第4回原子力年報の発表

 昭和34年10月以降35年8月までの期間を内容とする第4回原子力年報は36年2月22日開催の第7回定例委員会で決定をみた。その概要は下記のとおりである。

  英国型動力炉の購入

 まずコールダーホール改良型動力炉の購入に関して、英国側と日本原子力発電株式会社との間で長い間交渉が続けられていたが、34年12月14日内閣総理大臣および通商産業大臣から正式に設置許可が与えられたので、同社では12月22日東京においてゼネラル・エレクトリック会社(英国General Electric Company)と総額約200億円に達する契約を結んだ。ただしこのうち約80億円は国内において使用されるので、実際にGECに支払われるのは約120億円である。

 コールダーホール改良型動力炉の設置許可を与えるにあたっては原子炉安全審査専門部会においてきわめで慎重な検討が行なわれたのち、初めて決定したわけであり、これによって昭和31年11月、政府が初めて英国へ石川原子力委員を団長とする調査団を送り、コールダーホール改良型動力炉のわが国への適応性について技術的経済的検討を始めて以来3年にして、わが国第1号原子力発電炉を英国から購入することに決定したわけである。

 32年3月にわが国よりおくれてコールダーホール改良型動力炉の購入調査を開始したイタリアのアジップ・ニュクレア(Agip Nncleare)が、早くも33年9月には英国NPPC会社から同炉を用いる原子力発電所の購入を契約したのに比すれば、耐震設計等わが国独自の問題もあり、十分の時間をかけ慎重かつ徹底的な検討が加えられたというべきであろう。

 なお上記日本原子力発電株式会社と英国GEC社との契約に伴い、GEC社はわが国富士電機製造株式会社と技術提携を行ない建設をすすめることを希望し、かねて富士電機製造株式会社から政府へ甲種技術導入のための申請が行なわれていたが、35年6月、通商産業大臣から正式許可がおりた。すでに現地東海村では第1原子力グループの手により整地および基礎工事が進められており、GEC社は連絡のため20余名の社員を日本へ派遣してきている。本動力炉は昭和39年半ばには運転に入る予定である。

  熱中性子増殖炉の開発

 日本原子力研究所においては、将来の動力炉開発をめざし、かねて熱中性子増殖炉の研究開発をすすめてきていたが、これに属する水性均質炉(AHR)と半均質炉(SHR)とについて、いずれも年度内に臨界実験装置を完成し、米国からこれらに必要な燃料である濃縮ウラン17kgの供給を受けるため、交渉中であったが、35年4月第3次および第4次細目協定の成立に伴い近く燃料入手の見込みがたち、35年度中には実験を開始しうるところまで進展している。

 このうち水均質炉は、米国AECがオークリッジ研究所において開発中のものとほぼ同様のものであるが、半均質炉は日本原子力研究所独自の構想に基づいて設計されたもので、酸化ウランおよび酸化トリウムと黒鉛とを均一に混合しペレット状にしたものを燃料としこれを不滲透黒鉛のサヤにおさめ、ガスまたは液体ビスマスをもって冷却する方式である。

 同様の構想は英国原子力公社ウインフリス研究所の高温ガス冷却炉(HTGCR)にもあるが、原子力研究所の場合は、冷却材にもガスを利用する方法と並んで液体ビスマスを利用する方法を研究開発しているところに大きな特色がある。この型式にはなお非常に困難な技術的問題をもかかえているが将来効果的に発展すれば、小型にして高性能の動力炉が開発される可能性があるものと期待される。

  JRR-2の運転開始

 原子力研究所の第2号炉であるJRR-2(CP-5型研究炉)は、その建設工事の途次において、設計変更等の問題があり、33年4月据付完了という当初の完成予定より1年半以上遅延することとなったが、35年10月1日、燃料要素15本を装荷して臨界に達した。

