原子力委員会参与会第6回(8.11)

〔日 時〕 昭和35年8月11日(木)14.00〜17.00

〔場 所〕 東京都千代田区丸の内 東京会館

〔出席者〕 荒木原子力委員長、石川、有沢、兼重、木原各原子力委員
稲生、大屋、大山、菊池、倉田(代駒井)、駒形、嵯峨根、瀬藤、高橋、成富、藤岡、正井、松根、三島、山県、吉沢各参与
法貴、森崎各次長、井上(政策)、太田、佐藤、井上(核燃料)、中島、鈴木各課長、武安監理官、村田調査官
運輸省千葉技官、大蔵省笠川主計官、原研阿部企画室長、原電渡辺調査室長

〔配布資料〕
 1 昭和36年度原子力関係予算集計表
 2 昭和35年度原子力平和利用研究委託費および補助金課題別交付一覧
 3 昭和35年度原子力平和利用研究委託費交付決定
 4 昭和35年度原子力平和利用研究費補助金交付決定
 5 原子力委員会各専門部会の審議状況
 6 人事発令について
 7 学校法人近畿大学の原子炉の設置について(答申)
 8 原子力開発利用長期基本計画基礎となる考え方

1 原子力委員長の新任挨拶
 荒木委員長から新任の挨拶があった。

2 昭和36年度原子力関係予算について
 資料1を井上政策課長が説明。

 井上(政)課長:昭和36年度原子力関係予算は各省から要求が提出され現在調整中の段階で、今月24日の原子力委員会において予算の見積方針を決定する予定である。今日参与のご意見を聞き、それを参考にして方針を決定したい。資料1の作文は原子力委員会で決定したものではなく原子力局案である。

 石川委員:各省からの要求額は現金180億円になっているが、これまでの検討結果から130億円程度に圧縮したいと考えている。

 松根参与:原研のCP-5やMTRのような場合予算が決ってもその年度に使い切れないということも考えられるが、その場合はどうなるか。

 武安監理官:原研に出資した形で予算が出て繰越しになるので翌年以後に使うことができる。改めて予算要求する必要はない。

 井上(政)課長:原研から来年度の民間出資金がなかなか集らないという相談が原子力局にあった。局としては2億5千万円が従来どおり集まることを希望する。民間の原子力に対する熱意が冷却したのではないかという印象を大蔵省に与えたくないからである。この点参与の御意見を聞きたい。

 松根参与:止めようという気はない。従来の事業計画は5年計画で今年はその5年目にあたる。第1次計画は一応終了したとして金額は御相談したいと思っている。

 倉田参与(代理駒井):JPDRは「建設」すると書いてあり、材料試験炉については「開発」という言葉を使っている。この意味の相違は?

 法貴次長:材料試験炉はどういう形でやるかはっきりしていない。来年度は調査をするのであって建設にまでは至らないということである。

 藤岡参与:最初の原子力予算からの6年間をふり返ってみると、初めは急速に延びたが過去2年間は足踏みをしている。原研での建設が一応終って経常的な支出がおもになったものといえる。反面からいえば、今後飛躍的にふえるのは何か新しい事業が始まらなければならないことになる。35年度の原子力予算77億円に対し36年度には130億円を要求するということだが、新しい建設として要求するような項目があるか。

 法貴次長:大口の建設はない。スイミングプールは7.5億円程度で、実験装置等いろいろ細かいものを積み上げると130億円ぐらいになる。

 藤岡参与:予算は総額としていずれはサチュレイトする傾向になるものと思う。110億円程度でサチュレイトするようでは情ないのであって必要な金は使って原子力の開発を大いにやってほしいと思う次第である。

 山県参与:「12国際協力(ニ)」の項。国際学術会議への参加‥‥‥とあるが、この書き方では日本学術会議からは人を国際会議に派遣できなくなるのではないか。

 井上(政)課長:訂正する。

 稲生参与:燃料の研究が大部進んできた。in pile testもやらねばならないが、これは資料1のどこで読むか。

 菊池参与:in pile testの費用は原研の研究費に入っている。

 井上(政)課長:資料1では「4核燃料対策(ロ)」において「日本原子力研究所、原子燃料公社および民間企業における加工、検査等に関する研究を……」とあるところで読むわけである。「加工、検査等」の等に入るわけである。

 稲生参与:助成金をつけるという文句がところどころに出ている。書いてないところは助成金をつけないのか。

 井上(政)課長:そういうわけではない。

 嵯峨根参与:「4核燃料対策(ニ)」の項。「核燃料の使用増加に伴い、その計画的利用の促進を図り……」とある。計画的利用とはどういうことを意味しているか。

 井上(燃)課長:原子炉等規制法では、核原料物質、核燃料物質の利用が平和の目的に限られ、かつこれらの利用が計画的に行なわれることが明らかにされているのでありまして、この主旨を表わしたものであります。

 なお、海外から供給を受けた核燃料については記録、報告、査察等の義務を負っていますが、この義務を履行するには核燃料の流通の実体を把握するために計量管理を確立する必要があるわけであります。

