(4)安全性確保のための研究 原子力開発利用が円滑に推進されるためには、原子力施設の安全性を確保することがなによりも大切である。したがって、研究開発計画においても、安全性確保のために必要な機械的設計の研究のみならず、核燃料、遮蔽、計測制御装置、事故解析、耐震性等に関する問題、さらに間接的に安全対策と関係を有する諸問題について、特に重点的に調査研究および研究開発を計画する必要がある。 もとより原子力施設の設置に際しては、原子炉等規制法等により十分な安全審査を経る必要があり、かつまた核燃料については、特に国家検査制度を考慮する等万全の策を講ずることとなっているが、これらの対策も、結局その基礎において必要な調査研究が徹底的に行なわれ、確信をもって推進されるものでなければならない。安全性確保のための研究は、各分野の研究開発にまたがるものであるが、この意味において、特にその重要性が強調され、政府、民間が協力して総合的に推進する必要がある。 (5)国際的共同研究 研究開発の推進にあたっては、プロジェクト研究と相並んで、同一研究問題に関係を有する研究機関が協力して業務を分担するごとき共同研究を促進する必要がある。このためには、学会等の場を通じ国内各研究機関相互の連絡を密にして研究情報の交換等が能率的に行なわれなければならないが、さらにすすんでは海外研究機関との協力をも積極的に発展させる必要がある。ことに原子力のように新しいしかも広範にわたる分野においては、その研究開発に多大の資金および設備と多くの研究者が必要であり、これらを一国がすべて負担することは容易なことではないから、国内における共同研究の場合のごとく、各国研究機関がそれぞれ特色を有する分野において貢献することにより、国際的な規模で研究成果をあげることを考えておかねばならない。 さきに述べたプロジェクト研究は、かかる見地からみてわが国が国際協力の場において、積極的役割を果たしうるための有力な拠りどころとなることが期待される。 このような国際的共同研究を発展させるためには、海外諸国および関係国際機関との接触を深めることが必要であるので、既存の双務協定および国際庶子力機関を通ずる政府間協力をいっそう推進するほか、必要な場合には、他の諸国との間の双務協定の拡大を考慮し、さらに欧州原子力機関あるいはユーラトムのごとき地域機関と新たに協力関係を結び、原子力技術開発のための情報交換を強化し、すすんでこれらとの間の共同研究の推進を考える。 (6)各研究機関の役割 研究開発を効果的に推進するためには、開発の初期の段階にあるわが国としては、各分野の協力が必要であることはいうまでもないが、一方それぞれの研究機関の特色に応じた研究を中心に開発計画をすすめることが必要である。 反面、原子力開発研究がきわめて広範囲であり、かつ開発の初期にあっては、多数の資料と経験の集積を必要とすることにかんがみ、研究の分担を画一的に規定することは、かえって研究の有機的関連を阻害し発展を遅らせるおそれがあることも考えられる。したがって、研究開発の過程においては、基礎研究あるいは研究の外延的部分についての研究が重複して行なわれることは当然であるが、それぞれの研究機関が重点をおいて分担すべき役割は、次のごとくであると考える。 a 大学 原子力開発に関連し、基礎研究を重視すべきことはいうまでもないが、特に核物理、物性論、素粒子論のごとき基礎科学における研究については大学における研究の発表に期待しなければならない。また、原子炉物理、核工学、核設計のごとき応用科学における基礎研究についても、大学の研究に期待するところが大きい。特に、わが国独自の研究開発を発展させ、諸外国と原子力科学技術の面で肩を並べうるためには、基礎科学から応用科学への進展を効果的に具体化させる努力が肝要であり、この観点から従来必ずしも十分でなかった大学と日本原子力研究所との間の共同研究または協力をよりいっそう緊密にすることを考える必要がある。 