原子力委員会

動力試験炉の安全性に関する委員会の答申

 原子力委員会は、昭和34年10月7日付で諮問を受けた日本原子力研究所の動力試験炉(JPDR)の安全性について審査を行なっていたが、結論を得たので次のとおり8月31日付で内閣総理大臣あて答申した。なお、日本原子力研究所は、8月30日、米国ジェネラル・エレクトリック社との間でこの原子炉の購入に関する契約を結んだ。

35原委第30号
昭和35年8月31日

 内閣総理大臣
  池 田 勇 人 殿

原子力委員会委員長
   荒 木 万寿夫

日本原子力研究所動力試験炉(JPDR)の安全性について(答申)

 昭和34年10月7日付をもって諮問のあった標記の件について審査した結果、下記のとおり答申する。


 日本原子力研究所が、茨城県那珂郡東海村の同研究所に設置する自然循環沸騰水型動力試験炉については別添の原子炉安全審査専門部会のこの原子炉の安全性に関する審査結果のとおり、原子炉施設の位置、構造および設備が核燃料物質、核燃料物質によって汚染された物または原子炉による災害の防止上支障がなくまた日本原子力研究所は原子炉を設置するために必要な技術的能力があり、かつ、原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があるものと認める。

(別添)

昭和35年2月23日

 原子力委員会委員長
  中曽根 康 弘殿

原子炉安全審査専門部会
部会長代理 武 田 栄 一

日本原子力研究所動力試験炉(JPDR)の安全性について

 当部会は、昭和34年10月27日付をもって審査の結果の報告を求められた標記の件について、以下の審査経過により結論を得たので報告します。

§I 結    論

 日本原子力研究所が、茨城県那珂郡東海村の研究所予定敷地内に設置する予定の自然循環沸騰水型動力試験炉の安全性を、設置計画書によって審議し、次に述べる各事項の事由に基づいて総合判断した結果、この原子炉の設置の安全性は、十分確保しうると認める。

(1)この原子炉は、温度の上昇と気泡の増加とによって反応度が減少するという固有の安全性を備えていること。
(2)2種の完全に独立した保護系、すなわち安全棒と液体ポイズン系とがあり、しかも制御は、フェイル・セイフになっていること。
(3)燃料要素は、ジルカロイー2被覆の酸化ウランを用いるので、考えうる異常高温時にも溶融せず、したがって、放射性物質の飛散は、ほとんど生じないこと。
(4)原子炉本体をはじめとし、重要な機器および構造は経験と実績とに基づき、安全を確保するという見地にたって設計されていること。
(5)特にわが国において注意しなければならない地震に関しては、安全性を確保しうる構造であること。
(6)炉から洩れでる外部放射線に対する遮蔽および放射性物質の処理は、慎重な配慮と管理とが行なわれていること。
(7)敷地およびその周辺の環境、気象、地震、地盤、排水、用水、般空機関係等の立地条件については、この原子炉の設置場所として問題となる点はないこと。
(8)最も大きな事故を想定しても、3種の完全に独立した冷却系によって燃料要素は溶融せず、さらに、燃料要素被覆の相当量の破損に対しても、耐圧性格納容器が、物理的な最後の防壁となって被害を限定し、悪い気象条件下においても、安全性を確保すること。
(9)この原子炉の建設および運転に関する原子力研究所の技術的能力は、原子炉の製作者が有する製作およびすえつけの米国内における経験および能力とともに、十分なものであること。

§II 各     論

1.原子炉の特性
(1)概   要
 この原子炉の目的とするところは、将来に予想される動力炉の建設、運転および保守に関する経験を積むこと、動力炉系の特性を明確化するための試験を行なうこと、さらに進んでは、燃料要素試験、舶用炉応用試験、国産化部品特性試験、寿命試験を実施することであって、熱出力46.7MW、電気出力12.5MWの白物循環直接サイクルの沸騰水型動力炉である。

 この原子炉は、かなり大型のものであるので、安全性を判定しようとする観点にたてば、十分の経験によって設計されたものであることが望ましい。製作予定者である米国のジェネラル・エレクトリック社は、沸騰水型原子炉の設計、建設および運転について、すでにVBWR、RWE、ドレスデン原子力発電所等の経験を経ており、今回の計画に際しても、ジェネラル・エレクトリック社は、これらの実績から得られたデーターを、基礎資料として設計を行なうことになっている。

