原子力委員会

動力炉調査専門部会第2次報告書を提出

 本部会は動力炉関係の資料を収集し、技術的、経済的に各動力炉の評価を行ない、問題点を集約する目的で昭和33年10月設置され、第1回部会を昭和33年11月に開き、以後13回の部会を開いて比較的近い将来に実用化される可能性のある軽水炉、有機材減速冷却炉、重水減速炉および高温ガス冷却の4型式の炉について調査結果を取りまとめ、第1次報告書として昭和35年4月13日付で原子力委員長に答申した。その後さらに昭和35年9月までに6回の部会を開き、ナトリウム黒鉛炉、高速中性子増殖炉および熱中性子増殖炉の3型式の炉についての検討を終ったので、昭和35年10月19日付で原子力委員長に第2次報告書として答申した。以下にその全文を紹介する。

 昭和35年10月19日

 原子力委員会委員長
  荒木 万寿夫 殿

動力炉調査専門部会
部会長 瀬藤 象二

 動力炉調査専門部会は昭和35年4月13日比較的近い将来に実用化される可能性のある軽水炉、有機材減速冷却炉、重水減速炉および高温ガス冷却炉の4型式の炉について調査結果を取りまとめ、第1次報告書として提出いたしましたが、今回さらにナトリウム黒鉛炉、高速中性子増殖炉および熱中性子増殖炉の3型式について検討を一応終わったので、その結果を取りまとめ、ここに第2次報告書として提出いたします。
 なお上記2報告書をもって昭和33年10月22日の諮問事項についての報告書といたします。

はしがき

 本部会は昭和35年3月比較的近い将来実用化さるべき軽水炉、有機材減速冷却炉、重水減速炉、高温ガス冷却炉の4型式の炉についての経済性、技術的問題点、将来の発展の可能性、わが国への適応性等について部会の第1次報告書として報告を行なった。その後さらに昭和35年9月までに6回の部会を開き、ナトリウム黒鉛炉、高速中性子増殖炉、熱中性子増殖炉についての報告書をまとめる作業を行ない、今回第2次報告書として報告することとなった。ただし高温ガス冷却炉は第1次報告書では転換炉として取り上げたが、増殖の可能性を持つものもあるので本報告書でも、熱中性子増殖炉の1型式として取り上げた。本報告書で取り上げた炉型式はいずれも今ただちに経済的採算にのるものとは考えられないが、今後の研究開発によって資源的、経済的にすぐれたものになると期待されている。

 本報告書では炉型式別に主としてそれぞれの技術的問題、開発の動向等を検討することに重点を置き、経済性については推測の域をでないので二義的にふれるにとどめた。

第1章 ナトリウム黒鉛炉
1.1展   望

 ナトリウム黒鉛炉(SGR)は冷却材にナトリウム(以下Naと書く)を、減速材に黒鉛を用い、高温過熱蒸気を発生せしめる熱中性子炉である。動力炉として最も必要なことは、いうまでもなく安価な発電コストの実現である。このため種々の手段がくふうされ、各種の原子炉概念が検討された。SGRはその手段として、主として蒸気条件の向上に着目したものである。冷却材に適当なものを選ぶことにより、炉心内で冷却材の相の変化を起こすことなく高温で熱を除去することが可能である。これを熱交換器(蒸気発生器)に導き、水系に授熱すればいわゆる核過熱と称せられる問題なしに比較的簡単に高温過熱蒸気を発生せしめ蒸気条件の向上の目的は達成できる。このような冷却材として、沸点の高い熱伝導率の良い液体金属が注目され、核的特性、構造材料との共存性、実用性などからNa(注1)が選定されたものである。

 他方、冷却材としての液体金属は質量数が大きいから中性子の減速性能は小さい。したがって熱中性子炉として使用するには十分な量の減速材を別に必要とすることとなる。減速材として重水、黒鉛およびベリリウムが挙げられるが、高温で使用する条件、Naとの共存性および加工、価格などの点から黒鉛が最適なもの(注2)として選定され、これによってSGRの概念が形づくられた。

 SGRは米国NAA(North American Aviation Inc.)社において設計研究が行なわれ燃料に低濃縮ウランを使用する計画が米国AECの認可するところとなって、第1次5ヵ年計画にSRE(Sodium Reactor Experiment)が含められ、具体化することになった。SREは1957年春完成し、同年7月低出力運転の開始、翌58年5月からほぼ全出力で高温(原子炉出口Na温度538℃以上、発生蒸気42atg,482℃)の運転を続けた。1959年7月1次系Na循環ポンプの軸封部冷却用テトラリンが主冷却系Na中に混入したことが原因となって、燃料冷却Na通路に閉塞を生じ、燃料の過熱溶融事故を起こした。これを機会に燃料材質をTh-U合金に変えた第2炉心に交換するため運転を休止している。再開予定は1960年4月と伝えられたがまだその確報はない。

 他方、商業用発電炉開発計画として米国 Nebraska州のConsumers Pubric Power District(CPPD)は1957年、AECの認可を得て出力75MWeのSGRを同州Hallamに建設することとなり、NAA社の手によって工事が進められている。これをHNPF(HallamNuclear Power Facility)-SGRと称する。このほかソ連においても出力50MWeのSGRがVolga CentreStationとして計画されているらしいが、資料が入手できず、詳細は不明である。なお本来のSGRとはちがうがSIR(Beを減速材とする中速中性子炉)、GE-Module型SGR(減速材にBeをも併用)などもあるが設計研究にとどまり、現在具体化しているのは、上記の2基に過ぎない。このようにまだその将来に、明確な見通しをつけることは困難である。しかしその特異な概念には注目すべきものがあろう。SGRの一般的な特徴を考えてみると、まずその利点として次のようなことが挙げられる。

(1)高温過熱蒸気が得られ熱効率を高める。これは同時に現在の高度に発達した蒸気タービンがそのまま使用できることを意味し、タービンに関する特別な開発を必要としない。
(2)炉心Na系は低圧であり、2次冷却系の使用によって水との接触は防止され、また他の炉構成材料との共存性を有するので、爆発的な事故は考えられない。
(3)低圧であるため厚内の圧力容器、配管類を必要とせず、大容量化に対する制約もない。同様に制御棒、安全棒を薄肉のさやに入れて確実に作動させることができ、計測系の取付け、燃料交換も炉心容器に関するかぎり簡単となる。
(4)伝熱性能が良くバーンアウト、熱流束の制限をうけない。しかし次のような本質的な欠点が他方では数えられる。