 大屋参与:CP-5の運転がおくれている真相を聞きたい。

 井上(燃)課長:ただいま御指摘のありましたJRR-2の建設、その燃料加工につきまして簡単に経緯を申し上げます。31年1月建設の方針が原子力委員会および閣議において決定された。原研(当時財団法人)においては31年10月米国の4社で見積合せをしたところ、出力が10MW,熱中性子東が1014であること、値段が安いこと、日本のメーカーを下請にしたこと等の理由からAMF社を選んだ。この炉建設契約のなかの保証条項は供給設備の瑕疵担保責任、10MWの出力の保証、燃料に関する保証の三つである。第1の設備に関する瑕疵担保責任は契約後36ヵ月であるが、3ヵ月延長があったので35年2月まで有効であり、また第2の10MWの保証は契約後30ヵ月であるが3ヵ月延長があったので34年8月まで有効であったが現在では、切れた形になっている。この期間延長については原研がAMF社と交渉を継続中である。第3の燃料の保証は仕様書に厳密にあった燃料を用いて300MWDか180日の運転かいずれか早いほうを保証するというものである。これらの保証に対するペナルティーは規定されていないので、違反した場合の問題は道義的に解決されねばならないわけである。

 33年4月に本休の組立てが始まり、下請としての三菱グループも努力してきたところであるが、AMF社から送られてきた熱交換器、重水ポンプ等の修理に長時間を要し、結局完成は1年半の遅延をみるに至った。

 濃縮ウランは研究協定による細目協定を結んで米国原子力委員会から賃借するわけであるが細目協定に免責条項が含まれていたので国会の承認を経たわけであるが、この細目協定では燃料の加工は日本政府が行なうことになっているので、炉の製造者と燃料の加工者とが別々になることになった。科学技術庁は原研から提示されたAMF社の仕様書に基づいてAMFの推薦した米国の業者すなわちB&W、M&C、G.E、SYLCORの4社について見積り合せをした結果、33年10月に最も価格の低いM&Cを加工請負者として内定した。燃料加工に関連して、仕様書に関する問題と燃料加工に起因する第3者損害賠償の免責の問題との二つがあった。

 仕様書の問題というのは、AMF社が原研に提出した仕様書について見積書を提出した4社とも条件を付していて、内定したM&Cの意見とAMF社との意見がなかなか一致しなかった。そこで原研がAMFと Technical Laison Service契約を結びAMFとM&Cとで仕様書を作った。第3者損害賠償の問題というのはM&Cが燃料を加工して工場から出した後は第3者の損害賠償に対する免責を強く要求したことで、これは対しては特別法すなわち「核燃料物質の加工の請負に伴う外国人等の責任免除等に関する法律」を制定して処理した。

 このように燃料加工について問題があったので、時間がかかったが、34年10月16日に科学技術庁とM&C との契約は成立した。なお、この契約には工場で加工中および完成後の検査が含まれており、科学技術庁はこの燃料要素の検査を原研に委任した。原研はAMFとFuel Inspection契約を結んでAMFと原研とが実際の検査にあたることになった。本年2月23日に最終的に燃料要素が完成し、現地検査を終了したので3月末日本に向けて製品を送る手配ができた。ところが出荷直前にAMFは仕様書にはないが水を流して行なう試験すなわちフローテストを要求したので燃料要素の出荷が見送られた。

 この試験はAMFの工場で行なったのであるが少し変形があったので、かしめ直し(repeening)をしたほうがよいと申し出てきた。一方、M&Cはかしめ直しをすると燃料要素の他の部分に悪い影響があるからといって反対したので、原研から正式にAMFに意見を求めた。その結果、AMFは
  (1)そのまま受け取る
  (2)かしめ直しをする。
  (3)かしめ直しはせず、必要ならば手直しをする。
 という三つの方法のうちどれを取ってもさしつかえない旨の回答をしてきた。これに対して原研はAMFに(1)でよいと5月4日に返電した。

 ところが、M&Cではフローテストをした燃料要素の燃料板のうちに欠陥がありそうなことが判明したので、製造中撮影したラジオグラフイーの再検討をした。その結果、不審のある燃料要素6本を取り出し24時間沸騰水でテストしたところ、結局3本は修理を要することになった。結局、M&Cは22本の燃料要素のうち3本は再加工するが、その他の19本はよいとした。

 AMFはすべての燃料要素について再検査を行なうことを要求したが、M&Cは自分の造った燃料要素はAMFの承認した検査規準で品質管理して作ったのだから仕様書に合致しているとした。AMFは燃料板のミートに介在物(Inclusion)があるから仕様書に記載している「均質性」に合致していないとして、両者の意見が対立したのである。

 原研研究炉管理部長神原氏はこの問題で渡米したのであるがAMFはInclusionの大きさを推進し、簡単な熱計算から低出力をrecommendするという見解を明らかにした。でき上った燃料要素の燃料板についてラジオグラフイーによる均質性の解明は、現在の技術水準ではむずかしい問題であるが神原氏は帰途、アルゴンヌ国立研究所で意見を徴したところ、アルゴンヌにおいて今までに100本余りの燃料要素を使用したが、被覆の破損を起こしたのは1本だけで、その場合でも正規の取替時まで30日間運転した。本件の場合についてもアルミの被覆が良好であれば、ほとんど問題はないであろうとの意見であった。