 原子力研究所におけるJRR-2の運転計画は、約2年の期間を経て10MWの定常運転を行なう見通しとなっており、わが国における第2番目の原子炉として、原子力研究開発の上に一つの威力を加えることとなる。

  核燃料の開発

 原子燃料関係については、人形峠地区等の探鉱が順調に進み、今のところ量的および品位的にも必ずしも十分なものとはいえないけれども、原子燃料公社において粗製錬および精製錬の研究が行なわれ、その結果無機酸に溶けやすい鉱石であるため処理上取扱いが容易である利点があるので、鉱石の採掘を行なった。

 すなわち34年7月には、わが国で試験的に採取した鉱石から溶媒抽出法により初めてkgオーダーの量のウラン精鉱が得られた。

 また精製錬においては34年1月に金属ウラン日産30kgの能力をもつ中間試験工場が燃料公社東海製錬所に完成し、この施設で輸入鉱石を用いて、国産1号炉(JRR-3・天然ウラン重水減速型研究炉)に使用すべき金属ウラン地金約4トンの生産を34年度中に完成し、35年5月同研究所へ引渡しを終っている。

 以上はウラン地金の製錬であるが、これを燃料要素に仕上げる点については、JRR-3用第1次装荷分として必要な燃料約6トンを、上記原子燃料公社の生産にかかる地金4トンと34年11月国際原子力機関を通じて購入した3トンとを合わせ、日本原子力研究所の作成した仕様書に基づきカナダAMF社に燃料製作を依頼し製作中である。

 しかしながらJRR-3の取替燃料(年間約6トン)については、できるだけわが国で製作した燃料要素を使用する方針であり、現在民間企業において試作研究を行なっており、35年度には米国へこれら試作品の照射試験を依頼し、性能をテストしている。

 なお燃料に関しては、安全性の観点から装荷前に検査を行なう必要があるので、適切な検査方法に関する研究を原子燃料公社において行なっており、またこの目的をもって10名からなる核燃料検査技術調査団が34年秋、米国、英国、フランスおよび西ドイツへ派遣された。また濃縮ウランに関しては、さしあたり米国の供給にまつほかないが、将来需要が急増することも考えられるので、各種のウラン濃縮法のうち、特にわが国に適していると考えられる遠心分離方式について、理化学研究所に委託して設計試作研究を行なった。

  原子力船調査団の派遣

 前節において述べたように世界最初の原子力貨客船である米国のサバンナ号は34年7月21日進水し、またソ連では原子力砕氷船レーニン号が34年12月就航しており、英国でも運輸省が中心となり65,000重量トンタンカーの建造計画が進展しつつある情勢にかんがみ、わが国でも原子力産業会議が母体となり、関係各方面の協力のもとに政府、海運および造船界代表21名からなる調査団が編成され、34年10月から約2ヵ月にわたり欧米の実情調査のため派遣された。

 また35年5月ロンドンで開催された政府間海事協議機構(IMCO)の主催する海上人命安全条約会議(SOLAS条約会議)では、今回初めて原子力船の安全に関する部会が設けられ、SOLAS条約中に原子力船に関する規定を挿入することとなったので、わが国でもこれに参加し積極的な発言を行なうところがあった。なお新条約は35年8月までにソ連圏5ヵ国を含む40ヵ国によって署名されている。

  アイソトープ利用

 わが国におけるアイソトープの利用はすでに10年の歴史を経て、いまや試験研究の段階から実用化の段階へ移りつつあるといってよい。35年7月現在のアイソトープ使用事業所数は約900箇所に達し、そのうち医療機関および民間会社等の応用面における利用が全体の63%を占めている。

 34年度のアイソトープの出荷件数は約9,000件であるが、専門分野別にみると医学関係が70%を占め圧倒的に多い。しかし最近工学、農業関係の利用も伸びつつあり、特に全般的に大線量のコバルト60の使用が急激に増加してきている。