(1)中性子補獲によって強力(2.73MeV)なγ線を出す24Na(半減期15時間)を生じる。
(2)空気および水と反応し、特に水とは激しい反応を起こして発火に至る。
(3)大量の黒鉛減速材を必要とするため、炉の容積が大きくなり出力密度の低下を招くとともに、黒鉛被覆材による中性子経済の悪化と、その成型加工費の増大をきたす。

 したがって放射性Naと水との直接の接触を避けるために、中間に2次Na冷却系を入れることを必要とし、また1次系に対し、十分な遮蔽を施し、周囲を不活性ガスのふんい気に保たねばならない。これに加えてNaは融点が98℃であるため、その炉への装入時、炉の起動時および炉の停止中もたえず液状を保つための加熱装置を全系統に設けなければならなくなる。

 このようにこれらはすべて炉の建設費を大きくし発電コスト中に占める資本費を高くする原因となるので、今後の技術的開発もこれに関連したことが多く問題とされている。すなわち
(1)実質的に1次冷却系をある程度省略した形の浸漬型中間熱交換器型式の採用
(2)個々の黒鉛要素についての被覆を省略したカランドリヤ型、シンプル型、貫流管型等の炉心構造の開発
(3)燃料、冷却材についての出力密度をより大きくするための燃料特にUCの開発、もちろんこれは燃料費の低下にも大きな影響をもつ。
(4)高価なステンレス鋼の使用を避け、安価な低合金炭素鋼の採用。
などが主要な問題点として挙げられている。

 しかし最大の問題は燃料の開発である。SGRの高温運転と高熱流束は熱伝導率の小さいUO2燃料を不適格なものとし、現状では金属Uを使用せざるをえないものにしている。たとえばHNPF-SGRではU-10%Mo燃料を予定しているがその平均燃焼度は通常の設計では3,000MWd/tにとどまっている。このためこれによって実現を予想される発電コストは全然問題にならない値となっている。これに対し、UC燃料が開発されるならばその平均燃焼度は17,000MWd/tと期待されるので燃料費の低下は大きい。さらにその制限温度の高いことは熱除去性能の良いというNaの特長を十分発揮せしめて炉出口Na温度および燃料表面熱流束を高め、したがって炉出力密度を向上せしめて資本費の低下にも大いに役だつ。

 NAA社においては、UC燃料を予定し上記の種々の改良案を折り込んで最近256MWeの設計研究を発表し、かなり低廉な発電コストを推定している。もしこれが実現されるならばはなはだ有望な炉型式の一つといえよう。しかしその鍵は燃料にあり、UC燃料の見通しのつくまではおそらくその建設は具体化しないであろう。SGRの将来性を規定する他の問題はいわゆるNa技術である。しかしこれは、SREの経験もあり、また同じくNa冷却材を用いるEBR-II、エソリコフェルミ炉、あるいはドーンレイ(NaK)炉などごく近い将来に運転を開始する一連の高速中性子増殖炉の実績によって解答は与えられるものとして見通しは明るい。このようにSGRは現状ではまだ経済性に劣り、近い将来に実用的な動力炉となるとは思われないが、将来かなり有望なものとして注目を怠ってはならないものと考えられる。

1.2 経 済 性

 SGRの経済性は動力炉の実績が少ないので判定が困難である。前述のように運転実績のあるのはSREのみで、これは動力試験炉であり、出力も小さく(6MWe)定格出力に近い運転期間は約1年にとどまっているからである。

 ここでは発表された設計研究その他の資料を用い本部会の第1次報告書記載のグラウンドルールに従がって、発電コストを試算してみたが、かなりの変動は当然起こると思われる。


1-1図 SGR発電コスト
(動力炉調査専門部会グラウンドルールによる)


 その結果を示したのが1-1図である。(なお、要目、建設費、燃料費、コスト等の内訳等は付表1-1〜1-7参照)ここに(A)、(B)および(C)はHNPF-SGR(75MWe)をもとにした現在の設計方式のもので燃料にU-10%M0を用い、燃焼度を3,000MWd/t としたものである。設備利用率80%、金利8%の条件で、それぞれ8円7銭、6円45銭、5円81銭となり経済性からは問題にならない値である。(D)のように燃料の直径を細くし、また燃料装荷量を増加し、比出力を下げ(すなわち燃料表面熱流束を低下し)燃料中心温度を低くし、同様にU-10%M0を使用しながら燃焼度を11,000MWd/tに向上せしめた部分的改良型としてもようやく4円61銭にとどまっている。(E)および(F)はこれに反しUC燃料を採用し、炉心設計もかなりの変更を加えた改良型である。この場合にはじめて3円以下の発電コストが可能となっている。

 もしこの改良型が実現されるならば、SGRもかなり有望な炉型式ということができよう。このような飛躍の原因となる技術的諸問題については次章にあらためて述べるが、主としてUC燃料の開発にかかっているといえよう。

1.3 技術的問題点と開発の動向

1.3.1原子炉概念
(1)炉心黒鉛集合体構造
 Na と黒鉛とは化学的な共存性を有している。しかし黒鉛には約27%のボイドを有しているので Naと直接接触すればその中にNaが侵入する。この容積は本来の燃料冷却路内のNaに対し、10倍近く(SREの例)にもなる。Naの中性子吸収は比較的小さいとはいえ、それが熱中性子束の高いところにあるだけに中性子経済上無視できない。またNaの吸収によって300℃以上では黒鉛に1〜2%のスウェリングを生じる。このような理由から黒鉛はNaから隔離しなければならない。黒鉛は燃料の配置を3角格子とする関係上対辺距離250〜350mm程度の6角柱に作られる。多数のこれら黒鉛要素の集合体によって炉心が形成されるが、SREおよび HNPF-SGRでは黒鉛要素は1個ずつ被覆されている。これはマルティキャン型といわれるが、約200個に及ぶものをすべて被覆するための加工費は黒鉛からの放出ガスの排気管をそれぞれにつけねばならぬなど構造も複雑となるのでかなりの額に及ぶものと考えられる。また被覆材もかなりの量になり中性子のむだな吸収も無視できない。SREでは中性子経済を重視して、これにZrを用いた(当時Zircaloyは未開発であった)が、各黒鉛を気密に被覆するための溶接加工にかなりの技術を要した。またZrの耐食性はNa中の酸素にも著しく影響されるのでNaの純度管理も入念に行なわねばならず高温強度にもまだ信頼がおけない。また価格も高いなどの欠点を有している。このためHNPF-SGRでは安価かつ溶接加工の容易なステンレス鋼被覆に変更しているが、反面中性子経済の悪化により、濃度を増加する必要があり燃料費の負担を招くことになる。

