原子力開発利用計画の推進

原子力委員  駒 形 作 次

 わが国の原子力開発利用長期計画は、本年2月に改訂された。この度は、今後20年に亘る計画とし、原子力発電、原子力船、核燃料および放射線利用の各部門における見とおし、これに基づく計画とその推進方策をたてたものである。そして各方面の意見を十分取り入れ、これを反映せしめてある。

 改訂後わずかな期間しかたっていないが、その後の四囲の状況と共に、これを眺めることもまた無意義ではないであろう。

 計画の中で、原子力発電については、経済性の確立を1970年以降とみて、計画対象期間を前期10年の開発段階と、後期10年の発展段階にわけ、前期10年には、その後の発展にそなえる研究開発に重点をおき、また建設技術の習熟、国産化の推進、技術者の養成などのため、約100万キロワットの原子力発電を行なうこととしている。

 わが国と可成り色々の点において共通のイタリヤでも最近、1970年までに100万キロワットの原子力発電を建設する計画を公表している。イタリアはすでに天然ウラン-ガス冷却炉、BWRおよびPWRの建設に着手しているのであるから、わが国が2号炉をここで問題としているのに比すると、ある点からはより進んでいると云うことが出来よう。しかし、ともかくも計画の規模はわが国のそれと全く同一にあることは非常に興味を感ずる。また、インドでも10ヶ年計画において、約100万キロワットの原子力発電を目標にしているという。

 英国では実用原子力発電所の着手は既に本国に7ヶ所、ほかに日本およびイタリアに各1ヶ所の9ヶ所に及んでいるが、7ヶ所の総発量は約300万キロワットとなる。そして今後毎年1発電所の建設を予定しているのである。これらはすべてコールダー・ホール型炉であって、最初AGR型(改良ガス炉)の採用を予定していたSidewell(7番目)これに次ぐOlddury、更にWylfaにいづれもAGRの採用をやめ、1970年頃まではコールダー・ホール型とすると報ぜられている。そしてただちにHTGCR型(高温ガス炉)に移って行くことになるかも知れぬというのである。このような動向は今後わが国の計画の上にも相当注意を要するような気がする。

 米国の軽水炉についてはIndian Pointの25万キロワットPWRが今年の初め全負荷運転に入ったし、Dresdenの18万キロワットBWRも最近低出力の再運転を開始した。Yankeeの13万キロワットPWRは予定よりも2ヶ月早く臨界になり、工費も5,700万ドルのところ4,000万ドルで出来上ったと報ぜられている。

 その他の計画も夫々進展しているのであるから、米国炉の実績は急激に積み重ねられることになる。わが国の第2号炉は米国炉を採用することにしているので、これがための本格的調査には益々好都合となって来たわけである。

 計画中の原子力船、放射線利用については新たに原子力委員会の内に夫々の専門部会が設けられ、具体化への検討がなされることになった。特に放射線化学中央研究機構を原研の中に設ける計画については、この広い応用分野における独自の研究が原研、産業界協同の下にすすめられることに大いに期待する。

 外国の研究開発をみると燃料要素、その材料の開発に非常に力を入れていることがわかる。問題はむしろここにある。これらに関連して国産化のためには材料試験炉の建設を考えねばならぬし、さらに核燃料に関し再処理や濃縮の問題など極めて重要な事柄がある。これ等はいづれもその具体化について、特にテンポが大切であると考える。

 計画の中で研究開発については海外技術の導入との関連において、わが国の独創的な構想を特に重視している。すなわち、基礎研究の推進に意を用いるとともに他方には研究のプロジェクト化を考え、これに国の努力を投入したいとし、長期的にみてわが国独自の技術の育成で開発される究研や国の政策として緊急を要する研究をとりあげ、半均質炉、プルトニウム燃料の研究開発を選んだ。このようなプロジェクトは余り多くしない方がよいが、しかし炉や燃料以前の部門は勿論、炉や燃料にあっても、今後の問題として適当なものが出てくるに違いない。このようなやり方をある程度拡大して運用する方がよいと思う。

 ともかくも、わが国原子力開発利用の課題は、設定をみた長期計画をいかに能率よく、合理的に具体化して行くかにある。重ねて関係の方々の御協力をお願いしたいところである。私の如きものも私なりに微力をこれに尽したいと考えている。