第2回放射能調査研究成果発表会の開催


 原子力委員会を中心とし、関係省庁の各機関の協力によって行なわれている放射能調査の結果については、昨年10月、第1回放射能調査研究成果発表会が開催され報告が行なわれたが、その後の1年間に得られた成果について発表を行なうため、11月25日午前9時30分から午後6時近くまで科学技術庁の主催で、放射線医学総合研究所において第2回放射能調査研究成果発表会が行なわれた。今回は42の報告のほか、特に、さる9月ジュネーブにおいて開催された第8回国連科学委員会に出席した塚本、田島、檜山の各氏により特別講演が行なわれた。なお発表時間の関係からやむをえず一部は紙上発表のみとなった(論文番号に【 】のあるものは紙上発表のみ)。

発表会次第

イ、開会の辞
   放射線医学総合研究所長 塚 本 憲 甫

ロ、論文発表
 論文番号     題    名    担当機関

  (座長 気象庁 川 畑 幸 夫)
 1 成層圏の放射能塵測定と航空機塔戴用集塵機の試作

防衛庁技術研究本部第1研究所

 2 飛行機による上層放射能観測

   気象研究所

 3 成層圏用放射能ゾンデ測定部の改良について

   気象研究所、高層気象台

 4 成層圏のエアロゾールの行動に関する理論的考察

   放射線医学総合研究所

 5 サハラ砂漠の核爆発実験による放射能塵

   気象庁観測部

 6 日本各地における雨水中の90Sr・137Cs降下量について

   気象研究所

 7 フォールアウト中の90Srと137Csについて

   国立予防衛生研究所
   放射線医学総合研究所

 8 電離箱式自然放射能測定装置の試験結果

   気象庁観測部

【9】外部線源からのγ線の測定について

   気象庁観測部

特別講演 国連科学委員会について

   放射線医学総合研究所長 塚本 憲甫
   東京大学教授 檜山 義夫
   立教大学教授 田島 英三

  (座長 理化学研究所 山 崎 文 男)

 10 土壌および農作物の全放射能

   農業技術研究所
   北海道、北陸、東海近畿、九州地域農業試験場

 11 土壌および農作物中の90Srの分析

   農業技術研究所

 12 フォールアウトによる90Srの米麦類への蓄積機構について

   放射線医学総合研究所

 13 全国各地の1959年産玄米、耕土および飲用天水中の90Sr濃度について

   放射線医学総合研究所

 14 東海村における土壌および大気中の90Sr・137Csの濃度について

   日本原子力研究所

【15】北海道における緩速水道用ろ砂の90Sr吸着量について

   北海道衛生研究所

【16】宮城県における放射能調査について

   宮城県衛生研究所

 17 各種環境物質中における放射性希土類と90Srについて

   茨城県衛生研究所

【18】上下水の放射能調査

   東京都立衛生研究所

【19】各種食品の放射能調査

   東京都立衛生研究所

【20】福井県における放射能調査

   福井県衛生研究所

【21】京都府における放射能汚染調査

   京都府衛生研究所

【22】大阪府下における放射能汚染

   大阪府立公衆衛生研究所

【23】陸水および各種食品の放射能について

   鳥取県衛生研究所

【24】ウラン鉱山付近の水に含有されるRnについて(第1報)

   鳥取県衛生研究所

【25】岡山県における放射能調査

   岡山県衛生研究所

【26】福岡県の放射能調査

   福岡県衛生研究所

 27 家畜骨中の放射性ストロンチウムについて

   家畜衛生試験場

 28 人骨中の90Srについて

   放射線医学総合研究所

 29 人尿中の137Csについて

   放射線医学総合研究所
   大阪府立公衆衛生研究所
   石川県衛生研究所

 30 セシウムによる環境汚染の研究

   国立公衆衛生院

  (座長 東京教育大学 三 宅 泰 雄)

