11.放射性廃棄物処理の研究

 原子力開発利用の進展に伴い、核燃料の製錬、加工、再処理、アイソトープ使用等による多量の放射性廃棄物の放出が予想される。現状においては、アイソトープ使用による廃棄物が大半を占めており、その量はきわめてわずかにすぎないが、放射性廃棄物の今後の増加に備えて、これらの処理を一元的に行なうため廃棄物処理機関を設置する。放射性廃案物の処理に関する研究は、日本原子力研究所、国立試験研究機関および民間企業の一部が担当し、開発をはかる。

(1)液体廃棄物の処理に関する研究

 放射性廃液の蒸発乾固、凝集沈殿、イオン交換による処理については、ほぼ研究を終了し、実用の段階に移りつつあるが、さらに高能率、高除染率の装置の研究をすすめるとともに、高レベル廃液処理のための流動床か焼の研究を行なう。また、ガラス固化法のほか、活性汚泥法等生物学的方法による処理についても研究を行なう。

(2)気体廃棄物の処理に関する研究

 放射性煙霧体処理の研究は、従来スチームエジュクターによる処理、凝集法による処理等の研究が行なわれてきたが、さらにこれらを発展させるとともに振動法、ダストインパクト法等による処理の研究をすすめる。なお、煙霧体処理に関連してフィルターの研究も引き続き行なう。

 放射性気体処理の研究については、原子炉、再処理プラントから排出されるクセノン、クリプトン等の不活性気体の処理が未開発であるので、特に力を入れて研究を行なう。

(3)固休廃棄物の処理に関する研究

 固体廃棄物については、可燃性のものの焼却炉について研究を行なうとともに、不燃性のものについては、経費節減のための圧縮粉砕等の装置に関する研究およびその安全性に関する研究を行なう。

 一方、廃液処理により生ずるスラッジ、高レベル廃液で飽和したイオン交換樹脂等の処理のための固化法の研究、汚染物の薬品洗浄法、汚染機器の除染法等の研究を行なう。

 動物処理については、動物処理用焼却炉の研究を行なうはか、乾固法、腐敗処理法についても研究を行なう。

(4)海洋投棄に関する研究

 放射性廃棄物の海洋投棄のための容器について耐圧、腐食防止についての研究をすすめる。

 なお、海洋投棄に関係して深海流の流速、深海水の循環、拡散等についての研究、海産生物の放射性物質摂取の状態等についても研究を行なう。


第IV部 原子力開発の促進方策

1.一般方針

 原子力の開発利用がすすめば、わが国将来の経済発展に影響するところは、きわめて重大なものがあり、かつまた広範囲に及ぶものと考えられるが、わが国の現状は、海外諸国に比べなお大きなへだたりがあるので、その推進のためには、政府民間を問わずあらゆる関係機関が緊密に協力する必要がある。

 特に、原子力開発利用は、他の分野と異なり、やや特殊な性格を有すること、また新しい部門であって、現状においては、なお未開拓の分野が多い等の事情からみて、その効果的な推進のために国が受け持たねばならぬ責任は、きわめて大きい。すなわち、政府としては、一方において有効な開発のための積極的な役割を果たすとともに、他方において原子力開発利用に不可欠な安全性の確保のために必要なあらゆる措置を講ずべき責務を有する。

 ここで政府が実施すべき促進方策としては、直接的な面と間接的な面とに分けて考えることができるであろう。直接的なものとしては、大学、日本原子力研究所、原子燃料公社、放射線医学総合研究所、その他の国立試験研究機関等における原子力関係研究開発に対し、適切な計画のもとに有効な財政支出を行なうこと、またたとえば民間における原子炉および関連機器材料ならびに燃料の国産化研究に関し、特定の項目に対し補助金、委託費を支出してその積極的育成をはかること、あるいは民間企業が建設する原子力発電所に対し、資金調達の面等で適当な援助措置を講ずることなどのほか、現在なお国際協定等の制約のもとにある核燃料の海外からの入手について、必要な斡旋を行なうこと等の施策があげられる。

