の大きい連続注水の場合でも、スクラム機構が働き、エネルギー解放は極めて僅かであり問題はないと考える。最悪事故として申請書で解析を行なっている最も反応度付加率の大きい連続注水事故の場合、すなわち最大の注水速度0.25cm/secで注水が続けられ、全ての自動スクラムが働かず、異常を発見後15秒を経て手動によるスクラム信号により、ダンプバルブのみが働いた場合にもエネルギー解放は140MW−secに止まり、燃料も溶融するのにいたらないとしている。

 この事故評価は妥当なものと考える。

 たとえ、エネルギー解放が、約140MW secになっても、制御室における被曝放射線量は0.15remに過ぎず、従事者および一般公衆に対する放射線障害の防止上問題はないものと考える。

4.立地条件

 この臨界実験装置は、東海研究所敷地内の東端に近い海岸線より西方へ約250m、現在建設中の動力試験炉(JPDR)より南へ約60m離れた地点に設置され、他の研究施設等より、約400m以上、民家より800m以上離れている。

 かりに、この臨界実験装置に事故が生じても、この装置の担当者が退避するに支障なく、また、一般公衆および原研内の他の施設の従事者に対しても十分隔離された地点にある。

5.技術的能力

 この臨界実験装置の運転に当っては、操作責任者1名、同副責任者1名、操作員4名が当ることになっており、また、放射線管理、燃料管理は操作員外の者が当ることになっている。

 またこの装置で行なわれる実験について、日本原子力研究所内に設けられている原子炉等安全審査委員会を経て、東海研究所長が設定する操作基準の範囲内で行なわれ、この範囲をこえる場合には所長の決裁を求めることになっている。

 また、装置の操作は、主操作責任者または副操作責任者の指揮監督のもとに行なわれるが、特に初回臨界の全課程および次回以降の起動課程は、操作責任者の直接指揮の下に行なわれることになっている。

 これら運転管理上の組織ならびに操作に当るものの人員および技術歴から考えて、この臨界実験装置を適確に使用するに足りる技術的能力があると考える。

III 審査経過


〔(株)日立製作所の臨界実験装置における核燃料物質の使用の安全性〕

36原委第82号

昭和36年9月28日

内閣総理大臣殿

原子力委員会委員長

株式会社日立製作所の臨界実験装置における核燃料物質の使用の安全性について(答申)

 昭和36年1月24日付36原178号をもって諮問のあった標記の件については、下記のとおり答申する。


 株式会社日立製作所の臨界実験装置における核燃料物質の使用の安全性については、標記の臨界実験装置における核燃料物質の使用中請書(昭和36年1月21日付)に基づき審査した結果、別添の原子炉安全専門審査会の安全性に関する報告書のとおり、安全上支障がないものと認める。

昭和36年9月22日

原子力委員会委員長

  荒木万寿夫殿

原子炉安全専門審査会会長

矢木 栄

 株式会社日立製作所の軽水減速臨海実験装置における核燃物質の使用の安全性について

 当専門審査会は、昭和36年8月31日付36原委第66号をもって審査の結果を求あられた標記の件について結論を得たので報告します。

I 審査結果

 株式会社日立製作所が、臨界実験装置による低濃縮ウラン燃料、軽水減速型原子炉の研究を目的として、神奈川県川崎市王禅寺字五郎谷、日立製作所中央研究所王禅寺分室に設置する臨界実験装置における核燃料物質使用の安全性について、この実験に係る核燃料物質使用許可申請書(昭和36年1月21日付)により審査した結果、この臨界実験装置における核燃料物質使用の安全性は十分確保し得ると認める。

II 審査内容

1.設置の概要

 本臨界実験装置には濃縮度1.5%および2.5%の二酸化ウランのセラミックペレットをアルミニウムの被覆管に収めたものを燃料として使用し、低出力で運転される。

 実験に使用されるウラン235の量は1.5%のもの約47kg、2.5%のもの約17kg、合せて約64kgである。これらの燃料棒は上中下三板の管板に取りつけられて集合体を形成し、この集合体は直径1.9mの円筒形の炉心タンク(不鋳鋼)内におかれ、調整棒およびシム棒または脱塩軽水の水位の調整によって距塩界にし実験を行なうものである。安全制御棒にはシム棒1本(ボロン鋼、等価反応度約1.2〜2.4%)安全棒3本(ボロン鋼、等価反応度約3.6〜7.2%)が備えられる。