 31 日本近海における落下塵埃の放射能

   気象庁海洋気象部

 32 日本近海の海水の放射能

   気象庁海洋気象部

 33 日本近海における表層海水の放射能について

   海上保安庁水路部

 34 海水中の90Sr・137Csについて

   気象研究所

 35 横浜港の放射能レベル調査について

   海上保安庁水路部

 36 海水および海底沈積物の全放射能について

   東海区水産研究所

 37 1959年海洋生物全β放射能調査結果

   東海区水産研究所

 38 高い放射能をもつベントスの汚染由来と生態との関係

   東海区水産研究所

 39 海洋生物中の90Srおよび137Csについて

   東海区水産研究所

 40 魚類の放射能調査

   国立衛生試験場

 41 放射性核種の蓄積機構に関する研究

   放射線医学総合研究所

【42】生物環境中の14Cの分布調査

   放射線医学総合研究所

 ハ、閉会の辞
      科学技術庁原子力局長 杠   文 吉

論文の概要

 報告された論文の大多数が昨年の第1回発表会以後の調査結果についてであったが、特にこの1年は1958年10月以降核実験が停止されていた期間であり、今回の報告により、新しい実験の影響を受けない状況での汚染の実態についての知識が加えられた。

 大気および落下塵中の放射能
 大気中では一般に全放射能は1959年春以降著しく減少しているが、これまでも言われていたように春に極大値を示し、秋に極小値を示す年間変動の傾向がやはり認められた(論文1、2)。高度7,000mまでの垂直分布についても、気中放射能は著るしく減少しているがやはり高さとともに指数函数的に上空ほど高濃度となる傾向は存在し、また高度3,000mぐらいまでの高さでは、気中放射能は地上付近のものと似た値を示すことが観測された(論文2)。なお、電離箱式自然放射能測定装置による測定によると、地表大気中にあるラドンやトロンの崩壊生成物の量は、その時の気象状態に左右され、大気が定安し拡散が少なくなると多くなり、それによるα線量の増加することが報告された(論文8)。

 雨水および落下塵中の放射能も気中放射能の場合と同様1959年春以来減少していたが、1960年2月にサハラ砂漠で核爆発実験が行なわれると、これに対応して、東京・米子およびその他の地方で高い値が観測され(論文5、21、22)、この際東京では、寒冷前線の通過後の降雨中に高い値が出現したこと、また当時上空では、サハラ砂漠から日本に向う強い偏西風が吹いていたことが報告された(論文5)。

 以上は全放射能についての調査結果であるが、前年に引き続き、日本各地で採集された雨水・降下物についての90Sr・137Csの測定も行なわれており、その結果では1959年春に著るしく大きい値が観測されたのち、秋に向って減少していたが、気中全放射能と同様に、1960年春にふたたびピークが認められた。また、137Cs/90Srの値は分析を行なった3機関(気象研・予研・放医研)でいずれも2.8近くの平均値が得られた(論文6、7)。1958年10月以降の90Sr降下量の多くは同年中の核実験によるものと考えられ、また大気中90Sr濃度の半減する期間は16ヵ月、滞留期間は23ヵ月であることが調査結果から得られ、これを用いて、もし土壌からの自然流失のないかぎり、今後10年間ぐらいは現在の水準からほとんど減少することはないと推定された(論文6)。

 このほか、大気中の放射能測定に使用された機器の改良・試作について報告され(論文1、3、8)、また成層圏内のエアロゾール粒子の行動に及ぼす日射の効果について、理論的な検討を行なった結果も報告された(論文4)。

 土壌・農作物・骨および尿中の放射能
 全放射能は、土壌・農作物などでは、降下物の場合と同様に、1958年秋を頂点として漸減したが(論文10)、1959年6月全国各地で採取された土壌および小麦子実中の放射性ストロンチウム含量調査結果では、土壌中の置換能90Sr量と小麦玄麦中の90Sr量は、前年6月に比べかなり増加し、また裏日本と表日本の差がいっそうはっきりし(裏日本に多くなる)、特に小麦玄麦中の90Sr濃度は著るしく増加して調査開始以来最高の値を示した(論文11)。また一般に水稲が陸稲よりやや高くなる傾向のあることも報告された(論文13)。