 関接的なものとしては、研究開発をすすめるうえに必要な科学技術者の養成訓練を適切に行なうための計画をすすめること。万一障害が生じた場合に備え、補償制度の確立をはかること等の施策があげられる。これらの施策に関しては、原子力開発利用の進展の各段階に対応し、適時適切に所要の法的措置を講じ、開発利用の円滑な推進に資する。

 次に、民間においては、原子力開発利用の実用化を早めるための努力をすすめるのは、当然であるが、特に前期段階には、将来の発展に備えてみずからの研究開発を推進すると同時に、必要なものについては、海外技術を導入し、原子力産業の基盤を固めることが肝要である。このためには、必ずしも経済性にのらない場合であっても、技術的経験を得るため、原子力設備の設計、製造、建設、運転をある程度実施する必要があると考えられる。

 このような経験を得ることによって、海外から技術を導入したものであっても、早急にその国産化が可能となるものであり、またこの間において、民間企業の創意工夫を生かす方途が生まれ、性能の向上と経済性の改善の早期達成に資するところが大きい。かかる観点から製造者、使用者を問わず関連産業の全般的協力がますます効果るあげるよう推進きれることを期待する。

 これらの施策は、総合的かつ長期的な観点のもとに、相互に補完し合うような形で推進され実施されねばならないが、本計画による原子力開発利用の長期見通しおよびこれを達成するために必要な研究開発計画との関連において研究施設の整備と共同研究体制の確立、科学技術者の養成、安全対策、民間企業に対する助成策、核燃料の確保と有効利用、その他重要なる施策の6項目に大別して、それぞれの対策を明らかにするのが適当と考える。

2.研究施設の整備と共同研究体制の確立

 原子力に関する研究開発を効率的にすすめるためには、既存の研究機関および施設のいっそう有効な活用をはかることが必要なことは、論をまたないが、長期計画との関連においてみるとき、なお新たな研究施設の整備および共同研究体制の確立をはかる必要があると考えられる。

(1)研究施設の整備

 原子力の利用を促進するためには、前期10年間において研究開発に大きな比重をおかなければならない。この研究開発は、もとより民間においても行なわれるが、政府が直接あるいは間接に資金を投入する研究開発が主導的な役割を占めるものと考えられる。前期10年における研究開発の成果が、後期あるいはそれ以後の原子力開発利用に重大な影響を及ぼすことを考慮し、必要と考えられる研究施設の新設および拡充をはかることとするが、この場合研究開発に必要なおもなる施設は、日本原子力研究所、原子燃料公社、放射線医学総合研究所、大学、国立試験研究機関において整備されるものと考える。

 まず、日本原子力研究所に設置すべき施設としては、大型電子計算機、大型加速器をはじめ、JRR-1からJRR-4(遮蔽研究用原子炉)に至る研究炉、JPDR(動力試験炉)、材料工学試験炉等の原子炉があり、さらに放射線化学研究の促進のため、大規模線源等の施設を置く必要がある。また前期段階において特に重点がおかれているプルトニウム研究開発のための施設も必要とされる。

 なお、将来の動力炉開発のための課題である半均質炉、高速中性子増殖炉等について、今後研究開発がすすめは、適当な段階においてそれらの実験炉あるいは試験炉をおく必要が生ずることも考えられ、核融合関係についても、高温プラズマに関する研究が進展し、基礎的資料が十分に得られるようになれば、さらに研究開発を推進するための手段として、かなり多額の費用を要する大型実験設備が必要となるであろう。

 次に原子燃料公社に設置さるべき施設としては、再処理および廃棄物処理に関する研究開発施設が重要なものであり、そのほか、粗製錬および精製練、ウラン濃縮、プルトニウム、燃料検査等に関する研究開発が行なわれるので、これらのための研究施設が必要である。なお、核燃料の事業に関しては、ある程度の探鉱、採鉱および製錬が行なわれるが、これらは、当分の間試験的規模ですすめられるので、これに必要な施設も多分に研究開発的な性格を有する。

 放射線医学総合研究所に設置さるべき施設としては、放射線医学の研究のため直接必要な研究施設のほか、治療のための諸施設が必要であり、将来は医用原子炉の設置も考えられる。

 原子力船については、第1船は、後期における原子力船発展へのための足場としての研究開発的性格をもつものであるので、その建造に必要な資金の確保については、国として十分努力するものとする。