また、原子力の研究開発に不可欠の科学者技術者の養成については、大学における教育にほとんど全面的に依存しなければならないので、この点に関して文部省、大学、原子力委員会等関係者の連絡を緊密にし、効果的教育が行なわれることを期待する。 b 日本原子力研究所 原子力の研究開発における日本原子力研究所の役割は、日本原子力研究所法に定めるとおりであるが、特に重要と考えられるのは、第1に大学における基礎研究と並行して行なわれるべき基礎科学分野の研究であり、第2に大学あるいはみずからの行なう基礎研究を基礎として、これを開発目標をもった応用研究へと連繋させるような基礎研究である。すなわち、大学とともに基礎科学における研究および応用科学における研究をすすめつつ、これをみずからの実施する応用科学研究と結びつけ、さらに発展させて応用研究(工学研究)ないし工業化試験研究(実用化研究)を行ない、やがてわが国原子力産業技術の向上に寄与することにより、基礎研究と実用化の間のかけ橋的役割を果たすことである。 第3にわが国として、将来の開発のため重要と考えられる応用研究、たとえば均質炉の研究、プルトニウムの研究等原子力開発の基本計画において要請される研究を行なうことである。 第4には、原子炉、加速器、大型電子計算機等の特殊な設備を必要とするものについて研究開発の中心となるとともに、これら設備を利用する大学、国立および公立試験研究機関ならびに民間企業における研究に広く協力することである。なお、その他の研究施設についても各界の利用に供せしめるほか、特に原子力に関係する科学者技術者を教育し、所要の訓練を行なうことが必要である。 これらの役割を果たすためには、日本原子力研究所は一方において民間企業との間の協力体制について十分の考慮を払うとともに、他方前述のごとき大学および国立試験研究機関における研究との間の関係をより密接ならしめることを考える必要がある。このため日本原子力研究所におかれる研究設備の効果的運用をはかる体制を一段と強化し、さらに日本原子力研究所から大学および民間研究機関への委託研究制度を確立するほか、大学教授あるいは民間研究者等の協力が得られるごとき方策の実現をはかるべきである。 c 原子燃料公社 原子燃料公社の役割は、原子燃料公社法に定めるとおりであり、粗製錬および精製錬については、従来の技術を改良進歩せしめるための研究を引き続きすすめるほか、前期段階においては、燃料要素換査技術の確立、再処理技術の研究、遠心分離法によるウラン濃縮の研究等について原子燃料公社が研究開発推進の重要な役割を受け持つものとする。 特に、ウラン濃縮に関する研究については、今後の動向とも関連するが、1970年代に入れば、国内においてウラン濃縮を実施する必要性が生ずることも予想されるので、関係機関の協力を得つつ日本原子力研究所および原子燃料公社において漸次研究を強化することを考える。 また、プルトニウム燃料の研究については、燃料としての有効利用をはかることの重要性にかんがみ、日本原子力研究所と原子燃料公社との共同研究体制を確立し、ここを中心として強力に研究開発を推進する。 d 放射線医学総合研究所 放射線医学総合研究所における研究開発については、放射線医学に関する全般的基礎研究を推進するほか、放射線を診断および治療に利用する面と、放射線による障害の治療に利用する面とがあるが、さらに放射線障害防止のために必要な人員の養成訓練を受け持たせる。これらはわが国の原子力平和利用を正常かつ健全に発展させるうえに重要な意義をもつものであるから、その研究成果がつねに実際の原子力開発利用面に反映するよう措置する必要がある。 e 国立および公立試験研究機開 国立および公立試験研究機関においては、それぞれの機関の特色および地域性を発揮するごとき分野における研究開発を行なう。この場合、研究項目の若干の重複は、あるものと考えられるが、各機関相互および日本原子力研究所等との間の連絡および協力については、今後その緊密化についていっそう努力する必要がある。 