昭和36年度日本原子力研究所事業計画

 原子力委員会の策定した昭和36年度原子力開発利用基本計画に基づいて日本原子力研究所の昭和36年度における事業計画を次の通りとする。

第1章 総論

 昭和36年度は、原子力委員会の策定した原子力開発利用長期計画の第1年度にあたり、この計画遂行のための準備が行なわれるとともに、一方においては、従来からの事業が着々と軌道にのることとなる。

 本年度新しく計画されたものとしては、遮蔽研究用原子炉の着工、材料試験炉の調査と概念設計、放射線化学中央研究機構の設置準備等があり、従来からの計画を遂行するものとしてはJRR-3の建設完了、動力試験炉および軽水炉臨界実験装置の建設、再処理試験用ホット・ケーブの建設、5.5MeVヴアン・デ・グラフの建設、JRR-2の共同利用、イン・パイル・ループの設置、半均質炉および水均質炉臨界実験装置の利用、高放射性物質取扱特別研究室(ホット・ラボ)の利用、リニヤー・アクセレレータの利用、ラジオ・アイソトープ製造試験工場の稼働、プルトニウム特別研究室の完成と研究開始等がある。

 このような時期において今後の研究計画の方向については将来の発展のための基礎研究を重視するとともに長期的な観点から研究のテーマを慎重に再検討し、各研究室間の協力を一層密接にするよう重点方向に逐次再編成して行くこととする。

 また、外部との連係を一層深めるよう留意し、開放研究室の設置、共同研究等の強化、外来研究員制度の拡充等の方策を講ずる。

 前述のように、放射線発生の装置が増加するとともに、放射性物質取り扱いの箇所が増え、かつ、従来よりも高放射性のものを取り扱うようになるので、安全対策に対してはより慎重に配慮する。

 これらの事業を遂行するための予算は、現金総額66億6,600万円、債務負担行為限度額12億9,400万円とする。

 また、職員数を150名増加し、年度末定数は役員を含め1,347名とする。このほかに、外来研究員を30名増加し、総計80名とする。なお、一般管理費は9億5,500万円とする。

第2章 原子炉建設

1.JRR-3

 建家工事は前年度までにほとんど完成したので炉体関係工事が引きつづき行なわれ、昭和36年度上期中にその大部分が終了し、第4四半期には臨界試験を行なう。

 なお、運転準備のため、各種器材の整備を行なう。以上の事業を遂行するための本年度予算は約8億2,000万円とする。

2.JRR-4

 遮蔽研究の基礎実験および主として原子力船設計のために必要とされる遮蔽効果を総括的に求めるためスウイミング・プール型原子炉を設置する。

 本計画は上期中に設計検討、見積検討を行ない、発注先を決定の上、第4四半期には建家工事に着手する。

 以上の業務を遂行するため年度の当初に建設室を設置するとともに、本事業の遂行に当っては関係機関と連絡を密にする。

 本事業を遂行するために必要な予算は債務負担行為限度額として約6億円、うち、本年度現金分は約9,000万円とする。

3.JPDR

 整地作業を前年度に終了したので、建家関係については、年度当初より工事に着手し、年度末迄には一部仕上工事を残しほぼ完成する。原子炉関係については年度末迄に格納容器の据え付けを完了する。

 なお、燃料は上期中に仕様を決定し、発注を終るよう配慮する。

 本事業を遂行するための予算額は本年度現金分として約20億円、債務負担行為限度額6億3,000万円とする。

第3章 研究計画

1.研究炉の運転および整備

 JRR-1は前年度に引きつづき定常運転を行ない共同利用を実施する。JRR-2は上期中に定常運転にはいり、下期から共同利用を行なう。

 特にJRR-2については、中性子回折装置、ラジオ・アイソトープ試験製造設備の整備を終ったが、本年度は、クリスタル・モノクロメーターのJRR-1からの移設、ガス・ループおよび常温の水ループの設置、中温の水ループの取り付け準備を行なう。

 実験準備を周到に行ない、原子炉室内における実験を効率的に進め、原子炉の利用率を上げるため、原子炉特別研究室を研究炉付近に建設し、コールドの状態での実験準備をここに集中せしめる。

2.原子炉開発および関連研究

(1)半均質炉

 前年度に引きつづきプロジェクトとして各種の基礎的な試験研究を総合的に進める。すなわち、臨界実験装置による物理的な実験を継続し、炉心燃料、ブランケット燃料の性質の研究を進めるとともに、ビスマス系の流動試験、黒鉛の強度、ろうづけの研究等を拡充する。またJRR-2のガス・ループによる燃料の照射準備を行なう。

(2)水均質炉

 臨界実験装置は上期中に臨界実験に着手し、その後2領域水均質系の炉物理的研究、特に転換比ならびに中性子スペクトルに関した研究等に主眼をおいて実施する。また実験の進展に伴い開発試験室の増築をはかる。

(3)高速炉

 ブランケット部分の炉物理的実験を行なうためJRR-1において濃縮ウラン・コンバーターによりブランケット指数実験に着手するとともにヴァン・デ・グラフなどにより速中性子のパルス技術の研究を行なう。