 なお、原子力の研究開発は、広く総合的にすすめられねばならないので、上記のごとき施設のほか、大学その他国立試験研究機関における研究施設の拡充整備をはかる必要がある。

 これら研究施設の整備に必要な国の資金については、これをいま具体的に推定することは、困難であるが、前期10年間における文教関係を除くおおよその政府所要資金を一応の仮定をおいて見積れば、必要な研究経費を含め総額約1,800億〜2,000億円程度とみられる。

(2)共同研究体制と共同利用体制の確立

 共同研究体制の確立については、すでに述べたいくつかのプロジェクト研究を強力に推進するため、日本原子力研究所を中心として、関係研究機関の機能を有機的に結びつけた組織の確立をはかるほか、特定の研究機関に設置される大規模施設の活用を中心とする新たな運営委員会組織の設立などがある。

 すなわち、プロジェクト研究の一つである半均質炉の開発については、政府民間の関係者からなる開発推進協議会のごとき組織を設け、ここにおいて日本原子力研究所における半均質炉の研究開発成果を検討しつつ、その効果発展のための施策を協議するとともに、大学、国立試験研究機関および民間研究機関の協力を求めるための適切な連絡を行なうものとする。

 同じくプロジェクト研究であるプルトニウムの燃料研究開発については、前述のごとく日本原子力研究所と原子燃料公社とをもって共同研究組織をつくり、両者の間の研究分担、施設の整備等について最も有効な計画を推進し、双方の研究努力が共同研究組織によって総合化され、実用化への発展ができるだけ早く実現するよう措置する。なお、共同研究組織の運営にあたっては、大学、その他研究機関の協力が得られる方策を講ずるものとする。

 これらプロジェクト研究を中心とする共同研究体制のほか、その他の重要な研究課題についても、できるだけ関係研究機関の努力が有効に総合化されるような共同研究方式を推進するものとする。

 日本原子力研究所に設置される大規模施設を利用する研究計画の運営にあたっては、大学、民間企業等の研究者が有効に活動できるような方策を講ずる必要がある。すなわち、放射線化学研究開発のための施設、遮蔽研究用原子炉、材料工学試験炉等の利用については、日本原子力研究所と関係研究機関との間で適当な研究運営委員会を設け、研究の効率的推進をはかる。放射線医学総合研究所に設置することとなると考えられる医用原子炉の活用等についても、同様の措置をとり、研究施設の共同運営の妙を発揮するよう努力する。

3.科学技術者の養成

 長期計画の推進にあたっては、その中核となる科学技術者の養成を適切に行なわなければならない。養成訓練計画をたてるためには、単に所要数の確保に努めるだけでなく、原子力が開発の初期段階にあることからみて、研究的要素をもった科学技術者の養成を重視する必要がある。

(1)原子力関係科学技術者の範囲

 原子力研究開発の現状および将来の発展方向からみて、原子力関係科学技術者の範囲を次のごとく分類するのが適当であろう。

(a)原子力専門科学技術者

 原子物理、原子力工学等原子力関係の専門分野について高度の知識、技術を有するもの。

(b)原子力関連科学技術者

 機械、電気、物理、化学、生物、冶金等の専門分野についてそれぞれの知識、技術を有し、合わせて原子力関係専門の知識、技術を有するもの。

(c)放射線利用関係科学技術者

 「放射線取扱主任者」に要求される程度以上の知識、技術を有し、アイソトープ利用、放射線化学等の分野に従事するもの。

(d)放射線安全管理者

 これに属する科学技術者の概念は、業務内容の上からも法制上からもまだ確立されていないが、放射線防護安全設計への参画、職場および週辺還境の放射線測定、放射線危険度の評価、廃棄物の管理および処理、緊急時の対策および措置等を行ない、つねに安全作業の確立と作業管理を指示する立場にある者(Health pbysicist)をいう。

 なお、大学において、原子力関係分野の教授、研究に従事するものは、原子力関係科学技術者の養成訓練の中核となるべきものである。したがって、当面最も早急に高度の教授陣を整備する必要があるが、その規模内容に関しては、上に述べた分類に属する科学技術者の養成訓練計画、大学における他の分野の教授、研究等に左右されると考えられるので、文部省その他関係機関において、原子力研究開発、科学技術振興の進展を勘案しつつ、立案整備されることが望ましい。