f 民間における研究開発 原子力関連技術が実用化にまで発展するためには、民間企業が受け持つ応用研究および工業化試験研究の果たすべき役割はきわめて大きい。原子力の分野においては、当面海外から導入した技術の消化およびこれを基盤とする技術の改良発展に研究努力の大部分が向けられるものと考えられるが、同時に国内技術の萌芽の育成についても意をそそぎ、白主的創造力の伸長による今後の発展を期待する。この場合、大規模高価な研究施設を必要とするものについては、日本原子力研究所等に設置する施設を有効に利用しうる方策を講ずるとともに、長期計画との関連において、特に開発段階における国の育成が必要と考えられるものについては、委託費、補助金等により民間の研究開発の促進をはかる。 (7)研究開発計画の要点 a 基礎研究
b 動力炉の研究開発
c 前期10年における原子炉、関連機器および材料の研究開発
d 核燃料の研究開発
e 原子力船の研究開発
f 核融合反応の研究
g アイソトープ利用の研究開発
h 放射線化学の研究開発
i 放射線障害防止の研究
j 原子炉安全対策の研究
k 廃棄物処理の研究
2.基礎研究 (1)基礎研究の必要性と範囲 原子力の開発利用に関する研究は、原子力委員会における総合的調査研究をはじめとし、大学、日本原子力研究所、国立試験研究機関等における基礎科学および応用科学の分野での基礎研究、さらに民間企業を中心としてすすめられている実用化のための試験研究に至るまできわめて広範囲にわたっている。これを原子炉の開発についてみれば、大学において行なわれている素粒子、核物理等の基礎科学における研究が広い基盤となり、このうえに原子炉物理等の応用科学における基礎研究が、原子炉の実用化への発展の基礎となる。 さらに、核設計あるいは炉設計のための応用研究の段階を経て工業化、実用化のための試験に至って初めて原子炉の建設に着手しうることとなる。原子力開発研究の底流をなしている基礎および応用科学における基礎研究は、その研究の方向性について規制し、あるいは計画性についてうんぬんされる性質のものではなく、幅広く潜在的能力を向上させていくべきものと考える。一方、これら科学としての基礎研究から発展し、原子力開発利用のために直接有効に働くべき基礎研究、すなわち、原子炉の開発のごとき特定の目的のための基礎研究は、おのずからその範囲が限定され、研究の焦点は明らかとなるであろう。 (2)大学、日本原子力研究所、その他研究機関の役割 科学としての基礎研究と原子力開発の基礎研究は、その方向性、計画性において差異を有するものの、原子力開発の基礎研究が科学としての基礎研究を基盤として発展するかぎり、両者の間は有機的な連携を保つよう配慮されなければならない。また、原子力の開発利用という究極の目標を効果的に達成するためには、研究開発の分担も同時に考慮すべきである。 基礎研究全般についてみると、特定の開発目的に直接関連を有しないものは、主として大学において分担し、将来の具体的目標へ向って発展させるための基礎研究は、主として日本原子力研究所および国立試験研究機関を中心としてこれに民間企業も協力していくべきであることは、それぞれの研究機関の性格からみても明らかである。もちろん、科学としての基礎研究と開発のための基礎研究の間には、画一的な境界を示すものはなく、したがって両者の研究の分担も十分な弾力性を持ったものであるべきことは、当然である。これら研究機関の相互の連絡を緊密化するために、有効な研究討論の場をつくり、各研究機関が容易に参加できる機会を設けることが必要である。 (3)基礎研究の規模と施設 原子力開発の潜在的技術水準を向上させつつ開発の目標に向うということが基礎研究の役割と考えられ、特に科学としての基礎研究には、広い幅が要求されるので、今後10年ないし20年の原子力開発においては、基礎研究が占める比重は、ますます増加するものと思われる。 