昭和36年度原子燃料公社事業計画

総 論

 昭和36年度は今回原子力委員会が策定した原子力開発利用長期計画の第一年度に当りこの計画遂行のため公社が行なう事業は次のとおりである。

1.探鉱業務については、堆積型鉱床に重点を置き、現在探鉱を実施している地区および通商産業省工業技術院地質調査所等の調査により有望と認められた地区について、おおむね、前年度程度の規模をもって探鉱作業を行なう。なお、これにともない有望鉱床の賦存が予想される地区に対しては適宜、鉱区出願、探鉱契約の締結、鉱区買収、租鉱権の設定等を行ない、国内資源の開発に備える。

2.採鉱試験については、採鉱費の低減をはかるため、新たに二段掘法の試験を行なうとともに、水力採鉱および水力輸送の試験に着手する。

 粗製錬については、現有装置の必要な改造を行なうとともに、引続き工業化試験を行なう。

 精製錬については、ウラン精鉱約16トンを輸入し、精製錬工業化試験を継続するとともに、従来の技術を改良進歩させるための研究を続行する。

 検査検定については、わが国における燃料要素検査方式の確立に資するため、その研究開発を強化続行する。

 再処理については日本原子力研究所と共同研究体利による再処理技術の開発をすすめる一方中間規模試験のための準備を行ない、プルトニウム燃料の研究開発については、その準備に着手する。

 また、ウラン濃縮の研究については遠心分離法によるウラン濃縮の研究開発の準備に着手する。

3.本計画業務の遂行につれて重要となる放射能管理その他の安全対策について必要な業務を行なう。

4.以上の事業を合理的、効果的に遂行するため、技術、管理、補助各部門の全般にわたり、付託された使命を完遂しうる体制をとることとする。

 なお、年度中50名の人員を充足し年度末役職員総員526名とする。

 この計画遂行に要する総予算は約13億9千万円とする。

各 論

1.探鉱

(1)探鉱規模

 前年度に引続き、鉱床精査延5,000日、トレンチ約47,000立方メートル、試錐探鉱約21,000メートル、坑道探鉱約5,300メートルの規模をもって次の探鉱業務を行なう。

(2)堆積型鉱床

イ、人形峠鉱山においては峠地区、夜次地区、赤和瀬地区はすでに探鉱を完了しているので、中津河地区を重点的に行なう。すなわち、昭和35年度に引続き沿層坑道を中心にして坑道探鉱を行ない床の実体をつかみ、品位鉱量のはあくにつとめる。

 東郷鉱山の方面、麻畑および神ノ倉地区においては、前年度に引続き試錐探鉱、坑道探鉱によって、鉱床の実態のはあくにつとめる。

 人形峠鉱山および東郷鉱山ならびにその周辺地区の地表調査の進展に伴って、倉見、黒岩、羽衣石、三徳山、鉛山、菅ヶ谷の試錐探鉱を実施し、被覆層の厚い県境地区、飯盛山地区、鉢伏山地区等については地表精査、地震探鉱等により不整合面の解明の結果、試錐探鉱を実施して潜在鉱床の獲得につとめる。

ロ、小国、金丸地区は前年度の地表調査の進展にともない、鉱床の分布範囲も判明しつつあるので、主として試錐探鉱を実施し、鉱床の賦存状況の速やかなはあくにつとめる。

ハ、新潟県三川および赤谷、岩手県豊沢、京都府弥栄等の各地区の堆積型鉱床は地質調査所等の概査の結果有望と考えられるので地表精査を推進し、必要に応じて試錐探鉱を行なう。

(3)その他

イ、鉱脈型鉱床の探鉱は35年度の継続と有望新鉱床の探査を行なう。

ロ、その他地質調査所における概査の結果異常地帯と認められた地区および公社所有の出願鉱区ならびに探鉱契約鉱区のうち有望と認められるものについては随時探鉱を実施するものとする。