 また、本計画の遂行のためには、ここでいう科学技術者とは別に多数の技能者が必要となるので、技能者の養成訓練も合わせて行なうことが望ましい。

(2)科学技術者所要数の推定

 養成訓練計画を立案するためには、原子力関係科学技術者の将来における所要数を把握することが必要であるが、現状において正確な推定を行なうのは、きわめて困難である。しかしながら、本計画の見通しに従って、民間企業、国立試験研究機関、日本原子力研究所、原子燃料公社その他関係機関の1970年における所要数を一つの方法によって、とりあえず概括的に推定すると、原子力専門科学技術者については、1,200〜1,300人、原子力関連科学技術者については4,500〜5,300人、放射線利用関係科学技術者については、5,000〜5,500人、放射線安全管理者については、300〜350人程度に達するものとみられる。

 これらのうちには、大学における科学技術者および行政官としての科学技術者は、含まれていない。1958年(昭和33年)末に行なった調査では、大学における科学技術者は、全体の約4割と推定されていたことからみても、かなりの人員が必要とされるものと考えなければならない。

(3)養成訓練対策

 今後10年間の原子力開発利用に必要な科学技術者数の推定は、上に示したとおりであるが、これら科学技術者の養成訓練にあたっては、関係各機関は、密接な連携を保ちつつ、組織的体系的な養成訓練を行なう必要がある。

a 大学

 原子力関係技術の養成訓練に関して、大学が果たすべき役割は大きい。特に、原子力平和利用も今後積極的に推進するために、原子力専門科学技術者の所要数を養成しなければならぬことを考えれば、その使命は、まことに重要である。したがって、すでに設置 された国立大学における原子力関係学部学科および大学院専攻科目については、さらにこれを充実し、教授内容、研究設備等を早急に整備するとともに、必要に応じ新たに原子力関係専門学部学科または大学院専攻科目、場合によっては両者の設置を考慮して、原子力専門科学技術者、原子力関連科学技術者および放射線利用関係科学技術者の養成にあたるものとする。

 なお、原子力関係専門学部学科または大学院専攻科目の設置されない大学においても、原子力の発展情勢に応じて原子力関係専門の講座を設け、原子力関連科学技術者の養成訓練にあたることが必要である。また、原子力関係科学技術者の教育を計画している公、私立大学に対しても必要に応じなんらかの助成措置をとることが望ましい。

 以上のごとき、原子力関係科学技術者の基礎的な教育にあたる大学の原子力関係専門学部学科、大学院専攻科目に設置されるべき研究諸設備は、これら大学における研究計画とも関連せしめつつ、教授研究を遂行するに十分なものでなければならない。このため、教育訓練用原子炉あるいは研究用原子炉、臨界または臨界未満集合体等も、たとえば各地域に1基または主要大学に1基のごとく、必要に応じ設置するとともに、少なくとも教科課程を履修するに必要な放射線測定機器、照射設備の装置、設備は、早急に整備することが望ましい。

 しかしながら、これら原子力関係数育研究設備は、他の分野の設備と異なり、設備自体に多額の資金を要するのみならず、保守運転のための費用実験研究のための費用も多額にのぼるものが多い。このため、大学における原子力関係科学技術者の教育に対しては、高度の教育を遂行するに十分な措置を講じるよう関係各方面の協力を求めるとともに、原子炉のごとく多額の資金を要する設備については、各大学が共同利用しうるような体製を整備することも必要であろう。これら教育、研究設備の計画は、原子力関係専門学部学科または大学院専攻科目の設備計画とともに、文部省その他関係機関においで慎重に立案する必要がある。

b 日本原子力研究所原子炉研修所

 原子炉研修所の本来の使命は、大学卒業後職業に従事しているものの再教育あるいは高度の研究訓練にあると考えられるので、大学における体制の整備された後においても、引き続き原子力関係科学技術者の養成訓練機関として重要な位置を占める考えである。