 本装置にはその他中性子源(Ra−BeO.5キュリーまたはPu−Be5キュリー)、オーバーフロー型水位粗調整装置、給水および循環ポンプ系、急速排水用ダンプバルブ、中性子計測系、安全制御系、放射線モニタ設備などが付属している。

2.障害対策

 臨界実験室は制御室に面する側は1.2mのコンクリートで囲まれ、その他の側は0.6mまたは0.3mの厚さのコンクリート壁および厚さ2mの土盛によって囲まれ、炉室から漏洩する放射線を遮蔽している。

 定常運転時(最大熱出力100W、年間約11kWh)本実験室中最も放射線量が大きい制御室においてもその放射線量は年間約0.3rem(6.6mrem/週)であり、周辺監視区域内の放射線量の最大と考えられる場所では1年間に約0.5remとなる。

 一方臨界実験室に最も近い周辺監視区域外の地点(実験室から約100m)における放射線量は年間約0.02rem(0.3mrem/週)である。

 従事者のうちで燃料を取り扱う者の被曝放射線量は、もし運転計画(年間約11kWh)による燃料取換作業を4人の従事者が分担して行なうとした場合、最大運転を行なう3ヵ月(10kWh)で約0.7remであり、年間約1.2remである。したがって運転時に必ず制御室におり、かつ、燃料取扱時に必ず作業に加わるものと仮定しても、最大運転を行なう3ヵ月で約1.Orem、年間で約1.5remであり、これらはいずれも昭和35年科学技術庁告示第21号に定める許容被曝線量を下回り、従事者および一般公衆に対する放射線障害のおそれはないものと考える。

 気体排気物の換気設備には3系統((a)臨界実験室、(b)燃料取扱室、燃料貯蔵庫、(c)制御室計測実験室、管理室)があり、臨界実験室は運転終了後、従事者の入室前に換気が行なわれ、また燃料取扱室および燃料貯蔵庫は、その取扱時に換気されるよう計画されている。

 気体廃棄物としては、気体状核分裂生成物(Kr、Xe、Br、I)ならびに検出器用アルミニウム管内および集合体室内の空気の中性子照射により生成する放射性アルゴンガスが問題となるが、管理区域内の常時人の立入る場所および周辺監視区域外においていずれも許容値を十分下回るよう計画されている。

 廃液処理系統は、放射性物質を含む可能性のある放射性系統および放射性物質を含まぬと考えられる非放射性系統の二つに分けられているが、必要に応じて貯油タンク中で減衰または沈澱させたのちモニタタンクにおいて10-8μ/cm3以下、すなわち許容値の1/10以下にして放流することになっている。

 固体廃棄物は、ポリエチレン袋を内蔵する約50Lの不鋳鋼容器3箇を備え貯蔵し、適当な時期に他の廃棄物処理機関に送る計画になっている。これら放射性廃棄物の廃棄の方法は、この施設で出される廃棄物の量から見て妥当なものと考える。

3.安全対策

(1)臨界集合体で行なわれる実験

 この種の臨界実験装置においては、原子炉と異なり、燃料の種類、配置、ポイズン、ボイドの挿入などの実験を行なうことが目的であり、これらの実験方法が安全対策上主要な検討対象となる。

 この臨界実験装置で行なわれる実験の範囲は次のようなものである。

イ、水対燃料体積比:炉心中心で1〜5

ロ、炉心寸法:最大直径  1.2m

         最大長さ  1.5m

ハ、燃料濃縮度:1.5%から2.5%まで

ニ、制御棒:調整棒:等価反応度5〜10%

ホ、ボイド:ボイドとしては、燃料棒と略同寸法の中空のボイド管またはスチロフォームを挿入する。(付加される負の反応度約8%)

へ、ポイズン:ポイズンは、ボロン、カドミウム等の箔などの固体ポイズンまたは礪酸、硫酸カドミウムなどの液体ポイズンとして挿入し、与えられる負の等価反応度は、10%以下である。

ト、温度上昇実験:炉心タンクの水温80℃以下これらの実験は、すべて超過反応度0.5%以下で行なわれ、たとえ水位が最上位まで上昇した場合でも、集合体の内蔵する超過反応度が5%以下になるように燃料棒の本数を制限し、また水位が燃料の下端より50cm以下においては、臨界となる実験は行なわないことになっている。

 またこの臨界集合体には二種類の濃縮度の異った燃料ペレットが使用されることになっているがペレットの高さは濃縮度によって変えられ、燃料棒も濃縮度別に色彩による識別法がとられ、またペレットの詰替え、燃料棒の装填は実験計画書にしたがって行ない、この作業に加わらなかった者が再確認を行なうなど燃料挿入の誤りを起さない管理がなされることは妥当と考える。