 アイソトープの国内生産については、量的には余り多くなく、その供給はいまのところもっぱら輸入に依存している。しかしながらその輸入金額は、30年度以降毎年急増していたのが34年度には初めて若干の減少をみた。この理由は主としてこの2、3年に顕著な増加をみたコバルト60大線源の輸入が一段落したためである。

 次に放射線化学分野については34年9月原子力委員会に放射線化学懇談会が設けられ、今後の研究開発方針の検討がすすめられ、次第に原子力開発利用の重要な部門に発展しつつある。

 現在放射線化学の研究を行なっているおもなる研究機関は、日本原子力研究所、東京工業試験所、名古屋工業技術試験所、理化学研究所、日本放射線高分子研究協会等10施設に及んでいる。

  プラズマ研究所の構想

 わが国の核融合研究については、大学、国立試験研究機関、民間企業体を含め、現在10指にのぼる研究グループが実験装置をもって研究をすすめているが、今後の開発方針として諸外国で開発されてきた種々の高温プラズマ発生装置を参考としつつ、中規模の実験装置を建設し、わが国の核融合実験研究水準を一段と高めようとするいわゆるB計画と、日本学術会議の核融合特別委員会の策定したプラズマの基礎的研究を重視するプラズマ研究所建設計画とがあったが、原子力委員会の核融合専門部会において両計画の調整をはかった結果、さしあたりB計画はしばらく見送りプラズマ研究所計画を中心に基礎的研究がすすめられることになった。

  科学者技術者の養成

 34年度に海外に派遣された原子力関係留学生の数は、国際原子力機関(IAEA)のフェローシップを含め77名にのぼり、員数としてはほぼ33年度と大差ない。他方、国内における原子力関係科学者技術者の養成については、日本原子力研究所における原子炉研修所およびアイソトープ研修所で着実にすすめられてきている。すなわち原子炉研修所については研修期間1ヵ年の高級課程が34年4月設けられ、第1回研修生15名が35年3月この課程を終了した。また研修期間6ヵ月の一般課程についても35年3月開講され、同年8月第1回修了生16名を送り出している。なおアイソトープ研修所については、IAEAの協力を一部得て33年1月開所以来35年7月までに合計18回に及ぶ研修課程が行なわれ、その修了生は518名の多きにのぼり、このうち極東、東南アジア等海外諸国から受け入れた研修生は12名に達している。

 なお、34年度には放射線医学総合研究所に養成訓練部が設けられ、放射線防護短期課程の研修が開始された。その目的は放射線防護の業務に従事する者に対し、必要な基礎知識を与えるとともに実務上の技術を修得せしめることにある。講習期間は8週間で35年1月第1回を、同年6月第2回を開講し、すでに合計60名の養成訓練を終了している。

  法規の整備

 原子力委員会はかねて原子力開発利用を円滑に推進させる上に不可欠の条件である原子力災害補償制度について検討を行なっていたが、33年10月「原子力災害補償についての基本方針」を決定し、専門的事項を審議するための原子力災害補償専門部会を設置した。この専門部会は原子力賠償責任、原子力責任保険、国家補償等の重要問題を検討審議のうえ、34年12月委員会へ答申を行なった。

 原子力委員会はこの答申をもととして35年2月「原子力災害補償制度の確立について」なる方針を内定し、その後関係各省との間の意見調整をはかり法案化のための準備が行なわれたが、35年4月27日には「原子力損害の賠償に関する法律案」の閣議決定がなされ、次いで5月2日に正式に法案として国会に提出された。

 一方、原子力委員会の機能を強化するため、原子力委員会の委員の定数を増加する必要があるとの主旨から、35年5月「原子力委員会設置法の一部を改正する法律」が制定公布された。これによって委員会の定数は委員長を除き、従来の4名から6名に増加されることとなった。