 以上の欠点を改善するためカランドリヤ型、シンブル型、貫流管型等の設計が考案されている(付図1-1参照)。これにより加工費の節約と中性子経済の改善は可能と考えられるが、反面においてカランドリヤ、タンク、プレナムあるいは燃料冷却、通路管の一部の破損によっても黒鉛集合体全体にNaの侵入を起こし、その修理交換がむずかしくなる。またマルティキャン型であれば被覆した各黒鉛柱の間に若干の間隙を設けNaを通し、燃料冷却通路管と両者で黒鉛中で発生した熱が除去されるのに対し、改良型設計では後者のみに依存するので黒鉛の温度を高め、熱中性子利用率を若干低下させる欠点をも生じる。なお、シンプル型および貫流管型ではNaの量も少なくなり、スクラム後の減衰熱の吸収、除去にも不利であるなどの欠点を有する。

 改良型SGRとしては256MWeおよび530MWeともカランドリヤ型が予定されている。256MWeの例ではカランドリヤタンクは内径約5m、肉厚3/4"(約2cm)で製作そのものにはあまり問題はないが、Naのもれ込みを防ぐため燃料冷却通路管の外側に厚さ0.25mmのZr管をかぶせ、カランドリヤタンクの内側にも薄肉のシェルを設けるなどを必要とするのでそれらを特に熱膨張の差を吸収できるように結合することが実際の加工技術として問題となってくる。しかしこれらは技術的に決して困難な問題ではないとみてよい。

(2)内蔵型中間熱交換器
 Na を冷却材として使用する場合、放射性Naと水系との接触を避けるため中間に2次冷却系を必要とすることは資本費の上で相当な弱点となっている。この負担を実質的に省略するために中間熱交換器を炉心タンク内に収容した型式が改良型SGRの設計に採用されている。(付表1-2参照)これにより中間熱交換器以外の1次系配管はほとんど省略され、それに必要な遮蔽も不要となるので効果は大きい。その反面1次Na循環ポンプに高度の信頼性を必要とすること、ポンプの事故の場合、スクラム後の減衰熱除去のためのNaの自然循環が確保されるよう配管に注意を要することなどが問題点として挙げられる。しかしこの考え方は高速中性子増殖炉EBR-IIのものとほぼ同様であり、ポンプ問題は別として、致命的な欠点ではなく、はなはだ有効な設計と考えられる。

(3)増殖効果
 燃料の性質を改善するため種々の合金燃料が検討された中でTh-10%U 合金がかなり良好な特性を示したことと、Na中性子吸収断面積の比較的小さいこととを利用して、転換率を上げ、あるいはTh-233Uサイクルによる増殖効果をねらう考え方もある。SRE第2炉心には、この材質のものとする計画が進められ一応注目してよい方向と考えられる。しかしこの効果に頼らなければならないとは考えられない。UC燃料その他による改良型SGRの開発に見通しを得てから取り上げてよいものと考えられる。

(4)減速材の量の減少
 SGR型式には多量の減速材黒鉛を要する。このことは冷却材に熱除去性能の良いNaを用いるという利点を相殺し、直接、間接に建設費の増大の因となる。したがって減速材の量を少なくし、もっと硬いエネルギースペクトルをもつ熱外中性子領域を使用しようという考え方も成り立つ。このようにすれば構造材等の中性子吸収も影響の程度が小さくなり、自由な設計が可能になる。減速材の量と相まってかなりコンパクトな構造となりえよう。この方式は過去において潜水艦Sea Wolf 号を対象とした SIR(Submarine Intermediate Reactor)において実施されている。この概念そのものが原因ではなかったようであるがその結果は結局不成功とされ、その詳細も公表されていない。その後も参考となるような資料の発表もない。原理的にはうなづけるのであるが燃料濃縮度を高める必要その他の問題もあり、当分はやはり熱中性子炉としての改良型SGRの成果を見守り、その結果いかんによって次の開発計画においてはじめて考慮すべきものではないかと考えられる。

(5)出力密度と燃料表面熱流束および燃料棒の直径
 SGRの欠点の一つとして出力密度が小さいことが挙げられる。前述のごとく熱中性子炉として大量の黒鉛を要するからである。SREおよびHNPF-SGR型では4〜5kW/lという値で軽水減速型の20〜60kW/l、有機材型の20kW/lよりはるかに劣っている。256MWe改良型ではこれを約16kW/lに向上せしめようとしている。出力密度を向上しようとすると、燃料表面の熱流束を増大せしめねばならなくなる(炉心内最大熱流束の値が軽水型で1.3×106kcal/m2hであるのに対し、HNPF-SGR型の設計でも2.2×106kcal/m2h、改良型 SGR では 3.4×106kcal/m2h)。表面熱流束は熱除去の制限すなわちバーンアウト熱流束の制約をうけるがその値はまだほとんどわかっていない。しかし強制冷却の場合108kcal/m2h以上と予想され、著しく高いから他型式の原子炉に比し非常に大きな余裕があり、実質的にこれによって制限されないとみなされる。重要なことは熱流束の増大は燃料中心温度の上昇をきたし、燃料中心温度は燃料の安定性から制限されることである。したがって熱伝導率の高い燃料材質の使用と燃料直径を細くすることが必要になる。後者はもちろん成型加工費に影響するが炉構成上からは燃料支持方法に十分な注意を払わなければならなくなる。

1.3.2 燃 料
(1)SGR燃料の要点
 SGR燃料の要点はすでに述べたように熱伝導率の大きいこと、高温下で使用して安定で高燃焼度に耐えることにある。現在実用化している燃料は金属UおよびUO2であるが、いずれも SGR用としては不十分な点が多い。UC燃料の開発が期待されているのであるが、細かい検討は次節以下にゆずってここではこれら3種の比較を示しておく。(付表1-1ならびに付図1-3および1-4参照)