 これまで問題とされていた、農作物における90Srの蓄積機構に関しては、全β放射能の調査によっても、放射能の大部分が放射性降下物の付着侵入によることが推定されたが(論文10)、実際にパラヒン紙の袋で穂をおおったり、ビニル布を畑の上にかぶせて径穂吸収を妨げて行なった実験によっても、出穂期から収獲までの期間の穂による直接吸収はきわめて効率のよいことがわかった(論文12)。

 全国各地の衛生研究所により行なわれている陸水・食品などについての調査報告ではいずれも、前年と同水準あるいは減少の傾向にあることが報告された(論文15〜26、時間の都合で茨城県以外のものは口答発表は行なわれなかった)。

 家蓄骨中の90Srについては、前年と同水準ないしはなお増加の傾向が認められ、地域的には、土壌・農作物に似て、一般に裏日本地方で飼育された牛・馬骨に高い傾向が見られた(論文27)。人の骨については一般に若年令層に濃度の高い傾向が見られ、また地域差について、新潟(裏日本)で得られた試料が一般に高い傾向があったが、これは地理的条件あるいは食生活状況についても考慮して調査を行なうべきことを示すものと考えられた(論文28)。
 人尿中の137Csについての調査結果は、やはり、石川地区(裏日本)が大阪地区(表日本)より多い傾向を示した(論文29)。

 137Csの調査では、これまで、セシウムの同族元素カリウムとの化学性の相似から、137Csによる環境汚染の程度を表わすのにセシウムユニット(カリウム1gに対する137Csμμcの比)で表わすことが行なわれてきたが、自然界においてセシウムは必ずしもカリウムと行動を共にするとはかぎらないので、137Csと比較すべき元素として天然の133Csを用いることが考えられ、このために、天然セシウム分析のための放射化分析法についての研究および分析結果が報告された(論文30)。このほか茨城県における土壌・農作物・魚貝類などについてCeフラクションに関し行なわれた調査結果が報告された(論文17)。

 海水および海洋生物の放射能
 日本近海における表層海水の全放射能は1959年春以後次第に減少しており(論文32、33)、また、日本海において有意値の出現する割合の多いことが示された(論文36)。これまで得られた中で比較的大きな値はいずれも黒潮の表層からのもので、調査の結果から、ビキニ付近に発した放射性物質が海流にのって、北赤道海流を経てさらに黒潮に引き継ぎ本州に接近するまでに約11ヵ月を要することが推定された(論文33)。

 海水中の90Sr・187Csについての分析結果からは、北太平洋西部の海水には大西洋の海水の約数十倍以上の90Sr・137Csが含まれていることがわかり、これはビキニ実験場からの局地的fall outおよび流出によるもので、これからも北赤道海流と黒潮とのつながりがあることが説明された(論文34)。

 海洋生物の全β放射能は、これまでとあまり変わった傾向を示さず、プラクトン・深海産ナマコの水準は高いが、その他のものでは低水準にあった。また経年変動では、高比放射能雨の月別起生頻度にだいたい対応し、fall out による汚染が敏感に反映しているようにみられた(論文37)。また、深海産ナマコで高い放射能が観測される原因となる汚染由来と生態との関係につき報告があった(論文38)。

 海洋生物中の90Srおよび137Csについては、まだ分析試料数が少ないため、はっきりした結果は得られていないが、全般には低水準である中にも増加の傾向を示すものがあり、また、かなり深い所から採取した試料でも、浅い所のものと同程度の90Srが定量されているのは注目された(論文39)。

 fall outによる地表汚染から、種々の食物段階を経て、人体に蓄積する90Srの量を左右するSr・Ca差別率に関して、水生動物としてうなぎの鰓吸収を例にとり、実験を行なった結果差別率として0.7前後の値を得たことが報告された(論文41)。このほか、本年から始められた14C調査において、液体シンチレーション法で測定する際、その測定値の信頼度を高める条件について検討した結果が報告された。

 なお、特別講演においては、第8回国連科学委員会の概要、国連における各専門機関と科学委員会の置かれた位置、科学委員会の求めている資料を用意するために、今後考慮すべき点などについて講演が行なわれた。