 原子炉研修所は、今後日本原子力研究所における原子炉の設置状況、研究開発の進展状況等を勘案しつつ、収容人員の増大、教科課程および研究施設の充実等その整備拡充が行なわれることが必要である。特に、高級課程については、原子力研究所の設備を利用しなければ行なえないような研究テーマについて研修を行ない、大学における教育とあいまって原子力専門科学技術者の養成訓練に努力する必要がある。

 なお、同研修所の教科課程の編成にあたっては、実際の原子力研究開発に即応しうるような知識、技術の教育を行ないうるよう留意すべきである。さらに、外国からの研修生の受入れをも考慮するものとする。

 また、原子炉運転技楕者の養成のための運転講習者については、今後の運転技術者の需要を勘案しつつ、たとえば、動力炉の運転訓練を行なう等、その内容、規模等を検討することとする。

 c 日本原子力研究所ラジオアイソトープ研修所

 ラジオアイソトープ研修所は、今後とも放射線利用関係科学技術者の養成訓練を目標に、養成訓練内容の拡充、施設の充実をはかるものとする。特に、大学における初級程度の取扱技術の教育と関連せしめつつ、養成訓練の内容を高度化および専門化し、放射性同位元素取扱技術者の知識、技術をさらにたかめる体制を整備することが必要である。

 なお、外国からの研修生の受入れについても、今後引き続き行なうものとする。

d 放射線医学総合研究所養成訓練部

 放射線安全管理者の養成訓練の目的とする放射線医学総合研究所養成訓練部の行なう研修は、放射線安全管理者の法律上の制度化とそれに伴う業務内容等を勘案して研修内容、規模等を明確に策定することとする。

すでに開設されている同研究所養成訓練部の短期コースについては、当面増大しつつある放射線安全管理者に対する需要に応ずるため、実地の放射線安全管理の業務に従事しているものの研修を目標に、収容人員の拡大、研修内容の高度化に努力する。

 将来、大学に放射線安全管理者の教育のため設置される大学院専攻科目が整備された後においても、同研究所養成訓練部の行なう研修はすでに大学卒業後職業に従事しているものの補習あるいは実地訓練の場として引き続き放射線安全管理者の養成訓練機関として重要な位置を占めるものと考える。

e その他の養成訓練機関

 上記のごとき原子力研究機関に設置された養成訓練施設のほか、その他の養成訓練機関、たとえば公衆衛生院、航海訓練所等の政府機関および民間の養成訓練施設においても、原子力開発利用の進展に対応しつつ、合わせて正しい知識の普及をはかるため、適切な訓練を実施する必要がある。

f 海外への留学

 海外の原子力に関する知識、技術を効果的に体得し吸収していくためには、海外留学制度の活用をはかることが常に必要である。すなわち、今後養成訓練機関の整備に伴い国内で養成しうるものは、遂次それら養成訓練機関に委ねるが、海外先進国の原子力関係科学技術の進歩を不断に取り入れるためには、引き続き各専門的分野の研究開発に従事するものを海外に派遣しなければならない。

 なお、海外留学の規模については、今後の原子力研究開発の進展状況、国内機関の整備状況を勘案しつつ、弾力的に決定することが必要であるが、原子力関係科学技術者の需要増加と同時に専門化の傾向がすすむものとみられるから、その結果派遣人員の拡大が必要になることが予想される。このため、科学技術庁原子力局において推薦を行なっている原子力関係海外留学生派遣制度のほか、国際原子力機関フェローシップ、原子力平和利用基金留学生制度、その他海外の援助計画等を有効に利用する。

g 研究員の交流

 国内、国外における研究員の交流は、原子力研究開発を効果的に進めるためにも、また優秀な科学技術者の有機的な連携をはかるためにも重要である。

 国内における研究員の交流については、養成訓練機関の整備拡充と関連せしめつつ、たとえば、日本原子力研究所とその他の試験研究機関との研究員の交流、流動研究員制度等の適用を考慮するものとする。

 海外諸国との研究員の交流については、必要な場合民間企業が行なうものを援助するだけでなく、国として、わが国研究者の国際的共同研究への参加を積極的にすすめるものとする。4.安全対策