(2)U合金燃料
 金属U燃料は500℃付近で25〜30kcal/mh℃の熱伝導率を有するが周知のごとく、α⇔βの変態温度660℃に制限されSGRには適さない。SRE第1号炉心に使用されたのは当時他の燃料が開発されていなかったためであった。その改良のためMo、Zr、Al等を含むUベースの合金燃料および約10%UのThベースの燃料がSREおよびMTRを用いて検討されている。低燃焼度で480〜700℃の試験であるが、その結果によれば540℃の照射温度で寸法的にも安定なものはTh-10%U合金のみにとどまり、これがようやく11,000MWd/tに耐えるであろうと予想されている。このことからHNPF-SGRの計画にもTh-U合金燃料の使用が真剣に考慮された模様であるが、約90%濃縮Uの使用、燃料サイクルの複雑化などから、まだ経済性についての見通しは立たない。

 SRE第2号炉心としてTh-U合金の使用が計画されているのでその実績によって判断されるべきであろう。上記照射試験において、スウェリングの始まる温度から判定してTh-U合金につぐものはU-10%Mo合金であった。HNPF-SGR型はこれを予想して設計している。これは610℃からスウェリング速度が急激に増加するので、中心温度680℃と想定される条件に対しては、平均3,000MWd/t、最大7,000MWd/tの燃焼度しか与えられていない。その結果は燃料費がかなり割高となり、資本費にも影響している。(1-1および付表1-1〜1-7参照)燃料棒の直径は、0.59"(約15mm)と予定されているが、これを0.33"(8.4mm)と細くし、表面熱流束も低下させるなどの手段を講じて中心温度を610℃に制限し、ようやく平均燃焼度を11,000MWd/tに向上せしめたものが1-1図の(C)の設計で、かなり改良されているがまだ実用的なコストにほど遠い。

 以上の結果からみて今後多少の開発はあるであろうから見切りをつけるのは早いが合金U燃料にはあまり多くを期待しえないものと思われる。

(3)UO2燃料
 金属U燃料以外で最も開発の進んでいるのはUO2である。高温における安定性の良いことに関するかぎりSGR燃料としても適しており、HNPF-SGRの計画には当初これが予定された。しかし、熱伝導率の低いことおよびNaとの共存性に疑問があることから改良型SGRの概念を満足させるのには不十分である。

 熱伝導率は付図1-3にみられるように著しく小さい。この結果は、燃料中心温度の著しい上昇をきたし、このため、表面熱流束を大きくとれず、あるいは燃料棒直径を細くせざるをえない。付表1-4で比較されてあるようにUO2燃料は温度的にはかなり苦しい設計となっている。Naとの共存性は決して患いものではなく付表1-8にもUおよびUCの“良”に対し“かなり良”と示されている程度であるが、酸化物であるだけに、Na との共存性に疑問をもたれるのは当然であろう。

 燃料被覆管破損時の事故は別として、燃料と被覆管との間の伝熱ボンドにNaあるいはNaKの使用を、ちゅうちょさせる原因となる。したがって伝熱ボンドとしてHeを採用することとなるが、これはこの部分の伝熱抵抗を増大せしめることになる。UO2を用いた場合伝熱抵抗をできるだけ小さくするため燃料被覆管内径の間隙すなわち伝熱ボンドの厚さは0.002"(0.051mm)程度に考えられているが、これはU-10%Mo合金あるいはUC燃料でNaボンドを用いたときの0.01〜0.02"(0.254〜0.508mm)に比し著しく小さく、公差の厳密さを要求し、成型加工費の増大も当然伴ってくる。以上の数値でなお、伝熱抵抗はNaの場合の10倍以上となるから高熱流束を目標とするSGRには不満足なものとなっている。

 このような事情からHNPF-SGRもUO2の使用をあきらめ第1号炉心はU-10%Mo合金を、第2号炉心にUCを使用するよう計画が変更されている。

(4)UC燃料
 UC燃料はまだ開発の緒についたばかりといえる状態であるが、その性質は付表1-8および1-9のようにいわれている。密度は金属Uより28%、U-10%Mo合金より小さいが、UO2より24%大である。溶融温度は約2,300〜2,600℃といわれUO2より低いが、使用温度範囲内で20kcal/mh℃以上とUO2の約8〜10倍の熱伝導率を有している。このため燃料表面熱流束と燃料中心温度との関係は著しく改善され、燃料溶融温度からの制限に対しても、また、バーンアウト限界熱流束に対しても非常に安全な設計が可能となってくる。問題は高温、高熱焼度に対する安定性であるが、照射試験の実績は非常に限られている。現在公表されているものは付表1-10のごとく最高温度1,000℃程度で、ほぼ12,500MWd/tにとどまっている。若干のきれつの発生も観測されているが、寸法変化や核分裂生成物の保持はUO2 と同程度であって総合的には有望とみなされている。引き続き中心最高温度1,650℃で25,000MWd/tを目標とした試験が実施中あるいは準備されているのでその結果が大いに期待される。

 なお、製造および加工法についても種々検討されている。現在では、アーク溶解鋳造法が有望とみなされている。しかしいずれも実験室規模のものであって、またどのような方法が最も経済的であるか決めえない現状にある。UC燃料はUCと UC2の混合したものができやすく、常に一定純度のUC燃料をいかに経済的に作るかが大きい問題であろう。しかし、いずれにしてもSGRとしてはUC燃料の開発なくしては経済的になりえないとさえ考えられるのであるから、これに重点的な努力を傾けることが必要であろう。

(5)その他の燃料
 各種のU化合物およびサーメット燃料も検討されている。(付表1-11参照)熱伝導率の点からはU3Si、U3Si2 などに期待がもてそうであるが融点が低いし、Siの存在はNa と接触した場合に鉄系金属に悪影響を及ぼすことが懸念される。これらは当分バックアップとしてのみ考慮されるべきものであろう。

 なお新型式の燃料としてはNa中に粉末燃料を分散せしめこれをカプセルに入れたもの(いわゆるペースト燃料)が考えられる。Naの熱伝導率の良いこととウランとの共存性を巧みに利用していて注目に催する。ステンレス鋼管の中に2種類のウラン粉末を混合して72%程度の密度に充填できることがわかっている。熱サイクル試験、熱伝導率の測定、熱膨張率の測定などが行なわれている。問題はウラン濃縮度とウランと鉄との接触によるU-Fe共融合金の生成である。この型の燃料の実用性の見通しがつけば、SGRにもまた新しい可能性が追加されることになろう。