(4)軽水炉臨界実験装置

 軽水炉の炉物理的諸問題の研究を行なうための軽水炉臨界実験装置は前年度に引きつづき契約折衝を行ない、年度当初に契約を終り、直ちに建設に着手する。

(5)関連共通研究

 上記のほか、炉物理の基礎的、理論的研究、動特性の実験的研究、原子炉制御の研究、原子炉ならびに放射線計測技術の開発研究、原子炉の熱的機械的研究など原子炉一般に共通する研究を行なう。

3.燃料、材料開発および関連研究

(1)ウラン系燃料開発研究

 金属合金燃料については微細結晶粒の鋳造燃料、Al-U系合金燃料等の研究を重点的に行ない、セラミック燃料については前年度に増設した特別研究室を整備するとともに半均質燃料との関連で研究を進める。このためループ試験、カプセル試験による燃料の照射準備を行なう。その他燃料開発に関連して分析化学的研究を行なう。

 ウラン濃縮については、まず同位体分離の化学工学的な基礎研究に着手する。

(2)プルトニウムの研究

 前年度建設したプルトニウム特別研究室において、引きつづき溶液化学的な研究を進める。すなわち、プルトニウムの溶媒抽出、イオン交換、中性子照射、燃焼度決定法としての放射化分析などを行なう。

(3)材料開発研究

 材料開発研究としては、まず燃料被覆、圧力容器等炉心に近いところに使用する材料に重点を置いて腐食、強度、接着、溶接などの工学的研究を行なう。また、中性子に対する炉材料の核物理的性質の研究、照射損傷の機構を探求するための固体物理的研究、材料の分析化学的研究などを行なう。なおJRR-3に設置する金属高温照射装置の発注製作を進める。

 以上の燃料、材料の開発研究に関連ある施設として高放射性物質取扱特別研究室においては本年度よりヤ金用ケーブの使用を開始し、JRR-2で中性子照射をした試料について腐食、照射効果等に関する研究を行ない、また化学用ケーブの整備につとめる。

4.燃料再処理研究

(1)再処理装置の研究

 使用済燃料再処理装置の研究、高放射能下の操作技術の開発を原子燃料公社との共同研究により進める。そのため今年度は再処理試験装置のコールド状態における試運転、予備実験をモックアップ試験室において行なう。

 再処理試験用ホット・ケーブは年度内にその建設を終り、試験装置をモックアップ試験室より移設する。

(2)再処理の研究

 溶媒抽出法については化学工学的な研究をすすめるとともに物理化学的な研究、放射化学的な研究等関連基礎研究を行なう。

 溶媒抽出法以外の方法としてフッ化物分溜法、高温ヤ金法およびイオン交換法などについて基礎的研究を行なう。

5.廃棄物処理研究

 原子炉、再処理プラント等から排出される放射性気体処理の研究および高レベル廃液の永久処理法の一つとしての移動層ヵ焼の研究を行なう。

6.ラジオ・アイソトープ製造研究

 前年度に建設したラジオ・アイソトープ製造試験工場の整備を行なうとともに24Na、42K、32P、35S、131I、198Auなどについて主としてJRR-2を利用する製造試験を行なう。

 製造研究の分野では前年度に引き続き無担体ラジオ・アイソトープおよび高比放射能ラジオ・アイソトープの製造研究、ラジオ・アイソトープ分離法および検定の研究などを行なう。

7.放射線利用研究

 非金属材料の放射線効果に関する研究、有機化合物および水溶液系の放射線化学的研究などを行なう。また照射技術などの研究を開始する。

 60Co照射室は前年度発注した16KCの線源の増設により、従来ある線源とともに高、低両線源の利用が並行して行なえるよう照射施設を整備する。

 リニアー・アクセレレーターは定常運転にはいり、中性子物理の実験などを行なうとともに照射実験に必要な付属施設を整備する。

8.保健物理研究

 放射線管理を周到かつ経済的に行なうため、外部被曝、内部被曝に関する研究、汚染検出ならびに除去の研究などの諸研究をすすめる。

9.安全性に関する研究

 安全性に関する研究として遮蔽に関する研究、計測制御および安全保護装置に関する研究、事故時における放射性物質の放出と拡散の研究、事故解析に関する研究をはじめ各種の研究を行なう。

10.その他

 材料工学試験炉については前年度に引き続き調査を行ない、第1四半期末迄にパラメーター・スタディを終了、関連各方面との関係を密接に保持し、材料試験炉設置計画の細目の検討に移る。

 核融合関係の研究については、直接発電方式との関連を考えつつ進めるものとし、核融合反応の予備的研究および閉回路によるMHD方式直接発電の予備実験に着手する。

 以上の研究炉運転管理、試験研究を実施するために次章の研究サービス等を含めて研究費として約17億8,000万円(負担行為約6,000万円)を計上する。

第4章 研究サービス

1.放射線管理

 高レベル放射線の利用開始に伴い、ますます管理を厳格に行なうことを配慮し、とくに非常管理に対する体制を整備する。また本年度は観測艇を購入して海洋における放射性物質の拡散移行の観測の充実を期する。