 原子力開発利用の促進にあたっては、上述のごとき直接的な措置および援助のほか、原子力利用の基盤と環境を確立するため、万全の安全対策を講ずる必要がある。

 安全対策として考えられるものは、原子力施設の安全確保、特に原子炉安全設計および審査制度の確立、障害防止対策の完備、廃棄物処理等多くの重要な問題がある。これらの一部については、民間の協力にまたねばならぬ面も多いが、しかしその性質上、主として国が積極的に最も適切な対策を講ずべき責任を有するものである。

(1)原子力施設の安全確保

 原子炉については、機器設備材料の発達に伴いますますその安全性を高めてきているが、さらにその確保をはかるため、わが国においては、早くから原子炉等規制法等を制定し、これに基づいてあらかじめ厳重な審査を行なったうえで、初めて、その設置許可を与えることとしている。このため原子力委員会には専門部会として原子炉安全審査専門部会をおき安全性の審査を実施するとともに関係各省においてもそれぞれ関係部門についての審査機能を強化しているが、さらに今後発展する原子炉設置計画に備え、上記安全審査部会を他の専門部会とは異なる性格の常設委員会に改め、その機能の強化をはかる。また、舶用炉、再処理施設等についても、これらの機関において安全審査を実施するものとする。

 このような審査機能の強化と並行的に、発電炉、原子力船その他原子力施設の安全基準を確立する必要があるので、放射線審議会、原子力委員会の原子炉安全基準専門部会および関係各省の安全基準関係組織において、そのため国際的基準等を十分参考として研究をすすめる。

 なお、原子力船塔載の原子炉は、陸上に設置した炉と異なり、海上を航行(移動)するとともに、一般民衆が集合する港湾に出入することもあるので、放射線事故が発生Lた場合の沿岸民衆、港湾施設、一般船舶、水産資源および海永の汚染を防止するため、原子力船の出入港湾の選定、受入対策、事故対策等を早急に確立し、必要な体制を整備するものとする。

(2)核燃料の検査

 核燃料物質の保安に関しては、原子炉等規制法により、その安全を確保するための措置が講じられているが、さらに核燃料保安の強化を期するためには、国際的な動向をも考慮しつつ燃料要素に関する国家検査制度を確立する必要がある。

 この場合、核燃料検査に関する技術の開発は、原子燃料公社を中心として行ない、検査方法、検査規準の確立をはかるとともに、国家検査制度の実施にあたっては、原子燃料公社の修得した技術を十分に活用するものとする。

(3)放射線障害防止

 アイソトープ等放射線の利用が拡大するに伴い、これを取り扱う事業所は、今後ますます増加するものと考えられるが、これらの施設に対しては、すでに放射線障害防止法のほか、医療法、薬事法等によってアイソトープの利用等が常に安全に実施されることを確認しなければ取扱いを許可しないこととなっている。また、設置許可後も遺漏なきを期するため、定期的に検査官を派して検査を行なう制度をすでに確立しているが、これら検査制度の実施については、今後さらに強化するとともに、今後の発展に備え、放射線医学総合研究所等において障害防止のための研究をいっそう推進する。

(4)放射性廃棄物の処理

 アイソトープ利用に伴う放射性廃棄物の処理に関しては、さしあたり、その回収および貯蔵措置を講じているが、今後アイソトープ利用が発展するに従い、処理を必要とする廃棄物は、量的に増加するので、単に回収貯蔵を行なうだけでは十分とはいえない。さらに研究用原子炉および発電用原子炉の建設運転が増加するに伴い、将来国内において使用済み燃料の再処理を実施するようになれば、多量かつ高水準の放射性廃棄物が生成されるが、これらは一部その利用をはかるほか、適当な処理を施こすことにより、廃棄物から生じうべき影響を絶対に防止しなければならない。

 このため、研究施設および事業所において処理の困難な放射性廃棄物については、適当な公共的磯軌こおいて、国際的制度を十分勘案しつつ必要な処理および廃棄を行なう体制を確立するものとする。

5.原子力産業の育成

 政府は、直接資金を投入して研究開発を推進すると同時に、合わせて民間産業がみずからの創意と責任とにおいて行なう原子力の開発利用を促進する方策をとる必要があると考える。特に、前期10年において原子力産業の育成をはかることは、広くわが国の原子力産業にその分野における経験を与えることになり、後期における急速な拡大発展をもたらすうえに効果的であると考えられる。ここで政府が行なう育成方策としては次のごときものがある。