(2)炉心設計
 炉心は、36本の燃料棒をたばねた燃料要素(燃料アセンブリー)72個と、それらをささえる構造材等から構成されており、等価直径約1.3m、高さ約1.5mであって、平均中性子束約1.5×1013/sec・cm2、最大中性子束約3.8×1013/seec・cm2と予定されている。

(i)平衡サイクル
 この原子炉を起動してから、37ヵ月を経たあとの一定の操業状態においては、炉心の4分の1ずつを15ヵ月ごとに濃縮度約2.4%の新燃料と取り替えるようになっており、新燃料装填直後の余剰反応度kexは、約13%である。これに対して制御棒の有する全反応度は、約17.5%に設計してある。これは、制御棒1本が挿入不能の場合(制御棒1本の等価反応度の最大値は約3%である)でも、炉を停止しうるようにしたもので妥当な設計である。

(ii)初期炉心
 前記のように、平衡サイクルに達したのちの追加新燃料は、濃縮度約2.4%で、ジルカロイー2のチャンネルボックスのものであるが、初期炉心においては、経済的に平衡サイクルに到達しうるように約2.6%濃縮度で不銹鋼のチャンネルボックスの燃料を使用する。この場合にも、kexは、平衡炉心の場合と同様に、約13%になっている。初期炉心の運転を続け、ウランが燃焼し、増倍率が減少するにつれて、階段的に不銹鋼のチャンネルボックスを、ジルカロイー2のチャンネルボックスに取り替える。このような計画がたてられたのは、初期装填燃料から高い燃焼度を得ること、制御棒の数を過大にしないことなどの経済的および技術的な理由によるものであるが、この計画は、安全性の見地からみても、実現可能であり、支障ないものと認める。

 酸化ウランペレット、軽水減速型原子炉に関しては、すでに多くの経験があり、臨界装置による実験もあるので、初期における核特性のデーターは、十分信頼するに足りる。なお、ある程度燃焼が進んでから行なわれる不銹鋼の燃料チャンネルボックスから、ジルカロイー2の燃料チャンネルボックスへの取替えは、今後の設計段階において行なう高精度の計算と実験とを併用し、核特性を十分確認してから実施することになっている。したがって、運転当初37ヵ月の運転も、一定の操業状態におけると同様に、安全に行なうことが可能であると認める。

(3)動 特 性

(i)反応度外乱
 BORAXおよびSPERTによる一連の実験によって確認されているように、この型の原子炉は、反応度外乱に対しては、温度の上昇および沸騰によって負の反応度を作りだし、原子炉の出力上昇をおさえる自己制御性を持っているので、固有の安全性は高い。

(ii)振動現象
 熱系および流体系による反応度帰還ループのため沸騰水型原子炉は、非減衰振動を生じる可能性があるが、米国における実験結果によれば、安定か不安定かは主として炉の動作圧力と比出力とに依存する。この原子炉は、動作圧力約61kg/cm2、比出力約55kW/1に設計されているが、この値は、実験から得られた安定領域内にあるので、非減衰振動を発生するおそれはないと考える。

2.原子炉制御計装
(1)制 御 系
 単一サイクル沸騰水型原子炉では、負荷外乱に対する自己制御性を期待することはできないから、初期においては、負荷調整のため、タービン側路弁が使用されていた。しかし、この原子炉では、この方式を用いず、直接炉変数を制御することになっている。

 この制御方式の具体的詳細は、今後の設計に待たねばならないが、類似の直接沸騰水型原子炉で、すでにこの種制御方式により、安定な御制を行なった経験を持つといわれており、制御棒を操作することによって、負荷変動に見合う出力を発生し、炉内圧力の変化を極力避けようとする方針は妥当である。

 なお、この原子炉は、電力系統に接続する前に、負荷急変をはじめ、各種外乱に対して、十分、動特性の検討が行なわれることになっているので、自家用発電所としての運転に際しても、原子炉はもちろん、電力系統にも支障を及ぼすおそれはないと思う。