ハ、坑内外における放射線障害、その他各種鉱害および災害の防止に万全の措置を講ずるものとする。

ニ、以上の探鉱業務を行なうため約3億円を計上する。

2.採鉱試験

(1)在来技術の適応性試験

 昭和34年度から採鉱試験に直手以来今日までの試験の結果、著しい作業能率の上昇とあいまって採掘コストの節減の見とおしが得られた。しかし、層厚の複雑性に備えて遺漏なく完全採掘につとめるためには厚層採掘法としての二段採掘技術の確立が必要であり、本年度はこの二段採掘法とその経済性に関する検討を行なう。

 二段採掘試験の主眼は次のとおりである。

イ、人工天盤作成技術の確立

ロ、上段切羽との距離と能率および安全性との関連

ハ、採掘コストの低減

(2)水力採掘技術の開発

 水力採掘技術によれば高品位鉱として水力輸送することにより運搬系統の単純化が図られ、粗製錬への給鉱量を減ずることが予想されるので生産費の低下が期待できる。従ってこの成果いかんによっては従来経済的開発が困難と思われた低品位鉱床の開発が可能となる。

 本年度からこの技術の適応性試験に着手するが、主として調査研究ならびに洗鉱による湿式ふるい分析試験を行なう。

3.製錬

(1)原鉱の処理

 国産ウラン鉱石からの直接製錬法については前年から工業化試験を行なってきたが、精製工程にアメックス改良方式を採用し、電解還元装置に給液可能なウラン濃度を有する高純度精製液を浸出液から一挙に抽出し得る可能性を確認した。よって本年度は、主として現有装置に必要な改造を行ない原鉱石約720トンにより、工業化試験を進める。

 なお、前年度後半から粗製錬工業化試験を通じて得られた国産ウラン精鉱は更に精製還元工程に装入して純国産金属ウランを試験生産する。

(2)精製錬

イ、ウラン地金製造の研究開発

 前年度に試験生産された地金はJRR-3用燃料およびその他の国内試験研究用として利用され、精製錬工業化試験の成果は着実にみとめられつつある。

 本年度はウラン精鉱約16トンを輸入して前年度同様精製錬工業化試験を継続し、主として一層の収率の向上に重点をおき、種々の試作改造を施してその成果を逐次設計の形態にほん案しつつ工業化設計の完成を期する。

ロ、スクラップの処理

 精錬および加工工程において生ずるスクラップの回収法については従来試験を続けてきたが、その結果、各種スクラップの性状に適応するそれぞれの処理方法を決定し、必要な設備を補充して国内におけるスクラップ再生の要求に応じうる態勢を整える。

4.検査検定

(1)検査技術開発

 燃料要素およびその構成材料の検査技術開発のためその試験室を前年度に建設するとともに、諸種の検査機器を設置し、その習熟につとめたが、特に超音波による燃料棒およびインゴットの内部健全性の試験とエックス線によるマグノックスの溶接部の欠陥検査に重点をおき、おおむね予備的研究の段階を終了した。

 本年度は前年度に建設した検査技術開発室の機器の整備充足を行なうが、特に燃料体の検査のためガンマー線探傷設備を新設する。

 一方、検査法実用化のため予備的研究により得られた検査データの統計的解釈につとめる。

 当面、試験対象とする燃料体は主として金属ウラン型とするが、その他の酸化物燃料についても検査法の開発につとめる。

 これらの研究開発を通じて作業員の教育、訓練を行ない、また、国内諸機関でも行なわれている燃料国産化の研究に協力する。

(2)製品検定

 前年度においてはJRR-3燃料用ウラン地金の納入に際し、従来開発してきた検定法を適用したが本年度はさらにその標準化をすすめる。

 また、UO2粉末および焼結体の検定方法の標準化の確立につとめる。

5.再処理

(1)再処理技術の研究開発

 再処理については、溶媒抽出に関する工学的試験研究を実施するため、日本原子力研究所に設置されるホット・ケーブを利用して共同研究をすすめる。更に再処理試験施設の予備設計に着手しうるよう技術情報の収集とその調査研究をすすめる。