同時に基礎研究のための研究施設は、研究手段の進歩により大規模化、高級化することになり、これに伴う研究費も次第に高額のものとなることが予想される。たとえば核物理および炉設計における理論的分野の研究では、条件等がますます複雑化するにつれて、中型電子計算機で処理できない問題が山積しつつある現状にかんがみて、高速大容量の電子計算機は、必要欠くことのできない状態になりつつある。 さらに、核物理、素粒子における基礎研究推進のためには、大型加速器共同利用という観点から設置が考えられなければならない。その他固体物理、化学あるいは生物学等の面においても、特殊大規模の施設が要求されるものと思われる。 これらの施設は、大学、国立試験研究機関ないしはこれに準ずる公的研究機関にそれぞれの部門に応じて設置し、広く関係研究者の利用に供するよう措置するとともに、その運営にあたっては、適当な機構を設けて有効利用をはかることが望まれる。また、これら施設の共同利用に伴う関係研究機関の共同研究体制の促進も必要である。 (4) 国際交流の必要性 基礎研究の推進にあたっては、前述のごとく国内各研究機関の相互の連絡を密にし、また基礎研究、応用研究の過程における研究機関と産業界との連携をはからねばならぬことは当然であるが、さらに海外諸国との情報の交換および研究の交流も同時に考慮しなければならない。すなわち、科学としての基礎研究あるいは開発の目標を明らかにしている基礎研究において、その包含する広い分野のうち、独自の構想に基づき新しい開発が進展する研究も考えられるが、他方、研究開発を効果的に進展させるためにはできるだけ多くの国際的研究討論の機会をもつこと、あるいは共同研究をすすめることがきわめて有効な手段と考えられる。 原子力先進諸国の動向をみると、研究開発、特に基礎研究の協同化が発展しつつあるから、今後諸外国との情報交流を強化し、さらに進んでは国際的共同研究も考慮しなければならない。諸外国との研究交流の一環として、学術的討論会等へは、積極的に参加するとともに、わが国においても国際会議の開催を企画することが望まれる。 3.原子炉の研究開発 (1)各種動力炉の評価と研究開発方針 内外における最近の動向および見通しからみて、原子力の動力利用が経済性をもつようになるのは、1970年ごろと予想されるので、前期10年の開発段階においては、動力炉の国産化を目標として発電炉をはじめとする原子炉の開発を強力に推進する。開発の対象となる原子炉の選択は、今後約10年の間における諸外国の進展を勘案の上、慎重に検討されるべきであるが、軽水冷却炉およびガス冷却炉については、先進諸国における開発がかなりすすんでおり、一方半均質炉については、日本原子力研究所を中心とする研究がすすめられており、その開発が有望視されているので、わが国における原子炉の開発は、これら三つの炉型に重点をおいて推進をはかる。 さらに、有機材冷却炉、重水減速炉、高速中性子増殖炉および水性均質炉についても、将来の発展が予想されるので、これらに関する研究の推進をはかるのが適当である。 a 軽水冷却炉 軽水冷却炉は、主として米国において早くから開発がすすめられ、すでにかなりの運転実績をもっているが、今後さらに加圧水炉では炉内の体沸騰を許すとともに炉の大型化をはかることにより、また沸騰水炉では炉心での蒸気含有量を高くし単一サイクルにすること等によって建設費が低下するものとみられ、1970年ごろには経済性をもつにいたるものと期待される。 また、わが国においても本型式炉の開発がすすめられており、近い将来建設が予想される発電炉は、この型式のものが多いと思われるので、1970年代初めを目標として実用規模の動力炉を国内メーカーが主体となって建設しうるよう研究開発を推進する。本型式炉建設に必要な技術の確立には、外国からの技術導入も必要と考えられるが、その技術の育成をはかるためには、さらに重点的に助成措置を講ずる必要がある。 