(2)保 護 系
 原子炉の運転状態は、常時監視され、手動によってもスクラムできるうえ、二つのフェイル・セイフな安全系統があり、緊急停止の条件として、格納容器内圧力上昇、炉水位低下、原子炉圧力上昇、中性子束上昇、炉周期減少、地震等の要素が考慮されている。

 これは中性子束系を除いて、それぞれ二つのセンサーを直列にした2組の系統が同時に動作した時のみスクラムするので、必要な停止をより確実にするとともに、誤スクラム率を低減している。

 これは、類似の原子炉による一連の経験から、不必要な停止を極力さけるための設計と思うが、地震に対しては、両系統に同一のセンサーを使用して、誤スクラム奉を多少犠牲にしても、必要な停止を重視していることは適切である。また中性子系には「2 out of 3」を用いてその信頼性を増していることは、本来実験を目的としたこの原子炉に対しては妥当な方策である。

 制御棒装置は、ソレノイド弁の電気喪失、空気タンク圧力の減少等があった場合、原子炉をスクラム、または、スロースクラムするフェイル・セイフな設計になっている。

 スクラム時は原子炉下部から、各制御棒駆動機構に一つずつ独立に設けられた空気タンクの空気圧によって制御棒が挿入され、炉をスクラムする。

 空気圧縮機から空気タンクへの配管系統の事故によって、二つ以上の空気圧タンクの圧力が同時に減少すれば、炉はスロースクラムされる。なお、制御棒が完全に2本挿入されなくても、ホットの状態で炉の出力を急速に減少することは可能であり、コールドの状態になっても、原子炉を十分停止できるように、後側装置として液体ポイズン系統を有している。また、この液体ポイズン系統は、地震の場合、自動的に作動することになっている。

 緊急電源としては、ジーゼル機関駆動による発電機を備えることになっており、これは、安全保護系統に使用されるリレー等とともに、類似の原子炉で十分の経験を有しているものであり、かつ、各要素に対して監視、点検および保守が、十分行なわれる計画になっているから、スクラム不能の可能性はないと思う。

(3)そ の 他
 平常の運転制御および保守を円滑に行なうため、当然、中性子束、炉周期の計測をはじめ、各種プロセス計装があるが、これらはすでに多くの経験のあるところであるから、安全性の見地から特に問題はない。

 3.燃料要素
(1)耐 食 性
 この原子炉の燃料要素は、酸化ウランペレットを、ジルカロイー2の被覆管内に納めた燃料棒を組み立てたものであって、この燃料棒は、直径約12.5mm、高さ約12.7mmの酸化ウランペレット114個からなっている。酸化ウランおよびジルカロイー2は、考えうる異常高温時においても溶融せず、またジルカロイー2の耐食性は、高温水に対してもきわめて良く、溶融点に達した場合においてさえ、水との急激な反応はなく、また、酸化ウランも、水に対する安定性が強いので、安全性は原則的に保証される。ただ、酸化ウランペレットおよびジルカロイー2被覆の耐食性は、その不純物含有量によっていちじるしく変化し、特に燃料棒端その他のジルカロイー2の溶接部に窒素が含まれると耐食性が劣化するものであるが、燃料および燃料要素を製造する際に、十分な管理と検査とを行なう計画になっているから、耐食性は十分に確保される。

 ジルカロイー2の溶接部に、かりにピンホールがあったとしても、高温水と、酸化ウランまたはジルカロイー2との反応に基づく局部的発熱のためのピンホールの拡大は、考えられない。また、ジルカロイー2被覆管は、焼鈍処理によって、内部応力は除去されており、初期腐食もないので、これらの欠陥が急に拡大して、被覆が破裂することも考えられない。

(2)照射挙動
 ジルカロイー2に対する照射損傷はきわめて小さい。また、酸化ウランペレットの照射挙動については、広範な研究が行なわれていて、運転中にクラックが発生したり、その結果として、温度勾配が急激に変化してジルカロイー2の被覆管の熱応力の増加や、燃料棒のボウイングが起こる可能性のあることが知られている。しかし、これらについて検討した結果、この原子炉の安全性に関しては、さしつかえない程度であると考える。