  日加原子力協定の成立

 わが国はすでに米国および英国との間に原子力平和利用に関する一般協定を結び、これらの原子力関係情報のみならず、原子炉技術および原子炉の運転に必要な核燃料の供給を受ける道を開いているが、34年7月にはさらに世界有数のウラン生産国であるカナダとの間に原子力協定を結び、この協定は35年6月国会の承認を受けて正式に発効した。このような米、英、加の3国との間の原子力協定の成立によって、当面わが国に建設さるべき原子炉および核燃料の入手は円滑に行なわれるものと期待されている。

  原子力予算の推移

 原子力の研究、開発および利用に関する予算の見積りと配分計画をたてることが、原子力委員会に課せられた重要任務の一つであることは、すでに前年度報告においても指摘されているとおりであるが、これは予算を通じてその年度の研究開発利用の方向と規模を決定することになるからである。

 まずいわゆる原子力予算として初めて計上された29年度2億5,000万円から、昨年度までの予算規模についてみると、30年度2億円、31年度20億円、32年度60億円、33年度78億円と毎年増加の一途をたどったが、34年度には74億円、35年度には77億円となっている。

 これは原子力研究開発の初期段階における建築物、諸機器、設備等の調達がようやく一応整備され、今後さらに飛躍的に発展するための基礎ができ上った段階にあることを反映するものであるといえよう。

 35年度予算による人員の増加状況についてみると、日本原子力研究所は191名増加して1,197名に、原子燃料公社は66名増員して476名に、放射線医学総合研究所は62名増員して225名になり、これら原子力研究開発の中核となる機関に2,000名に近い人員が従事することになった。また原子力局についても16名を増員して132名となり、原子力行政事務の増大にそなえることとなった。

  原子力関連機器

 わが国における原子力平和利用分野の急速な進展と相まって原子力関連機器はその相当部分が研究の段階から生産の過程に移行してきている。しかしながら原子力関連機器はその種類内容ともきわめて広範多岐にわたっているが、その大部分は一部の例外を除けば、火力発電、造船、機械、化学工業等の既存の分野で多くの実績を持っているので、生産設備、生産方式等に関し若干の変更を加えることにより原子力分野の需要を充足することができる。

 しかしながら、ここで問題になるのは原子力関連機器は従来の各種機器に比較して腐食、漏洩、圧力、温度、耐久性、精度、今までになかった放射線損傷等について非常に厳しい条件が要求され、これらの要求を満たすための研究開発が日本原子力研究所をはじめ、金属材料技術研究所、大学、国立試験研究機関、民間各メーカー等で行なわれている。

 政府は民間企業の研究開発を積極的に推進させるため、昭和29年度から34年度までの6年間に研究費補助金および研究委託費として約3億1,000万円を支出し、その研究開発を助成している。さらには放射線利用の増大、JRR-3建設の進捗により、わが国の原子力関連機器の相当部分は試作研究の段階から実用規模の生産段階に移行しつつあるといえる。

 なお、わが国の原子力関連機器開発の特色としては、まず放射線測定器の研究開発に重点が置かれたことで、この開発は相当進み、その後の電子工業のめざましい発展と相まって、列国にさきがけてトランジスター化、ユニット化が進められ、現在では所要機器の相当部分が国産化されるとともに、一部製品の試作輸出も考えられている。

 次に原子炉関連機器については、JRR-3の建設着手に伴い、従来の研究開発を基盤として研究炉用機器の国産化に入り、さらに動力炉用機器を目標にして研究開発が進められている。

 また、化学処理関連機器については炉の運転実績の少ないわが国の現状では当然のことながらその研究が遅れているが、廃棄物処理装置等の特殊なものについてはすでにある程度の研究開発が行なわれている。

 また、工業用計測器についてみると昭和24年わが国に初めてアイソトープの輸入が許可され、医学、農業等に利用されてきたが、最近では応用面が拡大されて工業界においてもますます開発されてきている。そのおもなものには厚み計、液面計、積雪計、溶接検査器等がある。