2.廃棄物処理場

 前年度に引き続き低レベル廃棄物処理を行なうとともに処理能力の増大、経済的な面から処理装置の改造を行ない、また施設の増設を行なう。また新たに生ずる高レベル廃棄物処理用の格納所を新設し、処理および貯蔵管理に万全を期する。

3.その他

 以上の他、研究の効率的な実施に必要なサービス部門の拡充整備につとめる。とくに工務課については研究活動の発展に伴い人員の重点的充足をはかる。

第5章 各種研究機関との連係

 研究所外の各種研究機関との連係をはかるため、次の事業を行なう。

1.研究施設の共同利用

 本年度はJRR-1、60Co照射室の共同利用に引き続き、新たにJRR-2および高放射性物質取扱特別研究室の共同利用を開始する。

2.開放研究室の設置

 共同利用施設の使用による研究の推進をはかるため研究第6棟に開放研究室を設置し、大学、民間企業等への利用に供する。

3.研究委員会等

 施設の共同利用等を円滑に行なわしめるため従来の各種研究委員会を更に有効活発に活動せしめるほか、本年度は新たに高放射性物質取扱特別研究室、開放研究室等の運営のための委員会を設置し関係各方面の希望を取り入れるとともに所内外の研究の一層効率的な進展をはかる。

 JRR-4については、原子力船開発との関連が深いのでJRR-4連絡会により建設当初から所外関係者の意見を反映させる。

4.外来研究員の増加

 外来研究員については従来50名の受け入れを行なって来たが、本年度はさらに30名の増員を行なう。またこれに関連して外来者宿泊施設を建設し、外来者の便宜をはかる。

5.受託研究、共同研究、委託研究

 研究体制の充実に伴い、民間企業等外部研究機関からの受託研究および共同研究を積極的に行なう。

 さらに一方研究所における研究を一層効率的ならしめるため民間企業等に対して委託研究を行なう。

6.研究成果の普及

 研究成果を普及するための研究報告書と、内外の研究開発に対する調査結果をとりまとめた調査報告とを関連諸機関に広く配布する。また、研究成果発表会により所内研究の成果および現状を報告する。

7.放射線化学中央研究機構

 放射線化学については、中央研究機構を設置することとなり、昭和36年度当初から東京本部内に準備室を設置する。中央研究機構においては大線源による工学的規模の実験が要望されているので関係各分野と密接な連係を保つための協議機関を設け、その具体的立案に着手する。

第6章 技術者の養成計画

1.ラジオ・アイソトープ研修所

 従来よりの基礎課程に加えて前年度末より高級課程を開設し、一段と充実したが、本年度はさらに各課程につき講義内容の整備刷新、実験器材の整備拡充を行なう。

 基礎課程(期間1ヶ月)はIAEA留学生のための課程1回を含め7回224人、高級課程(期間2ヶ月)は4回60人の研修を予定している。

2.原子炉研修所

 一般および高級課程共に講議内容の整備刷新、実験器材の整備拡充を行なう。

 一般課程(期間6ヶ月)は2回40人、高級課程(期間1ヶ年)は1回16人、JRR-1短期訓練(期間1週間)は3回45人の研修を予定している。

 以上の研修所費として本年度約5,500万円を計上する。

3.所員の養成

 原子炉、高放射性物質取扱特別研究室、ラジオ・アイソトープ製造工場等、における技能者に対しては、所内訓練に特別の考慮を払い、要員確保と共にその技能向上に努める。

 留学生の海外派遣についてはIAEAフェローシップによるもの3名、原子力留学生6名、その他のフェローシップによるもの若干名を海外に派遣し、先進諸国における高度の知識を習得せしめる。

第7章 建設計画

 本年度新しく着工する建設工事のうち、前述の原子炉関係を除き、主なものは次の通りである。

1.原子炉特別研究室

 研究炉を用いる諸実験を効率的に進め、原子炉の利用率を上げるため、実験準備を周到に行なう必要がある。このため研究炉付近に約3,300平方メートルの原子炉特別研究室を新設する。

2.再処理試験用ホット・ケーブ

 再処理試験用ホット・ケーブは、年度内に主要工事を終るとともに、分析建家の増築、ケーブの内装を行なう。本施設は約1,000平方メートルとする。

3.その他の研究施設

 その他の研究施設については、原子炉で使用した機器を格納するための管理部格納庫の建設、開発試験室および廃棄物処理場の増築、ヴァン・デ・グラフ建家の建設等を行なう。

4.講堂

 主として研究発表、討論に用いるため、広さ約660平方メートル、収容人員約500人の講堂を建設する。

 また本講堂は原子燃料公社等の利用にも供する。

5.厚生関係施設

 厚生関係施設としては、診療所増築、看護婦宿舎およびテニスコートの新設等を行なう。

6.宿舎

 宿舎として職員住宅、独身寮、外来者宿泊施設を建設する。

 以上の建設工事を行なうため、予算額総計約9億円を計上する。