(1)低利貸金の融資および税制上の措置

 原子力発電については、新規産業であるとともにその性格とのて建設費が高く焼料費が安いという特性がある。したがって、前期10年に原子力発電100万kWを建設する場合には、重油専焼火力発電で行なったばあいより相当多額の余分の建設資金が必要となる。これらの事情を考慮すれば、当分の間政府として、長期低利資金の確保、海外金融磯開からの資金導入促進等についての配慮が必要であろう。

 また、民間企業に対しては、研究費についての一般的な優遇措置だけでなく、開発の初期段階にある原子力産業育成のための税制上の優遇措置をとることが必要である。

(2)国内技術の助成

 研究開発の促進にあたっては、海外技術の導入によって早急に産業の基盤を固め、その技術の基盤に立脚してさらに改良を進展させるとともに、一方わが国の独創性による研究の開発をすすめることを重点として考えており、その達成のためには、国の研究親閲のみならず民間技術の健全な発展に期待する面が大きい。

 したがって、わが国の原子力産業としても、原子力施設の国産化を推進すると同時に、その創意工夫が将来有効に生かされ発展するようはかられなければならない。このため、国内の民間技術を重点的に開発し、計画期間の半ばごろにおいて海外諸国と同程度の技術水準に到達させることを目途として、前期10年には、特に民間産業のすぐれた技術に対し、国として補助金、委託費等の助成措置を積極的に講じ、研究開発の促進をはかる必要がある。この場合、これら助成措置の対象としては、本計画の線に沿った研究を重点的に取り上げるよう措置する。

6.核燃料の確保と有効利用

 原子炉に使用される核燃料の確保は、わが国原子力開発利用を健全に発展させるうえに最も重要な問題である。その供給源としては、現在のところ国内核燃料源の開発による分も一部あるが、量的には主として海外からの購入に期待しなければならない。この場合、天然ウランについては、供給可能な国が比較的多いが、濃縮ウランについては、現在のところ米国およびIAEAに依存することとなり、かつ濃縮ウランは、政府みずからこれを購入して民間に賃貸するものとなっているので、原子力発電所等の建設にあたっては、海外諸国または国際機関との間に必要な協定を締結する等、長期にわたる核燃料の供給が円滑に行なわれるような措置を講ずる。

 さらに、将来は他の供給源がふえることも考えられるが、なお国内におけるウラン濃縮に関する研究をもすすめるものとする。

 また、現在、原子力発電コストの推定にあたっては、使用済み燃料ないしはプルトニウムのクレジットが計算に入れられている。したがって使用済み燃料ないしプルトニウムが経済的に価値を持ちうるか否かは、原子力発電の経済性に大きな影響を及ぼすことになる。このため、政府としては、日本原子力研究所および原子燃料公社を中心として、プルトニウムおよび劣化ウランの利用のための研究開発を促進し、その有効利用をはかるものとする。

 このように核燃料供給源の確保、燃料要素の製造、使用済み燃料の再処理、プルトニウムおよび劣化ウランの有効利用を通じ、核燃料に関する一貫した体制の確立をはかるものとする。

7.その他の重要な施策

(1)原子力施設周辺の環境整備

 原子力の研究開発の進展に伴い、今後大規模な原子力施設が増加するものと考えられるが、これら原子力施設について、その立地の適正を期するとともに周辺の環境整備をはかる必要がある。すなわち、環境整備のための関連施設が適正に配置されるよう措置するとともに、放射線監視機構については、原子力施設の所有者または事業者に所要の措置を講ぜしめるほか、さらに所有者、地方公共団体および国の三者により実施されるモニタリング計画を樹立することを考える。

(2)緊急時対策の整備

 これまでに述べたごとき種々の安全対策を講ずることによって、原子炉等の安全は、十分確保されることになっているが、万一予想しない原因のため事故が生ずるようなことのあった場合に備え、かつまた事故の拡大を未然に防止するため、関係機関の取るペき措置、協力体制組織機構等に関する対策を検討し、確立するとともに、要すれは関係法規の整備充実をはかる。