1.3.3 材 料
(1)燃料被覆材
 中性子経済の面からはZr合金のはうが望ましいが、改良型SGRとしてこれをより高温で使用する場合、問題となるのは高温強度とクリープの特性である。高温強度に対しては、Mo、Al等の微量の添加によりステンレス鋼と同じ程度のものは得られているが、クリープ特性が若干劣る。Zrにはウランとステンレス鋼との固体拡散という問題が避けられるという利点も生じるが、他方ではZrの耐食性がNa中の酸素濃度によって小さくなるいう欠点もある。ステンレス鋼ではNa中の酸素濃度が50〜100ppm以下であれば、Naによる腐食はごく少ないといわれるのに対し、Zrでは10ppm以下でなければならないといわれる。またZrは水素が存在すると金属中にその固溶体を作り、さらに針状の水素化Zrを作って粒界に侵入していく。これはZrの衝撃値および疲労強度を低下せしめる。したがってCとHの両者に対してNaの純度管理が厳密を要することになる。また材料価格も高い上におそらく成型、溶接等の加工費も高価となろう。以上の理由から被覆材としてはあえて ZrあるいはZr合金を使用する必要はないと考えられる。ただZrの価格は低下する傾向にあり、中性子経済と関連して経済的なものとなることは期待できるので開発の努力は必要であろう。

 被覆材としてのステンレス鋼の問題は高温強度およびクリープのほかウランとの固体拡散、共融合金の生成、UC燃料を使用するときはCによる滲炭が挙げられるがそれほど大きな問題ではない。現在の使用温度(550℃)ではNaに対する耐食性もNa純度(酸素濃度)に注意さえすれば良好であった。しかし改良型SGRでは使用温度も680〜700℃と高く、Na の流速も出力密度の増大に対応してSREの場合の炉心内最大1.5m/secが、HNPF-SGR型で3.3m/see、改良型では10m/sec以上となるので耐食性については十分の検討を要する。特にステンレス鋼がすべて溶接構造であるため溶接部が問題であろう。溶接部の構造、溶接施工法によって溶着金属部、熱影響部には母材とまた異なった腐食作用をうけるからで、これが今後研究すべき問題と考えられる。

(2)構造材料
 Na に触れる部分の一般構造材料としては、これまでほとんど18-8系ステンレス鋼が用いられてきた。これに関しては高温強度、クリープ強度、Naに対する耐食性等は燃料被覆材におけると同様なことが問題とされる。さらに価格の問題もあり高価な18-8系ステンレス鋼の量を減らし、安価なフェライト系ステンレス鋼あるいは低合金炭素鋼を使用したいということであろう。材料価格の比が、大略18-8系ステンレス鋼の10に対しそれぞれ3〜4、1〜4の割合となるからである。また18-8系ステンレス鋼に比し、熱伝導率が大きく、熱膨張係数が小さいので、Na系の配管でかなりの重要問題とされる熱衝撃に対してもすぐれていると考えられる。

 これらフェライト系ステンレス鋼および低合金炭素鋼の問題点は高温強度、Naによる脱炭、溶接後の熱処理等が主要なものとして挙げられる。13Cr鋼等フェライト系ステンレス鋼はNaに対する耐食性はむしろ18-8系ステンレス鋼よりよぐれているが、溶接後の熱処理に大きな問題がある。Cr-Mo系低合金炭素鋼のはうが溶接性がすぐれている。単純なCr-Mo系の低合金炭素鋼は620℃程度まではNaに対する耐食性は良好であるといわれているが、脱炭されやすく、完全な信頼を置くにはまだ若干の不安が感じられる。これを改善するため、NbおよびTiの添加が考えられ、21/4Cr-1Mo-0.4Nb-0.4Tiは特にすぐれていて、620℃の動的腐食回路中で約2,000時間使用して脱炭は認められず、腐食速度は0.02〜0.04mg/cm2Mの程度であったといわれている。高温強度も620℃までは304ステンレス鋼にほぼ近い。

 したがってこの材料が現在SGR用構造材料としてはなはだ有望とみなされる。ただ改良型SGRのより高温の1次系に使用するにはまだ若干の疑問が残されている。溶接性の点から燃料被覆材におそらく18-8系ステンレス鋼が使用されるであろうし、かくて1次系に18-8ステンレス鋼と Cr-Mo系とが共存すると後者の脱炭と前者の滲侯の関連も生じるので1次系には18-8系ステンレス鋼を2次冷却系にはCr-Mo系改良型低合金炭素鋼を使用するのが妥当と考えられる。2次系には低合金炭素鋼を使用することは塩化物応力腐食をうけにくいから蒸気発生器における問題を一つ解決するという利点も生じる。

(3)黒 鉛
 黒鉛に対しては、Naと接触したときに問題があるが、すでに述べたように適当な方法で被覆、隔離がされておれば問題はない。Naに対して不滲透性の黒鉛の開発も一応考慮されるが照射による放出ガスの除去などを考えるとこれのみでは解決しないのであって、むしろカランドリヤ型等、被覆構成法にくふうをしたほうが有利であろう。材質も別に変った要求はなく、TSP級で十分である。

(4)Na
 Na の不純物として次の3種類のものが問題となる。
1)耐食性を低下させる原因となる酸素濃度
2)中性子に対し毒作用を有するもの
3)中性子照射をうけて長い半減期の放射性同位元素を作る不純物
1)はむしろNa取扱技術上の問題である。 2)に該当する不純物としては、B、Li、Cd、Gd、Sm、Eu、Hg等が 3)に属するものとしてCo、Cs、Fe、Rb、Sc等が挙げられる。(付表1-12および1-13参照)これらの含有量を少なくし、またその含有量を知るための分析法等が問題であるが、よくわからない。しかし、SREで実際に使用したものに特別な製造法が適用されたと特に報じられてはいないので、さほどの問題はないと考えられる。