 4.原子炉施設の機械および構造
(1)格納容器
 格納容器は、高さ約38m、内径約16mであってその高さのうち約23.5mが地上に、約14.5mが地下にあって、原子炉本体を含む蒸気供給系統を収容し、万一の事故に際しても、被害を極力この容器内にとどめようとするものである。すなわち、この耐圧性格納容器は、鋼板によって造られ、半球部の板厚は15mm以上、円筒部の板厚は、29mm以上であって、これによって自重、内容物の活荷重、約120℃の温度上昇に伴う約3.7kg/cm2gの内圧、約60kg/m2の積雪、台風時における気圧変動と風荷重との和による約0.07kg/cm2の外圧のいずれにも安全なように設計されている。さらに風圧力に対する設計にあたっては、風力係数等に対しても、十分の検討が行なわれる予定であり、また製作にあたっては、気密試験や、耐圧試験等によって確認することになっているから、後述の「5.耐震設計、(3)格納容器」に記した注意と合わせ考え、十分に安全であると認める。

(2)格納容器貫通部
 格納容器は、厳密にいえば完全に閉じた殻体ではなく、必要に応じて配置されたいくつかの貫通部を備えている。これらの貫通部は、それぞれの目的を果たすものでなければならないが、また、格納容器自身の機能や強度を減少させるものであってはならない。次に、すべての貫通部をあげて、その性能を吟味しておく。

(i)職員および機器の出入口
 これは、二つのドアーをもつ気密室をかいして一方のドアーがシールしている時だけ、他方のドアーが開くように機械的にインターロックされたものであって、各ドアーは、ガスケットを備え、設計圧力において完全に漏洩のないように製作されることになっている。

(ii)機器用出入ロ
 これは、原子炉停止時の必要な時にのみ開かれるものであって、通常はガスケット、ボルト、および2次手段として溶接シール等によって、完全に密閉されることになっている。

(iii)配管線貫通部
 これは、補強された貫通管スリーブと伸縮接手とによって、必要な気密と伸縮性とが与えられ、熱膨張等によって生じる応力を減少させるように十分注意のいきとどいた方策が用いられることになっている。なお、非常用冷却水タンクから出るべントにも同様の注意が施されている。

(3)圧力容器
 圧力容器は、高さ約8m、内径約2mの円筒であって、その内部に、燃料、冷却材、減速材等を収容している。また、この圧力容器およびその内部は、将来強制循環が行なえるような構造になっているが、当分の間は、自然循環方式で運転するように組み立てられ、温度約227℃、圧力約61kg/cm2gの飽和蒸気を発生させるものである。容器母材は、厚さ約64mmの鋼板を用い、そのクラッド材としては、約6.4mmの不誘鋼を使用する。また、鏡板、フランジ、制御棒貫通孔等にも、慎重な設計が行なわれている。また、圧力容器の支持構造の細部設計や、溶接方法は、今後行なわれる設計の段階において決められることになっているが、現在採用しようとしている支持方式は、目的にそったよい構造になっているものと認める。

(4)制御棒装置
 制御棒は、圧力容器を貫通して、上下に運動する必要があるから、容器内圧力、熱変形、摩擦等のため、動作に円滑を欠くことがあってはならないが、駆動装置の大部分、軸シール、シール冷却装置、および制御棒駆動空気供給系は、従来開発された原子炉で十分の経験を積んでいるから、この原子炉用としてもまた適当な機構である。

(5)補   機
 非常用冷却水タンク、燃料取替え装置、新燃料倉庫、燃料貯蔵プール等は、いずれも格納容器の中に納められ、複水器、冷却水貯蔵タンク、冷却水熱交換器等の重要機械設備は、いずれも蒸気ターピン発電機のあるターピン発電機建屋、または付属建物に収められていて、十分安全性を保っている。特に主冷却系統、非常用熱交換器系統、および後備炉心冷却系統は3種の完全に独立した冷却装置として、所定の機能を発揮しうるものである。なお、非常の際には、格納容器と同等の重要性を持つ隔離弁についても、十分な考慮が払われている。

 5. 耐震設計
(1)設計震度
 格納容器構造体、およびその内部の各種構造体に対し最低水平設計震度として0.6を要求しているが、これは立地、地盤、原子炉の型式、および使用目的から見て、十分余裕のある値である。

(2)制御棒駆動機構
 原子炉の下部に垂下している制御棒、および駆動機構の地震における共振については、設計にあたり、十分留意し、必要に応じ、共振防止措置を講ずることになっており、この計画は、妥当と認める。