(3)災害補償制度の確立

 さらに、万一事故が生ずるようなことのあった場合は、第三者の損害に対して、被害者の保護をはかり、かつ原子力事業の健全な発達に資することを目的として原子力災害補償制度を確立することが必要であるので、このため、政府としては、すでに所要の措置を講じつつある。

 また災害補償制度については、国際的規模において、そのとりきめを行なう必要もあるので、国際原子力機関等を通じ、その推進に積極的な協力をするものとする。

 なお、従業員の災害補償についても、万全の措置を講ずるものとする。

(4)放射能調査

 放射能調査については、すでに一応国内全体にわたり広く調査網を設け、その放射能レベルを全般的に調査してきたが、これまでのところ原水爆実験に伴うフォール・アウトの調査がその主体を占めていた。このようなフォール・アウトの調査は、現在の世界情勢が特に変化しないかぎり、おおむね現状の線を維持するにとどめ、今後は核種分析に重点をおいて、平和利用との関連において、環境の放射能レベル、すなわち、バックグランド調査に主力をそそぐこととする。

(a)これまでの放射能調査網を上記の趣旨に従って、特に将来原子力施設が設置される可能性があると思われる地域および原子力 船が入港する可能性がある港湾のバックグランド調査に重点をおいて強化する。

(b)ウラン鉱山およびその周辺の放射能調査を強化し、気象、水象等各種の測定を定期的に行なう。

(c)海洋については、放射性廃棄物の海洋投棄に備える一般的基礎調査として、日本近海の海流調査、表面海水、深海水および深海底ならびに海洋生物の放射能調査を継続して行なう。

(d)原子力施設が海岸にある場合および放射性廃棄物が投薬された場合は、その付近の海水、海底沈殿物、海洋生物について、実期的にモリタリングを行なう。

 なお、その他フォール・アウトあるいは放射性廃棄物の海洋投棄の問題は、国際的に関連する事項であるので、14Cの調査、極東および東南アジア地域の米食民族に関する放射能レベル調査等につき国際的に協力するとともに、海洋の放射能レベルに関する調査研究については、IAEAと緊密に連絡し、必要の場合は、国際的規模における調査を行なうようすすめるものとする。

(5)情報の国際交流

 わが国における原子力研究開発利用は、この数年間の進展をみたとはいえ、なおまだ海外諸国に比しかなり大きなへだたりがあり、国内情報の交流はもちろん、これら海外諸国との間の情報の交換の円滑化をはかることは、本計画の推進上重要な役割を果たすものと考えられる。

 原子力に関する情報の交流については、現在国際的にも大いに進められつつあり、わが国もその恩恵に浴しているが、現在までのところ、情報を海外から入手することに重点がおかれ、海外に対し、国内の研究成果を提供する面については必ずしも十分でない。今後は海外の重要な情報を入手するためにも国内の情報を積極的に諸外国に提供する必要がある。このため、関係機関の連絡を密接にするとともに、国としても日本科学技術情報センターを通ずる等によりこの事業の推進に対して必要な援助を行なうものとする。

(6)原子力知識の普及

 原子力のように新しい技術の発展のためには、一般国民が正しい知識をもってこれを守り育てていくことが必要である。この意味で原子力の正しい知識の普及徹底を活発に行なうことは、本計画を推進する上においてもきわめて重要な課題である。

 現在、原子力の知識の普及活動は政府および民間の関係各機関において、それぞれ行なわれているが、今後直接政府が行なうものについてさらにその活動を積極化するとともに、民間の行なう普及活動に対しても、適当な援助を行なうことを考える必要がある。

 原子力の正しい知識を普及するための具体的方法としては、次の世代をになう、中、高校生に対してはできるかぎり、原子力が教材に取り入れられるように努力し、また各機関の刊行物のうち必要のあるものについて、内容の充実につき政府、日本原子力研究所、原子燃料公社、放射線医学総合研究所等から適当な材料を捏供するほか、映画、スライドの作成および展覧会、講演会等の催し物に対して積極的な援助を与えるなど、各種の方法を総合的に推進するものとする。

 なお、これらの活動は、非常に多岐にわたるので、政府および民間の関係機関相互の連絡を緊密にするための適切な措置を講じ、最も効果的な普及活動が行なわれるよう努力する。