軽水冷却炉の開発の推進にあたっては、さらに有利な経済性を獲得するために、炉内出力密度の増加、コンテナ、冷却系、安全装置等の設計の合理化、核過熱方式の採用、燃料成型加工費の低下、燃焼度の増加等の研究が必要である。 これらの研究は、民間企業が主体となって推進すべきであるが、核物理、原子炉設計等の基礎的問題、JPDRを使用しての各種実験的研究等は、日本原子力研究所が主体となり、これに民間企業が参画する形をとるのが適当である。JPDRについては、今後の開発と見合って、開発段階の後半において、核過熱方式についての研究を行なうことも考慮する。 b ガス冷却炉 ガス冷却炉は、天然ウランを使用する場合には、設計の白由度が小さく、運転温度の高温化、炉の小型化という経済面からの要求を十分に満たしえない面もあるが、燃料要素を中空にすること等による表面積比の増加あるいは運転圧力の上昇によってある程度の改良が可能であるし、また低濃縮燃料を用いることによって設計の自由度を増し、運転温度の高温化と炉の小型化が行なわれることにより、すぐれた経済性が得られるものと思われる。さらに、被覆材を黒鉛にすることによって運転温度のいっそうの高温化をはかることが考えられる。 これらの状況からみて後期10年の間には、このような改良型の高温ガス冷却炉の実用化が可能となる見通しがあるので、わが国においても本型式炉の研究開発をすすめる必要がある。前期10年においては、燃料、燃料被覆材、黒鉛の処理、炉心構造等基本的問題に関する研究を促進する。 c 半均質炉 海外における最近の動向からみても、半均質炉は、本計画の後半すなわち1970年代において実用化し、すぐれた動力炉となる可能性が考えられ、またトリウムを燃料として利用しうる利点もあるので、日本原子力研究所をはじめ関係機関の技術を傾注して研究開発に努力を集中すべきであると考える。このため、日本原子力研究所を中心とするプロジェクト研究として強力に推進する。 日本原子力研究所においては、当初高温ガス冷却炉としてのみ考えられていたが、現在までの調査研究の結果、海外諸国においてもまだ手をつけていないビスマス冷却の構想も有望と考えられるに至ったので、開発段階の前半においては、ビスマス冷却炉としての開発にもかなりの重点をおく。すなわち、ビスマス技術の開発、半均質炉用燃料の開発をはじめ、各種技術的問題点の解明につとめ、動力炉としての可能性の評価をたしかめる。その結果有望と認められる場合には、開発段階の後半において実験炉の建設を考えるものとし、強力に開発を推進する。さらに要すれば動力試験炉まで発展させることを考える。 d 有機材冷却炉 有機材冷却炉は、現状ではなお不確定な要素が多いが、有機材の諸特性からみて発電用、船舶推進用等の原子炉として将来有望であると考えられる。わが国においては、海外における開発の進展とにらみ合わせつつ日本原子力研究所、民間企業等において、伝熱研究、有機材の研究等基礎的研究を推進する。 e 重水減速炉 重水炉は、重水が高価であるため、動力炉の開発に遅れているが、本型式炉においては、天然ウランの使用が可能であり、また蒸気を冷却材とすることによる核過熱の可能性も考えられる。本型式の炉については、海外の開発状況を参考としつつ、JRR-2、JRR-3等を利用して日本原子力研究所を中心として研究を進める。 f 高速中性子増殖炉 高速中性子増殖炉は、早くから開発が進められているが、増殖をねらうために技術的に困難な問題が多くまだ実用段階にはほど遠い状況にある。 この炉の理想的な形態は、プルトニウム燃料炉であるが、プルトニウム技術は、まだ確立されていない。本型式炉は、増殖と経済性を両立させた設計が困難であるが、セラミック燃料またはサーメット燃料を用いれば、10年程度の倍加時間は可能であり、燃焼度が大きくなるのですぐれた経済性が期待できる。したがって、開発段階の前半においては、プルトニウム燃料の取扱い、処理、加工等の技術、ナトリウム技術、燃料要素の熱的特性等の研究を推進し、開発段階の後半において研究開発の進展と見合って実験炉を建設することを考慮する。 g 水性均質炉 水性均質炉については、その将来性は、なお未知数であるが、資源的に見た場合、トリウムの有効利用という利点があるので、さしあたっては基礎的研究を継続する。 (2)前期10年における動力炉および関連機器、材料の研究開発 a 原子炉設計