1.3.4 機器部品
(1)蒸気発生器
 Naは伝熱性能が良いため温度変化に敏感で、Naに触れる機器は熱衝撃を起こしやすい。その上Naは水と激しい反応を生じるので、その危険性のある蒸器発生器は最大の問題となる。このため、SREおよびHNPF-SGRの設計では伝熱管を2重曹として中間に水銀のごとき第3の検出液体を用いた特殊な構造(注3)を採用している。Naと水の直接の接触の機会をできるだけ除き、またどちらか一方の管の破損を検出液体の圧力を監視することによって検出しようとするためである。しかしこれは構造を複雑にし、したがって熱応力も生じやすく、また何よりも製作費を高くする。大容量化した場合にはほとんど実用的とはいえないものとなろう。これまで多くの改良設計が試みられたが、まだ完成した設計はないといわれる。それほどむずかしいものであるかどうか若干疑問をもつほどであるが、おそらく18-8系ステンレス鋼であるための塩化物応力腐食などの問題も含みているためそういわれるのではないかと思われる。炉の温度動特性が明らかにされ、温度制御法の進歩するに伴って完全な解決も可能と考えられる。

 構造設計の改良とともに、水系との反応機構とその影響の解析が問題解決のため重要である。Naと水との接触は水を分解してNaOH と水素とを発生し、この水素はまたNaと反応して水素化Naを生じる。このとき反応する量が問題であるが、200MWe一級のNa冷却炉の蒸気発生器で1"(2.54cm)の管が完全に破損して、水が、Na系に侵入したとしても、安全弁が働くまでの13秒の間にNa系の圧力は3.5気圧から8気圧に、温度は約60℃上昇するに過ぎないという解析結果もある。したがってNa表面を不活性ガスでカバーし、発生した水素ガスが酸素と混合しないで排出されるよう十分な排気系を整備しておけば安全であろう。このような大量の反応のときは炉は当然スクラムされるからNa中の反応生成物の影響はたいした問題とはならない。長時間にわたる小量の水系のNa中への漏れは上述のようにNaOHおよび水素化Naの濃度の上昇を来すが、系に付属した純度測定器(プラッキングメーター)は容易に後者の濃度上昇を検出できるから、気付かれぬままに大事故に至ることはない。またコールドトラップくによって簡単に除去できる。200MWe級の炉の冷却一系でかりに5l/hrの割合で漏れ込んでいても約1ヵ月の間そのまま運転できるようなコールドトラップもは設備しうるという解析もある。しかしこれらの現象および機構の検討はやはり重要であり、その究明によって蒸気発生器に課すべき条件が明らかにされれば、濃度動特性が明らかになり、温度制御法が進歩し、設計および工作法が改良されることと相まって満足なものが実現されることになると信じられる。熱応力軽減と塩化物応力腐食の除去の面で低合金炭素鋼の採用も大いに有効であり、積極的にこの方向に進めねばならないだろう。構造はできるだけ簡単なものとし、伝熱管も1重壁(単管)とするのが当然である。256MWe改良型SGRも、エンリコフェルミ高速炉もこの型式を予定している。このような構造の簡易化、安価な材料の使用とによって蒸気発生器の価格の低下が行なわれれば、発電コスト中の資本費を、これだけで5%切り下げられると考えられている。

(2)Na循環ポンプ
 Na循環ポンプには、通常の遠心式機械ポンプと電磁ポンプとがある。いずれもNa系が低圧系であるから特殊な耐圧構造を必要としないが、外部へのもれを防止するためのくふうが必要である。電磁ポンプは運動部分がなく、したがって軸の貫通がないからその点都合が良いが、その効率は良くて40%台にとどまる。機械式ポンプは60%以上の効率が期待されるが軸のケーシング貫通部の軸封の問題と、高速回転体が高温Na中に浸漬されているための腐食摩耗の問題があり、補修費を必要とする。電磁ポンプにおいても耐高温電気絶縁材料の問題があり、いずれにしても長期間全面的に信頼のおけるものとはいい切れないが、特に1次系回路用のものは放射性を有するため、冷却期間を必要とし保守効率を害するから、故障の少ないことが重要となる。電磁―機械式結合型ポンプが開発されつつあるが、内蔵型中間熱交換器の板構造をとればおそらく取付に難点が生じるであろう。結局1次冷却系用には直線誘導型電磁ポンプ、2次冷却系には機械式ポンプの使用が妥当ではないかと考えられ、それぞれの開発に努力を傾けるべきものと思われる。

(3)Na用バルブ
 Na系用バルプはNaの外部への漏れがなくシート面は、高温Na使用に耐えて、しかもNa装入、排出等の操作の際には真空に対しても気密を保たねばならぬという条件が課せられるのできわめてむずかしい。高温Naに対する腐食を考慮すればシート面はステライト、ステンレス鋼等の硬質金属を使用せざるをえず、漏からの洩れ防止のためペローシール型を採用すれば、その構造からバルブステムのシートに対する運動の自由度を制約し、両者相まって真空に対する気密を害するからである。最初懸念されたNa の作用によるシート面の焼付等はむしろ第二義的なもののように考えられる。今後の問題はおそらく有効な凍結型軸封装置とステムの移動に弾力性のある構造設計と材質改良等による信頼度向上であろう。信頼性とコストの問題から所要数を少なくする配管設計とともに配管中のNaをそのまま局部的に冷却凝固せしめてバルブ代用とする技術も重要と考えられる。

(4)その他部品
 圧力計、液面計、流計量などNa用計測器類は原理的にほ現在開発されているもので一応十分と考えられる。ただ高温化に伴って材料特に電気絶縁物の改良開発が必要である。

1.3.5 Na技術
 Na の特異な性質から、その取扱いには特別な注意を必要とすることが多い。これは総称してNa技術と呼ばれているが、すでに述べてきたことも、ほとんどはこれに関連している。さらに若干の問題点をあげ検討する。

 Na は酸素と反応しやすく、酸素が一定量以上の濃度となると、金融材料に対する腐食性が増大する。したがってNaに触れる機器、回路の内面はできるだけ脱脂、脱水の処理をていねいに施す必要があると考えられた。しかしその後の研究によってこれはそれほど入念に行なわなくても、最初に装入したNa自身を洗浄材として適当な温度および時間運転し、そのNaを精製装置に通してきれいにすればよいことがわかった。精製装置としてコールドトラップ(注4)の有効なこと、その精製効率の大要もわかっている。問題はその容量(許容累積酸化物の量)と、回路への着脱、トラップ内充填物の交換などの構造上の事項である。Na中の酸素濃度の分析は循環回路中のものはプラッキングメータ(注5)によりかなり容易に行なわれるがトラップ内の推積物のようにサンプリングを要するものはその操作の際に雰囲気あるいはサンプリング機器からの汚損をうけるので、非常にむずかしい。この技術の開発がNa純度管理上重要であろう。Na中の酸素の精製装置としてホットトラップ(注6)もあるが、これはコールドトラップで処理できないような高度の精製を必要とする場合に限る。構造材料として鉄系材料が使用されるかぎりあまり重要ではない。