 原研で介在物の大きさをいろいろと推定し熱的計算を行なったところ、安全率を大きくとり最低に見積っても2〜3MWの出力は出せるという結果を得た。一方、原研の運転計画は最初は1MW程度で運転し、1年半ぐらいで10MWを出すという計画をもともとたてていたから、これらを考えて燃料要要19本は早急に引き取り、M&Cが再加工することとなった3本は完成後引き取ることに決定した。それで現在19本の引取について米国AECに手続きを進めている。

 大屋参与:原子炉はAMF、燃料はM&Cと別々の責任になっていることに不都合が生ずるもとがあったのではないか。基本的にはAMFが保証すべきであるのに原研が損害を背負っているのはおかしい。結局10MWの出力は出せるのか。

 菊池参与:装置のほうは10MWが出せるようになっている。1次装荷の燃料では10MWは出さないが、2次装荷以降のものについてはX線の検査基準をあげるとか、90%濃縮ウランを使い加工しやすくするとかすれば10MW出せると考えている。AMFがM&Cに燃料を造り直させ合格するまで原研は受けとらないという態度をとることもできる。そうすればAMFとM&Cとが法廷で争うことになる。そうまでしてもその間、炉が使えないので必らずしも得策ではないと考える。

 瀬藤参与:AMFの責任で工事が遅れたのだから炉の保証期間も延びると考えるのがあたり前ではないか。

 菊池参与:こちらではそう思うが向うは必らずしもそう考えない。

 大屋参与:今後、原電の発電炉、JPDR、MTR 等を買うとき炉と燃料との責任が別々では困る。事前に適切な措置が必要ではないか。

 嵯峨根参与:大屋さんの望まれるような契約は世界中どこもやっていない。炉については設計が間違っていないというギャランティーしかつけず、燃料の契約はこれだけ使えるというギャランティーしかつけない。

 これは世界中の問題で日本だけのことではない。

 炉の建設は向うの会社と相談して保証を求める契約が結べたとしても、燃料の契約は国家が向うの加工者と直接契約しなければならないからその間にギャップがある。

 20%濃縮ウランを使ってこれだけの出力は出るという情報を米国の国立研究所から発表すると聞いてCP-5の契約を進めたが、それが文章になっていないのは手薄といえば手薄である。20%濃縮ウランのAl合金で、10MWの出力を出すことはかなりむずかしいと前から覚悟して相当おしてきたことである。

 今でも20%濃縮ウランで十分厳密な検査をすれば多少燃料の加工費は上るかもしれないが、不可能ではないと考えている。このように文章に明示しなかったという点で手薄のようなところがいくつかある。今後の問題はギャランティーをどのようにおしつけるかという交渉の問題がある。これこれの原因で工事が遅れたのだからお前のほうでもてといってもうまくいかない。新聞にあるようにギャランティーをあきらめたものではなく、今後交渉していくわけである。

 最初の燃料では十分に出力が出ないとしても2度目、3度目の装荷で10MWに近い出力がでればよいと思う。一番やさしい方法は濃縮度をあげることで、濃縮度をあげれば楽になって10MWは出ると米国のAECが言ったので、AECにも半分の責任はあるとも言える。したがって特例として高濃縮ウランを使うことを認めてもらうのも一つの手である。

 菊池参考:10MWの保証はすてたのではない。M&Cは燃料の加工に関する保証をしており、キズがあればとりかえることになっている。今10MWを出そうとしてもさしつかえない。しかし、こちらの計算では部分的に熱が出すぎて悪い影響がおこるおそれがあるから出力をおさえるつもりである。

 嵯峨根参与:最初は1MWぐらいで練習して段々出力をあげることを期待している。今後似たような問題にあたっては今回のことを教訓として事にあたらねばならないが、会計規則によって国費で買うときは同じような問題にぶつかるわけである。

 成富参与:使い始めて何年というのが普通のギャランティーである。使い始める前に保証期間がきれるというようなそんなギャランティーがいったいありうるのか。

 井上(燃)課長:31年に契約したときは完成が17ヵ月という見込みでギャランティーの期間はその倍以上の36ヵ月となっているが、当時AMFは完成後何ヵ月という契約の仕方を承知しなかったのが実情である。

 成富参与:まだ動かないのにギャランティー期間がきれたような気になるのは早計である。燃料を引き取っても権利を留保しながら引き取るということなら後に損害賠償がとれる。ただ、管轄する裁判所が書いてないことだろうから、どこの裁判所に訴えてよいか問題である。今後このような契約を結ぶのに際して、あやまちを繰り返さないために事前にわたしも拝見しておきたい。

3 昭和35年度補助金、委託費の交付決定について
 資料2、3、4を中島課長から説明した

4 原子力委具合各専門部会の活動状況について
 資料5、6を法貴次長、資料7を佐藤課長がそれぞれ説明した。

5 長期計画基礎となる考え方の内定について
 前回の参与会に配布した「基礎となる考え方(案)」と内定した資料8との相違点を村田調査官が説明した。