(3)格納容器
 床から上部作業床の間の水平断面においては、相当かたよった構造になっている。しかし、設計にあたっては、この点を十分に検討し、偏心による捩れ振動が起こると考えられる場合には、必要に応じ、階段の裏側にあたる格納容器の部分に、鉄筋コンクリートの一本打ち壁を設けることなどが計画さたているので、耐震上、特に問題となる点はないものと考える。

(4)主要配管
 格納容器建物からタービン建物へ通じるパイプ類については、地震時における両建物の振動、または、沈下による相互変位に対し、安全なように細部設計において十分検討を加えることになっており、この計画は、妥当なものと認める。

(5)振動試験
 構造体が一応完成した後、構造休とその各部主要機器等について、その振動性状を調べ、十分、検討と対策を講ずることになっている。したがって、地震動あるいは機械類の振動により、共振現象等による不具合は生じないものと認める。

 6.放射綾障害対策
(1)設計基準
 放射線遮蔽、放射性廃棄物処理系の設計にあたっては、科学技術庁告示昭和32年第9号、および1958年ICRP勧告に基づき、日本原子力研究所の従業員およびその周辺に居住する一般公衆に対する放射線線量率、および放射性物質の濃度が上記の基準に規定されている許容値を下まわるよう、以下に述べるように計画されていることは、妥当と認める。

(i)放射線遮蔽
 外部放射線の遮蔽の設計にあたっては、通常運転時の場合に予想される最大の週間作業時間に対しても、平珂週線量率が、60mmrem以下になるよう計画されている。なお、管理基準については後述の「(2)管理基準および管理施設(i)管理基準(a)」のとおりである。
 また、この設計計画によれば、原研敷地外における放射線の線量率は、ほとんど無視できる程度に低くなるものと認める。

(ii)放射性廃棄物処理系
(a)液体廃棄物
 放射性廃水は、直接廃水コレクタータンクに集められるか、あるいは廃水中和タンクに送られて中和されたのち、廃水コレクタータンクに送られる。廃水コレクタータンク中の液体の放射性物質濃度が低いときは、放射性廃水は、廃水サンプリングタンクに送られ、放射性物質濃度の測定および核種の確認が行なわれたのち、そのままか、または、コンデンサー冷却水放出水路中に、一定の割合で放出される。この際、冷却水の水量が十分であり、放射性廃水は、排出口における放射性物質の濃度を、ICRPの勧告のMPCUの1/10以下にして、海へ放出される。

 廃水コレクタータンクおよび廃水中和タンク中に送られた液体の放射性物質の濃度が高いときは、放射性廃水は原研廃棄物処理場に運ばれる。この際、実際には原研廃棄物処理場に運ばれる量は非常に少ないので、現状では、既設の処理能力で十分であると認める。

(b)気体廃棄物
 おもな気体廃棄物は、建物の換気と処理排気であるが、このうち特に問題となるのは、処理ガス中の放射性物質の濃度である。処理ガスのおもな発生源は、グランドシールコンデンサーと空気抽出器とであるが、これらの放射性気体は、グランドシールコンデンサー排気系および主復水器排気系を通って、スタックから大気中へ放出される。

 グランドシールコンデンサーからの排気は、短寿命放射性気体の減衰に必要な十分な長さを有するホールダーパイプを通って、スタックから放出される。

 空気抽出器からの排気は、その放出口にもうけられたγ線スペクトロメーターにより、Xe、Krを検出測定したのち、プレヒーター、再結合器、復水器その他を経て、三つの排気貯蔵タンクの一っに流れ、ここを通過する間に短寿命放射性気体は十分減裳され、フィルターを通り、スタックから連続的に放出される。
 通常運転時には燃料の破損はほとんどなく、破損が生じた場合でも、問題になるほどの気体分裂生成物の放出する可能性は少ない。しかし、もし気体分裂生成物が増加して、安全に連続的に放出できない場合には、三つの排気貯蔵タンクを用い、順次排気を貯留し、気体分裂生成物は、その放射能を減衰させた後、風が海に向って吹いている間に放出させる。