 Na配管に使用する保温材は、Naの管外への漏れがあった場合を予想して、これに反応しないものであることを必要とする。反応の全くないものは結局金属箔、金属ウール等のものしか現在は考えられないが、一面からみれば、完全に反応しないものでは万一Naの漏れがあったとき完備した検出装置の整備されないかぎり、知らぬ間に大量のNaが漏れて、保温材外装内部に溜り、かえって危険であるとの見方も成り立つ。このように考えると、ごくわずかの反応を起こして異常を報知するのに役だち、しかもその反応は危険でなく、反応生成物が配管材料に影響を及ぼさないような保温材の開発が必要である。現在SREではアスベストが用いられているが、これはNaと珪藻土との反応生成物が18-8系ステンレス鋼に著しい異常腐食を起こしたことによる。

 これまでのSREおよびHNPF-SGRの設計と改良型の設計とを比較し、Na技術に関して注目されるのは補助冷却系である。遮蔽プラグ、コンクリート遮蔽プラグの内部発生熱の除去、コールドトラップあるいはバルブステムのフリーズシールの冷却などに前の設計では有機材であるテトラリンを用いていたが、改良型ではすべて水を用いるように変っている。どの程度の見通しを得て設計変更を行なったものか不明であるが、従来その反応性のゆえに強く忌避されていた水をあえて使用しようという真には、単なる概念的なものでないNa技術の進歩があったものと考えてよいであろう。

1.3.6 安全性
(1)炉構造上の安全性
 炉が低圧系で、すべて共存性のある材料が使用されているので爆発的なエネルギを保有しない。また炉心は2重、3重の容器の中にあり地下に納められて厚い生体遮蔽コンクリートで囲まれている。これによって最も内側のタンクに破損を生じても外部のタンクで受け、しかも各タンクの隙間の容積は小さいから内部タンクのNa の液面の低下はごく小さい。最悪の場合でも炉心が露出しないような大きさにとってある。これら炉心タンクは底には排出孔がなく、冷却系への出入ロも、冷却系配管もすべて炉心活性部より上の面に配置されているから、冷却系に破損があってもサイホン作用でNaが流出することはない。かくして冷却体喪失事故は起こらない構造となっている。特に内蔵型中間熱交換器方式では1次冷却系が全部炉心容器中にあるのでなお確実であるといえる。

(2)熱的な安全性
 冷却系は数個の独立した並列回路によって構成されている。系が低圧であるから肉厚の薄い配管でよく、配管も楽であるからこのような構成は容易である。並列回路は独立であるから循環系の故障により熱除去能力が喪失することはなく、一部の回路の停止があっても、十分な能力をそれぞれにもたせてある。全停電によって強制循環機能が失われても自然循環によってスクラム後の減衰熱は十分除去できる。むしろ場合によっては自然循環によってあまり急激に温度が低下しないよう適当なブレーキを必要とすることがある。SREにはこれが付属している。ただ内蔵型中間熱交換器方式ではその位置などにより自然循環力が小さくなるような条件の起こる可能性が出てくるかもしれない。

 自然循環の場合除去された熱は、炉心容器内の大量のNaと黒鉛、構造材で吸収される。Naの熱伝導率は高いから、局部的な過熱は起こらない。炉の許容最高温度を約880℃(Na沸点)とみると、スクラム後この状態になるのは8〜10時間を要するとみられるから、十分対策を立てる余裕がある。このように非常時の冷却は非常に安全である。

(3)反応度係数
 ドップラ効果による燃料に関する反応度の即発温度係数は負の値をもっている。大部分の熱は燃料から発生するのであるからこれらの炉出力に対する応答は迅速で大きな出力変動を生ぜしめない。このほかに、黒鉛の温度変化に伴う遅発性の温度係数がある。黒鉛温度の変化は中性子温度(ミクロ断面積)と密度(マクロ断面積)の両者に影響し、それの温度係数への寄与は格子間隙に支配されて正負いずれかの微少な値となる。これら構造材料個々の温度係数と、変化のときのそれぞれの相対的な温度変化によって定常状態の炉の全体の反応度の出力係数は支配される。

 現在SREしか運転されていないから実測値はそれに限られるが、冷却体流量一定のとき燃料および冷却体に関しては出力系数の時定数は、出力 20MWtのとき9秒のオーダーであるのに対し、黒鉛に対しては10分という大きな値を示している。このような関係から出力の全範囲にわたって炉全体の出力係数は常に負であった。ただし冷却体の温度上昇一定の場合では、上記の時定数が低出力の範囲で、それぞれ若干大きくなり、燃料および冷却材に関するもののほうがその変化の割合が大きい。このため炉全体の出力係数が約8MWt以下の低出力では、わずかに、正になっている。このようなことからSREは、144時間の全出力の定常運転中、制御棒の動いたのはわずか3.5分に過ぎなかったという安定の実績も示された。

 設計研究の行なわれた256MWe改良型SGRについてはまだ動特性の詳細な解析はなされていないが、これ以上の安定性を示し、炉全体の出力係数は常にわずか負の値となるものと考えられる。カランドリヤ炉心と燃料冷却通路管の構造(注7)とから黒鉛と燃料および燃料冷却材との温度の関連性がさらに小さいからである。

1.4 わが国への適応性

1.4.1炉の国産化
 SGRには特殊な材料はほとんど必要としない。また炉設計上の問題点も本炉型式が具体的に問題になるのがかなり先と予想され、その時期には他型式の炉の国産化が相当進んでいるものと想像できるから、型式は異なってもその経験は十分に役だつものと考えられる。最初から国産が可能であるといってもいい過ぎではないと思われる。特殊な肉厚容器を必要とせず、したがって現地溶接組立作業の可能範囲も広く、大容量化したとき、特に輸送上の制約を受けやすいわが国においては都合がよい。経済性向上のためいずれの炉型式も大容量化が考えられるが、SGRは高温過熱蒸気、再熱サイクルの使用が可能であるから蒸気タービン関係についても飽和蒸気使用の大容量蒸気タービンの開発を必要とせず、現在でも250MWe級までならば新鋭火力に使用されているものがすぐ使用できる利点をもっている。