b 原子炉の制御および動特性 原子炉の制御および動特性の問題は、原子炉の安全性につながるものであり、引き続き研究の促進をはかることが必要である。特に、従来欠けていた実験データの解析と新しい研究方法の開発に重点をおき、日本原子力研究所と民間企業の協力のもとに、動特性一般の理論的研究と実験結果に基づく理論展開、沸騰現象に関連した熱、流体力学的問題の解析と出力密度限界の計数計算法、動特性と制御の最適化設計研究、多数情報を取り扱うコントロールコンピュータおよび原子炉の計数制御方式の開発研究等を行なう必要がある。 c 動力炉の改良のための研究開発 将来の動力炉の改良発展のためには、炉心部領域数と燃料取替方法、燃料の燥焼度等との関連を明確にするための理論および実験面における研究、可燃毒物を含んだ炉心に関する研究、過熱蒸気の採用に関するプラントの設計研究、核過熱炉の制御方式、中空燃料棒の熱特性等に関する研究を前期10年において行なうことが必要である。なお、諸外国における開発の動向と関連し、開発段階の後半において、JPDRに核過熱インパイルループを設け、核過熱炉の熱特性の研究を行なうことを考慮する。 d 燃料 燃料の研究開発は、前期10年の初期において、従来から開発されつつある技術の完成およびその改善のために研究を重点として推進する。一方、将来の動力炉の発展を考慮しつつ、各種新型式の燃料の開発についても広く基礎研究から着手し、開発段階の後期においては、従来から開発された燃料の生産と新しい型式の燃料の実用化研究とを並行的に推進する。 コールダーホール改良型発電炉用燃料の国産化については、海外技術の導入を考慮するとともに、新しい燃料用合金あるいは改良された合金の開発を漸次進めるものとする。この面の研究は、主として民間企業を中心として行ない、これに各研究機関が協力する。 軽水冷却炉用燃料についても、海外からの技術導入を考慮し、二酸化ウランペレットの量産化に関する研究は、民間企業の自主的開発に期待する。また、製造コストをより引き下げるための押出法、スウェージング法等新しい成型法の研究について引き続き推進する。 さらに、将来の動力炉の発展の見通しとの関連において炭化ウラン等のセラミック系焼料およびサーメット系燃料あるいは二酸化ウラン−二酸化ナトリウム系、炭化ウラン−炭化ナトリウム系等の新しい燃料の研究開発も前期10年の半ばごろから積極的に進めることを考慮する。 セラミック系燃料の被覆、その燃料要素への組立て等の技術については、民間企業の自主的開発に期待する。 e 材料 従来から開発されつつある材料については、その技術の完成およびその改善のための研究に重点をおき、前期10年の半ば以降において量産化のための研究を行なう。なお、新材料の開発についても積極的に研究を推進する。 また、照射試験による材質の最終的な確認、構造物として用いる際の加工、溶接およびこれらの検査法の確立について、重点的に研究を実施するものとする。
f 関連機器 原子炉に使用される各種の機器については、従来から民間企業によって研究がすすめられ、また政府も助成策を講ずるなどその促進をはかってきたが、当面は軽水冷却炉およびガス冷却炉用機器をおもなる対象とし、その国産化を目標とする。 圧力容器、循環ポンプ、弁、熱交換器、気水分離器、制御棒駆動装置、制御および安全回路等の設計、製作に関する研究開発を民間企業が中心となって進める。 (3)半均質炉 a 設計研究 つねに最新の実験データおよび調査結果をもととして、実験炉、原型炉、動力炉の概念設計を行ない、より完成したものへと近づけていく努力を続ける。 