 もし、燃料棒に多量の破損を生じ、スタックからの気体分裂生成物の放出により、敷地外で、内外被ばく線量が、年間0.15rem、または週間0.01remをこえるおそれのある場合には、一時炉の運転を停止し、破損燃料を取り替える。

 上記の排気は、いずれもスタックより放出されるさい、他の換気系統からの排気と混合して放出される。

 スタック出口における放射性物質の濃度については、スタックモニターにより、連続的にモニターし、また原研の敷地内外の野外モニターおよびモニタリング車を使用して、敷地外における内外被ばく線量を、「(2)管理基準および管理施設(i)管理基準」に述べられている値以下に保つよう管理する計画であるので、安全は確保されるものと認める。

(c)固体廃棄物
 放射性固体廃棄物は、原研内廃棄物処理場に運搬処理され、外部に放射線障害を与えないよう計画されていることは妥当である。

(2)管理基準および管理施設

(i)管理基準
管理基準は以下に述べるように計画されていることは、妥当と認める。

(a)原研敷地外においては、この原子炉に起因する内外被ばく線量が、年間0.15rem以下になるように計画されている。

(b)原研敷地内において外部放射線および内部放射線による被ばく線量が、年間1.5remをこえる可能性のある区域を管理区域とするが、管理区域内においても、実際には従業員の内外被ばく線量は、原則的には年間1.5rem以下になるように管理され、他の放射線作業のため、年間3.5rem以上を残すように計画されている。

(c)常時、職員のいなければならない場所、たとえば制御室などは、管理区域外にするため、年間内外被ばく線量は、1.5remをこえる可能性のないよう管理されている。

(ii)管理施設
 放射線管理施設としては、じんあいガスモニター、水モニター、エリアモタニー、サーベイメーター類、じんあいサンプラー、ハンドフートモニター、個人用モニター、その他の測定機器類を要所に設け、また、野外モニターリソダスティショソは、すでに原研構内外に設定されているものを使用するよう計画されていることは妥当である。

7.立地条件
 この原子炉の設置予定地は、原研敷地の南北のほぼ中央にあり、太平洋岸からは約250mの所に位置し、標高は約10mである。

 現在、原子炉設置予定点から最も近い民有地および民家までの距離は、約800mである。現在、敷地周辺の人口は、半径1km以内約650人、2km以内約2,800人、3km以内約6,800人、4km以内約11,200人、5km以内約27,000人である。周辺の比較的大きな都市としては、水戸市、那珂湊市、日立市、常陸大田市等がある。

 敷地付近一帯の地層断面は、地表面以下約10〜12mは砂層をもっておおわれ、その下約2.5〜4mはローム質砂礫または砂礫で、さらにその下は、強固な泥岩層となっている。炉建物自体は、この派岩層上に設置され、その他の建物は、砂礫層上に支持されるが、各地耐力の点では問題はないものと認める。

 地下水面は、おおむね、陸側から海側に約1/500の勾配をなしているが、このことは、放射性物質によって汚染された地下水の移動に対して、安全側の条件と考えることができる。またタービン復水器冷却用水には、海水を使用し、その他の用水は、現在、久慈川から導入している研究所一般用永から取ることになっているが、量、質ともに問題はないものと認める。

 気象については、昭和33年4月以降の日本原子力研究所の実測値、および付近の水戸市、日立市等における観測資料により判断すると、風は1年間の頻度を見ると北東〜北西の方向で、風速は、2〜6mのものが多く、静穏の継続時間、気温の逆転等についても、気体廃棄物放出上、特に不利な地域ではない。以上のほか、洪水、高潮、台風、塩害、風じん等についても、予定敷地が原子炉設置に支障を与えることはないと認める。

 予定敷地は、関東地方、およびその付近の中で、過去の地震歴が少なく、また地震期待値も高い地点ではないので、原子炉設置の耐震設計上、不利な条件となることはなく、かつ、海岸線が直線であるため、津波のおそれもないものと認める。

 在日米軍の水戸対地訓練場における射爆撃訓練については、その周辺にある原子炉施設の安全を確保するため昭和34年12月2日、日米合同委員会において、同訓練場の使用に関し、実爆弾は使用しないこと、原子力施設上空およびその近接地域上空は飛行しないこと等の合意を得ているので、この原子炉施設の安全の確保に支障はないものと考える。