1.4.2 燃料の国産化
 すでに述べたようにSGRの経済性はUC燃料の開発に依存するところがきわめて大であるといってよい。わが国におけるUC燃料の開発研究はまだ緒についたばかりであり、アーク溶解法、ウラン金属と炭化水素との反応による方法、UO2と黒鉛との反応による方法などが実験室規模において研究されているにすぎないが、今後着実な進歩が期待される。一方UCがフツ化ウランから直接製造できればさらに経済的であると考えられる。UC燃料開発の問題点はいかに経済的に再現性のある性質をもったものを作るかにある。また、その照射実験については諸外国においても研究が始まったばかりであり、基礎研究、製造研究の推進とともに照射実験を行なう準備をする必要があろう。

1.4.3 Naおよび黒鉛の国産化
 256MWe改良型SGRでNa所要量は約800tと予想されている。補給量はよくわからないが、約500 l程度の補給タンクを設備する計画のようであるからおそらくごくわずかであろう。

 これに対し、わが国の原子炉用Naの基礎的な生産技術はすでに確立されており、小規模ながら生産設備も準備されており、小出力の原型炉あるいは基礎実験用には現在でも十分な供給能力をもっている。しかもその背景をなす一般用ソーダ工業は相当の規模のものが確立されており、現在でも年産6,000t、15年後で32,000tと予想される能力をもっているから必要に応じて原子炉級Naの生産規模を増すことは容易であり、一般用途のものへの圧迫の心配はない。国産の価格は22〜27万円/t(年産1,000tの規模のとき)と推定され、米国価格より約35%高である。しかしこれも需要に応じ、生産規模と生産方式の変更により低下せしめうるものと考えられる。ただわが国の原子炉級Naの不純物含有量は十分少ないことが示されている(付表1-14参照)が毒作用および中性子照射により放射性をもつような特殊な不純物(付表1-12および1-13参照)についてその濃度はまだ調べられていない。その検討と検定法の確立が残された問題として挙げられる。

 黒鉛についてはほとんど問題はない。

1.4.4 材料および部品ならびにNa技術
 燃料被覆材および構造材についても、おそらく国産化に問題はないであろう。機械式ポンプ、電磁ポンプおよびNa中で使用する計測器類およびそれに関連して、高温電気絶縁材料等もSGRの具体化する時期を考えれば十分国産は可能と考えられる。バルブ類および炉心容器上端、配管系の要所に使用する直径の大きなベローズ類も同様と考えられる。このようにこれ以外のものおも含めて広くNa技術一般についても致命的な問題は存在しない。しかし、Naに関する技術が先進国においてもー応試験的に成功しているという段階であるだけに今後なお着実な研究開発を行なう必要のあることはいうまでもない。特に機器、部品等の形をもつもの以上に、Naの漏洩過熱融解あるいは閉塞防止、熱応力に関する基礎的な取扱技術等に関するものに十分な研究を行なうことが重要である。

1.4.5 安全性
 一般的な安全特性についてはすでに述べてあるがわが国に適用した場合の安全上の最大の問題は耐震性である。炉心集合体の基本的な設計は6角柱の黒鉛の要素をその中心に通した冷却通路管で支持し、この管が上下プレナム板で保持される形となっている。この管はSREに用いられたマルチィキャン型の設計では内径71mm、肉厚0.89mm、256MWe型では内径84.5mm、肉厚0.51mm(ただし支持の主体をなす部分は0.81mm)という薄いものである。また、マルティキャン型では一応黒鉛要素にはZrの被覆があるが、改良型のカランドリヤ型ではその被覆もない。各黒鉛要素の間には熱膨張の逃げ、その他を考慮して微小の間隙を残すように組み立てるようであるから、相互の結合力も弱い。これらのことは耐震性に若干の疑問を与えることになり、何らかのくふうを必要としよう。しかしその集合体の大きさは256MWe改良型で3.6mφ×3.6mHで同じ250MWe級の黒鉛減速ガス冷却型の16mφ×9mHに比べるとはるかに小さく特殊のくふうを施す余地は十分にあると考えられる。特にカランドリヤ型では裸の黒鉛ブロックの集合体であるから、相互の結合力を強めることも可能と思われる。また前述のように低圧であり炉心全体は2重3重のタンクに囲まれた上、地下に納められ、周囲を厚い生体遮蔽コンクリートで包まれているから、他型式のものと同等以上の安全性は確保されるとみてよい。

 配管系統の破損は放射性を有する1次冷却系において問題であるが、系の圧力が低いので、耐震的に配置することも容易であり、改良型SGRの内蔵型中間熱交換器の型式では1次冷却系は炉心外部タンクの中に納まってしまうので、問題はない。またこの配管の破損があっても、これが炉心内冷却材の喪失にならぬような構造(2重、3重の炉心容器をもち冷却系への取出口がその上部にある)になっている。

1.4.6 電力系統との関連
 256MWeSGRの例では151本の燃料クラスターのうち平均49本ずつを半年ごとに交換する計画(負荷率80%平均燃焼度17,100MWd/tのとき)になっている。

 炉心内の圧力は低いから燃料交換そのものは基本的に簡単である。燃料交換は次のような手順で行なわれる。SGRの燃料は遮蔽プラグから炉心黒鉛要素の燃料冷却通路管中に常時つり下げられて使用されている。この遮蔽プラグは炉心上部遮蔽体につけられてあり炉心床面上にある。プラグの下部すなわち炉心内のNaプールの上面には1気圧以下のHeガ スがあるのでプラグを取り外すことは簡単であり、プラグを引き上げることにより燃料は取り出せる。ただNaの反応を考慮して不活性ガス雰囲気を保ち、その圧力を炉内圧力と平衡させて取り扱うため特殊な燃料取扱装置(キャスク)を必要とする。直接燃料要素をみながら作業することができず、キャスクの遮蔽を通じての遠隔操作となるのでキャスクの構造、制御装置には入念なくふうを要することになろう。しかしこれらは遠隔操作を必要とする多くの原子炉用機器と本質的に異なるものではなく、むずかしいものではあるまい。SREの例では1本を交換するのに1時間弱の所要時間で足りている。1本1時間として256MWeの改良型SGRの場合のこの面からの設備利用率は98%以上であり、作業も週末に行なうことができる。原理的には運転中の交換も不可能ではないと考えられる。

 負荷応答性については、SREの経験のみで断定はできないが、20%/minの変化に追従できると称せられている。