 実験時に挿入される液体ポイズンの濃度は、飽和濃度に較べ低く、析出沈降などによる反応度上昇の危険はないと考える。

 固体ポイズンとして箔を使用する場合は、燃料棒内のペレット間に挿入し、棒などを固体ポイズンとして使用する場合は燃料棒などと同様に管板に挿入しポイズンが脱落しないように計画されている。模擬ボイドは管板に固定され浮上することのないよう考慮がなされている。

 炉心タンクへの注水は、プレスボタンの操作により0.1cm/secの注水速度で行なわれるが、水位が水位粗調整装置に達すると、水はオーバーフローして水位はそれ以上に上昇しないように設計されている。

 この水位粗調整装置は、燃料棒の配置など炉心の構成を変えた後の最初の注水時には、臨界予定水位より低く設定し、水位がこの設定値に達すると注水を一旦停止し、水位粗調整装置の設定レベルを段階的に上昇させて臨界水位に達するように計画され、また次回以降には、水位粗調整装置の最上位を制限するスイッチを設け、水位が予定臨界水位以上に上昇するのを防ぐよう計画されている。

 以上の実験の範囲および実験に対する考慮は、安全性の面から見て妥当なものと考える。

(2)安全装置

 安全装置としては、スクラム、警報および起動インターロックを備えており、スクラムは、中性子束の異常上昇、周期異常減少、集合体室の扉開放、地震(25gal)、電源事故、調整棒落下およびダンプ弁用空気圧の減少ならびに手動で働くようになっており、特に中性子束に対しては独立2回路を用いて動作の確実を期している。スクラムの機構は、制御棒の自由落下のほか、主タンクのダンプバルブが開くようになっており、警報は測定系の電源異常およびγ線モニターのレベル上昇に対して発せられる。

 起動インターロックとしては、起動チャネルのカウント数、集合体室の扉閉鎖、安全棒の完全引抜に対して行なわれる。

 これら安全に対する設計がなされていることは妥当と考える。

(3)事故解析

 事故の原因と考えられるものに制御棒の連続引抜き、連続注水、減速材の温度位下、ボイド消失等が考えられるが、最も付加反応度の大きい連続注水の場合でも、スクラム機構が働らくのでエネルギーの解放は極めて僅かにとどまり問題はないと考える。

 最悪事故として申請書においては、1.5%濃縮の燃料を使用する実験を行なう際に2.5%の燃料を誤って装填し、かつ、平常の倍の注水速度0.2cm/secで注水を行なった場合を解析している。すなわち、この場合すべての自動スクラムが働らかず、異常発見後15秒を経て手動によるスクラム信号によりダンプパルプのみが働くとしても、エネルギーの解放は、約150MW−secをこえず、また燃料棒の温度も500℃をこえず、燃料の溶融にはいたらないとしている。この事故評価は妥当なものと考える。この最悪事故時の被曝放射線量は従事者が制御室に事故発生後も居続けたとしても約1.4remであり、周辺監視区域外では0.1rem以下となるので、従事者および一般公衆に対する放射線障害の防止問題はないものと考える。

4.立地条件

 この臨界実験装置は、川崎市王禅寺日立製作所中央研究所王禅寺分室内に設置される。設置予定地点は、現在建設が行なわれている。日立製作所の100kWスイミングプール型原子炉から北西方へ約150m、五島育英会のTRIGA−II型原子炉から北方へ約250mそれぞれ谷一つをへだてたところにある。最も近い民家までの距離は約200mであるが敷地面積は約10ヘクタールあり周辺は森林区耕地に囲まれており、十分な広さがあると考える。その他、水理、一段環境などの立地条件については、同社研究炉の安全審査の際に検討されたところであり格別問題となることはないと考える。

5.技術的能力

 本装置の運転に当っては運営責任者1名、操作責任者1名、操作員4名および保健管理員1名他補助員若干名が当ることになっており、このうち2名は原子炉主任技術者筆記試験合格者である。

 またこの装置で行なわれる実験については、運営責任者の許可を受けた実験計画書に従って行ない、必要な場合には日立製作所中央研究所の安全諮問委員会にはかることになっている。また、燃料、制御棒の異った装填の集合体の運転に関しては、必ず操作責任者が加わることになっている。

 これら運転管理上の組織ならびに操作に当るものの人員および技術歴から考えて、この臨界実験装置を適確に使用するに足りる技術的能力があると考える。

III 審査経過