  原子炉材料

 原子炉用材料として重要な重水、黒鉛、ベリリウム等の製造技術の研究開発は33年度までだいたい終了し、原子炉材料としての製造技術はほぼ確立された。昭和34年度には不滲透性炭素、アルミニウム合金、ジルコニウム合金、マグネシウム合金等の製造技術および冶金学的研究を民間企業、日本原子力研究所を中心に行なっている。

 核燃料体外套用不滲透性炭素については1,000℃以上の高温下で炭酸ガス等の冷却材との反応もなくかつ核分裂生成物および冷却材に応じて不滲透性である炭素鞘の製造法を目標にして民間企業、日本原子力研究所を中心に研究開発を行なっている。

 アルミニウム合金については、製造研究として消耗電極式アーク炉を利用して鉄−アルミニウム合金およびこれに2、3の元素を添加した合金の鋳塊を製造するに必要な溶解研究を行なうとともに鍛造、圧延、熱間押出等の加工法の研究を行なっており、一方、冶金学的研究として高純度アルミニウムおよびこれに珪素、銅、ニッケル、その他を添加したアルミニウム合金につき、高温高圧静的純水による腐食の研究を金相学的に行ない。各種添加元素の効果と腐食機構の追究、水の温度、pHの影響、溶解水素の影響等につき系統的に検討を行なっている。また各種純度のアルミニウムをJRR-1および60Coガンマ線照射室を利用し、照射後の水による腐食を未照射のものと比較検討した。

 マグネシウム合金についてはガス冷却型原子炉燃料の被覆材として使用されているマグノックスの高温機械的性質ならびに鋳造性、組織、加工性、再結晶、結晶粒の熱処理による変化等の冶金学的研究を行なっている。また水冷却型原子炉の燃料被覆材としてのジルカロイについて偏析等の少ない鋳塊の製造研究を終え、引抜、溶接等による小径薄肉管の試作研究が進められている。また高温炭酸ガスに対する耐食性とクリープ特性の良い材料として、ジルコニウム、銅モリブデン系合金の研究が進められている。

 ステンレス鋼については非金属介在物が少なく、熱間加工性の良好なステンレス鋼の製鋼法および引抜等による寸法、精度良好な小径薄肉管の試作研究が行なわれている。次に制御材として使用されるボロン鋼、ボロンステンレス鋼のそのすぐれた核的性能をそこなうことなく、冶金学的な性能を改善する製造上の基礎資料を得るためボロン鋼およびボロンステンレス鋼の製造法ならびにその鋳造性、機械的性質等について研究が行なわれている。

  基礎的研究

 わが国における原子力の研究開発は諸外国に比べ、その出発がおそかった。この遅れをとりもどすためには、海外技術の導入と諸科学の基礎の上に立つ国内技術の開発という二つのことを並立して考慮しなければならないだろう。後の立場を考えるとき基礎研究は重要さをもってくる。幸いにしてわが国は原子力に関係の深い物理学、化学等の分野においては世界的な水準にあるといえる。

 まず物理部門としては、昭和34年11月に物性研究所が開設され、これにより金属の諸性質、原子炉材料の基本的性質、材料の放射線損傷等の進展が見込まれる。原子核物理学については核子の構造、中間子、核反応等の研究が行なわれている。またJRR-1を用いて熱中性子の研究も行なわれている。またプラズマの研究のためプラズマ物理研究所も発足の気運にある。

 化学部門については、核化学の分野では核反応生成物の分析という立場から分析研究が多く行なわれている。さらに各種材料の腐食についての冶金学的研究に至る幅広い研究が行なわれている。放射化学の分野では同位元素の分離という基本的な問題から放射性同位元素を用いての無機.有機反応機構の解明にまで手をのばしている。各大学においてもRI室等が整備され純化学的研究から工学、農学、医学への応用も次第に幅広く行なわれるようになってきた。また放射線による各種物質の化学的物理的変化に関する研究としての放射線化学は最近とみに活発となり高分子物質、低分子物質、農芸化学、食品等への応用が幅広く行なわれている。