半均質炉臨界実験装置により各種の炉定数を、またループによる熱伝達実験等により設計上必要な各種データを集め、実験炉の本格的な核設計、熱設計および構造設計を行なう。このため、早急に日本原子力研究所に大型計算機の設置を行なう必要がある。 b 燃料 半均質炉燃料として、二酸化ウラン、黒鉛系燃料とするか、炭化ウラン−黒鉛系燃料とするかについては、炉設計における最高温度によって決定されるものであり、当分の間並行して研究をすすめるが、炭化ウラン燃料の開発については、他の炉型式にも応用しうるものであり、また高温炉燃料としての可能性からみても特に重点をおく必要がある。なお、炭化トリウム等ブランケット部分の燃料についても研究をすすめる。 高温、高中性子束下における核分裂生成物の挙動および燃料の物理的化学的性質の変化を研究するため、高温常圧ガスループおよび高温高圧ガスループによる実験を行なう。 その他、ガス状核分裂生成物の連続除去等の問題点の解明を行なう。 再処理については、物理的または簡単な化学的再処理が行ないうることが、二酸化ウラン−黒鉛系燃料の一つの利点と考えられるので、その可能性を確かめるとともに、半均質炉燃料に最も適した再処理法の開発についてさらに研究を進める。 c 材料 ビスマスについては、国産ビスマスの不純物等の検討を行なうとともに、その品位向上のための工業的研究を推進する。多量のビスマスの溶解、凝固、再溶解、注入、注出等その取扱い技術を修得するとともに、ポンプ、弁等のビスマスに対する共存性の試験を行なう。ビスマスからの210Poの生成は、種々の問題を生ずるので、インパイル、カプセル試験等により210Poの挙動を解明するはか、その除去についての研究を行なう。 鉄鋼材料については、現在ビスマスに使用しうるものは低クロム鋼、低炭素鋼であるとされているが、これらを中心としてさらに耐食性、機械的強度、溶接性の良好な材料の開発研究を行なう。 非鉄金属材料としては、ビスマスに対しては、ベリリウム、モリブデン、タンタル等が非常にすぐれた性質をもっているが、これらはきわめて高価であるので、鉄表面の被覆、鍍金等の方法を開発する必要がある。 黒鉛は、ビスマスに対してきわて安定な物質であるが、黒鉛を使用する場合の最大の問題として黒鉛中へのビスマスの滲透、高温における黒鉛の性質の解明等がある。そのため、ビスマス・アップテイク装置、インパイル・カプセル試験装置等によりビスマスの黒鉛中への吸収、放射線照射下でのビスマス−黒鉛の反応を調べるとともに、優秀な不滲透黒鉛の開発研究を行なう。さらに、鋼表面への黒鉛の被覆については、機械的強度、熱的強度について研究開発をすすめる。 なお、ガス冷却の場合、重要な問題である黒鉛とガスとの間の反応についても研究をすすめる。 本炉については、液体カドミウムにより制御を行なう構想があり、その可能性を検討するためカドミウム、ビスマスに耐食性のある金属の開発研究を行なう。 d 総合工学試験 実験原子炉を模擬した総合工学試験装置を前期10年の半ばごろに完成し、従来小規模に行なわれてきた各種実験と対比しつつ、実験原子炉の炉体構造についての工学的研究、冷却材の流動と伝熱の総合的研究をはじめ、各種の総合的工学実験を実施し、工学面における半均質炉の性能を検討するとともに、さらに実験炉建設のため必要なデータを得る。 e 実験炉の建設 開発段階前半の研究の結果に基づき、優秀な動力炉としての可能性が認められた場合には、後半には実験炉を建設し、さらに強力に開発を推進する。前半の研究の結果、ビスマスが冷却材として技術的に必ずしも適当でないことが判明した場合には、高温ガス冷却炉としての開発一本にしぼって推進する。 f 開発の態勢 半均質炉の研究発開は、これまで日本原子力研究所においてすすめられてきたが、今後はわが国における原子力開発のプロジェクトの一つとして研究開発をすすめていくため、日本原子力研究所を中心とし、関係研究機関および民間企業が有効に協力しうる態勢を固める必要がある。 |