8.事故時の安全対策
(1)考えうる事故の分析
 原子炉プラントの安全性を調査するために、まず事故の種類を分類して整理すれば、次のとおりである。

(i)核反応事故(起動時の事故、出力時における制御棒の連続引抜き、制御棒の挿入不能、燃料棒の誤挿入、電気負荷の急激な変化、原子炉冷却水水位の急激な変化、冷水事故等)

(ii)機械的事故(主給水ポンプの故障、主復水器の漏水事故、1次冷却水の放射能増加、蒸気系統の故障、プラント機器の故障等)

(iii)化学的事故および燃料要素の破損事故

(iv)地震、火災および職場放棄

 以上にあげた事故を逐条検討した結果、安全性の見地からみて、この原子炉の固有の安全性が高いこと、十分な保護系が装備されていること、および次項「(2)冷却系統」で述べるような完備した冷却系があることなどによって、燃料要素の溶融は、防止することができるものと認める。

 この原子炉は、初めは自然循環で運転されるものであるが、将来は強制循環運転を行なう予定であるから、事故解析にかぎり、強制循環時も合わせ考えて解析するとすれば、結局ありそうもないことであるが、強制循環時における原子炉底部の強制循環水入口の瞬時破損という場合が、自然循環時および強制循環時を通じての最悪事態であるという結論を得た。そこでこれを代表事故として想定し、結果として誘起される災害を、「(3)原子炉底部入口管の完全切断」および「(4)災害の評価」において追求した。

(2)却冷系統
 どんな運転状況においても、原子炉を十分に冷却する目的をもって、次の手段が講じられていることは安全確保の基礎条件の一つとして重要である。

(i)主冷却系続
 これは、通常の操業時における冷却を行なうものであり、主電源および主給水ポンプが停止しても、ジーゼル発電機によって非常用給水ポンプが作動し、炉心への給水を続けることができる。

(ii)非常用熱交換器系統
 これは、原子炉圧力容器内の圧力上昇によって自動的に作動するものであり、非常用冷却水タンクは再充填しないで約8時間運転できる容量を持っているので、原子炉スクラムが起こり、蒸気供給系が隔離したのちでも、原子炉中の崩壊熱を十分に除去することができる。また、別に無負荷冷却系統も備え、冷却の完全を期する用意がなされている。

(iii)後備炉心冷却系統
 原子炉内の水が全部なくなり、さらに上述の「(i)主冷却系統」および「(ii)非常用熱交換器系統」の系統の全機能が喪失した場合にも、十分な冷却水を炉心に供給して、燃料要素の溶融を防ぐことができる。すなわちこの系統は、原子炉内の水位が低くなると、独立な四つのセンターを持つ2重2直列に構成されている保護系の信号により、自動的に動作を開始し、スプレー水が逆止弁を通って炉心内に注入されるようになっている。また、正常運転中に冷水を不注意に注入することのないように、この系統に加えられる圧力は低くされ、さらに安全にするため、この系が働くと、自動的に、ポイズンが、スプレー水に混入するようになっている。なおこのほか格納容器内スプレー系統があって、万一炉心の蒸気が格納容器内に充満したとしても、これを冷却し、汚れを洗い落すことができる。

(3)原子炉底部入口管の完全切断
 原子炉底部の強制循環水入口管が、瞬時にして破損した場合があっても、初期の異変のことごとくを、耐圧性格納容器の内部に限定することができる。すなわち、この際、水位低下、あるいは高温高圧水および蒸気の炉外溢出に伴う格納容器内のいちじるしい圧力上昇によって、隔離弁はすべて自動的に閉鎖される。またこのときのピーク圧力は、計算の安全側で約3.7kg/cm2に達するが「4原子炉施設の機械および構造、(1)格納容器」に述べたように、格納容器は、この圧力では破損しないように設計されている。