 最後に応用科学部門についてみれば、この部門は基礎科学を技術に結びつけるものであって、今後の開発の重要な部門である。現在では導入技術への追随が精いっぱいの感があるが炉設計では、原子炉集合体についての理論的計算、中性子の挙動の理論的計算が活発に行なわれている。その他核設計、遮蔽計算、安全性解析等も着々と進められている。

  放射線障害防止および廃棄物処理

  1.障害防止

 昭和34年度中に「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」に基づいて放射性同位元素の使用許可申請は、病院、大学、各研究機関、民間会社等を含めて131件であった。また放射線取扱主任者は国家試験または認定により431名の増加をみ、総計925名となった。

 放射線障害防止のための法律である「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」は33年4月1日から全面的に実施されているが、この法律はわが国における放射性同位元素の使用が緒についた当初に制定されたもので、現在では制定当時に予想された事態と若干の相違が生じ、また規制の方法をより合理的に修正するのが要望されたので、この法律の一部改正の法律が35年5月に公布された。改正のおもな内容は放射性同位元素と放射性同位元素装備機器との規制の一本化、使用についての届出制の採用、廃棄業者に対する新たな規制、放射線取扱主任者制度の改正等である。

 また放射線の許容量については、国際放射線防護委員会が33年2月にこれについての新勧告を発表した。

 わが国における許容量は同委員会が28年に発表した勧告を基にして規制してあった。新勧告と旧勧告とのおもな違いは(1)従来職業人の決定臓器および組織の許容量を週線量で規定したのを13週間の線量で規定し、さらに集積線量を規定したこと、(2)従来は職業人と一般人について規定したが、新勧告ではこの間に三つの特殊グループを考え、その許容量も規定したこと、(3)遺伝線量を新たに規定したこと等である。放射線審議会は新勧告の検討のため特別部会を設け、慎重審議の結果34年8月および35年2月の2回にわたり意見書を提出した。政府はこれに基づいて諸法令の改正を準備中である。

  2.廃棄物処理

 わが国における廃棄物の量は34年度においては、固体約37kl、液体約1,000klで、日本原子力研究所、原子燃料公社、放射性同位元素使用者(約800)からだされる。これらの各機関は廃棄物を法規に基づいて放出、埋蔵、貯蔵等の処理をしているが、最近その量が増加し、1事業者が法規に適った処理を完全に行なうには技術的、経済的に困難となり、これらを一括して処理する事業の設立が要望されるようになった。

 政府はこのため処理事業者に対しては補助金を交付することを決め、これの交付者を34年5月に募集し、その結果日本放射性同位元素協会に交付することとした。同協会の業務内容は、現在のところ、廃棄物容器を各事業者に貸与し、これを回収して、そのまま貯蔵することとなっており、34年10月から業務を開始した。

 現在同協会は関東、関西地区に各1ヵ所事業所を設け、関東、関西地方で上述の業務を行なっている。34年度中に貸与した容器数は総計720に上っている。

 将来原子力の利用が大幅に増加すると、その廃棄物の量も莫大となり、その廃棄は重要な問題となる。国際原子力機関ではこれに関する会議を34年11月モナコで、また海洋投棄の会議を33年10月から数回にわたり開催した。

  放射能調査

 放射能調査は初め米ソの核実験による降下物に対して行なわれたが、現在では原子力の平和利用に対するものを行なうようになってきた。

 放射能調査は国内各機関の協力のもとに、大気、海洋、陸上、動植物、食品、人体等について、その放射能の測定を行なっている。

 各種の資料の調査結果によれば、核爆発の停止以来全放射能は減少しつつある。しかし90Srは半減期が長い等のため増加の傾向にあり今後の調査は核種別の分析調査をさらに充実させることが必要と思われる。また人体への影響についても放射線医学総合研究所を中心として研究が行なわれている。さらにわが国の調査結果は国連科学委員会にも提出されて、大いに利用されている。