(2)再処理分析に関する研究開発

 再処理操業に際し、その工程管理、計量管理および臨界管理等に必要な管理分析法の試験研究に着手する。本年度においては質量分析装置を使用してウランおよびプルトニウムの定量法の解明につとめる。

 このため新たに建家を建設し、内部施設の充実と機器の整備を図る。

 なお、ホット試料の取扱いに関して、日本原子力研究所と共同研究を行なう。

(3)開発準備

 以上のように研究開発を推進するほか、技術者を内外の研究機関に派遣し、その養成訓練を行なう。なお、将来において建設を予想される再処理試験施設のため用地の買収をはじめる。

6.基礎的試験研究

 前述の製錬技術、検査技術および再処理技術の研究開発を推進する基礎的試験研究については、前年度に引続き活発な運営を図るとともに工業化試験あるいは生産工程において遭遇する操業管理上の問題をとりあげてこの解明につとめ、その成果は逐次工業化試験に応田して技術の改善に資する。新たにとりあげる主要な研究は次のとおりである。

(1)粗製錬関係

 粗製錬工程上最も困難祝される浸出スライムの固液分離法を改善する目的から超音波の凝集作用を沈降、ろ過促進に利用する研究をはじめ、シックナーによる濃縮法向流デカンテーション洗浄法、加熱ろ過法および浸出液の清澄化法等の固液分離に関して基礎的研究を行なう。

(2)精製錬関係

 四ふつ化ウランの金属還元の際にスラグ中にウランは約4パーセント含まれているので還元収率の向上をはかるために四ふつ化ウランの調整法および性状と還元特性の相関を明らかにするため小型還元試験を行なうとともに、スラグ中に残留するウラン分を回収する方法について研究する。

(3)金属ウラン関係

 金属ウラン中の非金属不純物は加工法および核的にも影響を与えるのでこれら不純物の混入径路、機構およびその検出法、特に物理的検出法について研究する。

 これと併行して金属ウラン中の微小不純物質の測定ならびに組織構造を調べ品質管理上の基礎資料をうる。一方金属ウラン型燃料の品質改善のため還元時に微量のニオブ、クロム、亜鉛、モリブデン等を添加する同時還元法についての基礎的研究を行なう。

(4)酸化ウラン関係

 酸化ウランの粉末製造に関する研究は、前年度に引続いてペレット用粉末製造試験を行なうとともに、セラミックおよびサーメット型燃料用の比較的単結晶粒子の大きい粉末の製造研究に着手する。また、ペレット燃料の欠陥を改良するため酸化ウラン粉末をステンレスまたはジルカロイ粉末と混合して着接焼結して製造する板状燃料要素の研究に着手する。

(5)プルトニウム関係

 本年度はプルトニウム燃料の研究開発の一環として、まずプルトニウム冶金の研究準備に着手し、とりあえずランタン・セリウムを使用し、プルトニウム還元のモデル実験を行ない、プルトニウムの取扱技術の習得につとめる。

(6)ウラン濃縮関係

 ウラン濃縮に関しては、遠心分離法の調査研究を行なうこととし、本年度はとりあえず、すでに基礎的研究に着手した国内諸機関および国内民間企業との技術協力を結集して広範な共同研究態勢の確立を図るとともにひろく海外から情報を収集し、調査研究を行なう。

7.放射線管理

 研究開発業務の進展に伴ない、各施設の保安管理機器の整備充実を図るとともに、製錬所内で生ずる固型放射性汚染廃棄物の処理施設を設置する。

 以上2.、ないし7.の研究開発業務を行なうため約6億4千万円を計上する。

8.管理厚生関係

 各論に掲げる各業務の遂行に伴なう管理費等として約4億5千万円を計上する。このうち管理厚生施設の主なものは管理施設として倉吉事務所新築および東海図書館増築、厚生施設として東海診療所新設、東海食堂増築、東海小運動場および宿舎として、職員住宅、独身寮である。