 しかし、時間とともに放射性物質の一部が、格納容器から漏洩するのでこの経過を予測して、放射能障害の大きさを評価しておかなければならない。

(4)災害の評価
 事故時に破損する燃料要素は、全燃料要素の約30%と仮定されているが、この仮定は、十分安全側に余裕をもった値と考える。また、燃料要素の中に蓄積されている全揮発性核分裂生成物のうち、燃料要素の破損により放出されるものは、米国のジェネラル・エレクトリック社の実験によると約15%であるので、結局約5%の揮発性核分裂生成物が、炉心外に放出されることになる。さらにここで、格納容器スプレーによって、ヨウ素の場合、-9×10-5/秒の率で洗い落され、また、格納容器の漏洩率は、内圧3.7kg/cm2において0.5%/日程度であるので、密閉格納容器外に放出される量は、放射能の減衰効果とあいまって、きわめて微量となり、負荷率60%で3年間の運転を続けた状態でも、事故発生後1週間までの全放出量は、ヨウ素131で約7cである。

 大気中への放射性物質の拡散の計算には、英国気象局の方式を用いているが、最悪事故時に格納容器から外へ洩れ出る核分裂生成物の65%以上が、事故発生後の最初の1時間のうちに洩れ出るという解析結果に基づき、最恵の気象条件としては、風速0.5m/秒、風向変動角100および安定な成層の場合を想定していることは、妥当と認める。風向変動角を100にとったのは、原研観測所の資料によったものであるが、風向計の特性を考えれば、0.5m/秒のような小さな風速に対しては、風向計は風向変動に追随できないので、資料の値は、実際より小さく出ていると考えられる。したがって、実際の拡散距離は計算結果より短かくなるものと考える。

 以上の条件によって計算すると、ヨウ素131の甲状腺に対する被ばく許容限界を現在、国際的に最もきびしいと考えられている25remにとっても、民有地および、民家までの最短距離約800mの地点におけるヨウ素131による被ばくは、この許容限界を下まわるので、一般公衆の一時退避の必要はないものと認める。また、農作物に沈着する放射性物質の表面濃度の算定にあたっては、上述の条件に加えて、チェンバレンの定義による沈着速度の値として2.5cm/秒を採用し、食物制限範囲の計算を行なうと、一時的食物制限範囲は、風下で1.6kmになる。しかし、この計算は、空気中の放射性物質濃度が、沈着により、距離とともに減小することを考慮にいれておらず、また、上述の沈着速度2.5cm/秒という値は、発表された資料のうち、大きな値であって、1cm/秒という値も多く採用されているので、風向変動角の過少評価と考え合わせると、距離1.6km計算は、かなり安全側にある。しかも、事故の発生、風速、風向、風向変動角、および沈着速度が、すべて以上のごとき最悪の状態で、同時に起きるということは、ほとんど考えられない。

 この場合、汚染を受ける農地は、比較的せまい面積に限られ、半径1.6km、角度100以内に含まれる最大耕作面積は、約14ヘクタールである。また、前述の食物制限は、幼児に対するものであり、大人には支障はなく、かつ、農作物に対して適切な事後措置をとることは容易であり、その態勢は整っていると考えられるので、一般公衆の安全は、確保しうるものと認める。
 なお、この場合、事故発生後、運転員が制御室において適切な事後措置をとったのち、安全地帯に退避するまでに受ける内外被ばく線量は数rem程度である。

 9.技術的能力
 この原子炉の設置計画は、日本原子力研究所の動力試験炉建設室によって実施される。室員と しては、JRR-Iの建設、運転および実験、JRR-IIおよびIIIの建設に相当の経験を有する者のほかに、原子力あるいは火力発電所の建設運転に関する十分な知識と経験とを有する者をもって構成されている。また、原子炉のすえつけ工事も、この原子炉の製作者であり、この型の原子炉のすえつけ、運転について十分な技術的能力を有する米国のジェネラル・エレクトリック社が日本の機器下請業者と契約して実施することになっているので、この原子炉の設置に要する技術的能力は、十分確保されるものと認める。また、原子炉の運営管理は、動力試験炉の運営に関する重要な基本的問題を審議する動力試験炉運営管理委員会の管理のもとに、運転保守および、保建物理の業務を、動力試験炉管理室が実施するが、研究所内あるいは所外の各種実験研究にあたっては、さらに動力試験炉実験計画会議の審議を経ることになっている。なお、この管理室の構成は、現建設室室員のほか、今後JRR-I、IIおよびIIIの運転、実験、保健物理等の経験者をさらに加えて充実することになっているので、原子炉の運営管理は確実に行なわれるものと認める。